VANDREAD The Third Stage
♯EXTRA(後編) ふたり
「つまんねぇ〜・・・・」
たくさんの兵士で賑わう食堂で、クロウはテーブルに突っ伏し、あからさまに面白くなさそうな顔をしていた。
「さっきから何度も何度も言わないでくださいよ少佐」
「お前は面白いのか、これが?」
「俺は充分に楽しいですよ。美味い酒が飲めて、皆とも話せて」
「けっ」
そう呟くと、彼は目の前の酒――滅多に飲むことのできないモルドヴァワインを口にした。さすが高級ワイン。見事な味である。だが、彼女と一緒ならばどんなに美味かっただろうか。
そう思いを馳せていた時だった。
突然、食堂の扉が開き、息を切らせた兵士が飛び込んできた。食堂に居た兵士たちの目が、一点に息を切らした兵士に集まる。
「どうしたんだよアルヴィン」
近くに居た兵士が怪訝そうな顔で声をかけた。息を切らした兵士――アルヴィンはぐっと息を呑むと、切羽詰った面持ちで口火を切った。
「た、大変だ! メジェールでテロが起こった!」
「なにぃ!?」
その場に居た全員の顔が驚愕の色に変わった。ディオンはすぐさまクロウに声をかける。
「もしかして・・・・少佐――って、あれ?」
ディオンは呆気にとられるのも無理は無かった。声をかけようとしていた当人は忽然と姿を消していたのだから。
その当人――クロウ・ラウは今、早足で通路を歩いていた。その顔は無表情に焦慮が混じったような感であった。目指しているのは・・・。
「艦長、入ります」
クロウは歩みを止めず艦長室へと押し入る。そして、デスクでパソコンに目を通しているセレス・オードレン艦長に、クロウは身を乗り出し詰め寄る。
「艦長!」
「出撃許可は出せません」
「ンなっ!?」
先を読んでいたかのようにセレスの言葉が突き刺さる。しかし、クロウは抑えきれんばかりの怒りを何とか耐えると、すぐさま早口で反論した。
「テロが起こった場所にはメジェールの代表がいるんでしょう!? だったら早急にタラークとメジェールと合同で――!」
「いるからこそ、です。慎重に、人質を傷つけずにどう対処するかを今、メジェール軍が会議しているところなのです」
「そんな事している場合じゃあ! こういう時こそ先手必勝でしょうが!」
「ラウ少佐。あなたの言うことも尤もですが、こういう時だからこそ、慎重に考えなければならないのです。それに、その場所にはあなたの恋人もいるのですよ?」
クロウは歯噛みし、拳を震わせる。事は一刻を争うというのに、なぜこんなにものんびりしているのだろうか。
「・・・・了解です。失礼しました」
クロウはセレスに背を向け、艦長室を出ようとした。しかし、扉が開いた直後、急にセレスから声がかかった。
「ラウ少佐。しないとは思いますが、もし無断で出撃などしたら、どうなっているかはわかっていますね?」
「・・・ええ、存じ上げています」
背を向けたまま言うと、クロウは早足で艦長室を出て行った。
テロから数十分が経ち、パーティー会場にいた者はグラン・マを除き、全員手足に錠を掛けられ、グループに分けられ床に座らせられていた。
その一つに、メイアとフレーバ、そしてロワールはいた。
「十七人。一つの大隊がまるごと動いたというわけですか」
「ロワール、軍が救出に向かうのはいつごろだと思う?」
「和平交渉。それがダメだった際の武力突入の為の作戦会議、準備。全て見積もってあと二、三時間はかかるでしょうね」
「あ〜、何でこんな目にあわなきゃいけないだろう・・・・」
ガックリとフレーバが肩を落とした時だった。
「うるさいぞ。静かにしろ」
苛立った口調で、武装した兵士が怒鳴る。三人はそれぞれ適当に返事をすると、興味無さ気にあちこちを見始めた。
だが、兵士はなぜか、メイアをジッと訝しい目で見つめていた。メイアは兵士を見、尋ねた。
「・・・何か用か?」
「お前、もしやメイア・ギズボーンか?」
「そうだが何か?」
次の瞬間、兵士の顔が激憤の色に変わり、それに気づいた瞬間、メイアは蹴られていた。
「メイアさん!」
二人が叫ぶ。さらに蹴りつけようとした兵士だが、駆けつけた別の兵士に取り押さえられた。しかし、兵士の面持ちからは憤怒の表情は消えてはいない。
「離してください! コイツが、コイツが!」
「落ち着け。落ち着くんだフィズ」
別の兵士がフィズを宥める中、蹴られ、床へ転がってしまったメイアは壮年の女性――ヴィット・アクア中佐に助けられ、なんとか座ることができた。
「大丈夫か? ああ、よかった。鼻は大丈夫のようだ」
蹴られた鼻は少々ズキズキと痛むが、気にするほどではなかった。
「部下が失礼なことをしてしまった。許してほしい」
「いや・・・・。彼女が言うことも尤もだと思うさ」
「・・・え?」
「私が怨まれる原因は一つしかない。彼女は恐らく、以前のテラフォーミングでメジェール本星に住み、脱出した人間だろう? 私が怨まれるのはしょうがない事だ」
