魔法少女リリカルなのは シャドウダンサー
邪気を討ち払う浄化の炎が、魔女の狂気を焼き尽くした。
そして、ついに降臨した幼き聖女。
災いを呼ぶ輝きは、今は高貴なる煌きとして聖女を包む。
聖女の名はアリシア・テスタロッサといった。
魔法少女リリカルなのは シャドウダンサー
第二十五話 本当の願い
世界は音を無くした様に静まり返る。
目前に起きている出来事が何なのか理解出来ず、皆、一様に固まっていた。
只二人、連音とアリシアだけは別だった。
確信はあった。
庭園に乗り込んだ時、漂う陰気の中にかすかに混じった聖氣。すぐにそれに気が付いた。
それは正しくアリシアの気配だった。しかし、余りにも弱々しいものだった。
その可能性を考慮した上で用意していたのが“朱雀”。
古の時――三代瑠璃丸が、都を襲った雷獣をその身より発する地を腐らせる邪気と共に薙ぎ払うべく生み出した、竜魔の奥義。
それによって邪気は祓われ、大地に命が蘇ったとされる。
聖女であるアリシアに、再び力を与える為に。
プレシアとを隔てる壁――亡骸を消し去り、その陰の氣を消し去る為に。
連音の朱雀は放たれたのだ。
アリシアはその足で歩き出す。
「俺が出来るのは…ここまで………ッ!」
全てをやり遂げたように、連音は膝を着いた。苦痛を感じながらも、微かにその口元は緩む。
それを振り返る事もなく、アリシアは答える。
「うん……後は、私が………!」
一度、瞼を閉じ――そして開く。
「久しぶり、で良いのかな……お母さん?」
アリシアは歩みを進めながら、母に問い掛ける。
一歩進む度に、プレシアが後退さる。
「アリシア…!?違う!だってあの子は…っ!!」
「――もう死んでしまった、から?」
「――ッ!!」
「本当は分かってるんでしょ……?」
「な――ッ!?」
「私を生き返らせる事なんて、出来ないって……」
アリシアの言葉にプレシアは沈黙した。
頭で、目の前のアリシアがアリシアではないと叫び続けているが、心はそうではない。
喋り方、眼差し、そしてその身に感じる雰囲気。
心がそれを受け入れていく。
アリシアは悲しそうな瞳を母に向けていた。
「私はね………ずっと傍に居たんだよ?あの日…私が死んだ、あの事故の時から……」
「――ずっと、傍に……!?」
その言葉にプレシアの瞳が見開かれた。
手が、体が震え出す。
あの日――絶望の始まったあの日からずっと、アリシアは傍にいた。
冷たいポッドの保存溶液の中に。
でも、目の前にいるアリシアは言った。
ずっと傍に居た、と。
「私が死んで、お母さんがずっと悲しんで………そして、私の体からフェイトを作った時も」
「あ、あぁっ……!!」
知られている。最も知られてはならない事実を。
目を見開き。恐れに震える。
「何度も、何度も、私はお母さんに呼び掛けていた。でも、お母さんはずっと私の亡骸に泣きついて、私の声を聞いてくれなかった……!」
「―――ッ!!」
「ずっと、ずっと傍にいたのに……!!誰も、私の声を聞いてくれなかった……!!」
アリシアの声は段々と感情のままに、悲しみと、寂しさの混じったものに変わっていった。
「アリ…シア……?」
「私だけじゃない!フェイトの事も…!!ずっとあんな……酷い事を……!!」
「……ッ!?」
「ずっと見てた…!お母さんの為にって、ずっと頑張ってたのに……あんなに…必死になって……なのに…!」
アリシアの瞳から涙が零れる。顔を覆い隠し、咽び泣いた。
プレシアの震える手が、フラフラとアリシアに伸ばされる。
「私は……あなたの……未来を………アリシア………!」
「いらないッ!!」
「え…ッ!?」
「誰もそんな事、望んでなんかいない!!世界を…いっぱいの人を犠牲にした上の未来なんて……私は欲しくないッ!!」
アリシアは髪を振り乱し、叫んだ。
世界を壊し、多くの人の未来を奪い、その先に得た未来。
そんなものをアリシアは望んでなどいない。
プレシアが、ガクリと膝を着いた。
長年追い求めてきたアリシアの未来。それだけが彼女の全てだった。
だが、それはアリシアによって否定された。
「ぁあ――――」
全身から力が抜け、プレシアはその場にへたり込んだ。
崩れていく。魔女の心を支えていた狂気が。
崩れていく。願いの果ての幸福が。
アリシアは優しい子だった。
人見知りしない、職場では皆に可愛がられていた。
その笑顔は皆を幸福にした。
その笑顔だけで、プレシアは幸福だった。
(あぁ……そうだった………アリシアは……そんな事を望む子ではなかった……)
どうして今まで忘れていたのだろう。
アリシアはあんなにも温かく、眩しい笑顔をしていたというのに。
アリシアを取り戻せば、きっとその日々が帰って来ると信じていた。
でも、それは違った。
アリシアは泣いている。
誰が泣かせた?
