九話 ヤマト発進

 

 

特別訓練を受けた防衛軍軍人達がヤマト計画の説明を受けていたその頃、冥王星のガミラス軍基地では・・・・

 

「総統閣下のお許しが出た。超大型ミサイル発射準備始め!!」

「はっ!!」

冥王星ガミラス軍基地司令官、シュルツの命令の下、超大型ミサイルが発射体制に入った。

「超大型ミサイル、発射台に設置完了!!発射準備よし!!」

「発射秒読み始め!!」

「・・・・6・・・・5・・・・4・・・・3・・・・2・・・・1・・・・・0」

発射装置が作動すると、轟音と後部の推進口から眩い閃光をあげ、超大型ミサイルは冥王星ガミラス軍基地を飛び立っていった。

「焦らず、迅速かつ正確に最善を期す・・・・ガミラス軍人に失敗は許されない」

地球へ向けて、飛び立っていくミサイルを見ながらシュルツはそう、呟いた。

 

 

超大型ミサイルの着弾目標は、太陽系第三惑星・・地球・・・・坊ノ岬沖・・・・・・

戦艦 『ヤマト』・・・・・

 

 

ヤマト計画の説明を受けた者達は、その後、旅立ちの為の準備に取り掛かった。

荷物を纏める者

家族との別れを惜しむ者

友人や恋人と残り僅かな日数を過ごす者

など、様々であった。

その中で、

「どうしても行くのか?」

防衛軍司令部のビルで『ヤマト』艦長の沖田は自分の執務室で出発の為の荷造りをしていた。

その執務室には土方と何故か、土方に出頭命令を受けた良馬の姿があった。

そして、土方は荷造りをしている沖田に尋ねる。

「ああ」

「その身体でか?」

「・・・・冥王星海戦で負った傷なら大したこと無い」

「俺の目は節穴ではない!!貴様とは一体何年の付き合いだ!!」

「・・・・」

沖田と土方のやり取りから良馬は沖田が冥王星海戦で負った傷以外にも体に病を抱えているのだと察した。

しかし、その病がどんな病気なのか?

そしてその病状はどの程度なのかは、分からなかった。

この時、沖田の体は、宇宙放射線病と言う病気に侵されており、とても29万6千光年の長距離航海に耐えられる体なのか、正直判断に困る状況だった。

そして、沖田の体の事を知っているのは主治医である佐渡と旧知の間柄の藤堂と土方の三人だけだった。

当然、佐渡と藤堂は沖田を止めようとした。

『ヤマト』の艦長を決める際、藤堂は沖田か土方のどちらかに決めあぐねいていたが、沖田本人の強い希望で『ヤマト』の艦長は沖田となった。

しかし、土方は沖田をみすみす死なせたくない一心で、今こうして沖田の説得にあたっていた。

「俺に任せろ、引くのも勇気だ」

「土方、確かに29万6千光年の旅は儂の命を奪うことになるかもしれん。しかし、イスカンダルへの旅は命をかける価値は十分にあると思う。だからこそ、儂は行く!!イスカンダルへ行って必ず、地球へ帰ってくる!!」

「・・・・」

沖田と土方、二人の男が真剣な表情で互いの目を見る。

そして、

「そうか・・・・では、もう言うまい」

「ありがとう」

土方は沖田の命を賭けてまでこの航海に志願する固い決意の前に等々折れた。

「月村、お前は良かったのか?」

次に土方は良馬に話題を振った。

「お前にも『ヤマト』副長の話が来ていたのだろう?何故振った?」

そう、土方が言う様に実は良馬にも『ヤマト』副長の内定が出ていたのだが、良馬はその話を断っていた。

故に先日行われたヤマト計画の説明会にも参加していなかったのだ。

「自分は、親友との約束がありますので・・・・」

親友・・・・それは沖田の息子、沖田 一と高町 恭介の事を指していた。

そして、その親友の一人、高町 恭介から別れ際、「妹を頼む」と言われ頼まれたからには、良馬はその妹を放って地球を離れるわけにはいかなかった。

「まぁ、臆病風に吹かれたと思われても仕方がありませんが、自分は今、どうしても地球を離れるわけにはいきませんので・・・・」

戦場で良馬と恭介のやり取りを聞いていた沖田は、事情を考慮し、『ヤマト』副長を辞退する良馬の願いを聞き、真田に技師長と副長を兼務してもらったのだ。

「そうか・・・・」

土方もその辺の事情を考慮し、この後は何も言わなかった。

 

