十七話 束の間の平穏
無限に広がる大宇宙・・・・。
そこには様々な生命が満ち溢れている・・・・。
死にゆく星・・・・。
生まれ来る星・・・・。
生命から生命に受け継がれる大宇宙の息吹は永遠に終わる事は無い・・・・。
あのガミラスと地球の戦いも無限の時を刻む宇宙の広がりの中には、束の間の混乱に過ぎなかった・・・・。
時に西暦
2201年・・・・。
ソレは、地球から約
239万光年の彼方にあるアンドロメダ星雲からやって来た・・・・。
針路に有る邪魔な惑星や星共を吸い込み、ひしゃぎ、粉々に粉砕して進んで行く魔の巨大彗星・・・・。
またその一方、利用しうると思われる有人惑星に対しては、その何処からか強力な機動艦隊が飛び出して来ては
攻撃、侵略を繰り返し、彼らに従属する植民地として現地の人々を奴隷にしていったのである。
新たな脅威が宇宙を席巻していた。
地球・・そして時空管理局はまだこの事実を知らなかった・・・・。
ある日、良馬に防衛軍人事部への出頭命令が下った。
「月村、出頭しました」
人事課長に敬礼する。
「待っていたよ、月村君。君に新しい内示だ」
「はっ」
人事課長は一枚の書類を良馬に手渡す。
「これはっ!?」
手渡された書類を見た良馬は、思わず声をあげる。
その書類には、以下の文章が書かれていた。
『月村 良馬。 貴君を主力戦艦改級戦闘空母『松島』艦長に任ずる』
(巡洋艦や駆逐艦、護衛艦はともかく、いきなり空母の艦長ってどういうことだよ!?)
「あ、あの・・・・これは何かの間違いじゃ・・・・自分は今まで巡洋艦の艦長を務めて来ましたが、いきなり空母の艦長と言うのは・・・・」
良馬はてっきり、今まで巡洋艦の艦長を務めてきたのだから、今度も巡洋艦か護衛艦の艦長を務めるものだと思っていたので、いきなり巡洋艦から空母の艦長へのクラスアップに戸惑いが隠せない。
「いや、間違いではない。艦船が揃い始めたとはいえ、それを動かす有能な人材が今の防衛軍には不足しているんだ。それと、こっちが乗員のリストだ。後でちゃんと目を通しておくように」
「は、はぁ・・・・」
「艦は今、第十七ドックに係留されている。早速、現場へ赴き、受領してもらいたい」
「わ、分かりました。 辞令、確かに拝命しました。月村 良馬、『松島』艦長に就任します。では、失礼します」
「うむ、頑張ってくれたまえ」
良馬は人事課長に敬礼し、部屋を退出した。
庁舎を歩いていると、見知った顔の男女数人が歩いて来る。
周囲の者は続々と彼らに対して直立不動になり敬礼している。
良馬にとっても、彼らの内一人は敬意を払うべき立場にある人間のためそれに倣う。
敬意を払うべき立場にある人間―――防衛軍司令長官、藤堂 平九郎が良馬に気付き、表情を幾分緩めながら答礼した。
その後を歩く、長官秘書の森
雪は柔らかな微笑を浮かべながら会釈してきた。(今の人・・確か古代君の婚約者〈フィアンセ〉の森 雪君・・だっけ?そう言えば、近々結婚式をあげると聞いたな・・・・良いなぁ・・・・僕もいずれはギンガとあげたいな・・・・)
近々古代家に嫁入りをする雪を見ながら、良馬はギンガとの結婚を思いにはせた。
受領の予定時間までまだ余裕があったので、良馬は庁舎内に設けられているカフェへと入り、其処で時間を潰す事にした。
「うーん・・・・」
カフェのテーブル席に着き、改めて先程受け取った書類に目をやる。
何度見ても変わりなく、自分に空母の艦長を務めろと言う内容だった。
「どうした?ボォ〜っとして」
「っ!?」
突然、背後から声をかけられ、振り向くと、
「さ、真田先輩」
そこには、かつて『ヤマト』の技術長兼副長を務め、現在は地上勤務(科学局局長)となった真田 志郎の姿があった。
「へぇ〜巡洋艦から空母の艦長か・・昇進したな」
「ど、どうも・・・・そう言えば、真田先輩は新造艦の建造計画にも参加したと聞きますが、どんな艦なんですか?」
良馬が今の防衛軍の艦の傾向などを尋ねると、
