――エリア『意味持たぬ 凄絶の 眼差し』。
どこまでも続くようなフィールドタイプの草原、うっすらと曇った暗いエリア。
そのエリアの一角に三つの光が転送され、光は人を為した。
その中の一人、ハセヲが緩やかに口を開く。
「さっさと教えてもらおうか。その憑神とやらの使い方をな」
「それが人にモノを教えてもらう態度? もう少し礼儀をわきまえたほうがいいんじゃないかしら」
「知ったこっちゃねえな。そもそも、俺は昨日から待たされてんだよ」
じろりとクーンを睨んで言った。
「わかったわかった。それじゃ、まず基本的なことから教えていこうか」
顔つきを引き締め、真面目にクーンは語りだす。
「俺たちのPCボディは過去にCC社の極秘プロジェクトで製作された特別なものなんだ。それら特別なPCは『碑文使い』と称される」
「碑文使い……?」
「ああ。誰が名づけたかは知らないけど、俺たちの憑神は碑文とも呼ばれてるんだ。それを行使する人間だから『碑文使い』ってことだな」
自身の身体を眺め、疑問を投げかける
「そのプロジェクトで作られたPCが、なんで俺たちの手に渡った?」
「それはCC社の最高機密よ」
パイが割り込んで言った。
「なるほどな……守秘義務ってやつか」
「まあそうゆうことらしい。とりあえず説明を続けようか」
クーンの説明によると、憑神の能力は『データの改変』が基盤となっているらしい。
曰く、この世界のあらゆるものを構成する素子――データに直接介入することにより、この世界に定められた法則外で力を行使することが出来るらしい。
自身を構成するデータを改変し、憑神の姿を纏わせることによりその力の行使をすることが可能となり、その力のみが逸脱存在――AIDAを消去することができるという。
「八咫からも聞いているとは思うが、AIDAはゲームを逸脱した存在なんだ。つまり、この世界の法則の領域外にいるってことになる。それを相手に、法則に縛られている一般PCに対抗する手段はない。けど――」
「データに直接干渉できる憑神なら、世界の法則の制限を受けずにAIDAに対抗できるってことか」
「そういうことね。いかに逸脱存在であろうと、データで構成されていることは絶対の事実だから。今のところ、憑神以外の対抗手段は見つかってないわ。多分これからも、ね……」
なるほど。憑神がどういう力なのかは大体呑み込めた。
疑問点は多く残るが、どういう力を行使できるのかさえ判れば構わなかった。
「憑神を使う為には、碑文使いとしての素質がなくてはいけない。いかに碑文使いPCを保有していようと、素質がなければ何の意味もないからな」
「俺にはその素質があるってのか?」
「それはこれから確かめることよ」
「だな。求められる資質、それは『自分の碑文をどれだけ理解できるか』――この一点に尽きる」
「碑文を……理解? どうやってだ」
「自分を碑文に繋げるのさ。ここでね」
トントン、とクーンは自分の胸を指し示す。
「……ここって、どこだよ?」
「だからここだって――心だよ」
一瞬、思考が固まった。
落ち着いて言われた意味をじっくりと咀嚼する。
なるほど、確かにクーンの手は胸を――左胸を指し示している。
そして自分の耳に間違いがなければ、クーンは『心で碑文に繋がれ』と言ってることになる。
――馬鹿げている。
「……心で碑文と繋がるだ? ふざけんじゃねえ! 0と1で構成されている2進数のデータに心がどう影響するってんだよ!?」
怒気も露わに叫んだ。
当然だ。よりにもよって心でプログラムと繋がれなどとふざけているとしか思えない。
それでもクーンは動じず、ただ淡々と語った。
「さっきも言ったけど、俺たちのPCは普通じゃない。心とリンクしてるんだ。ハセヲには自分が何かと繋がっている感覚を覚えたことはないか?」
「そんな馬鹿げたこと―――」
言いかけ、頭痛が走った。
それは刺すような痛みではなく、軋むかのような痛みだった。
そう、軋んでいる。矛盾を内包しているが故に、軋んでしまっている。
「――――」
黙考する。
