魔法少女リリカルなのは Crossing of the Fate
Stage12「士郎 対 クロノ」
side - Emiya Shirou -
唐突だが、こんな言葉がある。
高度に発展した科学技術は魔術と区別がつかない
そのまま直訳してくれ。
だが、この言葉を残した人は正しく科学技術の世界の人間だから、このような言葉を残せたのだということだ。
もし、魔術（または魔法）技術の人間だったら、科学の部分が魔術になるし、魔術の部分が科学になるだろう。
何が言いたいかというと
「魔法なんて、幻想的な世界に首突っ込んだのに、なんで俺は戦艦の中にいるんだろうな？」
全く、予想がつかない人生だ。
というか予想できるか、こんなこと。
普通に魔法という世界観とは１８０°は懸け離れた戦艦内にいるのだ。
少しぐらい言葉がきつくなっても、文句は言わないで貰いたい。
・・・思うのだが、こんな魔法世界を俺の世界の魔術師は認めるのだろうか？
たぶん、認めずに反乱を起こすのではないかと思う。
「何を言ってるかはわからないが・・・この艦は魔法の力がエネルギー源だ。正しく、魔法文明の産物だ」
それが信じられないのだが、言っても理解されないだろう。
隣のなのはにしても、キョロキョロと辺りを見回している。
「衛宮・・・じゃない。士郎だったな。君は武装してないからいいが、他の二人は武装や魔法を解除してくれ」
なのははバリアジャケットだと思うが、ユーノも何か魔法をかけているのか？
聞いていないのだが・・・なのはがバリアジャケットを解除して
「わかりました」
ユーノが何か魔法を解除した。
・・・・・・・・・あれ？ なんで、ユーノが人間になってんの？
「士郎は始めてだと思うけど、なのはは始めて会った時以来だね」
そうなのか？ なんかもの凄くなのはが驚いているんだが・・・
「ゆ、ユーノくん？ そ、その姿は？」
「へ？ いや、これが僕の本当の姿だけど・・・」
「え？ ええぇぇぇぇーーっ！？」
・・・反応からして、知らないのが確定みたいだ。
なのはの叫び声の後、二人が状況を確認している。
思ったのだが・・・
「・・・じゃ、ユーノは本当は人間の癖に女風呂で入浴したのか」
空気が凍った。本気で凍った。
なのはも気付いて顔を赤くして、逆にユーノは顔を蒼くした。
で、俺とクロノはアイコンタクト。
「クロノ。悪質的にフェレットもどきに変身して、女風呂で一緒に入浴していた『淫獣』がいるんだが、罪はどの程度だろうか？」
「ふむ。わざわざ小動物に変身するあたりに計画性を感じるな。とりあえず、１０年を目標に裁判してみよう」
「ちょ！？ な、なんで君たちはアイコンタクトができるんだ！？」
そんなもの、共通のおちょくり対象がいるからに決まっている。
でも、おかしいな。なんでクロノが乗ったんだ？ 堅物マジメくんに見えるのに。
「あのフェレットもどきはなんとなくウマが合わない」
ユーノ・・・合掌。
で、とある部屋に通された。そこにいる緑色の髪をした美人のお姉さんと茶色の髪が似合うお姉さんだ。
ただし、俺の関心はそこではなくて・・・なんで、戦艦の中に和風の部屋が用意されてるんだ？
この内装が個人的な趣味だとしたら、職権乱用以外の何者でもないぞ。
「ようこそ。アースラへ。艦長のリンディ・ハラオウンです」
と、緑色の髪をした女性が自己紹介をして、手を差し延べた。
俺も手を差し延べ
「士郎。衛宮士郎です。リンディさんでいいですか？」
「いいわよ」
「そうですか。でも、美人な人を名前で呼ぶのって緊・・・痛っ！？」
な、なんだ！？ なのはが足を思い切り踏んづけて
「な、なにす・・・！？」
「なーに？ 士郎くん？」
あ、やばい。今のなのはから桃子さんの気配を感じる。
二人見たときから似てるとは思っていたけど、こういうところまで似ることはないんじゃないだろうか。
アースラの女性陣はそんな俺たちを見て笑っていて、ユーノは不満気。クロノはわからず疑問顔だ。
なのはが怒りの気配を消して（え？ 俺が悪いの？）、今度は自己紹介した。
「私は高町なのはです。なのはでいいですよ」
こちらも笑みを浮かべながら、自己紹介した。
「あの、それであなたはクロノくんのお姉さんですか？」
なのはも同じ疑問を持っていたのか、俺もその可能性が高いと思っていた。
その問いの後、実に楽しそうな声で、となりの女性が答えてくれた。
「ふふふ・・・この人はクロノくんの母親だから」
「え、ええええぇぇっ！？」
なのはの驚きの声。俺も驚いた。驚いたのだが・・・
「ああ、なるほど」
「あれ？ 反応薄いね」