「君が乗艦予定の空母は独創的な形だ」と、言い、更に最近の艦船の傾向では人員不足の折、機械やコンピューター任せによる傾向が強く、とても戦艦とは呼べる代物ではないと言った。
「軍上層部や連邦政府の総意は、『ヤマト』が行ったイスカンダルへの大航海の成功は機械力の勝利と錯覚しているのさ。その結果生み出されたのが、今の防衛軍の艦船だ。血の一滴も通わないメカニズムの結晶さ」
と、まるで今の防衛軍や地球連邦政府の姿勢を非難するかの様に吐き捨てる。
「月村、訓練航海に出たら、ダメコントレーニングをみっちりやっておけ、最後に頼りになるのは機械やコンピューターではなく、人の力だからな」
「はい」
真田の言葉を深く肝に銘じた良馬だった。
良馬以外、軍の上層部でも一部人事の変更があった。
沖田から日本連合艦隊司令長官の座を引き継いだ土方が日本連合艦隊司令長官から防衛軍全艦艇の指揮権を持つ防衛軍連合艦隊司令長官に進歩され、更に近々進宙する新鋭戦艦の艦長も兼任するとの事だ。
また、防衛軍軍令部総長の芹沢 虎徹が体調不良を理由に退役した。
しかし、例の噂・・・・ガミラスとの戦争は地球側が一方的に戦端を開き、その命令を芹沢が出したと言う噂を聞き、信じる者は戦争の責任を取らされたなと思うものが多かった。
後任は元戦艦乗りで司令部の参謀長を務めた西郷 利通中将がその座に就いた。
彼は司令部の参謀職との兼務であり、職柄多忙を極めそうだが、本人は「参謀時代と対して変わらんよ」と言って職務を行っている。
退役した芹沢の下には密かに憲兵や公安の人間が警護に着いた。
万が一にも例の噂が外に漏れ、防衛軍の兵や下士官、更にガミラスとの戦争で家族を失った人々に知れ渡れば暗殺と言う名の報復が芹沢の身に降りかかるのは明白であった。
芹沢は身から出た錆びとは言え、残りの余生を暗殺に怯えながら過ごす事になった。
防衛軍庁舎のビルを出た良馬は、公用車にて、今度自分が艦長を務める艦、主力戦艦改級戦闘空母『松島』が係留されている第十七ドックへと向かった。
「防衛軍中佐、月村 良馬です。この度、戦闘空母『松島』の艦長の任を拝命し、艦の受領に参りました」
「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ・・・・」
ドックの技術者に案内され、艦船ドックへ行くと、そこには防衛軍が新たに正式採用をした主力戦艦をベースに建造された戦闘空母が鎮座していた。
そして、真田の言う通り、その艦は独創的な艦影をしていた。
艦前方から後部にかけて飛行甲板が張り出し、右舷に艦橋と主砲二基を配置し、艦の左舷にアングルド・デッキを設け、艦橋のアンテナやレーダー類は左右非対称となっている独特な艦影を持つ戦艦空母・・・・。
通常の主力戦艦改級戦闘空母を更に発展させた艦・・・・。
これから自分が艦長となり、指揮を執る艦・・・・。
飛行甲板に立ち、聳え立つ艦橋を見上げると、思わず武者震いがした。
しかし、『松島』を含め、防衛軍が新たに採用した主力戦艦群を見て、思ったことがあった。
(なんか・・・・艦首の作りがガミラスの『ガイデロール』級戦艦に似ているような気がする・・・・)
艦内に入った良馬は早速、ドックの技術者と共に艦内巡検を行った。
やはり、この艦の艦長となるからには、艦内の詳細を隅々まで把握しておく必要がある。
ゆっくり、散策するように艦内を歩き回る良馬。
時間をかけ、艦内巡検を終えた良馬は、艦長室へと入ると、技術者達と様々な打ち合わせを行った後、先程、人事部から渡された乗員のリストを見始める。
各部署の長を見ていくと、
航海長と機関長、主計科長、医務長は『三笠』時代同様、永倉、井上、ディアーチェ、リニスの四人だった。
ただ、副長、砲術長は『三笠』の時と異なる人物だった。
(三木君とは違う部署になってしまったか・・・・ちょっと残念だな)
『三笠』乗艦時代には副長の三木には色々世話になったし、気心が知れている仲なので、出来れば、艦の幹部クラスは『三笠』乗艦時代と同じにしてほしかったが、人事課長が言う通り、今の防衛軍は人材不足のため、優秀な人材を一箇所に貯めるような贅沢は出来ないのだろう。
