時空管理局本局。
此処にアースラが収納され、整備されていく。
アースラを窓ガラス越しから眺める神楽とリンディ。
「しかし、驚いたわ。まさかあなたが一般人をこの場所に連れてこようとするなんて」
リンディは口元を隠し、笑みを零す。
神楽は僅かに表情が歪み、横目で睨み付ける。
威圧と恐怖で笑みを消し去るリンディだった。
「ところで、彼も魔道師に仕立てあげるの?」
彼とは神楽が連れ帰った少年『赤宮勇人』
リンカーコアを奪われたものの命に別状はなく、医療ベッドで今も眠り続けていた。
「そのつもりだ」
リンディの口元からため息が零れる。
その表情は僅かに暗く、迷いがあった。
「そう……新しい戦力が増える事は嬉しいけど複雑ね」
「だが、今必要なのは戦力だ。それが最悪を防ぐ手にもなる」
「……分かってるけど」
「今の内に迷いを捨てておけ。でなければ、本当に失う事になるぞ」
リンディの元から立ち去っていく神楽。
去る神楽を暗い表情で見詰めるリンディ。
しかし、再びアースラを窓ガラス越しに見詰める。
「そうよね……今の内に出来るだけの事をしないと、今はこんな事で迷ってられないわ」
決心が着いたような表情と赴きで、神楽とは反対方向へと進んでいくリンディだった。
リリカルなのはA's
刃煌く黄昏の魔道師 第二話【力】
時空管理局の医療施設にある勇人の病室。
其処のベッドで今も眠り続ける勇人。
すると、僅かに瞼が動き出す。
「うっ……」
ゆっくりと瞼が開かれ、天井を見詰める。
今度は左右に首を振り、彼方此方を見る
だが、どれも見慣れない光景だった。
(……此処は何処だ?)
何故この場に居るかさえ、理解出来ない状況。
必死で昨晩の事を思い出そうとする。
だが、思い出そうとした瞬間、背筋に悪寒が走る。
額からは大量の冷汗が流れ落ち、身体が小刻みに震えだす。
まるで思い出す事を拒絶するように。
すると、ドアの奥から僅かに声が聞こえた。
(……なんだ? 話し声?)
怪訝な顔付きでドアの方へ向かっていく。
その歩き方は殆どふらふらに近かった
そっと壁に耳を付け、耳を澄ます。
それは少年と少女の声だった。
「ところで、君の怪我は大丈夫か?」
「平気だよクロノ。私の事よりなのはの事が……」
「分かってる」
少年と少女の言葉から『なのは』という言葉に驚きを隠せない勇人。
それよりもなのはに何か有ったのかと思い始める。
居ても経っても要られなくなり、そのまま駆け出す。
ドアが開き、少年の胸倉を掴もうとした。
突然の状況で驚き、目を見開く少年と少女。
(……あれ?)
しかし、少年の胸倉を掴む事は出来なかった。
何故なら掴む前に、少年の前でこけたからだ。
頬に赤みを挿していく勇人。
黒髪の少年は勇人に視線を向け、見下ろしてた。
僅かに気まずい空気が漂い始める。
「お、おい、無理はするな!」
クロノは慌てて支えようとする。
だが、勇人は少年の手を振り払う。
「うるせえ! なのはがどうしたって聞いたんだよ!?」
勇人は少年を睨み付ける。
その間に挟まれた金髪ツインテールの少女は少し怖がりながら、答えた。
「……なのはなら、病室で寝ています」
「本当か!?」
勇人は驚きで目を見開く。
直ぐに立ち上がろうとうするが、力が入らず立てなかった。
再び差し出される少年の手。
「あまり無理をするなよ」
勇人は視線を反らし、軽く舌打ちをする。
渋々少年の手を掴み、立ち上がろうとする
だが、足元が不安定でふらついていた。
少女は心配そうな視線で勇人を見る。
「あの……大丈夫ですか?」
「まだ足がふらつくが、まあ平気だな」
少女は安心したのか、表情が柔らかくなる。
その笑顔に僅かに見蕩れてしまう勇人。
両頬は僅かに赤く染まっていた。
怪訝な顔付きで少女は見詰める。
「どうしたの?」
「いや! 何でもねえ!」
慌てながら必死で誤魔化す勇人。
