時空管理局の本局から地球へ帰ってから、数日後。

勇人やなのはは、リンディやフェイト達が住まう事になるマンションに来ていた。

勇人となのはとフェイトは、玄関先で海鳴の町を眺めていた。


「すげえ絶景じゃねえか!」


勇人ははしゃぎながら、町を見渡す。

その隣に居たなのはやフェイトも大喜びしていた。


「うん! 凄い近所だよ」

「本当!」

「ほら、あそこが私の家!」


なのはが自分の家を指差した方向には、大きな道場を佇んだ一軒家。

フェイトもなのはの家を発見し、笑顔になる。

勇人も自分の家を見つけ、フェイトの肩を叩く。

怪訝な顔付きで勇人を見詰めるフェイト


「あそこには俺様の家もあるぜ」


勇人も自分の家を指差す。

指先には黒い屋根をした大きな一軒家。

しかし、フェイトはどの家なのか分からずにいた。


「何処?」

「ほら、あそこだ!」

「う〜ん……」


その後も勇人は必死で自分の家を指差した。

だが、結局フェイトはどの家か分からなかった。


「御免ね」


フェイトは少し困った顔をしながら謝った。


「もういいよ」

「にゃはは……今度フェイトちゃんを連れていってあげよう?」

「おう……」


勇人は少しガックリと肩を落とす。

その隣で苦笑いを宥めるなのはだった。


「そろそろ中に入ったらどうかしら?」


後ろより聞かれる声に振り返る三人。

其処にはリンディが笑顔で出迎えてくれた。

勇人はすぐに頭を下げる。


「お邪魔してます」

「いいのよ。それよりフェイトさんとはお友達に?」

「あっ……えっと友達だよな」


勇人は困りながらもフェイトを視線を向ける。

すると、フェイトは笑みを浮かべていた。

内心ホッとする勇人だった。


「これからもフェイトさんをよろしくね」

「……はい」


リンディがフェイトをさん付けで呼ぶ事に疑問を抱く勇人。

しかし、そこから先は訊いてはいけないと思った。

人には其々踏み込んではいけない問題がある。

フェイトが自分から話すまで待つ事を決める勇人だった。


「そろそろ中に入ろう?」

「そうだな。ちょっと寒くなってきたし」


風の冷たさに少しだけ身体を震わす勇人。

その光景に心配そうな顔で見詰める二人。


「大丈夫?」


なのはは心配そうな表情で勇人に向ける。

勇人は心配掛けまいと笑みを浮かべる。


「平気。それより早く中に入ろうぜ!」

「うん! お邪魔しますリンディさん」

「ええ。存分にのんびりにしてね」


リンディの挨拶して、勇人となのはは中へと入っていく。

その場にリンディとフェイトが残された。


「良いお友達を持ったわね」

「はい。大事な友達です」


わずかに顔を赤めながらフェイトは答えると、直ぐに中へ入っていく。


「ふふ……本当に良い友達を持ったわねフェイトさん」


リンディは笑みを浮かべながら、フェイトの後ろ姿を見詰めていた。













魔法少女リリカルなのはA’S

刃煌く黄昏の魔道師 第三話【友達】























勇人となのはとフェイトはリビングに入る。

あまりにも広くて綺麗なリビングに、感嘆のため息を零す勇人。


「マジで広いリビングだな」

「うん。それに床がピカピカだよ」

「そりゃ来たばかりだからな」


なのはも綺麗なリビングに少し興奮気味だった。

すると、前方から二匹の動物がやってきた。

フェレット『ユーノ』とオレンジ色の子犬『アルフ』だった。

なのはとフェイトは二匹の動物の元へ移動して行く。


「可愛いだろ〜?」

「うん」


フェイトはアルフを抱き上げる。

二人の表情は幸せそうに笑っていた。

なのはもユーノを抱き上げて、喜んでいた。

勇人は横目で慣れない状況で苦しんでいた。


「どうしたの?」


すると、勇人の隣で立っていた茶髪の女性が声を掛けた。

勇人は誰か分からず、困惑していた。


「そういえば挨拶が遅れたね。アタシは『エイミィ・リミエッタ』」

「俺様は……知ってるか」

「うん、勇人君でしょ。それよりどうしたの?」

「いや……」


勇人は目の前の光景に困惑気味だった。

その視線の先にはアルフにユーノへと注がれる。

エイミィは其れに気付き、理解したのか頷いた。


「成程。動物が喋ってる光景にまだ慣れてないんだ」

「そんな所だ」

「まあ、確かに初めて見る人には信じ難い光景だよね」


少し苦笑いを浮かべるエイミィ。

勇人も苦笑いを浮かべ、エイミィを見る。

エイミィは怪訝な顔付きで勇人を見下ろす。


「どうしたの?」

「あれも魔法の一種なのか?」

「うん。フェレットの方は変身魔法で人から動物へと変身してるんだ」


勇人はわずかに目を細める。

脳裏に何回かなのはからユーノを見せてもらった記憶があった。

それに温泉にも一緒に付いてきて、女風呂に入った記憶も新しい。


(俺様を騙しやがって、後でボコる)


