注意 

この小説は、リョウ様のTo a you side 外伝Eを読んで、真面目に良介とティアナが戦ったらどうなるか妄想した小説です。
設定はTo a you side 外伝Vを元にしています。
書き手はリリカルなのはを実際に見たことがないので、魔法や話し方、細かい所など全然違う可能性大です。
一応リリカルの設定は、出来るだけネット(主にNanohaWiki)で調べましたが、良く分らない点や不明な設定は、この話に都合よく”でっち上げて”書いています。
この話のヒロイン役、ティアナは「誰、これ?」と言われる可能性大です。
後ここでは、良介は年を取りにくくなっているという設定を勝手につけています。
(夜の一族とか法術とかロストロギアとかその他諸々の事件の為というこじつけ、ちなみに原因不明という設定)

こんな長い注意書きがあるのに「読んでも良いよ」という神様な方、宜しくお願い致します。
後、タイトル名が思いつかないので(泣)、誰かかっこいいのを考えて下さい(ペコリ)。




 To a you side 外伝妄想小説 (仮題)リョウスケとティアナの決闘 前編




>良介

「シュート!!」

 声と共に斜め上方から迫り来る光弾を、当たるギリギリでバックステップしてかわす。
 飛んできた光弾は、地面に当たり爆風を起こす。
 だが俺は爆風によって巻き起こる風圧も利用して、更に移動する。

「くっ、ちょこまかと」

 目の前のツインテールの髪型の少女が、俺に向ける何時も鋭い目つきを更にきつくさせながら、両手に持つ銃型のデバイスで光弾を次々に撃ち出す。

「当たれー!!」

 無駄だ。

 体は次々と迫り来る光弾を、地面を這うように移動しギリギリでかわすという作業をしながらも、頭ではそんな事を思う余裕さえある。

 そんな俺の余裕に気付いたのか、あいつは形相を険しくして必死に光弾を撃ち出す。

 今あいつの撃っている光弾は、誘導射撃魔法。
 本来、必中のはずの光弾がかわされ続けているのだ。焦るのは無理もない。

 実際、確かに魔法によって誘導された光弾を普通に避けるのは不可能。
 大抵はバリアを張って防ぐのが定法であり、バリアを張る魔力容量さえない俺には防ぐことは出来ない。
 その光弾を次々と撃ち出すのだ。
 相手にとってそれが必勝のパターンと考えるのは当然だ。

 しかし甘い。
 
 いくら繰者による誘導が可能でも、その光弾が速くとも、いや逆に速いからこそギリギリでかわされた目標をすぐ追尾するのは不可能なのだ。
 ましてや相手は経験が浅く、こちらの動きを先読みして撃ち出すことも出来ていない。逆にこちらは撃ち出す光弾の軌跡を、今までの戦いの経験から自然と予測できている。
 何しろ砲術魔導師の天才、高町なのはとの対戦訓練は、何回したか分らないほどなのだ。
 
 いや自分からではなく、せがまれて仕方がなしにだが。

 というか、なのはは少し訓練を手抜きする事を覚えるべきだと思うぞ。

 
 ……話がそれた。

 とにかくなのはに比べれば、こいつの撃ち出される光弾の数、スピード、威力共にレベルが1ランクは落ちると言わざるおえない。
 これならば俺でも十分対処が可能だ。
 
 ミヤと融合していない今の俺でも。



「くそっ、何処いったの」

 あいつの悔しがっている声が聞こえる。

 今、俺達が戦っていた場所(どこかの次元世界だと思うが、ビル都市の廃墟の少し開けた場所)は、あいつ自身の撃った光弾とその爆風によって出来た粉塵が立ち込め、主に風下にいたあいつの視界を防いでいる。

 そうなるように、風上に移動するようにかわしていたのは、俺だが。

 今、あいつから俺の姿は見えない。
 あいつの中では、周りが見えないことによる動揺と、それを打ち消そうとして気迫を必死で出しているのだろう。
 なにしろあいつから感じる殺気は、弱まるどころか逆に増している。
 不利な状況でも決して折れない気迫。なかなか骨はあるようだ。
 だが今は、それがこちらには好都合。
 殺気からあいつの位置を察することが出来る。
 それくらいは出来るように、俺もなっていた。

 さて、そろそろ終らせないとな。
 
 勿論声には出さない。

 右手に持っていた刀を両手に持ち替え、空気を動かさないように体を移動させる。
 その時、何かの音が聞こえた。

 ガチャ、カチ。

 その音と共に魔力の気配が拡大する。
 状況から言っても、あいつがデバイスのカードリッジを使用し、魔力の底上げをしたに違いない。
 
 使う魔法は粉塵によって見えず、出来るのは予想だけ。
 なんにしろ、このままあいつを攻撃しても手痛い反撃を受ける可能性は高いだろう。

 だが……、

 心でそう呟き、音の在った場所に静かに移動。
 そして刀を構え上段に振りかぶり、躊躇無くをあいつに振り下ろす。

 俺の戦う意思をあいつに示す為に。



>ティアナ

 周りは粉塵で視界が効かない。
 そんな中、私はあいつの攻撃を待っている。
 自分自身を囮にして。

 そんな戦法を選ばざるおえない自分。

 どうしてこうなったのか。
 
 本来なら負けるはずがない、いや、こんな苦戦さえない戦いだったはずなのに。

 

