G.O.D
あなたは、違う世界があるとしたら、信じますか?
第一話 The
different world
「ねー、蓮。つまんない」
「桃華、俺は今ひじょーに―」
「だって全部終わっちゃったんだもん、宿題」
「はあ・・・・」
静寂なる図書館には、一組のカップル―天美
蓮と伊野咲
桃華しかいない。外はもう日が傾き始め、外灯もちらほら点きはじめている。時計はもう6時半を回っている。
そして季節は夏。日の出る時間が一番長い季節だ。
「・・・・」
一週間前、デートを兼ねての勉強、と桃華は言っていたが、これはデートというものなぼだろうかと質問するのは怖いのでやめた。
夏休みは31日まで遊ぶもの。勉強なんてさらさらする気など無かったが、桃華が一緒に勉強したら毎日ぎゅーっとしてくれると言うので喜び勇んで来たものの・・・・・・・桃華はあっという間に山ほどあった数学の宿題を終えてしまった。
「むー・・・・・・」
桃華はムスッとした面持ちで席を離れた。蓮がどうした、と言うと、気分転換、と素っ気無く言い、 “文学”の蔵書へと向かった。
桃華が持ってきた本はやたらと分厚く、重そうで、なにより、かなり古びている。
「んしょ、う、う、う・・・っしょいと」
本を机に置いた途端、ドン、と鳴った。見た目通りかなりの重量であるのは確かだ。
本のタイトルは―
「・・・・英語でもフランス語でもロシア語でもないわね。何て読むのかしら、コレ?」
なんというか・・・達筆な字と言うか宇宙語で書かれていると言うか・・・まったく読めない。校内で有数の秀才である桃華でも読めないなら、体育以外の成績がオール1になりかけた蓮が読めるワケがない。
読もうと必死になっている桃華を尻目に、蓮は宿題を続けた。
「・・・・・・あれ?」
突然、桃華があっけらかんと言った。
「どした?」
「・・・・・読めた」
ダルそうに言う蓮に桃華は蓮を引き寄せた。
「ホントに?」
「うん・・・・・・何でかわかんないけど・・・・・えぇと・・・“この書、我らとは違う世界を繋ぐ書なり。この世界に存在する者よ、もうひとつの世界に行きたくば下記の呪文を唱えよ”・・・だって。読んでみる?」
桃華の言葉に、蓮は小さく首を縦に振った。
「万世を統べる龍の神たちよ、それぞれの持つ力により我、もしくは我らを異世界へと導きたまえ・・・・・・・・きゃっ!」
桃華がワケのわからない言葉を言った直後、二人の足元に星のような形の紋章が現れた。
それと同時に、地に足がついてない感覚に襲われた。
二人は恐る恐る、自分の足を見た。
―消えている。
それどころではない。今はもう腹の辺りまで消えかかっている。このままでは全身まで・・・・。
蓮はどうしていいかわからなかった。足は消えて動かない。桃華は怯えた目で蓮を見ている。
「どうしよう・・・・」
声が震えている。蓮は自分の手を見た。
もう透けかかっている。
蓮は生唾を飲んだ。覚悟を・・・決めるか?
そして、こう言い放った。
「なるように、なる」
次の瞬間、意識が飛んだ。
ほぼ一瞬だった。足元にあった紋章は無い。今はあるどこまでも続くと思われる雨上がりの後の湿った大地だ。
そして漆黒の夜。外灯なんて無い。
「・・・・・図書館じゃ、ないな」
「うん・・・・」
「どこなんだ、ココ?」
「・・・・・・わかんない」
蓮は辺りを見回した。本ばかりあった棚は、今は廃屋と思われる家や草木が生い茂っている。そして桃華の手にはあの書物があるのが確認できた。
少なくとも、ココは日本ではないと、直感が呟いた。
悲鳴が聞こえた。同時に、こちらに向かってくるという勘がした。
ガサッ
物音がし、後ろを見た。
「・・・・・・・・・・」
二人は口をポカンと開け、呆然とした。
目の前にいるのは熊に似ているが、あまりにも大きすぎるし、牙ははみ出るほど大きく、鋭い。
ゲームやマンガで見るような、そう、魔物のようであった。
―逃げろ。早く!
