新暦75年7月◆日
 今日は、機動六課の局員の旅行へ行く日。
 シグナムさんやヴィータちゃんたち4人は本局へ。
 私はこれから、時覇さんと勇斗さんと一緒に、ある秘密の場所へ行ってきます。






























何かに出逢う者たちの物語・外伝T――発生物語
魔法少女リリカルなのはGaG












































 時は……7月上旬。
 あの事件もどきより、さほど経っていない。
 天気は晴天。
 洗濯日和とは、まさにこの日であると言える。
 機動六課――隊舎入り口前。
 そこに男が2人と女が1人。
 小さな妖精が一人浮いていた。

「よし、準備はいいか? リイン、勇斗」

 バリアジャケットは展開していないものの、グローブのデバイスを締めなおしつつ尋ねる時覇。

「…………うしっ――問題ありません」

 簡易チェックをし、忘れ物が無いか確認してから敬礼しつつ報告する勇斗。

「リイン、忘れ物はない?」
「はい。大丈夫です、はやてちゃん」

 可愛く敬礼し、笑顔を浮かべる妖精――リインフォースU。
 服装は、ラギュナス特別仕様のバリアジャケット。
 どこかのロボットのような服で、背中には鋼の羽が六枚。
 その姿は、擬人化された感じの姿。
 生成魔力の負担は、時覇が請け負っている。
 時覇曰く、リハビリには丁度良い。らしい。

「うん。じゃあ、行くぞ」

 その言葉と同時に、時覇の前に魔方陣が展開される。
 しかし、その魔方陣はミッド式、ベルカ式ではない。
 サイガ式――極端な切り替えしかできない魔法式である。
 だが、使いこなせば理論上であるが、次元航行艦に搭載されたアルカンシャルをも弾くことが可能とされる。
 ただ問題なのは、使用するにはまず最低AAランクくらいの魔力が無いと使えない点である。
 さらに技術よりも、魔力に頼る部分が多い。
 故に、マイナーの中のマイナーにして、キング・オブ・マイナーと称号されても過言ではない。
 よって、ほとんど見向きもされる事無く、歴史に埋もれ消えていった魔法式。
 この先も、永遠に日の目を見ることはなかったはずである。
 だが、それに目をつけたのが先代のラギュナスの長。
 この魔法式を使いこなすものの、使いこなせる伝授者が現れる事無く、再び風化しつつあった。
 それを偶然発見し、何とか再現したのが時覇である。
 魔力はそれほど高くは無かったが、低い魔力でも運用できるように改良、発展させた。

「早く乗れ」

 魔方陣に乗って、こっちへ来いと腕を振って合図を送る。

「了解」
「は〜いですぅ」

 勇斗は駆け足。リインフォースUは飛行、そのまま勇斗の頭に乗る。
 どうやら最近そこがお気に入りらしい。
 軽いから余り気にしないのでそのままにしてある。

「乗ったな――行くぞ!」

 一瞬眩い光を放つ次の瞬間――いつもの風景があった。
 ただ、男2人と妖精1人が消えただけ。
 それを確認したはやては、その場で背伸びをし、

「こんにちは、はやて」

 右から声を掛けられ、そのまま顔を横に向ける。
 が、目を丸くするほど驚いた。
 何故なら――

「カリム!?」

 そう、教会から滅多に動くことがなく、聖王教会トップの1人――カリム・グラシア。
 カリムに会うには、通信越しか、自ら直接会いに行かなければならない。

「どうしたん、今日はヴァロッサが来るのちゃうかぁ?」

 頭から足を、足から頭を何度も目を往復させながら言った。
 その行動に、素直に微笑むカリム。
 妹分の慌てぶりに喜びを覚えるのは、姉心というべきか。

「それがね、急に別世界の視察に行くことになって。それで、休暇も兼ねて私が変わりに来たの」
「なぁ!? そなら――」
「久しぶりに、直接はやての顔が見たかったから、ね」

 はやての言葉を押さえるように、手を自分の頬を当てながら言う。

 仕方ない。という顔で肩を落とす。

「……しゃあない。ほなら、案内するわ」

 振り返りながら、カリムを案内するはやて。

「ええ、お願いするわ」

 それに続くカリム。
 これから行われる、ロストロギア封印の立会いに。
 しかし――これが、リインフォースUの胃をおかしくする出来事になるとは、誰も予想できなかった。
 ……デバイスの胃の調子を悪くすることも。





「そういえば、はやて」

 廊下を歩いている時、不意にカリムが声を出す。

「どぉなんした、カリム?」

 少し先に前を歩いていたはやては、首を横にして、カリムの速さに合わせるように横につく。

「あのね、局員の姿が見えないのだけど……いくら人がいなくても、1人くらいすれ違うと思うのだけど」
「ああ。そのことやったら、主力メンバーを残して、他の局員は全員強制局員旅行や」

 苦笑しながら言う。

「強制局員旅行?」

 首を傾げるカリム。
 局員旅行は判るが、なぜ強制?
 まあ、局員旅行自体珍しいことだが。
 理由は今までもなく、人事不足で犯罪は止まらず。
 今この瞬間、どこかで笑顔が。
 平穏が。
 幸せが。
 希望が一つ消え、こんなはずではなかった出来事を。
 時間が。
 世界が。
 歴史が刻まれていく。
 それを防ぐために組織された1つが――時空管理局。
 しかし、所詮は人が集い、組織となす。
 そして、組織は人がいてこそ成り立つ。
 よって、人がいなくなれば、時空管理局が消滅してしまうことになる。
 人には、色々なモノを備えている。
 1人1人違うモノを持っている。
 疲れ知らず、手先が器用、レアスキルを持つ者、絵が得意、歌が上手など。
 だが、共通していることはいくつかある。
 人間の命は1つで、一度死んだ人間は生き返ることはない。
 疲れ知らずといえども、少なからず疲れは溜まる――度が過ぎれば、過労死する。
 他にもいくつかあるが、命に関わるモノの代表的な中の2つ。
 結果――時には、人は休息が必要である。
 ここの所、事件らしい事件は起きていないが、蓄積された疲労は、いつ噴出すか判らない。
 よって、今のうちに休暇を与え、完全とまではいかないが、ある程度英気を養ってもらう――というのが半分で、もう半分は、またしても人事部からの通達。
 主力メンバーか、サポートの局員のどちらかの休暇を使って欲しい。との、人事部のご都合による通達。
 しかし、主力メンバー――とくに新人たちは、まだモード2の扱いに不安がある。
 これから消極法で行くと――サポートの局員となる。
 いつ事件が起きるか判らないため、今日の朝、さっさと出発してもらった。
 今、機動六課にいるのは、各隊長と副隊長に、新人5人、サポート役に1人。
 サボりが1名いるが、いつもの事なので気にはしない。
 非常回線は繋がりっ放しなので、勤務的には問題あるが、それ以外は問題なし。
 呼べばきちんと来る。
 ただ呼んだら呼んだで、パシリだが。
 それは、また別の話。
 そんなことをカリムと話すはやて。
 そして――目的の部屋の前まで来た。

「ここや、カリム」

 扉の横のプレートには『特別封印処理室』と書かれてある。

「皆、おるか〜?」

 そう言いながら、扉が開く。
 そこには、いつもの仲間がいた。
 唯一無二の親友――なのは、フェイト。
 はやてが見つけた希望の原石――スバル、ティアナ。
 フェイトの養子――エリオ、キャロ。
 中央のロストロギアの封印処置を行う役にシャーリー。
 それぞれ挨拶の言葉が飛んでくる。
 そんな中、提督のみ着ることができる服を着た人物――クロノとリンディである。

「こんにちははやてさん、騎士カリム」
「こんにちは、騎士カリム。今日はヴァロッサが来るはずでは?」

 リンディとクロノから声が掛かる。
 カリムはリンディに会釈をし、クロノと向き合う。

「ヴァロッサは、別件で遠方の別次元の方へ。出張との事で」
「そうですか……しかし、なぜ貴女が?」

 はやてと似たような行動を取るクロノを見て、思わず笑ってしまうカリム。
 その言動に、クロノは困惑する。

「ああ、ごめんなさい。最初に会ったときのはやての行動と似ていて、つい……」

 口元を押さえ、小さく笑うカリム。
 クロノは、はやてをジト目で見るが、はやては顔を反らした。
 私は関係ない、と。
 その行動に苦笑する親友と新人たち。
 シャーリーも釣られて笑う。
 そこでカリムはあることに気がつく。
 いつもの3人と1体がいないことに。

「あら? 守護騎士たちは……」
「ああ、それやったら、シグナムたちやったら本局に呼ばれていったんよぉ」

 ほのぼのしながら言いつつ、シャーリーの下へ行くはやて。
 シャーリーは頷き、キーパネルを操作する。
 すると、中央の機械が作動し、ロストロギアが姿を表す。
 それを見た一同は、顔を強張らせる。
 どんなモノで、ロストロギアはロストロギア。
 一歩間違えれば大惨事になりかねないモノかもしれない。
 形は球体で、灰色であるが輝きがない。
 光を反射しないらしく、その場で浮いている。
 浮いているのは封印処理の機能ではなく、自らを浮かしている。
 危険度はないと確認されているが、暴走しないとは報告されていない。
 よって、検閲と封印処理は厳重にかつ、最大の注意を払って行わなければならない。

