VANDREAD The Third Stage
♯2 キミがいる
「・・・・・よしっ・・・と。ふう・・・・」
艦内のポッド射出室でクロウは呟いた。
本部に送るべき情報は送った。これで、あとは届くのを祈るしかない。
「・・・・・・・・戦友の死を無駄にせず、生きるために、ってか・・・」
そう呟くと、クロウは部屋を後にした。
と、その時だった。
「・・・・・・!」
突如としてクロウの足が止まった。
まるで―
―誰かに呼ばれたかのように―
「ふむ・・・やっぱり・・」
手に顎を乗せながら、クロウは呟いた。
目の前には、ペークシス・プラグマがある。それを、クロウは不敵な笑みを浮かべながらまじまじと見つめていた。
「で、なんで俺を呼んだのかな、ペークシス君?」
クロウはまるでそこに一人の人間がいるが如く、ペークシスに話しかけた。はたから見れば、変人に見られる行為だ。
「・・・・・急にダンマリかよ。そっちからアプローチしたのによ」
フン、と鼻を鳴らしその場から立ち去ろうとし、ペークシスに背中を向けた、次の瞬間、
“ヒュン・・・”
突如、ペークシスから触手の様なモノが飛び出し、クロウを掴んだ。
そしてクロウは悲鳴を上げる間も無く、ペークシスの内部へと取り込まれた。
一面が青緑色。クロウはそんな場所にいた。
「ココは・・・ペークシスの中か?」
辺りを見回すが、やはりどこを見ても青緑色だった。
「強烈なアプローチなこったぜ、まったく」
顔をしかめ、腕を組み、宇宙空間にいるが如くクロウはその場をフヨフヨと浮いていた。
と、直後クロウの周りにとても大きなスクリーンのようなものが現れた。
スクリーンに映されたのは荒廃した建物、そして―
―死体の山。
「やめろ・・・・・」
クロウの顔がみるみる青ざめていく。
―人型戦闘機が撃墜されるシーン、建物が次々と爆散していくシーン。
「やめろおおおおおおおおおおお!」
―ホワイトアウト。
目を開いた彼の目に映ったのは、数十メートル上にある天井だった。
「・・・・・!?」
なぜだか知らないが、ペークシスの近くで大の字でうつ伏せになっていた。
―耳鳴りがする、頭がボーッとする。
「んんんんん・・・・・何だってンだ?」
頭の中を掻き回されたような、変な感覚。ペークシスが自分の記憶をいじくっていた―あくまでも推測だが―せいだろうか?
とりあえず、耳鳴りが治った。だが、聞こえたのは静寂ではなかった。
警報だ。
耳元で警報がうるさく劈く。
「敵かぁ」
平然とした面持ちでクロウは言った。
すると、上方から警報に負けないほどの大声が聞こえた。
「コラーーーーーーー! 何やってるピョローーーーーーーーー!」
気だるそうに見上げた。卵型のナゲーションロボ―ピョロ、とか言ったか―がクロウに向かってやかましく叫んでいる。
「出撃してないのはオマエだけだピョロよ! 早く行くピョローーーー!」
―あっ。
そういえば、交渉の際に敵が来た場合は自分も出撃する、と約束していた。すぐ行かないと、あとで何をされるかわからない。
早く行こう。クロウは心に決めた。
「わかった。すぐ行く!」
そう言うと、クロウは数歩後ろに下がる。
そして―
「!?」
ピョロは自分の目―もとい、カメラアイ―を疑った。
さっきまで数十メートル下にいた人間が、自分と同じ高さまで跳躍している。
ガシャアアアアアアアアン!
大きな音をたて、クロウは着地した。
「・・・・・・・・」
我を失っているピョロは、格納庫へと向かうクロウを見ているしかなかった。
「計器、オールグリーン。ブースター、その他諸々・・・・よし」
ヴン、という音とともに機体が浮く。そして、コンソールに手を置く。深呼吸をし、目の前に広がる宇宙を見据えた。
「っしゃあ! 行くぜェ!」
轟音とともに、漆黒の機体が宇宙へと駆けた。
「っだあ、クソッ! しつこいしつこいしつこい!」
あいも変わらない猪突猛進の戦い方のせいで、ヒビキは敵に追い詰められていた。ドレッド隊もあまりのキューブの数に近づけずにいた。
一言で言えば、絶体絶命だ。
「げっ・・・・」
そう呟くと、ヒビキは機体を急停止させた。いつの間にか、360度、敵に囲まれていたのだ。そして確認するのも束の間、一斉に襲い掛かってきた。
と、次の瞬間。
ピー、ピー
レーダーが急速に接近する物体を捉えた。証拠に、どんどん電子音が大きくなってきている。
バキャァ!
