注意

この話を読む前に出来るだけ前編をお読み下さい。
前編と同じく、書き手はリリカルなのはを実際に見たことがないので、魔法や話し方、細かい所など全然違う可能性大です。
例によって、ティアナが「誰、これ?」状態かもしれません。
ついでにTo a you side側関係も、ちょっとだけ設定増やしています。ただ普通すぎて、読む時気付かずスルーする可能性が高いので、気にならない……かな。

それでも良ければお願い致します。




 To a you side 外伝妄想小説 (仮題)リョウスケとティアナの決闘 後編




>ティアナ

「それじゃあ、約束を果たしてもらおうか」

 あいつの言葉に恐怖で体が震える。
 予想した最悪の未来が今現実になるように、あいつの手が私の上着に伸びてくる。

「いやぁ」
『Masuter!』
「ちょっと黙ってろ」
 
 体は疲労と痛みで動かず、あいつの手を払うことさえ出来ない。
 クロスミラージュが声を出すが、私の魔力も尽きかけた為に何も出来ない。
 あいつは私の上着をはだき、その下の下着に手を伸ばす。
 
「やめて」

 私の口から出るのは、何時もの勝気な自分が信じられないような弱々しい声。
 そんな事もあいつは気にせず、私の上半身の肌を触っていく。
 私は、きつく目を瞑る。
 今の事実から逃れるように。
 悔しいのか悲しいのか恐いのか、自分でもぐちゃぐちゃになって分らない感情。
 そして心に大きく締める、裏切られたという思い。こうなる事は予想できたのに、何故そう思うのか。
 私は泣きたくないのに目から涙が自然と出てくる。

「ほら、楽になっただろう」

 えっ?

 半ば諦めかけていた気持ちに聞こえてきたそんな言葉。
 恐る恐る目を開けてみる。
 見えたのは、私の上着をきちんと着させているあいつの姿。

「ブラジャーを外したから、少しは楽になったはずだ」

 そういえば、さっきより呼吸が少し楽になっている。

「触った感じ骨が折れた様子は無いし、蚯蚓腫れも見えないから罅も無いだろう。まあ、刀を受けた所はさすがにくぼんでいるし内出血もあるから大きな痣になるだろうが、シャマルに見てもらえば1日で直る程度だ。背中は全体的に内出血が出ているだろうが、俺の一撃を受けた所ほどじゃない。とっさに受身も取ったようだから、頭も打ってない様だしな。と言うか、何故俺の一撃を受けてそんな怪我で済んでるんだ、おまえ?自信を無くすぞ、まったく」

 ええと、痛みで体が動けないほどなんだけど、思ったほど怪我は酷くないって事かしら。
 って、じゃなくて、

「怪我を見てたの?」
「なんだ、違うことでも想像していたのか?」

 そう言ってあいつはにやりと笑う。

 !!!

 一瞬で顔に熱が帯びてくる。
 
「あんたで誤解するなと言うのが無理なのよ!」
「そうかー? 実はお前の願望じゃないのかー?」

 私の怒鳴り声に、あいつはニヤニヤしながらこちらを更にからかう。
 くー、動けるなら今すぐ攻撃したい。

「で、さっきお前から外したこのブラジャー」

 あいつは右手に白いブラジャーを掲げ、こちらに見せる。
 って、なんであんたが私のブラジャー、手に持っているのよ!

「これは俺が預かる」

 なっ、なに言ってんのー!!!

「敗者は勝者の言うことを一つ聞く、だったよな」
「それは……」

 そうだけど、そんなのどうするのよ。

「おまえがまた俺に勝負を挑んできたら、これをブルセラショップに売る」
「売る?!!って、……ブルセラショップって何?」

 聞いたことが無い言葉だけど?

「うむ、俺もよく知らないが、使用済み女性下着を見てハアハアする奴に売る店らしい。何でも高く売れるとか」

 なによそれ!

「そんな所に売らないでよ!」
「おまえが勝負を挑まないなら売らねえよ」

 そして私のブラジャーをつまらなそうに見る。
 って、人の下着をじろじろ見るな!

「うーむ、76ってところか?」
「失礼ね、82はあるわよ」(注2)
「ほう、そうか」

 しまったー! 私の馬鹿ぁー!!

「まあ、少しは高く売れるだろう、多分」
 
 多分って何よ。私のが高く売れないはず無いじゃない、ってそうじゃなくて。
 こら、人の下着はもっと丁寧に扱いなさいよ。

 私のブラジャーを無造作にズボンのポケットに入れるあいつに文句を言いたくなる。
 
「さてと」
 
 おもむろにそう言って、あいつは、私の膝下に左腕を、右腕を背中に回して私を抱き上げる。
 この体勢って、……お姫様抱っこ?

「はっ、離して」

 恥ずかしさに顔が真っ赤になり、こいつから離れようと体をなんとか動かそうとする。

「こら動くな。こんな時くらい敗者は大人しくしろ」

 敗者。

 そうだった。私はこいつに負けたんだ。

 全力で闘った結果だから悔いは無い。
 悔いはないが、全力を出しても負けてしまう自分の力の無さ。
 さっきまでの羞恥心で一杯だったのに、今は失望で心が沈みそうになってしまう。

「ぐすっ」

 馬鹿、泣くな。泣いったて何も変わらない。
 自分にそう言い聞かせるが、目から涙があふれそうになる。
  
 その時、あいつが私の頭に手を置き、私の顔を自分の胸に押し付ける。

「俺は今、何も聞こえないし何も見えないからな。ただ、これだけは言っておく」

 そう言って、明後日の方を向きながら、頬を赤くしているあいつ。

「お前は強かった。それだけだ」
 
 そう断言するように言うあいつの言葉の意外さに、私の涙が一旦止まる。

「そんな慰め要らないわよ」
「俺は嘘は言っても、慰めなんか言わねえよ」
「じゃあ嘘なんだ」
「そう思っても結構だ」

 まだ不機嫌そうに顔を背けているが、あいつはさっきより顔を真っ赤にしている。
 それがなんだか可笑しかった。

「ねえ、ちょっと胸を借りていい」
「俺は何も見えないし聞こえないって言っているだろうが」

 ぶっきらぼうに言うあいつ。
 でも言葉の中に見え隠れしている優しさと、そんなあいつの胸が暖かくて、私は安心したように、吹っ切れたように私は泣いた。

 泣いてる私の心の隅で、死んだ兄さんが優しく微笑んでいる顔が浮かんだ。



>良介

 まったく、無理しやがって。

 こいつは、俺の胸の中で静かに泣いている。
 だが、泣くことは悪いことではない。
 泣くことによって流し清め、明日には、こいつは前を向いているだろう。

 それにさっき、こいつに言った言葉は本心だ。
 次に闘う事になったら負けるつもりなど無いが、絶対勝てると言い切れない。
 まあ、嘘つきの俺の言葉など、信用できるわけ無いだろうが。