それでも首を傾げて、怪訝な顔付きな少女。
その光景にため息を零す。
「それより何であんな無茶をしたんだ?」
「いや……なのはに何か有ったのかと思って」
勇人の表情は暗く、心配な眼差しを帯びていた。
其れを見た少女と少年はお互いを見詰め、頷く。
「私達もこれからなのはの所に行く所だったんです、貴方も来ますか?」
「いいのか!?」
顔を上げて、目を見開く勇人。
「ありがとよ……えっと?」
勇人は二人の名前を教えて貰っておらず、言う事が出来ずに居た。
金髪ツインテールの少女は一歩の前に出る。
「私は『フェイト・テスタロッサ』です」
「僕は『クロノ・ハラオウン』だ」
クロノと言った黒髪の少年もその後を続く。
「俺様は赤宮勇人だ、ところで一つだけ聞いていいか?」
互いに自己紹介をし、笑みを零す。
怪訝な顔付きで勇人を見るクロノとフェイト。
「なのはに何が有ったんだ?」
「そうだな……いや、説明するよりも見てもらった方が早いな、君も来るか?」
「当たり前だ!」
「それじゃこっちだよ」
三人並んで一緒に歩んで行く。
しかし、勇人は落ち着かず、周囲を見渡している。
クロノは怪訝な顔付きで勇人を見る。
「どうかしたか勇人?」
「いや……此処は何処なんだよ?」
「此処は時空管理局。君の世界で言う警察みたいなものだ」
「ふ〜ん……お前等やなのはも所属してるのか?」
「……色々有ってね」
「……そうか」
クロノの質問に、フェイトが遮る。
その表情は僅かに悲しみを負っていた。
それ以上の事を勇人は訊く事は出来なかった。
其れから会話をしている内に、なのはの病室へ辿り付く。
勇人は緊張し、ゆっくりと歩んでいく。
自動ドアが開かれ、中には医師となのはが居た。
なのはは驚きで、目を見開く。
「勇人君!? どうして此処に居るの!?」
「こっちも色々有ってよ、それより身体の方は大丈夫か?」
なのはの方へと近付く勇人とフェイト。
互いに表情は心配に染まりながらも、歩んでいく。
医師と擦れ違い様に顔を合わせ、軽く頭を下げる。
そのまま医師とクロノは軽く会話をした後、去っていく。
勇人はフェイトはなのはの居るベッドに横に立つ。
「よう……本当に珍しい事が有るんだな、お前も此処に居るなんてよ」
「にゃはは……こっちの方こそ驚いたよ」
「元気そうで安心したぜ」
なのはの暗かった表情が笑顔に変わっていく。
驚きはしたものの元気な姿を見れて、胸を撫で下ろす勇人。
不意に未だに後ろに立ち止まったフェイトに見向く。
勇人はすれ違うように、フェイトの後ろに立つ。
「フェイトちゃん」
「……なのは」
二人の周囲に漂い始める気まずい空気。
それを見ていた勇人は表情を歪め、聴こえないように舌打ちをする。
(友達なら、もう少し明るい雰囲気を出せよ)
なのはは視線を下ろし、フェイトの包帯に包まれた左腕を見る。
そして、無理を隠すように笑い始める
「あ……あの御免ね。折角の再会がこんなで、怪我大丈夫?」
咄嗟に左腕を隠すフェイト。
「ううん……平気。それよりなのはが……」
「私も平気だよ。フェイトちゃん達のお陰だよ、元気元気」
笑顔で振り舞うなのは、その反面、フェイトの表情は悲しみに染まっていた。
ベッドから地面に足を付けて、立ち上がろうとするなのは。
しかし、足がふらつき、上手く立てなかった。
一瞬を目を見開く勇人だったが、フェイトは直ぐに抱きとめる。
そっと安緒をため息を吐くが、尚も二人の周囲には気まずい雰囲気が漂っていた。
その光景に徐々に苛立ちを募らせていく勇人。
大きく深呼吸し始める。
「お前等、友達なんだろ? だったら折角友達に会えたんならもう少し明るくして喜びやがれ!」
勇人の大声が部屋中響き渡る。
行き成りの状況に驚きで目を丸くするなのはとフェイト。
「久し振りに会えた友達なんだろ? なら、精一杯の笑顔を向けろよお前等!」
そのままフェイトに指を挿す。