むしろ航海長、機関長、主計科長、医務長の四人が同じだけでもかなり優遇してもらったと言うべきだろう。
そう思いながら引き続き乗員のリストのページを捲っていく。
案の定、乗組員の大半は士官学校や訓練学校を出たばかりの新人を中心とするメンバーなのだが、女性の乗員も増えている。
事実、『松島』の副長も女性の士官だ。
ガミラス戦役における男性人材大量喪失の影響が強いせいだろう。まぁ、中には先程司令部庁舎のビルで出会った森
雪が『ヤマト』乗艦時に見せた縦横無尽の活躍の実績もあるのだろう。いずれは女性だけの乗員で運用される艦や女性の艦長、司令官も出てくるかもしれない。
そして、通信科のページを開き、良馬は、
「なっ!?」
思わず、目を大きく見開いた。
「おいおいおい・・・・一体何の冗談だよ・・・・」
良馬は、リストを持ったまま、顔を引きつらせる。
通信科のページには以下の人事内容が書かれていた。
『通信科 通信長 中嶋 ギンガ 少尉』
良馬が『松島』を艦内巡検している頃、
ギンガに「配属先が決定されたので、司令部人事課へ出頭せよ」と言う連絡が入った。
早速ギンガは人事課へと出頭し、辞令を受け取る。
「中嶋 ギンガ 少尉、出頭いたしました」
管理局時代から上官に対し、敬礼し慣れているギンガであったが、士官学校の制服に身を包んでいるためか、その姿はどこか初々しい。
何故、ギンガが未だに士官学校の制服を着ているのかと言うと、ギンガはまだ正式な配属が決まっておらず、地上勤務なのか宇宙艦隊勤務なのかが分からなかったため、ギンガは、防衛軍の制服を支給されていなかったからである。
「中嶋少尉、之が貴官の配属先だ」
人事課の人間が一枚の書類をギンガに渡す。
「はっ」
早速受け取った書類に目を通すギンガ。
そして、その内容を見て、思わず目を見開く。
書類には『中嶋 ギンガ少尉。貴君を主力戦艦改級戦闘空母『松島』通信長の任に命ず』と、書かれていた。
(通信長・・・・いきなり一部署の長を・・・・)
良馬同様、初めての防衛軍任官で、いきなり通信科の長を務めよと言う辞令はギンガに戸惑いを抱く。
「君も士官学校から軍の実情を見たと思うが、今の防衛軍は人材が不足している。君は途中編入にも関わらず士官学校で通信科をはじめ、多数の科目を選択し、その全てにおいて優秀な成績を修めている。通信長と言う職務は防衛軍が十分、君に務まる職務だと判断した結果なのだよ」
「はぁ・・・・」
「まぁ、配置転換も三日以内ならば受け付けるが、その期間よく考えてみてくれ」
人事部の人はギンガに『松島』の通信長の任を降りる事も出来ると言う選択肢も与えた。
しかし、根が真面目で責任感が強いギンガはその選択をせず、
「いえ、謹んで拝命します!」
と、ギンガは『松島』の通信長になることを選んだ。
この人事は防衛軍が自分を正当に判断し、自分の実力を見込んで、この役職を与えてくれたものなのだから、自分はそれに見合った成果で答えなければと意気込んだ。
しかし、この時、ギンガはまさか自分が通信長を務める艦の艦長が自分の恋人である良馬であると言う事は知らなかった。
艦を受領したと言っても、まだ乗員が乗艦していない状況なので、この日、良馬は、下宿先の中嶋家に帰った。
「はぁ〜まさか、ギンガと同じ部署になるとは・・・・この人事まさか、中嶋さんが関わっているんじゃ・・・・」
『松島』の人事を見て、何らかの形で宗次郎が関わっているのではないかと勘繰る良馬だった。
(ともかく、ギンガ本人にはまだ黙っておくとして、後で中嶋さんに聞いてみるか・・・・)
皆が集まった夕食の席で、宗次郎がギンガに配属先は決まったのかと尋ねてきた。
「はい。私は、『松島』って言う宇宙空母に配属が決まりました」
「それじゃあ宇宙艦隊勤務なの?」
加奈江が確認するかの様に尋ねる。
「はい。その空母で通信長をやる事になりました」