沸々と込み上げて来る黒いオーラと殺気を身に纏い、ユーノを睨み付ける。

ユーノは殺気を感じ取ったのか、わずかに身震いする。

なのはは心配そうな目でユーノを見詰める。


「どうしたのユーノ君?」

「うんうん……何でもないよなのは」


勇人は誰にも聴こえないように舌打ちする。

エイミィは舌打ちが聴こえたのか、視線を向ける。


「舌打ちしてどうしたの?」

「いや……何でもねえ」

「そう?」

「そうだよ。ところでオレンジ色の犬の方も変身魔法なのか?」


今度はユーノからアルフへと視線を注ぐ。

しかし、エイミィは首を横に振り、否定する。


「彼女はアルフと言って、使い魔だよ」

「使い魔ってアレだろ。特殊な契約で従えた生物だろ」

「うん。でも、フェイトちゃんにとっては家族みたいな存在かな」


不意にフェイトの方へ見向く。

そこには未だ楽しげに笑いあうフェイトとアルフ。

勇人の心を暖かせてくれる光景だった


「此処に居たのか君達?」


すると、リビングにクロノがやってくる。

周囲の視線がクロノへと注がれる。


「どうしたんだ?」

「君達の友達が来ているよ」

「友達?」


勇人は真先にフェイトに関わりのありそうな友達を考える。

すると、真先に浮かんだのはアリサとすずかだった。

特に前者を思い浮かべ、軽く表情を歪める。

クロノは怪訝な顔付きで勇人を見る。


「どうかしたのか?」

「どうもしねえよ」


勇人は渋々玄関へと行こうとする。


「勇人君。早く行こ!」


しかし、なのはは必死で急かす。

だが、勇人にとってはアリサとすずかだと分かってる為、行く気が起こらなかった。


「俺様は後から行くから、早く迎えにいけ」

「もう……」


なのはとはフェイトは急いで玄関へ移動する。

勇人はゆっくり歩きながら玄関へ移動した。


「チッ……やっぱお前等かよ」

「げっ、何でアンタが此処に居るのよ!」

「アリサちゃん。落ち着いて」


其処には、予想通りアリサとすずかが居た。

勇人とアリサは互いに表情を歪め、睨みあう。

その間には火花が飛び交っていた。


「なのは。勇人とアリサは何時もこんな感じなの?」

「……うん」

「ほとんど顔を合わせる度にこうなの」

「……そうなんだ」


フェイトは困った雰囲気でなのはを見る。

なのはは小さく頷き、すすかが説明を入れる。

それを聞いたフェイトはあまり言葉を紡げなかった。


「俺様が此処に居ちゃ悪いのかよ!」

「駄目よ」

「ふざけんな!」


その間も勇人とアリサは喧嘩していた。


「まあまあ。アリサさんも勇人君もその位にしたらどうかした?」


すると、リンディが仲裁へと入り、宥め始める。

二人は渋々、喧嘩を止める。


「それじゃ私は行く所があるから、それまで遊んでね」

「何処に行くんですか?」

「ふふ……秘密」


フェイトの問い掛けにも、笑顔で返すリンディ。

リンディは靴を履き、そのまま何処かへと行った。

残された勇人達はその場で立ち尽くしていた。


「しかし、遊んでろと言われてもな」

「そうだね。フェイトちゃんは何処に行きたい?」


すずかはフェイトに見向き、問い掛ける。

しかし、フェイトは困った顔で考えていた。

不意になのはを見詰める。


「なのはの家に行きたい」

「でも、今の時間帯じゃ、お父さんもお母さんも店に」

「なら、今から翠屋に行こうぜ!」


勇人の提案に頷くなのは達。

アリサは小さく笑みを零す。


「アンタも偶にはやるじゃない」

「偶には余計だ。つうか、こっちは小腹がすいたんだよ」

「さっきの言葉は訂正ね」


アリサは小さくため息を零し、横目で見る。

勇人はムッとし、睨み付ける。

すると、すずかが二人の間に割って入った。


「もう、喧嘩ばっかりしてると時間だけが過ぎていくよ」


すずかの忠告を受け、小さく舌打ちをする勇人。

そのまま靴を履き、立ち上がる。


「早く行くぞお前等」

「アンタの所為でしょうが」