以前のテラフォーミングでは、開発施設の事故、そして開発グループの手抜き、汚職、贈収賄。そしてそれらに激怒した住民らによって起こされた開発施設の炎上。加えて起きたペークシスのエネルギー爆発。開発地域は間違いなく大爆発を起こすだろう。
民間人を脱出させる為のシャトル準備されたが、脱出できたのは一部の者。なくなった者の数が圧倒的に多い。
「だが原因を作ったのは企業であって、君達家族ではない。君の両親はただ真摯に、人々のために行なった。そうだろう?」
「私は関係者だ。私も、間接的に人の命を奪ったことには変わりない」
「君は地球の刈り取りを撃破し、本星テラフォーミングにも成功した。それで帳消しになることは無いが、君は充分に償えたんじゃないか?」
そう言うと、ヴィットは立ち上がり、今度はかつての部下であるロワールを見た。
「久しいなロワール。何年ぶりかな?」
「ちょうど海賊が刈り取りを撃退した年ですから、六年ほどでしょうかね、中佐?」
ロワールは無表情で冷たく返す。声にはほんの少し、怒りが混じっている。
「フッ・・・生憎だが、今は大佐だよ」
「それはそれは。ご昇進おめでとうございます」
「・・・怒っているのか?」
「当たり前です。かつての上官がテロなんて起こしたらね」
「ふむ、テロか。確かにそうなるな」
ヴィットは得心したかのような顔をすると、その場を立ち去ろうとした。しかしその寸前に、メイアの声がかかり、ヴィットは彼女らに背を向けたまま立ち止まった。
「教えてくれ」
「・・・何かな?」
「あなた方の目的は一体・・・・」
「それは――」
笑みを浮かべたヴィットは鼻を鳴らすと、メイアらに向かって手を振り、こう言った。
「いずれわかりますよ、メイアさん」
クロウは険しい面持ちで通路を歩いていた。彼が向かっている場所は、時機が格納されている格納庫である。命令違反、軍法会議なぞクソ食らえだ。たとえ自分一人であろうと、メジェールに行き、テロリストを倒す。そこには恋人――メイアもいるのだ。
(これで俺もクビかな)
そう思い、自嘲の笑みを浮かべ格納庫へと足を踏み入れた。
だが、そこは彼も予想だにしない光景が広がっていた。
「え・・・?」
格納庫は整備班が自分たちの機体を目にもとまらぬ速さで整備し、パイロットスーツを着たパイロット達は固まり、作戦の確認を行なっている。まさに実践間際という感じだ。
「こりゃあ・・・」
「あ、ラウ少佐ぁ! 遅いッスよ!」
パイロット達の塊から、クロウの存在に気づいたディオンが手を振る。
「少佐がいないと始まんないですから。ほら、とっととブリフィーング始めましょうよ!」
「え、あ、ああ・・・」
半ば疑心難儀のまま、クロウは呆けた面持ちでディオンらの元へと向かった。
「お前ら、何して・・・」
「決まってるじゃないッスか」
ディオンはニヤリとする。
「メジェールに行くんですよ。どうせ一人で行くつもりだったんでしょう? 何年俺たちが少佐の部下やってると思ってるんですか」
「・・・いいのか? 営倉入りどころじゃ済まされないぞ」
クロウはため息混じりに忠告するが、パイロット達は気にする素振りを見せぬどころか、意気を高揚させる。
「構うもんか!」
「たしかテロの現場にはメジェールの代表がいるんですよね。全員無事に救出できたら無罪放免ですよきっと!」
その他様々な意見が飛び交い、パイロット達の雰囲気は最高潮へと達する。楽観的な意見にクロウはため息を吐くが、その顔は苦笑いが滲んでいる。こういうノリは嫌いではない。むしろ、大歓迎である。
「お前ら、ホントに大馬鹿だな・・・。ぃよしっ!」
彼は清清しく、逞しさに溢れた笑みを浮かべると、久々に威勢に満ちた檄を飛ばす。約五年ぶりだろう。気持ちがいい。
「お前ら! 艦長の説教がナンだ!」
「おおー!!!」
「行くぞ! 軍法会議がナンだ! クビがナンだ! 正義はいつも俺たちにある!」
喚声は凄まじいまでに大きくなり、格納庫中を包み込んだ。
クロウが格納庫へと向かっている間、テロの続報は断片的ではあるが、入っていることは入っていた。テロを起こしたのはメジェール軍の一大隊で、人数は十数人ほど。目的はメジェール本星に女性だけの国家を作る土地と権利と譲ること、と宣告している。人質にはメジェールの代表グラン・マ、そしてウェルシュ社の社員が数十人ほど。そして人質には、メイアも含まれているのだと言う。
「人工筋肉を装着しているパイロットは突入班と一緒に行動だ。いいな」
「了解。ああ、そうだ。まず突入班はシャトルで行かせましょうよ。俺らは護衛ということで」
「いいや。シャトルじゃ機体と比べると足が遅い。全員機体に乗せて行くぞ」
「え、ええー!?」
クロウの提案に、パイロット達は驚きを隠せない。いくら足が遅いとはいえ、機体に突入班を乗せるなど無理がある。クロウらが乗る人型戦闘機“アイオロス”のコックピットではパイロットを含め二人が限界である。それに、どうやって搭乗させるというのか。
「少佐。質問ですが、どうやって一緒に乗せるんですか?」