「えっ!?ギン姉ちゃん宇宙に行くの!?」
「そうよ」
火憐が少し興奮気味に尋ねる。
ただ、ギンガが宇宙艦隊勤務と言う事で、宗次郎は少し複雑な表情をしていた。
「いいなぁ〜アタシも一度は宇宙旅行に行きたいなぁ〜」
「火憐、ギンガは旅行に行くわけじゃないのよ。でも、太陽系が安全になったら、昔みたいに宇宙旅行も再開されるはずだから、その時になったら連れて行ってあげるわよ」
「ホント?やった!!」
火憐は今から宇宙旅行を楽しみしている様子だった。
「それで、良馬君はどこに配属になったの?」
加奈江が今度は良馬に尋ねてきた。
「あ、うん・・僕も宇宙艦隊勤務になりました・・・・希望通りに・・・・」
ギンガが居る手前、敢えて艦名は名乗らず、宇宙艦隊勤務だと言う事だけを告げた。
良馬の返答から、また宇宙巡洋艦の艦長にでもなったのだろうと、中嶋家の皆はそう思い、良馬にどの艦に乗るのかまでは聞いてこなかった。
夕食後、良馬は宗次郎に話が有ると声をかけ、二人で書斎へと入り、今回の人事について話した。
「それで、話って言うのは?」
「実は、今日僕も人事部に出頭命令を受けました。そこで、ギンガ同様、配属先の内示を受けました。・・・・それがこれです」
良馬は人事部から受け取った書類を宗次郎に見せる。
すると、宗次郎の表情が硬くなった。
「おいおい、こいつは・・・・」
「はい・・・・ギンガと同じ艦の配属になりました」
「・・・・」
「当初は、中嶋さんが、裏で工作したのかと思いましたが、夕食の時、ギンガが宇宙艦隊勤務になったと聞いて少し、顔を曇らせたので、中嶋さんの仕業でないと分かりました」
「・・・・月村よ」
「はい」
「父親(義父)の俺としちゃあ、ギンガには宇宙艦隊勤務については欲しくなかった・・・・本来なら、ギンガが防衛軍士官になると言いだしたとき、あの時のお前さんみたく強く説得して止めさせるべきだったのかもしれねぇ・・・・」
(養子とは言え、加奈江さんも中嶋さんもちゃんとギンガの事を本当の娘のように見てくれているのか・・・・まぁ、加奈江さんの話が本当ならば、加奈江さんは二度目だからな・・・・)
良馬は中嶋夫妻が本来血のつながらない筈のギンガを実の娘の様に思っていてくれている事が有難かった。
「月村」
「はい」
「娘を・・・・ギンガを頼む」
「了解しました」
翌日、中嶋家にギンガ宛の荷物が届いた。
中身を開くとそれは、防衛軍宇宙艦隊勤務のため、ギンガに送られた地球防衛軍女性宇宙戦士用の制服と士官用ジャケットだった。
サイズの方は士官学校で身体検査を行ったため、既に数値は把握されていたので、着こなす事は出来た。
そこで、ギンガは早速袖を通してみた。
(うーん・・・・ちょっとコレ、恥ずかしいかも・・・・)
地球防衛軍女性宇宙戦士用の制服を着たギンガは、まじまじと今、自分が着ている制服を見て、頬を少し赤らめる。
女性用のこの服は体にフィットするデザインに作られており、制服を着ると、ボディラインがもろに出てしまうのがギンガにとっては玉に傷で、ソレを隠すために上にジャケットが欠かせないのだが、この制服、実は簡易宇宙服の機能も兼ね備えているだけあって、極めて軽量かつ丈夫で、結構激しい運動にも対応できる等、実用性が高い感心な一品だった。
(まぁ、他の防衛軍の女性軍人達も着ているし、ようは慣れだよね、慣れ)
乗艦前にこの制服に慣れなければと思うギンガだった。
しかし、ギンガのその様子を見て、
(マスターのバリアジャケットも似た様なものではないか?)
と密かに思うブリッツ・キャリバーだった。
ギンガは制服を着たまま、チラッとテーブルに目をやる。
そこには、制服と共に送られてきた一通の手紙があった。
『松島』は、他の戦艦と違い、空母故、艦載機の搭載など、出航まであともう少し時間があるが、各パートの長は、訓練日程等の打ち合わせが有るため、指定された日時に『松島』へ出頭せよと言う内容がその手紙には書かれていた。
(初めての宇宙艦隊勤務だけど、艦長ってどんな人だろう?)