「沖田、必ず帰ってこい」

「うむ・・土方、地球の事を頼むぞ・・月村君もな」

「はい」

「アレの事もよろしく頼む。若いが故に少々血の気が多い奴でな・・・・地球の事は俺達に任せろ」

土方の言う「アレ」とは古代の事を指すのだと沖田にはすぐに分かった。

「ああ」

「それともう一つ、伝えることがある。月村、報告しろ」

「はっ、では、報告します。冥王星宙域に展開している偽装式の偵察衛星が、敵の動きを捉えました。大型の弾頭式ミサイルが一発、地球に向けて、発射されました」

「遊星爆弾ではないのか?」

「はい。・・超ロングレンジのピンポイント攻撃兵器です。地球到達時刻は明日の『ヤマト』発進時刻と同じです・・・・この予想時間から察するに、敵の攻撃目標は恐らく・・・・」

「出航は早められないのか?」

ここまでの良馬の報告を聞き、沖田も土方もガミラスの攻撃目標が何処なのかを瞬時に察した。

「急がせてはいるが、それでも省けない工程はある。エンジンの動かない戦艦など、瀕死の狸同然だ」

沖田はまるで苦虫を噛み潰したような顔でそう、呟いた。

 

言いたいことを言って、伝えることを伝えた土方と良馬は沖田の執務室を後にし、防衛軍司令部庁舎の通路を歩いていると、

「月村、『三笠』の状況はどうなっている?」

「整備、補修は間もなく終了します」

土方が『三笠』の状況を聞いて来たので、良馬は『三笠』の現状を土方に伝える。

「では、飛べるのだな?」

「は、はい・・・・」

この時良馬は、何か嫌な予感がした。

「・・月村、ちょっと付き合え」

「は、はい?」

不敵な笑みを浮かべる土方にたじろぐ良馬だった。

 

『ヤマト』出航日、『ヤマト』乗艦の任を受けた者達は一人の欠員を出すことなく、『ヤマト』に集合、次々に乗艦していった。

人員の乗艦、航海に必要な機材、物資の搬入、エネルギーの充填・・・・。

出航に向けての準備は着々と進んでいたが、それと同時にガミラスの超大型ミサイルも着々と『ヤマト』に迫りつつあった。

 

出航作業が進められていく中、古代は『ヤマト』の艦長室にいる沖田を訪ねた。

「何だ?」

「自分は何故二階級特進の上に戦術長を拝命したのですか?その資格が自分にあるとは思えません」

古代はあの説明会から抱いていた疑問を沖田にぶつけた。

「経歴、能力、資質。お前を始めとした責任者の全員、儂がそれを見て十分責務を果たせると判断した。・・・・だが、人材の多くを失った結果の選任であるのも事実だ。本来お前が座る席の男も儂が死なせてしまった」

「え?」

「本来、『ヤマト』の砲雷長、戦術長になる筈だったのはお前の兄だった・・・・」

沖田の言う通り、本来、『ヤマト』の砲術長は古代の兄である守で、古代は次席砲雷長、副長には良馬をあてる人事を沖田は構想していた。

しかし、その構想は冥王星海戦にて、守や大勢の宇宙戦士達が戦死した事により、変更を余儀なくされた。

「では、何故あのような無謀な作戦を実施したのですか?司令部や貴方が自分達に『死ね』と言っていると・・・・皆、そう思ったに違いありません」

沖田の脳裏に冥王星海戦にて、恭介が同じような事を言ったのを思い出した。

「戦場は常に命がけだ。敵の基地を殲滅せんとする気勢なしに作戦の成功はない。たとえそれが無謀だとしても、敵を討つ、地球を守る。その気持ちに濁りなどあるものか」

「・・・・兄の意志は弟である自分が引き継ぎます。でも、それだけでなく、貴方と言う人を見るために乗艦させてもらいます」

と、意気込んだ古代であったが、後に徳川機関長から、沖田が冥王星海戦において、一人息子を亡くしたことを知り、多少、沖田に対する態度を改めた。

 

艦内に電力が通り、索敵機能が作動した『ヤマト』のレーダーでもガミラスの超大型ミサイルを捕捉した。

しかし、肝心のエンジンがまだ始動しない。

乗員の中に焦りが生じ始めるが、沖田の一喝をあび、冷静さを取り戻すと、皆は、黙々と出航作業を続けた。

 

やがてミサイルが月軌道に差し掛かった時、ミサイル以外の存在を『ヤマト』のレーダーが捉えた。

「月軌道に艦影・・・・これは・・・巡洋艦『三笠』です!!」

雪の報告を聞き、沖田は月軌道の映像をモニターに出すように指示、第一艦橋の大型モニターには月軌道を航行する『三笠』の姿が映し出された。

 

月軌道上 宇宙巡洋艦 『三笠』 艦橋

 