「うるせえ」


なのはは苦笑いを浮かべる。

すずかとフェイトは、勇人とアリサを見詰めていた。


「本当に似た者同士なんだね」

「うん。だから、あんなにも喧嘩するんだと思うよ」


フェイトとすずかの口元に笑みが零れる。


「お〜い、何時まで喋ってるんだよ。早く行くぞ」


勇人が手を振りながら、呼び掛ける。

直ぐにフェイト達は靴を履き、翠屋を移動した。

































勇人達は翠屋のテラスで、ジュースを飲んでいた。

しかし、勇人は薄々を思っていた事が有った。


「俺様って軽く浮いてるんじゃねえか?」

「急にどうしたの?」


なのはは怪訝な顔付きで勇人を見詰める。

勇人は小さくため息を零す。


「いや〜……男が俺様一人だけって言うのがな」

「何を今更。そんな事、此処に来る前から言いなさいよ」

「うるせえ! 俺様だって今さっき気付いたんだよ!」


アリサのツッコミに、すかさず勇人は反論する。

またかと内心ため息を零す三人。

もはや当たり前の日常になっていた。

そんな三人を尻目に、勇人とアリサは未だ口喧嘩を続けていた。


「まったくアンタって本当に口が悪いわね!」

「うるせえ! お前に言われたくねえんだよ!」


勇人とアリサは火花を散らし、睨みあっていた。

すずかはため息を零し、二人を見詰める。

しかし、二人は互いに睨み合ったまま、動かなかった。


「勇人君、アリサちゃん」


すずかは笑みを浮かべながら、二人の名前を呼ぶ。

その背後には黒いオーラが漂っていた。

怖さのあまり徐々に二人は消沈していき、椅子へと座る。

僅かながら気まずい空気が漂い始める。


「そうだ! すずかちゃんとアリサちゃんに見せたいものがあるんだ!」


なのはは気まずい空気を取り除く為、動物が入った籠を取り出す。

籠の中には一匹のフェレットが居て、ゆっくりと外へと出す。

すずかとアリサはそのフェレットが何なのか一目で分かった。


「もしかしてユーノ君?」

「うん!」


すずかの言葉に、なのはは元気よく頷く。

近付いてくるユーノに、すずかは抱き上げる。


「この子は?」


すると、アリサが机の下に座っていたアルフを抱き抱える。

フェイトは一瞬だけ驚くが、平常心を取り戻す。

アルフを見詰めるアリサは首を傾げる。


「何かアンタどっかで見た事があるのよね、気のせいかな?」


アリサは必死で思い出そうとするものの、思い出せずに困惑する。

フェイトとアルフは内心ホッとする。

すると、勇人は遠目である人物を見つける。


「なあ……アレってアースラの人じゃねえか?」


勇人はなのはの耳元で呟き、指差す。


「え?」


なのはは指差された方向を見た。

其処にはアースラのスタッフがフェイト達の所まで近づいてくる。

その手には綺麗な紙に包まれた箱を抱えていた。


「ここに居ましたか」

「あの……どうかしましたか?」

「いえ、リンディさんからフェイトさんにこれを渡すようにと」


アースラスタッフからフェイトの手へと渡る箱。

ゆっくりと紙を破っていき、箱を開ける。

箱の中身にフェイト達は驚く。

それはなのは達が通う学校『聖祥大学付属小学校』の制服。

フェイトは困惑の表情でアースラスタッフを見詰める。


「あの……これは?」

「リンディさんからのお届け物です」

「リンディさんから?」

「はい」


フェイトの問いかけに、スタッフは答える。

リンディの出かけた理由はこの為だと分かった。


「それでは、これで失礼します」

「あ……ありがとうございました」


スタッフは一礼をし、その場から去っていく。

渡された制服を見て、困惑の色を隠せないフェイト。

何故この制服が渡されたのか、分からずに居た。

すると、勇人は横目で何かを発見する。

そこには先程まで噂をしていた人物が翠屋へと入っていった。


「噂をすれば何とやらだな」

「どういうこと?」

