ある時代のある国に、小さな小さな孤児院があった。
それは真っ赤なレンガで造られた二階建ての建物で、屋根には煤で黒くなった煙突が突き出ている。
しかし壁のレンガは所々欠け、一年中蔦が絡み付いている年季の入った建物で、
鍛え上げられた大男がハンマーでも持って振り回せば、数時間足らずで崩壊させられるようなものだった。
そんな孤児院に16、7歳程の少女が一人と8,9歳程の物静かな少年が一人、
そして3〜12歳ごろの他の孤児数名がひっそりと暮らしていた。
少女と少年は姉弟で、三年前にこの孤児院に来て以来ここに住み続けていた。
最年長であり唯一労働が出来る少女はこの孤児院の経営に己を捧げ、
少年はまだ幼なかったがいつも立派に少女を手助けしていた。
勿論他の子供達も皆、こぞって少女に協力していた。
いるのはまだ年端も無い孤児ばかりで、孤児など一人もいなかった。
そしてその子供だけの孤児院は、貧しかった。
貧困という壁が、常に孤児達を遮ろうとしていた。
彼らはそれに怯えながらも、皆懸命にその壁を登っていった。
壁から落ちれば、待つのは孤独、死…彼らは常にそれらと隣り合わせの日々だった。
しかし、それでも孤児達は皆幸せだった。
『母』であった少女は孤児達を優しく、時には厳しく、しかし常に暖かく見守った。
孤児達は『母』に見守られ、毎日十分な食事が出来なかったがそれでも幸せに暮らしていた。
そこにいるだけで、皆笑顔だった。
辛い毎日だったが、姉弟も他の孤児達もそんな事は微塵にも感じさせないような笑顔。
共に寝て、共に食事をし、共に働き、共に遊ぶ…その繰り返しが、孤児達にとって何よりの宝だった。
しかし、その幸せは長くはなかった。
貧しかった孤児院はやがて資金が尽き、経営が出来なくなった。
国に払う税を納めることが出来なかったのだ。
そのために慣れ親しんだ孤児院をを手放す他は無かった。
もう既にその土地は、他人の所有物になっていた。
どれだけ足掻いても立ちはだかる貧困という名の壁は高く、とうとう壁は孤児達を幸福から突き落とし、隔離した。
この事に孤児達は己の居場所を失う事に対し不安を抱き、慟哭した。
いつか孤児院は別の誰かに壊され、その姿を変えてしまうだろう。
そして彼らは再び街中の残飯を漁り道行く人々に恩恵を求めるだけの、乞食に成る他は無いだろう。
もはや、彼等には絶望しか残ってはいなかった。
そんな中、彼らに奇跡が舞い降りた。とは言え、偽りの奇跡ではあるが。
孤児院撤去の前日、少女は彼らに優しく語った。
「大丈夫。もうみんな食べる物にも住む所にも困らないよ。
貴方達を養子にしてくれる人達がいたから、これからはその人達にお世話になるの。
でももう皆一緒に暮らす事は出来ないしここでお別れだけど、ここよりはずっといい暮らしが出来るからね。」
それを聞いた孤児達は、いっそう嘆いた。
それは皆一緒だからこそ苦しい生活にも耐えてきたのに、もう会えない事に悲しんだ。
そして何より彼らは『母』に会えなくなる事が一番悲しかった。
そんな彼らに、少女はその優しい表情を崩すことなく、語り続けた。
「確かに向こうで辛い事が待っているかもしれないね…
だけどここで育ってきた子に弱い子なんて一人もいないから、みんな私がいなくても絶対大丈夫だよ。
貴方達が生きる事を諦めなければ、幸せになれるからね。
それに、」
少女は微笑んで、しかし悲しみを帯びた表情で続けた。
「私達がここで築きあげた絆は、どんなに遠く離れていても消えないんだから。
私、貴方達の事、絶対に忘れない。
この孤児院の思い出も、忘れない。
忘れないん、だから………」
そして少女は泣き出した。
とめどなく溢れる涙はいくら止めようと思っても少女に止められはしなかった。
突然泣き出した少女に困惑する中、少年は黙ったまま少女に抱きしめた。
少年も自分の唯一の肉親である少女とは別れたくはなかった。
しかし、別れという現実を止める事は既に不可能であった。
貧困という名の壁は崩れたが、代わりに離別という名の壁が彼ら一人一人を区切り、
ある者は孤独、ある者は幸福、ある者は軽蔑、ある者は平穏…それぞれの部屋に閉じ込めたのだった。
その後、孤児達は別の道を歩んでいった。
その中で少年は、とある貴族の家に引き取られ、特に問題も無く成長していった。
しかし、少年は成長するに従って疑問に思う事が出てきた。
自分達を引き取ったのは、殆どが貴族であった。しかも養子として。
ではなぜ全く金も無い自分達全員を、貴族なんかが引き取る気になったのだろうか?
十を超える数の孤児を
しかも自分に至っては現在、実子がいる貴族の養子だ。
当時の少女にそれほど多くの親しい貴族の知り合いなどいるはずもないというのに。
一体、彼女はどうやって自分達全員を養子に出せたのか…
やがて、少年は離れ離れになった少女を探し始めた。
少女にその疑問を聞くためでもあり、ただ単に一目会いたいからでもあった。
勿論、他の孤児達の安否も心配であったため、それと同時に彼らの行方も捜した。
養子の身であるため表立った行動は出来なかったが、
幸い少年の生活環境には情報源になりうる存在が多かったので捜索自体に思いのほか苦労はしなかった。
他の孤児達の現状は、悲惨なものだった。
中には幸福を掴んだ者もいたが、殆どの孤児達は不幸としか言いようの無い者ばかりであった。
過労による死、精神の衰弱、奴隷化……
そんな中、ついに少年は姉であり、『母』であった少女を発見した。
しかし既に少女は
あとがき
新しく一次創作を始めてみました。
「それじゃあ『We are still alive』はどうするんのさ?」ということですが…
私にも分かりません。(何
消えるかもしれないし、また書き直すかもしれないし、そのまま続けるかもしれません。
とりあえず、今は休止・保留という形で。読んでくれてる方達には申し訳ないッス。
ジャンルはCLAMPのマンガ、『XXXHOL@C』みたいな感じになります。
ミステリー、になるかな? 自分でもよく分かりません。 多分そうです。
ちなみに世界観は…架空の中世ヨーロッパになりますね。
魔法使いや魔女と呼ばれる人達が表舞台から去ってすぐの時代設定です。
それに貴族制度と機械・近代兵器が少々と日本の文化が少々加わった感じの世界。
世界観についてはまた作中で書きますが、この零話は貴族制度がある世界という程度に覚えていただければ大丈夫です。
詳しい設定は長くなりそうなので省略…ということもありますが設定から話を読まれると困りますから今はカット。
主要キャラも出てませんしねぇ。
さて、この第一章零話はこの物語そのもののプロローグではなく、第一章のプロローグとなります。
本編はこんなにお固い雰囲気にはなりません。
っていうかこの調子で書くのは私が嫌ですから。(オイ
それでは、また第一話で。
感想、ご意見お待ちしております。