 私達の隊長、高町なのはさんが生まれたと言う世界。
 その世界と同じ出身の一人の男。
 隊長よりずっと年上らしいが、隊長達と同年代位に見える少し目付きが悪い男性。

 名前をミヤモトリョウスケ。
 
 その男を元居た世界から魔力を溜めたカードを使い、転移魔法で一瞬にしてこの世界に連れ出し(拉致とも言うかもしれないが、あいつにそんな言葉を適応させる必要はない)勝負を挑んだ。

 こうでもしないとあの男は、口先八丁で誤魔化すか妙な罠や仕掛けでこちらを翻弄し、うやむやにしてしまうから。

 今回はこちらから場所を強制に移動させたから、あいつに仕掛けを作る時間をあげていないし、あいつの知らない場所だから逃げることも出来ないだろう。

 この場所は、あいつの居た世界と違う世界の廃墟のビル都市、朽ちたビルの間に開いた空間のちょっとした広場。
 広さは一辺が100メートル位の四角形で、まるでビルで覆われた闘技場のような場所。
 ここなら誰にも迷惑にならないし、決闘という勝負の雰囲気もかもし出している
 
 あいつにとって、知らない場所に連れてこられ、しかも自分が逃げられない状況。
 少しは不安に思ってもいいのに、ふてぶてしい態度を崩さない。
 可愛げないこと甚だしい。

 ……もしかして、慣れてるのかしら?

「ほうほう、今時の時空管理局員殿は、罪もない民間人の誘拐もするんだな」

 あんたの何処が罪のない民間人よ!と叫びたくなるが、抑える。
 一応、この男が言っている事は、その過程の状況から見ればその通りだし。
 しかし何時もと変わらず不遜な態度のままの男性と、その男に敵意剥き出しの男より若い女性の私。
 知らない人がこの状況を見て、どちらが犯罪者かと問われれば、間違いなく男と答えると思う。
 もっともこの場所には誰も居ないことは調査済みだけど。

「私と勝負しなさい」
「めんどい」

 私の言葉に本気で面倒そうに答えるあいつ。

「おまえと勝負してもメリットないしな」
「私と勝負しないと帰れないわよ」
「俺は何処でも一人で生きていける」

 自信満々に返答される。
 そんな返事に呆れを感じるが、嘘をついているようには感じない。

 ならばいっそその言葉通り置いていって、本当に困らないか試してみましょうか、と素敵な考えが頭に浮かぶが、それでは本当に私が拉致犯になっちゃうし、第一勝負が出来ない。
 それにいつまでもこの男をここに置いていたら、周りで捜索しだすかもしれない。
 何故かこの男の人脈は広いらしいから。
 隊長達といい、何故こんな男に構うのか、私は全然理解出来ないのだけど。
 
 自分の事はどうなのよ、という第三者的な心の声が聞こえるが、それはとりあえず心の棚に上げておく。

「それじゃあ、勝ったほうが一回だけ負けたほうに好きな事を要求できる、というのはどう?」

 さすがにこの私の言葉には興味が向いたのか、今までの面倒くさげな態度が微妙に変わる。

「ふーん、それは俺が男で、おまえが女であることが分って言っているのだろうな」
「もっ、もちろんよ」

 あいつはニヤニヤしながら私の体つきを眺め、こちらを挑発するように言う。
 その言葉に、思わず、女性として最悪の結果を想像してしまう。
 だけど売り言葉に買い言葉。
 ましてやこちらから言い出したもの。
 気持ちを奮い立たせ、肯定の返事をする。

 声がどもるのは抑えられなかったけど。

「そんなに勝負がしたいのか」

 あいつの言葉、呆れたような感心したような、もしかするとただの呟きなのかもしれないけれど、それを聞いて、私も自問自答する。
 
 何故この男に、こんなにこだわるのか?

 この男の魔力量は、ランクで言うとF級にも届かないだろう。
 こいつの言葉を借りるのならば、ただの民間人。
 そして、確かにそれはその通り。
 
 だが、魔導士として最高級のS級である高町なのは隊長やフェイト・T・ハラオウン隊長、さらにその上のSS級である八神はやて隊長さえもが、言葉と態度の節々に、この男を頼りにしている感じを受けるのだ。
 そして度々の演習や事件において、まれにこの男が関わってくることもある。
 それは提督個人の隠し懐刀だからじゃないか、という噂さえある。
 
 この、F級にも届かない少しも才能を感じさせない少し年上と言うだけの男が、である。

 はっきり言って認められない。
 
 それは嫉妬なのかもしれないが、こんな男が重要視されているのは我慢できない。
 だから、私が化けの皮を剥いでやる。

「分った」

 あいつの言葉に、思考していた頭を切り替え、視線をあいつに戻す。
 そこには今まで見た事もない真剣な眼差しを、こちらに向けるあいつが居た。
 あいつから出る気迫に押されたのか、あいつの目を見た時、胸がドキッと鳴る。
 いつもは目つきが悪いという感想しか浮かばないのに、今はそれが精悍な鋭い眼差しに見える。
 いつもそれなら私だって……、って何を考えてるの、私。