「シートベルトを限界まで伸ばして・・・えーと、アレだ。抱きしめる様な形で一緒に乗せるんだ。わかるな?」
一同は「うえ〜・・・・」と呟き、今にも吐きそうな素振りをする。つまり何であろうが、誰彼構わず乗せなければならないのだ。気分が悪くなるのは当たり前だ。と、その時だった。
「――って、おい! あそこに二人女性がいるじゃねえか!」
一人のパイロットが突入班で二人だけしかない女性を指差す。
「うおお! そこの麗しいあなた、どうか俺とご搭乗を!」
「ちょっと待った! 俺と一緒に!」
とんでもない数のラブコールが女性二人に注がれる。その光景を、クロウとディオンは呆れた面持ちで見ていた。
「少佐は行かないんですか?」
「早く行かなきゃなんねえんだ。えり好みしている場合があるか――って・・・・」
クロウは一瞬目を丸くした。いつのまにか、女性二人はクロウとディオンの前に並んでいたのだ。
「どうした?」
「一緒に乗せていただけませんか?」
「私たち、静かな方と一緒に乗りたいので」
これぞまさに無欲の勝利。ラブコールをし続けていたパイロット達の野望は脆くも崩れ去ったのであった。
『こちらブリッジ。皆さん、発艦の準備は全員OKですか?』
「OKOK。とっとと出させてくれ。こちとら男に抱きつかれてるんだ」
「突入班ー。酔い止めは飲んだなー?」
「こちらクロウ・ラウ。そういや艦長はどうしたんだ? そっちにいるわけは無いよな?」
『ええ。ちょっとばかし、艦長室のドアを閉めさせてもらいました。そのほうが何かと静かでしょう?』
「後で何言われても知らねえぞ・・・・」
『大丈夫。それは皆同じですから。運命共同体ってヤツです』
ブリッジ班はニコリと笑みを浮かべるが、何か邪悪なオーラが漂っているのは気のせいだろうか。
『それでは、発艦を許可します。皆さん、ご無事で!』
「了解。さて、ちょっと激しい機動になるかもしれないけど、勘弁してくれよ?」
「わかりました」
「ところで、君の名前は?」
「・・・シスカ・ロワイヤー伍長です」
「わかった。よしっ、クロウ・ラウ・・・と、シスカ・ロイワイヤー。アイオロス、出るぞ!」
クロウとシスカを乗せた機体が颯爽と宇宙へと躍り出る。続いてディオンやその他のパイロットたちのを乗せた機体が随時発進した。
「ブリッジ。周辺に異常は?」
『一時間ほど前から急に戦艦三隻がメジェールを囲んでいます。おそらく、テロを起こした奴らの仲間かと』
「くそっ。用意周到な奴らだ」
歯噛みするクロウに、ディオンが通信を入れる。
『少佐、どうしますか? 強行突破しますか?』
「うーん・・・戦艦を抜けたとしても、あっちにはドレッド――戦闘機があるからな。ドッキングポートに突入するまでに振り払えるかどうか、だな」
顔を歪め、考えるクロウに、さらにブリッジからの通信が入った。
『ラウ少佐。悪いニュースが入りました』
「何だよ?」
『戦艦から戦闘機が発進した模様です。その数、五十』
冷静な声が響く。同時にレーダーにも光点が何十にもこちらへと向かっている。バッドタイミングにして最悪の状況。さて、どうやって切り抜けるべきか。
テロを起こした部隊が何人いるかわからない以上、いくつかの部下を囮にするわけにはいかない。
「ラウ少佐、どうしますか!?」
部下からの返答に困り、舌打ちをした、その時だった。
『火星の武士達よ! 聞こえるか!』
鼓膜が破壊されそうな程の、男性特有の野太い大音声が全員のコックピットに響き渡る。あまりの大声にクロウとシスカは顔を顰める。同時に、レーダーにも更に光点がいくつか増える。そして、目の前のディスプレイに髭面の顔に大きな縫い目傷を持つ初老の男が映し出された。
『我が名はタラーク軍烈風隊大将キュンメル・大関! 火星の武士達よ。主らはメジェールに行くのだろう!?』
「あ、ああ」
クロウは戸惑いながらも頷き答える。
『ここは我らに任せ、お主らはメジェールへと乗り込むのだ!』
「・・・話を濁して悪いが、アンタら、軍の命令で俺達の援護を?」
『そんなワケがなかろう! お偉方の対応があまりにも遅いものだから勝手に出撃したわい! ガッハッハッハ!』
どうやら同じ事を考えている人間は他の惑星にもいたようである。クロウが苦笑を浮かべると、今度は懐かしい声が通信に入る。
『よう、久しぶりだな!』
顔つきは以前よりも大人びたが、その面持ちは間違いなく、ヒビキ・トカイその人であった。
「ヒビキか!? 久しぶりだなぁ」
『呑気な事言ってる場合じゃねえぞ! ここは俺達に任せて、とっとと行け!』
「ああ! 帰ったら一緒に酒でも飲もうぜ!」
勇ましく返すと、クロウは部隊に通信を入れる。
「よし! 各機気にせずメジェールに行くぞ! 遅れるな!」
『『『『了解!』』』』
「――わかった。状況は? ・・・・・そうか。ドッキングポートの警備を固めろ」
「大佐。いかがしました?」
通信を終えたヴィットにフィズが怪訝そうな面持ちで尋ねる。すると、ヴィットは口端を吊り上げ、言った。