それは他ならぬ、プレシア自身。
いつ、どこで間違えたのだろう。
思い返しても答えは出ない。
全てが、闇に堕ちた気がした。
「―――なさい」
「……?」
すぐ傍で声が聞こえた。
見上げれば傍でポロポロと涙を零す、娘の顔があった。
「私のせいで……お母さんに酷い事をいっぱいさせちゃって………ごめんなさい……」
「――――っ!!」
闇に光が差し込む。
どうして、アリシアが謝っているのだろうか。
何も謝る事なんてしていないのに。
(あぁ……そうか…、私は……なんてバカな………)
泣き続ける我が子の姿に、ようやく気が付く。
自分が悲しんでいた時、アリシアはそれ以上に悲しんでいたのだ。
傍にいたのに、気付いてあげられなかった。
それどころか、この子の前でどれだけの事をしてきたのか。
自分の為に壊れていく母の姿。その母の為に健気に頑張るフェイトの姿。
そして、それを見ている事しか出来ないアリシア。
それに一番傷付けられているのは誰か。言うまでもなかった。
プレシアの手がそっとアリシアの頬に触れる。
指先から感じるぬくもり。
あの日に失ってしまった、この温かさに触れて、プレシアの狂気が融解していく。
ずっと、取り戻す事ばかりを考えていた。
その先の事など考えた事もなかった。
それを自覚した時、連音の言葉が不意に響いた。
『お前の願いは、アリシアを生き返らせる事なんかじゃない』
(あぁ…私が……本当に望んでいた事は………)
人の心は常に闇の中に在る。
生きる中で、そこに一個ずつ光を灯していく。
小さな光、大きな光。様々な光の中で最も眩い輝きを放つもの、それこそが掛け替えのない存在。
それが消えた時、人は尚も深い闇に堕ちる。
そこで必死に光を求め、いつしか光を掴むのだ。
例え、それがまやかしの光であったとしても……人はそれを掴まずにはいられない。
アリシアを生き返らせる。
そんなまやかしの光にすがった時、全ては狂い始めていたのだ。
魔女の頬を涙が伝う。
それは彼女の無くしたもの。
人としての、母としての想い。
それが還った瞬間だった。
「ごめんなさい―――アリシア」
「お母さん……?」
「私はあなたを、あの時……守ってあげられなかった………」
ずっと後悔していた。悔やんで悔やんで、自分を呪い続けた。
どうしてアリシアが死ななければならなかったのか。
自分ではなく、何の罪も無い我が子が、自分のせいで。
「全て投げ出してしまえば良かった。あなたがいれば他には何もいらなかった。あんな物に拘る必要もなかった……!
あなたの事を思うなら、全て捨ててしまえば良かったのに……!!」
何故、何もかもを投げ出してしまわなかったのか。
自分独りでは、もうどうしようもないと分かっていたのに。
それはあの時からずっと心の中に渦巻いていた言葉。
立場も責任も捨ててしまえば、失う事なんてなかったのに、と。
しかし、アリシアは小さく首を振った。
「でも…そうしていたらもっと大勢の人が犠牲になってた……。お母さんがいたから、あれだけで済んだんだよ……?」
アリシアは母をそっと抱きしめた。
「だから、もう自分を責めないで……。お母さんの娘で私は自慢だったんだよ……?」
「――アリシア……ッ!」
プレシアはアリシアにすがる様に抱きついて、泣いた。
悲しみの果てに枯れ果てたと思っていたのに、それが湧き上がる。
娘の体に顔を押し付けて、周りを憚らず、子供のように泣きじゃくった。
それをフェイトは黙って見つめていた。
自分では届かなかった言葉。それをあんなに簡単に届かせてしまった。
死んだ筈の彼女が何故ここに現れたのか。
そもそも彼女が本当のアリシアなのか、フェイトには分からない。
でも一つだけ分かる。
フェイト・テスタロッサの言葉では、想いでは何も出来なかったのだと。
「……?」
気が付けばアリシアの手が、フェイトに向けて差し出されていた。
「ごめんね、フェイト……。私のせいでずっと…辛い思いさせちゃって」
涙を浮かべたまま、笑いかけるアリシア。
「でも、ずっと見てたよ…。いっぱい頑張ったね……?えらいよ、フェイト……」「―――っ!?」
その言葉を聞いた途端、フェイトの心が震えた。
でも、足が動かない。
自分の中に揺らめく感情に戸惑う。
「行ってやれ……。ずっと、待ってたんだ…何十年も、この時が来るのを……」
「っ……」
連音の言葉がフェイトの背中を押す。
恐る恐る、フェイトはアリシアに近付いていく。そして、その手に触れた。
自分よりも小さな、そしてとても温かい手。
こうして触れているだけで、アリシアの優しさが、心が伝わってきた。
「ありがとうフェイト……。ずっと、お母さんの傍にいてくれて……あなたは自慢の妹だよ…?」
「――ッ!アリシア……!」
アリシアはそっと妹を引き寄せ、抱きしめた。
その身を包む温もりに、フェイトもまた涙を流した。
自分は本当に一人ではなかった。
ずっとずっと、こんなに温かな人が見守ってくれていたのだ。
