「ふぅー……」


 ハセヲを撒いたことを確認して一息ついだ。

 まさか、あのハセヲがショップの売り子などをしているとは予想外もいいとこだった。


「まあ……時間的には潮時だったし、仕方ないか」


 『レイヴン』の彼女に指定された時間まであと15分少々。まだ余裕はあるが頃合ではあった。


「ハセヲの件で不機嫌になってたし……早めに戻って待ってるか」


 と、ホームまで足を進め――そこで止まった。

 否、止めざるを得なかった。


「…………お早いお帰りで……」


 つつ、と背中に冷たい汗が流れるのを感じる。

 何故か嫌な予感がする。

 いや、何故かというのは間違っている。

 これは確信だ。今感じている予感は限りなく現実となる。

 何故ならばホームに続く扉から、何ともいえない濃厚な……それでいて凄まじい威圧を感じるからだ。

 平凡な、いつも気軽に通っているホームへの扉がやけに重苦しい。

 こういうときの自分の予感は、特に悪い予感は決まって的中するのだ。しかも対処のしようのない悪い出来事ばかりが当たる。危険を察知出来てもそれ以上には役に立たない能力だった。

 それでも足掻くべきだ、と一人ごちて深呼吸をする。


「いや、落ち着け。俺は何もしてないんだからな」


 言い訳のようなことを呟きながら、意を決して歩を進める。


「……なんか、オーラが強くなってるような……気のせい……だよな」


 扉の前で足が止まった。

 無論、扉の向こうに誰が待っているのかは判りきっている。

 これは決定的な事実だった。この扉の向こうには彼女がいる。

 そしてその事実は、戦場の鴉をも払う高圧的なオーラを撒き散らしている人物が誰か判りきってしまっている、という意味をも示す。


「………………………生きて、戻れるか?」


 知らず呟く。

 見慣れた扉がやけに遠く感じる。

 というか、あの扉はあんなに寂れていただろうか。心なしか輝きを失っているというか、瘴気に犯されているというか……ひどく重苦しいイメージが連想される。

 そう考え出すともう止まらない。次第に何の変哲も無い扉が地獄の門に見えてきた。

 それでもなけなしの勇気を振り絞って――なんで扉を開けるのに決死の覚悟で望まなければいけないのだろうか、などと思いながらも決意を固める。

 そして気付かれないよう、音を立てないように扉をほんの僅かに開けて覗き込んだ。


(ひぃっ!?)


 そこには予想通りの人物が――パイがいた。

 まるで物理化したようなこの世のものとは思えない、殺意で構成されたオーラを撒き散らしつつ何事かを呟いているようだ。

 半分怖いもの見たさの心境で耳を澄まし、何を言っているのかを聞き取る。すると――


「…………あの餓鬼何考えてるのかしら助けてあげたのにお礼も言わず口を開けば出てくるのは嫌味ばかりだなんていやまだそれはぎりぎりのところで許してあげても良いわ所詮何もわかってない子供なのだものそしてなにより八咫様のご命令よ怒っちゃダメ冷静沈着に何事にも平静をもって挑むのが正しい判断怒っちゃだめ怒っちゃだめけどあれは許せないわ誰がオバサンですってそもそも私の年齢を知りもしないで初対面のしかも命の恩人にオバサン呼ばわりの挙句あの人が残してくれたこのPCにまでけちをつける有様親はどんな教育をしてるのよ大体私はオバサンなんて年齢じゃないわよ今の状態なら5秒でPKできるって言うのにまだ自分のほうが立場が上みたいな言い方をして許せないええ許せないわ許せるもんですか…………!!!」



「………………………………」



 ――――――――ゆっくりと、扉を閉めた。



「…………………………死ぬ」



 気配を殺して抜き足で扉から離れる。


(死ぬ……確実に死ぬ……今入ったら間違いなく死ぬ……!)