「火星の部隊が防衛ラインを突破した。援護にはタラーク軍の部隊が関わっているようだ」
フィズは勿論、その場にいた兵士らが驚きの声を上げる。いくら襲撃がくるとは覚悟していたが、あまりにも迅速すぎる。恐らく、命令で動いているのではなく、独自に動いているのだろう。厄介な不穏分子が現れてしまった。
「・・・メイアさん。朗報ですよ」
ヴィットは屈み、メイアを見る。
「あなたの恋人がこちらへと向かっているようです」
「これであなた達も終わりだな」
「まだ分かりませんよ。始まったばかりですからね」
「・・・アイツは絶対に来る。どんなことがあろうと、必ず」
真剣に語るメイアに、ヴィットは僅からながら引きつった笑みを浮かべた。それは恐怖感からか、もしくは余裕からなのか。答えは彼女のみぞ知る。
烈風隊の援護を受け、ドッキングポートへと突入を成功させた突入グループは、空港内で手厚い歓迎を受けていた。
なんとか空港の出入り口前へと来たものの、そこで一向はテロ部隊の仲間に妨害を受けていた。いくら完全武装とはいえ、相手も同じ軍人である。手ごわい相手であることは重々承知しているが、正直勘弁してもらいたいところが全員の本音だ。
「予想はしてたけど、随分と手厚い歓迎だぜ!」
「銃弾の雨なんかよりもワインを浴びさせて欲しいもんだな!」
所々に設けられているテーブルで銃弾を防いでいるが、そう長くは持たないだろう。
「お前ら、駄弁ってないで突入の準備をしろ!」
「ういっす! ファルクラム隊長!」
突入班のリーダー、ファルクラム隊長が指折り数え、合図をする。手にはスタン・グレネードが握られている。
「いくぞ! 1、2の――!」
突入班の一部が手榴弾のピンを抜き、常時投げられる構えと入る。他の仲間が目を閉じ、耳を塞いだのを確認すると、
「3!」
数個のスタン・グレネードが宙を舞い、そして床へと転がる。敵側の兵士はそれを見た瞬間、顔が凍った。兵士は逃げようとしたが、間に合わず、大音響と閃光の餌食となる。
「今だ! 行け行け行け!」
兵士がショック状態となったのを見逃さず、突入グループは一気に敵兵士を制圧した。
「これで出入り口は確保だな。あとはビルに乗り込む、か・・・」
クロウは渋い顔をした。自分たちがメジェールへと乗り込んできたのは既に筒抜けだろう。後はどうやって見つからずにビルへと入るかが問題であった。唸り、腕を組んで考え込んだときだった。
『ファルクラム少佐、ラウ少佐。メジェール軍から情報が入りました』
耳に埋め込んだ通信機からブリッジ班の報告が入る。クロウとファルクラムは耳に手を当て、聞き入った。この閉鎖された空間において、情報はまたとない貴重なものである。
『たった今、タラーク軍がメジェールに戦艦を派遣しました。それと、テロの現場であるウェウシュ社の邸宅のデータをちょっと拝借しました』
「そうか。侵入ルートはあるか?」
クロウは空港に掛けられている電子時計に目をやった。テロから既に二時間が経っている。軍もなんと遅い対応であろうかと内心嘆いた。
『ええ。有効なものが一つありました?』
「どこからだ?」
『屋上からです。地上十数メートルのところにあります』
ブリッジ班の提案にファルクラムは文句を言う。
「おいおい。人工筋肉をつけてる奴はともかく、装着していない奴はどうする? HALO降下でもしろってのか?」
『あ・・・・すいません。ですが、四方の玄関は無理ですし、穴は掘れるわけがありません。ですので、やっぱり屋上からじゃないと・・・』
「よし。それじゃあ、屋上から行こう」
「何!?」
唐突に賛成したクロウに、ファルクラムは目を見張った。
「おいおい! 人工筋肉を装着していない奴はどうするんだよ!?」
問題はそこだった。突入グループで人工筋肉を装着している人間は数人しかいない。それだけの人数で侵入し、敵を制圧などいくらなんでも不可能だ。
「なぁに。簡単なことだ」
クロウは何か企んでいるかのような、含み笑いを浮かべた。いったい彼は何を考えているのか。ファルクラムには見当がつかなかった。
ヴィットは招待客用のワインを一口飲むと、最高級のイスに身を預けた。テロ開始から二時間が経過している。メジェール軍は封じているが、タラーク軍は既に動いているだろう。メジェール周辺での戦闘はこちら側の有利。しかし、目の上の瘤である存在がいる。
火星軍の人間である。
(軍法無視とは、なかなか度胸のある奴らだ)
ヴィットは感心していた。軍法を無視してでも人質を救いたいという思いには、頭が下がる思いだ。だが、こちらとて負けるわけにはいかない。抵抗するものは全力を持って排除するのみ。たとえ自分らが悪であったとしても。
そもそもこのテロは自分たちのために行なっているのではない。メジェールの国民――一部ではあるが――の為に行なっているのだ。それを美化するつもりは無い。自分たちは新たな国を造るための礎なのだ。
だが、自分たちの行いが“時代”に逆らっていたら?