「これが……今回の?」

 カリムが疑問の声を上げる。

「? 何言っているのや。カリムが頼んだのやないか」

 カリムの疑問に答えるはやて。
 しかし、カリムの顔は困惑の色に染まる。

「え? はやてから頼まれたのだけど……違った?」

 その言葉に静寂が訪れる。
 そして、思考が再起動し、次に出た言葉は、

『え゛?』

 同時に一同は固まった。
 機動六課では、カリムからの依頼で受け渡しに。
 聖王教会では、はやてからの頼みで受け取りに。
 そのように双方に連絡が行ったことになる。
 だが、誰が? 何のために?
 など、そんな事がなのはたちの思考で走る。
 それに鼓動するかのように、ロストロギアが光りだす。
 それに気がついたシャーリーは、急いでキーパネルを打ち込む。
 がだ、受け付けることはなかった。

「八神隊長!?」
「くっ――」

 言葉を躊躇うはやて。
 ここで逃げれば、機動六課の存亡に関わってくる可能性がある。
 ここに踏み止まり、万が一封印を失敗した時のことを考えると、最悪である。

「提督権限で、この場から離れろ! 我々が何とかする!」

 クロノが、躊躇するはやての変わりに激を飛ばす。

「せぇやけど――」
「いいから行――」

 はやての言葉を覆い被せる様にクロノが叫ぶが、次の覆い被さる言葉に絶望した。

「提督! ドアが――ドアが開きません!」
『!?』

 全員が絶句した。
 ここは完全な閉鎖空間。
 空調の部分には、ロストロギアを扱う場所なので、複雑かつ頑丈に出来ている。
 しかも、ここは機動六課隊舎の地下施設。
 限定封印されたエースたちの力では、地面の打ち抜く以前に、壁すら打ち抜くことは不可能。
 可と言って、限定封印をこんな所で解除する訳には行かない。
 一度使えば、次に許可を貰えるのは何時になるのか判らない。
 まさに絶望という言葉しかなかった。
 だが、ここで諦めるなのはたちではなかった。

「フェイトちゃん! はやてちゃん!」

 なのはの声に、二人は顔を向ける。
 その言葉となのはの顔を見て、二人の顔から絶望は消えた。
 フェイトとはやては頷き合う。
 そして――代わることの無い思いと、いつもの言葉を胸に。

「レイジングハート!」
<はい、マイマスター>
「バルディッシュ!」
<イエッサー>
「リインフォース――って、ぃなんのやった!?」

 その言葉に、全員が扱けた。
 しかも、シャーリーはモロ機材の角に頭をぶつけ、頭から出てきては拙い色が流れ出てくる。

『しゃ、シャーリーさん!?』

 同時に叫ぶ、エリオとキャロ。

「頭から赤いものが!?」
「早く手当てを!」

 それを見たスバルとティアナは、大慌てで治療に当たる。
 それはそれで置いといて。
 しかし、突っ込みを入れる時間すら惜しむ。
 2人は苦笑の顔から真面目の顔に戻り、合言葉――起動の言葉を、三人同時に叫ぶ。

『セェェェェェェェェェェトッ、アップ!』

 三人はデバイスを掲げるが――反応が無い。
 それ以前に――目の前でデバイスが消えた。
 静寂。
 しかし、それは一瞬の空気であった。

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』

 全員――シャーリーは除く――が、声を上げた。
 それと同時に魔力の光が――なのは、フェイト、はやて、スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、シャーリーが飲み込まれた。
 そして――受け取りのために立ち会っていた、クロノ、リンディ、カリムも一緒に。





「リイン。探し物はこれか?」

 古びた書物を、蒼天の妖精に掲げて見せる。
 それを見た蒼天の妖精は、勇斗に何かを話してからこちらへ飛んできた。
 書物のタイトルの眺め、時覇から受け取り、中身を確認する。
 タイトルは『新暦13年度・質量兵器による犯罪』。
 かつて、ミッドチルダの政府自ら動き、抹消した記録書の一つ。
 内容は、ミッドチルダ内で起きた事件。
 だが、ある犯罪組織を殲滅するために、当時のミッドチルダの政府の了解を得て――時空管理局自ら違法であるはずの質量兵器を使用した記録内容。

「これです! これを探していました!」

 大喜びする蒼天の妖精――リインフォースU。
 最近、時空管理局の強硬派が兵器運用を推奨する動きが強くなり、ある人物から極秘に頼まれた。
 このまま兵器運用を行えば、どのような末路を辿ることになる資料の調査。
 それが、今見つけた書物の内容の一つ。
 他にも、いくつか見つけている。
 他世界の兵器運用の結果と末路。
 その大半は、犯罪の凶悪化に被害の拡大率。
 そして、死者の数。
 ドドメには、その世界の末路。
 それを突きつけられれば、さすがの強硬派も兵器運用を見直しせざる終えなくなる。
 しなかった場合は、一般に公開すればいい――訳にもいかない。
 大半の資料は、正式記録から削除され、無かったことになっている資料ばかり。
 公開したら公開したで、各方面が大変な騒ぎになってしまう。
 そう思いつつ、勇斗に声を掛ける。

「勇斗! リインが終わり次第撤収するぞ!」
「了解!」
 
 勇斗は、適当に積んであった本の山を上空に放り投げる。
 その光景は、まさに図書に関わる者に対するケンカ的な行動であった。
 だが、本は閉じたまま空中で静止し、四方へ飛んでいった。
 理由は、本の一冊一冊に魔法が刻まれており、元になった場所へ自動的に戻っていく。
 それは人の手で行われたものではない。
 この世界自身が、本を一冊一冊に魔法を刻んでいった産物。
 時覇も勇斗もそんなことを繰り返しながら、本が戻っていくのを眺めていた。

「これで……終わりました〜!」

 大きな声と同時に、先ほど写し取っていた本を、思いっきり上に投げる。
 しかし、規定位置に届かなかったのか、それとも誤認なのか、リインフォースUの上に落ちてくる。

「へ――ふぎゅ!?」

 そのまま本に潰された。
 勇斗は慌てて駆け寄り、時覇は頭を掻きながら呆れてため息をついた。
 世界は――どうやら、一度試してみたかったらしい。

「……気持ちは判らんでもないな」

 世界に対してぼやいた。





「時覇さん、勇斗さん、お疲れ様です」

 リインフォースUが、満面の笑顔で答える。
 現在の場所――元ラギュナスの英知の館・トラグロンベスティア。
 トラグロンベスティアとは――現在の時空管理局の技術・能力、いや、これからも進行不可能である場所。
 時空の壁を越し場所にある世界――トラグロンベスティア。
 世界全体が書物の保管庫となっており、今もどこかで生まれた技術、方法、歴史などを記載し続ける。
 無限書庫の巨大版と考えたほうが早い。
 ただ、ここには真実から改ざんされた歴史、裏の出来事まで記載してある。
 故に、とてもではないが一般に公開するわけにも、時空管理局に行き方を教えてはいない。
 ここへ来ることができるのは、現在――たった三人。
 ラギュナス分隊長である時覇、ラギュナス3兼現副隊長のゴスペル、新人のラギュナス4の勇斗だけである。
 しかし……首のシップや足の包帯やらで、笑顔の魅力は僅かに下がる。

「大丈夫ですか、リインさん?」

 右手には包帯とシップの入れ物、左手にはハサミ。
 勇斗がリインフォースUに巻いたのである。
 彼が持つデバイス――D・アーマー。
 『D』は、デストロイの略。
 デバイスはデバイスでも、サブ・デバイス。
 使い手とデバイスの補強を行うために作られた、特性デバイス。
 単体でも使用可能だが、決め手にかける。
 だが、一旦サポートに回れば、その真価が発揮される。
 ただ問題点なのが何点かある。
 ピンキーしか考えられていないことである。
 故に、量産化が難しく、誰にでも扱える訳でもないのが上げられる。
 トドメは、インテリジェントタイプしかない事――これが、一番の原因に当たる。
 使い手とデバイスの相性がよければ、1+1の答えは、10にも20にもなる。
 しかし、相性が悪ければ2にすらなく、場合によってはマイナスとなることもある。
 さらに、インテリジェント同士――俗に言う三角関係(やましい意味ではなく)を築き上げなければならない。
 使い手の相性が良くても、デバイス同士が悪ければ駄目。
 デバイス同士が良くても、使い手と合わなければ駄目。
 相性があるインテリジェントデバイスを探すよりも難しい。
 それはさておき。