クーンのいう『碑文使い』が特別なモノなのは分かった。だが、それがゲームの範疇を――プログラムの範疇を超えることなどできるのだろうか。
――否。常識的に考えてそれはあり得ない。
どれだけ特殊なプログラムが施されていようと、それは0と1のデータにより構成された無機質な存在であることには変わらない。
その存在が無機である以上、有機である人間と心が繋がるなどということはあり得ない。有機が無機に対し働きかけるのは可能だろうが、リンク――つまりは無機と有機が同期することはどう考えても不可能だ。
何故ならばそれは無機と有機の一体化――すなわち有機であり無機でなく、無機であり有機でない矛盾によって構成される新たな要素、新たな存在を創造することに等しいからだ。それはおかしい。この世は旧き太古から無機と有機によって構成され、その両者以外の存在は幾億の時を経て猶、誕生を許されなかったのだから。
故にどう考えても不可能。不理解。あり得ない。馬鹿げている。
だがしかし――それ以上に有り得ない事象を俺は知ってしまっている。
ゲームでPKされた人間がリアルで意識不明になるなどという最悪に馬鹿馬鹿しく有り得ない現象が彼女の――志乃の身に起きてしまっているのだ。
現に有り得ないそれが起きている以上、クーンの言っていることを完全に否定することはできなかった。
「さあ、わかったらさっさと始めるわよ!」
パイが武器――拳当を装備し、構える。
「ここで戦闘を繰り返し行なうわ。戦闘の中で神経を鋭敏にしていくのよ」
「でもって、このエリアのボスで憑神の開眼にチャレンジする」
「……ちょっと待て。まだ開眼する方法ってのを聞いてねえぜ」
「そんなもの無いわよ」
「…………は?」
半眼で聞く。
「……俺は憑神を手に入れれるからここまで来たんだぜ。それが開眼する方法がないってのはどういうことだよ」
「いや、一応方法はあるんだ。ただそれはあまり好ましくない手段で――」
「御託はいいんだよ! とっととその方法を教えろ!!」
クーンが嘆息し、口を開く。
「その方法は――」
「よくわかってないのよ。私たちにも」
そこにパイが割り込んで言った。
「分かるのはただ一つ。憑神の開眼には剥き出しの感情が必要とされる、ということのみ。だから戦闘を重ねて感情を研ぎ澄まし、リンクするアプローチをかけるというワケよ」
「……つまり、アンタらにもちゃんとした方法が分かってるってことじゃねえのかよ」
「ええ、そうよ。残念ながらね」
パイはそう言って、胸元をそっと押さえた。
「私たちも開眼したのは偶然の事故からだったわ。その共通点は二人とも感情が開放されている状況下だったということ」
「私たち、か……。クーンの野郎だけじゃなく、やっぱりアンタも――」
「ええ、私も碑文使いよ」
ハセヲは取り立てて驚きはしなかった。八咫がこの二人に聞け、といった時点で二人とも碑文使いである可能性は十分にあったのだ。
「分かった、それしかねえんならやるまでだ。エリアのボスを目指しつつ戦闘を重ねればいいんだな」
言ってハセヲは歩き出した。その目は既に獲物を探し始めている。
その後ろにクーンとパイも続く。
「なあ、パイ」
小声で――ハセヲに聞こえぬよう――クーンがパイに呼びかけた。
「なんでハセヲにあの方法を教えなかったんだ? 教えればアイツもこのやり方で納得するはずじゃ――」
「ダメよ」
きっぱりと、パイは即座にその提案を拒絶した。
「だからなんでだ? 説明すればハセヲだって無茶はしないだろ」
「…………」
瞳に陰を映した表情で苦々しげに彼女は口を開いた。
「あの方法を教えれば、ハセヲは必ずそれをするわ」
パイはまるで敵を睨む様な視線をハセヲに向け、
「判るのよ。私には」
その表情からは想像も出来ないほど哀しげな声で言った。
*****
「ハセヲ、そっちに行ったぞ!」
右に視線を飛ばす。
左手に手傷を負ったワイルドケトル――獣を模した機械系モンスター――が凶器である腕を振りかぶっていた。
それを右の剣で弾き、後方へ跳躍した。
続く第二撃は正面から――ハセヲがもともと戦っていたゴブリンからだった。
