VANDREAD The Third Stage
♯1 夜明けまえ
地球から遠く離れた場所にある、とある恒星系。
そこにタラークとメジェールはある。
つい半年ほど前、その二つの国は地球からの刈り取り部隊―それも、反地球勢力で最も力のある火星軍の四十パーセントを破壊した艦隊―を撃破した。
この戦果は、反地球勢力にとって、大きな希望の星となったのである。
すぐさま反地球連盟軍―Anti-Earth League Force、AELF―の本拠地、火星軍は大使達を乗せた戦艦を派遣した。
そしてこれが、終わりを告げる鐘の始まりであった。
今、アジトは三ヶ月ぶりに盛り上がっていた。
二次目の選抜で選ばれた男達が来るからである。
一次目は大半が一等民の軍人だったが、今回は七:三の割合で軍人と民間人らしい。
アジトのドッキングボートはクルーで溢れかえっていた。
一次目の男はあまりカッコイイ男はいなかったが、今回はなるべく顔よし、性格よしの男を選んだという情報が入った。
そんな中、ディータ・リーベライはウズウズとしながら、シャトルのドアが開くのを待っていた。
パシュウ、と音とともに、ドアが開く。
次の瞬間、ディータは人波を掻き分け、彼に向かって走った。
「ヒビキぃ〜〜!!」
「のわ!!!!」
ディータ首を抱きつかれたヒビキ・トカイはそのまま押し倒された。
それを見たメイア・ギズボーンは呆れながら首を振った。
「オイ、コラ!離れろっつうの!」
抱きついていたディータを引き剥がし、ヒビキは、
「・・・・ただいま」
と頬を赤らめながら言った。
「ヒビキ、イチャつくのもそれくらいにしてくれないかな? 後ろが詰まってるンだけど?」
冷ややかな目と口調で、バート・ガルザスは言った。
「の言うとおりだ」
別の意味で、冷ややかに、ドゥエロ・マクファイルは言った。
「わかってるさ、ったく・・・」
頭を掻きながら、ヒビキは呟くように言った。
と、直後、サイレンが響いた。
「お頭、大変です!!」
最寄りのモニターに、管制室にいたアマローネが映った。
「どうしたンだい?」
「磁気嵐より地球の戦艦を確認! 刈り取り艦です!」
一同は驚愕した面持ちになった。
「クッ、第一級戦闘配備! 保安クルーは避難を急がせろ!」
ブザムが声を張り上げる。
それと共に、ヒビキ達は格納庫へと駆け出した。
「あいつら、ナンでこう忙しい時にやってくるンだ!」
「ぼやくな。 各チームフォーメンション、アルファ−2!」
メイアの言葉とともに、ドレッド隊がフォーメーションを組む。
時を同じく、十隻のピロシキから無数のピロシキが現れ、そして、それぞれ偽ヴァンドレッドと変身した。
「チィ! おい、いくぞ!」
「は〜い!」
直後、宇宙に青緑色の閃光が走り、そこに蒼き巨人、ヴァンドレッド・ディータが現れた。
「くらえええぇぇぇぇぇ!!」
ヒビキの咆哮とともに、ヴァンドレッド・ディータのペークシス・キャノンからビームが発射した。
それとともに無数の火球が広がった
「ぃよし!」
ガッツポーズを決め、ニヤリと笑う。
と、直後、あの赤い光がヴァンドレッド・ディータを襲った。
「ぐああぁぁ!」
「きゃああぁぁ!」
悲鳴とともに機体が分離する。
何とか機体を持ち直したヒビキは、衝撃で打った後頭部を擦った。
「イッテェ〜・・・」
次の瞬間、ヒビキの目の前に、偽ヴァンドレッド・ディータが今にも襲い掛かろうとしていた。
「お頭、磁気嵐より猛スピードで何かが接近中です!」
アマローネが言った。
「何か? 何もわからないのかい?」
マグノは怪訝そうな面持ちで言った。
「もしかしたら・・・・地球の新手かもしれませんね」
ブザムは磁気嵐を睨みつけた。
次の瞬間、磁気嵐からその“何か”が現れた。
戦闘機だが、微妙にヘンな感じだった。
モニターで“何か”を見たパルフェは直感で判断した。
“可変型戦闘機”である、と。
人型の部分は仰向けになっており、脚部は人間で言う踵から膝にかけて折りたたまれ、人型部分にピッタリとはまっている二対のキャノン砲には、申し訳程度に翼がついている。
戦闘機の二対のキャノン砲からビームが放たれた。
そのビームはヒビキを襲おうとしていた偽ヴァンドレッド・ディータの頭部をあっけなく破壊した。
機体は旋回し、変形を解除した。
そして一直線に進み、腰に装備していたブレードを引き抜き、キューブを横一閃に斬り、さらに背後にいたキューブを勢いよく裏拳を食らわした。
ものの数分で戦闘は終わった。
ヒビキはあの機体を凝視していた。
ボディは黒そのもの。そして鋭角的かつスマートな機体。背中にはキャノン砲を搭載している。
全体的にヴァンガードに似ている。
どうであれ、敵ではない、という思いがよぎった。