「はい、大丈ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

 体全体で元気を表現しようとしたが、全身に激痛が走り、宙でうずくる。

「無理するな。はやてにどやされるのは俺なのだからな」

 うずくるリインフォースUをそっと掴み、勇斗の肩に乗せる時覇。
 何で俺? という視線が来るが、あえて露骨に目を反らして無視。

「かたじけないです〜」

 最近まで彼女は時代劇にはまっているらしく、時折シグナムと話を弾ませるときがある。
 だが、ここの所路線変更したのか、勇斗といることが多い。

「じゃ、隊舎に帰るぞ?」

 懐から取り出したカード型デジタル時計の時間を確認しながら、答える時覇。

「了解」
「はいです」

 それぞれの返事を上げ、時覇の横に立つ。

「世界は終わらん、時が刻むことを止めぬ限り――退館」

 その言葉が世界に響く。
 3人の視界は歪み、体が宙に浮く感覚に襲われる。
 そこで意識が消えた。





 重力に引かれつつ、目を覚ます時覇だが、

『…………』

 無言の圧力。

「……弁解していいか?」

 この空気を打破するために、一つの提案を提示する。
 だが、

『…………』

 無言の圧力は続く。
 ついでに軽蔑ともいえる眼差しを向けて。
 ちなみに、勇斗の頭には汚いトランクス、リインフォースUにはバナナの皮が乗っかっている。
 そう――ここは、機動六課のゴミ収集所。
 色んなゴミが捨てられ、一時的に貯められる場所。
 どうやら、あの世界――トラグロンベスティアは、どうやらイタズラが大好きらしい。
 視線と圧力に耐えかね、ため息を吐く。

「いい加減、ここから出るか」
『…………』

 体を動かす2人。
 出ることに対しては同意だったが、ここに出たことに対しては、まだ不満があるのは一目瞭然。
 ついに居たたまれなくなった時覇は、一足先に出入り口へ向かった。
 後方から何か声が聞こえるが――虫の声だけに無視した。
 ……くだらなくてスイマセンでした。
 そして、隊舎入り口前で、頭の中の警報が鳴り出した。

「ドゥシン‘s!」

 戦士の本能と条件反射で叫ぶ。
 それに連動するように、前で腕を交差させる。

“バリアジャケット――セット・アップ!”

 両手の甲が輝く――慣れ親しんだ光であり、未来を切り開くための剣と盾を生み出す光。
 私服から、バリアジャケットへ。
 魔力障害から、ある程度緩和されたためか、最近凝った作りのモノになってきた。
 上げるなら、簡単な装飾品と複雑な形になりつつある服である。

「時覇さん!」
「隊長! 先行命令を!」

 後ろから戦闘準備万端の2人が追いつく。
 リインフォースUは自前のバリアジャケットに着替え、勇斗の量腰に刀が添えられていた。

「慌てるな。後方役としてリイン。それを中心に、俺と勇斗の2人で前衛と護衛役」
「了解! 後方役としてリインさん。それを中心に、俺と勇斗の2人で前衛と護衛役!」

 時覇の言葉を復唱する勇斗。
 普通はしなくても良いのだが、勇斗場合は訓練の一環として行う。
 目的を見失いがちだった、“あの頃”から続いている癖。
 未だに見失いがちであるが、
 それを見て、微笑むリインフォースU。
 はやてが生み出した人格故なのか、母親役が板についてきたようだ。
 時覇も、微笑ましく思うが、今はその時ではない。

「まずは、一階から順番に最上階を目指す。重要データのある各隊長の部屋も気になる」
「そうですね、持ち出されたかコピーされたかくらいは確認しておかないと」
「あと、地下の方も気になります。せめて、地下を封鎖してから進むべきかと考えますが」
「それも一理あるな。リイン、一時的に地下の閉鎖を」
「了解です」

 リインフォースUの目の前に、キーパネルが出現。
 その小さい手で、素早く入力していく。
 そこで手が止まる。

「時覇さん、特別封印処理室に複数の生命反応あり! これは――はやてちゃんたちやフォアード陣に、提督たちや……何故騎士カリムの反応が?」

 その言葉に、脳内の思考回路を走らせる。

「閉鎖一旦中止! 隊舎全体のスキャンを!」
「了解です!」

 再びキーパネルの上に、小さな手が踊りだす。

「勇斗!」

 咄嗟に叫び、互いに背を預ける。
 背の中心の上にはリインフォースUがいる。
 さながら、簡易基地を思わせる形である。

「……気配らしい気配がない……どういうことだ?」
「ええ、高町隊長たちの気配しか無いです。敵がいた場合、すでに離脱したあとだと考えるのが妥当かと」
「ああ、それもあるが……『奴ら』だったら、どうなる?」
「探索魔法など無意味でしょうね。あと、気配を探るのも」

 そこで会話が途切れる。
 あとはキーパネルの電子音が鳴り響くだけである。
 それ以外――何も無い。
 結局探索が終わっても、何も起きなかった。
 しかも、地下にいるなのはたち以外の反応しかない。
 感でも鈍ったのか?
 そう考えつつ、最初の陣形を取りながら、地下の階段を一段一段踏みしめてく。
 カードは通さずに、パスワードを入力して開ける。
 前後左右上下確認後に、前進。
 曲がり角でも同じ事を繰り返し、前進。
 扉の前でも同じことを繰り返し、部屋の中を確認してから前進。
 無視した部屋から、敵が出てきて不意打ちを貰う。
 などという最悪なケースを避けるためである。
 それを何十回も繰り返し――目的の部屋である、特別封印処理室に到着。
 時覇は、リインフォースUにアイコンタクトを送る。
 伝わらない時は、動作で示す。
 リインフォースUは、真剣な表情で頷き、パスワードを打ち込んでいく。
 今回は成功のようだ。
 大抵は、こんな感じ。
 なのはの場合――『そ、そんなに見つめられても……』
 そのあと、恒例のチョップ炸裂。
 フェイトの場合――『あ、あの、私にはエリオとキャロいるけど……子供、嫌いじゃないよね?』
 クロノに連絡し、厳重注意してもらう。
 はやての場合――『そっ、そなぁ見つめたらあかんで!』
 レティに通報し、反省文を書かせる。
 シグナムの場合は――可哀想だから、思い出さないでおこう。
 あの時は酷かった。
 これもまた、別の機会に。
 そんなことを思い出しつつ、準備完了できたようだ。
 3人は頷き合い、配置につく。
 リインフォースUは、管制役を主に扉を開ける役と追い討ち役。
 勇斗は、時覇のサポートを主に、先陣とかく乱役。
 時覇は、オールランウンド。
 臨機応変で行動をする。
 ならば管制役をやれと言われそうだが、やらないには理由がある。
 その理由は――めんどくさいから。
 ではなく、適正がそれほど高くないからである。
 才はあるが、はやてやリインフォースUより劣るためである。

「…………突入!」

 リインフォースUの掛け声と共に、扉が開かれる。
 その瞬間――一筋の小さな旋風が巻き起こる。
 勇斗が使う高速移動技――瞬速。
 文字通り、瞬間的な速さを知らしめる技。
 なのはの実家の父、兄、姉が使う剣術の『神速』と呼ばれるモノに似ているらしい。
 続いて、回りにシューターを展開させた時覇が続く。
 が、そこで止まった。
 いや、正確には固まったというべきである。
 前方に勇斗が刀を抜きかけたまま固まっている。

「何かあ――」

 さすがのリインフォースUも、何かを察して恐る恐る覗き込む。
 それに気がついた時覇は、周りのシューターを消し、勇斗を引きずって前を空けた。

「なっ……なんなのですか、これは……」

 絶句するリインフォースU。
 さすがに衝撃が大きかったらしい。
 無理も無い。
 確かに、なのはたちであることは間違い無い。
 気配、魔力共に本人と一致しているが――小さすぎる。
 いや、幼すぎる。
 唖然と空中静止状態のリインフォースU.
 気持ちは判らないでもない。
 だが、問題なのはその視線の先の光景であった。






































U(ツヴァイツ)物語
リインフォースUの保母さん奮闘記
『はい、こちら機動六課……チャーシューメン一つね、って、ラーメン屋じゃねぇぞ、おい!?』編







































 リインフォースUの視線の先には――

「痛いよ〜、痛いよ〜」

 頭に包帯が巻かれたシャーリー。
 それを見て頭を撫でて、慰めるリンディ。
 クロノとカリムは、何かを話し合っている。
 子どもの癖に、意外と冷静である。
 すすり泣いているフェイトをあやす、なのはとはやて。
 半泣きしている3人――スバル、ティアナ、キャロ。
 それを見てオロオロしているエリオ。
 妙に精神年齢の高さに感心した。
 だが……全員下着やら上着しか羽織っていないことであるが、このさい気にしない。
 で、この状況に、未だに固まっている2人。
 どうすればいいのか悩む時覇。
 どうしてこうなったのか、原因を突き止めたい。
 だが、子どもになったなのはたちをどうにかするかが先である。
 そんなことを考えているうちに、ズボンが引っ張られる。
 ふと、視線を下に向けると――スバルらしき面影のある女の子が、ズボンを掴んでいた。