まだ見ぬ、自分が乗艦する艦長に思いを寄せるギンガだった。
ちょうどその頃、
「へっくしゅん!!」
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ・・・・」
防衛軍第十七ドックにて『松島』の物資搬入を確認していた良馬が盛大にくしゃみをした。
「風邪ですか?」
ドックの技師が心配そうに良馬に尋ねる。
「いや、幼少の頃から風邪はひいていないよ。軍人は体が資本だからね」
夜の一族の生まれのせいか、良馬はこれまで、風邪やインフルエンザといった病気にはかからない体質だった。
もっとも一族の中には病死する者もいたが、基本夜の一族は結構丈夫な体質なのだ。
翌日
「それじゃあ、行ってきます」
地球防衛軍女性宇宙戦士用の制服の上に士官用ジャケットを纏ったギンガが、玄関先で家族に見送られていた。
良馬とリニスは昨日、搬入作業の為乗艦する艦に寝泊まりすると連絡がきて、今日ここにはいない。
恋人がいない日に防衛軍の制服の初披露となったので、ギンガは、良馬にも見てもらいたかったと言う思いもあった。
防衛軍の制服を家族に初披露した朝食の時、ギンガの制服姿を見た時、家族の皆は、
「素敵よ、ギンガ。とっても良く似合っているわ」
「うん、ギンガもこれで、晴れて防衛軍の一員だな」
「ギン姉ちゃん、カッコイイ!!」
と、賛辞を浴びていた。
(うーん・・・・この世界の人の美的感覚はミッドと違って少しズレているのかな?)
本来、女性用の宇宙戦士用の制服は女性軍人からクレームが来なかったからこそ、このデザインが採用され続けられている訳なのだが、着ている身としては未だに少し恥ずかしい。
ギンガとしては何故クレームが来なかったのか疑問に思う。
しかし、他の女性軍人は皆、恥ずかしがらずに着こなしているからには、この地球の人の感覚はミッドとは違うのだろう。
朝食時、ギンガはそんな事を思っていた。
ギンガは家族に見送られて、自分が乗艦する空母『松島』が係留されている第十七ドックへと向かった。
ドックの入り口の守衛に発行されたばかりの防衛軍の身分証明書を提示し、第十七ドックへと入る。
「これが・・・・空母、『松島』・・・・」
ギンガはドックに係留されている『松島』を見て、息を飲んだ。
今まで見慣れてきた管理局の次元航行艦よりも大型で艦影も独特のフォルムをしている。
「ん?その青髪・・・・そこにいるのは、もしやギンガではないか?」
後ろから声をかけられ、振り向く。
そこには、ギンガ同様、地球防衛軍女性宇宙戦士用の制服の上に士官用ジャケットを纏ったディアーチェの姿があった。
「あっ、お久しぶりです。ディアーチェさん」
「うむ。しかし・・その恰好・・・・お前、防衛軍に志願したのか?」
「は、はい。ガミラスと地球の戦争の時、自分にも何か出来ないかと思いまして・・・・」
「そうか・・・・それで、今日、此処へ来たと言う事は、お前もこの艦の配属か?」
「はい」
「部署は?」
「通信科です。ディアーチェさんは?」
「我か?我は、『三笠』の時同様、主計科だ」
「それじゃあ、乗艦したら、ディアーチェさんのご飯を食べることができますね」
「ああ、食糧事情も次第に改善されてきたからな、大いに期待するがいい!!」
「はい」
食事に関して期待しろと言いながら胸をはるディアーチェ。
そこへ、
「王様〜!!」
「ぬおっ!?」
ディアーチェの背後から抱き付く者がいた。
「王様っ久しぶり〜!!」
「ええぃ、うっとぉしい!!抱きつくでない!!青ひよこ!!」
ディアーチェは自らに抱き付いた人物を強引に引きはがす。
ギンガはディアーチェに青ひよこと呼ばれた人物を見て驚く。
髪の毛は金髪では無く自分よりも明るい蒼色で、その人物の容姿は、かつてミッドで起きた空港火災の折、自分を助けてくれた人物にあまりにも似ていたからだ。
そして、月村邸で見たアルバムの中に写っていた人物ともよく似ていた。
「フェイト・・・・さん?」
思わず、ギンガはその人物の名前を口にする。
「ん?誰?」
ディアーチェに抱き付いていた人物がそこで初めてギンガの存在に気が付く。
「同僚だ。挨拶せい、青ひよこ!!」
「うん」
抱き付いていた人物はディアーチェに促され、ディアーチェから離れると、姿勢を正す。
「はじめまして。ボクの名前は、フェリシア・テスタロッサ。『松島』の砲雷長をやるんだよ」
物凄くフレンドリーでギンガに自己紹介をするフェリシアと名乗る女性士官。
