「―――困ったな……どうしようか……。」

足元にはじゃれ付いてくる子犬。
ゴールデンレトリバー種の子犬が、尻尾を振りながらシックにじゃれ付いている。
……公園で何時もの様に絵を描いていて、ふと気がつけば足元にこの子が居た。
こっちを見上げ、『わん』と鳴いたかと思えば身体を摺り寄せて甘えてきたり、靴に甘噛みしてみたり……。

「うーん……首輪がついてるから飼い犬だと思うけど……」

ひょい、と子犬を抱えると首の所に赤い首輪――そして、石鹸の良い匂いがしてくる事から野犬では無いだろう。
人懐っこい表情（？）でこちらを見て、こう……『遊んで』と訴えてくる子犬の眼差しに負けてしまい、シックは溜息を付く。
荷物を袋に放り込み、近くに落ちていた木の枝を拾って人が居ない方へと投げると……子犬はトテトテ走りながら棒を拾いに行った。

「うん、お利口さんだね」

「わんっ！」

棒を咥えてシックの所まで持って来た子犬の頭を撫でてやり、子犬は嬉しそうに目を閉じて尻尾を振る。
子犬から棒を受け取る（？）と、もう一度――遠くの方へと棒を投げて、子犬は元気良く走って棒を取りに行く。
棒を咥えてはシックの所へと持ってきて、シックが投げれば棒を走って取りに行く。
……ハタから見れば飼い主が飼い犬と遊んでいるとしか思えない。

「わんっ！わんっ！」

「……う、うーん……ご褒美をあげたい所だけど……ごめんね、何もあげる物が無いんだ。」

「……きゅ〜ん……」

「うぐっ……そんな目で俺を見ないでくれっ！？」

哀しそうな表情の犬を見て、シックは溜息と共に財布を見る。
……この間、高町家の大黒柱・高町　士郎から貰った野口英世が二人――財布の中に居る。
何かあった時の為、自分の物は自分で買うために取っておきたい所だが……しかたがない、と諦めた。
子犬にこの場所から動かない様に言いつけた後、シックは近くのコンビニに向かい、そして戻ってくる。

その手には――程よく温められたミルク。

紙皿にこぼれない程度にミルクを注ぎ、子犬の前に置いてやると――尻尾を振りながらミルクを飲み始める。
子犬がミルクを飲み干し、シックが注ぎなおし、また飲み干し、また注ぎなおし――を繰り返すこと数回。
手にした紙パックのミルクが無くなったかと思うと、足元の子犬は地面に座ってまぶたを閉じ始めた。
……お腹が一杯になってお昼寝の時間なんだろう、とシックは苦笑して子犬を抱きかかえて自分の膝の上に持ってくる。

程なくして子犬はまぶたを閉じて、安心しきった様に眠った。

「………って、俺、動けない！？」

気付くのが遅かった。

その少女は息を切らしながら走り、いつの間にか消えた子犬を探し、街中を走り回る。
商店街、海岸線、様々な場所を走り回り、果ては山まで探しに行ったが――見つからない。
飼い主失格だとか、保健所の人間に連れて行かれたらどうしよう、と悪い考えが頭によぎる中――ふと、公園に立ち寄る。
……よくここで遊んでやってたから来てないだろうか？と、一片の望みをかけて公園の中を走りながら探して―――

「―――いたっ！！」

「……へ？」

問題の子犬を――ベンチに腰をかけている自分達よりも少々年齢が高めの少年の膝の上で見つけた。
すかさず少女は呼吸を整え、意志の強さを感じさせる緑の瞳に怒りの炎を宿らせて、頭に『？』を浮かべる少年に近づく。

