「熱ぃ。」

開口一口で文句を言うこの少年の名は、宮本良介。
皆さん御存知。孤独を求める剣士だ。

ここは、ミッドチルダの北西にあるテスラ砂漠という地域。
最近、この地域で、魔法とは異なる妙な能力を持つ盗賊団が出ると聞き、
退治して欲しいという依頼を受けた。

砂漠の日光は肌を焼き、体力を奪うので、専用のバリアジャケットを装着済だ。
元々、バリアジャケットすら装備できない程、魔力の低い彼であったが、
色々あって、充分過ぎるほどの魔力を今は得ている。
この程度の光熱が今の彼に通るはずはないのだが、
ぼやいてしまうのは、条件反射の領域なのだろう。

「喉渇いた。水くれ。」

「まぁまぁ、良介。
私の愛情でよければ、幾らでも飲んでエェよ。」

「胃もたれする程度には貰ってるので結構です。
つぅか、なんでお前ら着いてきてんだよ。」

「愛人として当然です。」

「勝手に人を色情狂にするんじゃねぇ。
っていうか、お前はそれでいいのか。」

自分はなんでここまで女子供に好かれ易いのか。
全く理解できないが、ウンザリするのも無理はない。
なぜなら一人で十分だと言っているのに、
チビッ娘三人組や騎士連中まで付いて来ているのだ。
お前ら仕事はどうしたのだと心から問いたい。

「お、お兄ちゃんはなのはが居ると迷惑ですか?」

「迷惑というよりウザい。
高校生にもなってお兄ちゃんとか言ってる辺りが。」

「あぅぅぅぅぅぅ、ひどいです。」

涙目になっているが、いい加減慣れているのだろう。
案外、長く深い付き合いだ。一々凹んでいたらやってられない。
だが、それでもなのはは心配なのだ。
6年前に彼の身に起きた『事件』。それを考えると・・・

「そういや、フェイト。
聞きそびれてたが、プレシアは今どうしてんだ?」

「うん、母さんなら、元気過ぎる程元気だよ。アリシアもね。
心配してくれて有難う。良介。」

「べ、別に心配なんてしてねぇよ。」


ツンデレである。
プレシアはジュエルシード事件を引き起こした張本人として逮捕されたが
精神的に追い詰められてたという事もあって
情緒酌量の余地もあるという事で、現在、減刑も順調である。
時々、面会という形でフェイトやアリシアと会っているそうだ。
今度はシグナムが良介に尋ねる。

「それで宮本。
今回、お前が受けた依頼は、妙な術を使う盗賊団の掃討だったか?
一体、どの様な魔法なのだ?ミッド式か?ベルカ式か?」

実際は掃討ではないのだが、シグナムは興味深そうに質問する。
バトルマニアとしての血が騒ぐのだろう。
未知の敵との闘争を想像して少し紅潮している。
傍からみたら少し危ない人だ。

「あ、あぁ。
それが魔法じゃないらしいぞ。」

良介はすこしビビリながら答える。

「魔法じゃない…ですか?
どういう事です?」

「その連中はリンカーコアを持ってなかったらしい。
攻撃にも、魔力は殆ど込められてなかったらしいしな。」

「じゃあ、気とか、霊力とか、妖怪とか、魔法とは違う力なのか?」

シャマルとヴィータの質問の良介が答える。
少なくとも彼女たちの知る限り、妖怪や吸血鬼、HGS(高機能遺伝子障害)の持ち主程度しか
該当する者はいない。
彼女らが降り立った世界…地球の海鳴市では、そういう力が蔓延していた。
しかし、その質問に対して良介は…

「いや、そういうエネルギー系じゃない。
質量兵器だとも最初は言われてけど、それとも異なる。
物理的な力なのは間違いないが・・・
デバイスの類は持ってなかったらしい。」

わけが分からなくなった。
デバイスも魔力も無しで魔法に近い現象が起こせる人間が存在するということである。


「あら?あそこに誰か居ますよ?」




一同はシャマルが指差した方を見る。
それは砂丘の上に立つ一人の男らしき姿だった。
オールバックに纏めた黒髪、
顔面には、真横に奔った傷痕、
左腕には何やら義手に似た卵の様な金属をつけている。



「あのぉ、すいません。
この辺りには盗賊が出てくるので
早く離れたほうがいいですよぉ。」


「そうだ。見た所、魔導師ではなさそうだしな、
早く離れたほうが身のためだ。」


そう、なのはとシグナムが呼びかけると、男は荘厳に此方を振り向いた。




…・・・ゾクッ




その眼を見た瞬間、良介の背筋に怖気と寒気が迸った。





(・・・・・・!!!
・・・こいつ、なんて眼ェしてやがる!!)



良介はその男に蛇や蜥蜴を初めて見た時の様な印象を受けた。
爬虫類をそのまま人間にしたら、この男の様な眼になるのではないだろうか?