「ここ、どこ? ねぇ、お家に帰りたいよ……ヒック、ヒック」

 やばい。
 本能が告げる。
 例えるなら、噴火する前の火山と言えば判るだろうか。
 何といえばいいのか、良い案が思い浮かばない。
 今まで子どもの面倒など、機会が無かったので経験が無い。
 勇斗は趣味で二次創作の小説を書いているので、何とかかわせたかもしれない。
 で、何もいわない時覇に耐えかね――噴火してしまった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん、お父さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 泣き出すスバル。
 それに弁上するように、キャロとエリオが泣き出す。
 そして、それが連鎖反応を起こすかのごとく、皆泣き出してしまった。
 しかし――救世主になりえる者がいた。

「皆、お父さんとお母さんは! 三日間だけ、お出かけしなくてはならなくなったのです!」

 勇斗が声を上げで皆に言った。
 いつの間に再起動したのだろうか。などと、場違いなことが脳裏に過ぎる。
 だが、時覇に今の勇斗の姿は、大げさではあるが英雄に見えた。

「ですから、泣かないで。三日間だけ、お兄さんとお姉さんと一緒に。いい子でまってようね?」

 やさしく語り掛け、笑顔で皆の意識を反らそうとしたが――

『うっ――わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっん!』

 さらに大泣きしてしまった。
 勇斗は、この時の出来事をこう語った。

「自分が女性だったら、それなりに代わっていたかもしれない。って、いうか、フェイトさんだったら、もっと上手く立ち回れるだろ」

 と、肩を落として、騒動が終わった次の日の夜――酒場で牛乳を飲みながら語ったらしい。





 ここで、一旦状況確認。
 現在、ヴォルケンリッターは、本局へ研修生の指導へ――帰りは三日後。
 バックス一同は、強制的に三日間だけ有休消化のため、慰安旅行へ。
 よって――現在、機動六課にいるのは、リインフォースU。
 ラギュナス分隊隊長、時覇。
 ラギュナス4、勇斗。
 サボりの常習犯にして、ラギュナス3にして現副隊長、ゴスペル――の4人だけ。
 知識はあっても、実戦で生かせなければ意味がない。
 ……この三日間で思い知らされる。 。






























【ラギュナス分隊長・桐島時覇】



「――って、な訳で来い。今すぐ来い」
 今までの経由を語りつくして、緊急要請を出す。
 で、勇斗は皆のご飯作り、リインフォースUは子どものお世話。
 俺は、ゴスペルを呼び出している最中。

≪やだ≫

 即答。

「母親に連絡入れるぞ?」

 ゴスペルの恐怖の代名詞の一つを上げる。
 何時もならば、奥歯をガタガタ振るわせるほど、怖がっているのだが今はその反応が無い。
 しかも、不敵な笑顔を浮かべている。
 それで察しはついた。

≪残念だったな。今、どっかに行ったきり帰ってきてないらしい≫

 やはり、母親はまたしても行方不明らしい。
 この男の母親は、いつもフラフラとボウフラの如く、消えては帰ってくる。
 しかも、現れた場所では伝説の一つや二つ残してくる。
 実際に、ある町に居座っていた犯罪組織を一夜にして壊滅させた。
 これは時空管理局でも確認済み。
 前に一度、とある次元世界――一面砂漠の世界で、サンドドラゴンを一撃で張り倒した瞬間を目視したことがある。
 末恐ろしい戦闘能力をその得ていることは、一目瞭然。
 そうなれば、時空管理局としてはそのままにしておけない。
 と、強硬派の連中が動き、拘束しようとしたそうだが――一週間後に、綺麗にラップングされた次元航行艦と共に帰還。
 何があったか尋ねるが、誰も語ろうとはしなかった。
 さらに、時空管理局を辞める者まで現れる始末。
 一体何があったのか、未だ謎に包まれている。
 それもさておき。

「とにかく来い! 人手が全然足らん」

 人手が足らない以前に人自体いないのだがなぁ。

≪じゃ、局員の連中を呼び戻せばいいだろう?≫

 正論で返してきやがった。
 しかも即答で。
 こういう時に限って、機転の利く奴だから腹が立つ。

「そうは行くか。都合を考えろ、サボり魔」

 こちらも手札を切る。
 オウム返しもとい、正論返し。
 利くはずはいだろうが、一応出してみる。
 言わない時に言わないと後悔する。

≪別にいいだろ? 緊急回線だけは、きちんと標準装備しているから≫
「関係ない」
≪ある≫
「ねぇーよ……」

 ため息を吐く。
 横暴具合に、敬意を表したくなってきた。
 夢に人とかいて――『儚(い)』(はかない)と読む。
 やはり無駄な足掻きであったと痛感した。
 危険度の高い任務ほど喜んでついてくるが、こういうアクシデント系の任務は断固拒否する。
 性格上、仕方ないといえば仕方ない。
 だが、神は彼に天罰をお与えになられた。

≪ないわよ≫

 モニターの向こうにいるゴスペルが固まった。
 声で察しはついた。
 奥歯をガタガタ震わせ、脂汗をダラダラ流している。
 先ほどの強気の姿勢はどこへ行ったのやら。
 アイコンタクトで助けを求める。
 たとえ助けに行っても間に合わないし、行ったら行ったで、巻き込まれるのは必然。

「……末路くらい、見守ってやる」

 かつて敵であった。
 かつて同胞であった。
 そして、今は仲間。
 戦友の末路くらい、見届けるべきである。
 ……内容が内容だけに、見届けないほうがよいが。
 この場合は。

≪お・し・お・き♪≫
≪いや、そのは――≫

 胸倉を掴まれ、一瞬で画面外へ連れて行かれる。
 それかは、もの凄い打撃音と人類が奏でてはいけない音が鳴り響く。
 ついでに、悲鳴あって悲鳴ではない声も聞こえるが、この際無視する。
 自信満々に答えるゴスペルの解答を思い出し、自然にため息が出てきた。
 同時に、胃の辺りを押さえる。
 ここ一週間、胃の辺りを押さえるようになった。
 リインフォースU、勇斗も、である。
 何故だろう?
 そう思いつつ、惨劇が終わるのを待った。
 ただ、終わるには時間が掛かりそうなので、自らの権限で処理できる書類を片付け始めた。

≪オラオラオオオラァ!≫
≪――――――――≫

 今日も平和だな、うん。
 と、割り込み通信がコールされる。
 表示は『リインフォースU』となっている。
 そのままモニターのパネルを押すが、一瞬だけ躊躇ったのは秘密だ。

≪時覇さん、ご飯ができたので食堂にきてください≫

 いつもと変わらない表情と声。
 しかし、何故だろうか。通信越しからでも疲労感が伝わってくる。
 いや、吹っ切れたというべきだろうか。
 何かがおかしかった。

「何があった?」

 聞いた。
 とにかく聞いた。
 聞かないといけない気がした。
 だが、

≪? 何も無いですよ≫

 満面の笑みを浮かべるリインフォースU。
 ……神経でもやられたのか?
 考えても仕方が無い。

「判った、そっちへ戻る」
≪早めに、ですよ♪≫

 そこで通信は終わる。
 で、未だに奏でている方の通信へ戻る。

「母上殿、申し訳ないですが……」
≪判っているわ。制裁が終わり次第、そちらへ送ります。本当に申し訳ありません≫

 謝罪しながらも、息子への制裁は緩むことはない。

≪今後も息子をお願いします≫
「判りました……けど、ほどほどにお願いします。来た時に使えなかったら意味が無いので」
≪よしなに≫
「それでは」

 通信を切る。
 そして、徐に立って――その場に魔方陣展開。

「まずは……薬局に」

 魔方陣は輝いた。 。






























【ラギュナス4・羽山勇斗】



 銀の刃は輝き、閃光を描く。
 描く軌道には、あるモノがあり――切り刻まれる。
 そのまま自然落下。
 焼けた鉄の上に乗り、ジュワァーと音を生み出す。
 それから、銀色のお玉がアンサンブルを奏でる――いわゆる料理である。
 味付けに予め用意しておいた調味料を流してみ、香ばしい匂いを出させる。
 それを気に、用意しておいてあった白米を入る。
 そこで通信モニターが展開され、強制的に繋がる。

≪皆さんのご飯は未だですか!? 痛――モノは投げちゃ駄目です!≫

 悲鳴に近い――いや、悲鳴のセリフを上げるリイン。
 左のこめかみ辺りに、玩具が飛んできて当たった。
 涙目でクロノとエリオを怒っている。
 大変だなと感じつつ、こちらの状況を伝える。

「もう少し待ってくれ! 量が量だけにまだ時間が掛かる!」

 加熱された中華なべを濡れタオルで掴み、お玉を走らせる。
 お玉を走らせるたびに、色とりどりの炒め物が飛び上がる。

≪とにかく急いでください! リインもお腹ペコペコです!≫
≪早くご〜は〜ぅん〜!≫
≪め〜し! め〜し! め〜し!≫

 飯コールのオンパレード。
 拍手のおまけ付きである。

「だぁ〜! 黙っていろ、ガキども! あと少しで持って行くから!」

 そこで、お玉でモニターをタッチする。
 こちらから強制的に通信を遮断した。
 メインのご飯となる、チャーハンを炒めている最中である。
 隊長はゴスペル副隊長の呼び出し。
 リインさんは、子供たちの相手。
 残りの俺は――

