視点変更:祐一

もう少しくっついてくれてもよかったんだが。実に残念。

スタイルのいい女の子に引っ付かれるなんて滅多に出来ない体験だからな。

まあ、一時間近く体験出来たから上出来かな。

フッ。葉月が俺を振り回す?十年早いわ!


「ところで祐一さん」

「はい、なんでしょう?」

「声に出てますよ」

「………すみません、俺最低でした。葉月には内緒で」
「ふふ、了承」


今俺はギルドの奥の部屋で、秋子さんとテーブル越しに向かいあっている。

それにしても秋子さんって綺麗だな。とてもギルドの主とは思えない。


「とりあえず、お久しぶりです。祐一さん」


秋子さんと俺との関係は案内の途中で聞いていた。

しかし記憶の無い俺は七年前の秋子さんのことを覚えていない。

七年前の秋子さんは、、、、、、、、、、だがな。


「お久しぶりです秋子さん、約二ヶ月ぶりくらいですかね」



第七話 最強の主婦、危うし。




「どうぞ」


どうも、といい俺は秋子さんから本日二度目のコーヒーを受け取る。

今俺がいるのは中央ギルドの居住区、水瀬家の客間だ。


「二ヶ月…もうそんなに経つのですね…」

「あの時は状況が状況ですから、お互いあまり話もしませんでしたね。
  『朱の剣』六番、『悪夢の指導者ミズ・ナイトメア』の水瀬秋子さん」


秋子さんは目を見開き、非常に驚いた顔をしていた。

それもそうだろう、この肩書きを知るまでには結構苦労したからな。

それほどこの肩書きは知られていないのだ。



 『朱の剣』

スノーフォート最強とされる騎士団で団員は13名。
零番が一番強く、以下一、二、三……の順に弱くなる。しかし一番下の十二番でさえランクSの上位クラスの戦闘力を誇る。普段は召集がかかるまでスノーフォート領内の各地域に散らばり、各自での生活を送っている。
各団員にある特殊な呼び名があるのが特徴だ



