「―――ん……ぅ……っ」

 

 

少女――フェイトは目を覚まし……そしてまだ寝ぼけた状態にある頭を起動させた。

 

 

「こ……こは―――っ!?」

 

 

此処は何処だろうか、と周囲を見渡す前に目の前に入り込んで来たのは青年の顔。

少しツンツンとした金色の髪、どちらかと言えば少し幼さが残る顔性質を持った青年。

……シックの顔が目の前にある事に驚き、そしてフェイトは顔を瞬時に真っ赤にさせた。

とりあえず、彼から離れて今の状況について考えよう――と思って身体を起こそうとするが

彼女のしなやかで細い身体はシックの両腕によって『がっちり』とホールドされていた。

 

……つまり、身動きが取れない。

 

 

「ど……どうしよう……。」

 

 

シックの腕って意外と逞しいんだな――とか違う思考が頭に入りかけた瞬間、ぶんぶんと頭を

振って甘い思考を飛ばし、一刻も早い現状の把握を行いたい所なのだが……どうもそれは出来そうに無い。

 

 

「―――と、とりあえず……起こすべきだよね?」

 

 

問い掛けは返ってこない。

 

 

「シック……起きて。シック……。」

 

 

あまり動けない状態だが、彼女は何とか手を彼の胸に置いてゆすり始める。

『強行的手段』に出るのは最後だ、と言い聞かせて……シックを優しく起こそうとした。

何度か揺さぶった後だろうか、シックの瞼が反応し、そして――目が開かれる。

 

 

「う―――!?」

 

「あ……その、おはよう?」

 

「………………。」

 

「………ど、どうしたの?」

 

 

まず、シックが思ったのは何故――目の前にフェイトの顔があるのか。

次に思う事は何故、自分は…その、フェイトを抱きしめているのか。

フェイトに起こされ、起動し始めた脳で思考するが答えは出てこないし、今の状況を

考えただけで再び脳は思考停止、フリーズ状態に陥ってしまい、頭から煙を上らせている。

 

 

「し……シック……そ、その……放してくれると嬉しいかな……?」

 

「―――うぁっ!?す、すみません!?」

 

 

フェイトから開放して欲しい、と言われた瞬間――シックはホールド状態だった手を放した。

……シックのホールドから開放されたフェイトは何かバツの悪そうな顔で『何してんだよ、俺……』

とか呟いている彼を見て一瞬だけ微笑んだ後、周囲を見渡す。

 

青々とした草木が生い茂る大地―――。

 

どことなく中世時代を連想させる建造物―――。

 

そして、大気に満ちる『魔力的』な力―――。

 

それら三つの事柄を考慮し、頭の中で演算結果をはじき出して――フェイトは理解する。

今、自分等が居る場所が『ミッドチルダではない』事を。

 

 

(……あの時の魔力に引っ張られて『此処』に飛ばされた……?)

 

 

先程とは一転して鋭く、そして険しい表情になりつつ――フェイトは制服のポケットに入れていた宝石を。

美しい金色の宝石――己の半身とも言って差し支えの無く、同時にかけがえの無い相棒、『バルディッシュ』を

取り出し、『有事』に備えてバルディッシュが使えるかどうか、己が戦えるかどうか試そうとして……。

 

 

「―――え……?」

 

 

バルディッシュが起動しなかった。

そんなバカなとフェイトは思いつつ、そして何かの間違いだろうと思いフェイトは再びバルディッシュに

意識を向けてみるが……やはり結果は同じであり、バルディッシュは起動する気配すら無かった。

 

 

「バルディッシュ!どうしたの!?」

 

 

慌ててフェイトはバルディッシュに呼びかける。

……しかし、フェイトの手の中にある宝石は答えを返す事無く、ただ淡い光を放つだけだった。

 

 

「――嘘……バルディッシュが起動しない……?」

 

 

バルディッシュが起動しない = 戦えない、と言う事に等しい事実だった。

いや、戦えない事は無いが、『此処』がどこなのか解らないし、ひょっとすると危険な生物が居るかもしれない。

そんな状況下の中で自分が本来の力を発揮できないと言うのは果てしない痛手である。

……シックに魔力が備わっていない事は以前から知っていた。

だから、何かあれば自分が彼を守ってあげないと――と思っていた矢先、バルディッシュが使えないという事実を

叩きつけられてしまい、フェイトは果てしない不安で押しつぶされそうになっていた。

 