「だが、俺は手加減出来るほど器用じゃねえ。だからおまえも全力で来い」
「くっ」
 
 何時ものようなふてぶてしい態度。だが、何時もと違う真剣さと気迫、そして私にない自分に対する自信を感じさせ、何故か私の足は自然に半歩下がっていた。

「何だ、怖気づいたか」
「そんな訳ないでしょう!」

 自然と後下がった私を見て揶揄するあいつの言葉に、激昂する。
 
 そうだ、そんな訳がない。
 こんな才能も感じさせない男に負ける要素など在りはしない。
 それをこれから証明する。

「行くわよ、シュートッ!!」

 そして、戦いは始まった。



 あいつのパートナーにミヤちゃんという女の子が居る。

 誰かが言っていたが、あいつの世界の言葉で、豚に真珠、猫に小判、掃き溜めに鶴、という言葉がぴったりらしい。(注1)
 実はいまいち意味が解りかねるけど、とにかくあの男には勿体無い、と言う意味らしく、私もその点で同意する。
 何しろミヤちゃんは、ちっちゃくて明るくて素直で可愛い。
 思わずお持ち帰りしたくなってしまうほど。

 会うたびに、何回、あの男と縁を切るべきだ、と言ったことか。
 でもそのたびに「でも、リョウスケのサポートが出来るのはミヤだけですから」と申し訳そうに、しかし誇らしげに答えられる。
 絶対、あいつに騙されているに決まっている。

 そして、このミヤちゃんは驚くことに融合型デバイスらしく、あの男は、ミヤちゃんと融合しないと魔法さえ出来ないらしい。
 この点からも、すごいのはミヤちゃんであって、あいつではないことが分る。

 そのミヤちゃんも今はいない。
 あいつが今、手にしている武器は、向こうの世界の言葉でカタナという魔力も感じないただの金属の棒切れ。
 そう、金属の棒切れ一本だけなのだ。
 そんな武器だから、必然的にあいつの攻撃は近距離のみ。

 そして私の攻撃は、基本的に中遠距離主体。
 あいつの届かない所から自由に攻撃できる。
 
 武器の差、魔力の差。
 どちらも私の圧倒的有利。
 自分でも、これじゃあただのいじめじゃないか、と思わないでもないが、手加減なんてしてやらない。
 あの男に、自分の立場と言うものを教えてやるのだ。

 だがそんな思いも、戦いが続くにしたがって消えていく。
 いや、そんな事を思う暇さえなくなっていった。



 当たらない。

 必死で魔法を連続して繰り出すが、あいつには当たらない。

 なのは隊長みたいに、強力なプロテクションで弾いているわけでもない。
 フェイト隊長のように、とても追いつけないスピードで動いているわけでもない。
 何よりもあいつは、魔法を使っている様子もない。

 だけど、当たらない。

 複数同時攻撃で撃とうとも、スピードを上げた魔法を繰り出そうとも、その全てをギリギリでかわしていく。
 まるで決められた演舞をしているように、踊るようにかわしていく。

 私の打ち出した魔法は、あいつが直前までいた地面をえぐって、粉塵を巻き上げることしか出来ていない。
 その事実を否定したくて、私は必死に魔法を繰り出す。
 相手はバリアジャケットもつけていないのだ。

 一発でも当たればそれで終わり。
 それも、もうちょっとで当たりそうな、そんな感覚。
 だけど、そのもうちょっとが、いくら繰り出しても届かない。
 
 当たりそうで当たらない感覚。それを無くす為、私は必死で魔法を撃ち出す。
 それは、何時もの冷静さを無くしていた証拠かもしれない。
 何時の間にか、私の周りは自分で作った粉塵の煙で覆われており、あいつの姿も見失っていた。

「くそっ、何処いったの」
 
 苛立ちの余り思わず悪態をついてしまうが、言葉に出して何とか冷静さを取り戻せた。

 この視界が利かない状態では、悔しいがあいつに攻撃を当てるのは無理。
 一刻も早くこの粉塵の煙から抜け出すべきだろうけど、抜け出す瞬間に、無防備のまま攻撃を受けるかもしれない。
 それに粉塵から抜けても、さっきまでみたいに攻撃をかわされていては意味が無い。

 だから選択する。
 この場を動かず、自分自身を囮にして、あいつに攻撃を当てる事を。
 
 私はあいつを撃つのに使ったカードリッジを補充する為、クロスミラージュのマガジンを交換。
 その時に音が出るが、囮になると決めたのだから気にしない。
 カードリッジを2発消費して、プロテクションの強化と魔力スフィアの形成に振り分ける。
 
 その状態であいつが攻撃するのを待つ。
 
 だけど、問題はある。
 カードリッジを使用したことは、あいつも分ったはず。
 何かの魔法が予想できるのに攻撃をするだろうか?