それを知らず、事実を知った瞬間は、その名を嫌いさえした。
なのに、彼女はこんなにも温かい。
母と妹を優しく、愛おしく、包み込むように抱きしめるアリシアの姿は、淡い光と相まって、絵画に描かれた聖母の様であった。
その姿に、誰もが心を打たれ、涙を知らぬ間に流していた。
「アリシアに許される事…それが、彼女の願いなのか…?」
涙を拭い、クロノが連音に問いかける。
だが、連音は首を振った。
「そんなんじゃない……もっと簡単な事だ」
連音はその光景を見ながら、寂しそうな顔をした。
「プレシアはただ……謝りたかっただけさ。許されるとかじゃなく、ただ……それだけだ……」
それを聞き、クロノが何事かを言おうとしたが、すぐに口を噤んだ。
きっと、それに何かを言う資格は自分にはない。
そう感じたのだ。
連音は言った。自分は母を殺した、と。
自身の罪を自身が許す事など、決してできはしない。
それの意味を知る者でなければ、沈黙以外は許されないのだ。
「―――時間切れ、か」
ポツリと連音が零した。
「――っ!?アリシアッ!?」
フェイトの焦りを含んだ言葉に、ハッとしてプレシアが顔を上げる。
「アリシア……体がッ!!」
皆が見守る中、アリシアの体が徐々に薄まっていく。
「うん、分かってる……私の願いは叶ったから……もう、時間切れ」
「そんな!!」
「嫌よ!行かないで、アリシアッ!!」
プレシアは必死に娘を掴もうとするが、それは虚しく空を切るのみだった。
しかし、それでも必死の形相でアリシアを繋ぎ止めようとする。
「もう……ダメだよ、我侭は」
困ったように笑うアリシア。すでに向こう側が見えるまでに消えていた。
その体が、ふわりと宙に浮き上がる。
「アリシアッ!!」
「アリシアッ!!」
『フェイト……これからは自分の為に生きて…。あなたの心のままに、自由に』
「そんな……!せっかく逢えたのに!!こんなのって……!」
グシャグシャな顔のまま、姉を見つめるフェイト。
『お母さん……私はお母さんの娘で幸せだったよ……だから、ありがとう……私、妹がずっと欲しかったんだ……』
「アリシア……!私は……!!」
プレシアが何かを叫ぼうとした時、目の前のそれに止められた。
細く、すらりと伸びた手足。
先端に軽いウェーブの入ったブロンドの髪はふわりとなびく。
明るさに満ちた顔立ちは、見る者全てを魅了する美しさに変わり、
その体も、幼い少女のものから成熟した女性のそれへと変貌していた。
「――――ッ!!」
プレシアは息を呑んだ。
消え去った筈の未来。
少女から一人の女性へと成長した、アリシア・テスタロッサがそこにはいた。
その姿は女神と形容する以外無い程に神秘的で、誰もが心を奪われた。
凛とした声が世界に響く。
―母さん…フェイト……ありがとう―
そして、女神は消えてゆく。
―私は、凄く幸せだったよ―
そして、光は解けて消えた。
力を無くしたジュエルシードは床に落ちる。
プレシアとフェイトは、アリシアが消えていった中空に視線を上げたままだった。
「フェイトちゃん……」
不意になのはの声がした。振り返れば、そこになのはとユーノの姿があった。
駆動炉の封印を終え、ようやく到着したらしい。
しかし、フェイトもプレシアも動かないままだった。
なのはがそっと、フェイトの傍に行こうとした時―――世界に音が戻った。
突如走る激震。
同時に響く重低音。
パラパラと振るのは天井の欠片。
「――何っ!?」
その衝撃にフェイトが正気に返る。
モニター越しにエイミィの叫びが届く。
『まずいよ、庭園の崩壊が始まってる!!
元々古かった建物が、戦闘で更に傷んで、駆動炉の封印をした事で虚数空間に引っ張られ始めてる!!』
「くそ!全員脱出だ!!急げっ!!」
クロノの指示が飛び、なのはもそれに従う。
フェイトもプレシアの腕を掴んで引っ張る。
「逃げよう、母さん!!」
「………」
プレシアの視線がフェイトに下がる。
フェイトがプレシアの腕を更に引っ張った時、一際強い揺れが襲った。
浮遊感と共に、プレシアの足元が崩れ落ちる。
「――っ!」
「母さんッ!!」
フェイトは必死に抵抗するが、大人の体を支えるには彼女は非力過ぎた。
引き摺られ、そのままフェイトの体も宙に舞った。
「フェイトッ!!」
アルフが駆け出すが、離れすぎていて間に合わない。
何かを掴もうと、必死に手を伸ばすフェイト。
「あ――!?」
ヒュン、と空気を切り裂く音が鳴り、フェイトの腕に何かが絡まる。
それは苦無に結ばれたワイヤーだった。
その先にいるのは――連音。
投げられても手で押さえ切れないので、ワイヤーを腕に巻きつけ、その先を歯でガッシリと咥えている。
「今だ…!グゥ…ッ!!」
ワイヤーが連音の腕をギリギリと締め上げ、激痛に呻く。
その間にアルフが走り、フェイトの手を掴んだ。
クロノも駆け寄り、アルフと共に一気に引き上げた。
「二人とも、大丈夫か!?」
「うん、大丈夫…!」
「よし脱出だ、急げ!!」