「……驚きましたね。どなたから聞きましたか?」

「それは秘密です。向こうから秘密にしてくれって頼まれましたので」

「…では、どうして調べる気になったのですか?あの時は名前しか言ってませんよね?」

「あの大きさの『ゲート』の封鎖なんて、上級クラスのハンターじゃなきゃやれませんよ」


秋子さんに会った『あの時』とは半年前、俺が偶然『ランダムゲート』発生現場のすぐ傍に居合わせた時だった。






視点変更:秋子


「あらあら、どうしましょうか」


ここはカノンから遠く離れた地方の、とある村だった所。

『だった所』というのは数日前、突如として異界同士を繋ぐ『ランダムゲート』が発生。

『ゲート』から出てきたモンスターにより、村人は全員殺され、そこは『村』ではなくなりました。


「流石にこの数…辛いですね、あなた」

「そうだねぇ、僕としてはせっかく秋子が来てくれたんだから、もう少しゆっくりしたいな。
  そうしたらもっと秋子と一緒に居られるのにね」


と私の背中越しに答えたのは夫の雹羽ひょううさん。

白く長い髪が特徴で、現在はこの近くの町に留まってそこのギルドの運営を任されています。

彼も『朱の剣』五番で、『冷界到来アイスエイジ』と呼ばれているほどの実力者です。

久しぶりに夫の様子を見に来たところ、この事件に巻き込まれてしまったわけですが…

スノーフォート最強と謳われる私達がなぜこうも弱気なのか。

それは私達二人を取り囲むおびただしい量で増え続ける中型のドラゴン型モンスター、現在その数約5,60程。

そして一匹の、こちらも巨大なドラゴンの亜種と思われるモンスターが原因でした。

どのモンスターもこの世界では決して見ることが出来ないモノばかりです。

『ゲート』から生み出されるモンスターは大抵新種、珍種ですから、当然と言えば当然でしょう。


「こんな時、あの人ならあまりの珍しさに踊りだしちゃいそうだね。あの『博士』ならさ」

「うふふ、そうね。帰ったら自慢でもしましょうか」


それでもこの人は、どんな危機的状況でも自分のペースを貫く人ですから、私も安心できます。

…そこに惚れちゃったんですけどね。


「…それじゃ君は大きいのとその周り担当、僕はその他大勢の雑魚担当。いいね?」

「分かりました。あなた、御無事で」

「君もね」


背中を合わせたまま、私達二人は駆け出しました。


私が相手をするその巨大なドラゴンは六枚の翼を持ち、翼の間には禍々しく尖った、ヒレと思われるものが並んでいる。

頭には二本の堂々たる角が生えた、飛行・二足歩行タイプのドラゴンです。

一方の中型ドラゴン型モンスターは、大型ドラゴンと同じ外見でしたが、翼はありませんでした。

もしかしたら大型ドラゴンは親なのかもしれませんね。


断罪の流星群スターダスト エクセキューション!」


私は走りながら、あらかじめ唱えておいた白魔術を解き放つ。

とたんに私の周辺に10個程の数の、拳大の大きさの光球が生まれる。

私の異変に気付いた周りの5,6匹のドラゴン達が襲い掛かってきましたが────既に遅い。

私はドラゴンの手前で立ち止まり、光球に命令する。


「───行きなさい!」


その命令を合図に、今まで私の周辺に漂っていただけの光球は襲い掛かってきた中型ドラゴンのみならず、周りの者にも飛んでいく。

一球につき一匹、目にも留まらぬ速さで飛んでいったそれは各々の頭部に沈んでいきました。

光球の当たった者達はそれと同時に動きを止め、呆けたような仕草を見せるとすぐ、それらは自らの手で自分を傷つけ始めた。

自らの腹を引き裂く者、仲間と同士討ちを始める者──────それらの吹き出す血と断末魔の叫びはまさに凄惨を極めていました。

この魔術は白魔術の中でもかなり攻撃的な部類に入る魔術で、相手の精神に直接介入し、相手の頭に仮想現実を強制的に作り出す私のオリジナルの魔術。

威力が上がれば仮想現実でのダメージを本物の現実世界にまで持ち越したり、仮想現実の内容によっては精神破壊も可能になります。


「…こうなりたくなければ下がっていなさい。」


私は威嚇の為に先程の魔術を再び唱え、殺気を辺りに巻く。

とたんに大型ドラゴンを囲む中型ドラゴン達はその包囲を解き、変わりに私を取り囲むように展開していった。

その間にゆっくりと大型ドラゴンに歩み寄る私。


………なかなかヒトも侮れんな…脆弱な分際でよくここまでやれたものだ…


不意に、そのドラゴンが喋りだす。

モンスターにも知性があるものは多いので、そんなことは気にしていませんが。


「あらあら、その脆弱な分際二人にここまで手こずる貴方達は一体どんな存在なのでしょうね?」


背後では雹羽さんが順調に敵を倒しているのが分かります。

あの人の技はけっこう派手ですからね。

こいつらと同類にされては困るな……では、この俺『イグゼ』が相手をしてやろうか…

「もともとそのつもりですよ……それでは、さようなら。断罪の流星群スターダスト エクセキューション!」


イグゼと名乗ったドラゴンに全ての光球を放つ。

だが、イグゼはそこから急上昇し、光球を回避したかと思うと私に向けて炎のブレスを吐く。

それを横に飛んでかわしますが、炎はなおも私を追いかけてくる。

逃げようとしてもそこには先程から取り囲んでいたドラゴン達が待ち構てえます。

しかし、構わずに突っ込み、腰に差している短刀を取り出し、ドラゴン達の迎撃を短刀で捌きながら、炎がドラゴン達に当たるように走り抜ける。


───ッチィ!


私の狙いが分かるや否や相手はブレスを吐くのを止め、私に突っ込んできます。

しかし、それは私にとっては好都合。


「甘いですね。断罪の彗星コメット エクセキューション!」


これも私のオリジナルの白魔術。断罪の流星群スターダスト エクセキューションの光球を一つにまとめ、相手により速く叩き込む魔術です。

これをくらった者はどんなに精神力が強くとも必ず術にかかりますが…そう簡単にはいきませんね。

イグゼはこれを掠るだけに留めて避け、勢いは衰えずに直も私に突っ込んできます。そして、


ヌンッ!


接近すると同時に私の体の三分の二程もある手の爪で引き裂こうとしますが─────


「どこを狙っておいでですか?」

!!!!