「敵弾道弾の回転軸を狂わせ軌道を変える。全火器を一斉集!!」

『三笠』の艦橋で、土方が命令を下す。

「照準良し!!射撃準備良し!!」

「撃てぇ!!」

『三笠』の主砲とミサイルが一斉に発射され、ガミラスの超大型ミサイルに全弾命中した。

残念ながらミサイル自体を破壊する事は出来なかったが、ミサイルの軌道をずらす事には成功した。

しかし、ミサイルは暫く飛行を続けると、ミサイル本体に備えられていたスラスターにより軌道を自動修正した。

「ミサイル、軌道を修正しました!!」

「第二斉射急げ!!」

『三笠』が第二斉射の準備をしている中、

「高速プラズマの衝撃波来ます!!」

「総員対ショック体制!!何かに掴まれ!!」

衝撃波に備え、『三笠』は第二斉射を断念せざるを得なかった。

やがて『三笠』を物凄い衝撃が襲った。

「うわぁぁぁぁ!!」

「くっ・・・・」

『三笠』が衝撃を受けているその隙にミサイルは地球へ・・『ヤマト』へと落下していく。

「すまん、沖田・・・・」

既に『三笠』の速度や主砲で追撃しても、もう間に合わない。

土方は悔しそうに沖田への謝罪の言葉を呟いた。

 

宇宙戦艦 『ヤマト』 第一艦橋

 

第一艦橋のメインモニターには衝撃波から逃れる『三笠』の姿が映っていた。

「『三笠』、離脱していきます!!」

「土方・・・・月村・・・・」

「敵ミサイル、本艦への軌道変わらず!!ですが、着弾時間は約一分五十秒遅れました」

軌道修正の影響か、ミサイルの着弾時間は予定よりもほんの僅かだが遅れ、そのミサイルの動向を航海長補佐の太田が報告する。

「徳川君、エンジンの方はどうなっている?」

「充填率104%、いつでも火を入れることが出来ます」

「よし、波動エンジン始動」

「機関始動。フライホイール接続、室圧120で安定」

機関長の徳川がエンジンの始動キーを作動させると、『ヤマト』の波動エンジンがうなりを上げ始めた。

「波動エンジン回転数良好」

「船体起こせ、偽装解除」

やがて、鉄屑姿だった戦艦『大和』の表層部が剥がれ落ち始めると、その中から今までの地球型の宇宙戦艦とは違う形の艦が姿を現した。

「これが・・・・あの赤錆びた沈没戦艦・・・・?」

モニターに映った自分達が乗艦している新型戦艦の姿を見た古代は信じられない様子だった。

「そうだ、かつての超弩級戦艦の躯を解き、蘇った姿・・宇宙戦艦『ヤマト』だ」

「『ヤマト』?」

「古代、ミサイルを迎撃する。主砲発射準備」

「は、はい」

沖田に言われ、古代は急いで主砲の発射準備を始める。

「発進準備完了」

『ヤマト』の舵を握っている島が沖田に発進準備が出来たことを伝えると、

「抜錨!!『ヤマト』発進!!」

「抜錨、『ヤマト』、発進します」

『ヤマト』の船体が地面から浮き上がると、陸と『ヤマト』の船体を繋いでいたエネルギー伝導パイプや船体を固定していたワイヤーが外されていく。

そして、後部のメインノズルが勢いよく噴射し、『ヤマト』は動き出した。

「ミサイル着弾まであと、五十秒」

「ショックカノン動力良し、側的完了!!」

「自動追尾装置セット完了!!」

「照準誤差修正右一度、上下角三度!!」

「目標、『ヤマト』の軸線に到達」

「発射!!」

「発射」

沖田の発射命令に古代は主砲の発射ボタンを押すと、『ヤマト』に三基ある、三連装四十六センチ砲から青白い閃光が九本、ミサイルに向けて発射された。

『ヤマト』のショックカノンが命中したミサイルはたちまち大爆発を起こした。

ミサイルの爆発で物凄い熱量の爆炎と煙により、『ヤマト』の姿は見えなくなった。

 

地球防衛軍 司令部

 

「高エネルギーの放射を観測」

「『ヤマト』はどうなった?」

「あの熱量と爆発です・・・・恐らく溶けて蒸発してしまったのかもしれません・・・・」

「戦略の練り直しですな・・・・」

司令部では、『ヤマト』はミサイルの誘爆により溶けて蒸発してしまったのでは?と言う予測が立てられ、絶望感が司令部を包み込んだ。

「っ!?爆心地、近距離に飛行する物体アリ!!拡大します!!」

しかし、爆炎の中から無傷の『ヤマト』の姿が確認されると、司令部では喝采が湧いた。

「『ヤマト』です!!」

「おおぉー」

「頼むぞ・・・・沖田君・・・・」

藤堂はモニター越しに遠ざかっていく『ヤマト』に敬礼し、『ヤマト』を見送った。

 