「いや、なのはのお母さんも似たような感じなんで」
「・・・そう言われるとそうだね」
流石に二人目となると、驚きよりもむしろ納得してしまった。
・・・それとは別にリンディさんから、逆らってはいけない人だと本能が告げているが、今はまだ考えないようにしよう。
「あ、あたしはエイミィ・リミエッタ。エイミィでいいよ」
「じゃ、エイミィさんで」
この人はなんだろう？ なんか、性別を超えた友情が結べそうな気がする。
主に黒ずくめの執務官をからかう時とか。
「今回、こちらに来てもらったのは事実関係の確認と・・・士郎くんでいいかしら？」
「あ、それでお願いします」
「士郎くんがロストロギアによって傷ついてしまったので、簡単な身体検査と傷の治療を行いたいと思います」
わお。これも完全善意だから、否定する要素がないよ。
「えっと・・・できれば、検査関係は抜きにしてもらいたいんですけど・・・」
そう言うと、全員が目を丸くして
「どうしてかしら？ ロストロギアは私たちでもわかっていることが少ないところがあるから、検査しないと危険よ？」
「・・・うう」
まずい・・・今のは迂闊な発言だった。
「・・・わかりました。お願いします」
「・・・そうね。ここで出た検査結果は絶対に口外しないよう約束します・・・これでいいかしら？」
リンディさんが微笑みながら、言ってくれた。
察せられてしまったか。
どこまで守られるかは疑問だが、それでも口約束をしてもらえたのはありがたかった。
「・・・それでお願いします」
「いえいえ。それじゃ、お茶をしながら話し合いましょう」
と言って、緑茶を取り出し
・・・なぜ、ミルクと砂糖を取り出す？
そして、それを緑茶に――しかも大量に――いれてしまった。
「・・・何してるんですか？」
「え、砂糖とミルクを入れただけだけど？」
隣に居るクロノとエイミィさんを見る。
二人とも首を振りながら、クロノは顔を顰めながら、エイミィさんは実に楽しそうに笑みを浮かべている。
「あ、どうぞ。ミルクとお砂糖はいる？」
「いりません」
断固として拒否しておいた。はっきり言ってそんなお茶は俺は認めん。
リンディさんが悲しそうな顔をしたことに、ちょっとだけ罪悪感を持ったが、認めるわけにはいかん。
話の内容としては、時空管理局とはどういうところか？
ロストロギアとはどういうものか？
そういうような基本的な情報がリンディさんから語られている。
俺はこれらの情報は事前にユーノから仕入れていたので問題ないが、なのはは非常に感心している。
まぁ、子供に政治的な判断とか聞かせる必要は全くないから、俺としては何も言うつもりはない。
本題はここからだからだ。
「これより、ロストロギア『ジュエルシード』の回収は時空管理局が全権を持ちます」
なのはが驚いているが、俺としては当然かなぁとは思ってる。
海鳴だって、警察が来る前に勝手に調べる（はっきり言ってコレも違法スレスレだが）だけならまだしも、
警察組織が出張っているのに、堂々と調査することができる？ そんなことあるわけがない。
ましてや、こういう場に一般人を組み込むことは、それだけ練度が下がることを意味する。
当然だよな。
これなら、俺は目立たずにとっとと撤退できるのだが・・・
あんなジュエルシードが起こすであろう事を聞かされてるのに、そんな簡単にやめるなんてできるわけがない。
そう思わせられてしまった時点で、俺の負けだ。
まぁ、それが目的で話したとは思うのだが・・・何か他の目的があるのだろうか。
戦艦内に戦闘ができる人物少し見たが、あまり多くは無かった。
クロノやリンディさんが出張れば、問題ないだろうけど、艦長が簡単に戦闘に出るのはまずいだろうし。
それならば、必然的にクロノぐらいしか単体では対処できないはずだ。
つっついてみるか。ついでに手伝うのは確定っぽいから、その後の条件を確保したい。一矢ぐらいは報いておこう。
「ふむ・・・全権を持つのはいいですが、戦力は大丈夫なんですか？」
「あら？ どういうことかしら？」
「途中で何人か戦闘できる人見ましたけど、集団戦を目的とした訓練を受けている人はいた。けど、魔力があまり多くないと思います。
だけど、ジュエルシードの回収は魔力が大きい人じゃないと難しい」
大勢でやるなら問題ないが、効率の問題で魔力量が大きい人を一人でやらせた方が効率がいい。
加えて、ジュエルシードの力が戦闘に特化した場合、集団戦は得策ではない。
当然だが、人は傷つくのだ。その場合の怪我人も計算に入れた上で行動しなくてはならない。