突如、キューブがひしゃげた。というより、弾丸のような物体が正面衝突した感じだ。
キューブがモノアイを激しく動かす。ヒビキの目の前にいる機体は漆黒に固められ、宇宙空間の暗黒が迷彩と化している。
こんな悪趣味の機体はあいつしか乗らない。
他ならぬ、反地球連盟軍所属、クロウ・ラウ大尉だ。
『その程度の腕前じゃ、火星まで行けねぇぞ。ヒビキ・トカイ』
その声は、自信に満ち溢れていた。
あいつは一体何者だ? バケモノか? そもそも人間か? 人間の皮をかぶったエイリアンか?
「おい」
そもそも普通の人間が敵を倒した0.1秒後に、さらに真後ろにいた敵五機を一瞬で倒せるのだろうか? いくら軍で訓練したとはいえ、あまりにも度が過ぎている。
・
・・・・もしかしたら、本当にバケモノなのだろうか?
「おいってば」
というよりあの時―自分が人質に取られた時―、どう見てもあの運動神経はあからさまに人間を逸脱している。軍人だから、という言い訳は―。
むにー
突如、思考が中断された。目の前にいる男―クロウ・ラウに両頬を左右に引っ張られている。
「あにをひへいふ?」
「・・・・お前が返事しないから、頬を引っ張ってるんだ。それにしてもお前の頬はやわらかいな」
そう言うと、クロウは手を離した。引っ張った頬が少し赤くなっていた。
食事をしていたが、いつの間にかボーッとしていたようだ。目の前の理も湯気が立っていたのに、今は長時間冷蔵庫ジュースのように冷たい。
仕方ない、と思いながらメイアは言った。
「ちょうどいい。お前に質問したいことがある」
その言葉にクロウの頬が緩んだ。
「ナンだ? 答えられる範囲なら何でも答えるぜ」
「・・・・・まず、お前の運動神経についてだ」
フッと鼻で笑うと、クロウは軍服を捲くり自分の上腕二頭筋を見せた。
「まあ、簡潔に言えばオレの筋肉は全部人工的に作った物だ。そんで、反射神経とかは手術でどうにかしたのさ。・・・・・もっと詳しく聞くか?」
特に驚いた様子も無く、メイアは頷いた。
「オレの筋肉という筋肉は全て人工筋肉だ。人工筋肉っつーのは、文字通り人工的に作った筋肉だ。元々は民間用だったが、オレや軍の使っているタイプはそれを軍用にしたモノだ。」
「なぜ軍用にしたりする?」
メイアは首を傾げた。
「使えるものをオモチャにしたがるのは軍の癖なのさ」
ニヤッと、呆れた様な笑顔だった。
「さて、と」
頬杖を突き、クロウは目を左右に揺らした。
「他に質問のある奴は?」
クロウの言葉に、周りにいたクルーがピクリと動いた。どうやら、周りが聞き耳を立てていたのを気づいたようだ。周りのクルーは、恥ずかしげに頬を赤らめていた。
クロウは目の前に広がる宇宙を眺めながら、物思いにふけっていた。
―火星軍第十二艦隊の任務は、マグノ海賊団を説得。成功次第、本部である火星へと護衛・・・・のはずだった。
「オレを除いて全滅か。オレに憑いているのは幸運の女神なのか、疫病神か、よくわかんねぇなぁ」
はあ、とため息をついた。
―この任務が終了すれば軍を退くつもりなのに、まずます引けなくなってきやがった。まったく、自分の運の悪さが嫌になる。
だが、この任務を引き受けられたのは自分にとって喜ばしい事だ。軍の奴らよりもクセのある者たちばかり。しかも大半が女だ。しばらくは“おもしろいコト”には困らないだろう。
火星まではあと半年ほどであろう。それまでの間、いい思い出を作っておくか。
ふと、クロウの頬が緩んだ。
あとがき え〜、一話からどんくらい経ったでしょうか。自分自身でもよくわかりません。 orz
そのくせ、内容は薄っぺらい・・・・・・・すんません。
次回まで気長に待ってください。お願いします orz