怪訝な顔付きで目を丸くするフェイト。
「特にフェイト! なんで会えたのに嬉しそうな顔をしねえんだよ! そんな泣きそうな面をしてんじゃねえ!」
勇人にとって、耐え難い空気は大の苦手なのだ。
友達に会えたなら元気よく挨拶するのが当たり前。
だが、この二人は無理して笑うのがバレバレなのだ。
それだけで勇人は苛立ちを募らせていく。
なのはとフェイトは未だに状況が出来ないのか、目を丸くしていた。
「いいか! 次からはそんな暗いモンを空気にばら撒くんじゃねえ! 喜ぶときはキッチリ喜びやがれ!」
勇人は息を荒くして喋り切ると、その場を後にしようとする。
しかし、ふらついた足が絡まり、倒れこもうとした。
(またかよ)
「勇人(君)!?」
フェイトは急いで、勇人の身体を支えようとする。
なのはもふらついた足で駆け寄ろうとする。
しかし、勇人の支えようとしたなのはも足が絡まる。
「なのは!?」
フェイトは二人の身体を支えようとする。
しかし、二人の体重を支えきれず、そのまま一緒に倒れこんだ。
勇人の下敷きにされ、そのうえから二人が倒れこんでいた。
まさに勇人が二人に押し倒されてる体勢だった。
だが、下敷きにされた勇人は苦しそうだった。
押し倒してる二人は何か分からずにキョトンとしていた。
「お前等……なんで助ける側を追い込んでるんだよ」
「御免! 直ぐ退くね!」
ようやく状況を理解したのか、顔を真赤に染めながら直ぐに退こうとするフェイト。
だが、起き上がろうとした瞬間、前を見た途端、真赤だった顔が青ざめていく。
怪訝な顔付きでフェイトを見る勇人となのは。
ゆっくりと前方へ視線を向ける。
二人も徐々に顔を青ざめていく。
其処には二つの人影がドアの前に立っていた。
「おい……こいつはどういう状況だ?」
「実は……」
不機嫌に眉間に皺を寄せる神楽と、状況を理解出来ないクロノが立っていた。
フェイトは直ぐに二人の元へ駆け寄り、先程の状況を説明する。
それを聞いた二人は、呆れ返るしかなかった。
フェイトが事情を説明してる間に、離れる勇人となのは。
勇人はゆっくりと立ち上がっていく。
それに気付いた神楽は一歩ずつ、勇人に近付いていく。
怪訝な顔付きで神楽を見る周囲。
そのまま勇人の胸倉を掴み、持ち上げる。
「あ?」
「お前を探す為に時間を掛けた罰だ」
神楽は右手を振り被り、そのまま勇人の顔面にビンタをする。
何度も何度もビンタをし、病室中に高い音が響く渡る。
往復ビンタに勇人の両頬が徐々に赤く染まっていく。
「ぶっ……ぶっ……ぶっ……」
ようやくビンタが止まり、勇人の顔面と神楽の右手から煙が立ち込めていた。
痛みのあまり、勇人は気絶していた。
神楽は気絶した勇人を背負い、その場を後にする。
なのはとフェイトは心配な眼差しで、その場を見詰めていた。
「勇人君……大丈夫かな」
「大丈夫だよなのは……多分」
フェイトの最後の言葉の所為で説得力を無くし、更に心配で表情を曇らせるなのはだった。
「なのは、フェイト」
クロノは気まずい雰囲気に耐えかね、二人に呼びかける。
視線をクロノへと移す二人。
「デバイスの事で話が有るんだが、付いてきてくれないか?」
「バルディッシュと……」
「レイジングハートの事で?」
クロノは小さく頷き、真剣な表情に変わる。
「それに君達を襲った相手の事もだ」
二人は小さく目を見開く。
だが、徐々に平常心を取り戻し、頷く。
「それじゃ外で待ってるから、準備が出来たら一緒に行こう」
クロノはなのはの病室を去っていく。
二人は互いを見詰め、頷く。
直ぐに準備を始めて、クロノを元へと移動して行った。
その頃、神楽に連れられた勇人も自分の病室へ到着していた。
両頬には赤く染まった勇人がベッドの上で座っていた。
その表情は不機嫌そのもの。
「おい……」
勇人は自分の隣に居る神楽に呼びかける。