「はい、チャーハン上がり!」

 ご飯を作っていた。
 さらに量を作るために、卵を取り――チンッ! と、タイマーが鳴る。

「できたか」

 卵を戻し、蒸し器へ向かう。
 開くと――しゅうまいとエビしゅうまいが、ほかほかと湯気を上げている。
 それを皿に素早く移し変える。
 他にもビーブン炒めにエビチリ、肉マンに水餃子。
 かに玉、マーボードーフまでは定番である。
 だが、棒棒ダレのサラダ、あさりの唐辛子炒めなど、普段聞いたことも見たことも無いものまであった。
 中国もとい、中華料理。
 油っ気のものが多いが、子どもなので余り気にしなかった。
 戻る時の結果は――この時は気づいていなかったが、子どもなので大丈夫だと信じた。
 もう一度、卵を持って料理を作ろうとするが、ある物が目に入った。

「あ。かに玉すでにできているの、忘れていたわ」

 後頭部を掻きながらぼやく。
 冷めないうちに、カートに素早く乗せ、簡単な後片付けをする。
 そして、カートを押しながら調理場を後にした。
 だが、俺は後悔した。
 もう少し早く持っていけば、あんなことは起きなかったと思う。
 隊長……俺も一緒に休暇を。 。






























【ロングアーチ・リインフォースU】



「リインのお姉ちゃん――うぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 ついに不安が頂点に達し、再び泣き出してしまったスバル。
 後方から『泣かした』コールが鳴り響く。
 はっきり言って、これは精神的に参る。

「あぁ〜ん! 泣きたいのは私です!」

 悲鳴を上げる私。
 私を頼るのはありがたいですが、この状況下では面倒ごとが増えたとしか言えない。

「リインさん、お腹すいたの」

 リンディが人差し指をくわえ、服を引っ張って言う。
 ああ、もう!
 面倒くさくなり、緊急通信回線を開く。
 これが一番早く繋がるからである。
 しかも強制的に。

「皆さんのご飯は未だですか!? 痛――モノは投げちゃ駄目です!」

 頭におもちゃが直撃。
 言いながら飛んできた方を振り向くと、誰もいなかった。
 すっ、すばやい。
 冷や汗を垂らした。

≪もう少し待ってくれ! 量が量だけにまだ時間が掛かる!≫

 加熱された中華なべを濡れタオルで掴み、お玉を走らせている。
 お玉を走らせるたびに、色とりどりの炒め物が飛び上がる――凄いと素直に感心した。
 それに見とれたせいなのか、お腹が急に減ってきた。
 さすがに音はならなかったが、食欲が上がる。
 その証拠に、口の中の唾液の排出量が増えてきた。
 だが、後ろで起こっている出来事――振り向きたくないので確認していなが、酷いことになっているのは察しが着く。

「とにかく急いでください! リインもお腹ペコペコです!」

 状況と本音を伝える。

「早くご〜は〜ぅん〜!」

 シャーリーが駄々をこねる。
 それに弁償するように1人、また1人と声が上がる。

『め〜し! め〜し! め〜し!』

 その結果――飯コールのオンパレード。
 拍手のおまけ付き。
 しかも、この拍手だけは私も内緒で参加。

≪だぁ〜! 黙っていろ、ガキども! あと少しで持って行くから!≫

 そこで強制的に通信を遮断された。
 ご丁寧に回線を完全遮断してある。
 何度も試すが――結果は同じ。
 この際、遠回りでも何でもいいので色んな回線を経由したが、元が絶たれているので無駄足だった。
 深くため息をつく私……少しお腹辺りが。
 ……私はデバイス、気のせいでしょう。
 そう結論に達した瞬間――今度は右からおもちゃが飛んできて、直撃。
 そのおもちゃは、尖った部分が多いモノ――超合金シリーズの一つ。
 名を『ダ・クォーガ・ノヴァイアサン』。
 5機の可変形型のロボットが、1体の巨大ロボットに合体するおもちゃ。
 さらに、追加で5機の戦闘機が各武装に変形して、巨大ロボットに装着される。
 新暦の黒歴史と呼ばれているロボットアニメ作品で出てくる機体である。
 だが、最近このアニメが再び日の目を見るようになりつつあるらしく、時折ニュースで取り扱われる。
 はやてちゃんと一緒に、そのアニメを行きぬきで見たことがありますが――見終わった瞬間、仕事を再開した記憶があります。
 あのオタクの勇斗さんさえ、さすがに引いたそうです。
 作画が酷いアニメは見られるらしいですが、このアニメだけは駄目だと宣言しました。
 ロボットはいいのに。と、しょぼくれていたのが印象的でした。
 話題休題。
 その場で塞ぎこみ、右のこめかみを押さえる。
 本気で痛いです。
 『凍てつく足枷』の冷気を右手に纏わせ、痛む部分を冷やす。
 こういう使い方をするようになったのは、やはり勇斗の影響が大きいかもしれない。
 彼は魔力が皆無ゆえ、魔法を一切使うことができない。
 荒業で使うことができるが――リスクが異常過ぎる。
 そんな訳で、時折私が試している訳です。
 一応、安全性が理論上で確認されてからですが。
 話題休題――その2。
 ともかく、

「お願いですから、言うことを聞いてくださぁ〜ぃ!」

 半泣き状態の私は叫ぶ。
 アウトフレームで、大きくなり子どもたちの面倒を見ようとしたが、誰も聞いてはくれない。
 クロノとカリムの精細。エリオとリンディの特別封印処理室で見せた姿はどこへ行ったのやら。
 今は皆と共に遊んでいる。
 それはいい、それはいいのですが……誰も言うこと聞いてはくれない。
 時覇さんに任された時は、張り切っていた自分が情けないです。
 などと落ち込んでいると――バインドされた。

「はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 混乱する私。
 何で拘束されるのですか!?

「クロノって、バインドが上手だね」

 感心するティアナ。
 ……戻ったら覚えてなさい、2人とも。

「そ、そうでもないけど……」

 頬を赤らめるクロノ。
 女の子に褒められて照れているのが判る。
 何妹に照れているのですか提督! 奥さんに言いつけるですよぉ!
 ってか、ティアナさんは、時覇さんの特別メニューの訓練に参加させます。
 クロノさんには、浮気らしきことをちらつかせてやる。
 今考えました、決定です。
 と、思うが、子どもになっていることを考えると、奥さんも怒るに怒りきれないのが目に浮かぶ。
 ってか、腹黒になってきている。

「って、今はそんなことを考えている場合じゃないです――今すぐバインドを解き――むぐっ!?」

 口を布で巻かれて塞がれた。
 犯人はカリム。
 それを見て、親指を立てるリンディ。
 カリムも立て返す。
 状況が状況だけに、オロオロするスバル。
 何か仕掛けを作っているエリオとキャロ、フェイトにはやて。

「ティアナちゃん、幻術系の魔法って使える?」

 と、なのはが尋ねる。
 何企んでいるのですか、アナタたちは!?
 そう叫びたかったが、口が塞がれているので言葉にすることができない。
 簀巻き状態なので、エビの様にピチピチと動くことしかできない。
 芋虫の如く、動くことは可能なのだが……固定バインドなので、その場から動けない。
 そんなことをしている内に、ティアナが私に変身した。
 しかし、声も変えて。
 嫌な予感が脳裏を過ぎる。
 何かの仕掛けの準備。
 なのはの『幻術系の魔法』発言。
 ティアナがリインフォースUへと変身。
 ……しかも、子ども。
 私はある結論に達した。
 この歳――5歳児は、ある意味最悪である。
 追加で無邪気なので立ちが悪い。
 叱ればわかる歳でもあるが、事を起こしてからでないと判らない。
 子どもは、何か起きてから出ないと理解できない部分もある。
 何もしていないのに注意しても、意味を成さないときがある。
 そこが、子どもの最悪な部分。




 ここで、DBことダークバスターからのちょっとした豆知識。

 この物語とは直接関係はないが、最近(2007年現在)では『子供』と記載することは駄目らしい。
 理由は、『子供』の『供』の部分。
 それは『お供』なので、表現的におかしいと言われるようになり――『子ども』と書かなければならないらしい。
 さらに関係無いが、『身体障害者』の『障害』の部分にも波紋が存在する。
 『障害』の『障』にではなく『害』の部分である。
 『害』は、文字通り――悪い結果や影響を及ぼす物事。
 障害者は、悪い結果や影響を及ぼす存在ということになる。
 よって最近は、『障がい』に変更になっている。
 今、この上記を正式な公的な場所で使うことは、駄目ということになっている。
 だが、あまり知られてはいないのが現状である。