その爪は私の立っている位置とは3人分ずれた位置に振り下ろされました。

それもそのはず、断罪の彗星コメット エクセキューションを始めとする私の呪文は直撃とはいかなくても少しでも触れればあらゆる神経を僅かですが狂わせる効果を持たせてありますから。

イグゼが戸惑っている間に私は彼の頭に跳び登り、止めを刺すために短刀を振り下ろそうと…



ガアァァアアァァアアッ!!!!!



突然のイグゼが放つ咆哮に思わず私はおろか、雹羽さんやドラゴン達の動きが止まります。

その隙にイグゼは私を手で掴み、地面に叩きつけました。

あまりに突然の事だったので私はロクな対処ができずに地面と衝突しました。

かろうじで直前に対物理防御の魔術を唱える事に成功しましたが…やはりダメージは大きかったようです。


「く………う…」

油断したな、人間。さようなら、だ。


イグゼはこの隙を逃さず、止めをさそうと私に爪を突き立てようと手を振り上げます。

私はダメージが残っていましたし、雹羽さんは先程の咆哮に気をとられたうえに、私から離れた位置にいたので、魔術による援護も不可能でしたから、さすがの私もこの時ばかりは覚悟を決めました。

ところが、その爪は振り落とされる事はありませんでした。

何故なら。

ヌ…グゥ…アァァ……おのれ…だ、れだ……


いつの間にか、イグゼの肩から先は切り落とされていました。

切られてから少し遅れて傷口から血が吹き出す。

見事としか言いようのない切断面で、雹羽さんの攻撃ではない事が分かりました。

あの人の攻撃には強力な斬撃技がありませんから。

では、一体誰が────


「名乗っても仕方ないだろ。お前、死ぬんだから」


苦しみながらも体を起こすと、そこには青年が一人、刀を手に立っていました。

全身黒ずくめの怪しい姿でしたがそんな事は気になりませんでした。

なぜなら、その青年にはどこか懐かしい感じがしてなりませんでしたから。


ヌ…ヌオオ……


イグゼは青年に接近しようとしますが、青年は刀を納めると、つまらなそうに言い放ちました。



「間違えた」



ずる、ずるり。


その音はイグゼのみならず、周りのドラゴン達からも聞こえてきます。そして。



「もう死んでるから、だったな」



イグゼ達は、全員同時に全身から血を吹き、体のあちこちを切断され絶命しました。

何も分からない私と雹羽さん、そしてイグゼ達を倒した青年を残して、戦いは終わったのです。





視点変更:再び祐一



「あの時は、助かりました。貴方がいなければ、私はここにいませんでした」

「偶々、ですよ」


あの後、俺が秋子さんが回復するまでの時間稼ぎをして、雹羽さんが『ゲート』を閉じて事件は終わったんだったな。

そしてお互いに軽い自己紹介をした後に俺はすぐ逃げたんだったな。

道を間違えたせいで依頼の待ち合わせに遅刻しそうだったからな。

これは黙っておこう。


「それで、その時のお礼が言いたくて祐一さんを呼んだのが理由の一つ。
  もう一つは、これが一番の理由ですけれど、行方不明になった甥と同姓同名、かつ外見が似ていたからです。」

「……それだけですか?」


「…あとは祐一さんの強さを見込んでお願いがあります。これは祐一さんのランクよりもかなり上の仕事内容ですが「だったらイヤです。めんどいです」あらあら」


俺のランクは現在D。

ハンターと認められるギリギリのライン。

俺がハンターのライセンスをとったのは身分証明の時の手間が省けるからだ。


「それでは祐一さんはこれからどうなさいますか?」

「もともとは観光…でしたが、とりあえずは『過去の俺』に関わった人達に会っておきたいですね。
  一通りすむまではここにいますよ」

「それなら、ここに泊まっていきませんか?これがこの依頼の報酬の一つです。この依頼は長期間ですからね。
  なんだかんだ言って、毎日の宿は高いでしょう?」

「うっ」


これだけでも魅力的な相談だが…


「それに、ここにいれば祐一さんの知り合いに会う機会も多くなりますよ?」

「…というと、俺はこの家の人達に関わりが深い、と?」

「ええ、そうです」


むぅ…どうしたものか……


「俺のような身分も分からない旅人がいきなり泊まったら迷惑でしょう?」

「祐一さんなら大丈夫ですよ。葉月ちゃんの反応を見れば分かります」


即答された。そんなんでいいのかギルドマスター。


「い、依頼の報酬としては不適当な…」

「勿論、報酬金もきちんと用意しますが?それに、私と祐一さんが報酬と認めたものは、何だって報酬になりますよ」


これまた即答、っていうか俺、言い終わってないよ…


「さあ、どうしますか?」


秋子さんの目が「拒否権は、無いですよ?」と言っているような気がする…

否。絶対言っている!