左の剣で受け止めると同時、切り返しの右で敵の腹部を切り裂く。
のけぞった所へ左の追撃。
仕込み刃をけたたましく鳴らして切り刻み、そのままゴブリンを仕留めた。
息を吐く間もなく、弾き飛ばしたワイルドケトルが突進してくる。
回避は到底間に合わず、双剣を十字に構えてガード。
堪えきれず、右腕と腹部に軽視できないダメージを負った。
「ハアァッ!」
そこへ人影が飛び込んでくる。
影は蹴りで敵をのけぞらせた所へ懐に飛び込み、そのまま両の拳で叩きのめし破壊していく。
拳術士――パイの猛襲だった。
トドメにクーンが頭部を撃ち抜き、動くものはなくなった。
「ハァ――ハァ――」
情けない。息が上がっている。
多少レベルの高いエリアとはいえ、これしきの戦闘すら満足にこなせないとは嫌気が差す。
しかしそれ以上に――自身に何の変化も現れないことに強い苛立ちを感じていた。
「なんでだ、ちっともかわらねえじゃねえか……!」
先ほどの戦闘でかれこれ36回目になる。それまでの戦闘でも同様に変化はなく、自分の中の碑文を感じることも出来なかった。
このざまでは嫌が応にも、苛立ちが滲み出す。
「次で最後だ……このエリアのボスと戦う」
「今までに研ぎ澄ました感情を、一気に高めなさい。そうすれば、切っ掛けを得られるかもしれない」
「俺たちは後ろで待機しとく。感覚を鋭敏にして感情を高める為には単独戦闘が一番だからな、ぎりぎりまで手を出さない。いけるか?」
「……ああ」
クーンの目線の先、一際開けた荒地にこのエリアのボスがいた。
これまで戦ってきた雑魚とは明らかに違うその姿。身の丈10メートルは優に超したその巨体。大樹ほどもある太さを四肢を地面に落とし、その全身を鉄で覆い尽くし、近づくだけで押し潰さるかのような威圧感を放っている。
確認するまでもない、あの巨人――スチームシェルがここのボスだ。
「ウ――ラアァァァ!!」
高ぶった神経から流れ込む衝動に任せ、真正面から飛び込んだ。
スチームシェルはとっくに自分に気がついている。その前足を天高く上げ、踏み潰さんと打ち下ろしてくる。
ズゥン、という地鳴り。
潰される瞬間に横に飛びのいたものの、地面を揺らされ足が止まる。
(――!!)
無理矢理に地面を蹴って駆ける。一瞬の後に先程まで自分がいた場所に鉄槌が打たれ、大穴が開いた。
躊躇してる暇はない。
レベル差は歴然。まともにやっても一人で勝てる相手ではない。ならば――
(感情に任せてがむしゃらに突っ込んでやらァ!!)
右前脚を切りつけ、そのまま敵の腹下をくぐり尾に仕込み刃の一撃を見舞う。
彼我戦力に圧倒的な差がある場合、取るべき最適の手段は攻撃だ。
それも全力攻撃。防御を一切思考に挟まず、持ちうるすべての戦力を攻撃手段に投入する――玉砕とも言える攻撃だと、ハセヲは豊富な経験からそう判断した。
敵が歴然に優れている以上、まともな戦闘をしても徐々に押し負け最後には力尽きるだけ。ならばやられる前にやるしかない。
そう腹をくくってからは単純だった。この巨体ならばがむしゃらに振るっても攻撃は当たる。ただ無茶苦茶なまでに――それこそ感情に任せて双剣を振るう。
何度か尾による直撃を受けたが、そのダメージは後方の二人がアイテムで回復してくれていた。ハセヲはただ攻撃のみに専心を向ける。しかし――
「なにも……なにも変わらねえじゃねえかっ!!」
斬りつけつつ後ろの二人へと叫ぶ。
これほどまでに感情をむき出しにしているというのに、何の変化ももたらされはしなかった。
「高めた感情を切っ掛けにして、力を起動させるのよ!」
「力を起動って……どうすんだよ!?」
パイにより答えもまた叫びで返された。
「自身に内在する碑文を理解して、憑神を生み出すイメージを連想しなさい!」
簡単に言ってくれる。
碑文の理解できないからこうして苦労しているというのに、生み出すイメージなどどう連想しろというのか。
「貴方は一度体験しているでしょう! 内側に眠る異物、自分以外の誰かに呼びかけるのよ!」
一度……体験している?
