その少年は――残念な事に魔力的資質に乏しかった。

この宇宙に幾多無数と存在する平行世界の秩序を守り、管理する機関『時空管理局』
その場所に所属する『魔法使い』になる為に努力に努力を重ね、何とか同機関に入る事が出来た。

……だが、彼はその魔力的資質の低さから同年代の武装官の間から蔑まれ、教官からは見放されてしまう。

それでも彼は努力する事を止めなかった。
何時の日か、何時の日か必ず努力が実ると、努力を続ければ魔力的資質に開花するかもしれないと信じて――。
雨の日だろうが、猛暑の日だろうが、風の日だろうが、雪の日だろうが、それこそ365日、努力し続けた。
別の武装官に頼み込んで頭を下げて実戦訓練につきあって貰い、他の上官に頭を下げて魔術訓練に付き合ってもらった。
研鑽に研鑽を重ね、血を吐く思いで彼は――それこそ、月並みな言葉だが『努力と根性』で己を鍛え上げる。



だが、運命は彼に味方しなかった。



努力に努力を重ねた彼をあざ笑う様に、武装官の実戦訓練で当たった相手がデバイスに追加したプログラム。
気まぐれで追加し、構築も何からデタラメのプログラムで組まれた魔法が――暴走し、暴発し、彼に当たってしまった。
その結果、ひたむきな努力を続けた彼の魔力的資質の源……リンカーコアと呼ばれる機関は破壊され、魔法が使えなくなってしまう。


少年は泣き叫んだ。


努力に努力を重ねた結果がこれか、と。


魔力的資質が無い者が魔術師になるなと言う事か、と。


時空管理局の武装官が使う宿舎を追い出され、何もかも失った少年は纏めた荷物を手に歩き続けた。
元より身寄りが無いから、仲間も友達も居ないから、別に――死んでも良いか、と絶望に塗りつぶされた心は答えを出す。
努力を重ねた結果、なけなしのリンカーコアも壊されて魔術師としての道を閉ざされた今、全てがどうでも良くなった。
他の道を模索しようにも、そして他の道で模索して努力してもどうせ裏切られる。今回の様になってしまうだろう。

諦めと絶望

彼の心は晴れる事の無い雨雲で覆われ、降りしきる冷たい雨が彼の心から気力を洗い流した。
どこか――こんな運命に呪われた自分を終らせるのに良い場所は無いか、と周囲を見回していた時……不意に腕を掴まれる。
誰が自分の手を掴んだのだろう、と死んだ魚の様な目を向けてみると……そこには全力で走って来たのだろう。
息を切らして自分の腕を掴み、肩で息をしながら呼吸を整えている少女の姿が目に入った。


「はぁ……はぁ……やっと……見つけたよ。」


栗色の髪を――何て言うのだろう、片方だけのツインテール?いや、既にそれはツインテールではない。
……微妙に形容するのに苦しむ髪形をした少女が顔を上げ、笑顔で――人懐っこい、心が温かくなる笑みを浮かべた。
だが、今の少年の心はそんな彼女の表情が煩わしく感じてしまい、少し乱暴に腕を振り払って去ろうとする。


「ま、待って!待ってよ!」


するとどうだろう。
少女は慌てて少年の腕を掴んで話を聞いて貰おうとするのだが――


「もう……放っておいてくれよ!!」

「!」


今まで溜まっていた感情が一気に爆発し、少年は泣きながら少女に吼えた……いや、慟哭した。


「魔力資質が無いから努力で補おうとして……頑張った、死ぬほど努力した、勉強も、武術も、何もかも!」


通りかかる人々が何事かと目線を投げかけるが、それにも構わずに少年は少女に向って感情を。
怒りを、無念を、悔しさを吐き出し、何の罪もなければ自分を心配して追いかけて来てくれたのだろう少女にぶつけてしまう。


「でも、その結果がこれだ!俺を笑った奴に更に笑われ!俺を馬鹿にした奴が適当に組んだ魔法でこのザマだ!」


自分を嘲笑った奴等を見返してやろうと、自分を馬鹿にした奴を追い抜いてやろうと努力した結果、訓練相手がデバイスに組んだ魔法。
構築から何から何までがデタラメでまともな魔法に成るはずも無い、暴走と暴発が確実に起こるだろう魔法が直撃してしまい、努力の成果
を発揮できる事無く吹き飛ばされ、おまけにリンカーコアまで破壊されてしまい――今までの努力は無駄に、魔術師として生きる事も断念
せざるを得なくなってしまった。


「惨めすぎるじゃないか……!俺が努力する度に何もかも無駄になって!管理局で魔術師として居る事も出来なくなった!!
 ……もう良いよ!こんな人生まっぴらだ!このまま何もかも無駄になる位なら、俺の手で人生を終らせて―――」


ぱしんっ

乾いた音が響き、少年は頬に痛みを感じ――叩かれたのだろう、頬を手で押さえて前を見ると……


「……私はずっと君の事を見てきた。すっごく頑張って、人一倍頑張る君の事を凄いと思ってたよ。」


悲しそうな表情で、そして紫色の瞳に涙を浮かべた少女の顔が映る。


「私だけじゃない、フェイトちゃんも、はやてちゃんも――君の事を見て、凄いって褒めてた。」


綺麗な紫の瞳から大粒の涙をこぼし、彼女は涙交じりの声で――目の前の少年に言い聞かせるように言葉を発する。
そして彼の両手を包み込むように優しく握り、冷たくなった彼の手を温める様に、彼の心の絶望を吹き払う様に言葉を続けた。


「……だからね、自分を傷つけちゃダメだよ……自分自身でダメな奴だなんて思う必要は無いんだよ?」


じんわりと伝わる彼女の温かさが――心の雨雲を吹き散らしていく。


「君が行く所が無いなら私の家においでよ。皆、皆喜んでくれるから!」

「……でも、俺なんかが行っても迷惑がかかるだけじゃ――」

「そんな事無いよ。……ほら、行こう?私も今日はもう直ぐで上がれるから。」










一度、夢を諦め、何もかも諦め、全てを諦めた少年は――星の光を宿した心優しい少女に救われました。

少年は魔法技術の栄えた世界を離れ、少女が居た世界で様々な人間と触れ合い、その傷を癒して行きます。


この物語は少女と少年のお話。

心と絆の物語。

どこにでもある様な陳腐で、そして優しい物語―――。




魔法少女リリカルなのはA‘s外伝『春風と共に』――始まります。









<後書かれ(何>
 .hack//GU Vol.3の影響を受けて一時期は主人公その物がハセヲ化していましたが……。
頼もしい(?)友人達の支援と言う名の鉄拳制裁を受けて脱出し、私自身の新たな作風を見つけ出したいと
思い、今回のSSは『主人公に戦闘能力を失わせる』と言う暴挙にも等しい行動に出てみました。
主人公とヒロイン(バレバレですがねぇ(汗))の名前が出ていませんが、次回で出したいと思っております。

この手のSSは嫌われる傾向にあり、私の技量も高くないと悟っていながらも今回、執筆させて頂きました。
稚雑な部分が目立ち、荒さが目立つSSですが精進して『面白い』と言われるSSにしたいと思いますので
どうかよろしくお願いいたします。




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