“時代”とはヒトの意思、主張など様々な想いが混ざり合ってできている。今のタラークとメジェールの“時代”はどうなっているのか。男と女は共に生きるべきなのか。それとも逆であるのか。この行為は一種の賭けでもある。“時代”が自分たちの行いが間違いと思うのなら、粛清されるだろう。
(さて、我々の行いは間違っているのか、否か)
ふぅ、と息を吐いた、その時だった。
『大佐、緊急事態です!』
「どうした」
通信機から銃声の音に混じり、上擦った兵士の声が入った。戦闘中であろうか。
「屋上から侵入者が! 増援を!」
「わかった。そちらに六人ほど回す」
ヴィットは手近の兵士数人に目を合わせ頷く。兵士らは敬礼をすると、急ぎ屋上へと向かっていった。
(屋上か・・・。だが、屋上は地上数メートルにあるというのにどうやって・・・・?)
ヘリからのラペリングからでもない限り、この邸宅の屋上から侵入するのは無理である。しかし、ヘリが来るならば事前にローター音で察知はできる。それ以前にメジェール軍はほとんど封じしている。生身でビルとビルを跳んできたというのか。だが、そんな超人染みたことなどできるはずが無い。
現実を受け入れられないヴィットを現実に引き戻したのは、耳をつんざく、ガラスの割れる音だった。
「っ!?」
招待客が悲鳴をあげる中、ヴィットの目は、ガラスを割った原因である、床に転がる筒状の物体だった。
「あれは――!」
そう呟いた瞬間、筒状の物体から勢いよく白濁色の煙幕が噴出し、数秒もしないうちにパーティー会場が煙幕に包まれる。その場にいた全員が咳き込み、うろたえる中、自分たちとは全く違う足音が耳に入った。
「ゴーゴーゴー! 今だ今だ!」
「うっしゃあ! 行くぞ!」
くぐもった声――間違いない、ガスマスクだろう――が聞こえ、ヴィットは咳き込みながらも命令を下す。
「くそっ・・・! 上の階に退却するぞ・・・!」
屋上から攻め込んできた連中は、数を減らすための囮だったのだろう。玄関近くは数人が見張っているが、狙撃でもされたのか。
ヴィットらは脱出しようと部屋を出ようとするが、あっけなくショックガンで身を捕縛されてしまった。兵士たちは悲鳴を上げ、次々と倒れていく。
(・・・・駄目・・・だったか・・・・・)
ヴィット率いる大隊の計画は失敗してしまった。だが、なぜか彼女には笑みが浮かんでいた。まるで計画の失敗が嬉しいかのように。
煙幕が全て晴れた頃、囮として屋上から突入した別働隊が悠々とパーティー会場へとやって来た。交戦していた兵士らは、リーダーであるヴィット・アクア大佐が捕縛されたのを知るやいなや、急に白旗を揚げ、降参したのだ。
そして一通り捕縛を終え、あとはタラークとメジェールの増援を待つのみだった。
「やったようだな、ファルクラム」
クロウを含めた、屋上から突入したグループはテイザー銃片手にパーティー会場へと足を踏み入れる。テロを起こした大隊は殆どが手錠などを掛けられ、鎮圧していた。
「ああ。うまい具合に敵が引き寄せられて良かったぜ」
「いやいや。礼は狙撃したラート中尉に言ってくれ。アイツがいなきゃ、お前たちの突入は無理だったろうさ」
別働隊突入の本の少し前、邸宅の周辺を警備していた兵士らは、他のビルの屋上から麻酔銃で狙撃したシェリー・ラート中尉の手により、眠りに落ちた。彼女の力が無ければ、突入班はパーティー会場へと突入はできなかったであろう。
「さて、と・・・・」
クロウは辺りを見回す。この会場には彼女――メイア・ギズボーンがいるはず。彼女を助けることが彼の天命である。
クロウは錠を外されていく招待客を見やる。
(この中に、アイツが・・・)
そして、彼は遂に彼女を見つけた。手錠と足錠を外され、やれやれと言わんばかりに息をつくメイアを。
「メイア!」
呼びかけられたメイアは、彼の顔を見るなり、顔をパッと明るくさせる。そして、互いに愛する者へと向かうべく、足を向けた、その時だった。
「うううううああああああああああ!」
突如、彼女の背後から叫び声を上げた女性――テロを起こした兵士の一人がメイアの首を絞め、米神に銃を突きつけた。たまらずメイアは苦悶の表情を浮かべる。
解放された招待客は悲鳴を上げ、我先にとメイアと兵士から離れる。
「ちくしょう! ちくしょう!」
兵士は眉間に深い皺を浮かべ、吼える。気づいた突入班は囲むようにショックガンを構える。
しかし、下手には撃てない。撃たれ、その衝撃で引き金を引いてしまうかもしれないからだ。
「・・・落ち着け、フィズ」
手錠を掛けられ連行されかけていたヴィットは、大人しく命令した。
「私たちはダメだったんだ。時代は私たちを認めなかったんだよ」