クロノが先行して動く。
フェイトとアルフがプレシアを挟む様にして支え、その後を追って飛翔した。
なのはとユーノも連音を支え、その後を追った。
最下層から上がり、螺旋階段のフロアに向かう途中、連音が二人の腕を払った。
「っ!連君!?」
「先に行ってくれ。俺にはまだ…やる事が残ってる……」
「何を言ってるんだ!もう時間が無いんだぞ!?」
クロノが叫ぶが、連音は背を向けて既に走り出していた。
「大丈夫だ…!すぐに追いつく……!!」
「待っ……チッ…!仕方ない、君達はこのまま行ってくれ!僕はあいつを追う…!」「でも、クロノ君!?」
「心配要らない。今の彼を捕まえるのは簡単だからね……」
不安そうな顔のなのはに、クロノは笑いかける。
そしてそのまま、連音を追いかけていった。
「行こう、なのは……」
「ユーノ君…?」
「仮にも執務官なんだ。こういう状況は僕らより慣れてる……今は自分の事を……!」
「――うん」
ユーノの言葉になのはは渋々頷き、脱出を再開した。
崩壊する庭園内部を走り、連音はすぐにその部屋に辿り着いた。
既に崩れたドアを潜り、中に入る。
壁は床には亀裂が走り続け、棚は倒れ、ファイルは床に散乱していた。
デスクも、崩れ始めた床に飲み込まれようとしていた。
「ハァ…ハァ……あった…、これだ」
連音はその上に置かれていた物を懐にしまい、元来た道を戻ろうとした。
「ッ…!?」
激しい脱力感と苦痛に、たまらず膝を着いてしまう。
同時に激しい揺れが襲い、天井が崩落し、大きな破片が連音目掛けて降り注いだ。
意識は即座に反応し回避しようとするが、体は反応しない。
膝が震え、立ち上がる事も出来ない。腕も上がらない。
「クソ…!!」
苦々しく吐き出す。
しかし無常にも眼前に瓦礫が迫ってきていた。
「スティンガー・レイ!!」
直撃する瞬間、光弾が走り、瓦礫を粉々に撃ち砕いた。
「っ!クロノ…?」
「全く、こんな事だろうと思った…。用は済んだのか!?」
「あ、あぁ…」
「よし、脱出だ…!」
クロノは連音を抱き抱え、飛翔した。
崩壊する庭園。
降り注ぐ破片を躱しながら、二人も脱出地点に到着した。
そこには二人を待つ全員の姿があった。
「どうして先に行かなかった!?」
「だって、やっぱり心配だったし……!」
クロノの問いになのはが言った。
同時に庭園の入り口が爆炎と共に崩壊する。
「っ……とにかく急ごう!時間はもう無い…エイミィ!」
『オッケー!転送座標固定!行くよーッ!!』
エイミィの声から少し遅れて、転送魔法陣が開かれる。
その光の中に全員の姿が消えていった。
魔法陣が消えると、庭園の入り口がついに崩壊した。
艦橋のモニターには、庭園のあった場所が映し出されていた。
しかし、そこに今は庭園の姿は無い。
「時の庭園崩壊終了……全て、虚数空間に吸収されました。次元震もほぼ治まりつつあります」
「――了解」
「第三戦速で離脱。巡航航路に戻ります」
庭園は崩壊。次元震も中規模程度で済み、断層発生の危険性も既に無くなった。
リンディはようやく一息を吐いた。
重軽傷者は多いものの、人死には0。
被害としては小さくは無いが、これだけの事件でこの成果は奇跡的とも言えた。
一連の首謀者であるプレシアも、こちらの指示に従い、魔力封印措置を受けた。
我が子を亡くした母親の想いから始まった事件。
その暴走を止めたのは彼女の娘と、彼女と同じ罪を背負った少年。
オカルト染みた展開と、前例の無い魔法の使用の記録。
これをどう報告したものか、リンディは頭を悩ませていた。
それに何より、この事件の一番の功労者である少年。彼の事が一番の気掛かりであった。
クロノとなのははそれぞれ、エイミィとユーノによって、簡単ながら治療を受けていた。
なのはは魔導兵士との戦いで、クロノは連音を抱えて脱出する際に怪我を負っていた。
ふと、なのはがクロノに尋ねる。
「あれ…、フェイトちゃんは…?」
「彼の所だろう……一応、重要参考人なんだが…逃走の可能性は無いと思うし……彼との約束もあるからね」
「そっか……連君、あの後………」
なのははその事を思い出し、辛い顔をした。
庭園から脱出してすぐ、連音はその場で意識を失い倒れた。
即座に医務室に運ばれ、治療を受けたが状態は芳しくなく、今も意識を失ったまま救命装置に繋がれている。
「正直、あれだけの事をやって動けるどころか、生きている事さえ奇跡に近い。
制御し切れなかった魔力で大火傷を負って……特に両腕は、即切断しないといけなかったほどだ」
「っ!切断…!?痛っ…!」
「なのは、動かないで……!」
切断という言葉になのはが驚き、立ち上がろうとする。が、すぐに足に痛みが走り尻餅をついてしまう。
「大丈夫、彼の腕は付いたままだ。どういう訳か、皮膚や筋組織、神経系まで再生が始まっているんだ」
「……?それって……」
「多分、あれだけの無茶をやったのも、このバカげた超回復能力……とでも言えばいいか?