 とにかく2度と闘わないように人質(ブラジャー)も取った。
 これでこいつと俺の勝負は、勝ち記録だけで終らせられる。
 それでも、もし勝負された時は容赦なく人質を売り金に換える。
 俺は転んでも只では起きない男なのだ。
 

 さて、とっととこいつをシャマルの所に連れて行くはずだったが、まあ、今は泣き止むまで待ってやろう。
 こいつも泣き顔を見られるのは恥ずかしいだろうからな。

 年に一度か二度だろう、俺が相手を思いやるという特殊な行動で待っていると、何時の間にかこいつは泣き止み、こちらを見ている。
 泣いたせいか少し目が赤いが、顔にはもう暗さはない。

「ありがとう」

 いつも会うたびに文句ばかり言うこいつが、顔を真っ赤にしながら上目使いに俺にそう言う。

 うっ。

 不覚にも、可愛いと思ってしまったのは、絶対に気のせいだ。
 顔が熱を帯びているような気もするのも、絶対に気のせいだ。

「さて、とっとと行くぞ」

 気の迷いを振り払い、急いで俺はカードを取り出す。

「あっ、私のカード!」
「さっき上着から取らせてもらったんだよ。今のお前じゃ魔法の行使はきついだろうからな」

 魔法はイメージが大切だ。
 魔力が無い俺でも、カードの魔力を使えば何とかなる。
 俺はカードを翳し、はやて達の居る機動6課を頭にイメージする。

「ジャンプ」

 えっ、呪文が違う?

 すまん、言ってみたかったんだ。



>ティアナ

 慣れ親しんだ職場の廊下を、こいつは部外者の癖に迷いもせずに歩いていく。
 私をお姫様抱っこしながら……。

 ううっ、恥ずかしいから、どうか誰にも会いませんように。

「ねえ、なんで私の勝負を受けたの」

 黙っていると恥ずかさばかりが募るので、気を紛らわすように話し掛ける。

 勿論、疑問ではあった事だけど。

 こいつの真剣に戦っているのを見るには、今回が初めて。
 いつも煙に巻いて逃げてしまう。今回もそれは出来たはず。
 私の攻撃をあれくらい回避できたのなら簡単に逃げられるし、そして誰かに連絡を持てば良い。

 私の質問に、こいつは立ち止まる。
 前の方に顔を向けたまま。
 こうして近くで見ると、本当にこいつは隊長達と同年代に見え、ずっと年上には見えない。
 
「俺も、以前は強い奴を見つけては勝負を挑んだ。強い奴と戦って勝つ。そのことが、俺の強さになる、いや、証明になると思った。そんなことじゃ、強さなんて測れないのにな。勝負を挑むお前の姿が、そんな俺の姿に見えた」
「私は別に、そんな事は思って無かったわ」

 そう、最初はそんな事、少しも思っていなかった。
 でもこいつの強さを認めた時、確かに私はどうしてもこいつに勝ちたくなった。

 こいつに私の強さを認めさせたかった。

「俺がそう思っただけだ。気にするな」

 そう言ってこいつは再び歩き出す。

 私が昔の自分に重なった……から。

 こいつも私みたいに、力のない自分を嘆いたことなどあったのだろうか?
 今の不遜な態度からは、全然想像できないけど。

 そして同情なのだろうか? いや、そんな理由で、この男は戦ったりしないと思う。

 結局、この男が何故私と闘ったは分らない。
 ただ、過去の自分を語った時のあいつは、確かに経験を積んだ男性の横顔だった。

「ねえ、あなた何歳なの?」
「何だ、行き成り?」
「いいから」
「まあ、27くらいだと思うぞ、多分」

 兄さんが生きていたらそれくらいじゃないだろうか?
 そうか、こいつ、兄さんくらいなんだ……。

 その事実に何故か胸が温かくなる。

「ふーん、でもよく私に手を出さなかったわね。もてなさそうなのに」

 一時は本当に覚悟したのだ。でも、こいつはそんな事はしないって感じたから、私は軽口を叩く。
 もてなさそう、で頭に浮かんだ隊長達の事は、明後日のほうに置いておこう。

「誰がお前のような小娘に手を出すか。というか、一言余計だ」

 むかっ。

 本当に手を出されても困るけど、今の言葉は、何故かむかつく。
 今、動けない私は、こいつに一矢報いるべく考えを巡らす。

「なるほどね。聞いた通り、あなたは10歳以下にしか興味のないロリコンなのね」

 ゴン!

 結構良い音が鳴ったわね。
 
 私を抱えたままこいつはよろけて、頭を通路の壁に打ち付けている。
 今日、こいつに私が初めて与えた一撃じゃないかしら?