フェイトの後ろにはまだ姿を見せていない魔導師か組織がいるのだ。当然それを考慮しているのだろう。温存したいに決まってる。
リンディさんが苦笑を浮かべて
「大丈夫よ。正式な訓練をした優秀な人たちよ」
「では、なぜ過去に起きた次元震の話をしたんです？ 話聞いてて俺だって不安になりました。
その人たちだけで足りるのなら、俺たちに具体的な内容を話す必要がないはずです。
俺たちがジュエルシードを集めているのは責任感からだと思って、協力を申し込みたいと思ったからじゃないんですか？」
交渉する以上、自分が有利にしなくてはならない。
そのための下準備だったのは間違いない。
「単体戦力として事実上有効なのは、そこにいる『黒ショタ少年』しかいないから、戦力に不安なのはわかります」
「おい！？」
「そうねぇ」
「否定してください、母さん！」
クロノのツッコミが冴え渡るが、この場で誰も気にしている者はいない。
ただ、クロノは戦力に不安があることに対してなのか、『黒ショタ少年』に対して突っ込んだのか、俺にはわからない。
「うーん・・・じゃぁ、単刀直入に聞きましょう。ジュエルシードの回収を手伝う気はない？」
「はい！」
なのはとユーノは元気に頷いたが、俺はそれに頷かず
「・・・いいですけど、条件があります」
全員の視線が俺に集まる。
これだけは譲るわけにはいかないことがある。
すでに俺は疑われているが、それでも譲ってはいけない一線がある。
「第一に俺が使う魔法については詮索一切無用」
この条件は絶対条件だ。固有結界なんてばれたら、俺がどうなるかわかったもんじゃない。
「第二にこの事件で俺の名前は一切合財ださないこと」
俺の名前が有名になるのは絶対阻止だ。
これも頷いてもらった。ある意味、桃子さんに似ているリンディさんを信用する以外に道はないのが悔しい。
「最後の条件が」
俺はここで言葉を切って
「俺がいる間は、さっきリンディさんが飲んだお茶は絶対に禁止！」
音が全て停止した。
だが、クロノとエイミィさんはまるで英雄を見るかのような眼をしていて、その視線の対象は俺だった。
「そ、そんな・・・あ、あなたも飲めばわかるから・・・」
「わかりません！ 絶対に認めませんから！」
想像以上にリンディさんがうろたえて、俺が断言したら目元に涙が浮かんでいた。
正直、結構グッとくるが、俺の料理人のプライドは止まらないのである。
そして、膠着状態が続いた。
「・・・交渉が終わるまで、あたしたちは外にいようか。交渉が終わるまで時間がかかりそうだし」
と言って、全員が出ていった。
交渉が終わるまで１時間、俺が見てないところでなら飲んでいいということ、俺が毎日甘味を作ることで納得させた。
interlude
「それにしても、なのはちゃんとあの黒い子・・・二人共スゴイねぇ」
「そ、そうですか？」
「すごいよ。だって、管理局でも５％いるかいないかの魔力量だし」
えへへ・・・褒められちゃった。
「なのはちゃんは１２７万・・・こっちの黒い子・・・」
「あ、フェイトちゃんです」
「そうそう。フェイトちゃんは１４３万。最大発揮時はその３倍以上。魔力だけなら、クロノくんよりも強いよねぇ」
「魔法は魔力だけで決まるものじゃない。状況に応じた応用力と使用できる判断力だろ」
クロノくんが憮然とした表情で言った。
エイミィさんは笑いながら、あやしている。
あれ？ クロノくんが言ってることってそのまま士郎くんにもはてはまるような？
士郎くん曰く「魔力ならなのはの方が圧倒的に強いぞ」と言ってたよね。
そう考えると、クロノくんって士郎くんに似てるのか・・・
「そういえば、あの士郎くんだけどさ。強いの？」
唐突にエイミィさんが聞いてきた。
答えたのはクロノくん。
「・・・体術だったら、１００回やっても勝てるかわからない。それぐらいしかわかってない」
「そうだねぇ・・・なんせ、クロノくんをあっさりと剛速球で投げ飛ばしてるもんね・・・ちなみに私命名『ＣＬＢ』」
「念のために聞くが、どういう意味だ？」
「『クロノ・レーザー・バレット』・・・いい名前でしょ？」
「お願いだからやめてくれ！」
思ったけど、士郎くんとエイミィさんって結構似てる？
「それはともかく・・・魔力値見るとＣランク・・・本当のところはどうなんだろうね」
「士郎は強いですよ。フェイトとアルフの二人を抑えてみせましたから」
ユーノくんがきっぱりと答えてくれた。
その、他の人が士郎くんを褒めてくれると嬉しくなるよね？
「ほう・・・なら、なおさら確認したいな」
「なにを？」
「いや・・・こっちの話だ」