とにかく、その力があるからだったんだろうけど…………エイミィ、やり直し」
クロノは連音の状態をなのはに語りながら、嘆息した。
いくらあれだけの無茶をしても回復できるとは言っても、死んでしまったら元も子もない。
エイミィはクロノの頭に、傑作のリボン結びを完成できて御満悦だったのだが、クロノの言葉に渋々やり直していた。
プレシアは護送室の中にいた。
腕には手錠がしっかりと掛けられ、時折、鎖が音を鳴らす。
思い返す。フェイトとアリシアの、声と容姿を。
アリシアとは全然、似てなどいない。
当然だ。彼女はフェイトなのだから。
でも、それを思っても心にいつも浮かぶ感情は無かった。
あれだけ憎かった筈の『母』という言葉。それを聞いても、心が不快に染まらない。アリシアと違う存在を、自然と受け入れていた。
それはつまり、自分の願いが叶えられたのだという証明であった。
「今更……私に母親をやれというの……?」
思わず苦笑してしまう。
馬鹿げている。捨てたのは自分だというのに。
なのに願いが叶って、その途端に掌を返すというのか。
フェイトの性格ならば、それでも受け入れるだろう。
しかし、自分はそんな事を認める事は出来ない。
そんな資格など、自分には無いのだから。
「――ッ、ゴホッ!!」
突然の咳。込み上げたものが押さえた手に吐き出される。
「――どうやら、魔法が切れたみたいね………」
自分の体から、力が失われていくのが分かる。
そして、命の灯火もまた。
まだ半年ばかりは残っていた寿命も、きっと早まっただろう。
「――そうね……あと僅かなら………するべき事はするべきね…」
死の淵に再び立ちながら、プレシアの瞳は優しさに満ちたものになっていた。
医務室のベッドで連音は眠り続けていた。
全身を包帯で巻かれ、心拍計が無ければ生きているとは思えない程に精気の無い姿。
酸素マスクが僅かに白く染まる。
そのベッドの脇に、リンディは立っていた。
そっと、その髪を撫でる。
命を粗末にする訳ではない。
でも、大事にしている訳でもない。
何かを果たす為に必要なら、迷い無く自身すらも犠牲にするだろう。
どんな世界に育ったなら、そんな考え方を幼い子供ができるというのか。
枕元には連音の取ってきた物が置かれていた。
それを見て、リンディの表情が曇る。
「母親……か」
連音にとってそれがどれだけ重い言葉なのか、これを連音がどんな気持ちで持ってきたのか、痛いほど分かってしまった。
リンディはそれを持って、医務室を後にしようとした所で足を止めた。
医務室のドアが開き、フェイトが入ってきたからだ。
「あの……彼は?」
「まだ意識は戻ってないけど……大丈夫、命に別状は無いわ」
「そうですか……」
そう聞いて、少しだけ安堵の息を吐く。
が、すぐに連音の姿を見て、顔色が変わった。
ボロボロの連音の手をそっと握る。
包帯の手触りしか感じられない。温かさも、冷たさも感じられない。
フェイトを残してリンディはそっと、その場を後にした。
室内には酸素マスクと心拍計の音だけが響く。
眠り続ける少年の事を、フェイトはじっと考えていた。
(確か……“タツガミ ツラネ”だったかな……?)
プレシアとの戦いで、そう名乗っていた事を思い出す。
自分はちゃんと、名前を聞いてもいない。
(約束って…アリシアとしたのかな……?)
海上で言った、約束した相手。
連音にとって、とても大切な人との約束。
(彼は色んな事を知っている……でも、わたしは彼の何も知らない……)
真実の意味も、それに立ち向かう最初の勇気も与えてくれた人。
きっと、凄く辛い思いを背負っていて、だから強くて、優しい人。
これから先も、こうやって戦っていくのだろう。
「ありがとう……今は、ゆっくり休んでください……」
そして起きた時には、色んな事を話して欲しい。
自分の事を。アリシアの事を。いっぱい。
フェイトは静かに医務室を後にした。
それから数日の間、なのは達は次元震の影響もあり、アースラで日々を過ごしていた。
その内のある日。
ブリーフィングルームにて、なのはとユーノには感謝状の授与が行われた。
「――今回の事件解決について、大きな貢献があったものとして、ここに略式ではありますが、その功績を称え、表彰いたします。
高町なのはさん。ユーノ・スクライア君。……ありがとう」
リンディが賞状を読み上げ、なのはに差し出す。
なのははうろ覚えながら、手順を踏んでそれを受け取った。
その顔は緊張でガチガチになっていた。
拍手の中、ようやく終わった事でなのはが盛大に溜め息を吐いた。
緊張感から解放され、なのはがある事に気が付く。
「あれ…?リンディさん、私とユーノ君って……連君には?」
「それなんだけどね……本人に「今回の件に自分が関わった事実は、無しにして欲しい」って言われちゃってね。
だから、感謝状も貰う理由は無いって……辞退されちゃったのよ……」
「そんな…!あんなに頑張ったのに……」
「まぁ、彼にも彼なりの事情があるみたいだしね……流石に記録の改ざんは出来ないから、非公開協力者って辺りになるんだけど……」
この授与式の直前、連音はようやく意識を取り戻した。
刻印と朱雀の影響は深刻で、動く事はできるものの、腕は重度の火傷を負ったまま。
医師の診断でも、かなり酷い後遺症が残るだろうとの見解だった。
しかし、それを聞いても本人は「ま、何とかなるだろう」と気楽なものだった。
それは夜の一族の血と、里に帰れば霊的治療を受けられる事もあるからこそなのだが、
それを知らない面々の表情は険しかった。