『三笠』は『ヤマト』に並走し、旅立つ『ヤマト』に対し発光信号を送った。

「貴艦ノ健闘ト航海ノ無事ヲ祈ル。生キテ帰リヲ待ツ」

発光信号を送った『三笠』の乗員は皆、地球を離れ、イスカンダルへと旅立つ『ヤマト』に対し敬礼をして、『ヤマト』を見送った。

『ヤマト』は更に速度をあげ、イスカンダルへの長い航海の道へと旅立っていった。

 

 

『ヤマト』が地球圏を離れていくのを見送っていた『三笠』に一本の通信が入った。

 

宇宙巡洋艦 『三笠』 艦橋

 

「艦長、救難信号です」

「っ!?何処からだ?」

「月面からです」

「月面?其処には確か、空間騎兵隊の演習基地が有った筈じゃ」

井上が思い出したかのように言う。

「スピーカーに繋げるか?」

「はい。・・・・音声信号、接続します」

『此方月面、第七空間騎兵連隊。現在我が隊は、敵の攻撃を受け、月面に孤立せり、我が方の被害甚大。救援を乞う』

スピーカーからは確かに救難信号が音声にて、発信されている。

彼らは先日、『ヤマト』を偵察に来た強襲空母が搭載していた艦載機による攻撃を受けていたのだ。

「確かに救難信号だ・・・・航海長、針路変更。月面へ急行。よろしいですね?土方さん」

「うむ・・・・許可する」

「はっ。航海長そういう訳だ。全速で月面へ向かってくれ」

「了解」

永倉が針路を変え、月へと向かう。

「医務長」

「はい」

「たった今、月基地に居る空間騎兵隊から救難信号が入った。どうやら負傷者が多数いるようだ。至急、受け入れ態勢を取ってくれ」

「了解」

良馬は内線で医務室にいるリニスに負傷者の受け入れ態勢を取らせた。

 

やがて、『三笠』が救難信号の発信点へと着くと、月面に駐屯していた第七空間騎兵連隊の将兵達は『三笠』へと収容された。

しかし、収容されたのは殆どが遺体ばかりで、連隊長も戦死していた。

 

第七空間騎兵連隊の将兵達を収容した『三笠』は地球への帰路へとついた。

その最中、

 

宇宙巡洋艦 『三笠』 艦橋

 

「間もなく月軌道を離れる」

「針路そのまま。機関、両舷半速」

「機関、両舷半速」

「おい!!何だ?貴様!?許可なく艦橋に立ち入る事は・・・・」

「どけ!!話があんだよ!!」

艦橋への出入り口で何やら、騒ぎ声がした。

そして、艦橋へ空間騎兵隊の宇宙戦闘服を着た一人の大柄な男が手に沢山のタグを持って入って来た。

「アンタが艦長か?救援がもっと早ければ、連隊は壊滅しなかった!!こっちの救難信号は受けていたんだろう!?何故もっと早く来てくれなかった!!」

男は艦橋に居た土方を艦長と間違えている様子。

制服は同じジャケットタイプの軍服で軍帽も着用していたので、間違えるのも無理はない。

そして彼が手に持っていたタグは戦死した隊員のタグだった。

「艦長は僕だよ」

良馬は彼に自分が艦長だと教える。

「えっ!?じゃあ・・・・」

男は自分が艦長だと思っていた人物が実は艦長でない事に気づき、唖然とする。

「地球防衛軍、士官学校校長兼日本艦隊総司令、土方大将だ」

沖田が『ヤマト』の艦長になり、彼の役職であった日本艦総司令の座が一時的に開いてしまったため、その座を土方が引き継ぐ事が『ヤマト』出航の日に決まった。

彼は一応土方が階級では上官に当たり、尚且つ艦長と間違えた事にすまないと感じたのか、姿勢を正し、土方に敬礼した。

「ガミラスに勝利し、故郷に再び青い姿を取り戻す・・・・我々はその任に着く特務艦護衛の為、展開していた」

土方は特に気にした様子も無く、『三笠』が月軌道に居た経緯を彼に話す。

「じゃあ、俺達はついでだったと言う訳ですか!?」

「そうだ」

「・・・・さっきの艦か・・・・何なんですか!?アレは!?」

彼も地球圏を旅立って行く『ヤマト』の姿を見ていた様だ。

「こっちも命懸けで戦っているんだ!!聞く権利は有る筈だ!!」

「・・・・『ヤマト』だ」

「『ヤマト』?」

「そうだ、『ヤマト』だ・・・・宇宙戦艦『ヤマト』だ。俺の親友の艦・・そして、人類最後の希望だ!!」

土方は彼にそう教えた。

後に彼・・・・空間騎兵隊第七連隊副連隊長、斎藤 始は『ヤマト』に乗艦する事、また再び今回と似た様な経験をする事をこの時には知る由も無かった。

 