「ちょっとまてー! だ・れ・が、ロリコンだ!! 聞いていた通りって、誰が言っていた、おい!」
「えーーと、はやて隊長が、リョウスケはロリコンやから注意しないとあかんよ、って」
「はやてーー!!」

 あまりに目が据わっているこいつの視線から、逸らすように目を明後日に向けながら答える。

 一応、はやて隊長がそう言ったのは本当。
 まあ、あんまり私がこいつに突っかかるから、それを抑えるつもりで言ったのだと思うけれど。
 10歳以下うんぬんは、単に私の付け足した感想。

 うん、嘘は言ってないわよね。

「ふっふっふ、覚悟しろよ、はやて」

 さっきよりずっと早足になりながら、そんな事を呟くこいつに、ちょっとまずかったかな、と思った。



>良介

 こいつを抱えながら、六課の廊下を早足で歩く。
 民間人の俺様が、何故か時空管理局の建物内を案内もなく歩けるほど慣れてしまっている。
 その事実に至る経緯に少し頭を抱えてしまうが、とにかく今は、こいつをとっととシャマルに預けるべく、医療室に向け早足で歩く。

「居るか、シャマル」

 ノックもなしにドアを蹴破る。
 両手が塞がっているし、急いでいたから仕方が無い行動だ。
 だからその理由の一つが、非難するようにこっちを睨むな。

「どうしたんですか、良介さん」

 いきなり来た俺と腕の中のこいつを見て、シャマルは吃驚している。
 それを無視して、こいつをベットに横にする。

「後は任せた。シャマル」
「えっ、ちょっと良介さん!?」

 素早く治療を始めたシャマルが、目を白黒させながら俺に声を掛けるが無視する。
 俺はこれからはやてを締める使命があるのだ。

「待って」

 だがその声に、俺は部屋から出る所を止める。

「これからリョウスケと呼んでいい?」

 何時もと違う、不安の音を混ぜながらの質問。
 俺はそれに苦笑いしながら、はっきりと答える。

「好きにしろ、ティアナ」

 そう言って部屋を出て、廊下を駆け足で駆けて行く。
 
 待ってろよ、はやて。



>ティアナ

「待って」

 あいつの腕から離れベットに横になる時、何故か寂しさを感じ、部屋を出て行くあいつをとっさに呼び止めてしまう。
 でも理由もなく呼び止めどうしようかと焦る思考。それを無視して、口から勝手に言葉が出る。

「これからリョウスケと呼んでいい?」

 勝手に出た言葉。でも、その答えにものすごく緊張している自分が居た。

「好きにしろ、ティアナ」

 そう言って、こっちも見ないで駆けて行くあいつ。
 でも答える時、苦笑いしているあいつの横顔が見え、そして初めてあいつ、リョウスケにまともに名前を言って貰えた事実に気が付いて、何故かそんな事がとても嬉しい。

「……嬉しそうね、ティアちゃん」
「えっ、いえ、その、シャマル先生のおかげで痛みが楽になったのが嬉しくて」

 ジト目でこっちを見ているシャマル先生に気が付いて、慌てて誤魔化すように言う。
 いえ、嘘じゃないわよ、嘘じゃ。

「まっ、いいわ。とにかく今は治療に専念しましょう。あなたも痣なんか残したくないでしょ。しかしどうしたの? こんな怪我までして。いつもの喧嘩じゃすまないわよ」

 治癒魔法を掛けながら、呆れ顔の中に心配そうな気配を混ぜて、シャマル先生がこちらに問う。
 そんなシャマル先生に、リョウスケと決闘していました、と正直に言うべきか迷う。
 正直に言ったら言ったで心配かけそうだし。
 そんな私の怪我の具合を見ながら治癒魔法を掛けていたシャマル先生の手が止まる。

「ねえ、ティアちゃん……」

 シャマル先生の顔が青ざめている。
 痛みはだいぶ引いたのだが、もしかして、私は致命的な怪我を負ったのだろうか?

 シャマル先生の次の言葉を覚悟して待つ。

「何故あなた……、ブラジャーしていないの?」

 はっ?

 えーと、そういえば、あいつに取られたままだった……。

「まさか、良介さんに……」

 語尾が震えるようなシャマル先生の言葉と、その想像している内容に思い当たって、私は慌てて否定する。

「いえ、ブラジャーを取られただけで、まだあいつとやってません」
「まだ?!」

 違うんですー!!
 段々気配が恐くなっているシャマル先生に戦々恐々しながら、さらに否定する。

「いえ、これからもリョウスケとはやる事なんてありません」

 多分。

 心の中でそれだけ付け足しておく。
 いえ、別にあいつが好きだとかじゃないけれど、未来は不確定だし、もしかするとあいつとゴニョゴニョの関係になるかもしれないし。
 うん、頑張れば私だって、って違う。何考えているの、私。

「そう、でもブラジャーを取ったのは確かなのね」
「はい……」

 シャマル先生のまるで地の底から聞こえるような言葉に、肯定する。
 それは本当の事だし。
 私の肯定の返事に、シャマル先生は顔を俯きさせながら「こんな小娘のじゃなくても、私なら中身だって上げても良いのに、ブツブツ……」という聞き捨てなら無い呟きが聞こえてきたが、聞こえない振りをする。

 ……まだ死にたくないし。

「まあ、これで大丈夫ね。ねえ、ティアちゃん。ちょっと私、用事が出来たけど、あなたはここで安静にしていてね」
「はっ、はい」

 私に治癒魔法を掛け終えた後、なんかものすごく綺麗な、例えるなら南極の氷原の風景のような笑顔で、シャマル先生は私にそれだけを言い、医務室を出て行く。

 自業自得だけど、無事に成仏してね、リョウスケ。



>良介

「はやて、居るか!」
 
 機動六課の隊長室の入口を蹴破るように入る。

「良介やない、いきなりどうしたんや?」

 昔は背も小さかった俺の家族。
 今では責任ある立場とそれに見合う力量を周りに示し、皆から尊敬と好意を集めている魅力的な女性、八神はやて。

 書類を書いていたのか机に向かっていたはやてが、いきなり現れた俺に驚愕する。
 だが、俺は気にせず早足でどんどん近づく。
 よし、いつも秘書役やってるあいつは居ないな。

