想いが強くなる、想いが思考を支配する。

……何時からだろう、彼をこんなに好きになってしまったのは?

人知れず努力を続ける彼を見た時から?どこまでも真っ直ぐな笑顔を見た時から?

 

 

「―――はぁ」

 

 

午前三時――。

真夜中だというのに眠気が来ない。

布団を乱暴に被り、寝ようと意識しても――次にはシックの事を考えてしまう。

 

もっと話したい、もっとシックの事を知りたい、もっと、もっと―――。

 

胸の奥が切なくなってくる。

緩く締め付けられるような――そんな感覚がふつふつと湧き上がってくるから性質が悪い。

 

 

「シック君………」

 

 

呟いたと同時に心臓の鼓動が早くなったのを感じた。

トクトク、と早い鼓動がなのはの身体を駆け抜け、更に眠気が遠ざかる。

 

どうやら、今日も眠れそうになった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〜〜〜〜〜♪」

 

 

高町家のキッチンに立ち、鰹節と昆布に薄口醤油等、他数種類の調味料で味を調えた出汁。

土鍋に張った出汁の中に大根や白滝、卵に牛筋肉等――様々な具材を入れて行く青年が一人。

……最近、妙に主婦の様になってきたと評判のシックは鼻歌交じりに寒い季節の鍋料理。

日本の伝統料理『おでん』を作り、本日の夕飯に出そうと思っていた。

他にもニンニクの芽と豚肉の炒め物、焼き魚等、多少料理の献立に難がありそうな雰囲気がしない

までも無いが、とにかく彼はニコニコと笑顔で包丁を動かして料理を作っていた。

 

 

「ただいまーっ。お母さん、今日のご飯は―――って、シック君!?」

 

「あ、お帰りなのは。……桃子さんも士郎さんも翠屋に行ってるし、俺が休みなんだ。

 だから――桃子さんの代わりに俺が料理作ってみたけど……怒られるかな?」

 

「そ、そんな事無いよ!……怒る所か、泣いて喜ぶんじゃないかな?」

 

「そうなの?……あ、そうだ。おやつの代わり――って訳じゃないけど、味見お願い出来る?」

 

 

シックはそう言って皿に煮ているおでんを数種取り、箸と共になのはに差し出した。

……学校帰りで夕飯までやや時間がある微妙な時間帯、出汁で煮込まれたおでんダネが湯気と共に

良い匂いを運んでくるので――なのはは箸を取り、笑顔で『いただきます』と告げ、牛筋肉を口に運ぶ。

 

―――上手く煮ていて、凄く柔らかい。

 

―――出汁もちゃんと染み込んでいて美味。

 

文句のつけようが無い、凄く美味しいおでんだとなのはは思った。

 

 

「――すっごく美味しい!シック君、シック君の作ったおでん、凄く美味しいよ!」

 

「気に入って貰えたのなら嬉しいよ。……今日ね、図書館に行ってインターネット使ってさ、美味しいおでんの

 作り方調べて……自分で作ってみたけど、問題ないようだね。」

 

 

おでんの入った大きなアルミ鍋をゆっくりとかき混ぜながら笑顔で話しかけるシック。

同じく笑顔でおやつ兼味見のおでんを食べて皿を洗い、テーブルに座ってシックと話すなのは。

……ゆっくりと、そして穏やかで優しい時間が流れて行き、空が茜色から深い藍色に染まり、星が光りだした頃。

高町家の『家族』が帰ってき始め、程なくして――食事に、家族団らんの時間が訪れる。

 

まず、食事が用意されている事になのはを除く全員が驚いた。

 

用意された夕食が――問題なく、そして美味しかった事に更に驚いた。

 

最後、それを用意したのがシックだと知って更に更に驚いた。

 

皆の反応は上々、全員が揃い揃って笑顔で『美味しい』と言ってくれた事にシックは安堵し、同じく嬉しく思う。

 

 

「――家事万能でお料理上手、その上優しくて器量も良い……お婿さんに欲しいかも。」

 

 