何を言っているのか……何かを生み出すイメージなど感じたことも――
――――ない、と、言い切れる、だろう、か。
「生み――出す」
なかっただろうか。
そんなことがなかっただろうか。
何かが生まれるイメージを――何かが生まれてくる感覚を抱いたことがなかっただろうか。
「――生み出す、イメージ」
判らない。判らない。判らない。
そんなことを体験したかどうかも判らなければ、心で碑文とつながるなんてことも判らない。
判らない。判らない。判らない。だが――
「やってやる……!」
自己に埋没し、感情を糧に闇を照らす。
凄絶な瞳が捉えるは眼前の敵ではなく内在する誰か。
ただ深く、重い暗闇に沈降し探索を続ける。
「来い……!」
“三つ目の赤光が浮かぶ”
まだ視えない。もっと深く――
「来い!」
“明滅し、浮かぶ”
まだ視えない。もっと重く――
「来い!!」
“血よりも濃く、夕日より鮮やかに、紅く浮かぶ”
まだ視えない。もっと強く――
「来いよ!!!」
思い出せ。感情を剥き出しにしろ。ドス黒い衝動に身を任せ、奴を直視しろ――!
まだ浅い、まだ軽い、まだ弱い――
もっとだ、深く重く強く剥き出しの憎悪を浮かべろ!
「ウ――オォォォォォ!!!」
もっとだ!
もっともっともっともっと憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め!!
憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎めただただ憎め!!!
そう、あの時のように――
“志乃を殺されたあの時のように”――!!!
「―――ガ――ァ――ッッ!?」
それを思い浮かべた途端、正体不明の激痛で意識が飛んだ。
痛みの源は右腕より走り、全身くまなく狂い駆けた。
集中を続けられようはずもなく、バラバラに千切られそうになる意識の原型を保つだけで精一杯だった。
途端に鼓動は停止し、三つ目の赤光が霧散する。
「どきなさい!!」
パイに背中を思い切り蹴り飛ばされ、身体が宙を飛ぶ。非難の声をあげようとするが、痛みでそれすらままならない。
なんとか首を動かして後ろを見ると、先ほどまで自分がいた場所に冗談じみた大きさの鉄槌が落ちてきたところだった。
衝撃の余波に襲われ、堪えることも出来ずにごろごろと転がる。
「クーン!」
「あいよぉ!」
そのままパイは変則気味のサマーソルトでスチームシェルの顎をかち上げた。無防備にがら空きとなった首――装甲に覆われてない箇所――にクーンの溜めに溜めた、轟音を纏った銃撃が襲う。
いかに頑強な装甲を纏っていようと、急所をあれほどの威力で穿たれてはどうしようもない。グラリと身体を傾けたかと思うと、音を立ててスチームシェルは崩れ落ちた。
「終わりっと……ハセヲ、大丈夫か?」
答える余裕はなかった。
今は砕け散りそうな自己を必死に繋ぎ止めるだけで精一杯の状態だった。
胸を狂ったように掻き抱き、痛みを足場に意識を留めようと足掻く。
ほんの少しでも気を抜けばその瞬間、取り返しのつかないことになる確信がある。
「おい……ハセヲ!?」
「クーン、離れなさい!」
神経が片っ端から断線していく。
右手の感覚はどこかに消し飛ばされ、痛みも死んだ。
右腕に何の加減もなく犬歯を突き立てたが、ぞっとするほど何も感じられなかった。
「パイ、何を……!?」
「貴方も備えなさい。いざとなったら……やるわ」
無加工で感情を開放しているのが悔やまれる。
おかげで何の抵抗も出来ず、侵蝕は速やかだった。
一つ一つ砂のように解かれ別の形へ転化されていく。
砕かれ融かされ奪われ燃やされ、孵る糧へと喰われ始める。
(や――ば、い――)
消える。
このままでは消えてしまう。