「なんや、って、痛い痛い痛い! ぐりぐりはやめてー!!」

 問答無用ではやての額のこめかみに両こぶしで挟み込む、通称梅干(地域によって表現は違うらしい)の刑を執行する。
 はやての抗議など無視だ。

「なっ、なんやいきなり」

 さすがに1分程でも梅干は効くらしく、はやては両手で頭を抑えながら涙声で抗議する。

「やかましい。あいつに俺の事、ロリコンって言ったろう!」
「あいつって?」
「ティアナだ、ティアナ。誰が10歳以下にしか興味が無いロリコンだ!」
「あぁ!」

 はやての顔に理解の表情が浮かぶ。
 よし、心当たりがあるようだな。

「いやな、ティアちゃんとスバルちゃんがあんまりリョウスケに突っかかるから抑えようと思ってな。いや、10歳以下とまでは言うてないよ。ホンマ。だからぐりぐりはやめてー!」

 そう言いながら、再び梅干の刑を執行しようとする俺から、部屋の隅にはやては逃げる。

「ほう、ロリコンと言ったのは本当で、しかももう一人にも言っていると……」
「あっ!」

 ふっ、語るに落ちたな、はやて。
 俺は部屋の隅から逃がさないように、哀れな子羊に距離を詰める。

「いい訳はあるか?」
「えーと、えーと、……初めてだから、やさしくして、良介」
「却下だ」

 こんな時にまで冗談が言えるこいつに誰が優しくするか。
 こめかみを両手で隠しているはやてに、強引にこぶしを押し付けようとする。
 だがその時、この部屋に突然、俺と同じような乱入者が現れる。

「ふえーん、はやてちゃーん! 突然、リョウスケが居なくなったですー」
「邪魔するわよ」
(ぺこり)

 現れたのは、空を飛ぶ妖精のような女の子と、お嬢様ルックの少女、それに巫女服狐耳の少女。
 そのうち二人がこちらに気付くなり声を上げる。

「あー!! 居ましたリョウスケ。はやてちゃんに何やっているですかー!!」
「何やっているの良介、あなた、変質者にしか見えないわよ」
「たすけてーな、ミヤ、アリサちゃん、久遠ちゃん。良介に襲われるー!」

 俺から逃れ、現れた三人の後ろに隠れるはやて。

 ちっ、捕まえてこのまま刑を執行しようにも、現れたミヤ、アリサの二人に防がれるのは確実だ。
 そして現れたもう一人の久遠も、非難はせずとも悲しい顔をする。

 くそ、命拾いしたな、はやて。

「ミヤちゃんが、慌ててこっちに来たって聞いたけど……、あれ、兄さん」
「リョウスケ?」

 また、ややこしい奴が来た。

 今では立派に成長した体を時空管理局の制服に包み、夢に向かって日夜職務を遂行している女性達。
 高町なのはとフェイト・T・ハラオウン。

 その二人が驚いたように俺を見る。

「はやてちゃん、フェイトちゃん、良介に襲われるー」
「ええっ!」
「どういうことです、兄さん!」

 こら、はやて。人聞きの悪い事言うな。

「心配するな、家族のスキンシップだ」
「なんだ、そうなんですか」
「そうですか」
「騙されとる、騙されとるよ、なのはちゃんにフェイトちゃん!」

 俺の言葉にあっさり信用するなのはとフェイト。それに慌てるはやて。
 こんなので、本当に犯罪者相手の仕事も勤まるのか甚だ疑問だが、実はこの二人、時空管理局にその人あり、と言われるほどなのだから、世の中不思議に満ちている。

「ところでお前ら、どうしてここに?」
 
 アリサとミヤ、そして久遠に尋ねる。
 こいつらは時空管理局員ではないから、本来ならここに居るはずではない。
 いや、それを言うなら俺もなんだが。

「ミヤが、良介が私達の世界じゃないどこかに消えたって騒ぐから、とりあえずここに来たの。久遠は遊びに来ていたのだけど、一緒に行くって言うから。まさか一発で見つかるとは思わなかったわ。でも結局どうしたのよ、良介?」

 うーん、さすがはアリサ。
 心配性のミヤをとりあえず正当なマスターであるはやてに預けて落ち着かせ、それから捜すつもりだったのだろう。まあ、ここに俺が居る確率も高いと読んだんだろうが。
 さて、ティアナとの勝負の事はあんまり言いたくないし、仕方が無いから現状をそのまま言うか。
 
「だってよ、はやての奴、俺がロリコンだと言ってるんだぞ」
「何言っているの。本当のことじゃない」

 いや、あなたこそ何を言ってるのですか、アリサさん?

「そんな訳無いだろうが!」
「今の状況で、どの口でそんな事言えるのかしら」

 えーと、右を見ると何時の間にか俺の腰に抱きついている久遠。左を見ると俺の肩に座っているミヤに、隣に居るアリサ。
 うん、見事にちびっこが集まっている。

 ……なんとなく、なのは達の視線が痛い。

「いや、これは違う、違うんだ」
「へー、状況証拠は十分やと思うんけどなー」

 おのれ、はやて。

 さっきの仕返しか、そんな事を囃し立てる。
 だが、ロリコンを認めたら、俺の男としての、いや人間としての何かが崩されてしまう。

「大丈夫よ、良介」

 おお、アリサ。
 お前は分ってくれるよな。

「例え良介がロリコンでも、私は見捨てないから。ねっ、ご主人様」
「そんな言葉嬉しくねえ」
「むむっ、まっ、まあ、リョウスケをサポート出来るのはミヤだけですから、ロリコンでも仕方ないからサポートしてあげます。感謝して下さい」
「お前は黙ってろ」
「久遠もリョウスケ、見捨てない」
「いや、久遠。お前の言葉は嬉しいが、状況判ってないだろう」

 ああ、こいつら役に立たねえ。

「やっぱり、兄さん……」
「リョウスケ、やっぱり……」

 こら、なのはにフェイト。
 やっぱり、ってなんだ、おい。

 くそ、何とかこの状況を打破するためにどうしたら良いんだ?

 だが俺がその方法を考え出す前に、またもやこの部屋に乱入者が現れた。

「良介さん、聞きたい事があります」

 いつもは朗らかな笑顔のシャマルが、今日は視線鋭く俺に問い掛ける。

 多分、ティアナの事だろう。
 ティアナの怪我の事をこいつらに知られたら非難が巻き起こるだろうが、考えようによっては今の状況よりは良いかもしれない。
 俺は覚悟して、次のシャマルの言葉を待つ。

「何故、ティアちゃんのブラジャーが無いんでしょうか?」

 はっ?