そうこうしているうちに、士郎くんとリンディさんが戻ってきた。
リンディさんが恨めしげに士郎くんを見てるけど。
「なのは。今日は帰ってくれ。俺たちの手伝いは明日からだ。俺は検査受けないといけないから、そっちで伝えておいてくれ」
「あ、うん」
「待て」
クロノくんが呼び止めた。どうしたんだろう？
「なのはの魔力量はＡＡＡランクで、ユーノも防御系のエキスパート・・・だが、僕は君の腕前をよく知らない」
「うん？」
「明日、君と模擬戦を行いたい」
interlude Out
「明日、君と模擬戦を行いたい」
どういうつもりだ？ やはり不確定戦力である俺を排除したいのか？
それとも、本当の意味で戦力調査なのだろうか？
「・・・君自身が先程言っていただろう？ この艦に常駐する武装局員の魔力量について・・・
だが、それでも平均してＡランクの魔導師だ」
「ふむふむ」
ということは、間違いなく俺の魔力はＡ未満。
でなければ、そんな提案が来るわけがない。
「君が本当にジュエルシードを対処できるか、僕自身で確かめたい」
「で、でも・・・ユーノくんも言ったように、フェイトちゃんたちを抑え・・・」
「・・・そうじゃないよ、なのは。フェイトたちじゃなくて、俺だけでジュエルシードを対処できるかを知りたいんだ。
最悪でも、開放されたジュエルシードを封印前の状態にできるかどうかだ。じゃ、俺の質問。クロノのランクは？」
クロノもエイミィさんも怪訝な顔。なのはは心配そうにしている。
「ＡＡＡ＋だが。それがどうかしたか？」
「いや、それなら問題ない。俺としても、クロノの正確な実力を測りたいと思ってたんだ」
「・・・言っておくが、模擬戦とはいえ手加減はしないぞ」
「俺もする気はない。明日の午前中に行おうか」
俺とクロノの視線が交わり、言葉を交換した。
ちなみに、俺自身にも目的がある。
ユーノから聞いたが、ＡＡＡランクは管理局にもそうはいない。
そして、それよりも１ランク上のクロノは間違いなく、時空管理局でも指折りの実力者だ。
要するにクロノと互角以上に戦えれば、俺は時空管理局の大多数の人間と渡り合えるということだ。
これは貴重な情報だ。
フェイトやなのはも魔力なら申し分ないが、それでも経験というものが足りない。
逆にクロノは執務官として、時空管理局に勤めている。
突発的な対処も心得ているはずだ。だからこそ、俺の模擬戦相手としては最上だろう。
魔術の使用は可能な限り却下した状態――言うなれば、限定状況下における戦闘――で、どこまで戦えるのかを計れるのだ。
「・・・では、明日に備えて検査を行ってくれ」
そう言って、クロノはこの部屋から出て行った。
そうして、翌日になった。
クロノとの模擬戦が控えているが、俺にはもう一つお仕事がある。
それは
「さて・・・今日はザッハトルテでも作るか」
リンディさんに食べる甘味を用意しなくてはならない。
１日１食であるため、結構な量になると思うが、俺の料理人としてのプライドを持って対処しよう。
ちなみに試食後、俺はアースラの厨房係にならないかと本気でスカウトされたが、ここでは割愛させてもらう。
なのはが到着して、俺となのは、ユーノと談笑しながら、訓練室に向かった。
そこではクロノとエイミィさんが口論していた。
「きみに聞きたいことがある。なぜか、噂で僕が士郎に模擬戦を挑むのは『横恋慕してるからだ』とか。
『振られた腹いせだ』などの噂が流れてるんだが、知ってるか？」
「ああ、ばっちり流したからね。あたしが」
「やっぱり君か！？」
クロノに向かって、サムズアップしながらエイミィさんが元気良く告げた。
・・・訂正、口論じゃなくて口喧嘩みたいなものだろう。
俺に気付いて、クロノがこちらをむいた。
「ふ・・・何も言わないでくれ」
「なら、俺も参加しようか？ クロノをおちょくるために」
「言うなって言ってるだろ！？ それにやめてくれ！」
「なら、今日のところは勘弁してあげよう・・・後日１０倍になって返ってくると思うけど」
「ぐ・・・こ、こいつとエイミィを会わせたのは、僕の人生の中でも一番の失敗だったんじゃ・・・」
なにやら、非常に失礼なことを言っているクロノ。
俺はと言うと、エイミィさんに向かってサムズアップした。当然、エイミィさんも返してくれた。
なのはの機嫌が悪くなったが、これで準備は整った。
この場にいるのは、クロノとエイミィさん、リンディさんと俺となのは、ユーノである。
「じゃ、ルールの説明ね。これからジュエルシードを集める以上、体自体にダメージを与えるのを禁止するため、これを使います」