 以上、これからの時代に必要な小さな豆知識でした。




 通信回線を開く準備をするクロノ。
 手際がよ過ぎるって、カリムさん、リンディさん、私をどこへ連れて行くつもりですか!?
 カリムとリンディが、可愛く「うんしょ、うんしょ」と言いながら、部屋の隅へ引きずられる。
 端から見れば、本当に可愛いが――運ばれている者にとっては、気が気でない状況。
 ロリコンと呼ばれる者たちを増やしかねない光景と、牛の如くドナドナのように連れて行かれる光景。
 天と地の差。
 月とスッポン。
 マグロとしらす。
 そんな感じ。
 なのはは変身したティアナと厳重な打ち合わせ。
 クロノは回線をいつでも開けるように、ラインを確保。
 シャーリーは、回線の最終調整。
 後の者は、仕掛けの製作。
 オロオロしていたスバルも、いつの間にか笑いながら参加している。
 子どもは無邪気でいいよね。と、引きずられながら何と無く悟る私。
 もう、疲れました。両方のこめかみが痛いです。
 こめかみの部分をヒリヒリさせながら、成り行きを見守ることにした。
 なのはとの打ち合わせが終わったのか、変身したティアナがクロノの元へ移動。
 それに気がついた作業組みは、一旦作業を中断する。
 シャーリーも準備が完了したらしく、モニターに移らないように、クロノと共に離れる。
 周りを確認してから――
 回線が開かれると、同時に演技が始まる。

「時覇さん、ご飯ができたので食堂にきてください」

 いつもと変わらない表情と声、私そっくりである。
 しかも、通信越しからでも伝わりそうな疲労感を出している。
 吹っ切れた感じも上手い。
 その辺の二流俳優より、凄く上手である。
 しかし、時覇さんの表情は少し硬かった。

≪何があった?≫
「? 何も無いですよ」

 満面の笑みを浮かべるティアナ。
 ……何故だろう、哀れみの目を向けるのですか?
 あとで教えてもらいましょう。

≪判った、そっちへ戻る≫
「早めに、ですよ♪」

 そこで通信は終わる。
 数秒間、沈黙が流れる。
 シャーリーがモニター展開後、回線のラインを確認――親指を立てる。
 歓声。
 続いて作業を継続する。
 ティアナも変身魔法を解いて、作業に参加。
 クロノとシャーリーも、である。
 ただ、カリムとリンディは私の監視役として残っている。
 この用意周到さ……こいつら、本当に5歳児のガキか?
 いい加減黒くなってきた、リインフォースUであった。 。






























 自動ドアが開くとピンポ〜ン♪ という音と同時に薬品の匂いがする。

「いらっしゃいませ」

 お決まりの言葉が聞こえてくる。
 ここは、元ラギュナス愛用店の一つの薬屋。
 店名『m(_ _)m』。
 顔文字が名前。
 しかも『ごめんなさい』だし。
 突込みどころが大きいが、品揃えと質は一級品。
 ついでに安い。
 おかげで当時の予算部からは、大いに称えられ、神様扱いされたことを思い出す。

「胃薬、胃薬……あっ…………」

 目的の品を見つけたが……数の多さに絶句した。
 名前を挙げるとなさ過ぎるので伏せるが、数は100種類以上、一レーン分の棚を占拠。
 胃薬如きで。
 たかが胃薬、されど胃薬――と、思うが、これはどうかと思う。
 上に釣り下がっているプレートを見ると――『胃を大切に週間』――と、書かれていた。
 胃が駄目になる人が多いいのか、この時期は。
 などと思いつつ、店員に汎用性の高い物を出してもらった。
 これで、外面はともかく、内面の回復アイテムは手に入った。
 これがあれば、あと72時間は安心して戦える。
 妙にリアルな数字を浮かべながら、店を後にした。

「ありがとうございました」

 お決まりの言葉と共に。
 それから、人気が無い裏手に入り、魔方陣を展開――転移魔法である。
 バレたら、本局に呼び出しを喰らうが、緊急だと言えば何時ものことで処理される。
 とくに気にしないまま、隊舎に戻る時覇であった。





 再び隊舎前で脳内警報が鳴り響く。
 今度は、デバイスを発動させるほどではないが、警戒に越したことは無い。
 しかし、邪気が無い。
 悪意はなく、むしろ純粋な何かを感じる。
 だが、余りガキどもを待たす訳にはいかないので、周辺警戒を行いつつ入る。
 そして――何事も無く、食堂入り口前に到着。
 根源は、この扉の先から出ている。
 生唾を飲む。
 そして、一歩。
 次の瞬間、扉は開かれ――ガラスの破片と一緒に、空に浮かんでいた。
 わぁ、ガラスが光を反射させて、空が今以上にきれいに見える。
 そのまま落下。
 驚愕に染まるリインフォースUと勇斗。
 時覇を吹き飛ばしたのは、ピタコラスイッチ型衝撃トラップ。
 単純な仕掛けで、扉が開いたと同時に衝撃波系の魔法を発動。
 作業には時間が掛かるが、設置には時間は掛からない。
 むしろ、細かい微調整が気になる所だが、それ以外がガキでもできることを証明している。
 先ほど。
 時覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
 と、内心で叫んでいる。
 叫ぶに叫べないのは、2人とも口にタオルを巻かれている――猿轡(さるぐつわ)状態。
 成功したことを喜び合うガキどもは放置して、芋虫状態から開放。
 全力で割れたガラスへ向かい、下を覗く。
 地面から下半身が生えた、オブジェが出来上がっていた。

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

 大急ぎで廊下を駆け走り、階段を駆け下りる。
 それはもう、全力で。
 勇斗は、リインフォースUを肩に乗せて、超高速歩行術『瞬速』を発動。
 世界は白と黒だけとなる。
 ただ、リインフォースUは目を瞑り、体全体にフィールド魔法を展開。
 体の負担を0に近い状態に保つ。
 いくらフィールド系魔法でも、物理的法則は無視できない。
 故に、完全に0にすることは不可能である。
 2階辺りで男子便に入り、窓を突き破って外に。
 着地と同時に再発動。
 連続使用は膝の負担が大きく、担当医師のフィリスさんから厳重注意を受けている。
 で、惨事の現場に到着。
 即効で引っこ抜く。
 上半身は泥だらけで、下半身はなんとも無い。
 異様な姿をさらしていた。
 時覇の目元から、涙が浮かび上がる。
 それから、一言。
 ただ一言だけ言った。

「俺……何かやったか、あいつらに」

 その言葉に、2人は考え込み――6月の出来事を思い出す。
 だが、それはすでに片付いたこと。
 さすがにそこまで根に持つ者は……いないはずである。
 ならば――何故思いついたのか?
 邪気は……無かったので、判別はできない。
 よって、完全に判らずじまいとなった。





「いただきます」

 調理してきた勇斗が号令を言う。

『いっ、ただぁきま〜すぅ!』

 子どもたちは元気良く答えるのに対して、リインフォースUは、

「いただきますです」

 少し疲れた口調であったが、食事には支障はない様子。
 だが、ほとんど駄目なのが1名。
 上半身の所々に包帯とシップが貼られている。
 しかも、箸が進んでいない以前に箸を持っていない。
 だが、そんな状態でも誰も気にしない。
 とくに、リインフォースUと勇斗は、何も知らなかったことにしている。
 下手に言って、傷に塩を刷り込むようなことを避けるためである。

「おい、来たぞって……何、この状況」

 ピンピンしている割には、全体的にボロボロ状態のゴスペルが顔を出した。
 出したのは良いが、視界の状況が理解できなかった。
 出来たとしても、したくない――一種の拒絶反応である。
 この課では日常になりつつあるらしいと、三大提督の1人ミゼットが公言しているらしい。

「……どれを指しているのですか?」

 何気なく聞くリインフォースU。

「……まず隊長が、何故ケガをしていることから」
「でしたら、まずこの子どもたちのことを話さなければなりません」

 満面の笑顔を浮かべながら、ゴスペルに言う。
 その瞬間――駆け出すゴスペル。
 しかし、それを逃がさんと勇斗が『瞬速』を使って背中におぶさる。
 とどめにリインフォースUから、『凍てつく足枷』を貰う。
 勇斗も巻き込んで。

「この自滅好きが!」
「好き好んで自滅なんぞ選ぶか!? ……自滅に関しては、余り否定はできないが」

 過去に起きた事件と戦いを思い出し――目線を反らしながら言った。
 何度も病院にお世話になったことか。
 何度もスバルとティアナから説教やらなんやら。
 何度も隊長たちにどやされたことか。
 何度も、何度も。
 何度も、何度も、何度も、何度も。

「ああ!? 戻ってきてください、勇斗さん!」

 トランス状態に入った勇斗の胸倉を掴み、揺すりながら叫ぶリインフォースU。
 彼女の気苦労も増えてきたと、小言を耳に挟んだと他の局員から聞くようになった。
 これも勇斗に出会ったからでもあるし、ラギュナス5――現在、出身世界で専門学校を卒業するために帰還中――である彼のせいでもある。
 それは何度目かのさておき。
 解凍して、ゴスペルを食堂に連行した。
 子どもたちは食事を続けている中、任務が与えられた。