 もはや予感でもない事実を心中で何度も呟く。

 扉に背を向け、後を立てぬよう徐々に離れる。が――


「おかえりなさい。クーン」


 右肩にポンと手を置かれ、凍りついた。

 足がぴくりとも動かない。呼吸さえ止まった。心臓だけはなんとか動いていたがそれも時間の問題ではないだろうか。


「随分と遅かったわね……事の重要性をまだ理解してないのかしら?」


 声は穏やかだった。

 さざなみ一つたたないような静かな声。

 なんの感情も感じられないような無機質さを除けば、いつもの彼女の声だったかもしれない。


「い、や……これ、でも……はやく、きた、つもり……だったんだけ、ど……」


 自分の声は震えていた。

 これ以上ないほど怯えを滲ませ、絶え絶えにそれだけを口にする。

 その声からは恐怖の二文字しか感じ取ることができないだろう。

 けれど、このままじっとしているわけにもいかない。覚悟を決め、ゆっくりと……ゆっくりと振り返る。

 そこには右肩に食い込んでいる彼女の右手と、にこやかな表情があった。いつも引き締まった表情の彼女がなぜか笑顔だった。


「ねえクーン。少し長くなると思うから奥で話しましょうね」


 フフッと軽やかにパイは微笑み、クーンを地獄の扉の向こうへと引き摺り始める。


「パッ、パイ! 許して! 頼む!!」

「あら、何を怯えているのクーン? 少し話をするだけでしょう」

「許してくれえぇぇ!! オレなにも悪いことしてないだろおぉぉぉ!?」


 クーンの許しを乞う声には何故か涙が混じっていた。

 あらゆる人間から哀れみを誘うその声を聞いても猶、彼女は止まった笑顔のままだった。


「ええ、貴方は何も悪くないわ。だから奥で話しましょう」

「『だから』となにも繋がってなくないかっ!? し、死にたくな、助け――ぎゃああぁぁ……!!」


 ――翌日。『The World』の名物掲示板『うわさ版』では、ホームの設置されているマク・アム錬金区に響いた謎の阿鼻叫喚について論議されていたという。










          *****










 じりじりとアスファルトを焦がす炎天下の元、亮はいつもの道――病院から家までの道を歩いていた。

 学校もないというのに亮は朝早くに起床し、午前の内に志乃の見舞いへ行っていた。

 病室を出たのが昼過ぎ。むし暑い屋外を黙々と歩いている今は1時半手前といったところだ。

 自宅への道のりは、昨日伊藤たちと別れた土手に差し掛かっていた。


「今日は母さんも帰れないらしいし、夕食買ってから帰るか……」


 ルートを変更し、わき道のコンビニへと足を伸ばす。と――


「お、奇遇だな優等生」


 コンビニの店内。棒アイスを加えて雑誌を立ち読みしている友人に似た人物が声をかけてきた。


「……なんでオマエがここにいるんだ」


 買った商品をその場で――ましてや店内で食べ始めるような友人など一人しかいない。


「なんでって……俺がいちゃいけねえのか?」


 ざっくばらんに刈ったそのさっぱりとした髪型。

 いかにも体育会系だと言わんばかりの、健康に日焼けした肌。

 そしてどこか熊を思わせる図体のでかいその男。

 伊藤だった。


「いや、そういうことじゃないけど……なんで伊藤とはよく会うのかと思ってな」

「お互いに考えてる事似てんじゃねえの?」

「それだけは有り得ない」


 即座に断言する。


「んだよー、ツレねえなあ」

「こういうことははっきり言っておくことが大切なんだよ。誤解を生むから」


 言いつつ、伊藤の読んでいる雑誌をチラリと見る。


「……ネットゲーム週間誌? お前、ネットゲームなんかやってるのか」

「おう、最近ちょっとした理由で始めてな」

「まともに操作できるのか?」

「いんや、さっぱりだ」


 やっぱりな、と嘆息。

 この男はおよそネットゲームなどは向いていない性格だった。

 最近の子供として有り得ないことなのだが、およそTVゲームに類するものに一切手をつけなかったという希少種なのだ。絶滅危惧種と言い換えてもいい。

 ここに浅見さんがいれば「天然記念物なみに珍しいけど特に価値がないただの変人さん」とでも言い換えただろうか……。


「む? 今なんか失礼なこと考えてなかったか、亮」


 動物的感覚でこっちの心を読んできたようだ。この男は時たま野生に返したほうがいいのではないかと考える。


「気のせいだろ。ところで、なんでネットゲームなんか始めたんだ?」

「んー……ちっと、な。やらなきゃいけない理由が出来た」

「はぁ?」


 首を傾げる。

 伊藤の奇行は見慣れているが、竹を割ったようにさっぱりとした彼がこのように言葉を濁すことは初めてだった。


(相変わらず掴みきれない奴だな……)