取り出されたのは、妙な形をしたペンダントだ。
「これは『元』ロストロギアね」
「『元』？ どういうことです？」
「今の次元世界で再現できるようなものは、ロストロギアの枠組みから外れることになるの。
外すにしても、相当面倒な処理をしないといけないから、実際の所は極一部しか外されてないけどね」
「なるほど・・・で、それは外された極一部ですか」
「そうね・・・リアルにバーチャル体験できる装置という認識でお願いね」
ふむ・・・問題は本当に危険がないのかという点だが。
「面倒な処理に安全審査があって、事後経過も見るから申請してから最低でも１年以上はかかるんだ。信頼してくれて構わない」
ふむふむ。思ったより、しっかりと確立されてるんだな。
この組織を作り上げるにしても相当な時間がかかったろうに、結構細かいところまで考えている。
そのあたりは素直に尊敬できる。
「じゃ、二人とも・・・そのペンダントを付けて」
俺とクロノはペンダントを付けた。
「うん？ ここはどこだ」
見たことがない平野にいきなり送り込まれてしまったのだが・・・
『あ、士郎くん？ 聞こえる？』
「エイミィさん？」
『うん。成功だね。今回は簡単な模擬戦なんで勝利条件を伝えるよ。
条件はクリーンヒット５発、または戦闘不能に類するダメージを負った場合。これだけ』
「クリーンヒットに関節技や投げ技も入りますか？」
『入るよ。クリーンヒットの定義は有効なダメージを与えた場合。
あとはこっちの機械が判定するから』
「了解しました」
なるほど・・・なら、色々対策は取れるな。
それにしても、これがバーチャル？ 凄いリアリティなんだが・・・
「！？」
青白い閃光の速度は正しく高速。その閃光が俺に向かって落ちてくる。
即座に俺も呪文を唱える。
「『投影開始』」
干将・莫耶を投影。一振りで魔法を撃墜する。
「魔法に関して詮索無用か・・・原理はわからないが、魔法を簡単に切り裂く剣を即座に出現させるなんて・・・転送魔法か？」
「・・・どうかな？ 俺は自分の技は簡単には教えないし、魔法を切り裂く剣なんて、結構な数を知ってるぞ」
少し離れたところに着地するクロノ。
先の台詞の通り、現実に俺はそんな武器があるのを沢山知っている。
だが、それらがこの世界に現存しているかは不明だけど。
「まぁいい。勝たせてもらう」
クロノの言葉が俺の耳に入ったと同時に、思考を戦闘に集中させている。
どのような魔法を使うかのか。まだ俺は読みきれていない。
「スティンガースナイプ」
この魔法は射撃型。５発の閃光だ。
だが、構成までの展開が速く、直射型か誘導型か判別できなかった。
即座に干将・莫耶を真上に軽く放り、更に黒鍵を投影。
撃墜すべく、即時投擲。
１発、２発、３発・・・３発まで撃墜に成功したが、残り２本は回避行動を取ったため、回避された。
間違いない。誘導操作弾だ。
真上に放った干将・莫耶を掴み、２発の迎撃を行うべく構えた。
だが『スティンガースナイプ』は俺に向かわず、俺から見て前方の地面に突き刺さった。
直後、爆発。粉塵が巻き起こる。
その瞬間、寒気が走る。
クロノからかなりの魔力を感知した。
「ブレイズカノン！」
俺の体は回避行動を取っている。
が、目測ができないため、間に合うかがわからない。
「『熾天覆う七つの円環』」
小声で盾の投影。顕現させるのは３枚。
あまり、手の内はバラしたくはない。
クロノの砲撃が盾に直撃し、ブレイズカノンを耐え切った。
即時『熾天覆う七つの円環』の投影を破棄し、粉塵から飛び出す。
「無傷・・・か。どんな手段をつかった？」
「言うと思うか？」
「僕の立場なら言わないな」
「そういうことだ」
誘導操作弾の特性は知っての通り、自分の意志である程度の操作が可能な点だ。
先程のように囮に使ったりと、多岐に渡って使えるはずだ。
そう。ある程度の操作ができるのだ。
「不意打ちとは感心しないな」
「！？」
後方から近付いてくる『スティンガースナイプ』。それを見ずに干将・莫耶で撃墜する。
クロノは驚いて、更に後方に下がる。
「・・・どうやって気付いた」
「魔法が発展した世界にいるおまえたちでは想像ができないだろうが・・・俺たちの世界ではこういう技もあるってことさ」
『制空圏』という技がある。
簡単に説明すると、自分の間合いに入り込んできた場合、その攻撃を察知し半ば自動的に迎撃する技である。
まぁ、魔法がある以上、武術が発展しないのはしょうがないことだろう。
魔法の方が確かに便利だからだ。
だが、武術に知識がない以上、俺の技に面食らうのは当然のことでもある。