神楽は横目だけで見向く。
「何で俺様をまた此処に連れて来たんだよ?」
勇人は不機嫌そうに問い掛ける。
それを聞いた神楽は小さくため息を零し、勇人と向き合う。
その表情と眼差しは真剣そのものだった。
「お前は魔道師になる気はなるか?」
勇人は驚きで目を見開く。
それと同時に聞き覚えのある言葉に恐怖し始める。
背筋に襲い掛かる悪寒。
震え始める身体。
額には大量の冷汗が流れ落ちる。
たった一つの単語が連鎖的に恐怖を引き起こしたのだ。
神楽は眉間に皺を寄せ、小さく舌打ちをする。
「相当深く恐怖を植えつけられたか」
「えっ?」
勇人は恐怖に怯えながらも神楽を見詰める。
神楽はゆっくりと立ち上がり、勇人を見下ろす。
「もし……魔道師にならなければ高町やテスタロッサが敵と戦う嵌めになるぞ」
「ど、どういう事だよ!?」
恐怖に染まっていた瞳が驚きへと変化する。
そもそも敵が何なのか、今の勇人には何か分からなかった。
だが、それよりもなのはやフェイトが戦う事にも疑問を感じた。
「当然だ。管理局にとってはあいつ等のように優秀な人材は使われこそ意味がある」
神楽は鼻で笑い、勇人の感じた疑問を一蹴する。
徐々に憤りを感じ始める勇人。
魔道師になる事がどんな事かは勇人は未だに分からない。
だが、友達が戦場に戦ってる事には納得いかない。
「だからって、あいつ等は一般人じゃねえか! てめえ等の都合を押し付けるなよ!」
「だが、それを選んだのはあいつ等自身だ。何もしなかったお前が言える立場か?」
「……」
ぐうの音も出ない勇人。
拳を強く握り締めて、唇を噛締める。
強さも言い返せない自分が歯痒く、悔しかった。
神楽は尚も勇人を見下ろしていた。
「もう一度だけ訊く、魔道師になる気はあるか?」
「……そんな話なんざ信じられるか!」
勇人を見下ろしながら、神楽はため息を零す。
「魔道師なんざファンタジーの話だろ! そんな事なんざ行き成り信じられるかよ!」
「ファンタジーか。なら、お前が此処に居る場所は何処だ? 地球か? 宇宙か? 覚えておけ……既にお前は逃れられない所に来てる事をな」
神楽の言葉が勇人の心に突き刺さる。
勇人の虚勢は全て叩き折られ、もはや為す術が無かった。
だが、目の前の現実を受け入れる事以外は。
勇人は全ての現実を受け入れ始める。
昨晩起こった現実。目の前にある現実。そして、これから起こり得る現実。
ゆっくりと顔を上げて、神楽を見上げる。
其処には先程の恐怖が無く、決心したような眼差し。
「……魔道師になってやる。でも、それはお前等の為じゃねえ! 俺様は俺様の意思と友達の為にやるだけだ!」
神楽は小さく笑みを浮かべながら、見下ろす。
「いいだろ。だが、こちら側に来た以上は覚悟してもらうぞ」
「覚悟?」
「そうだ……己が為すべき道に必要なものだ。お前もこれから歩んで貰うぞ」
神楽は踵を翻し、その場を去ろうとする。
勇人は直ぐにベッドに足を付け、立ち上がる。
しかし、まだ足元が不安定でふらふらだった。
だが、必死に神楽の後を追っていく。
「ああ……俺様も歩んでるよ!」
しっかりと前を歩む神楽に聴こえるように、勇人は大声で言う。
病室のドアが開かれ、進んでいく神楽。
その口元へ笑みを浮かべていた。
「なら、歩んで来い」
勇人には聴こえないように小さく呟く。
それから勇人は神楽と共に休憩室で椅子に座りながら、コーヒーを飲んでいた。
熱いコーヒーをゆっくりと飲む勇人。
「あちっ……」
想像よりも熱く、軽く舌を火傷をしてしまう。
だが、コーヒーに息を吹きかけて啜る。
神楽は横目で見るも、無視する。
「……ん?」
「どうした?」
勇人は何かを思い出してように、神楽を見る。
怪訝な顔付きで神楽は見向く。
「そういやアンタの名前を聞いてなかった?」
「……朝風神楽だ」
「俺様は「赤宮勇人」ッ!?」
勇人の言葉を遮り、神楽は勇人の名前を呟く。
