VANDREAD The Third Stage

 

 

♯8 キミと会えた奇蹟

 

 

 

 

海岸沿いの街、ミミルは地中海性気候の街で夏は眩いばかりに太陽が照りつける、火星有数のリゾート地である。火星は地表面積が地球の約半分程度で、残りは全て海である。その為、海底にドーム状の建築物を建造し、そこに住む人々もいる。余談ではあるが、火星では国境というものが無く、複数の市によって形成されている。これにより、国家という物自体存在せず、民族・人種的な差別は全くと言っていいほど存在しないのである。

 

 

 

 

 

「どうしてなんだろう・・・」

水着姿のクロウはパラソルの下で、膝を抱えながら呟く。

「・・・どうした?」

隣で同じく膝を抱える水着姿のメイア。ちなみに白のワンピースである。

「二人っきりで来るはずなのによ・・・」

「あー・・・・・・」

「ぬぁんでガキどもの見なきゃならんのじゃー!」

クロウは世も末だと言いたげに天を仰ぐ。そして、波打ち際ではしゃいでいる孤児院の子供達を忌々しげに睨む。

(ちくしょう。あいつ等さえいなければ今頃イチャイチャのラブラブだったはずなのに)

ミミルへ向かうため、早朝にこっそりと出て行くはずだった。しかし、どこで聞きつけたのか、外へ出た途端、ジェニーと数人の子供らが待ち構えていたのだ。後は言わずもがな。強制的に連れて行くことになり、今に至る。

「はぁ・・・・」

ガックリと肩を落とした時だった。突如として男性の感嘆の声が聞こえた。立ち上がり、見てみると、男性を中心とした人だかりができているのが見えた。

(何だ? このいやな予感は)

クロウとメイアは怪訝そうな面持ちで人だかりへと向かっていく。そして、ひだかりの中心からは、聞きなれた女性の声が聞こえてきた。二人は人を押し退け、最前へとのめり出る。そこには・・・。

「ちょっとちょっと! もっとカッコいい男はいないの!?」

予感大的中。二人は大いにコケた。

「あら、奇遇ね。二人とも」

注目の的である女性――ジュラはさほど驚いてもいない様子で言う。ジュラの水着は派手を具現化したような水着だった。真っ赤なワイヤービキニに、ボトムはハイレグ。抜群のスタイルと相俟って、男なら目が釘付けになる事間違いなしである。二人は立ち上がり、メイアはため息を漏らし、クロウは狼狽した。

「なんでお前がいるんだよ!」

「そんなのアタシたちの勝手でしょ」

「・・・アタシたち? ってことはもしや・・・・・」

再び嫌な予感が過ぎる。杞憂でありますようにとクロウは祈る。しかし、これもまた撃沈した。

「あっ、お前ら!」

まるで変態でも見たかのような目で、少年――ヒビキはこちらを指差していた。

(勘弁してくれよ)

この場にいる者を無性に殴りたくなってきたクロウであった。

 

 

 

 

 

 

クロウは元居たパラソルの下でため息をつく。どうしてこうも二人っきりになりたい時に邪魔が入るのだろうか。何か作為的なものを感じざるをえない。

さらにため息をついた、その時だった。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉい! クロォォォォォォウ!」

数十メートル後ろから見たことのある男が人目を憚らず、奇声にも似た大声を上げている。男はサーフボード片手にこちらへと猪の如く突進してきている。

「ひっさしぶりいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!」

男はスーパーマンの要領で突っ込む。しかし、クロウは受け止めず、そのままヒラリと避ける。男はすさまじい勢いで砂浜へと頭から数メートルスライディングした。

数秒経って、突っ込んできた男は体を起こし、ブルブルと頭を振りかぶる。

「おいおい! 久しぶりの再会にしては随分と無愛想な対応だな、友よ」

「だったらマトモな歓迎をしてくれ、クルツ」

クロウは腕組み、砂まみれのクルツを睨む。

「・・・待てよ、お前がいるって事は―――」

「その通りだ。わが盟友よ」

「・・・・・」

クロウは憮然とした面持ちで振り向く。そこには親友のルーク。クルツの妻、リサ。そしてルークのフィアンセである女性がいた。

「久しぶり。またクルツが何かしでかしたみたいね」

「やっほー。久しぶり」

「その通りだリサ。しばらくぶりだなアカネ。相変わらず歌は絶好調のようだな」

「うん。今週新しいシングル出たから買ってね」

ルークのフィアンセ、アカネ・カミヤマはサングラスを直しながら言う。アカネは火星では特に売れている歌手である。最近発売した10thシングルである『ヴィーザル』は発売して一週間も経たずに火星中でミリオンセラーとなり、今、超売れっ子の若手歌手なのだ。