直後、機体が振り向いた。
モノアイがヒビキ機を捉え、そのまま十数秒が過ぎた。
「一体ナン・・・・」
次の瞬間、ドッ!っというとともに、目の前の機体が消えた。
いや、消えたのではない。
背後に移動したのである。
直後、ヒビキは気づき、急加速で間合いをとった。
と、次の瞬間、機体はブレードを引き抜き、襲いかかった。
ヒビキもすかさずブレードを抜いた。
ブレードが交差し、大量の火花が飛び散る。
だが、長くは続かなかった。
信じられないスピードで黒い機体に押し切られ、そのまま突き飛ばされた。
すぐさま体勢を立て直すが、そこに黒い機体はいなかった。
「ヒビキ、上だ!」
メイアが言った。
だが、気づいた時にはもう遅かった。
黒い機体は飛行形態へと変形し、自機の真後ろへと急降下していた。
構える隙も無く、ヒビキ機は人型へと解除した黒い機体に、ブレードを首の回路スレスレに突きつけられていた。
少しでも腕を動かせば頭部を切断できる体勢だ。
『そんな腕前で、よく地球の奴らを倒せたモンだな』
黒い機体は構えを解いた。そして右腕を腰に構える、ナメているかのようなポーズ。
さらに、若い男の声。
『まあ、そんなことはどうでもいい。オレは海賊の頭に会いたいンでね』
漆黒の機体のパイロットはマグノの承諾を得て格納庫へと入った。
パシュゥ、と音とともにコックピットが開く。
すかさず保安クルーがショックガンを構える。
そして、ゆっくりと両手を上げた男が出てきた。
機体と同じく漆黒の長髪の男性。顔立ちもけっこう良い。
ねずみ色の迷彩色の軍服を着ている。
「・・・まぁ、そんなにカリカリせずに。クールにいこうぜ、クールに」
次の瞬間、男は目にもとまらぬ速さで腰のホルスターから二丁の拳銃を取り出し、鋭い目つきとともに、保安クルーへと構えた。
数秒後、突然男はフッ、と鼻で笑い、カートリッジを取り出し、銃を投げ捨てた。
「冗談だ、冗談。気にするな。さあ、アンタらの頭のトコに連れて行ってくれ」
「・・・・・・・」
保安クルーは男にショックガンを突きつけながら、連行していった。
男はそのままミーティングルームへと連れて行かれた。
中にはマグノ、ブザム、メイアなどの主要メンバーが居る。
男は髪をクシャクシャと掻き、中へと入った。
「・・・クロウ・ラウだ。階級は大尉。反地球連盟軍所属、火星からアンタたちを連れて来て欲しいと上層部から頼まれてわざわざやって来た。以上」
そう言うと、クロウは髪をクシャクシャと掻いた。
「とまぁ、そういうわけだ。よろしく頼む」
「現在、オレたち反地球連盟軍の主戦力である火星と木星は地球に向けて攻撃をしようとしている。勿論、降伏させる為だがな」
「降伏? どういう事だい?」
マグノは顔をしかめながら言った。
「・・・まあ、太陽系の実状を知らねえンじゃ、オレ達の真意も分かるはずもないか・・・・・・・簡潔に言えば、オレ達は地球の滅亡を望んではいない。地球にいる全員が悪いわけじゃない。どっかでノンビリとしているお偉いさん方さ」
クロウは皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「で、なぜ私達が必要なんだ?」
メイアが言った。いつになく鋭い目つきだったが、クロウは全く気にすることなく答えた。
「ウチらの兵器開発班がペークシスのエネルギーを使うキャノン砲を開発したンだけど・・・・地球側のシールドがバカみたいに強力でね、エネルギーの出力上げて威力を上げようとすると、キャノン砲がエネルギーに耐え切れなくなって、内側からブッ飛ぶ。かといって威力下げて連発させると同じにようにブッ飛ぶ。今の火星の技術じゃ、エネルギーに耐えうるモノがない。開発班の連中、頭が狂いかけてね。・・・で、アンタらの兵器の情報が入ったってワケさ」
クロウは前髪を掻き揚げた。
「で、四カ月かけて磁気嵐まで来たのはよかったンだが、途中で襲撃されてな。俺だけがナンとか脱出した。あとはアンタら見たとおりだ」
ふぅ、とクロウは息をついた。
「で、アンタ、どういう任務を受けてきたンだい?」
マグノの声にクロウはまた頭をクシャクシャと掻いた。
「両惑星に到着次第、交渉。そんで成功したら俺達に同行・・・・だったんだが、何もかもブッ壊れちまったからなぁ。仕方ないが、アンタらの船に同行してくれないか? もちろん、交渉が成立したらの話だがな」
「もし、拒否したら?」
「成立させるまで説得するに決まっているだろう」
はぁ、とマグノは息を吐いた。諦めるしかない。そうしないと、ストレスで死んでしまいそうだ。
「やっぱビールよりもワインのほうが美味いな、うん」
ゴクッと喉を鳴らしながらクロウはワインを飲み干した。