 

『ヤマト』がイスカンダルへの長い航海へと旅立って行ったその頃、ギンガの故郷、ミッドチルダでは、一つの騒動が起きていた。

本局の“海”と呼ばれる他の管理世界の治安維持、そして新たに管理世界になりうる世界の探査を目的とする本局、次元航行艦隊司令部では、今まさに蜂の巣をつついた様な騒ぎとなっていた。

 

時空管理局 本局 次元航行艦運行管理司令室

 

「第58探査部隊が突然連絡を絶ちました!!」

「どういう事だ!?」

「わかりません“目標地点に到達これより調査を開始する”の定時連絡を最後に連絡が途絶えました!!」

管理局が所有する次元航行艦隊の一つが連絡を絶ち、遭難したのだ。

 

 

第58探査部隊が遭難する少し前、大マゼラン星雲外縁部において、小規模の戦闘があった。

事の発端は、遭難した管理局第58探査部隊が探査する宙域に転移を完了し、これより探査任務を開始しようとした時、探査部隊の前方に宇宙を航行する艦隊を発見した時まで時間を戻す。

 

第58探査部隊の任務はその名の通り、新たに管理世界になりそうな世界及びロストギアの探索だった。

第58探査部隊の総数は旗艦のXV級の次元航行の他、護衛として同型のXV級の次元航行五隻、L級次元巡航艦十隻、探査船三隻の編成となっている。

 

大マゼラン星雲外縁部 第58探査部隊 旗艦 ブリッジ

 

「提督、目標地点に転移完了しました」

「後続の艦も全艦無事に転移を完了しました」

「うむ、本局への連絡は?」

「先ほど定時連絡をいれました」

大マゼラン星雲外縁部に転移した第58探査部隊は早速、探査任務を開始した。

 

探査任務を開始した第58探査部隊のレーダーが自分達以外に星の海を航行する船団を捉えた。

「提督、前方に艦影を捕捉しました」

「モニターに出せ」

「はっ」

パネル画面には爬虫類、または両生類を思わせる生物的フォルムで黄緑色に光る目のようなくぼみなど、その独特的な艦影に濃緑色の塗装を施された艦船の姿が映し出された。

一艦を除き、艦体には砲身はついていないが、明らかに武装と思しき物体が装備されている。

それは、紛れも無く管理局が、『この世から撲滅しなければならない』と唱えている質量兵器に他ならなかった。

「通信員」

「はい」

「直ちに前方の艦隊に停船命令を出せ」

「えっ!?」

提督の言葉に通信員は驚く。

停船信号ではなく、その上をいく停船命令をいきなり出すとは思ってもいなかった為である。

それ故に通信員は不安げに上官である提督へと問う。

「で、ですが、いきなり停船命令を出すと言うのは・・・・」

「この次元の海(宇宙)は全て我が時空管理局の領海だ。その領海で質量兵器を持ち歩くなどもってのほかだ。直ちに停船命令を出し、臨検しなければ、秩序が乱れる。早くしたまえ!!」

「は、はい・・・・」

通信員はビクつきながらも前方を航行している艦船に停船命令を送った。

この第58探査部隊を率いるヴィットーリオ・チェザーレ提督は管理局の中でも次元世界拡張派に属する局員だった。

次元世界拡張派は管理世界、管理外世界を問わず、すべての世界(有人惑星)は管理局に管理、運営されるべきだと言う主義主張を掲げ、もちろんその世界では質量兵器の存在などもっての外で、力は全て魔導士による魔力こそがこの世界に秩序と安定を齎すものだと主張している魔導士至上主義者の集まりと言ってもよかった。

 

一方、管理局の停船命令を受けたのは、グラーフ・シューバー准将率いるガミラス軍のパトロール隊だった。

 

ガミラス軍 シューバーパトロール隊 旗艦 艦橋

 

「司令、前方に艦船反応があります」

「ん?どこの船だ?友軍か?」

「該当データにはありません」

該当データに無いと言う事は前方の艦隊は友軍でないと言う事になる。

此処最近、小マゼラン星雲において、他の星系からの侵略が絶えず、グラーフ准将も前方の艦隊はその侵略者ではないかと思った。

「前方の不明艦より通信“タダチニ停船シ、当方ノ臨検ヲ受ケラレタシ”・・・・以上です」

大マゼラン宙域は本来ガミラスの領海であり、その領海内で友軍でもない不明艦からいきなり停船命令を出され、更には臨検を受けろ等と言われれば、怒るか呆れるかのどちらかであった。