クロウはため息を吐き、呟く。

「まったく。8時・・・・じゃなくて、オールスター全員集合じゃねえかよこんちくしょう」

どうやら二人きりでイチャイチャラブラブは完全確実無理のようだ。

 

 

 

 

 

クロウは波打ち際でディータとヒビキとともにビーチボールで遊んでいた。メイアはというと、パラソルの下でリサとアカネと共になにか話し込んでいた。というよりも、二人がメイアに何かを吹き込んでいるかのように見える。

なにやらメイアは感心していたり、顔を赤らめていたりとしているが、妙に背筋に寒気がするのは気のせいだろうか。

その数メートル後ろではジュラが自慢のプロポーションを周りの男性に見せつけている。まあ、三角ビキニにハイレグの相乗効果なら当たり前だが。

(よくもまあ懲りずに)

もしかしたらいい男を見つけるために火星に残るのではないか? そう思うだけで寒気と吐き気がした。

 

 

 

 

 

バートは一人さびしく水着姿の女性陣を見ていた。ほとんどカップルだらけの砂浜と海は彼にとってはただの見せしめでしかない。

「とっとと帰りたい」

そう呟いた時だった。

「ねえ、バート」

「え?」

背後からの声にバートは振り向く。そこにはワンピースの水着を纏っているアマローネの姿があった。

「な、なに?」

「んーっとね。この水着、似合うかな?」

そう言うとアマローネはその場で見せびらかすように一回転した。アマローネの着ていたのはワンピースではなかった。モノキニだった。不意に素肌を見てしまったためか、バートは顔を赤くした。

「どお?」

「う、うん。似合ってると思うよ」

「えへへ・・・ありがと」

そう言うと、アマローネはバートの手を取り、走りながら波打ち際へと引っ張っていった。

「ほら、いっしょに遊ぼっ!」

「え、ええええええ!?」

なす術も無く、バートはアマローネに連れ去られていく。

(ちょ、これってなにかの伏線!?)

そう思うしかないバートであった。

 

 

 

 

 

「またアンタはぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「やっぱり鮫でサーフィンはNGィィィィィ!?」

「いやはや。仲睦まじい夫婦だな」

ルークは遠い目で一方的な蹂躙を見つめていた。隣にはサングラスにバイザーキャップで衆目から身を隠しているアカネが寄り添っている。

「ホント。私もああいう結婚生活がいいなぁ」

「ズタボコに殴るのは勘弁してくれよ?」

「あら? 別にあなたとは言ってないわよ」

辛辣な言葉にしょんぼりとルーク。しかし、めげず彼は気を持ち直し、アカネを真剣な面持ちで見やる。

「アカネ」

「何?」

「戦いが終わったら、結婚しよう」

「・・・・・え?」

いきなりの告白にアカネは目を剥いた。息をするのもわすれるほどの驚愕。婚約はしているが、いきなり言われては・・・・。

「すごい昔の映画のような言い方でごめんな。でも、ようやく言えた」

ルークは頬を朱に染め、恥ずかしげに髪を掻く。

「お前の返事を聞かせてくれ。アカネ」

「・・・・わたしは――――」

衆人の声と波の音が消えたような気がした。

 

 

 

 

 

 

クロウは帰りの車で、しかめっ面で運転していた。せっかく二人きりで海へ行こうと思ったら孤児たちを連れて行くことになり、海へと着いて見れば仲間や親友と会ったりと散々だった。ルークとアカネはやけにニヤニヤしていて、ヒビキとディータもいつもの如くイチャついていた。リンチしたいほど腹が立つ。バートがアマローネとくっついていたのはどうでもよかったが。