 伊藤は視線を雑誌へと戻していた。

 暇つぶしに見る、というより凝視している、といったほうが適切なぐらい真剣に見ていた。

 その様子を横目で見つつ、適当に冷凍食品や弁当を手に取り、レジで清算をすます。

 買い物を済ませても猶、未だに伊藤は雑誌を睨みつけていた。


「伊藤、一つアドバイスしてもいいか」

「んー、なんだ?」

「ここで内容を暗記するよりさ、買って帰ってじっくり見たほうがいいんじゃないか」


 はっと顔を上げ、こちらを指差す伊藤。


「さっすが優等生! アッタマいいなオマエ!」

「褒めてくれて有難う。ついでにもう一つ、奇行をするときは俺の半径100メートル圏外で頼む」

「はっはっは、何言ってんだよ優等生。俺が今まで奇行なんてことをしたことがあるか?」

「まだ三回ほどかな……先週は。一年生からカウントすると三桁は軽い」


 遠い昔を思い返すような表情で告げた。


「それじゃ俺は帰るよ。なんか知らないけど頑張ってくれ」

「おう、任せとけ!」


 レジで先ほどの雑誌と追加の棒アイスを買いつつ、伊藤が手を振ってきた。


「あ、こんにちは三崎くん」


 コンビニを出た所で、自称大親友くんの天敵たる人物がそう声をかけてきた。

 小柄で、ぴょんと出たようなツインテールが印象的なその少女。

 いや、同級生を少女というには失礼か。けれど女性という単語が似合う風貌でもない。

 どこか小動物を思わせる、どこかの馬鹿とは対照的に理知的な仕草を見せるその少女。


「こんにちは。浅見さんも買い物?」

「うん、ちょっとチェーンソー買いに来たの」


 ――時が、止まった。

 少なくとも体感にして十秒は止まっていたように思える。

 いや、冷静に考えれば止まっていたのは時ではなく、自分の思考なのだろう。

 気を落ち着かせるために、そして現実と向き合うために目を閉じた。

 それから三度ほど深呼吸をする。彼女の先ほど言った言葉を頭の中で10度ほど繰り返し、その単語がどんなものだったかを冷静に思い返す。


「……ゴメン、もう一回言ってもらってもいいかな。何を買いに来たって?」

「チェーンソーだよ。弟の為に必要だから」

「弟の……為に?」

「うん。やっぱり刀よりそっちのほうが逆に似合うかなと思って」


 ――再び思考停止。

 いや、落ち着け。とにかく落ち着け。

 百歩譲って彼女はチェーンソーを必要としているとする。よし、これは有り得る。限りなく彼女のイメージとかけ離れているが、それが必要となることも天文学的な確率でまあ有り得ないとは言い切れないだろう。

 けれど、今のは有り得ない。なんたって有り得ない。一万歩譲っても有り得ない、というか有り得てはならない。逆に似合うというのも聞き間違いだ。そのはずだ。


「……度々ゴメン。チェーンソーを……その、何に使うつもりなのかな?」

「弟の工作だよ」

「弟……の工作?」

「うん。私たちも中学校の頃に作ったでしょ?」


 ああ――そういえばそんなこともあったか。


「あんまり驚かさないでくれ。今の言い方じゃ猟奇殺人の発生を危惧させるようにしか聞こえないよ」


 それに刀じゃ木を切ったりは――出来ないとは言わないがあまりに非効率的だろう。


「猟奇殺人……あ、そっか」


 やっと気づいてくれたらしい。自分が、なんていうか境界線上ぎりぎりの会話をしていたという事実に。


「でも、その場合はチェーンソーなんか使わないよ。私だったら槍とか――」

「話を戻そう、浅見さん」


 怖くなって無理矢理に話をぶった切った。


「残念だけどコンビニでチェーンソーは売ってないと思う」

「そうなの? 大抵のものはあるって伊藤ちゃんから聞いてたんだけど……50センチくらいの長さの刃物ならあるかな? 刀とか薙刀とか」

「世間一般のコンビニにはないと思うな、きっと」


 ちなみに刃渡り15センチを超える刀状の刃物は刀剣類法の一定基準に抵触するのだが、多分彼女はそんなことはおかまいなしなのだろう。

 そして伊藤のいう大抵のもの、というのはボールペンやらノートやら食べ物のことだろう。チェーンソーなんて凶器じみたものは大抵のものにカテゴライズされてないのは自明の理だ。