 それに、不安もある。
 もしかして、あいつがこのプロテクションを破る武器を隠し持っているかもしれない。

 そんな湧き出る疑問と不安。
 それを頭の中で、必死に打ち消していく。

 あいつはあの魔力も無い金属の棒しか持っていない。
 近接攻撃しか出来ないからきっと攻撃する。
 
 あいつにこのプロテクションは破れない。
 あいつが攻撃した時、それがあいつの最後だ。

 いつ来るか分らない攻撃を待つ時間の精神状態は、神経を削っていく感覚に似ている。
 速く来て欲しい、でも少しだけまだ来ないで欲しい。
 そんな矛盾した思考。

 そしてその瞬間は、私の予想よりずっと早く来てくれた。

 ガキッ。

 私の後ろから、音と、プロテクションに何か当たる感覚が伝わる。

 私はその時、勝利を確信した。



>良介

 ガキッ。

 振り下ろした刀が、空中で、何かに遮られたように止まる。

「なかなか硬いな、コレ」
「カードリッジをロードしてかけたプロテクションよ。そう簡単には破れない」

 あいつの後ろから攻撃したが、全方位のバリヤに遮られ、俺の攻撃は届かない。
 そしてあいつは、その瞬間を待っていたのだろう。
 自分の周りに浮かべていた光弾を、俺に向かって全力で撃ち出した。

「終わりよ、クロスファイアーシュート!!」

 バリアの消失と共に、無数の光弾がゼロ距離で俺に迫る。



>ティアナ

「なかなか硬いな、コレ」

 粉塵の中、プロテクションをかけ、自分自身を囮にしてあいつの攻撃を待っていた私。
 あいつはこのプロテクションを破れない。そう予想し、そして、それは予想通り。
 それなのに、あいつは驚きもせずそんな平凡な感想を言っている。

「カードリッジをロードしてかけたプロテクションよ。そう簡単には破れない」

 私は振り向き、維持していた魔力スフィアをあいつに向ける。

 その顔を驚愕に満たしてやる!

「終わりよ、クロスファイアーシュート!!」

 プロテクションの維持もすべて魔力スフィアの制御に向ける。

 ゼロ距離からの射撃。
 この距離ならば絶対にかわせない。
 魔法弾はあいつに吸い込まれるように進み、あいつは後ろに倒れていく。

 勝った。

 そう思った。

 だから、その後の光景は信じられなかった。

 あいつは倒れたのではなく、私の魔法を避けたのだと。
 私の魔法は、あいつにかすりもしなかったのだという事が。



>良介

 どんな奴でも攻撃した直後は、確かに隙が出来る。
 そして世の達人達は、その隙をいかに短くするかに生涯を掛けていると言っても良い。

 対して俺は、いかに闘いの経験を積んでいると言っても、達したとはまだまだ言えない。
 だから、確かに刀をバリアに叩きつけた直後にあいつ攻撃を受けたら、俺は避ける事が出来なかっただろう。

 直後だったら。

 実際は、あいつは俺のほうに振り向き、位置を確認する、2つの動作を攻撃前に行なっている。
 その時間は短くとも、俺が避ける姿勢に入らせるのに十分。
 これがなにはだったら、振り向く動作の前に感覚だけで此方に光弾を撃ち込んでいる。

 俺は、此方に飛んで来る無数の光弾を地面すれすれに飛び倒れるような変形のバク転を行い、かわす。
 光弾は、空中で仰向けのような姿勢の俺の体の上を、高速で通り過ぎる。
 それを目で確認しながら、刀を持っていない左腕で地面に手をつき、足と腰の振る動作による重心移動で地面に倒れこむことなく、仰向けからうつ伏せの姿勢に体を移行。
 足を先に地面に着かせ、後ろにいく反動をこらえながら立ち上がるとともに駆け出す。

 目の前のあいつに向かって。

『Protection』

 ガキィン。

「なっ!」

 甲高い金属音は、俺の刀とあいつのデバイスがぶつかった音。
 あいつは声を上げ、驚愕の表情で俺を見ている。

 しかし実際に驚いたのは、俺のほうだ。
 避けた時に少し後ろに下がった為、移動からの攻撃になったが、そのタイミングは完全に不意を突いたはず。

 それをあいつは、とっさにバリアを発生させ俺の刀を防ぐ。
 もっとも先程のバリアほどの強度は無く、俺の刀を一瞬停滞出来ただけだが、その間に斬撃の軌道に片方のデバイスを割り込ませ俺の刀を防いだ。
 どうやら俺は、あいつの近接での能力を甘く見ていたらしい。

「よく防いだな」

 皮肉も無くそう思う。
 だがあいつは、俺の賞賛を侮蔑の言葉と受け取ったのか、顔を怒りに染めあげる。

「馬鹿にしないで!」
 
 その言葉と共に、もう片方のデバイスから光弾が次々に撃ち出される。
 しかし、感情の乱れからか射線のしぼりが甘く、避けるのは容易。
 それでも俺は無理に追撃しようとはせず、刀を引き、まだ周りに舞っている粉塵へとある物を拾いつつ自分の姿を隠す。
 
 さて、あいつは次にどんな手を打つか。
 侮っているつもりは無かったが、予想よりずっと手強いあいつに、俺は久々に気分の高揚を感じる。

 さあ、お前の全力を俺に見せてみろ。
 今の俺の全力で、お前の全力を打ち砕く!