自分の名前を知ってる事に驚きを隠せない勇人。
そもそも神楽には自分の名前を教えていないのだ。
疑問だけが積み重なる。
神楽は悩む勇人にため息を零す。
「お前を此処へ運んだのは俺だ」
神楽の言葉に目を丸くする勇人。
そして、徐々に理解していく。
「どういう事だよ!?」
「お前がリンカーコアを奪われた状態で倒れてる所を発見し、此処へ運んだんだ。それに名前を探るなんて容易いからな」
「へ〜……リンカーコア?」
また新たな疑問が浮かび上がり、目を丸くする。
昨晩の光景を思い出そうとする。
再び恐怖が浮かび上がるものの、何とか思い出そうとする。
金髪の女性が勇人から抜き取った深紅に輝く玉。
「(あれがリンカーコアか?)なあ……リンカーコアって小さい赤い玉みたいなものか?」
「そうだ。最もリンカーコアは人それぞれ色が違う」
「……そうなのか」
また一つ疑問が解消され、スッキリする。
だが、そもそもリンカーコアや魔道師について全く知らない事に気付く。
この際、まとめて聞こうと決意した。
「そもそもリンカーコアって何だ? 魔道師って何だ? 魔法ってどう使うんだ?」
一気にまとめて質問する勇人。
神楽は眉間に皺を寄せ、ため息を零す。
「一気に言うな。まず最初のリンカーコアについて教えてやる」
「おう」
「リンカーコアとは、言うならば魔法の核。つまり魔法を発動する為に最も必要なものだ」
勇人は小さく頷き、理解する。
しかし、脳裏に昨晩の光景が思い浮かぶ。
それは金髪の女性にリンカーコアを奪われている光景。
「なあ! 俺様は昨日リンカーコアを奪われたんだろ! なら、魔法を使えないんじゃ?」
勇人は大声で疑問を投げ掛ける
「その心配はない、お前のリンカーコアは完全に奪われた訳じゃない。少し小さくなったくらいだ、それに時が経てば自然に回復する」
「そう、なのか」
神楽の言葉に、勇人は小さく安緒のため息を零す。
そんな勇人を横目で、小さく笑みを零す神楽だった。
「それと二つ目の質問の答えだ。魔道師とはお前等の言う魔法使いと同じだ」
「じゃあ炎を出したり、かぼちゃを馬車に変えたりする奴か?」
「いや……炎の類は可能だが、童話のような事は不可能だ」
神楽は胸に掛けてある金色のペンダントを取り出す。
怪訝な顔付きでペンダントを見詰める勇人。
「これが魔法に必要なものの一つ、『デバイス』だ」
「何か想像してたものと違うな」
「俺達の使う魔法は科学で行われている」
「それって……魔法か?」
「言うな」
魔法が科学が出来る状況に、勇人は少しだけ失望した。
今は現実に追われ、魔法を信じない少年だが、もっと小さい頃は純粋に憧れを抱いた魔法。
それが目の前の現実に崩れ去った。
勇人は落胆の表情を見せる。
神楽は僅かに同情の眼差しを向ける。
「さて……一応お前のデバイスも用意してある」
落胆から驚愕へと変化する勇人。
だが、その目は僅かに喜びを含めていた。
「だが、今はまだ見せれない」
「何でだよ!?」
「試作段階のレベルだからだ。もっと安定するまではお前に渡す事は出来ない」
「期待させておいて其れかよ!」
思わずツッコミを入れてしまう。
それだけ勇人にとっては期待の代物。
自分が戦う為に必要な力。
なのはやフェイトと共に戦う為に。
思わず空のコーヒーカップを握り潰してしまう。
すると、そっと勇人の頭に手が置かれる。
それは紛れもなく神楽の大きな右手だった。
「焦るな。何れお前の元へとやってくる」
「本当か?」
「ああ……」
二人の口元に笑みが零れる。
其処には確かに絆が生まれていた。
「あら……何時の間に仲良くなったの?」
突然聴こえた女性の声。
神楽は直ぐに右手を離し、眉間に皺を寄せる。
「盗み見とは随分と良い趣味をしてるな」
女性の方へ視線を向けると、其処にはリンディが立っていた。
その後ろにはクロノとフェイトも引き連れていた。