「今、リンディさんが翠屋に入っていったぜ」


勇人は椅子から立ち上がり、店内へと移動しようとする。

すると、一旦止まり、フェイトを見る。

怪訝と困惑を含んだ表情で勇人を見詰めるフェイト。


「何やってんだよ。リンディさんに理由を聴かねえといけねえだろうが」

「でも……」

「あのな、こういうのは居る内に聴くもんなんだよ」

「……そうだね」


フェイトは決心し、店内へと入っていく。

勇人やなのは達も後ろへと続いていく。

すると、アリサが勇人の横に並ぶ。


「アンタも偶には良い事言うじゃない」

「だから、たまには余計だ」


勇人は不機嫌な表情に店内へと入っていく。

アリサは勇人に見えないように微笑んだ。

店内には近所挨拶を行うリンディとなのはの両親『桃子』と『士朗』が居た。


「リンディてい……リンディさん」

「はい、何?」


その手には大事そうに制服の入った箱を抱えるフェイト。

それを見たリンディは笑みを零す。


「あの、これって」

「転校手続きを取っておいたから、週明けからなのはさんのクラスメートね」


桃子と士朗はフェイトに近付いてくる。

その表情は明るく、フェイトが学校へ転校してくる事に純粋に喜んでいた。


「あら、素敵」

「聖祥小学校ですか、あそこは良い所だよな、なのは」

「うん!」


なのは達と同じ学校を通える事にフェイトの心に嬉しさが込み上げて来る

すると、桃子は腰を下ろし、フェイトを同じ目線で見詰める。


「良かったわねフェイトちゃん」

「はい……ありがとうございます」


フェイトの両目から嬉し涙が零れ落ちる。

両手に抱えられた制服が入った箱を大事に抱き締める。

しんみりとした空気が漂い始める。


「……コーヒーとシュークリームを一つ」


勇人の一言で、しんみりとした空気が台無しになった。

突然の言葉に周囲は呆然としていた。

だが、直ぐに桃子は笑みを浮かべる。


「はい。コーヒーとシュークリームですね」


桃子は店の奥へと移動していく。

残された周囲は生暖かい視線が勇人に注がれる。

アリサは近づいて行き、勇人を睨み付ける。

手元にはアルフが牙を剥き出して、威嚇していた。


(俺様の馬鹿、空気を読めよ)


勇人はわずかなら後悔の念に苛まれる。


「アンタ、もう少し空気読めないの!」

「うるせえ! 俺様はこういう空気が嫌いなんだよ!」

「だからって、時と場合があるでしょう!」

「だからッ!」


勇人の背筋に寒気と冷たい視線が襲い掛かる。

冷たい視線が送られてくる先を見詰め、小さく息を飲む。

其処には笑顔を振りまくも、冷たい視線を送るすずか。

ユーノもわずかながら冷たい視線を送ってるのが感じられた。


(マジで怒ってるよすずかのやつ。しかも、あのフェレットもどきまで怒ってる)

「どうしたの勇人君?」


すずかの問い掛けに、とっさに視線を反らす勇人。

勇人は頭の中では逃げ出したいという願望が芽生えた。


「いえ、ナンデモアリマセン」

「そう、今度は空気を読んでね」

「……おう」


勇人の周囲には気まずい空気が漂い始める。

内心空気の読めない発言に自分でも呆れ返っていた。

身体に突き刺さる冷たい視線が痛く、逃げ出したい願望が強くなった。


「お待たせ、コーヒーとシュークリームよ」


そんな勇人を救いの手を差し伸べるように桃子が現れた。

その手にはシュークリームとコーヒーを持ち運んでいた。


「……ありがとうございます」


桃子の手からシュークリームとコーヒーを受け取る。

すぐにテラスの所へ逃げ出すように駆足で戻っていく。

直ぐに椅子に座り、コーヒーを一口を飲む。

不意に先程の冷たい視線を浴びた光景を思い出す。


(……今度からは空気読んで言おう)


あの光景を思い出し、わずかに恐怖で身震いする。

空気を読めず、あんな発言しただけであの仕打ち。

もう二度と味わいたくない仕打ちだった。


(忘れろ! とにかく忘れるんだ!)