>ティアナ

 私が勝利を確信して撃った魔法。

 その魔法をかわしたあいつは、まるで独楽のように地面で回転し、次の瞬間、此方に向かって跳ねるように金属の棒を振り上げる。

『Protection』

 ガキィン。

 私が気付いた時、あいつの金属の棒が目の前に在り、クロスミラージュと鍔迫り合いをしている光景。
 私はその時になってやっと現状を把握した。

「なっ!」

 私はその在り得ない光景に絶句する。

「よく防いだな」

 あいつの感心したような声。
 そこに悔しさの色は感じない。
 
 だけど、これは私の実力で防いだのではない。
 クロスミラージュが自己判断でプロテクションを展開したおかげだし、金属の棒を防いだのもクロスミラージュが勝手に動いたのではないかと思うほど、私には自分の動きに意識が無かった。
 以前に使っていた私のデバイス、アンカーガンなら、私はここで負けていた。

 だからあいつの言葉は、本来なら私に向けられる言葉ではない。
 
 そう思った時、私は悔しさの余り感情が爆発した。

「馬鹿にしないで!」

 私は碌に狙いを付けずに、感情のままに魔法を撃ちだす。

 だがやはりあいつには掠りもせず、またもや粉塵の中に紛れ込まれる。
 その消える姿に連続して魔法を撃ち込みたかったが、そうやっても無駄な事は流石に分る。

 落ち着け。

 感情の暴発を何とか収め、冷静に判断出来るよう理性を必死に保つ。

 さっきの千載一遇のチャンスを逃してしまい、ショックは大きい。
 だけど、それを引き摺っていては確実に勝てない。
 そうでなくても、今の状況は確実にこちらが不利なのだから。
 

 私は出来る限りに精神を落ち着かせ、現状を整理する。
 
 私自身は今のところ怪我は無い。しかし、魔法の連続使用で疲労は大きい。
 おそらく闘いが長引く程、私は不利になっていく。
 しかし私は、今まであいつに一撃も出来ていない。対してクロスミラージュに防がれたと言っても、私に一撃を入れたあいつ。
 さっきのあいつの言葉に感情的に攻撃してしまった私。自分の一撃が防がれても取り乱す事も無かったあいつ。
 
 …………。

 私は戦う前に思っていた前提を一つ換えざるおえない。

 それを認めるのは悔しい。だけど、それを踏まえなければ私は絶対に勝てないだろう。

 そう、認めるしかない。

 才能を少しも感じないあの男。

 ミヤモトリョウスケが強いことを。



>良介
 
 あいつの気配が変わる。
 上手く言えないが、先程までの少しの不安を覆い被せるように殺気を出していたのと比べ、不安と殺気が混じり合い、それが闘気に昇華したようなそんな気配。

 何か覚悟を決めたのか?
 
 俺は今までの経験から、覚悟を決めた者の強さを良く知っている。
 次のあいつの攻撃は、かわせないと考えて良いかもしれない。

 あいつの気配の位置が移動する。
 
 だがそれを妨害する事は出来ない。
 あいつのやる事を見極めないと、思わぬ反撃を受けるかもしれない。
 それに俺自身、あいつが何をするのか見てみたい。
 
 そう思うと、今まで俺を有利にしていた周りの粉塵が少し邪魔に感じてしまう。
 だが、すぐにそれを感じる必要がなくなる。
 あいつが粉塵から出てきたからだ。

 ただし、粉塵の上に。

 どうやらスバルの魔法ウイングロード、いや、ずっと前に見た、ユーノが使ったことがある空間に足場を作る魔法だろう。
 あいつはビルの近く、空中の一箇所に固定された魔方陣の上に立ち、目を閉じながら回りに無数の光弾を浮かべ静かに集中している。

 その幻想的なあいつの姿に、俺は柄にも無く静なる美を感じ、見惚れる。
 
 って、何をあんな小娘に俺は赤くなっていやがる!
 変な事を考えた頭を振り、さっき思ったことは無かった事にする。
 
 とにかく、あいつの狙いは分った。
 俺の届かない高さに、ビルの壁を背にして、魔法に集中しながら、粉塵の煙が収まるのを待つ。

 粉塵が収まって俺を見つけた時、集中していた魔法を俺にぶつける気だろう。
 ビルの壁を背にしているのは、後ろからの攻撃の警戒と前だけを集中する為に。
 しかもこの闘いの場の隅、ビルとビルの壁が90度で交わる場を背に向け、見る範囲を90度と小さくしている。

 それが俺に知られても良いと考え、次の魔法の一撃に全てをかけるその潔さ。

 その攻撃は多分避けられない。

 だが俺は負けるつもりは無い。
 次にぶつかる時、勝敗が決まる。

 勝負だ、ティアナ・ランスター。



>ティアナ

 私のスタイルは、精密射撃魔法。
 だがこの粉塵では視界が利かず、そして同時に相手の視界も利かないから幻術魔法も利点が少ない。

 だから問題は、この粉塵。
 それが、私が選んだ闘いの場所の私の魔法で巻き起こしたものだと言うのが、皮肉だけど。

 しかし今、私にはこの粉塵を吹き飛ばせるような魔法は無い。
 だから、粉塵が収まるのを待つしかない。
 さっきみたいにプロテクションをかけて収まるのを待つのも方法の一つだけど、それでは最初に戻るだけ。