しかし、グラーフ准将は冷静に対処した。

「返信しろ、“臨検ヲ拒否ス。マゼラン星雲一帯ハ我、ガミラス帝星の領海デアル。当方ハ我ガ帝星の領海ヲ侵犯シテイル。直チニ退去サレタシ”とな・・・・」

「了解」

グラーフ准将の決断に若手の将兵は甘い判断なのではないかと思う者いた。

 

一方、ガミラスからの通信を受けた管理局側は、

「質量兵器にしか頼る事の出来ない野蛮人が!!我々管理局に退去しろだと!?返信しろ!!我々が何者なのかを!!全く辺境の蛮族は我々、時空管理局の存在も知らぬのか!?これだから、辺境の野蛮人は・・・・。これ以上此方の要求を拒否するようならば、あの辺境の蛮族共を殲滅しろ!!」

ヴィットーリオはガミラスからの臨検の拒否と“退去しろ”という文面に激怒した。

彼にしてみれば魔法を使えず、質量兵器にしか身の安全を守る術しかない、野蛮人で自分達魔導士よりも劣る劣等な存在に命令されたのだから、我慢がならなくて当然だった。

ヴィットーリオはもう一度ガミラス艦隊に通信を送った。

再び管理局から通信を受けたガミラスは、

「時空管理局?知らんな、そんな組織」

初めて聞く組織の名から連中が、最近小マゼラン星雲に度々出没する侵略者ではない事が判明したが、領海侵犯は領海侵犯である。

ガミラス側としては直ちに退去してもらう必要がある。

「通信内容からまるで自分達が神にでもなっているかのような内容ですね」

幕僚の一人が管理局の電文を見て、呆れながら言う。

「前衛の一部を先遣させろ!!もし、相手が武力行為を行ってきた場合はこちらも相応の態度をとる!!」

グラーフ准将は『デストリア』級宇宙重巡洋艦三隻を先遣に向かわせ、通信では退去を通達し続けた。

ガミラスのこの行動に対し、ヴィットーリオは遂に武力により管理局の力を分からせてやろうと思い、先遣の『デストリア』級宇宙重巡洋艦に対し、アルカンシェルを撃ち込んだ。

突然の相手側の武力行為に不意を突かれたガミラスは対処に遅れ、先遣の『デストリア』級宇宙重巡洋艦がその餌食になった。

「不明艦から高エネルギー反応!!」

「先遣隊全滅!!」

先遣隊全滅の報は、一時グラーフ准将の座乗する艦の艦橋に戸惑いを与えた。

一方、ガミラスの先遣隊を血祭りにあげた管理局側は高揚していた。

「見ろ!!あの無様な姿を!!これが管理局の力だ!!次元世界の全てを統一し、管理する管理者の力だ!!」

ヴィットーリオが、高笑いをしながら言うと、ブリッジクルーもそれにつられて、やはり管理局こそが、この世で最強の力を持った組織なのだと確信めいていた。

しかし、その確信はすぐに吹き飛ぶ形となった。

 

「奴らの目的が侵略である事はこれで明白となった。我が隊はこれより防衛行動に入る!!全艦ミサイル撃て!!先遣隊の仇をとるぞ!!」

各艦より一斉にミサイルが発射され、その存在は管理局でもすぐに確認された。

突然現れた訳も分からない組織から領海侵犯され、更には高圧的に臨検を受けろと言われ、その上、仲間を殺されたガミラス軍の攻撃は凄まじかった。

「っ!?高速飛来物、我が艦隊に向け接近!!」

「迎撃しろ!!撃ち落とせ!!」

「ダメです!!数が多く、それにあまりにも速すぎます!!」

「飛来物、我が艦隊の前衛に命中します!!」

「シールド展開!!最大出力だ!!」

管理局艦は即座にシールドを展開するが、ミサイルの数が多くシールドは徐々に弱まっていきしていき、遂にシールドは消失した。

そして、ガミラス軍のミサイルは第58探査部隊の前衛部隊に着弾。星の海にオレンジ色の花を咲かせた。

 

「ミサイル着弾!!敵正面に突破口を形成!!」

「敵を分断する!!全艦、我に続け!!」

グラーフ准将が座乗する『メルトリア』級宇宙巡洋戦艦を先頭に次々とガミラス艦は持ち前の高性能の機動力を駆使し、管理局艦隊に接近する。

その機動力に管理局員は舌を巻いた。

先程の先遣隊は相手の出方を窺うため、微速だったのだが、管理局側はそれがガミラス艦艇の最高速度だと勝手に思い込んでいたのだ。

しかし、実際は管理局の次元航行艦以上の速度でガミラス艦は接近してくる。

「敵艦隊射程内に補足!!」

やがて、ガミラス艦が管理局の次元航行艦をその射程内に補足すると、

「バイスラックっ!(平らげろっ!)