「それにチェーンソーなんて普通は要らないと思うよ? 中学生の工作程度ならせいぜいノコギリで十分だと思うんだけど」

「んー、それがね。なんか弟が『伊藤兄ちゃんより大きいもの作る!』って言い出して聞かなくて……」

「ああ……たしかに伊藤の作ったアレより大きいものを作るなら必要かもね」


 というか、間違いなく必要になるだろう。

 なにせあの馬鹿は家を作ったのだ。

 模型でも犬小屋でもなく、正真正銘の家を一軒建ててしまった。職人に勝るとも劣らないログハウスを、だ。

 伊藤の家は富豪と言っても差し支えがない。『富豪』の上に大をつけるかつけまいか、といった境界線上の金持ちだと言えば判りやすいだろうか。

 一度招待されて遊びに行ったことがあるが、そんな金持ちの家など当然くつろげるはずもなく、どこかの古城にでも迷い込んだ居心地の悪いものだったのを覚えている。

 別荘も当然いくつかは持っており、その別荘地の一角に伊藤が新たに家を建ててしまったのだ。

 ちなみにその家は、10メートルほど離れた伊藤家の別荘と合わせ鏡のように建てられていた。瓜二つに、些細な違いもなく同じものを作ってしまう伊藤の奇才ぶりには舌を巻くしかないだろう。

 作った後……というより建築した後になって、家は学校に持っていけない(課題であるため、当然提出しなければならない)という事実に気づいたのはあの馬鹿らしいオチだった。


「説得したほうが本人の為だと思うけどな……第一、あれより大きなものなんか作れないだろ」

「うーん……私もそう思ったんだけど、もう作り始めちゃってるの。ウチの庭に」

「……あー……そう」


 ちなみに浅見家も、伊藤家に劣るものの由緒正しい富豪である。浅見家には行った事はないが、恐らく伊藤の家と同じように規格はずれの敷地を誇るのだろう。

 なぜそんな富豪の長男長女がうちのような高校――それでも有数の進学校ではあるが――に通っているのかは不可解な謎だった。

 ついでに言えばその二人と最も親しい友人であるのが自分だというある種のホラーじみた謎は永遠に解けることはあるまい。


「じゃあホームセンターにでも行ってみれば売ってるんじゃないかな」

「ホームセンター?」


 それなんですか? と言いたげな視線が向けられる。


「あー……伊藤に聞けば判るんじゃないかな。アイツも同じようなもの使って作ったんだろうし」

「私も伊藤ちゃんに聞こうと思ったんだけど、朝から留守にしてるらしくて」

「となるとアイツは朝からあそこにいたのか……」


 げんなりとした顔で後ろのコンビニを指し示す。

 コンビニの中では別の週刊誌――今度は『The World』専門の情報誌――を立ち読みしている伊藤がいた。


「あ、いた」


 ぽつりと呟き、浅見さんはコンビニに入ってトコトコと伊藤の下へ歩き――軽やかに挨拶を交わしてから横っ面に右フックを放ち、よろめいたところへボディ。トドメに踵落しを脳天に叩き込んだ。

 店員がその惨状を見て唖然としていた。無理もない。例えるならばその光景は兎がライオンを蹴り殺しているようなものだったのだから。

 店員だけではなく、その場にいた他の客からも信じられない何かをみたような視線が浅見さんの身に刺さる。しかし彼女はそんなことはお構いなしに伊藤の首根っこを掴み、ズルズルと引きずって出てきた。


「それじゃ、伊藤ちゃんとお買い物行って来るね。呼び止めちゃってゴメン」

「いや、いいよ。それよりなんかその物体うめいてるけど大丈夫?」


 その物体――伊藤は一応生きてはいるようで、ぴくぴくと四肢を痙攣させつつ何事かを呻いていた。


「うぅ……ネット……ざ・わーるど……親友……強硬……手段……」


 気になるキーワードがいくつか出てきたような気がした。

 耳を近づけて何事を呻いてるのか聞き取ろうとした――その刹那。


 ――ぐしゃぁっ!