「は、はじめまして。中嶋 ギンガです。『松島』では通信長をやる事になっています」
ちょっと、フェリシアのテンションに押されながらも、自己紹介をするギンガだった。
「お二人は士官学校の先輩後輩の仲だったんですか?」
『松島』の通路をギンガ達は歩きながらディアーチェとフェリシアの関係を尋ねた。
「うむ、こやつは我が監督生として、色々扱いてやったのは今になっては懐かしい思い出よ」
「と言う事は、ディアーチェさん、元は砲術科だったんですか?」
主計科のディアーチェが砲術科のフェリシアの面倒を見ていたので、それを疑問に思ったギンガがディアーチェに尋ねる。
「そうだ。我は砲術科と主計科の両方を受講していてな・・まぁ、最終的には砲術科ではなく、主計科に進んだわけだが・・・・」
ディアーチェが砲術科ではなく、主計科に進んだ理由として、元々彼女は、料理をするのは好きな方であった。
ガミラスとの戦争で食糧事情が逼迫していく中で、「誰かの為に」というモチベーション。そして、代用品となっていく合成素材の食材でも料理人の腕次第では、本物の食材と変わらぬ味を出せるのだと証明したく、ディアーチェは砲術科のコースを途中で辞め、主計科一本に絞ったのだ。
「うん・・・・あの時は、マジきつかった・・・・土方教官と王様のバブルパンチだもん」
「そのおかげで、今もこうして生き残れたのではないか」
「まぁ、その点に関しては感謝しているけど・・・・」
昔(士官学校時代)の辛く苦い出来事を思い出したようで、テンションが下がるフェリシアだった。
そんな二人のやり取りを見て、
(お世話って言ってもディアーチェさん、自分の事を王様って呼ばせているのは、それってお世話って言うよりも調教じゃあ・・・・)
と、二人の士官学校時代を想像して少し寒気がしたギンガだった。
「そう言えば、フェリシアさんのテスタロッサって苗字・・・・」
ギンガはフェリシアがフェイトと同じファミリーネームから何か関係があるのかと思い尋ねると、
「あ、うん。ボクの家は創業百年以上続く老舗のホビーショップなんだよ。プラモや玩具だけでなく、すごくリアルな体感シュミュレーションゲームとかあるんだよ。今度、来てね〜♪」
と、実家の店の宣伝をギンガにした。
「え、あ、はい・・・・」
フェリシアの実家宣伝で彼女がこの世界のフェイトの実家、テスタロッサ家の子孫である事が判明した。
通路を歩いていくと、向かい側から、一人の士官が歩いて来た。
近づくにつれ、その士官が女性なのだと分かった。
彼女は自分達同様、地球防衛軍女性宇宙戦士用の制服の上に士官用ジャケットを着ていた。
唯一違う点をあげるとすれば、彼女は頭に水色の軍帽を被っていた。
ディアーチェとフェリシアが通路脇にそれ、その女性に対し、敬礼をし始めた為、ギンガも慌てて彼女たちに習い、通路の隅に立ち、敬礼する。
女性士官は返礼した後、通路を曲がっていった。
(今の人が艦長なのかな?)
と、ギンガはまだ見ぬこの艦の艦長が彼女なのかと思った。
そして、彼女を見て、ある事を思い出した。
「そう言えば、私、軍帽を被って来なかったんですけど・・・・ディアーチェさんやフェリシアさんも被ってないですよね?って言うか持ってきていませんよね?」
ギンガは良馬やさっきの女性士官が軍帽を被っていた事に対し、自分は軍帽を被っておらず、しかも送られてきた制服の中には軍帽が入っていなかったため、軍の不備ではないかと不安に思った。
そして、同じく軍帽を被っていない二人に尋ねた。
今は被っていなくても実はトランクの中に入っているなどというオチではないと切に願った。
「宇宙艦隊の中で、軍帽を被るのは艦長と副長だけだ。稀に司令部の高官も被るがな。そして、今すれ違ったのはこの艦の副長だな」
と、ディアーチェが補足説明をする。
「えっ?何で今の方が副長だと分かったんですか?」
「通常、艦長の軍帽は白で副長は水色なんだよ」
と、今度はフェリシアが防衛軍の軍帽の種類について説明する。
確かに今すれ違った士官は水色の軍帽を被っていた。
「へぇ〜そうなんですか」
「何だ?ギンガも軍帽を被るぐらいの地位を目指しているのか?」
「い、いえまだ新米の士官なので、そこまでの事は考えられません。今は、この艦の通信長という役職に全力で取り掛かるだけで、精一杯ですから」
やがて、三人は指定された『松島』の会議室へと入った。
会議室には先ほど会った軍帽を被った女性士官と数名の男性士官がいた。