 ……しっ、しまった、忘れてたー!!
 そりゃあ診察する時に気付かれるに決まっている。

 周りのなのは達は、唐突なシャマルの言葉に怪訝な顔をしている。

「……その顔は覚えがあるようですね」
「何の事だ。あいつがし忘れたんじゃないのか?」

 俺は何とか誤魔化そうとする。
 が、視線は泳ぎ、冷や汗は止められない。

 まずい。

 今はまだ、こいつら事情が飲み込めていないようだが、解ったらどうなるか考えたくも無い。
 周りは俺とシャマルの会話に、じっと耳を傾けている。
 
「女性がブラジャーを着け忘れる事なんてありません。スバルちゃんじゃあるまいし」

 いや、それはちょっとスバルに失礼なんじゃないかと思うぞ、シャマル。
 確かに格好は男っぽいが、結構、胸は有りそうだし。

「今、何か余計な事考えませんでした?」
「いえ、何も」

 あぶねえ。
 なのは達の視線も鋭くなっている。

「ティアちゃんは、良介さんに取られたと言ってました」

 げっ!

 いや、ティアナがそう答えるのは当たり前なんだが、そこは黙っているのが友情と言うものじゃないだろうか。

 と、自分でも信じてない友情を当てにしなくてはいけないほど、状況は切羽詰っている。
 周りの視線が針のように鋭くなっているし。

「何か証拠でもあるのか」

 俺の今の態度こそが証拠って気もするが、ここで弱気になってはまずい。
 
 くいくい。

 久遠が俺の服を引っ張っている。
 何だ?

「リョウスケ、これ、なあに?」
 
 久遠が白い2つほど膨らみがある紐のような物を、不思議そうに手に持っている。
 その紐は俺のズボンの右ポケットに繋がっていた。

 って、ちょっと待て!
 俺は慌てて久遠の手に持っている物を強引に取り上げる。

 あっ、いきなりで久遠が泣き出さないだろうか。

 見ると、久遠は吃驚しているが、泣いてはいない。
 それにはホッとするが、代わりに俺が泣きそうだ。
 
 周りから濃厚な魔力が放出されている。
 なんというか確認したくない。

「スターズ分隊隊長高町なのは、八神はやて隊長にリミッター解除を要請します」
「ライトニング分隊隊長フェイト・T・ハラオウン、同じくリミッタ−解除を要請します」
「許可します。高町なのは隊長、フェイト・T・ハラオウン隊長」

 安易に許可するんじゃねえ。

「さっ、久遠。こっちに非難しましょうね」
「リョウスケ、頑張って下さーい」

 アリサとミヤの薄情者。

「大丈夫ですよ、良介さん。死にかけても、一応、治療しますから」

 死にかけるのは決定事項なのか、シャマル。
 微笑みながら言っても、すげえ怖いぞ。

「さっきやられた分も含めて、たっぷりお仕置きせんとな」

 はやてが魔法を使う体勢に入っている。
 この部屋から脱出しようにも、入口はシャマルに塞がれている。

 なんとか、なんとか出来ないのか。

「主、御無事ですか!」
「きゃあ」

 チャンス。

 強大な魔力を感じて大慌てで来ただろう人型のザフィーラの腕を掴み、火事場の馬鹿力で引っ張る。
 人間、死を感じた時、馬鹿力を発揮するというのは本当のようだ。

「貴様はリョウスケ。何をす」
「撃ち貫け、石化の槍、ミストルティン!」
「ザフィーアバリア!!」
「ぐわっー!!!」

 世にも名高い守護騎士ヴォルケンリッター、盾の守護獣を文字通り盾にしたが、はやての魔法一発でボロボロになる。
 その破壊力の高さに戦慄する。

「良介……、その防ぎ方は人としてどうかと思うよ……」

 無抵抗の人間に、問答無用で魔法をぶっ放すお前に言われたくねえ。

 入口にいたシャマルは、さっきザフィーラにぶつかって体勢を崩している。

 今しかない。

「あっ、逃げた」
「待ちなさい、お兄ちゃん」
「逃がさない、リョウスケ」
「そうです。逃がしません」

 誰が待つか。
 掴まったら一貫の終わりだ。

「ディバインバスター!」
「プラズマランサー!」

 建物内でそんな魔法ぶっ放すんじゃねえ。

 時空管理局内で、俺達の壮絶な鬼ごっこが始まった。


 ちなみに俺達が去った後の隊長室では、

「くぅ、ザフィーラ、大丈夫?」
「く、久遠殿。今はその言葉を頂けるだけで、自分は…(ガク)」
「しっかりして下さい、ザフィーラさぁーん!」
「もう、私達じゃあこの人運べないし、どうしようか」

 取り残されたザフィーラとちびっこ共が、放置されたままだったらしい。



>ティアナ

 リョウスケとの勝負の時に受けた傷は、シャマル先生のおかげで一日で痕もなく治っている。
 ただ、私が医療室で横になっている間に、管理局内では大変だったらしい。
 
 何故か大きくなってしまった今回の騒ぎ。そしてその発端になったのは私の行動。
 だからフェイト隊長の兄で機動六課の後見役、クロノ・ハラオウン提督直々に呼ばれた時は、重い処罰も覚悟した。
 その覚悟を持ってクロノ提督の前に立った私に渡されたのは、一枚の紙。

 始末書という名の書類。

「まあ、幾ら支給品と言っても休暇中にカードリッジを紛失するのは問題があるからね。その始末書は明日までに提出するように」

 それだけ。

 その余りに軽い処罰、いや処罰と言えない処理に私は拍子抜けする。

 ただ、一介の隊員にわざわざ提督が始末書を渡す。
 その不自然さに失礼だとは思ったが、提督に直接聞いてみた。

「いや、本来君に渡して注意するべき隊長達が、今回注意を受ける立場だから、立場的に僕が言うしかなくてね」

 と、苦笑い。

「今回君がした事は、間違い無く規則違反だ。それは君の事だ。言われなくても分っているだろう」
「はい」

 嘘。

 私は何もわかっていなかった。
 あの時は、リョウスケを打ちのめす。それだけを考えて、その後の周りにかかる影響は、全然考えていなかった。
 
 ……犯罪とは、こうやって起こる物なのかもしれない。

 ただ、今回は、逆に打ちのめされたのが私だったけど。

「民間人に対する私闘。だが実のところ、それを証明する物は今のところ何もない」
「それは」
 
 証拠が無いから大丈夫という事? でもそれで良いのだろうか?