 

「どうして……応えてくれないの、バルディッシュ……。」

 

「……?、どうかしたのですか、執務官?」

 

「……バルディッシュが……応えてくれない……そんな……。」

 

 

バルディッシュが起動しないことに絶望しているフェイトを見て――シックはどうすべきなのかを考えた。

……元々、フェイトを巻き込んでしまったのは自分なのだと自覚しており、その果てにこんな訳の解らない所に

飛ばされてしまい(※フェイト諸共に)、彼女は力を使えなくなってしまっている。

 

―――ならばどうするか

 

シックは周辺を見渡し、ふと視界に――丁度良い長さの棒を発見したので拾いに行く。

それなりに重く、中々に硬く、試しに二、三度振ってみるが……具合は悪くない。

両手で棒を握って振るい、いきなり折れる事が無いだろうかと確認して――シックは棒を当面の『武器』とした。

ヴォルケンリッターの将の一人、剣の騎士・シグナムに一時期とは言えども師事していたから……少しだけ。

本当に少しだけなら剣は扱えるし、同じく盾の守護獣・ザフィーラに頼み込んで体術を叩き込んで貰っていた。

 

 

「………執務官。」

 

「………う――ん?どうしたの……棒なんか手に握って………。」

 

「その……デバイスが使えないなら……俺が……執務官を守りますから……。」

 

「―――え?」

 

 

彼女は何も無い自分を助けようとしてくれた。

 

 

「剣の騎士と盾の守護獣に……魔法を使わない戦い方を習ってるんです。

 あんまり強くないですけど……その、俺が……執務官を守りますから。」

 

 

彼女が力を失ってしまったと言うなら……俺が彼女の剣と盾になろう。

 

 

「だから――とりあえずここを出て、人が居る場所を探しに行きましょう。」

 

 

シックはそう告げて、フェイトに手を差し出した。

……すると、今にも泣きそうだったフェイトの表情は一転し、優しい笑顔を浮かべながら

差し出されたシックの手をとって立ち上がる。

 

 

「………フェイト。」

 

「―――?」

 

「私の事、フェイトって呼んで。」

 

「……へ?いや、でも……執務官?」

 

「――――――」

 

「あ、あの………?」

 

「名前で呼んでくれないと返事しないから。」

 

 

少しムス〜っとした、されどどこか可愛らしい表情のフェイトを見てシックはあぅあぅ言いながら悩む。

管理局に居た時の上下関係が刷り込まれている為、自分と年齢はあんまり変わらないだろうが……自分よりも

立場の高かった人間を呼び捨てにしても良いのだろうか、と思っていたのだが。

執務官、と呼ぶとフェイトは全く応えてくれないので――仕方なくシックは………。

 

 

「フェ……イト。」

 

「――うん、何かな?」

 

「あの、巻き込んで……すみませんでした……。」

 

「…………」

 

「執務――いや、フェイト?」

 

「敬語も禁止。」

 

「はぁ!?」

 

「敬語で話されると疲れるよ。……だから、敬語も禁止。」

 

「うぐ………」

 

 

 

 

異世界に来て――フェイトは今まで自分が培ってきた力と技術の大半を失いました。

 

異世界に来て――シックは自分の力が生かせるかもしれないと言う希望を得ました。

 

異世界に来て――二人は新たな『絆』を得ました。

 

たった一つ、それもちっぽけな絆ですがやがてこの絆は大きくなって行きます。

生まれた絆が架け橋となり、もう一つ、更にもう一つ――と絆を結んで行く事でしょう。

 

 

今、二人の物語が――始まりました。

 

 

 

 

 

 

 

〜後書きの様な何か〜

 

シック  : 剣士 :LV1

フェイト :魔法剣士:LV1

 

二人で一緒にゼロからのスタート。

一緒に戦って、一緒に経験して、一緒に成長して行く。

そんなお話にしたいなぁ、と思います。








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