何気なく美由希がそんな言葉を呟いた瞬間に高町家の食卓は凍り付いてしまう。

……皆の何とも言えない視線を一身に浴びる美由希はその視線に気づき、そして戸惑い『え?何?』な表情で

家族の顔を見渡し―――。

 

 

「だ、駄目っ!!」

 

 

なのはが叫んだ。

 

 

「―――あ。そ、その……ご、ごちそうさまっ!」

 

 

再び凍りつく食卓の中、いち早くフリーズ状態から復活したなのははいそいそと自分の食器を台所に持って行き

そのまま二階へ、自室へとあがって行ってしまった。

 

 

「……あちゃー、地雷踏んじゃったけど……」

 

「高町家はこれで安泰だな。」

 

「明日はお赤飯かしらねー。」

 

 

三者三様に笑顔でそんな事を呟き、未だに事情が飲み込めてないのか、オロオロしているシックに皆は視線を向ける。

一斉に向けられた視線にたじろぎつつ、そして何処か居心地の悪い空気が漂い始めた食卓から脱出すべく、シックは

苦笑しながら立ち上が―――

 

 

「シックくーん?どこに行くの?」

 

 

にこぉ〜、と言う効果音が聞こえてきそうな笑顔の美由希につかまり、脱出は不可能となる。

……最早退路など存在しないと判断したシックは覚悟(?)を決めてこの空間に、笑顔を浮かべる三人が待つ食卓

へと座りなおした。

 

 

「シック君――率直に聞いて良いかしら?」

 

「あ、はい。何でしょうか?」

 

「なのはの事、好き?」

 

「ぶっ!?」

 

 

桃子のストレートすぎる質問にシックは思わず噴出しかけてしまうが――何とか耐える。

少しの間、咳き込んだ後で呼吸を整え、そして……冷静に、心静かにして……今、自分が持っている感情を。

なのはに対する感情に整理をつけて――答えた。

 

 

「……はい。その、ずっと前から……す、好き……でした……」

 

「……そっか。」

 

 

顔を真っ赤にしながら声を絞り出すようにして答えたシックを見て、優しい笑顔を浮かべる桃子。

同様に笑顔を浮かべながら『良かったね、なのは』と呟いている美由希。

……最後、高町家の大黒柱たる士郎は何か難しい表情をしながら、湯飲みの中のお茶を飲み干している。

 

 

「―――あの。」

 

「んー?」

 

「そ、その――空気を読んでないかもしれませんけど……俺―――」

 

「ストップ。その先はね、私達じゃなくてまずなのはに言ってあげる事。

 それで、なのはがOK出してから――私達に言おうとしてた先の事を聞かせて?」

 

「――解りました。」

 

 

すぅ、と一瞬だけ息を吸い込んで……『何か』を決意した表情になったシック。

彼はそのまま家族が揃ったリビングを離れ、階段を静かに上がり、彼女が居る部屋――。

なのはが居るだろう部屋の前に立ち、そして静かに彼女の居る部屋へと入った。

 

 

「――なのは?」

 

 

ベッドの上で布団を被って丸まっているなのはを発見する。

声をかけてみるが反応が無く、苦笑しながらシックはベッドへと歩いて行き、そして腰をかけた。

 

 

「俺……さ、やっと決心したんだ。」

 

 

優しい声音で布団を被ったままのなのはに話し掛ける。

 

 

「俺――ずっと好きな子が居たんだ。」

 

「――!」

 

 

びくっ、と彼女の体が強張った感じが見受けられ、ソレを見たシックは苦笑するが……言葉を続ける。

 

 

「その女の子は何時も真っ直ぐで、人を勇気付ける笑顔をくれる子だった。

 強くて、優しくて、真っ直ぐで……俺の憧れだった子なんだ。」

 

 

 

 

いつも自分に笑顔を向けてくれた女の子、何時も自分を元気付けてくれたその少女、そして――自分を救ってくれた大切な子。

 

 

 

 

「俺が管理局を離れる時、自殺しようとした俺を止めてくれて、救ってくれたんだ。その子は。」

 

 

 

 

自分の想いに気づき、そして彼女と歩いて行きたいと考えた。

 

 

 

 