「まあ聞きたまえ。君が私闘を挑んだ民間人、まあミヤモトを民間人と呼ぶのは抵抗があるが、ミヤモトは今のところ君から闘いを仕掛けられた事は言っていない。代わりに君に怪我をさせた事は認めている」

 仕掛けたほうの攻撃が否定され、仕掛けられたほうの攻撃が認められるという理不尽。

「もっとも状況的に君から仕掛けたのは、間違いない。だがミヤモトも、その、君の、下着をだな、取ったのも間違いは無い」
 
 提督が、顔を赤くして言う。
 私も、恥ずかしさで顔が真っ赤だろう。

「本来なら双方に罰するべきだと僕は思うのだが、ここでレティ・ロウラン提督とミヤモトの保証人アリス・バニングスさんから示談の提案があり、双方御咎めなしの方向となった」
 
 私にとっては存外の都合の良い展開。でも、それで良いのだろうか?
 いえ、それじゃあ、何か駄目な気がする。

「あの、提督」
「ああ、君が納得出来ない場合、これを渡すようレティ提督から預かっている」

 私は湧き上がった思いをなんとか言葉にしようと声を上げるが、その声を遮るように、提督から一通の封筒を渡される。

「これは?」
「僕は、中身は知らない。開けて見たまえ」

 開けてみると、中身は一通の手紙と写真が一枚。
 その写真を見た時、息が止まる。

「どうした?」
「いっ、いえ。なんでもありません」

 私の様子を不信に思ったのか、クロノ提督に声を掛けられるが、私は慌てて写真を見られないよう手元に隠す。

 なにしろ写っていたのは、お姫様抱っこをされ、あいつに体を預けている私の姿。
 こんなの改めて他人に見られたら、恥ずかしくて死んでしまう。
 
 恥ずかしい写真はとりあえずポケットに入れといて、手紙を読む。

『なかなか良い写真でしょう。皆さんが欲しがったら差し上げるから、何時でも言ってね。
 PS 今回は、あなたも勉強になったでしょう 』

 これ……、この示談を蹴ったら、写真をばら撒くと云う意味じゃないかしら……。
 言葉の裏にある思惑がすごく怖いのだけど……。

 あと、勉強になった、か。

 確かにあいつの強さの一端。自分の取った不用意な行動で起きる反動。周りへの影響。
 知りえた事は思いのほか、あったと思う。

 最後には、有効的な脅迫の仕方まで、学んだような気もするのだけども……。

「レティ提督の思惑は僕は良く知らないが、とりあえず君の不利益にならないと思っている」

 クロノ提督の言葉に頷く。
 レティ提督のおかげで罪を免れたのは確か。

 ただ、弱みも握られた気がする……。
 
「今回、君の行動は間違っていた思う。でも、ミヤモトと戦えたのは、君にとって良かったと僕は思っている」
「えっ!」

 提督の言葉に驚く。
 規則に煩いと思っていたクロノ提督から、レティ提督と同じような言葉が出るとは思わなかったから。

「僕達はどうも魔法を至上に考えがちだ。だが、強さは魔法だけじゃない事が、身をもって体験出来たんじゃないかな」

 クロノ提督は、私に優しく微笑むように言う。
 私はその言葉に頷く。

 魔法を使っていないリョウスケに、魔法を使って私は完敗した。

「それに君は、自分のした事に対しきちんと反省できている。さっき僕に言おうとした事はそういう事なのだろう? だから大丈夫。まあ本当は、管理局内に被害が出なければもっと良かったのだけどね」
「済みませんでした」

 私は提督に頭を下げる。
 お詫びと、私の気持ちを汲んでくれているクロノ提督に感謝を込めて。

「いや、君が医務室で横になっていた時の事だから、君に責任は無い」

 私のほうに怒りは無いみたい。

「しかし、ミヤモトリョウスケ。君はいつまでも僕に迷惑を掛けるんだな、フフフフフッ」

 ただ、黒くなってるみたいだけど。
 あいつに絡むと、皆黒くなるのかしら。

 ……私は、大丈夫よね。



 提督の前から辞して部屋に帰ると、スバルが荷物を持って待っていた。

「あっ、ティア。荷物届いてたよ。送り主の名前はアリス・バニングスだって。知ってる?」
「アリス・バニングス?」

 そういえば、さっき提督の話の中で、リョウスケの保証人がそんな名前だったような。

 スバルの前で、荷物の箱を開けると、手紙とカードと紙に包まれている物が二つ。
 持った感じ、かなり軽い物だ。
 管理局内で荷物チェックはしているから、危険物ではないと思う。 
 思うけど、リョウスケ関係だと用心が必要ね。

 カードは、私が転移魔法で使った物と同じ。そういえば、リョウスケに取られたままだったの忘れてた。

 まあとりあえず、手紙を見てみよう。

「スバル、人の手紙を覗くのは、マナーがなっていないわよ」 

 後ろから手紙を覗こうとしていたスバルに注意。
 
「はははっ、えーと、後で何の荷物だったか教えてね」
「んっ。スバル」
「なにっ?」
「ありがと」

 誤魔化すように部屋を出て行こうとするスバルを呼び止め、感謝の礼。
 それにスバルは笑顔を見せて部屋を出て行く。

 まったく、あの子も物見高いんだから。
 でも、荷物への興味と言うより、私が心配で待っていたのだろうな。
 提督直々に呼ばれることなんて、普通はないし。
 まあ、私が何時もと変わらないから、安心したのだろう。