「うるさい! うるさい! うるさい!」
激昂したフィズはヴィットに向かって一発発砲した。銃弾はヴィットの頬をかすり、最終的には壁へと埋まった。クロウはテイザー銃を構えながらも、冷静にフィズを説得し始めた。
「おい若いの。無茶はよして、その銃を捨てろ。お前も軍人ならこの状況が分かるだろ?」
クロウの言うとおり、彼女の周りにはテイザー銃やショックガンを構えた者たちがフィズを数メートル離れた場所で取り囲んでいる。どう見てもフィズの方が圧倒的に不利である。
「・・・・・ちくしょおおおおおぉぉぉぉ!」
自棄になったフィズは叫ぶと、メイアをドン、と突き放す。メイアはよろけながらも、目の前にいるクロウへと走る。しかし、その背後では、フィズがメイア目掛け、銃を向けている。
それに気づいたクロウは必死の形相で彼女に向かって駆けた。
「メイア!」
「メイアさん!」
銃声が轟く寸前、茶髪のロングヘアーの女性――ロワールが囲みの中から飛び出し、メイアを抱きしめるように銃弾から庇った。放たれた弾丸を受けたロワールは衝撃でメイア共々床へと強かに落ちる。同時に呆然としていたフィズが強攻的に取り押さえられた。
「ロワール!」
メイアは重なっている状態から脱すると、すぐさまロワールを抱き起こす。
「ロワール! ロワール!」
涙を流し、呼びかけるメイアだが、当のロワールはなぜか満足げな笑みを浮かべていた。
「こうなる事は覚悟していました・・・。それに、ボディーガードとして・・・・」
「え・・・?」
「ボディーガードとしての・・・・・本分を全うしただけです。気にしないで・・・・・」
ロワールは青い顔で作り笑顔を浮かべる。自分の命が残り少ないと悟っているのだろう。最期は笑顔で逝きたい、といったところか。
「・・・・」
周りが慌しくしている中、クロウは片膝を立て、ロワールの顔を見た。
「どうしよう。どうしよう・・・! クロウ!」
メイアは取り乱し叫ぶが、クロウは全く動じず無表情でロワールを見続ける。
「なあ。少し聞いていいか?」
「・・・・はい?」
息を切らし、ロワールは首だけを動かし、クロウを見た。死が目の前に迫っているが、彼女は全く笑みを崩さない。
「あんたボディーガードなんだからさ、防弾チョッキとか着てるんじゃないか?」
「――あ、そうだった」
ロワールがはっとした面持ちで体を起こした瞬間、クロウと彼女を除いた全員が、だあああああ、と盛大にコケた。まるでどこかの喜劇の如く。
「いやー、危なかった危なかった」
ロワールは呟くと、スーツを脱ぎ、下に着ていた防弾チョッキを脱いだ。先ほどまでの今際の際のような状態はどこへやら、生気に満ちたロワールは未だに涙を流すメイアに平然と声をかける。
「あれ? メイアさん、どうかしましたか?」
「・・・・ううん。よかった、生きてて、よかった・・・!」
メイアはボロボロと涙を流し、ロワールを抱きしめる。しかし、今まで自分が流した涙は一体なんだったのだろうか。そう思うと違う意味で泣けてきた。
そんな二人を横目にクロウは微笑むと、横に寝転がるような状態で、クスクスと笑っているヴィットに目を向けた。
「ハッピーエンド、か・・・・。ハハハッ、好きになれそうだな・・・」
「・・・アンタに二つ聞きたいことがある」
「何だね?」
ヴィットは器用に膝で立つと、その場で胡座をかいた。
「グラン・マ・・・閣下はどこにいる?」
「・・・上の階の会議室だ。はははっ、豪傑な人だよ、あの人は。おかげで会議が全くはかどらなかったさ」
「わかった。・・・二つ目だ。何でテロなんて起こした」
クロウの言葉に、ヴィットは顔を渋くし、黙る。そして、ひとつため息を吐くと、ヴィットは黒々と闇に染まっている外の光景を見た。
「・・・君はメジェールとタラークが共に手を取り合うべきだと思っているかい?」
「アンタ、何が言いたいんだよ」
「・・・タラークは知らないが、メジェールで“共に手を取り合い、生きていく”という事に賛成しているのは、全国民の総数の八十パーセントだ。さあ、少しはわかってきたかな?」
「・・・・・残りの二割の国民は反対をしている、ってのはわかるが、それとテロが何の関係にあるってんだ」
「今の情勢でタラークと手を取り合うべきではないと考えることは、政府――いや、グラン・マ様の意思に反すること。バレたら牢獄行きさ。しかし、無理をして男と暮らすことになれば、必ず諍いが起きる。なら、男と共存を望まない者はいっそ、以前のような女性のみが暮らすことのできる国家を作るべきだと私は思ったんだ。・・・・だが、その思惑は時代には反していたようだ」