「その制御、直射型魔法の威力と弾速・・・なるほど。強いわけだ。天才だな」
「ふん。その攻撃をあっさりと回避した君はなんだ？ それなら、君だって天才だろ。生憎、僕は凡人だけどね」
ふむ・・・なんか勘違いされてるな。
「いくつか訂正しよう」
「？」
「一つ、おまえは間違いなく天才だ。制御能力が高いことも、間違いなく天才の条件の一つだからな。
二つ、俺は間違いなく凡人だ。近距離はクロノが苦手だから、俺が勝つ。それでも、得意な人とまともに対戦したら負ける」
これは間違いない。現実に俺は恭也さんに、最初の日に敗北に近い状態に追い込まれ、現在もなんとか引き分けに持ち込むのが精一杯だ。
まともに近距離戦で戦う場合、これが俺の限界なのだ。
だが、その前提は戦い方――つまり、戦略――で覆せる。
「遠距離戦も同じだ。俺は遠距離戦もできる。だが『汎用性』『連射性能』『呪文の種類』など徹底的にクロノが有利だ。
そちらの戦力は『１０』の万能型で、俺の戦力は『１』の特化型だからな」
言葉を切り、目を瞑る。おそらく、この考察に間違いはない。
――それでも、あの紅い弓兵は負けなかった。
――なぜか？ それを考えて俺は答えを出した。
――つまり、その距離ごとに自分が使える技の最大長所を引き出して、勝つ。または負けなかったのだ。
ならば、あの弓兵にできて、俺にできないわけがない。
――俺には非殺傷設定がないから、さらに使える選択肢は減るが、それでも俺は負けない。
言葉に力を込めるべく、息を吸い込む。
そして、目の前のクロノを見据え
「見せてやる。才能がない者が作り上げた『１』の戦い方をな」
俺――衛宮士郎はここに宣言した。
魔法少女リリカルなのは Crossing of the Fate Stage12 「士郎 対 クロノ」 End
Next Stage 「決着」
没ネタ集
なのはも到着して、模擬戦を行う訓練室に向かったのだが・・・
「レディース！ アーンド！ ジェントルメン！ これより、本日のメーンイベント！
時空管理局『執務官』！ クロノ・ハラオウン 対 『次代のアースラ総料理長候補』である衛宮士郎くんの対決を行います！」
『うおおおおおおおっ！』
「待て、エイミィ・・・これはどういうことだ？」
非常にノリノリだったエイミィさんを制止し、クロノのツッコミが入った。
っていうか、これでいいのか？ 時空管理局？
そして、俺はいつからそんな渾名がついたんだ？ まだ滞在して半日とちょっとなんだが。
「いやね・・・ちょっとクロノくんの噂を軽ーく流してみようと思ったら、あれよあれよとこうなっちゃったのよ」
「ちなみにどんな噂を流した？」
「うん？ いやね、なのはちゃんがクロノくん好みの女の子ということを流して、模擬戦するって言ったら、こうなったよ」
「一部捏造があるんだが！？」
いやはや。いいコンビだね、二人とも。
それにしても『クロノ執務官が横恋慕したんだってよ』とか『いや、俺はすでに振られたって聞いたぞ』とか
『え！？ でもあの女の子まだ１０歳なってないはずですよ？』などなどの声が聞こえます。
・・・ちなみに、一番多い単語である『ロ○コン』を追求しないだけマシだと思ってもらいたい。
どのような経緯でこんなに飛躍したのか、俺自身追跡調査してみたいよ。
没理由：こんなに士郎とクロノ対決目立たせたら、契約の意味ないじゃん。
タイガー道場！！ Stage12！！
注：）基本的に恐ろしくギャグ空間です。
拒否反応がある方は読まないでください。
大 河：ふぅ・・・弟子１号・・・あたしがいない間に好き勝手やってたようね
イリヤ：う、うう・・・ご、ごめんなさいです。師匠
大 河：ま、今日のところはこれでゆるしちゃるけぇのぉ
イリヤ：・・・虎竹刀で脳天に５０回くらったんですけど・・・
大 河：（無視）さて、今日のテーマはこれよ！
お題『士郎が吹っ飛ばされた後はどうなった！？』
イリヤ：確かに気になるっす。なんというか、士郎の地の文だけ読んでると、凛関係が多いぐらいですからね
大 河：さて、ではではご覧ください
場面転換・・・イリヤ城
――あたしは自分のうっかり属性を呪っていた。
――なぜ、想定外の魔力が侵入した場合、機能停止させる機能を付加しなかったのか？
――繰り返される自問・・・そして、結論は・・・
「・・・というわけで、ちょっと不貞寝するわ」
「リン・・・そのまま眠ると永久に目が覚めないことを約束しましょう」
セイバーが『エクスカリバー』を構えていて、あたしに狙いがついている。
恐怖で眼を覚ますと、妙に黒い何かがウネウネしている。