 なのは隊長が言っていた事。精密射撃型は、いちいち避けたり、受けたりしてたんじゃ仕事が出来ない。

 確かにさっきのゼロ距離射撃でも、プロテクションの制御で射撃が疎かになったのは否めない。
 だから今度は、避けたり受けたりしなくても良い場所であいつに魔法を当てる。

 私の最高の一撃を、あいつに食らわせる為に。

 その為にある魔法を使う。
 魔法陣によって特定空間に足場を形成する魔法、フローターフィールド。
 スバルのウイングロードもこの魔法の亜種といえる。

 その魔法を階段状に重ね、ある場所に移動する。
 このビルの間の広場の隅、ビルの壁が直角で交わっている場所、地上から8メートル位の空中。
 そこに魔方陣の足場を確保。
 その後、階段状に重ねた魔方陣は全て消す。
 移動途中にあいつに攻撃されたら厄介だったけど、それは無かった。
 その事は不気味だけど今は気にしない。
 今私がやる事は、最高の一撃を撃つ準備をする事。

「クロスミュラージュ、フローターフィールドとプロテクションの維持を頼める?」
『All right』

 私の魔法は、放出系が多い。
 だから、スバルみたいに移動に多くの魔法は使えない。
 この魔方陣一枚維持するのも、実はギリギリ。
 でも、次の魔法を撃つまで持てばそれで十分。

 そしてもう一つ、私がやる事がある。
 
「それからクロスミラージュ、……さっきはプロテクションをかけてくれてありがとう」

 クロスミラージュに礼を言う事。

 さっきのあいつの一撃は、クロスミラージュが居たから防げた。それは事実。
 その事は悔しい。悔しいが、それでもまだ勝負を続けられるのは、クロスミラージュのおかげ。
 だから、きちんと礼を言わなきゃ。

 ……素直に礼を言うのは、なんとなく恥ずかしいけど。

「私の力だけでは、あいつに勝てない」

 私は思いを述べる。
 この勝負、クロスミラージュと力を合わせなければ、きっと勝てない。

「でも私は、どうしてもあいつに勝ちたい」

 あいつが強いことを認めたから。

「だから、私に力を貸してほしい」
『It is natural that I help you,My masuter. A victory will give this battle with us』
 (私が貴方を手伝う事は当然の事です、マイマスター。私達でこの闘いを勝利しましょう)
「ええ」

 フローターフィールドとプロテクションの維持をクロスミラージュに任せ、私は射撃魔法に集中する。

 先程の地面でプロテクションをかけてあいつの攻撃を待っていた時は、あんなに不安を感じたのに、今は嘘みたいに心が静かだ。

「カードリッジ、ロード」

 私はカードリッジを4発ロード。
 クロスミラージュから伝わってくる魔力量が、手から腕、体へと駆け巡り暴れだすが、何故か思考は信じられないほど落ち着いている。

 魔力を無理に抑えるのではなく、魔力の進むべき方向を少しずつ指し示し調整していく。
 私の周りに一つ一つ魔力スフィアを展開。そのまま私の周りを回るように漂わせ、その数を増やしていく。
 
 そして、待つ。
 粉塵が収まることを、ではない。

 粉塵が収まった時、おそらくあいつは見える範囲の地面には居ないはず。
 もし居たとしても、空中に居る私にあいつが攻撃する方法は、石を投げるくらいだろう。
 それならばプロテクションで防げるし、その時は確実に魔法を当てる。

 でもあいつはそうしないと思う。
 あいつは、おそらく……、


「おりゃぁぁぁーー!」

 聞こえてきた気合の声に顔を上げる。
 そこには、私より高い場所のビルの窓から私めがけて飛び出してくるあいつの姿。

 来た!

 後ろを取られないようにビルの壁を背にしていると言っても、私はビルの壁から10メートル離して空中に魔方陣を固定している。
 魔法を使えないあいつの武器では地面から攻撃しても届かない。

 だけどあいつは、この勝負はきっと逃げない。何故かそんな確信がある。
 そうなるとあいつのする事は、直接攻撃ならば、いちかばちか私目掛けて飛び込んでくるしかない。

 そう、今みたいに。

 だけどそれが私の狙い目。
 地面では幾ら避けられても、空中では避ける事は出来ない。

 だから私は、慌てず焦らず最高の一撃を撃ちだす。

「魔力よ、一つに集まりて束となれ、全てを貫く弾丸となって」

 ある魔法を頭に浮かべる。それは、スバルに何回も聞かされた、スバルが最も尊敬している人の魔法。
 エースオブエースが使う魔法。

「撃ち貫け、ディバインバスター!」



>良介

「撃ち貫け、ディバインバスター!」

 あいつの撃ち出した光弾が俺に迫る。

 あいつの位置は、ビルの壁から10メートルの空中。
 其処へ目掛け、思いっきり助走をつけて、あいつより高い位置のビルの窓から飛び降りた。
 気合の声であいつが此方に気付くが、構わない。
 気合を入れてジャンプしないと、とても届く距離では無かったからだ。
 それにあいつは俺の行動を見越している。