「えーと、依頼内容は?それ次第です」

「総合養成学園『氷雨』の調査及び盗賊団『ディアボロス』の壊滅。この二つを同時にやってもらいます」

「──!詳しく聞かせて下さい」

「調査のほうは、祐一さんを学生に編入「その仕事、引き受けましょう」あら?」


以前会ったとある友人曰く、学校というやつは人生一度は経験しておくといいらしい。

以前からなってみたかったんだよな、学生ってやつに。

身分が無いから今まで学校に入れなかったし、自分からは言いにくかったからな。


「…いえ、失礼しました。続きをお願いします」

「それじゃあ最初から話しますね。祐一さんには学園の『ハンター学科』に編入してもらいます。
  最近、ここの生徒が行方不明になる事件が多発しているため、それについて調査して下さい。
  もう一つのほうは、先程言いました『ディアボロス』の壊滅です。最近こちらの方で出没証言が発生しています。こちらは他の方に頼んで私の方で調査を進めておきますから、相手が出現次第、祐一さんに手伝ってもらいます…以上です」

「…分かりました。しかし、本当に俺なんかがここに泊まってもいいんですか?」

「構いませんよ。私としても嬉しい事です。相沢家の事情もあの子から聞きましたね?あの子も寂しがってましたから」


葉月曰く、現在相沢家は俺を除いて二人、葉月とその兄の聖人まさとさんしかいないらしい。

両親は俺と同じく行方不明、兄は他国へ出張中とのこと。

俺の本当の両親か…名前どころか顔すら覚えていない自分が情けなくなるな…

まあ、これはこの場で考える事ではない。


「そこまで言うんだったら、暫くお邪魔させてもらいますね」

「はい。────祐一さん」


秋子さんは両手で俺の手を握り、この一言を言った。

その一言は今の俺にとって無縁のはずの言葉だった。




「おかえりなさい」



────帰ってきた実感はイマイチ沸かない。

けど。


「……………ただいま」


いつ言っても、この言葉は悪いもんじゃない。





あとがけ。


bou 「書き方を大幅に変更、かつやっとファンタジーっぽいのが書けた、bouです。
    今回のゲストは、秋子さんというらぶりぃなお方を妻にした、今回イマイチ影の薄かった雹羽さん、どうぞ」

雹羽 「どうも〜今度いつ出番があるか分かんない、水瀬雹羽です」

bou 「う゛。 い、今からちゃんと出番作るから…ね?だからこっちに冷気を当てるのは止めて頂けると…(現在零下5度)」

雹羽 「へぇ………今だけなんだ?」

bou 「こ、今後もちゃんと出番作りますから…(現在零下20度)」

雹羽 「………そっか、それならいいんだよ」

bou 「…ホッ。(現在摂氏25度)
    さて気を取り直して、今回のテーマは『白魔術、黒魔術っていうけど、結局これって何なのさ?』です。
    それでは雹羽さん、出番です」

雹羽 「なんか押し付けられたような気がするけど…ま、いっか。
    この二つを簡単に説明すると、黒魔術は主に自然現象への干渉を主としているんだよ。
    一方、白魔術は生命体そのものへの干渉が基本となる。
    基本は黒魔術は攻撃、白魔術は回復が目的とされているけど…これは使い方次第だね。
    例として、秋子は白魔術を攻撃法として戦う珍しいタイプだよ」

bou 「白魔術の効果量は術者の魔力によって決まってるから戦闘には向かない。
    秋子さんの魔力はそれだけ凄いって事。
    但し、白魔術は生命体以外には全く効かないのが難点。これは黒魔術の分野になる。」

雹羽 「黒魔術は魔力が低くても十分殺傷能力は高いからねぇ。使う人は多いんだよ…と、これぐらいかな?」

bou 「ですな。おっとそろそろお時間。これにて一発キャラ、雹羽さんの講義を……」

雹羽 「デイアフタートゥモローって映画、見たことあるかい?

bou 「最近見たけど…って、このパターンまさ(現在零下105度)」

雹羽 「うんうん、よく凍ってるね。それじゃあ、これからも応援よろしくね〜それでは〜」




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