コーヒーを飲みつつ、シュークリームにかぶりつく。

すると、なのは達がやってきて、周囲に座っていく。


「アンタ、本当に空気読みなさいよね」

「う、うるせえ! 何度も言うんじゃねえ!」


恥ずかしさのあまり頬を染めながら叫ぶ勇人。

すると、アリサは良いものを見たように、笑みを浮かべる。


「へ〜、アンタもそういう顔するんだ」

「……文句あんのか?」

「別に〜」


勇人の額に青筋が浮かび、アリサを睨み付ける。

しかし、アリサは睨みを全く動じず、笑みを浮べ続ける。


「てめえ!」

「まあまあ、アリサちゃんもそれくらいにしてあげようよ」


すずかは頭に血が昇った勇人を宥める。

アリサの方にも注意をし、その場を丸く治めた。

勇人も渋々椅子に座り、シュークリームに平らげ、コーヒーを飲み干す。

不意にある事に気付く。

先程までの気まずい空気が既に取り除かれていたからだ。


(ありがとよ、すずか、アリサ)


内心すずかとアリサに感謝をする勇人だった。

すると、なのはが怪訝な表情で見詰めてくる。


「何でもねえよ」


勇人は心配をかけないように笑みを浮かべる。

その笑みを見たなのはも、安心したのか、笑みを見せた。

それからも他愛も無い会話が続き、時間だけが過ぎていった。




























翠屋で他愛も無い会話をし続け、気付けば既に日が沈みかかっていた。

空もわずかに闇に染まり、星が煌いていた。

なのは達とも別れ、勇人は一人帰宅していた。

両手には晩飯の具材が入ったスーパーの袋を持っていた。


「まったく、今日も散々だったぜ」


今日の出来事を思い出し、ため息を零す。

ここ数日の状況に僅かながら疲れの色を隠せずに居た。

だが、それでも当たり前の日常が心地よかった。


(まあ、魔法を覚えても続くんだろうけど)


すると、勇人は二階建ての一軒家に足を止める。

表札には『赤宮』と記されていた。

勇人はポケットから鍵を取り出し、錠に差し込む。

しかし、直ぐに怪訝な表情で錠を見る。


(あれ? 開いてる。ちゃんと鍵をかいで出て行ったよな)