「偶然よ。それより貴方が勇人君?」
「ああ……」
「私はリンディ・ハラオウンです」
リンディは握手を、
「……ハラオウン?」
『ハラオウン』という言葉に、クロノを見る。
クロノの名字も『ハラオウン』。
クロノは勇人に視線に気付いたのか、勇人の方へと見向く。
そして、勇人の視線の意味もクロノは分かっていた。
「僕と艦長は親子なんだ」
「へ〜……親子?」
不意に勇人の視線がリンディに注がれる。
勇人はリンディの肌の若さの驚く。
なのはの母も若かったが、リンディもそれ位の若さを誇ってる。
もはや理解の範疇を超える話だった。
「お前の言いたい事は薄々分かる」
神楽も同情の眼差しで見詰める。
勇人は小さく頷く。
怪訝な顔付きを見詰めるリンディ達だった。
「で、何の様だ? 態々盗み見する為に此処に来た訳じゃないだろ」
神楽の言葉に、リンディの表情が真剣なものへと変わる。
「ええ……これからの事について話があるの」
「やはりこの事件の担当はお前等になったか」
大きく頷くリンディ。
神楽は小さくため息を零す。
「貴方はどうするの?」
リンディの問い掛けに、神楽は僅かに目を細める。
そのままフェイトを一瞬だけ見向く。
「決まってる。俺は俺の仕事をするだけだ」
「フェイトちゃんの監視ね」
神楽の目的に勇人は驚きで目を見開く。
だが、徐々に冷静になり、睨み付ける。
「それ、本当かよ!?」
「ああ……フェイト・テスタロッサは重犯罪に加担したが、その事件も無罪で終了した」
「なら、何で!?」
「上の連中はまだ信用してないからだ、仮に仲間になったとしても裏切る可能性を起こしかねない。だから、俺が此処へ派遣された」
フェイトの表情は暗くなり、悲しみに染まる。
勇人は横目で其れを見詰め、無理に笑顔を作る。
「まあ、気にすんじゃねえよフェイト」
「……うん」
フェイトも無理して笑顔を作る。
神楽は小さくため息を零し、リンディを見詰める。
「用件を進めろ。何もしないまま時間を費やす気か?」
「ええ。至急この場にアースラスタッフ及び魔道師を集めるわ」
「頼んだぞ」
アースラスタッフ及び魔道師を休憩室へ通信で呼び出す。
数十分後、その場には、なのはやフェイトを含めた数人の魔道師及びアースラスタッフが居た。
其処には当然勇人や神楽が居た。
「さて、私達アースラスタッフは今回、ロストロギア『闇の書』の捜索と魔道師襲撃事件を担当する事になりました」
勇人はロストロギアや闇の書という単語に怪訝な顔付きをする。
だが、直ぐにリンディの言葉に耳を傾ける。
「ただアースラが使えない都合上、事件発生の近隣に臨時作戦本部を置く事になります」
(は!? 此処に居る奴等全員、海鳴に来るのか!?)
勇人は目の前に居るアースラスタッフや見慣れない魔道師に見詰める。
一際勇人を驚かしたのは犬耳を生やした女性。
(何で犬耳なんだよ!? 普通の耳はどうしたんだよ!?)
有り得ない光景に、まだ慣れてない勇人だった。
だが、尚も言葉を紡いでいくリンディ。
直ぐにリンディへと視線を戻す。
「ちなみに司令部はなのはさんの保護を兼ねて、なのはさんのお家の直ぐに近所になりま〜す」
直ぐになのはとフェイトは互いを見詰め、喜び合う。
勇人は二人の喜び合う姿に、口元が緩む。
その光景は勇人の心を温くするものだった。
そして、改めて実感する。
自分が魔道師になろうとする訳を。
(アイツ等を護る為に魔道師になってやる、これが今の俺様に歩める道だ)
なのはとフェイトを静かに見詰め、決意する。
これから歩もうとする道を。
後書き
どうも、シリウスです。
第二話完成しました。
なかなかネタが思いつきませんね。
では、今日はこれにて失礼します
作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル、投稿小説感想板、