グラーフが攻撃命令を下すと、一斉にガミラス艦は砲撃を開始する。

 

「敵艦急速接近!!」

「敵艦からエネルギー反応多数!!我が艦隊向かってきます!!」

「更に高速飛来物我が艦隊に接近!!」

急接近してきたガミラス軍からは雨の様にショックカノンやミサイルが管理局艦艇に襲い掛かった。

ガミラス軍のショックカノンを数発喰らった管理局の艦艇は次々と爆発、撃沈されていく。

味方が次々と沈められていく様子をヴィットーリオは唖然とした様子でその光景を見ていた。

その姿には先ほどまで息巻いていた様子は微塵もない。

それは、ブリッジクルーも同じで皆、目の前の光景を見せつけられてアタフタとしている。

ヴィットーリオには目の前の出来事が信じられなかった。

質量兵器を使う蛮族にこれ程までの艦艇が建造できるのか?

何故、相手の方が速度も火力も上なのだ?

我々管理局の次元航行艦隊こそが、この次元の海(宇宙)最強の艦隊の筈なのに、何故あのような蛮族どもの艦に味方がこうも簡単に沈められていくのだ?

何故だ?

何故・・・・

ヴィットーリオが現実逃避をしている間にも味方は次々と沈められ、そして・・・・

「敵艦、本艦直上!!」

「敵艦、本艦をロックしています!!」

「提督!!ご指示を!!提督!!」

「えっ!?」

ヴィットーリオがオペレーターの報告を聞き、思わず真上を見上げる。

しかし、見上げても当然敵艦の姿は映るわけもなく、彼の目に映っているのは、見慣れた次元航行艦を構成している建造素材だった。

「お、面舵・・・・いや、取り舵か・・・・」

目の前の光景が余りにも衝撃的だったのか、ヴィットーリオは真面な指示を出せない状況だった。

「敵旗艦らしき艦を主砲の射程内に捕捉!!」

グラーフ准将が座乗する『メルトリア』級宇宙巡洋戦艦がヴィットーリオの乗る次元航行艦を上部からロックし、

「撃て!!」

発射命令を下すと。三連装二基の砲塔から赤い閃光のショックカノンが放たれる。

『メルトリア』級宇宙巡洋戦艦から放たれた六本の赤い閃光のショックカノンはまるで吸い込まれるかの様にヴィットーリオの乗る次元航行艦へと命中し、艦は大爆発を起こし、宇宙の塵と化した。

ヴィットーリオ提督以下、全員が艦と運命を共にした。

旗艦を失った管理局の艦は烏合の衆となり、形振り構わず各自で逃亡を開始した。

しかし、逃亡の最中に味方同士で接触する艦、果敢にも反撃を試みて間違えて逃げ惑う味方を撃つ艦などが続出し、管理局の艦隊運動の練度の低さを露呈する結果となった。

その後もガミラス軍は敗走する管理局側に対し、容赦ない追撃を行い、結果、管理局第58探査部隊は一艦残らず全滅した。

これが第58探査部隊の遭難における事実だった。

彼らがここまで無様な結果となった理由は、管理局は発足以来、自分たちの他に次元の海(宇宙)を航行する船を有した世界(惑星)と接触した事が無かったためであった。

それ故、彼らは・・・・いや、管理局は自分達の次元航行艦こそが、この世で最強の船だと信じ込んでいる、慢心があった。

また十分な艦隊行動の演習と言うモノを行っておらず、全て旗艦からの命令で動くため、旗艦を沈められてしまえばこの後、どのような行動を取れば良いのか分からなかった。

今回のガミラスとの戦闘もまさにその慢心が招いた結果だった。

だが、この事実が管理局史上表の歴史に刻まれる事は無く、第58探査部隊は探査任務中に次元震ないしブラックホールへ吸い込まれたのではないかという結論に至り、管理局は真相を表に出す事はなかった。

しかし、この闇に葬られた出来事はこれから管理局が直面する新たな危機の序幕に過ぎなかった。

 

 

登場人物・登場兵器設定

 





森 雪

『ヤマト』の船務科、船務長。

情報・電測・船体消磁・通信・暗号・航空管制・電子機器整備等を統括する立場にある。

また佐渡医師を補佐する優秀な看護師でもある。

佐渡酒造に「大美女」と評されるほどの美貌の持ち主であるが、その性格は勝気で男勝り。ヤマト乗艦以前は防衛軍司令部病院で看護師を務めていた。

イメージCV 麻上 洋子

 





相原 義一

『ヤマト』の通信班長で第一艦橋に所属。

気の弱い部分もあるが、通信部門のスタッフとしては、その道のエキスパートである。

イメージCV 野村 信次

 