「何もかもを失った俺に色々な物をくれた、家族をくれた……。」

 

 

 

 

冷たい雨が降る中で自分の事を省みず、迎えに来てくれた女の子

 

 

 

 

「……俺はさ、その子と一緒に居る事で……憧れが変わって、好きになったんだ。」

 

 

 

 

そんな彼女と一緒に居るため、今度は自分が彼女を迎えに行こう

 

 

 

 

「――だから、好きだよ――なのは。」

 

 

 

 

……シックが静かに、そしてなのはにはっきりと聞こえる様に言った言葉。

なのはに一世一代の告白を行って暫くした後―――。

 

 

「……ずるいよ。」

 

「……え?」

 

「……そんな事……言うなんて……私……どう言って良いか……わかんないよ……。」

 

 

瞳に涙を浮かべ、でも笑顔のなのは。

 

 

「……私も……シック君の事、好きだったんだよ?」

 

「……本当に?」

 

「うん。」

 

 

綺麗な笑顔を浮かべ、少女は思いの通じた青年に抱きつく。

青年も彼女を受け止めると――ゆっくりと、そして優しく彼女を抱きしめた。

 

 

 

二人の想いが一つになりました

 

これから先、たとえどんな出来事があっても――二人の絆、そして握り合った手が離れる事は無いでしょう。

 

だが――彼らは知らなかった。

 

 

 

 

この暖かさが、この温もりが引き裂かれることになる事なんて………。

 

 

 

 

 

 

 

〜後書きの変わりのネタ劇場〜

     これは春風本編とは関係ありません

     これは春風の印象をぶっ壊すかもしれません。

     これはネタ優先で打っています。

 

ネタ提供・鬼丸様

 

 

全てを諦めた、何もかもを捨て去った自分。

もう何も残っていないから、自分はこの世界に要らない人間だと解ったから―――シックは答えを出した。

ミッドチルダの郊外にある気高い丘、その丘の頂上にある大きな樹………。

絵のモデルとなってくれた、木陰で休ませてくれた、その思い出の樹の下で死のうとシックはナイフを取り出す。

 

悔いは無い、とその煌く白い刃を自分の喉に突き立てようとして―――!

 

 

「ハァッ!」

 

 

突如、長い布が手を激しく打ち据え、ナイフを弾き飛ばしてしまったのだ。

楽になれる――と想っていたシックは何者が邪魔したのだろう、と憎悪に満ちた目を其方へ向けると――そこには一人の男が居た。

 

 

「少年、何故死のうとする?」

 

「……貴方には関係無いじゃないですか。」

 

「確かに、ワシには関係の無い事だ。……だが、親に貰った体ぞ?大切にしようとは思わぬか?」

 

「……両親は居ませんよ。」

 

 

紫色の衣装を着た男は――シックの横に腰掛けた。

 

 

「親も居ない、親戚には要らない存在だといわれ……挙句、夢まで諦める羽目になった……!」

 

「………」

 

「解りますか?俺は夢に、管理局の魔術師になる為に頑張ってました。……なのに……なのに……!

 魔力的資質に優れないからと蔑まれ!そんな連中を見返そうと頑張って!そして俺は全部失った!何もかも!!

 ……だから、だから俺はここで俺と言う人間を終わらせてや―――」

 

 

ナイフを握った瞬間――横から伸びて来た手につかまれる。

……この男性、見た目は白髪の老人なのに……凄まじいまでの握力でシックの手ごとナイフを封じ込めていた。

 

 

「少年――お前は力が欲しいのか?」

 

「………え?」

 

「お前は力が欲しいのか?」

 

「………」

 

「お前からは悲しみと、そして大切な者を守りたい――と言う気を感じた。

 ………そして、ワシはお前に力を授けることが出来る。」

 

 

穏やかな声音で話し掛ける老人に――シックは思わず頷く。

 

 

「ならばワシはお前に力をやろう。流派・東方不敗の全てをお前に与えてやろう!!」

 

 

 

鬼丸様、こんな感じでどうでしょうか?

――まだまだ、ネタは募集しています。ネタプリーズです(ぁ




作者ユウさんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。