蓮はまだ呆気にとられている桃華の手を引き、息が続く限り走った。走った。走った。走った。
一分くらいだろうか、いや五分だろうか。どっちにしろかなりの距離を走ったのは確かだ。ここまで全力で走ったのは自分の記憶が正しければ、中学3年生の頃、200メートル走を一位で独走していた時、運悪くコケてしまい一気に最下位まで転落。が、タダでは終わらんと踏ん張って死に物狂いで走って、結果はなんと一位。これ以降バケモノだとかスーパーマンだとか言われたが。
―それはどうでもいいとして。
「振り切った、みたいだ、な・・・・」
ぜエゼエと息を切らしながらも安堵の息をついた。
桃華の安全を確認すべく、後ろを見た。
「あれ・・・・?」
桃華が・・・・
「いない!?」
夢中で走っていたせいで途中で置いてしまったのだろう。
これは、大変だ。
蓮はまた走った。走った。走った・・・・・・。
「あっ!」
蓮の目には、恐怖のあまりへたり込んでいる桃華に今にもあの熊―のような怪物―が襲いかかろうとしている。しかも、5匹も。
チッ、と舌を打つと、近くに落ちていた太い木の幹を剣のように持ち、桃華をの目の前に躍り出た。。
「れ、蓮・・・」
「逃げろ!」
「でも―」
「逃げろって言ってんだろ!」
蓮の気迫に押され、桃華は蓮が来た道を走っていった。
「・・・・死んじまうかな、俺」
自虐的に呟いた。
たとえ刀剣類があったとしても、そのテでは素人の蓮では5匹はいくらなんでもキツい。間違いなく殺される。
逃げる途中で見た、真っ赤な血を当たりに散らばし、咀嚼された死体のように。
怪物達は低い唸り声を上げ、蓮を見ている。負けじと蓮も睨み返すが、腰がひけている。
覚悟を、決めるしかない。
「うおおおおお!」
目の前にいた怪物に向かって、木の幹を振りかざした。見事に頭に命中した
が、まったくダメージになっていなかった。
しかも木の幹が折れた。これで丸腰となってしまった。絶体絶命、というやつだ。
「くそっ」
折れた木の幹を捨て、逃げようとした。
しかし、いつのまにか怪物は蓮を取り囲む形になっていた。
「・・・・・・桃華・・・・」
ふいに、恋人の名を呼んだ。目を閉じ、痛みが来るのを待つかのように身構えた。
ヒュン・・・・・!
一瞬だけ突風が吹いた。まるで心が洗われるような。
次の瞬間、蓮を襲おうとした怪物の動きが止まった。
直後、怪物は胸の辺りを境に、体が地面へと落ち、残った腹から下の部分が噴水の如く血を噴き出した。
蓮は呆然とした。怪物の死体を見たからではない。
―目の前にいる、全身黄緑色の鎧を纏った剣士を見たからだ。
鎧を纏った剣士は蓮を一瞥すると、剣を肩に乗せ怪物に近づいていった。
怪物たちは後ずさりをした。本能的に、“力量が違いすぎる相手”だと認識したのだろう。唸ってはいるが、腰がひけている。
また一陣の風が吹いた。
それと同時に怪物がサイの目に切り刻まれた。
蓮は焚き火の火を見つめていた。隣には桃華がいる。あの剣士は、どうやら桃華がたまたま通りがかりの剣士を呼んだらしい。
だが、蓮にはあの剣士が普通の人間には見えなかった。
あの後、剣士は蓮に大丈夫か、と尋ねた。蓮は頷くと、剣士はなんと鎧を文字通り消した。
透けるように消えたのだ。
「ワケわかんねえ・・・」
そう呟くと、魚を右手にぶら下げながらあの剣士が帰ってきた。
彼は自分の名を、ウェッド・アルバーンと名乗った。
両頬に一文字傷のある男性だった。
「さて・・・・・・」
ウェッドは串で魚を刺し、火に近づけるのを終えると顎に手を乗せ、微笑を浮かべながら言った。
「キミたちについて教えてくれるかい?」
蓮の心臓が一際ドキンと高鳴った。
どうする。自分たちはこことは違う世界から来てしまった、と言って信じてもらえるだろうか。
何度も言い訳が浮かんでは消滅した。
と、その時、
「ウェッド様ぁ〜〜〜! 見回り終わりましたぁ〜!」
静寂を打ち破る底抜けに明るい声が響いた。
それとともに、ウェッドが落胆のようなため息をついた。
そして、近くの雑林から声の張本人が飛んできた。
「よ、妖精・・・・?」