食道に場所を移し、リンディとなのは、ユーノは食事を取っていた。
「次元震の余波はもう治まってるから、ここからなのはさんの世界になら、すぐにでも帰れるわ」
「本当ですか!?良かったぁ…」
「ただ、ミッドチルダ方面の航路は、空間がまだ少し不安定なの……もうしばらくは無理そうなの…。
安全な航行ができるまで、数ヶ月ぐらい掛かるかも知れないわね……」
リンディの言葉にユーノは少し俯いた。
「まぁ、うちの部族は遺跡を探して流浪してる人ばっかりですから……。
急ぐ必要はないんですけど……その間、ここにずっと御世話になる訳には……」
「じゃあ、うちに居れば良いよ。今まで通りに」
「っ!?なのは……良いの?」
「…うん、ユーノ君さえよければ!」
ユーノとしても、有り難い提案であった。
今までずっとそうしてきたので、それは嬉しいのだが。
全てが終わった今、果たしてそれで良いのだろうか。
少し考え、そして答えを出した。
「えっと……じゃあお世話になります」
「――うん!」
もう少しの間だけ、今までの日々の延長を。
そんな初々しい二人を、リンディは微笑ましく見守っていた。
食事を続けながら、ふと、なのはは疑問に思っていた事をリンディに尋ねた。
「そういえば、アルハザードって何ですか?」
「…?そっか、なのはさんは知らないのよね……。ユーノ君は…知ってるわね?」「はい。旧暦以前、前世紀に存在していた空間で、今はもう失われてしまった秘術が眠る土地だって……。
時間を遡る魔法や、死んだ人を生き返らせる魔法……そんなものも在るって云われてます」
「――そして、とっくの昔に次元断層に落ちて滅んだとも言われている」
「ど〜も」
三人の話に、丁度やって来たクロノが割って入った。
その後ろにはエイミィが続く。
二人はなのはの向かい側に腰を下ろした。
「あらゆる魔法がその究極の姿に辿り着き、その力を以ってすれば、叶わぬ願いは無いとさえ云われた……アルハザードの秘術……」
「だが、魔法を学ぶ者なら誰でも知っている。時間を遡る事も、死者を生き返らせる事もできないって。
だから…その両方を望んだ彼女は、御伽噺に等しい伝承に頼らざるを得なかったんだ。
尤も…その決着もまるで、御伽噺みたいなものだったけどね……」
オーバーSクラスへの強化、リンカーコアの外部構成、フェニックス、その果てに死んだ娘が現れて。
余りに常識を外れた展開。
そのままを報告書として提出した矢先には、即時書き直しにお小言をプラスされ、精神科への通院特別切符も渡されてしまうだろう。
「でも、彼女ほどの大魔導師が命懸けで探していたんだもの……もしかしたら、本当に見付けたのかも知れないわ………アルハザードへの道を。
……彼女が、それを語る事は無いでしょうけどね」
「それで……クロノ君、フェイトちゃんは…これからどうなるんですか?」
「……事情があったとは言え、彼女が次元干渉犯罪に関わったのは事実だ。
重罪だからね……数百年以上の幽閉が普通なんだが」
「ッ!そんな……!」
クロノの言葉になのはの顔が強張った。
「なんだがッ!!」
「っ――!」
クロノの強い一声に、なのはは今度は肩を竦ませてしまった。
リンディは、クロノのこういった場合に対する手際の悪さに溜め息を吐いた。
不安がっている相手にどうしてこうも堅い話し方をするのだろうか。
ちょっとだけ、育て方を間違えたかもしれない。
そんな事を思ってしまった。
クロノにさり気なく分からせる為に、「コホン」と咳払いをする。
するとクロノも気が付いたのか、こちらも軽く咳払いを返した。
「………状況が特殊だし、彼女が自らの意思で次元犯罪に加担していなかった事もハッキリしている。
何より、プレシア自身が『フェイトには何も知らせていなかった』と証言しているしね……」
「プレシアさんが……?」
「あぁ…。後は偉い人達にその事実をどう理解させるかだけど……。
その辺にはちょっと自信がある。心配しなくて良いよ……」
「クロノ君……」
「何も知らされず、ただ母親の願いを叶える為に一生懸命だった子を罪に問うほど…時空管理局は冷徹な集団じゃないから」
クロノはそう言って微笑んだ。
今まで見たことの無いその表情に、なのははある事に気が付いた。
「クロノ君て、もしかして……すごく優しい…?」
「な――ッ!?」
いきなりのストレート発言に、クロノの顔が見る間に真っ赤になる。
「しっ、執務官として当然の発言だっ!私情は別に入ってないッ!!」
「もう、クロノってば照れなくたって良いじゃないの〜?」
「そうだよ〜。すご〜く優しいクロノ君〜?」
両サイドの二人はテンパりかけているクロノを見て、ニヤニヤと笑っている。
「なっ…!母さん、エイミィ!!こら、笑うなッ!!」
この後、十数分に渡ってクロノ弄りが続けられた事は、言うまでもない。
そして、翌日の朝。
なのは達は転送ゲートの前に居た。もちろん自分の世界に帰る為だ。
「それじゃ、今回は本当にありがとう……気を付けてね?」
「協力に、感謝する……」
クロノが手を差し出すと、その手をなのははギュッと握った。
少し顔を赤らめるクロノを見て、エイミィがニヤリと笑う。
「もう、お別れが寂しいなら素直に言った方が良いよ?クロノ君の意地っ張り〜!」
「なっ…!違っ…!!」
「なのはちゃん、いつでも遊びに来て良いからね?」
「え、エイミィ!アースラは遊び場じゃないんだぞ!?」
「良いじゃないの。どうせ巡航任務中は暇を持て余してるんだし」
「か、艦長まで……」