 その証拠に、俺があいつの上を取ったというのに、あいつは焦らず集中したまま俺に光弾を撃ち出した。
 その光弾の大きさは、今までの俺に撃ち込んだ光弾と比較にならない。
 
 この勝負の中で、あいつの最高の魔法だろう。
 そして俺は空中でかわせない。

 まさにチェックメイトの状態。

 だが、それでも俺は諦めない。
 左手に刀を持ち、右手に持っていたある物を、あいつの魔法の光弾目掛け思いっきり投げ入れる。
 
 光弾と俺の投げた物が当たった瞬間、其処に魔力の乱れが出来、爆発がおきる。
 俺は其処に目掛け、飛び込んだ。



>ティアナ

 私の撃ち込んだ魔法は、正確に空中のあいつに向かって飛んでいく。
 そして、あいつはかわせない。

 今度こそ勝った、と思った。

 そして、爆発。
 空中に広がる爆煙。

 だけど、何かその爆発に違和感を感じた。
 しかし、その事に疑問を感じる暇も無く、起こった爆煙の中から何かが煙を纏い飛び出してくる。

 いや、何かなんて、一つしかない。

 そう、金属の棒を手に持ったあいつの姿。
 
 どうやって私の魔法を!?

 そう思う時間も無く、あいつは私目掛け飛び降りてくる。
 両手で持った金属の棒を、振り上げながら。



>良介

 目の前の、驚愕を顔に貼り付けているあいつ目掛け、両手で振り上げた刀で斬撃を繰り出す。
 同時にあいつからも声がした。

『Protection』

 その音声と共に、あいつの足場を固定していた魔方陣が消え、代わりにあいつの周りのバリヤが強化される。
 だがこの斬撃は、落下の勢いをプラスした一撃だ。

 俺は気合を込め刀を振り下ろす。

「はあぁぁぁぁ!!」

 バチッ。

 一瞬の停滞。

 そして俺の刀はあいつのバリアを抜け、袈裟懸けに斬りつける。
 刀はバリアジャケット越しに、あいつの体に食い込む。
 ほぼ同時に、俺はあいつの胴部を押すような蹴りを出し、俺の落下の勢いを全てあいつに移行。

 あいつは驚愕を顔に張り付けたまま、地面に勢い良く落下。背中から地面に叩き付けられ、その衝撃で周りに盛大に粉塵を巻き散らす。
 俺はそれを眺めながら、地面に両足で着地した。

「ううっ」
 
 粉塵の中、あいつは何とか動こうともがいているが、地面に横たわった体はいっこうに動いていない。
 それでも動こうとする意思があるだけ大した物だと思う。

 正直、俺のあの一撃と落下した衝撃は死んでもおかしくない程だった。まったく、バリアジャケットを身に着けている時空管理局員達は本当に丈夫で感心する。
 まあこいつは、俺に斬られた後もバリアを維持して落ちる衝撃を小さくしたのもあるのだろう。

 だがこの分では、少なくても全身打撲で動けまい。
 
「俺の勝ちだ」

 仰向けになって動けないこいつの首に油断無く刀を添えて、非情にも俺は述べる。
 この状態でどうこいつが動こうとも、それよりも早く俺はこいつの首を切りつける。
 こいつの仲間がいない今、ここでの勝敗は決したのだ。

 それが分かったのか、こいつは俺を悔しげに睨みつける。
 全身が痛みで動けない状態にもかかわらず、俺を目線で殺せたら、とばかりに睨むこいつの気迫には、本当に感心させられるがどうにもなるまい。

 こいつは、長い長い沈黙の後、やっと口を開く。

「私の負けよ」

 闘いは、今、終った。
 


>ティアナ

 あいつが私の魔法を突き抜けた後の事は、正直、訳が分らなかった。

「はっ!!」

 私の目の前に迫るあいつの金属の棒。
 だけど私は渾身の魔法の後で、体がいう事を利かない。

『Protection』

 クロスミラージュの声。
 それと同時に感じる一瞬の浮遊感。
 それは落下する時特有の感覚。
 
 クロスミラージュがプロテクションを強化し、フローターフィールドを維持するソリースが無くなって、魔法を維持できなくなったのだろう。
 だけど、それでもあいつの攻撃を防ぐ事は出来ない。

「はあぁぁぁぁ!!」

 プロテクションとあいつの金属の棒の一瞬のせめぎ合い。
 しかしそれを破って、私に振り下ろされるあいつの金属の棒。

 私の左肩から胸に大きな衝撃が貫く。
 そして次の瞬間、腹部にくる圧力。

 後ろに跳ばされた、と気付く暇なく、背中全体に衝撃が掛かり痛みが体全体に走る。
 
「がはっ」

 衝撃と痛みに呼吸が止まる。
 魔法を使った疲労と体全体の痛みで、動く事が出来ない。
 衝撃と痛みに意識さえも混濁しかけ、視界もぶれる。
 分るのは、今自分が地面に仰向けに倒れている、という事だけ。