勇人の脳裏に泥棒という単語が浮かび上がる。

徐々に不安へと駆り経たせる。

直ぐに鍵を抜き、思いっきり扉を開けて、中へ入った。

靴を脱ぎ、すぐさまリビングを一直線に駆け出す。


「なっ!?」


勇人は言葉を無くし、呆然とした。

予想外な出来事がリビングで起こなわれていたからだ。


「遅い……」


其処には思いっきり不機嫌そうな表情で椅子に座る神楽が居た。

勇人は片手に持っていたスーパーの袋落す。

今の現状がまったく理解出来ずに居た。


「な、なんでアンタが此処に居る! つうか、どうやって入った!」


思いっきり神楽に指差す勇人。

神楽はため息を付き、ある物を投げる。

投げられた物体は勇人の手に納まる。

勇人は手に納まる物体を見る


「鍵?」

「そうだ。この家のな」

「何でアンタが持ってんだよ!」

「作らせた」

「作らせるなよ! というか、先ずアンタが此処に居ることを説明しろ!」


勇人の言葉に、小さく鼻で笑う神楽

神楽の行動に、勇人の額に青筋が浮かび上がる。


「高町とお前の保護及び修行を兼ねての行動だ」

「俺様の保護?」

「いや、本来は高町の保護、お前は唯のオマケだ」


オマケ扱いにまた一つ青筋が浮かび上がる。

だが、怒る気持ちを押さえ込む。

しかし、右手をギュッと強く握り締めていた。


「……俺様が戦力にならないからか」

「そうだ。現状ではお前は唯の魔力を持った子供に過ぎん」

「なら、何時になったら魔法ってモンを教えてくれるんだよ」


神楽はわずかに目を細め、勇人の顔を見詰める。

勇人の表情は真剣そのもの。

すると、神楽の口からため息が零れる。


「良いだろう、明日お前にデバイスと魔法を教えてやる」

「本当か! これでなのは達と一緒に戦えるんだな!」


勇人は嬉しそうな表情し、終止笑顔だった。

なのはやフェイトとも共に協力できる事に、自然と嬉しさが込み上げて来る。


「現状では無理だ」


しかし、神楽の一言によって、嬉しさとやる気は消し去られた

床に四つん這い状態で、愕然とする勇人。

その表情は先程の嬉しそうな時とは違い、半泣き状態だった。


「デバイスを持っても、戦闘技術0のお前が一緒に戦える訳ない」

「なら、どうすんだよ!」

「俺がお前を鍛えてやる」

「え?」


勇人は神楽の言葉に理解出来ず、唖然とする。

神楽は椅子から立ち上がり、勇人の元まで移動する。

ゆっくりと神楽を見上げる勇人。

四つん這いになってる為、神楽がより大きく見えた。

すると、勇人の襟元を掴むと、自分と同じ目線まで担ぎ上げる。


「聴こえなかったようだから、もう一度言ってやる。俺がお前を鍛えあげる」


ようやく神楽の言葉を理解した勇人。

すると、徐々に驚きへと変わっていく。


「はぁ!? 何でアンタが俺様を鍛えるんだよ!」

「お前に魔法やデバイスを教えるついでだ。こういう事はユーノやクロノの方が何枚も上手だが、生憎と時間が無いからな」


神楽は服の襟元を離し、支えを失った勇人はそのまま床に直撃する。

思いっきり顔面から強打し、若干顔が赤く染まっていた。


「ってぇ……前から思ったんだが、アンタはもう少し優しく扱う事を覚えろよ!」

「そういうのは他の奴に頼め。それに……その程度で一々痛がるな」


神楽は威圧感を含んだ目で勇人を見下ろす。

放たれる威圧感に勇人は萎縮してしまう。

神楽は尚も威圧感を含んだ目で見下ろし続ける。


「その程度で痛がるな。もし魔道師になるならこの先、もっと痛みや苦痛が襲い掛かる」


身体中に襲い掛かる威圧感。

心にも恐怖心が浮かび上がらせてくる。

神楽はただ見下ろしているだけなのに、身体中が恐怖で震える。


(クソッ! 何びびってるんだよ! 一々びびってんじゃねえ!)


唇を必死で噛締めて、勇人はゆっくりと立ち上がる。

神楽はわずかに目を見開く。

しかし、直ぐに笑みが零れる。


「ああ。もう文句は言わねえよ」


すると、勇人は神楽に指差す。

指差された神楽は眉間の皺が深くなった。


「だがな、それで強くならなかったら許さねえぞ!」

「それは単にお前の才能の無さだ」

「うるせえ! とにかく絶対に強くしやがれ!」


容易く反論され、勇人はわずかに顔を赤らめながら叫ぶ。

それを見た神楽は小さくため息を零す。


(こんな調子で育てれるか、分からんな)


内心不安も過り始める。

不意に勇人を見るが、既にやる気充分の様子だった。

だが、乗りかかった船を下りる訳には行かず、やる事を決心する。


「だが、俺の特訓方法は厳しいからな。覚悟はしてもらうぞ」

「上等じゃねえか」

「特訓は明日、その時にデバイスを渡す」


すると、神楽は床に落ちていたスーパーを拾い、冷蔵庫に収納し始める。

勇人はその行動に怪訝な表情で見詰める。


「何やってんだよ?」

「俺が料理を作る。お前は其処らへんで休んでいろ」

「……おう」


勇人の口元に笑みが零れる。

ようやく勇人の家にも家族の暖かさがやってきた。

それだけで心が温かくなり、嬉しくなっていく。

すると、目から涙が自然に零れ落ちる。


「チッ! 何泣いてるんだよ」


直ぐに右腕で必死に涙を拭き取り始める。

それを見た神楽は怪訝な表情をする。


「おい。さっさと手を洗って、適当に座れ。もう時期、飯が出来る」

「つうか、アンタが仕切るなよ」

「子供は黙って、大人の言うことを聞け」

「最悪な台詞だなそれ」

「黙れ」


他愛も無い会話がずっと続いていき、夜も更けていく。

赤宮勇人の生活が新しく始まっていく前夜だった。









































あとがき


どうも、シリウスです


無事第三話も終了致しました。


此処まで読んでくださり、ありがとうございます。


次回はとうとうデバイスの登場と修行です。


いったいどうなるかは不明。


では、此処まで読んでくださった皆さん。


ありがとうございます。


では、これにて失礼します。




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に下さると嬉しいです。