消えて別のモノに喰われてしまう。
「ちょっと待て! ハセヲはまだ――」
「それも時間の問題。取り返しつかないことにしたいの?」
「…………っ!」
必死に、それこそ死に物狂いで自己を掻き集める。
意思。俺を喰おうとする奴よりも強い、強固な意思が必要だ。
奴は憎しみを――俺の最大の感情をそっくりそのままぶつけてきている。それ以上の感情を持ち得ない以上、意思で感情を抑えつけるしか方法はない。
「貴方は捕縛を。トドメは私がやるわ」
「……まだだ! まだアイツは――」
「いい加減になさい! 覚悟していたことでしょう!?」
意思を。強固なる意志を更に高めろ。
自己を自己たらしめる意思をハセヲという形に凝縮し、精神を冒す感情を吐き出さなくてはならない。
だが間に合うか。
もう既に4割方は喰われ始めている。
喰われ切る前にハセヲを再構成できるのか。
「それは最後の手段だろ!?」
「その最後の手段を取らざるを得ない状況だって判らないわけじゃないでしょう! 現実を直視なさい!」
やるしかない。
躊躇してる暇もない。
ただ意思を強く持つことのみに全霊を篭める。
「……!? ハセヲ!!」
「くっ――もういい! こうなれば私一人で――!!」
今在る現実の構成を紐解き、
不確定の素子へと分ち、
限りある空間を連鎖で連ねて無限へと変革し、
世界を支配する法則を原典で塗り潰し、
内なる存在を束縛す牢獄を創り出す。
「――!? 待て、ハセヲを見ろパイ! アイツはまだ負けてない!」
「ここまで侵されて今更勝てるワケ――なっ!?」
内在する可能性を零と壱の狭間へと押し留め、
素子と化した構成の全てを侵食し、
遍在する可能性の全てへと置き換え、
可逆式の改竄を実行。
「アイツ、碑文を理解している……! 後は――」
「――ハセヲ! 聞こえていたら私の言うとおりになさい!」
声が聞こえる。
思考が乱れる。
式の実行が停止する。
「貴方は碑文との対話に成功している。けれど、それ以上進んでは帰れなくなる……! 感情を霧散させる指令を出しなさい!」
感情を……霧散?
抑え込むだけでも手一杯のこの状況下で分解式まで組めと言うのか。
けれど言われたように、これ以上進むのは危険だと警告する本能がそこにいた。
「落ち着いて、ゆっくり……少しずつでいいから精神をフラットに近づけなさい」
昂ぶった神経を、さも赤子に触れるような手つきで解いていく。
だがこんな速度で間に合うのか。
もう7割以上を喰われていることを知った上で、あんなことを言っているのだろうか。
「その調子……、起動式さえ瓦解すれば後は私たちが……!」
「ハセヲ……もうちょいだ!!」
意識が徐々に原型を失っていく。
熱病に浮かされたように喘ぎ声を出しながらも、少しずつ解き続けた。
右腕に痛みが這いずり回る。
――痛み?
そう、これは痛みだ。
痛みが……痛覚が帰ってきたのか。
「――クーン!」
「――パイ!」
光。
突如、眩い光が視界を埋めた。
光は二色だった。否、光は二つあった。
一つはかつて見たはずの雄々しき碧光。
そしてもう一つ、直視するも憚る苛烈なる紫光。
それぞれの光は腕を構え、忌眼を描き虚空を睨む。
瞬きの後、装填された力がその存在を知らしめるべく放たれ――意識はそこで闇に落ちた。
To be Continue
作者の蒼乃黄昏です。
小説を読んでいただきありがとうございました。
簡単な一言でいいので、ご感想を頂けると嬉しく思います。
ご感想をメールで下さった方には、お返しに
『第零話:終わり逝く世界』をお送りさせて頂いてます。
作者蒼乃黄昏さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル、投稿小説感想板に下さると嬉しいです。