暫くして、ギンガ達が入ってきたドアと別方向のドアが開くと、黒いジャケットタイプの軍服を着た人物と、白衣を着た女性が会議室に入ってきた。
「なっ!?」
ギンガはその人物の顔を見て、驚愕した。
「みんな、揃ったようだね?僕が『松島』艦長の月村 良馬だ」
そう、会議室に入って来たのはリニスとギンガの恋人である月村 良馬だった。
「では、着任許可を出す前にそれぞれの役職、官位、姓名を名乗ってください」
良馬が、会議室に集まった面々を見渡しながら言うと、
「申告します。空母『松島』副長の命を受けました新見 薫 少佐であります」
と、先程、ギンガ達が通路ですれ違った水色の軍帽を被った女性士官が名乗りをあげた。
もし、ギンガが緑茶や抹茶を飲む際に、角砂糖やらミルクやらをこれでもかと放り込み死ぬほど甘くして飲む味覚が変わっている本局の緑髪の統括官と面識があったら、新見の声を聞き、その事についても驚いていただろうが、ギンガは、残念ながらその間違った日本意識と味覚を持つ、緑髪の統括官とは面識が無く、新見の声についてはスルーされた。
新見に続き、他の士官達もそれぞれ役職、官位、姓名を名乗り始めた。
「同じく、機関長を命じられました井上 貫一郎 機関少佐であります」
「航海長を命じられました永倉 新一 大尉であります」
「主計科長を命じられたディアーチェ・
K(コンドウ)・クローディア 大尉です」「砲雷長を命じられたフェリシア・テスタロッサ 中尉です」
「『松島』航空隊隊長を命じられた坂井 健夫 大尉です」
「医務官、月村 リニス 中尉です」
皆が名乗りをあげ、後はギンガのみとなったが、ギンガは未だに自分の恋人が艦長であると言う事実が衝撃的で、まだ呆けている。
「ギンガ、おい」
ディアーチェがギンガの脇腹を肘で小突くと、ギンガは再起動を果たし、
「あっ、は、はい。通信長を命じられました中嶋 ギンガ 少尉です」
と、慌てて艦長に敬礼し、名乗りをあげた。
その後の幹部会議にて、『松島』の今後の訓練日程とその内容等が検討され、計画書を作成し、砲術長、通信長、機関長、航海長らは、『松島』のそれぞれ受け持つ部署にて、装備されている設備点検、試験操作等を行い、それらの結果をレポートに纏め、艦長へ提出し、この日は解散となった。
「それじゃあ、艦長、お先に上がります」
「ああ、気をつけて・・・・」
各部署の長達が下艦していく中、
「艦長、私も先に降ります」
「ああ、ご苦労様、リニス」
「良馬さん・・あの・・・・・」
「ん?」
「ギンガさん、少し不機嫌ですよ」
リニスが良馬に囁くようにギンガの状況を教える。
「あぁ〜やっぱり・・・・」
ギンガは艦長である良馬を待っていた。
その様子は何故自分が艦長であることを黙っていたのかと顔に書いてあった。
「艦を降りれば、貴方はギンガさんの恋人なのですから、彼氏としてちゃんとケアーしてあげてくださいね。彼女、良馬さんが降りるまで待っているみたいですよ」
「わ、分かったよ、リニス」
「夕食が必要か必要ないかは早目に連絡をしてくださいね。それでは、お先に」
そう言ってリニスは艦を降りて行った。
リニスを見送った後も良馬にはまだ仕事が残っていたので、ギンガにはすまないと思いつつも、急いで残務処理に取り掛かった。
良馬は一人、今日の会議の内容と砲術長、通信長、機関長、航海長らのレポートを纏め上げ、司令部への報告書を作成していた。
報告書の作成を終え、艦長室から出ると、
「ギンガ・・・・」
部屋の前にはギンガが待っていた。
リニスの言う通り、彼女は本当に自分の仕事が終わるまで待っていた。
「・・・・・」
「・・・・・」
『松島』の通路を歩く二人は終始無言で気まずい空気が流れる。
「あの・・・・ギンガ・・・・」
その沈黙を破ったのは良馬だった。
彼は恐る恐るギンガに話しかけた。
「・・・・・・」
しかし、ギンガは無言のまま。
「や、やっぱり怒っている?」
「・・・・・・」
自分の恋人がいきなり上官と言う事実とその事実を自分に話さなかった事をギンガは不満に思っていた。
「そ、その・・・・ゴメン・・・・」
「・・・・・・」
良馬が謝罪してもギンガはやはり無言のまま。
本来なら良馬が上官でギンガが部下なのに部下に謝っている上官の姿は何ともシュールであった。
「ギンガ、そんな怒らないでくれよ。そりゃ、黙っていたのは悪かったと思っているけど・・・・」
「別に、私は怒っていません」
ここでようやくギンガが口を開いた。