だが、それ以上にデジャブの様なものも感じ取っていた。
そう、それは昔の自分を見ている様な・・・
孤児院を出てから自分に対し、毎日の様に見てきた輝き・・・
自分の欲望のためなら何が犠牲になっても痛みすら感じない。
いや、そんな生温いものではない。



かつてのプレシアも、最近知り合った変態ドクターも似たようなものだが、
彼らとはまた、まるで異なる・・・自らを悪であると自覚していながら、
それを何の疑問にも思わない社会の裏で暗躍する者の眼。
『全ての黒幕』、『元凶』、『邪悪』という言葉が誰よりも似合いそうだ。



云ってしまえば、昔の自分が目指した理想の姿の具現を見た様な感情を持ったのだ。



それを感じ取ったのはどうやら自分だけの様で他の者は全く気づいていない。
まぁ、子供三人組は仕方ないとして、騎士達まで疑問に思わなかったのが、
良介には不思議だった。



男の演技力も相当なものなのだが、この騎士達は案外世間知らずなのである。
悠久とも言える時を生きているが、それは『闇の書』と共に歩んできた時間であり、
その間は、ただ闇の書と主の意思に従っていただけだった。
確固とした意志を持ったのは、はやてと良介に出会ってからが初めてなのだ。

男は此方を向くが返事をしない。
ヴィータは苛付いた様子で叫んだ。

「オイ!返事しろ!コラ!」


それに応える様に男は言葉を返す


「これは失礼。
少しまどろんでいた。」

オールバックの男は人の良さそうな笑みで降りてくる。
なのは達やシグナム達の様な綺麗な心の持ち主なら騙せるだろうが、
あいにく良介は値段の無いスマイルに気を許す様な清廉な人種ではなかった。





「・・・あんたは?
一体何者だ?プロフィールを言ってもらおうか?」

「お兄ちゃん?」




なのはが訝しげな声をあげる。
それはそうだろう。
彼は基本的に他人に警戒を持って接する様な人間ではない。
その場限りの付き合いで終わらせようとする・・・終わらせられてきたかはさて置いて・・・
このような質問を自分からするのは良介らしくないのだ。



自分らしくない事と自覚しながらそれを、態々するほど、良介はこの男に興味と敵意を抱いていた。
なのはとの付き合いとも異なる。
フェイトとの共感とも異なる。
はやてとの親愛とも異なる。
騎士達との友愛とも異なる。
さりとて海鳴市の住民や今まで自分が出会ってきた誰とも違う。



―――――鏡を見た時に近い郷愁を・・・



「人にものを尋ねるときは自分から名乗るのが礼儀だと思うが?」


良介は無愛想だが、礼儀を知らないわけではない。
相手が礼儀を持って接してくれば、ある程度は返す男だ。
直ぐに非を認め、名を名乗った。

「宮本良介だ。」

他の者もそれに続く。

「時空管理局の航空武装隊戦技教導官・高町なのは一等空尉です。」

「本局から来ましたフェイト・テスタロッサ執務官です。」

「同じく、八神はやて二等陸佐です。」

「シグナム二等空尉だ。」

「ヴィータ三等空尉。」

「医務官のシャマルです。」

「空曹長のミヤですぅ。」

それぞれが礼儀正しく自己紹介をする。
男は少々驚いた様子だが、直ぐに人の良い笑みを浮かべ…

「これは、これは、
噂に名高い管理局の陸・海・空・三大エースとベルカの騎士殿達までいらしてくれたのですか
光栄至極です。宮本殿一人で十分だとも思ったが、これなら万に一つの失敗もありませんな。」

男は賞賛するが、その言葉の中に聞き捨てなら無い言葉があった。

「俺一人で十分?
万に一つの失敗?
もしかして、あんたが依頼人か?」

        ・・
「ええ、あなたに共闘を依頼しました。
盗賊団の掃討の・・・私の名前は・・・・・・」



男は己の名を名乗る。
その姿は帝王然としていて、王者を思わせる威厳だった。
















「『クロコダイル』・・・と申します。以後お見知りおきを。」














『神の仔〜グリゴリ〜』と呼ばれる天使が存在する。
彼らは人間に武器と魔法を与え、世界に暴力と虚栄を齎した。

そのリーダーは『砂漠の魔王〜アザゼル〜』。
この世に悪徳を振り撒き、ノアの洪水を引き起こした張本人。

今、この多次元世界にも『砂漠の魔王』が舞い降りている。
ノアの方舟に己自身が乗るために・・・
事故の野望のまま全てを奪い去るために・・・
そして、自らの理想郷を幻の都の上に築くために・・・





運命の砂時計は既に破滅への時を刻み始めている。          











クロコダイル登場!!
実はこれ、禁断の果実にも?がってたりします。
クロコダイルは私、かなりお気に入りの悪党なのです。
かなり不定期な更新になりますが、どうぞ宜しく。





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