二人の無責任発言に、ガックリとクロノは肩を落とした。
これが冗談ならいいのだが、この二人は本気で言っている。
間違いなく。長年の付き合いなのでよく知っている。
軽い眩暈を起こしそうなクロノを尻目にリンディは、フェレットになってなのはの肩に乗ったユーノに声を掛ける。
「帰りたくなったらいつでも言って。ゲートを使わせてあげる」
「――ありがとうございます」
ゲートが使えれば、ミッドチルダまで真っ直ぐに帰れる。
ユーノは恐縮して、礼を言った。
「それで、連君はまだ……?」
「流石に重傷だから……このまま本局の医務施設に連れて行こうと思ってるわ」
「そうですか……」
それはつまり、連音ともお別れになるという事。
なのはが表情を暗くした時だった。
「その必要はない」
入り口のドアが開き、一人の少年が入ってきた。
ワイシャツとデニム地のズボンというシンプルな服装で、全身に包帯が巻かれているのが見える。
「れ、連君…!?」
「ちょっと待て!君は絶対安静なんだぞ!?分かってるのか!?」
連音のいきなりの登場に、なのはとクロノが驚きの声を上げた。
「分かってるよ、そんな事は。でも、これ以上帰らないと不味いんだ……」
「でも、連君……!無理して傷が開いちゃったら……!」
「あぁ〜……でも、その前に殺されるかな〜……フィリス先生に」
「……………何で?」
「……………病院、抜け出してきたから」
「そっ、それはダメだよ!すぐに帰らないと!!」
なのはの脳裏に、鬼になったフィリスの顔が浮かんだ。
何があったのか、憶えていない。
ただ、兄と姉がこの世のものとは思えない絶叫を上げ、父が母の名前を叫び続けていた事だけ思い出せた。
甦った恐怖に、ブルブルと震えが上がって来た。
「とりあえず、里にも医療設備もあるし……怪我自体は一週間程度で直るだろうから心配いらないさ」
「………」
連音の言葉にクロノは押し黙った。
確かに、昨日意識が戻ったばかりでこれだけ回復しているのなら、問題は無さそうにも見えた。
リンディも同じのようで、しかし彼女は連音に一言掛けた。
「もし異常があったら、すぐに連絡する事。良いわね?」
「了解です、提督。よし、帰るか……高町」
「……うん!って、何で苗字なの…!?名前で呼んでよ〜ッ!」
「気にするな」
「するよっ!」
と、再びドアが開かれ、赤み掛かった、オレンジの髪の女性が飛び込んできた。
「あーっ!!フェイト、やっぱりいたよぉ!!」
その後ろから金髪の少女も小走りに駆け込んできた。
「フェイトちゃん、アルフさん!?」
二人の登場になのはが驚きの声を上げた。
事件後、なのはは何度かフェイトと話そうとしたが、フェイトは大抵護送室か、医務室にいて、話しかけられる雰囲気ではなかった。
なのはの視線に気が付き、フェイトの表情が若干固まる。
しかし、今はそれ所ではないと隣の連音に向きやる。
「そんな体で何処に行くんですか!?まだ寝てないと……」
「大丈夫だから。あとは勝手に治るって…!」
「そんな…!ダメです、早く医務室に戻ってください…!」
そう言って、フェイトは必死に連音の袖を引っ張る。傷が治るのは早いが、痛覚が麻痺している訳ではないので、当然痛みに顔が歪む。
しかし、フェイトは何としても連音を引き戻そうと必死で、それに気が付けないでいた。
「痛ッ…!それよりフェイト、なのはに言う事があるんじゃないのか!?」
連音は何とかフェイトの意識を逸らそうと、思いついたフレーズを口にした。
「あう…っ」
すると予想以上の効果があり、フェイトの勢いが止まる。
「ほい、こっちこっち…!」
その期を逃さず、フェイトの背を押してなのはの方を向かせる。
向かい合う二人。重い沈黙が二人を包む。
「えっと…フェイトちゃん……?」
「…………あの時の、返事…」
「え…?」
「海の上での……」
「あ…っ!」
フェイトの言葉に、なのはが思い出した。
―友達に、なりたいんだ―
フェイトが言おうとしているのは、その答えなのだとすぐに察した。
ゴクリ、と固唾を呑み込んでそれを待った。
「…………ごめんなさい」
「え…ッ!」
フェイトの答えに、なのはは固まってしまった。
「今はまだ………答えられない。ちゃんと考えて、それから答えるから…も少しだけ、時間を……」
そう続けられて、なのははホッと息を吐いた。
「うん…分かった。待ってるね、フェイトちゃん……!」
「じゃあ、そろそろ良いかな?」
話の区切りが付いた所で、エイミィがコンソールを操作する。
「はい」
魔法陣が輝きだし、転送魔法が起動を開始する。
「それじゃあ」
「うん…またね、クロノ君、エイミィさん、リンディさん……フェイトちゃん、アルフさん」
「それじゃあな」
リンディ達に見送られ、なのは達の姿は光の中に消えていった。
転送が完了し、二人と一匹の消えた空間に、ふとした寂しさが漂う。
まだ完全なお別れではないとはいえ、やはり切ないものだ。
「―――――あっ!!」
と、いきなりアルフが声を上げた。
「ど、どうしたのアルフ!?」
「フェイト!!アイツ……行っちゃったよ……!」
「………あぁっ!!」
ここでようやくフェイトは、連音に誤魔化された事に気が付いたのだった。
海鳴市臨海公園。
クロノと初めて出会った場所に、連音達は転送された。
なのはは、漂う潮の香りを胸一杯に吸い込み、吐き出す。
春の朝独特のひんやりとした風が、頬を撫でる。
「帰ってきたんだね……」
「そうだな……はぁ〜、気が重い」
「………そうだね」
連音は、これからどうするのだろうか?