それはギンガ自身がびっくりするくらいそっけない言い方。
口では怒っていないと言うが相当お冠の様子。
ギンガは頬を膨らませて不機嫌さをアピールしている。
「はぁ〜」
しかし、そんなギンガの様子も可愛いと思いつつ、
「ギンガ」
良馬はギンガの手をギュッと掴む。
「な、なにを・・・・んッ」
ギンガが言葉を紡ごうとして、でも出来なかった。
その理由は、抱き寄せられたと思ったらすぐに唇を奪われ、塞がれたからだった。
突然の事に驚いて強張るギンガの身体、でもそれは一瞬。
チロリと唇を割って進入してきた舌が柔らかに絡み合い、彼女の心を蕩かしていく。
強張る身体は徐々に脱力し、ギンガは彼に身体を委ねた。
腰に回った手が少女を抱き寄せ、少女もまた身体をギュッと押し付ける。
自分達二人以外誰も居ないため、遠慮なんてすることは無い。
二人はしばしの時を口付けに酔い痴れた。
そして、始まりと同じく唐突に終わるキス。
「ぷはぁ・・・・・」
まだ口に繋がる唾液の橋を、とろんとした目つきで見つめるギンガ。
「これで、許してくれる?」
そんな少女に彼氏からの問い。
甘いキスでのお詫びだった。
心が蜂蜜とチョコレートをかけた砂糖菓子の様に、甘い幸福感を味わいながら、でもまだちょっと素直になりきれない口調でギンガは答える。
「しょうがないですね・・・・今回だけですよ」
そう言うと、今度はギンガが彼の顔を抱き寄せる。
そっと重なる唇、小さなキス。
たっぷりの愛情と共に込められたキス・・・・。
「これで許してあげます」
ギンガは微笑みながらそう言った。
それから数日後、『松島』は補給・整備、乗員も揃い、処女航海兼乗員の訓練航海へと出発した。
登場人物・艦船紹介
新見 薫
空母『松島』の副長として赴任した女性士官。
階級は少佐。
真田同様、科学者肌の軍人でカウンセラーの資格を有している。
士官学校では、真田が在籍していたゼミ・研究室の後輩。
容姿 宇宙戦艦ヤマト
2199の新見 薫と同じ。イメージ
CV 久川 綾
フェリシア・テスタロッサ
空母『松島』の砲雷長として赴任した女性士官。
士官学校ではディアーチェの後輩で彼女がフェリシアの監督生を務めた。
階級 大尉
容姿 雷刃の襲撃者を大人にした感じ。
イメージ
CV 山本 麻里安
坂井 健夫
空母『松島』の飛行長として赴任して来た士官。
加藤や山本同様、航空隊のエース。
階級は大尉
容姿・イメージ
CVは読者の方々の想像にお任せいたします。作者のイメージは機動戦士ガンダム
SEEDのムウ・ラ・フラガ。イメージCVは子安 武人です。
西郷 利通
芹沢 虎徹の後任として防衛軍参謀長に就任した司令長官の副官的位置にいる人物。
しかし、長官に比べると幾分か頭の固い所が有る。
司令部勤務の前は沖田の様に、宇宙戦艦の艦長職を務めていた。
容姿
PS版 PS2版 宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士 暗黒星団帝国の逆襲 二重銀河の崩壊に登場した参謀長イメージ
CV 辻村 真人
主力戦艦改級戦闘空母 『松島』
地球防衛軍が正式採用した主力艦をベースに建造された空母。
空母クラスの中でも乙型とされる型で同じく主力艦をベースにした甲型の空母よりも一回り大きい。
原作では登場しない艦であるが、
PS版宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士 に初登場し、以降のPS2版のヤマトシリーズにも同型艦が登場している。PS
版の『松島』(ゲーム内では『まつしま』)は必ず撃沈されてしまう不運な艦であるが、この世界では、当然撃沈されません(ネタバレ)。
あとがき
今回より白色彗星戦役が始まります。
十七話はそのプロローグにあたります。
PS
版、PS2版に登場した参謀長は名前の設定がなく参謀長と呼ばれていたので、名前は作者が勝手に決めたモノです。由来は、
PS版にて参謀長は戦艦「さつま」の艦長としてバルゼー艦隊と戦ったので、薩摩出身の有名人の苗字と名前をそれぞれとりました。砲雷長のフェリシアはフェイトの『フェ』、アリシアの『リシア』からとりました。
また、
innocentにてディアーチェはフェイトの事をバリアジャケットの色から黒ひよこ、アリシアの事を身長が小さい事からチビひよこと呼んでおり、フェリシアは設定上、青髪なので、青ひよこと呼ばれている設定です。では、次回にまたお会い致しましょう。