「うちの子を―――返しなさいよっ！！」

「うわっ！？」

公園の中にとても良い、そして乾いた音が響き渡る―――。

「―――ごめんなさい……本っっっ当に、ごめんなさい……。」

「あ、あははは……良いよ。誤解って解ってくれたし、俺がこの子と遊んでたのは事実だからさ。
　……ビンタは痛かったけど、もう気にしてないから……」

少女・アリサ＝バニングスはハンカチを濡らし、少年の頬……とても綺麗な紅葉が貼り付けられた場所に押さえる。
自分の落度で見失ってしまった子犬を面倒見てくれた人――シック＝クローツェルと名乗った人に対して思いっきりビンタを。
体重を乗せて、手首のスナップを利かせたとても痛いビンタを叩き込んでしまい、自己嫌悪に陥っていた。

「すみません……その、お詫びをさせて頂きたいんですが……」

「い、良いよ！そんな事しなくても――そんな事されたら逆に俺が困るから！？」

「でも――私、貴方にとんでもない事を……」

とても責任感と自尊心が強い子だな、とシックは思った。
……それと同時にこの子が『何か』を提示しないと引き下がりそうに無い、と言う事も理解して――しばし考える。

「そうだね――じゃあ、この子と君と友達になっても良いかな？」

「……え？」

「この町に来て、まだ日が浅いし――友達も少ないからね」

アリサは真面目な顔して友達になろう、と言ってきた少年を見て――笑顔になり、手を差し出した。
シックもソレを見て笑顔になり、手を差し出して握手する。

友達になり、再び互いに自己紹介した後から――色々なことを話した。
アリサは家では多くの犬を飼っている事、シックは絵を描くときのポイントやコツを。
始めこそ敬語交じりのギコちない会話だったものの、今では互いに名前で呼び合い、そして互いに笑う――。
そして、太陽が西の空に沈みだした頃、楽しいかった会話を切り上げてそれぞれの家に帰る支度を始めた。

「……あのさ、その……ごめんね、本当に。」

「まぁ……痛かったけど……もう気にしてないし、アリサとも友達になれたからね。」

「そう言う恥ずかしい事を言うなっての。……こっちが恥ずかしくなるじゃない。」

「あははは……っと、そうだ。……何もあげれる物が無いけど、こんなので良ければ――どうぞ。」

シックは自分でも解らない内にスケッチブックを取り出し、描いた公園――アリサとであったこの場所の絵を切り取る。
その後でアリサに差しだし、アリサもそれを受け取り――貰った絵を見てみて……こう、何て言うのだろうか、『惹き込まれた』

名画家が描いた絵でもなければ、なんでもないアマチュア絵。

されど、シックが描いた絵は――その感じ等から暖かい何かを感じる。

上手い下手では無く、人を安心させるような絵……とでも言うのだろうか？

「……あ、いや……その、いらなければ捨てても良いから……いたっ。」

「そんな事しないわよ。……ありがとう、この絵……飾っておくね。」

「え……えええ！？か、飾るほどの物でもないよ、その絵は！？」

「うっさい！私が飾りたいんだから良いの！」

奇妙な出会いで一騒動あったけど―――友達が一人増えた。

優しそうで、少しおっとりと言うか天然と言うか……そんな男の子。

何か、一緒に居て笑顔にさせてくれる男の子。

……今度はすずかも紹介してあげよう。

アリサはそう思い、腕の中で寝息を立てて眠っている子犬を見ながらそう思った。

＜あと書かれ＞
　アリサも好きです。アリサは幸せになるべきです。アリサを不幸にする存在は許しません。
……はい、そんな訳でアリサとの出会いを打ってみましたが、いかがだったでしょうか？
シックが立ち直るきっかけを作ったのは高町家、触れ合って本当の笑顔を取り戻す切欠を与えるのは周囲。
なのはの友達であったり、恭也の友人だったり、美由希の友達だったり―――。
誰でも良い、人と出会う事は意味がある、人と出会うからこそ成長していく、そんなＳＳにするタメに今後もがんばります。

ご感想を送ってくださった皆様、本当に有難うございます。
シックを受け入れてくれて有難うございます。
一つ一つに目を通し、皆様からのお言葉を力に変えて精進していきますので、今後も宜しくお願いします。