 スバルには、私とリョウスケが決闘した事も、怪我をした事も内緒にしている。
 言ったら「何で誘ってくれなかったの!」って文句で煩いだろうし、私が怪我をした事を知ったらリョウスケを殴りに行くに決まっている。
 怪我は、一日、というか2時間ぐらいで私はベットから起きていたから、横になっている所をスバルは見ていないし、それよりも管理局内での騒動が大事になっていたから。
 今回の提督直々の注意も、リョウスケの起こした騒動に、私もちょっと関ったからだと思っている。
 いつも私がリョウスケに突っかかって行ってたから、スバルがそう思うのも仕方が無いけど。

 詳しい事を聞かないでくれるスバルには感謝。

 さて、手紙を読んでみましょう。

『ティアナ・ランスター様、

 今回は、うちの良介が迷惑をお掛けし申し訳ありません。
 あなた様のものは、良介から取り上げましたが、状態が芳しくなく、替わりのものを同封させました。
 良介に選ばせたので、気に入らない場合には、良介を叩きのめしてやって下さい。

 アリス・バニングス』

 このアリスって人、リョウスケとどういう関係なのだろう?
 文面にリョウスケとの親しさを感じる。

 まあ、私には関係ない。……ないけれど、何故か気になる。

 荷物を開けてみると、一つは手紙の文面から予想した通り、リョウスケに取られたブラジャー。
 確かに状態が芳しくない。
 綺麗に洗ってあるが、なんか薄く付いてる黒い染み、多分血の跡と所々の切り傷、止めは焦げ跡。

 ……あいつ、生きてるのかしら?

 もう一つの荷物は、新しいブラジャーとパンティ。
 色はライトオレンジ。形はシンプルだけどさっと刺繍がしてある。

 手紙には、リョウスケに選ばせた、と書かれてたわよね。

 ……あいつ、私にはこれが似合うと思って選んだのかしら。

 そう思うとなんかすごく恥ずかしい。

 本当なら、あいつに物を貰うなんて御免だけど、
 で、でも、せっかくだし、ま、まあ、着けてやらない事もないわね。勿体無いし。

 ……ちょっと、今、着けてみようかしら。

「ティア」
「きゃあああ!」
「うわ、何、大声出して」
「ス、スバル!あんた、部屋に入る時はノックしなさい!」

 ブラジャーを胸元に持ってきてた時に声を掛けられたから、めちゃくちゃ焦った。

「ごめーん。あれティア、そのブラ新しいやつ? もしかしてさっきの荷物?」
「えっ、ええ」
「可愛いブラだね。アリスって人に頼んだの? もしかしてティアの友達?」

 まずい。

 スバルと私の知り合いはほとんど共通しているから、知らない名前に不思議がってる。

「ええと、そう、これは懸賞のプレゼントで当たったの」
「懸賞? でも、個人名で送ってこなかった?」

 うっ。確かにこういうプレゼントは、普通、企業とかやるわよね。

「ええっと、そう、アリスというデザイナーの商品なの、うん」
「へー、そうなんだー」

 こういう時、スバルの単純さには助かる。

「良かったね、ティア」
「あ、ありがとう……」

 ううっ、スバルの無垢な笑顔に罪悪感が……。
 とにかくここは話をそらして、

「それでスバル、どうしたの」
「一緒にご飯を食べようと思って誘いに来たんだけど」
「ああ、もうそんな時間なのね。分った、これを仕舞ってから行くから先に行ってて」
「分った。速く来てね」

 部屋を出て行くスバルを見送り、手のブラを見る。
 これはまあ、スバルに言った辻褄を合わせる為にも、大事に取っておこう。

 決して、嬉しかったから、とかじゃ無いんだからね!!


 ……私、誰に言い訳しているのだろう?

 そういえば、提督の所で写真をポケットに入れたままだったの忘れていた。
 危ない、危ない。
 何かの拍子に皆に見られたら、大騒ぎになってしまう。
 これはちゃんと処分……、いや、処分する時に何かの弾みで誰かに見られても困るから、奥のほうに仕舞っておこう。

 ポケットから写真を出し、改めて見る。

 写っている場所は、管理局の廊下だろう。
 その写真の中に写っている、リョウスケにお姫様抱っこをされている私は、体が痛みで苦しいはずなのになんか安心しているような顔をしている。
 リョウスケは何時ものように無愛想な面構え。でも、なんか目がやさしいように見えるのは気のせいかな。
 
 写真と手の中にあるブラジャーを見て思いが巡る。

 ……これ、着けているところを見せたら、リョウスケ、どんな顔するだろう。


 って何考えているの、私。
 これは下着よ。下着姿を、あいつに見せる気なの?
 今度こそ、襲われるわよ。

 ……いや、それは、まあ、置いておくとして。

 そういえば、あいつは生意気にも私の事、小娘って言ってたわね。
 悔しいから、まずその認識をあいつに改めさせ、ギャフンと言わせないと。

 うん、決して悔しいからであって、別にあいつの気を引きたいとかじゃないんだから。

 その為には……。


 結局、あいつを考える事が、またスバルが私を呼びに来るまで続いてしまった。



>時空管理局内某所

「今回は、ご面倒をお掛けしました」

 妙齢の女性が一人。その前に映し出されている画面には、金髪ショートボブの知的な若い女性。

「良いのよ、アリスさん。あと、ここには私しかいないから、アリサさんの可愛い姿を見せてもらえないかしら?」

 妙齢の女性の言葉で、映し出されていた画面が一瞬乱れ、先程写っていた若い女性の変わりに、今度は金髪は変わらないが髪型はロングヘアの幼い少女が写っていた。

「貴女の大人の姿もお綺麗ですけど、今の可愛らしい姿を、私の前では見せて欲しいわ」
「……有り難う御座います」

 顔を赤くしている少女、アリサを妙齢の女性、レティ・ロウラン提督が微笑みながら見ている。

「今回の事は此方としても非は在ったから、公にならなくて良かったわ」
「そう言って頂けると助かります」
「まあここで双方罪になっても、はやてちゃんが上司としての監督責任が問われるし、彼が罪になったら、自分が良介君を真人間にしなければ、って使命感が出て、かえって二人を近づけちゃうもの」
「はやて、世話好きですからね」