 それでも立ち上がろうともがく。
 だけどそんな私を裏切るかのように、体はいっこうに力が入らない。
 そんな中、何時の間にか、首の近くに金属の棒が添えられているのに気が付いた。

 それに気が付いた瞬間、意識が急速にはっきりし、視界もぶれが無くなる。

 目に入ってくるのは、周りの粉塵の煙。
 そして耳に聞こえてきた声。

「俺の勝ちだ」

 その声に、力の入らない体を無理してなんとか顔を上げると、視界一杯に入ってくるあいつの姿。
 持っている金属の棒の刃の部分を私の首に沿えて、油断無く構えている。
 動けない私に対し、その目は鋭いまま私を見据え、侮っている様子は微塵も無い。

 まるでここで隙を見せれば、負けるのは自分だと思っているかのように。

 今の私は、あいつの気分次第で命さえなくなる状況。
 それなのに、何故か私は今のあいつの姿がとても綺麗に感じる。

 どれ位時間が経っただろう。
 1分?10分?1時間? 時間の感覚はとうに分らなくなっている。
 私はまるで見惚れたようにあいつを見つめ続ける
 その間も、あいつが私に隙を見せる事はない。

 長い沈黙。

 私は口を開いた。

「私の負けよ」

 私は負けを認めた。



>良介

 やれやれ、この負けず嫌いめ。やっと負けを認めたか。
 なかなか認めないから、どうしようかと少し悩んでしまった。

 もうこのまま斬っちまおうか、と思ったのは内緒だ。

 刀を鞘に仕舞い、一息つく。
 粉塵が収まるほど時間が経ったが、あいつは未だ動けず地面に横たわったまま。
 体が痛いのだろう。時折、顔を歪めている。

「どうやって私の魔法を防いだの?」

 体が痛いのに、そんな事を聞いてくるあいつ。
 そんな事聞いてないで、じっと横になっていれば良いのに。
 まあ、痛みを紛わせたいのだろうが。

 俺は親切に答えてやる。

「お前の魔法が当たる瞬間、ある物を投げて、光弾の魔力を乱したんだよ」
「あの時、私の魔法は全てのものを撃ち貫く自信があったわ。石くらい投げても、それを撃ち貫いて貴方に直撃したはず、っ!」

 そんな魔法、人に撃つんじゃねえ!
 怒鳴りたいが、自分の叫びでまた体の痛みを感じているあいつを見て、とりあえず抑える。

「俺は石を投げたなんて一言も言ってねえよ。投げたのは、お前の使ったカードリッジの弾倉だ」

 その言葉に、あいつの痛みで歪んでいた顔が驚愕に変わる。

 そんなに意外だったか?


 こいつらが使うカードリッジは、言わば魔力を圧縮して詰め込んだ弾だ。
 だが、考えて欲しい。

 魔力と言う、俺からみればあやふやなエネルギーなのに、どうして圧縮して詰め込めるのだ?
 それは少なくともカードリッジに使われている金属(?)が、魔力を抑えるか、反発する性質を持っていることにほかならないのではないだろうか。
 だったらカードリッジに使われる金属自身は、魔法も通じないはず。
 
 勿論、内側に魔力を詰めるのと外側から魔力が掛かるのでは強度に差が出るだろうが、それでも魔法にぶつければ少しの反射か拡散は期待できるはず。

「私のカードリッジなんていつ……?」
「最初に粉塵の中で俺が攻撃する前、お前、カードリッジ交換しただろう。その時、使い終わったやつ落としてたぞ。気付かなかったのか?」
「……」

 沈黙するあいつ。
 どうやら自分で気付いていなかったらしい。
 まあ、あの時はこいつも粉塵で周りが見えず、焦りと不安が出ていただろうからな。
 交換を急いだ余り、落とした事なんて気にしていられなかったのだろう。

 それを俺が拾って取っておいた。

「試した事は無かったが、ぶっつけ本番でお前のさっきの魔法に投げ当てた。なんとか少しだけだが、魔法の拡散が出来たから其処をついた」

 実際、魔法の拡散で出来たのは、ほんの小さな穴。
 もう少しでもあいつの撃った魔法の魔力が大きければ、穴は開いてもすぐ塞がれただろう。
 そして、穴を飛び込むタイミングと位置が少しでもずれれば、俺は魔法に巻き込まれて終わりだった。

 本当に紙一重だった。

 だが、

「そして俺はお前の前に立っている、勝者として」

 そしてこいつは敗者として、地面に横たわっている。

 勝負において、紙一重といえども明確に勝者と敗者を分けてしまう。今の俺たちのように。

 あいつは何も言わない。

 さて、説明はもう良いだろう。

「それじゃあ、約束を果たしてもらおうか」

 俺の言葉に、あいつはビクッと体を震わす。
 それを気にせずに、俺はあいつの上着に手を掛けた。
 




《後編へ続く》


(注1)ここでの「掃き溜めに鶴」は用法的に間違っていますが、ティアナはそもそも「掃き溜め」が何かも分かっていません。

 英語文 TransuLand/EJ・JE 翻訳体験デモ (C)ブラザー工業株式会社 参考







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