無事に生きていられるのだろうか?
そんな心配が浮かび上がった。
「まぁ、このまま病院に行く気は無いけどだ」
「ふえぇっ!?」
「誰が望んで虎口に飛び込むものか。怪我が治るまで、屋敷に引き篭もる!」
想いっきり胸を張り、ダメ宣言を連音は堂々と言い放った。
「はは……あはは……」
なのはは、ただ苦笑いを返す事しかできなかった。
「高町はこれから学校か?」
「うん。時間があるから、一度家に帰って……それから学校…!」
「そっか……じゃあ、ここでお別れだな。気を付けて帰れよ?」
「うん……連君もね?」
連音は、なのはに背を向けて歩き出した。
なのはは少しだけ連音を見送り、そして踵を返した。
「帰ろっか、ユーノ君」
「…うん」
ユーノを乗せたまま、なのはは駆け出した。
見慣れた街。見慣れた風景。
そのどれもが新鮮で、なのはの心は自然と弾んだ。
見慣れた自分の家。
なのはは元気良く、玄関を開け放った。
「ただいまーっ!!」
月村家の外門前。
いつもの様に跳んだりして来る事が出来ず、途中までバスに乗ってきた。
インターホンを鳴らすと、ノエルの声が聞こえてきた。
『―――はい、どちら様でしょうか?』
「ただいまです。ノエルさん……」
『…っ!連音様…!?少々お持ちを…』
少しの間が空き、外門が開かれる。
緑の道を、ゆっくりと進んでいく。
やがて見えてくる、家。
その玄関に立つのは二人の女性。
「―――お帰り、連音」
「お帰りなさいませ、連音様」
連音はできる限りの笑顔を、その家族に向けた。
「ただいま……ノエルさん、忍姉ぇ…!」
おまけ1 高町家
「おかえり、なのは!」
「ただいま、お姉ちゃん」
「帰ったのか、なのは」
「うん、ただい……お、お兄ちゃん!?どうしたの、その腕!!」
「別に…大した事じゃないさ」
「大した事だよぉ!!」
「そうだよ、恭ちゃん。あんな事があ――ったぁ!?」
「黙れ、愚妹」
「痛ーいっ!なのはぁ〜、恭ちゃんがぶったぁ〜っ!!」
「あははは………相変わらずだなぁ……うちは」
おまけ2 月村家
「連音君!?今まで何処に行ってたの!?」
「よぉ、すずか。これから学校か?」
「ど、どうしたの、その怪我!?」
「大した事じゃないって。すぐ治るから、落ち着け…!」
「でも…だって……!」
「ご安心下さい、すずかお嬢様」
「え…?」
「連音様は私が責任を持って、病院に連れて行きますので」
「ちょっ、ノエルさん!?」
「フィリス・矢沢先生より発見次第、即時連れて来る様にと厳命されております。諦めて下さい」
「えぇえええええっ!!!?」
「そういう事だから…諦めなさい、連音」
「いや、待って!何でホールドするのさ!?」
「さぁさぁ、行くわよ〜!」
「ノォオオオオオオオオオオオーーーーッッ!!」
では拍手レスです。
感想の方、送って下さってありがとうございます。
※リリカルなのはシャドウダンサー
四聖獣召喚?しましたね〜。青龍に朱雀、玄武に白虎、あと一体はどれにするん
だる?作品頑張ってください。
応援ありがとうございます!
他作品との差別化も狙い、五行を使う以上は絶対に出す!と決めていましたww
奥義に関しては、まだ奥義乃四までしか存在せず、連音は刻印やらを使ってやっと使える、という設定です。
残す所、後僅かとなっておりますがどうか御付き合い下さい。
※犬吉さんへ
大切なものが出来ると人は弱くなる、だが恥ずかしがる事は無い。
それは本当の弱さじゃないから。
失うものの無い人は強いですが、大切なものがあると、それとは違う強さが生まれるのでしょう。
傷付いて、それでも立ち上がれる強さ。雪菜の言葉の意味も、きっとそういう事です。
感想を送られる方はどうか、誰宛なのか分かる様に明記して、送って下さいますようお願いします。
これらは、管理人であるリョウさんの手によって分けられております。
その負担を軽くする意味も込めて、お願い致します。
何より拍手が届きますと、作者的に凄くテンションが上がりますw
作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル、投稿小説感想板、