信号が赤になり、クロウはふとメイアを見た。穏やかな寝顔を浮かべている。

――癒される。

抱きしめて頬擦りしたいところだが、ここは大人の余裕で、妄想で済ますとしよう。

後部座席にいる子供らも穏やかな寝顔を浮かべている。憎らしいまでに愛らしい。

(人が良すぎるなぁ。俺は)

ハンドルを握ったまま、顔を俯かせるクロウだった。

 

 

 

 

 

翌日。昼。天気は雨。大雨。一日中雨。

クロウは窓ガラスの前で、水浸しの風景をボーッとした面持ちで見つめていた。

(・・・・ちくしょう)

どうしてこうも狙ったように天候がガラリと変わるのだろうか。神様はそうとう悪戯好きなのか。いや、そもそも・・・・。

(神様なんていねええええええええええええええ!)

心の中でクロウは叫んだ。その後、クロウは振り向く。そして、幼い子供達に絵本を読み聞かせているメイアをじっと見た。どうやらこの二日間で随分と子供達に好かれたようである。

フッ、と微笑んだその時だった。眠くなったのか、一人の子供が、メイアの太ももを枕にして眠り始めたのだ。

クロウは驚愕の形相の後、勢いよく立ち上がると、その子供に怒声を浴びせる。

「てめぇ、そこは俺の指定席じゃああああぁぁぁぁぁ!」

「誰が決めた誰がっ!」

直後、クロウの頬にスナップの利いたビンタが炸裂したという。

 

 

 

 

 

 

 

深夜。クロウはベッドの上で、未だ痛みの消えない頬を擦った。いつもの如く、服装は上半身裸に、ズボン。辺りはスタンドの灯りを消しているため、かなり暗い。

(結局、二人きりになれたのはベッドだけか・・・)

寂しい。寂しすぎる。もっと思い出のという物が作りたかった。せめてベッドの上で思い出を作ろうか・・・・と思ったが、それはメイアが反発すると思うので却下。

どうやら天は完全に見放したようである。

(鬱だ。死のうか)

本気で行動に移そうとロープを準備しようとした時だった。ペタペタと、足音が聞こえる。屋根裏に来るといえば、自分かメイアしかいない。ベッドで寝転がり、メイアが上がってくるのを待った。

(嗚呼、またあのケバいのを見なきゃならんのか・・・・)

つい先日までは笑っていたが、もはや笑う気にもなれない。それほどまで鬱。鬱。鬱。自殺する人間の気持ちが分かる気がする。

足音が消え、階段の踊り場に人の輪郭が見える。メイアである。クロウはスタンドの電気を点けた。

「遅かっ――――――」

言葉はそこで止まり、クロウは目を見開き、口をポカンと開け、唖然とした。

「・・・・そ、そんなにジロジロ見るな。恥ずかしい・・・・」

クロウが唖然としているのはメイアの服装であった。メイアが着ていたのは、ジェニーのお古のネグリジェではなかった。

「ジェニーさんが若い頃使ってたらしいんだが・・・・」

メイアがベビードール――ランジェリーの一種である。これは他のランジェリーと比較すると、嗜好性の強いランジェリーであり、視覚的インパクトが大きい。特に透けるというポイントは大きい。

「だ、だからっ! そんなにジロジロ見るなぁっ!」

見るなといわれても、着ている物の目的が見ろと言わんばかりなので、無理だ。

「綺麗だ・・・・・」

メイアのスタイルは、良く言えばスレンダーである。胸こそ貧乳といわれる部類ではあるが、腰から下にかけては芸術品ともいえる下半身の持ち主だ。

「え、ちょっと―――あっ・・・・・」

気づいた時には、メイアを抱きしめていた。さっきまでの自殺願望や思い出作りも全部どうでもよくなった。今はただ、彼女と共に居たい。

「・・・・・その・・・クロウ」

「ん?」

クロウは抱きしめていた手を離した。

「目、閉じてくれないか・・・・」

「? わかった・・・」

首を傾げながらも、言われたとおり、クロウは目を閉じる。その後、暫くして、突然頬を掴まれたと思ったら、不意に唇に柔らかい物体が触れた。それが唇だとわかったのは、すぐ後であった。

(え、ええええええええっ!?)