精神衛生上見たくないが、わたしの視力は良好なため、すでに確認済みだ。
「姉さん？ ・・・お聞きしますが、どのような状況でしょうか？」
「・・・簡単に言うと、士郎は第二魔法の経験者になりました？」
「・・・問題は士郎を戻すことができるかどうかです・・・５秒以内かつ１０文字で収めなさい」
「すぐには無理かも？」
１０文字に収まったが、むしろ火に油を注いでしまったのは間違いない。
「そうですか・・・では、いつまでにできますか？」
「・・・もしかしたら無理かも・・・」
わたしは至極マジメだ。だって、何代かかっても無理かもしれない事象なのに、簡単にできるなどとは言えない。
セイバーだって、分かっている。
だけど、分かってはいるけど、怒りの発散場所は当然欲しい。
その・・・完全にわたしのせいだしね。
「そうですか・・・では、わたしたちは何をすればいいかを教えてください」
「・・・当面は、冬木で起きる事件を解決して。わたしはなんとしてでも、魔法を成功させないといけないから、研究の準備に入るわ」
そうだ。前回の『ウィンチェスター事件』と同様に何かが起きる可能性は非常に高い。
ギルガメッシュは自分の宝石をわたしに貸す気はないが、資金面では援助してくれるのを約束してくれたから、資金面は問題ない。
「・・・できることなら、ここで聖剣を解放したいところですが、それは後に回しましょう」
「そうですね・・・わたしも姉さんを手伝います。だから、先輩をなんとしてでも、助けてくださいね」
「では、桜。わたしはサーヴァント全員に交渉したいと思います」
そうね。セイバーの言葉も物騒だけど、桜はさらに物騒だ。
ちょっとでも気を抜くと、あの黒いものに飲み込まれるのは間違いない。
これから、より気合を入れて魔法の研究に取り込まなくては！
――だが、わたしはまだ気付かなかった。
――これから進む道は苦難なんて言葉では語りつくせないほど、迷路のように入り組んでいることに・・・
場面転換：タイガー道場ＳＩＤＥ（イリヤ城）
大 河：ということです！
イリヤ：なんか、続きが気になるけど・・・本当に戻れるの？
大 河：作者曰く、本来ならＡ’Ｓ編最終回までになんとか形をつけるつもりだったみたいだから、いずれは戻るはずだったんです。
イリヤ：でも、現在ＳＴＳを前向きに検討中と
大 河：そういうことです！ では、また次回でお会いしましょう。
ＥＮＤ？
？？？：ふふふ・・・私もまだまだ登場しますよ
終わっとけ
後書き
あれぇー？ タイプがおもいっきり進みましたよ？
今回は対決の前半戦となっています。
それにしても、ジージェネ面白いよ。やっぱ、宇宙世紀はいいですね。
では、１０話の拍手の返信です。
＞今日読み始めて、面白い！次も待ち！！更新ペースとかどんなかな〜？と感想板を見に行ったら
「あれ？」「あれ？」慌てて戻って更新ボタンぽちっとな。NEWの文字が！？何か得した気分で次回もお待ちしてますｗ
まとめ読みをしてくれたのかな？ 気に入ってもらえてありがたいです。
＞作者さん！今回も楽しく拝見させて頂きました！お忙しいようですがお身体の方を壊すことなくご自愛下さい
最近、この生活に順応してきてしまったのが、ちょっと悲しいです。（書いてる時点では）今週の土日は休日ですんで、書き溜めないと
＞投稿スペース落ちようが続けてくれる気があるならＯＫですさ
一時的かもしれませんが、執筆ペースが戻りました。というよりも、早くなった？
＞ひゃっほ〜お兄さんはこのSSが完結する頃には萌え尽きそうだZE
萌えてください。これからも感想を継続してくれるとありがたいです。
＞やべぇ〜士郎クオリティが発動している。やっぱ士郎は限界突破が基本だな〜
＞やっぱ士郎はこうでなくっちゃ。他者の為に限界ギリギリそれが士郎クオリティだな〜
盛大に発動したと思います。これこそ、士郎クオリティです。
＞お疲れ様です。なにやらフェイトがやけに可愛らしいんですが、思わず、砂糖吐きたくなるぐらいに。
そして、ジュエルシードを求めてバトる筈が、寧ろ、士郎の指輪争奪戦に目的がすり替わっていた気がしますが
フェイトは私の中では一番の萌えキャラです。フェイト自身はジュエルシードに愛着ない（プレシアが欲しがっているから欲しいだけ）
ので、フェイトにとってはこっちが本命・・・だったらいいなぁ。と思って書きました。
＞次回のCrossing of the Fate楽しみにしてます。
＞自分のペースでお身体の方をお大事に！これからも応援ジャンジャンしていくのでよろしくお願いします！