桃華がヒクつきながら呟いた。体はおおよそ30cmほどで、背中には人差し指ほどの羽が左右に二枚ほどついている。。
蓮は改めて、ここが自分たちとは違う世界であると認識した。
「リーマ、動物たちが起きるだろうが。静かにしろ」
ウェッドが幼い子をたしなめるように言った。
一方、リーマはというと、これまた底抜けに明るい声ではーい、と返事をした。まるで反省してないようだ。
リーマはクルリと向きを変ると、蓮と目が合った。リーマは少し驚いた顔をすると、蓮と桃華の周りをハエのように飛び回り、二人の服、そして桃華の手にある本をしげしげと眺めると、急にパッと顔が明るくなった。
「あの、突然ですいませんが・・・もしかしてあなた達、その本で私たちとは違う世界から来ました?」
ズイズイと近寄られ、蓮は少々後ずさりしながらも
「う、うん。そうみたい・・・・・」
と言った。
直後、リーマが歓喜の声を上げた。その声、桃華がでんぐり返ってしまったほどだ。
「やったやった! 魔導書見つけたぁー! 異世界の人も見つけたー! バンザーイ!」
万歳をしながらまわりブンブンとリーマ。蓮は、なんとなくはたき落としたくなったが、思いとどまった。
「異世界って、お前がいつも言ってる・・・アレか? もう一つの世界がうんたらかんたらって」
ウェッドが魚に齧りつきながら言った。
「はい! 数少ない古代技術の一つである魔導書。もう一つの世界にまだ存在してたなんて・・・・」
「まだ? どういう意味なの?」
「古代技術というのは何万年もの昔に滅んだんです。で、古代の人たちは自分たちとは違う世界を行き来できたらしいんです。それが、魔導書なんです」
「・・つまりだ」
ウェッドが蓮と桃華を交互に見た。
「キミたちは異世界から来たってことだな?」
隠してもしょうがない。二人は一瞬、目を合わせると真剣な目つきで頷いた。
「この世界には東西二つの大陸。東の大陸がユフティアント。西の大陸がガルミア。今俺たちがいる大陸はユフティアントだ。場所は・・・・おおよそ南だな」
地面に地図を広げ、東側の大陸を指差した。
「古代技術に関連する本は大陸中央にある王都ノルヴァンにあると聞く。だとすると、最低一ヶ月はかかることになるな」
「ウェッド様ぁ。その前に、風の龍神さまの聖地へと向かった方がいいですよぉ」
「龍神?」
蓮が言った。
「そうか、言ってなかったな」
ウェッドが地面に星のような紋章を書いた。
「この世界は龍神という神様が居てな、それぞれ炎、水、風、大地、雷、闇、光の力を持っているんだ。龍神は時が来ると御使いを―リーマのような妖精だ―向かわせ、適格者を見つけ、自分の所へと向かわせ試練を与える。そして試練をクリアした者は、龍神の力を与えてもらい、化身と化す・・・・とリーマが言っていた」
星の端をそれぞれを突きながら言った。
「龍神の力・・・・あの怪物を倒したときのは?」
「ああ。アレはな、リーマを使ったんだ。リーマはこれでも御使いだ。龍神の力が少なからずある。それ力をリーマを媒体にして鎧にし、身体能力も上がらしてるんだ。詳しく言うと・・・・・・長いからやめよう。もう夜も更けてきたし。話は明日だ」
ウェッドは木に寄りかかった。
「俺が番をする。キミたちは寝ていろ」
言うが早いか、ウェッドが薄手の布を渡した。
「ねぇ、蓮」
蓮に寄りかかりながら、桃華が言った。
「私たち、帰れるよね・・・?」
蓮は迷った。確証はないし、今後怪物はいくらでもでるかもしれない。もしかしたら、途中で命を落とすかもしれない。
だが、そんな現実的なコトを言ったら、桃華はさらに落ち込むだろう。
「大丈夫。いつもの俺の言葉を思い出せ」
桃華がキョトンとした。
「ほら、あれだよ」
―なるようになる、さ
あとがき どうも。えー、私の生涯初の(ぉ オリジナル作品です。ファンタジーものです、ええ。
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・・・・・・懲りずに長編なのでスランプになるのは確実でしょう。orz
ではまた。
文才無いなぁ、自分・・・・。orz