メイアからキスされるのは、思い起こせば初めてだ。一体どういうことか。半ば混乱した脳でクロウは思索しようとした。

しかし。

(な、なんですとー!?)

キスだけでも充分驚愕に値するのに、加えてメイアの舌がクロウの口内へと押し入ってきた。

「んふぅ・・・ちゅ・・・あ、はぁん・・・・」

メイアの喘ぎ声が脳髄に響き渡り、犯していく。正直、このまま感情に流されていきたい気分だが、一歩踏みとどまり、あくまでも冷静を保つ。

「・・・お前、随分と大胆になったな」

「んん・・・・、悪いか?」

「いや。むしろ大歓迎だ」

言うと、今度はクロウから唇を押し当て、舌を入れる。すると、負けじとメイアの舌も応戦に出た。

「んんんん〜・・・・んぅ〜・・・」

クロウはベッドに腰掛ける状態になると、メイアを膝の上に乗せ、抱きしめる状態となる。そのまま、クロウはさらに唇を押し当てる。

二人の口端から互いの唾液が滴り落ちる。ぴちゃぴちゃという水音が屋根裏部屋に響く。

「ン・・・・ん・・・ん・・・・・」

互いの舌が、互いの口内で暴れ回る。クロウの舌がメイアの舌の根を弄くりまわすと、負けじとメイアもクロウの舌の裏側を擦りあげた。

(・・・おや?)

よく見ると、メイアの顔全体が徐々に赤く変貌してきているのが分かった。酸欠しかかっている。これはマズイと思い、クロウは急いで唇を離した。

「ん、・・・ぷはっ・・・・・」

息苦しかったのか、メイアは半ば放心状態のまま、肩で息をした。

「大丈夫か? つーか苦しいなら離せよ」

「ふぅ・・・・だって・・・・・・その・・・・」

「ん?」

「・・・・・クセに、なりそうだから」

メイアは恥ずかしげに再び唇を重ね、舌を入れる。

(なんとまぁ。絶対アカネとリサの入れ知恵だな、こりゃ)

クロウは抱きしめると、静かに唇を離し、メイアをベッドに押し倒す。そして、手際よくベビードールを脱がす。

「・・・クロウ」

「・・・・うん?」

首を傾げるクロウに、メイアは体を少し起こし、クロウの耳元で囁く。

「やさしく・・・・・して」

そこで、理性の糸が切れた。

 

 

 

 

 

    これ以上は諸事情によりお見せする事ができません。ご了承ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

クロウはコックピットのディスプレイ越しに、真っ黒の曇天が支配する空を見上げた。彼は今、自機セイヴァーと共に、ルークやクルツ、リサと共に試験機体の性能実験の為、ムスペルの外れに位置する荒地の基地が米粒に見えるほど、遥か上空に滞空していた。

『こっちは準備OKだ。そっちは――――って、おーい。生きてるかー?』

「え―――――? あ、すまん。こっちも準備OKだ。とっとと始めよう」

サブディスプレイに映るルークは心配そうにクロウを見ている。

『・・・・・彼女と離れているのが辛いか?』

「・・・・ああ。柄でもないがな」

メイアとは今朝、ヨトゥンの基地で別れた。無理に笑顔を取り繕っていたのがとても痛ましく見えた。それはお互い様かもしれないが。

(別にもう会えないってわけじゃねえ。基地でも運が良けりゃ会えるかもしれないんだ。なに気を落としてるんだ、俺は)

クロウは気を取り直すと、一度深呼吸し、気合を入れる。

「――――よし、やるぞ。ルーク!」

『おう。行くぞっ!』

荒地の空の上で、爆音が響き、火花が激しく散った。

 

 

 

 

 

 

 

補足:今回諸事情により載せられなかった、いわゆる“18禁シーン”は希望者のみ配布します。欲しい方は、メールにてご注文してください。HNと理由(一言「ください」とでも構いません)を御忘れずに。

当たり前ですが、年齢、もしくは精神的に18歳以上の方に配布である事を忘れずに。

私の作品の感想があればもっとやる気が上がって、またやるかもしれません。

 

 

 

 

 


作者ホウレイさんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板に下さると嬉しいです。