＞面白過ぎるぜ！ｉｓｅｉｚｉｎの旦那！！！ってな訳で拍手一票送るぜ！！！
＞ｉｓｅｉｚｉｎさんへ 色々と大変でしょうが 私はこの作品が好きです。月並みですが是非書ききって下さい
＞今回も面白かったです！クロスは難しいですが是非これからも書いて下さい！応援してます！
＞気になる所で次回へ．．．ｉｓｅｉｚｉｎさんへ次回が気になるぜ〜次回も期待して待ってます
感想ありがとうございます。これからも頑張ります。応援してくれる人がいると執筆ペースが速くなります。
＞最後はシリアスに士郎の歪みが露呈して居られましたな。次回は高町家でスーパーおしおきタイムから始まるような気がしなくも有りませんが、次の更新も楽しみにしています。ご自分のペースで頑張って下さい。
高町家でのお説教は私の領分越えていると判断したため、細かくは書けませんでした。ただし、士郎にとって「あかいあくま」を越えました。
＞見せて頂きました！大変面白かったです！後、質問ですがこの士郎のＵＢＷの呪文はアーチャーそれとも士郎？
感想ありがとうございます。士郎形式でいきたいと思います。
＞面白かったです。『地雷を絶体回避する男』ですか、士郎は最後の最後で選択肢を間違えるような気がする。
まだ転校して少ししか立ってないので。埋まっている地雷は回避するくせに、表面にでている地雷を踏む男と私は思ってます。
＞おお修羅場が早くも発生なのはさんの魔王覚醒は早まるんでしょうか
マジメな恋愛中は魔王はなしで行きたいのが本音。ギャグでも３人娘全員が居たりしないとできないとか、そういう方向で行きたいなぁ。
＞士郎にはハーレム街道を突き進んでほしいです最後に一つだけ伝えないと。．．．．．．．．．ｉｓｅｉｚｉｎあなたの書くＳＳを――――愛している―――
ハーレム街道を突き進む。そこに痺れる憧れるー、です。私はセイバーさんのその台詞聞いて泣きました。
＞うん、士郎の歪さが漸く出てきましたね。ＨＦの士郎も好きですが、やはり正義の味方こそ衛宮士郎！
私も正義の味方だからこそ、士郎だと思ってます。
＞クロス物において世界が違うのだから多少の誤差やご都合は有りだと思うこれからも楽しみに作品を待ってます
感想掲示板でも同じことを言ってくれた人がいたので、少しだけ救われました。ありがとうございました。
＞最近辛口のコメントが増えているようだけど俺はあなたの作品が好きだぁぁ！！逆風に負けないよう応援するぜ
確かに一部の方が指摘されますが、読んでくれたうえで感想をくれたので、真摯に受け止めています
応援感謝です。
＞読ませ頂きました。やばい！この話に癒されている俺がいる．．．．そこで一言。最高！！
多分、フェイト宅へ行ったときで癒されているのだと思います。士郎とアルフの会話はポンポンと出てきましたよ。
＞ぐはっ！！アルフ派の俺がすずかに癒されるだと．．．この話侮れんな！！これからも応援させてもらおう
温泉編かそれともドッジボール編のすずかに癒されてください。現在、すずかの外伝も執筆中。フラグ成立のお話予定です。
＞フラグを立てまくる士郎が素敵だ。遂に歪みが発生高町家のメンバーの反応はいかに。次回に期待大！！
フラグを立てまくるんだけど、思ったより嫌われてないですね。なぜだろう？
桃子さんの大激怒により、士郎くんは生涯桃子さんに逆らえなくなりました。
＞士郎はなんだかんだ言っても日常では頼れる人だし年下にモテそうだ．．．まさかリリカルでハーレム結成か！
Fate世界でもほぼ作ってましたが、こっちでも似たようなものです。
恋愛フラグ以外でも、弟フラグ（美由希とファリン）が立ってますね。（ファリンはあれの関係でフラグが変わるかも・・・）
＞士郎は士郎（父）とのなのはを守る誓いを守ったか．．ｉｓｅｉｚｉｎクオリティ流石だな！オモシロい
ただし、心は傷つけた模様。この出来事から、なのはの大怪我フラグが立ったと仮定できてしまいます。
＞誰かを守るということを貫き通す男、それが衛宮士郎．．．かっちょいいぜ士郎。次回も更新待ってます。
士郎は変わらないんですよね。だからこそ、女の子も面倒をみたいと思うし・・・
あれ？ これでもフラグが立ってしまう？
＞グォォオ！ｉｓｅｉｚｉｎさん この作品良い味出してるじゃないか！この面白さは．．まさに宝具級か！？
ありがたいです。でも、宝具はちょっと褒めすぎです。嬉しいですけど。
では、次の話にて会いましょう。
作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル、投稿小説感想板、