彼はパーティー会場にいる。腹が減ったというので、ココに来たにすぎないが。
クロウはチラッと横を見た。顔を真っ赤にした男たちがドンチャン騒いでいる。
加わりたい、という思念が過ぎったが、二日酔いでマグノ達に会ったら何と言われるか分からないので、すぐに諦めた。まあ、自分で言うのもナンだが、酒にはけっこう強いほうではあるが。
そしてまたチラッと横を見た。
青髪の女性―確か、メイアとかいう名前だったような―が男性を連れて会場から出て行った。
なぜだろう、第六感がヤバいと告げている。
クロウは少し考えこむと、グラスを置き、彼らの後を追った。
「すみません、野暮なこときいてしまって・・・」
「いや、うろ覚えしていた私も・・・な。うぅむ、来ればわかると思ったンだが・・・」
人差し指を額に当て、考えこんだ。思い出せない。どこだったろうか。
「う〜む・・・・・」
直後、男性がニヤリと笑った。そして、ゆっくりと手を腰へと伸ばす―。
「動くな」
後ろから声がした。2人は同時に声のほうを振り向いた。
そこには、漆黒の銃を構えている、黒髪の男―クロウ・ラウであった。
メイアは呆然とした。目の前にいる男は銃を向けている。なにかしただろうか。心当たりはない。だが、
「おい、テメェ。その手はナンだ?」
クロウは男の方を見た。
「え・・・・?」
メイアは男の手を見た。明らかに何かを出そうとしている。
少なくとも、自分は狙われていない。
「どうせソイツを人質にするつもりなんだろう? 軍から派遣された、海賊を人質に取れと命令された軍人さんよぉ?」
男の顔がすこし強張った。どうやら図星のようだ。
「何故わかった?」
男は静かに言った。
「直感さ。自分で言うのもナンだが、オレのカンは良く当たるンでね」
クロウは不敵な笑みを浮かべた。そして、銃を内ポケットにしまった。
メイアはまた呆然とした。なぜ、敵を目の前に銃をしまったのか?
直後、見計らったかのように男がクロウに向かって走った。そして腰からナイフを出し、逆手持ちでクロウへと突き刺し―。
「なっ、う、わあ!」
次の瞬間、男は一本背負いのような形で背中から床へと叩きつけられた。男の目が確かなら、自分のナイフは黒髪の男に刺そうした瞬間、人差し指と中指に挟まれ、止められた。そしていとも簡単にへし折られ、自分は床へと叩きつけられた。
「さて、話してもらおうかな?」
男はクロウによってうつ伏せの状態にされた。
「誰が・・・・キサマなんぞに・・・・・」
男は歯を剥き出しにしてクロウを睨みつけた。しかし、クロウはため息をつき、首を振った。そして懐から銃を取り出し、男へと突きつける。
「男は諦めが肝心だぜ。言え」
「絶対に・・・・言わん」
クロウはまたため息をつくと、当たり前の如く、男に向けて撃った。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!あ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛!」
銃弾は男の太腿を貫いた。あたりに血が流れる。
クロウは撃鉄を引いた。
「どうだ、言う気になったか?」
「ぐうぅ、ああぁぁ・・・・・・ぜ、絶対に・・・・・言うものか」
クロウはウンザリした。こうなったらもう一発。
ドン、と轟音が鳴り響く。
男の悲鳴が鳴り響いた。うるさかった。
「どうだ、言う気になったか?」
クロウは屈み、男の目を見ながら言った。
「わ、わかった。言う、言うから撃たないでくれぇ・・・!」
フッ、と鼻を鳴らすと、クロウは銃をしまった。
それから、まあ、銃声を聞きつけたマグノ達に事情を話したり、あの男の仲間が見つかったり、任務を与えた上層部の人間を捕まったというニュースが入ったり、二日間で色々な事が起こった。
「とうとう・・・ですか」
レベッカは物悲しい面持ちで火星へと向かうことを決めたマグノ達を見送りに来たのだ。
彼女だって、彼らと共に行きたいのだ。
じゃあ、誰がココの指揮をとらなければならないのか。
結局、論争の末に、ジャンケンで決め、レベッカは残る事になった。
「ああ、カルーア・・・・」
レベッカの顔が、今にも死にそうな面持ちだったのは、言うまでもないが。
こうして、ニル・ヴァーナは漆黒の宇宙へと旅立った。
目指すは、反地球連盟軍本拠地、火星。
あとがき ゴメンナサイ・・・・_| ̄|○
こんな文章に何ヶ月もかけてしまってスイマセン。もう部活やら定期考査やらいそがしくてもう。ゲームに費やす時間は惜しみませんが(死)
え〜・・・・・・・・最終話まで何年・・・ゲフンゲフン、どのくらいかかるか分かりませんが、気長に待ってください。
作者さんへの感想、指摘等ありましたらお気軽にこちらまでどうぞ