「・・・・人と人が互いに分かり合うには時間が必要だ。五年ぽっちじゃ、まだ足りない。だが必ず人は分かり合える。アンタは、そんなに急く事は無かったんじゃないか?」
ヴィットは静かな笑みを湛えると、「そうだな」と頷き、涙を流す。急きすぎた自分を哂っているのか。過ちを犯し、悲しんでいるのか。答えは彼女が知るのみである。
テロ解決の翌日の朝、クロウを含めた突入グループ全員、整備班、そしてブリッジ班は艦長室で、セレスからの熱い説教を受けていた。
「・・・あなた達、弁解はしないのですか?」
セレスはデスクに座ったまま、目の前で横に並んでいる数十人の部下をまるでメデューサの眼の如く睨みつける。全身からはドス黒いオーラが湯気のように立ち上り、見るものを絶対の恐怖に陥れる。突入グループも例外ではなく、顔は冷静そのものだが、歯の根はガタガタと震え、足は冷凍庫にでも突っ込まれたかのように鳥肌が立ち、震え上がっている。
「いえ、覚悟はしていました。煮るなり焼くなり、好きにしてください」
クロウは怯えを隠しながらも、懸命に言葉を振り絞る。背中は汗で濡れ、既にズボンへと達している。それほどまでに戦いているのだ。
「ですが、処罰は自分だけにしてください。自分が首謀者なんですから」
クロウの言葉に、セレス以外は目を見張った。彼は全ての責任を自分が背負うというのである。
「待ってください! ラウ少佐は首謀者じゃありません! 俺たちが引き込んだんですよ!」
「艦長! どうかラウ少佐ではなく、下士官の俺たちに処罰を!」
先頭のクロウを押しつぶさんばかりに、ディオンらが割り込んでくる。それに身を怯ませて驚いたセレスは、動揺しながらも部下たちを押さえつける。
「落ち着きなさい、あなた達。まだ処罰を下すとは言っていないでしょう」
セレスの言葉に、クロウらの動きがピタリと止まった。
「艦長。それって――」
「話を続けます」
セレスは普段の冷淡な面持ちで話す。
「あなた達の行なったことは・・・ええと、上官の命令無視、出撃許可なしに勝手に出撃、及び他惑星国家に無断で侵入・・・他はもう言うのが面倒なので省きます。要するにあなたたちが行なったことは、軍法会議以前にもはや判決は確定しています」
至極明解な意見に、一同の目は激しく泳ぐ。銃殺刑、もしくは絞首刑か。様々な嫌な予想が頭に浮かぶ。
だが、セレスはふと笑みを浮かべると、こう言い放った。
「・・・ですが、メジェールの代表、グラン・マ女史から、あなた達の功績――人質を無傷で救助し、テロ部隊に死人をださなかった功績から、刑を免除して欲しいという要望がありました。よって、この件は真実とは少々異なりますが、こういうことになります」
「え・・・?」
一同は首を傾げ、怪訝な面持ちでセレスを凝視した。
「このテロ事件は、タラーク軍とメジェール軍、そして火星軍の迅速な連携により無事解決。軍とテロ部隊双方に死者は無く、一件落着。・・・これがテロ事件の事実となります」
セレスはニヤリと口端を吊り上げる。
「じゃ、じゃあ俺たちは・・・・・」
クロウは薄笑いし、自分を指差す。
「・・・あなた達は率先し、テロ事件を解決した。事実はそうなっています。よって、今回の命令違反云々はそもそも存在しません。むしろ本国に帰れば、昇進も可能でしょう」
一同は少々動揺したが、徐々にガヤガヤと笑みがこぼれ、最終的には、
「ぃよっしゃああああああああああああああああああああ!」
と歓喜の雄叫びを上げた。
テロ事件の結末は、ようやく大団円で幕を閉じたのだった。
その一週間後、全てを終えた火星人一行は火星へと戻る準備をしていた。メジェール外壁では試験運用として開発された、大型艦に搭載可能のアバリスの稼動準備が行なわれている。
そしてメジェールの軍用空港では、火星人らを見送るために、タラーク・メジェール両軍、元メジェール海賊団のメンバーが集結していた。何故海賊団までもがいるのか。それは至極簡単である。メイアも火星軍の艦に乗り、火星へと向かう為だ。
テロ事件後再会した二人は、今後自分たちがどうするかを会議し、結局、メイアはクロウと共に火星に移り住むということになったのだ。移住のための手続きは軍が殆ど行なうという見事なまでの待遇。流石は元英雄の一人。
「そろそろ、だな・・・・」
護衛艦に乗員が全て乗ったのを確認したクロウは、雑然と並んでいる海賊の元クルーの前で、名残惜しそうに会話をしていた。
「メイア・・・。元気でね」
ディータはメイアの手を握り、微笑む。すると突然、ロングヘアーの金髪の女性――他でもない、ジュラ・ベーシル・エルデンが割り込んできた。五年が経った今でも、派手なドレスは相変わらずだ。その後ろでは軽く手を振るバーネット・オランジェロがいた。