「――よは、連絡係をやれ、と? 俺に?」

 3人が同時に頷く。
 当たり前の結果といえば結果である。
 時覇――一応部隊長なので、部隊長権限で処理できる書類を片付ける。
 勇斗――子どもたちの飯作り&買出し。
 リインフォースU――子どもたちの子守。
 で、仮とはいえ、『副』隊長なので、電話と通信応対になる。
 さすがに処理しきれない場合は、時覇が出るが。
 未だに続く嫌がらせの電話から、時空管理局――身内からのお門違いの依頼までかかってくる。
 機動六課自体には、毎度お馴染みの嫉みと嫌がらせの押収。
 とくに酷いのが、ラジュナス分隊長への罵声と脅迫と嫌がらせ。
 郵便でも同じ内容だが、度が過ぎる時は動物の死骸が詰め込まれている時。
 開封した時、興味本位で見ていた機動六課一同――しかも、食事時。
 さすがの時覇も怒り、元ラギュナスのメンバーと連携を取り、差出人を確保。
 社会的地位抹消とまではいかなかったが、二度と馬鹿ができないようにした。
 ついでに、溜まり溜まっていた怒りも噴火。
 今までふざけた内容の手紙や電話、通信などの差出人、電話や通信してきた奴らにも、警告した。
 中でも一番凄いのは、提督一同が集まる会議の時に乱入。
 そして、問答無用でバインド後、一緒に強制退出。
 素直に認める、渋ったり誤魔化したりしたが、最後に認めた提督たちはその場で解放。
 最後まで認めなかった提督たちは……何人かは退職、辺境の地で細々と生活しているらしい。
 それ以外は牢獄の中。
 一応、事の出来事は『ラギュナスの長による乱闘騒ぎ』という名で、管理局の記録に残っている。
 三提督から直々の厳重注意があったが、とくにお咎めなし。
 関わりがある、なしに関係なく、提督たち及び各部署にも通達は行われた。
 それ以来、ほとんど無くなったが、未だに遠回しの内容で着ている。
 が、それほど怒りを覚えないので無視している。
 そんなこともあってか、公式ではないが機動六課の後ろ盾には3人の人物と一つの組織がある。と、認知されている。
 3人の人物――今、テーブルで中華料理を頬張っている子どもたちの中にいる。
 クロノ・ハラオウン――チャーハンを間食中。
 リンディ・ハラオウン――子どもになってリンディ茶。
 カリム・グラシア――エビチリを一心不乱に食べている。
 最後に組織――時空管理局特別極秘部隊、ラギュナス。
 またの名は、第一級次元犯罪組織とも言われていたが、これは時空管理局の隠蔽工作の一つ。
 カリムは、聖王教会のトップクラスの1人。
 よって、時空管理局のトップクラス2人と、聖王教会にラギュナス――これで文句が言えたら、勇気があることと同時に無謀か馬鹿のどちらかである。
 それでも問題は起きたが――また別の話である。

「わかったよ。自業自得として、甘んじて受けましょう――うん、美味い」

 覚悟を決めて宣言し、マーボードーフを食べる。
 まっ、ガキになったこいつらの代わりなら……安いものか、な。
 子どもたちの笑顔を見ながら、そう思うゴスペルであった。





「ごちそうさまでした」

 勇斗が言葉を述べる。

『ごちそうさまでしたぁ!』

 子どもたちも元気良く答える。
 あとの3人も言葉を言う。

「では、お片づけするので、各自まとめてください」

 リインフォースの母性本能を発動させて、指示を出す。
 騒がしい子どもたちも、その指示には従ってくれた。
 大きい皿は重ねていき、ピラミッド型の形が出来上がっていく。
 無茶な重ね方が無い様にし、カートに乗せていく勇斗。
 合間を見て、リインフォースUとリンディにお茶を出す。
 リンディが、リインフォースUの分まで砂糖を入れようとしていたので静止させる。
 それを見て微笑ましく思いつつ、ゴスペルと一緒に食堂を後にする時覇。
 それを見ていたカリムが一言。

「男と男のいけない、あ、そ、び♪」

 もの凄い発言をする5歳児。
 いくらなんでも危険な発言であるし、下手すれば現実に存在する国家からこの部分の修正を求められるかもしれない。
 で、こけた。
 それは盛大にこけた。
 当たり前だがこけた。
 4人だけだけど。
 リインフォースUが一息ついて、お茶――普通の静岡産原産直通の――を飲んでいたので、さらに悲惨なことに。
 子どもたちは、一瞬、なんだと思ったらしく止まったが、関係ないと割り切り遊びを再開した。
 壁や椅子などに捕まって、ヨロヨロと立ち上がる4人。

「あっ、熱いです! 熱いです!」

 お茶の熱さを思い出したように言うリインフォースU。
 立ち上がったのは良いが、再び地面に倒れこみ右へ、左へゴロゴロ転がり始める。
 そりゃ、入れたてのお茶を被ったのだから、熱いに決まっている。
 勇斗は、急いで濡れタオルをリインフォースUに被せる。
 それを掴んだリインフォースUは、上着を脱ぎ捨ててタオルを体に巻く。

「あっ、熱かったですよ……ありがとうでございます」

 息を上げながら、礼を述べる。
 乾いたタオルを2枚渡し、新しい服を取りに行こうとするが、本人に止められる。
 それで勇斗も気がついたが、服は騎士甲冑があるじゃないかと考える。

「じゃあ、俺がこいつらを見ているから、その間に」
「はいです、お願いしますね」

 上着を持って、リインフォースUはゴスペルの足を踏んで食堂を出て行った。
 ちなみに、ワザとではありません。

「――……チビスケ!!」
「ごっ、ごめんなさいです!!」

 廊下に顔を出しながら怒鳴るゴスペルに、全速力で逃げるリインフォースU。
 いつものことなので気にしない。気にしない。
 だが、4人は気がついていなかった。
 これからが――地獄の始まりだと。





「はい、こちら機動六課……それはウチが扱う件じゃないですよ。っと、別の通信が入りましたので」

 何か言っているが、問答無用で回線を切るゴスペル。
 で、次。

「はい、こちら機動六課……しばしお待ちを――隊長! 107回線で通信を!」
「了解!」

 書類作成と処理を一度に複数行いつつ、パネル操作をして回線を回す時覇。

「かわりました……お門違いにも良い所だ。糞でもして寝ろ、こっちは忙しいのだよ」

 お門違いの依頼に問答無用で暴言を吐き、回線を切る。
 再びパネルの上で両手が踊る。

「はい、機動六課! ……はい、チャーシュウメン一つにチャーハン一つ、餃子が二つですね? ありがとうございますって、うちはラーメン屋じゃねぇ!」

 ……間違い電話らしい。
 ノリのより男である。
 缶詰状態覚悟で仕事を始めたが――今日に限って、滅茶苦茶忙しい。
 今の所、間違い電話を装った、嫌がらせ電話――15件。
 お門違いの依頼電話――24件。
 冷やかし――38件。
 3時間以内に来た電話の合計件数――77件。
 1時間に約26件着ていることになる。
 約2分9秒に1件の割合となる。
 いくらなんでも多すぎる。
 おかげで書類整理は中々進まなかったりする。
 ただ奇跡なのが、一度も複数通信が入らなかったこと。
 最近は複数通信が可能になったためか、一度に3件同時通信などという荒業になることがある。
 大体の内容は、嫌がらせだが。
 時たまだが、本当に間違えて電話してくる人がいるが、ときに気にしてはいない。

「この書類――フェイト宛かよ!? しかも、明日まで――無理だ!」

 発狂したくなるほどの書類の量。
 自分の分と各部隊長と副隊長の書類――合わせて7人分の書類を、処理しなければならない。
 書類の生き埋め。
 日本語的には間違いではあるが、何と無く創造は可能なはずである。
 ついでに、時折名指し指定がある――期限付きで。

「ゴスペル! ミゼットばあさんを呼び出せ! ついでにレティ提督も!」

 時覇の何かが切れて、ゴスペルに指示を放つ。

「了解って、ばあさん呼ばわりか? 確か、三提督の一人じゃなかったっけ、あの人?」
「いいのだよ、茶のみ仲間だし。それに、親友でもあるのだし」
「親しき仲にも礼儀あり」
「お前、だけ! には、言われたくは無い台詞だ」
「くっ……」

 自分がしてきた行動を思い出しつつ、反省の色のないまま――むしろ、何のこと? という顔で通信回線を繋いでいく。

≪何か用かしら? 時空管理局特別最高部隊機関ラギュナスの長兼次期元帥の、桐島時覇さん?≫

 皮肉混じりに、自分自身でも気が重くなるほど長い役職名を述べるレティ。

「『長』はともかく、次期元帥はやめてください。その役職には就かないと公言したじゃないですか」

 苦笑しながら言い返す。
 この2人が会えば、初めのやり取りはこんな感じである。
 最近は、はやての様子を報告する程度。っていうか、命令。
 まぁ、実際は時覇の方が地位は上なのだが、基本的には一部隊の分隊長。
 自ら名乗り、ラギュナスの証を掲げない限りは。
 で、息子よりもはやての方を気にしているらしく、後継者にしたいのではないかと最近思う――と、いうより、前から考えていたらしい。