加藤 三郎

『ヤマト』の艦載戦闘機隊隊長。

直属の上官である戦闘班長の古代 進に並ぶ熱血漢。

艦載機の操縦以外に戦闘員としての能力も高い。

イメージCV 神谷 明

 





南部 康雄

『ヤマト』の戦闘班・砲術補佐。

古代の補佐役も務めており、砲術や射撃の腕前は、実は古代より上でオリンピックの射撃選手並みの腕を持つ。

黒の太いフレームの眼鏡を掛けた顔立ちに、耳が見えないほど襟足を伸ばした髪型など温厚そうな容貌。

実家は良馬の実家、月村グループに匹敵する大企業南部重工業公社であり、彼はそこの御曹司。

イメージCV 林 一夫

 





太田 健二郎

『ヤマト』の次席航海長で、島の補佐役。

しかし、航路計測や探査といった「操艦補佐」が専門であり、宇宙艦の操縦士ではないため、艦の操艦は行う事が無い。

やや太めの体躯や顔立ちに加え、頬に薄いそばかすを持つ、明るい熱血漢でもあり大食漢でもある。

南部・相原・加藤と共に、『ヤマト』の中堅を支える四人の中の一人。

イメージCV 安原 義人

 





山本 明夫

『ヤマト』の艦載機隊の副隊長。

隊長の加藤同様、エース級の腕前を持つ、凄腕のパイロット。

容姿は整っており、片目が隠れる長髪の髪型。

イメージCV 伊藤 健太郎

 





宇宙戦艦 『ヤマト』

地球人類史上初の超光速恒星間航行用超弩級宇宙戦艦。

正式名称は、M-21991式第一種宇宙戦闘艦。

旧日本海軍の『大和』型戦艦をベースにしたため、水上艦艇をそのまま宇宙に浮かべたような外観を有している。

艦体上部中央には同艦の塔型艦橋を改造した、上甲板からの高さが六十メートル以上に達する。

巨大な司令塔がそびえ、頂上部には艦長専用居室、その直下には操艦、索敵、戦闘、通信、構造維持、生命維持、調査分析、機関操作と言った艦の全機能を、艦長以下各班の責任者が集中管理するための第一艦橋、さらに下に航路策定並びに航海管制に機能特化した第二艦橋(航海艦橋)が収まる。

司令塔真下の位置に艦底から突き出ている第三艦橋は、メインブリッジである第一艦橋のバックアップのためのサブブリッジである。内部設備は、重力下環境で船体が転覆したような状況を想定した上下対称構造になっている。

主砲を始めとする各種兵装は、艦体上部に集中している。その代わり、兵装を備えない下部は重装甲となっている。

大気圏内航行時の安定保持のため、左右両舷に収納式の巨大なデルタ翼型主翼を装備している。これは、尾部の三つある舵と併用して用いられる。艦底の尾部には二枚のベントラル・フィンがある。また、着水、潜水機能も有している。

 

全長 333.00 m

艦体幅 43.60m

最大幅 61.77 m(安定翼展開時:87.72 m

艦体高 95m

最大高100m

 

主機関 ロ号艦本イ400式次元波動缶(通称:波動エンジン)×一基

副機関 艦本式コスモタービン改(74式推進機関)×八基・二軸

 

兵装 次元波動爆縮放射機(200サンチ口径、通称:波動砲)×一門

    主砲:四十六センチ三連装陽電子衝撃砲塔×三基(実体弾も射撃可能)

    副砲:十五センチ三連装陽電子衝撃砲塔×二基(実体弾も射撃可能)

    魚雷発射管×十二門(艦首及び艦尾両舷)

    短魚雷発射管×十六門(両舷側面)

    八連装ミサイル発射塔×一基(煙突ミサイル)

    ミサイル発射管×八門(艦底)

    12.7センチ四連装高角速射光線砲塔×八基

8.8センチ三連装高角速射光線砲塔×四基

12.7センチ連装高角速射光線砲塔×八基

7.5センチ連装高角速射光線砲塔×十基

7.5センチ三連装速射光線機関砲塔×四基

 

搭載機 零式52型空間艦上戦闘機 コスモゼロ×二機

      99式空間戦闘攻撃機 コスモファルコン×三十六機

100式空間偵察機、救命艇、上陸用舟艇 等

 

 

あとがき

ガミラス艦隊VS管理局艦隊の光景は宇宙戦艦ヤマト2199の十一話にて、ガトランティス艦隊をボコボコにするドメル艦隊の光景でガトランティス艦と管理局艦を置き換えているような光景をご想像下さい。

『ヤマト』はイスカンダルへ出発しましたが、良馬は『ヤマト』に乗艦せず、地球に残りました。

故に『ヤマト』『ヤマト2199』の内容はほぼダイジェストになります。

申し訳ありません。

では、次回にまたお会い致しましょう。

 

 




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