ジュラはメイアの前に立つと、急に涙ぐみ、彼女に抱きついた。
「メイア・・・・・・グスッ、また会いましょうね・・・・」
「ああ・・・・。ジュラも元気で」
ジュラの背を叩くメイア。
「・・・メイア」
次いで登場したのはマグノ・ビバンであった。最後に会った四年前よりも大分老け込んではいるものの、発せられる覇気は相変わらずといったところだ。
「おか・・・・・・いえ、マグノさん」
「幸せになるんだよ、メイア」
「・・・・はいっ・・・・!」
優しく微笑みかけたマグノにメイアは咽び泣き、彼女に抱きつく。メイアにとってマグノは第二の母のような存在。悲しむのは当然といえよう。
笑むクロウは、二人に近づくと、肩をすくめ言った。
「じゃあな。縁があったらまた会おうぜ、ばあさん」
「ああ。それと、メイアの事泣かしたら、タダじゃおかないからね」
マグノは厳しい目でクロウを睨む。
「へーへー」
苦笑し、未だ泣き続けるメイアの肩を抱いた、その時だった。
「待ってくれええぇぇぇぇぇ!」
突如として元クルーらの中から、ロングヘアーが棚引く、緋色の髪の若い女性が飛び込んできた。病院服に、腕にギプスが装着されているのを見ると、怪我人であるのは間違いない。しかし、誰に用があって怪我を推してまで来たのか。
答えはメイアが知っていた。
「! グレーンさん!?」
グレーンとはウェルシュ社・テラフォーミング部門の先代主任であり、メイアの先輩である。数ヶ月前、事故に遭い昏睡状態が続いていたのだが、どうやら意識が戻ったようである。
「グレーンさん! 意識が戻ったんですか!?」
「ああ。つい半日前かな。のんびりリハビリしてたら、君が火星に行くって聞いたからさ。居ても立っても居られなかったから、病院を飛び出してきたんだ。警備の人にもちょっと事情を話して、ね」
グレーンは茶化すかのようにウインクをした。
「――っとmそれじゃあ、出発のようだね。またいつか会おう、メイア。いつでも私やフレーバ、ロワールも待っているからな」
ロワール――彼女は今、仕事で来られないらしい。顔を見れないのは残念だが、それは彼女も同じはず。我慢せねばなるまい。
「はい。行ってきます、みなさん」
展望室にて、クロウとメイアはベンチで星々を眺めていた。周りには観葉植物が所々に置かれており、一種の公園にも見える。
「メイア、後悔はしてないのか?」
「え?」
「・・・故郷を離れて寂しくはないのか?」
メイアは一瞬暗い顔をすると、すぐに微笑み、クロウを見る。
「・・・少し寂しい。でも、クロウと一緒に居られるから、大丈夫」
「・・・・クサい台詞、ありがとうよ」
クロウは微笑み、彼女の額にキスをした。
「・・・・・・・なあ、メイア」
「?」
首を傾げるメイアに対し、クロウはというと、頬を染め、髪をガシガシと掻き、何やら恥かしがっているかのような様子であった。
「どうしたんだ?」
「あー・・・・・えーと、そのー・・・・・アレだ。・・・・・その、メイア・・・・・」
「だから、何だ?」
「火星に着いたら・・・・、お、俺と・・・・け、けっ・・・・」
「・・・けっ?」
「いや、その・・・・けっ、けっ・・・・・・・」
煮え切らない言葉に、メイアはさらに首を傾げる。すると、クロウはメイアの肩を両手で掴むと、必死な面持ちで、彼女を見やる。
「メイア! 俺と、けっこ――!」
ん、を言う直前、突如として観葉植物の陰から、「おわあ!」という声と共に、数人の人の顔が出てきた。
「あ、あははは・・・・・。どうも、少佐」
「本日は・・・・えーと、お日柄も良く・・・・
「あ、俺たちには構わず、そのまま・・・・」
ディオンやアッシュなどの部下らであった。草葉の陰で除いていたに違いない。一世一代の告白を邪魔されたクロウは拳を震わせ、ディオン達の前に立つ。
「お・ま・え・ら〜・・・・・」
彼の殺気を察知したディオン達は、一目散に逃げる。
「ヘルプミー!」
「待たんかコラアアアアァァァァァ!」
展望室で命がけの鬼ごっごが始まる。メイアをそれを見て、失笑を浮かべた。
どうやら、二人の将来は前途多難の兆しを見せているようだ。
あとがき
ども、ホウレイです。ようやく一通り書き終えました。ようやく。
いやぁ、書き終えるのにおおよそ一年と少々でしょうか。ここ数ヶ月はこの作品一本に絞っていましたので、随分と早く終えることができました。
一応、ヴァンドレはこれにて終わりです。ですが、完全に終わりというわけではありません。まあ、気が向いたらさらに番外編とか外伝とか18禁とか書く予定です。
とりあえずは、ここ最近放っておいたオリジナル作品を執筆する予定です。
では、これには失礼致します。
ホウレイの次回作にご期待ください!