 ――と聞こえてきそうな威力で伊藤の顔はアスファルトにめり込み、そのまま完全に沈黙した。


「なんか伊藤ちゃんの調子悪そうだから、やっぱり帰るね。さっき呻いてたことは気にしないで」

「ああ……いや、なに言ってたっけ?」


 とぼけているわけではなく、顔のすぐ横を通り過ぎて行った浅見さんの一撃のあまりの凄まじさで本当に忘れてしまった。今のは間違いなくクリティカルだった。


「ううん、なんでもないの。それじゃ、またね」


 にこやかに笑い、軽やかな足取りで――もうピクリとも動かないが多分生きているであろう――伊藤を引き摺りつつ浅見は去っていった。


「なんか判んないけど……帰るか」


 釈然としないものを抱えつつ、亮もまた帰路についた。


「にしても……」


 あれを見て動じなくなった自分もかなり危ないところにいるのではないだろうか……?









          *****










「…………なにがあった?」


 “秘められた力”――憑神の使い方を教えてもらう為に呼び出されたカオスゲート前の広場。

 そこに着いてクーンの様子を見たハセヲの第一声がそれだった。

 対するクーンは熱に浮かされたように大丈夫だと繰り返すばかりだが、どう見ても『大丈夫』には見えなかった。

 その様子は端的に言って……どこかの裏路地に連れ込まれて2,30人ほどにめった打ちされたかのようだった。


「……まあ、いいけどよ……」


 気にはなったがそう答え、隣の女に視線を移した。


「それより、なんでアンタがいるんだ?」

「…………」


 露出の多い、人の目をひく格好のオバサン――たしかパイとかいったか――は黙り込んでいる。仕方がなくクーンに視線で問う。


「パイにはサポートをお願いしようと思ってな。構わないだろ?」

「サポートね……俺は構わねえけど」


 横目にちらりと視線を移し、


「行くのか?」

「……さっさとパーティに誘いなさいよ」

「へいへい、判ったよオバサン」


 またもパイは激情しかけたが、なんとか堪えたようだ。

 断っておくと彼女は決してオバサンなどという呼び方の似合う女性ではない。その容姿は美女の象徴に収まるものであり、その仕草、その振る舞いからは高貴さを感じさせられる、まさに美しい女性だった。

 それにも関わらずハセヲがオバサン呼ばわりしているのは、ひとえに両者の性格の相性の問題だった。

 パイからメンバーアドレスを受け取り、パーティに誘ってからカオスゲートへアクセスする。


「んじゃ、行くぜ。エリアは――」

「『意味持たぬ 凄絶の 眼差し』になさい」

「……ワード選びに何らかの意図を感じるのは気のせいか?」


 横のクーンが冷や汗混じりに聞いた。


「気のせいよ」


 ワードに負けずとも劣らわぬ眼光で睨まれ、クーンは黙り込んだ。


「どこでもいい。さっさと行こうぜ」


 そう、場所などはどこでもよかった。

 あの力――三爪痕を倒せる力を得られるならば、それこそどこに行こうとも構わない。例えそれが地獄であろうとも、嬉々として出向くだろう。

 彼女は――こうしている今も猶、生き地獄にいるのだから。


(そう……力だ!)


 朝日に照らされ、静かに眠り続けていた彼女の姿を思い浮かべて決意を固めた。


(なんとしても手に入れてやる……力を……憑神を!)






















To be Continue




〜ご感想に対するコメント〜

「第十八話 :理不尽」、拝見。
>続き、楽しみにしていますね



早速のご感想有難うございます!

少し遅れましたが19話となります、お楽しみください。



十八話、ハセヲが実に活き活きと動いていて、面白かったです。内面描写が秀逸かと。


判りやすいご感想ありがとうございます。

何が良かったのかを聞かせていただき、とても参考になりました。






作者の蒼乃黄昏あおのたそがれです。

小説を読んでいただきありがとうございました。

簡単な一言でいいので、ご感想を頂けると嬉しく思います。

ご感想をメールで下さった方には、お返しに

『第零話:終わり逝く世界』をお送りさせて頂いてます。






作者蒼乃黄昏さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板に下さると嬉しいです。









.hack//G.U 『三爪痕を知ってるか?』

第十九話 :紙一重











失言には寛容を


暴力には侮蔑を


覗きには死刑を