「隊長、コードネームMより通信」
「誰?」

 心当たりはあるが、レティの前なので素でぼけてみる。
 驚く顔が見たいから。
 日ごろの仕返しでもあるのだから。

「と、伝えてくれと言われたので……そのまま繋ぎます」
「おう」

 その答えを聞く前から、すでに回す

≪誰なのよ、Mって? また新しい子?≫

 微笑みながら聞いてくるレティ。
 また面白いことになると考えているだろうが、そうは問屋が卸さない。

≪新しい子じゃなくて、残念でしたね。ロウラン提督≫

 この言葉に、レティは微笑んだまま固まった。
 それもいい具合に。
 おもむろに通信回線を遮断しようとするが、無駄である。
 こちらで通信回線のラインを掌握している故、こちらからの許可が出ない限り、切ることはできない。
 回線が切れないことに焦りを覚えたのか、必死でキーパネルを押す。
 それもう、怒涛の如く。
 それを面白がって見ている時覇とミゼット。
 はっきり言って、たちが悪いと痛感するゴスペル。
 レティに同情はするが、それ以上でもそれ以下でもない。
 仕方なく、代わりに仮副隊長権限で処理できる物はして、できないものは仕分けすることに。
 一応、心の中でレティに合掌しておく。
 今度、愚痴くらい付き合ってあげるかと思うゴスペルであった。





≪……アナタたちという人は……≫

 あはは。と声が重なる2人。
 レティは心底疲れたようなため息をする。
 遊ばれている。
 この言葉が思い浮かぶが、すぐ消した。
 そう思いたくないから。
 だが、それを口にすると、それをネタにして弄られるのは必然。
 かわすのだけで精一杯。
 管理局人事部のやり手の面影は、まったくもって無い。

≪今度、はやてさん辺りでも……≫
「いや、ここは新人ども辺りを――」

 何黒い相談やっているのだ? と、心の中でシンクロするレティとゴスペル。
 この2人がそろうと、ラルゴとレオーネも役立たずと言われるほどの脅威となる。
 しかも、2人とも管理局の最高機関のリーダーなので、始末に終えない。
 本当に、始末に終えない。
 主な被害者――クロノ。
 以上。
 理由――弄り易いから。
 ついでに、クロノの奥さん――エイミィから、ほどほどならよしと許可を貰い済み。
 万が一のケアと最悪のケースを考慮しているので、慰謝料の準備も万全。
 最悪である。
 最低である。
 しかし――笑いのネタには持ってこいの話である。
 とあるライトノベルにこう書かれていた。
『他人の不幸は蜜の味、他人の幸福は砒素の味』
 と、学生が運動会のスローガンとして、提出したモノ。
 しかも、砒素に味はないという反省会を開いたそうだ。
 そうだ。なのかは、そこの部分は語られていないからである。
 それくらい、笑いのためならばなんでもするが、ほどほどをモットーにしている。
 最後は、休暇や強制視察と名ばかりの家族旅行をさせている。
 艦長になってからは、全くと言ってよいほど休みが取れない。
 有給も宙ぶらりんのまま、消えていっているのが現状であるが故である。
 ミゼットはミゼットで、議題の口論。
 時覇は時覇で、極秘任務から機動六課の隊舎のトイレ掃除まで。
 互いに溜まるものは溜まる。
 ストレス発散である。
 で、溜まりきった、行き場の無いストレスは、家族と共に休暇で晴らす。
 そんなサークルが、ここ最近になって完成しつつあった。
 そろそろ別の人間が餌食になるのではないかと、ラルゴとレオーネは影で囁いているとか。
 だが、有給を消化させないと、人事部がうるさくて敵わないらしい。
 一応、機動六課の後継人は、クロノ、リンディ、カリムの三人。
 だが、極秘として、最高責任者は時覇となっている。
 よって、カリムはともかく、クロノとリンディ――とくにクロノの有給に関しては耳にたこである。

≪で、今日はどんな頼みごとなの?≫

 きりが無いと見えたらしく、レティが先陣を切った。

「ああ、実は3日間ばかし、六課は使えないから」

 はぁ? と、レティとミゼットが声を上げる。
 それはそうだ。
 いきなり使い物にならなくなったといえば、誰でも疑問の声を上げる。

「実は……」

 今までの出来事を説明。
 で、ミゼットから一言。

≪私も使っていいかし――≫
「駄目に決まっているだろ!」
≪駄目に決まっているでしょうが!≫

 ミゼットの発言を看破する。
 2人同時に。
 それはそうだ、三提督の一人なのだから。
 正式な休暇を取ってもらってからでないと、管理局全体に支障がきたしかねない。

≪残念で――≫

 そこで通信は切れた。
 時覇が自分で遮断した。
 ついでにブロックをかけた。

≪その行動力には、敬意を表すわ≫
「たかが5分程度の時間稼ぎですよ――簡単に言えば、名指しの書類の期限を、全て三日遅らせてほしいのですよ」
≪たった、それだけでいいのね?≫
「あとは我々が……終わったあとは強制休暇を」
≪…………いいわ。ミゼット提督には、アナタの方で≫
「判りました、では」
≪ええ、胃を大切に≫

 そこで通信は終わる。
 何だ、イマノコトバハ?
 そう思いつつ、胃の辺りを撫でる時覇。
 俺も大丈夫だろうかと、同じところを撫でるゴスペルであった。



 後片付けを済ませ、洗濯と掃除が終わった勇斗は廊下を歩いていた。
 子どもたちは、リインフォースUに任せっぱなしだったので、少し気持ちが焦っていた。
 あの中では、普段は年下なのだが、現在は一番年上になった。
 しかも、ピタゴラスイッチで隊長を吹き飛ばしたのだから。
 下手をすれば、大惨事になると思うと――いつの間にか走っていた。
 『瞬足』を使えばいいことなのだが、戦闘以外では使用禁止を貰っている。
 担当医から。
 訓練時でも、3回までしか使えない。
 一種の限定封印みたいなものであると、考えたほうが早い。
 階段は普通に上る。
 なるべく膝の負担を減らすためである。
 上がりきったら、歩き――早歩き――走り出す。
 そして、目的に場所に顔を出したとき、勇斗から笑みがこぼれた。
 散らかっているが、皆仲良くお昼寝している。
 すぐ医務室へ行き、毛布とシーツを強奪。
 戻ってきたら、散らかっている物は簡単にまとめ、端において置く。
 床にシーツを引き、1人1人起こさないように持ち上げていく。
 最後に毛布を掛けてやる。
 熱くもなく、寒くもなく室内を調節する。

「今度、風鈴でも買ってくるか」

 窓を開けながら呟く。
 もう7月。
 本格的な夏が、あと少しでやってくる。
 そう考えていると、ふと過ぎる。
 彼女たちの休暇みたいなものなのか? と。
 可でも不可でもない考え。
 ただの創造、空想、考え。
 だけど――そう考えたかった。
 世界が与えた、彼女たちの休暇であることを。

「晩御飯……何がいいかな……冷たいもの、いや――それは明日の朝だな」

 どこかで風鈴がなる音が……風に運ばれてきた。





























二日目に続く。



















































恒例のリョウ様の(強制)感想コーナー(本家は私だ!<主張ってか、事実です。


流石にキャラが多いと、物語も賑やかに進んでいきますな。
リイン大活躍に頬が緩んで仕方ありません)ぇー
機動六課にスポンサーの皆さんも加えて、事後の展開が激しく気になります。

後今まで確証がなかったので私も書かなかったのですが、ミッドチルダに四季ってあるんですかね?
調べてみたいところです。








あとがき
 いい感じにまとまったので、ここで一旦終了。
 ついでに読みやすくするように、セリフと地の文の間を空けてみました。
 多少、今までより読みやすくなったかと。
 次は二日目突入。
 だけど、三日目が……遊園地ネタを考えていたが、また事故(2007/6/25現在)が発生。
 外国だが、日本も日本でふざけるなと言いたい。
 そんなにコストが大事か?
 まずは人様の命を考えろ。
 苦しいのは判る。という、安易な発言はしない。
 考えられないのなら、やめろ。
 これしか言わないし、言えない。

 ……愚痴になった。

 で、二日目も皆さん大暴れ。
 昼飯&アドバイスを貰いに、ある場所へ……。
 そこでも、ひっちゃかめっちゃかなことに。(汗
 では、二日目でお会いしましょう!
 最後に、『リョウ様の(強制)感想コーナー』は、使っても良いですが、必ず声は掛けてください。
 著作権の侵害となりますゆえ。
 勝手に使われていた時は、何か腹がたったもので。(怒






制作開始:2007/6/6〜2007/6/25

打ち込み日:2007/6/25
公開日:2007/6/25
修正日:








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に下さると嬉しいです。