 アリサとレティは、お互いに知っている女性を思い浮かべながら、微笑を浮かべる。

「グリフィスもせっかくはやてちゃんの近くにいるのだから、もっと頑張ってもらわなきゃ。あんな良い子いないわよ」

 はやて本人が世話好きで器量良しのみならず、魔力が時空管理局でもほとんど居ないSSレベル。
 そして、かの名高いヴォルケンリッターの主にして最後の夜天の書の持ち主。

「自分の為にも、ですか」
「それは否定しないわ」

 管理局内でキャリアを順調に進んでいるはやてが血縁関係になれば、レティにとって色々便利なのは確かだ。

「でも、息子の幸せを一番に願っているのよ。勿論、はやてさんの幸せも」
 
 はやての能力は勿論だが、それよりも、はやての何事にも負けない意思、誰でも優しさを持って接する事ができる心。
 レティは、その精神の在り方のほうが、能力よりもずっと気に入っている。
 だからこそ、息子と一緒に幸せになれたら、と願っている。
 勿論、選択の自由は、息子やはやてが持っているのは当然だけれど。

「母親ですからね」

 その綺麗な微笑みに、アリサは羨望を感じる。
 自分には出せないだろう、その力強い笑みに。
 
 それに気が付いたのだろう。レティは話を換える。

「ところで貴女は良かったの?ティアナさん、良介君を意識するようになるかもよ」
「大丈夫ですよ。良介が私を捨てるわけありません」

 これにはアリサは力強く答える。
 その事はアリサ自身、全然疑っていない。

「あらあらご馳走様。でもこれで、六課の人間関係にまた波乱が起きそうね。楽しみだわ」
「人事関係の役職の方の発言とは思えませんね」

 そう言いながらも、レティの言葉にアリサも笑っている。

「いいのよ。ちょっとした娯楽は人生を過ごす上で必要だわ。それで、良介君を一回貸し出してくれる話はOKね」
「ええ、今回の罪滅ぼしに存分に使って下さい」

 ちなみに良介の了解は取ってないが、その事は二人とも気にしていない。
 良介が二人の会話を聞いていたら「ふざけるな」と言うだろうが、実際のところ、良介がこの二人に逆らえた試しがない。


 良介の試練は、まだまだ終りそうも無い。





>おまけ

「何で女性の下着は、こんなに高いんだ? 小遣いが無くなっちまう」
「自業自得でしょ」
「俺が勝負に勝ったんだぞ」
「変態に人権なんてないわ」
「納得いかねー! くそー、勝負なんて受けるんじゃなかったー!!」

 という、お嬢様風の少女に連れられている成人男性の姿が確認されている。
 それによってこの男のロリコン説は、ますます周りに認知される事になる。


>おまけ2

 成人男性とお嬢様風の少女、二人連れ立って街を歩いている所に、今度は小さな女の子がとんでやってくる。
 文字通り、空を飛んで。
 
「リョウスケー、ティアナさんを傷物にしたというのは本当ですかー!」
「ぶっ!! ミヤ、そんな事誰が言っていやがった!?」
「クロスミラージュさんから聞きましたです。責任を取ってもらわねば、って言ってましたー」
「あの野郎ー。ミヤ、それは意味が違うからな」
「怪我をさせたのではないのですか?」
「いや、それは本当だけどよ」
「じゃあやっぱり、傷物にしたんですねー!」
「だから違うーー!!」
「ほう、ではその事について詳しく聞かせてもらおうか」
「リョウスケ……、おまえ……」
「げっ、シグナムにヴィータ、ついでにザフィーラ。何でここに」
「任務から帰ってみればあの騒ぎ。原因は良介だとザフィーラに聞いてな」
「ふっ」
「ザフィーラ、てめえ」
「リョウスケ、お前、あたしだけじゃあ満足出来ないのかよ!」
「その発言は世間に対して色々とまずいだろ! 狙って言っているのか、ヴィータ」
「とにかく、お前の体で聞かせてもらおうか」
「シグナム、お前の発言も色々ヤバイ、ってレヴァンティン構えるんじゃねえ! ヴィータ、グラーフアイゼン振り上げるな! カードリッジをロードするんじゃねえーー!!!」
「紫電一閃!」
「ラケーテンハンマー!」
「くそー、戦略的撤退ーー!!」
「待て!」
「待ちやがれ、リョウスケ!」
「待つです、リョウスケ」

 逃げる男性、それを追いかける剣を持った女性とハンマーを持った少女、そして本を片手に空を飛んでいる女の子。
 ドカン、スパン、パキンという音が聞こえていたが、段々遠ざかっていく。
 周りを見れば、その喧騒に「やれそれ、そこだ、それいけ」と言う暖かい(?)声援の声。
 大きな騒ぎになっていないのは良いが、本当にそれで良いのか? と、この街の人々の反応に疑問を感じる。

 まあ、今更なのだろ。

「はあ、荷物持ちが居なくなっちゃった。仕方が無いから、あなたが買い物手伝ってね」
「ムッ、何故、我がそのような事を」
「夕食、久遠も呼ぼうと思っているのだけど」
「不肖このザフィーラ、謹んでお手伝いさせて頂く」
「そう、それじゃあ、よろしくね」
 
 後に残ったお嬢様風の少女は、子犬をお供に歩き出す。
 が、ふと、少女は男性が逃げ去った方向を振り返る。

「あの子の事、処罰出来る訳無いわよね。こんな事、何時もの事だし」

 見える方向には、道路が陥没し、電信柱がすっぱり切れ、歩道に立っている木が凍っている風景。
 いずれも男性が魔法を避けた余波で起こったもの。
 またあの苦労性の提督が、後始末に翻弄されるのだろう。

「アリサ殿、何か言ったか?」
「ううん、何にも。さあ、行きましょう」
「了解した」

 とりあえず海鳴町は平和であった。



 

《おわり》


(注2)数字は分からなかったので適当です。誰か教えて下さい。





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