「で、俺達は三話目にしてやっと外に出れた所だ。」
「誰に向かって喋ってるのよ、相沢君。しかも意味不明よ。」
「もちろん読者に決まっているではないか、かおりんよ。」
「かおりんは止めて。」
今私たちが居るのは魔封窟の入口を出てすぐの所。ここの入口周辺は高さ20メートルあろうかと思われる針葉樹の森に囲まれていて、更に見渡す限りの銀世界と言うべきか、あたり一面に雪が積もっている。この雪国『スノーフォート』では極当たり前ではあるけど。天気は快晴。昨日(だと思う)の行きに降っていた雪は止んでいた
それにしても今思えば、我ながら無謀な挑戦をしたわ。確かに学園内では自分では優秀な方だとは思っているけど、学生の身分でここに来て、まさか五体満足でここから出られるとは思わなかった。
「だが俺的には結構ぷりちーでナイスなあだ名だと思うぞ。」
そう言うと相沢君は私に振り向く。
「そう思うんだったら相沢君、あなたセンス無、い……」
「? どうした?」
初めてはっきりとした彼の顔を見た。今までは暗くてよく分からなかったけど、ここは屋外、日の光が在るからきっちり見えるわけで。
「………あ、あなたって結構カッコイイ……とか言われない?」
黒髪黒目、髪は目に少しかかる程度。顔は整っていて、いわゆる中性的な顔。何もしなければ格好良いし、女装すればおそらく綺麗。もっと行動がマトモなら言う事無しだけど…
「いや全然。俺ってもてる要素あるはずなんだが……って、あっちに何か居るぞ?…あー…馬が二匹と人が二人だな。」
相沢君が前方の何かに気付いたみたい。確かに誰かが随分遠くに居るわね。
? 馬と人?
もしかして!
「……ーい! 香里ちゃーん!」
「この声!ミックさん!?」
「知り合いか…って、香里ぃ!置いてくなぁ!」
私はすぐさま駆け出した。
二人の所に。
ミケランジェロおじさん。
三坂家ではミックさんと呼んでいる。年は50代後半程、近くの馬屋の主で、私たち一家とは家族ぐるみの付き合いだ。髪はもう白く、しわも多少出ている。服は紺のズボンに黄のジャンバーを着ている。
「ミックさん!何故ここが!?あと、もう一人いるみたいだけど……っ!」
ミックさんの所に来るや、私は言葉を失った。
そこには、
「お姉ちゃん……」
家で寝ている筈の栞がいた。もうあまり動けない筈なのに、なんで………
「栞ちゃんに、ここに連れてってくれと頼まれてな。どうしても行きたいと言って…」
ミックさんは申し訳無さそうに呟く。驚きで私が戸惑っていると、栞は私に近づいて来た。栞は私があげたストールに白のセーター、スカートをはいた、いつも町に出かける時と同じ格好をしていた。
「お姉ちゃん。もう、いいです。苦しむのは私だけでいいんです。お姉ちゃんまで苦しむことはありません。」
「……」
「私は……私は病気なんて治らなくてもいい!今までのように無視されてもいい!
…ただ…お父さんがいて、お母さんがいて、ミックさん達がいて……お姉ちゃんがいれば、それでいいです!」
「し、おり……」
私は栞をそっと抱きしめる。
「ごめん、ごめんね……栞。」
「お、お姉ちゃん?」
「今まで、本当にごめんなさい。もう嫌われていると思った。この方法しか、許して貰えないと思ったから、だから………!」
「……もう、いいんです。あり、が、と………」
腕の中にいる栞の力が抜けていく。
「? 栞?しおり!?」
栞は、力なくその場に崩れ落ちた。息は荒く、口からは血が流れ出していた。
「!!イカン!もう限界「待て!動かすな!」!?」いつの間にか追いついていた相沢君が叫ぶ。彼は栞の所に走り寄ると、栞を慎重に抱きかかえる。
何が起こってるの?
何で私に血が付いてる?
私は何をした?
今、相沢君が栞を抱きかかえているのは理解出来る。
じゃあ栞は何で倒れているの?
何で?
「香里。ちょっと。
すみませんが、あなたはそのままで。」
「「……」」
「覚悟は………いいな?」
「「!!」」
私は、栞の近くに寄り、顔を近づける。
「お、姉、ちゃん……」
「栞…」
栞の声はあまりにも弱弱しく、息も整ってはいない。
「私、今、本当に、幸せ、です。
お姉、ちゃん、とも、仲直り、出来ました。
かっこいい、王子、様にも、会え、ました。」
栞は一瞬相沢君を見る。その顔は、今から死を迎える人とは思えない程の笑顔だった。すぐ私に向き直る。
「………また、皆で、どこかに、出かけたい、です……」
「……ええ、約束よ」
涙が出て栞が霞んで見える。まだ、まだ涙は見せられない。もっと、栞の顔が見たい。
「はい……約束…………で、す。」
そう言うと、栞は力を抜き、目を閉じた。
「栞?…栞!」
自然と目から涙が零れ落ちる。栞を起こそうと手をかけようとしたが、ミックさんに止められた。
「もう…そっとしといてやろう。」
栞の顔はとても幸せな笑みを浮かべている。
まるで死んだとは思えない程の……
やっと栞と話が出来て、仲が直ったと思ったら……!
こんな結末で納得しろって言うの?
もし運命の神様がいたら、奇跡を起こせる神様がいたら。
きっと私はこう願う。
「……そろそろ…」「…ですね。なあ、香里………悪いけど、ちょっといいか?」
『もう一度、栞と話がしたい。』と。
「もう一度、栞と話がしたいか?」
「………………」
私は黙って頷いた。とてもじゃないけど、声なんて出せない。
「じゃあ、もう一度と言わずこれからずっと話をしたいか?」
「…当たり………前…じゃない。」
「そうか。じゃあ生き返らせるか。」
「おい、栞、もういいぞ。
………をい!寝るな!マジで死ぬぞ!」
そして、相沢君は一発、死んだはずの栞の頭を殴り、
「!!!!!!!」
「まったく、洒落にならんぞ…」
栞は、起き上がった。頭を抑えて、目に涙を浮かべた苦痛の表情で。
「えうぅぅぅ〜〜〜〜〜〜!!祐一さん!酷いですっ!すっごくいい夢だったのに!!」
「ほう、俺が折角助けた命を、その『すっごくいい夢』とやらであっさり捨てるか。」
「え、え〜と…とにかく!乙女の頭をど突くなんて、人類の敵ですっ!全国の女の子に謝って下さい!」
「自業自得だ。お前が悪い。」
「おおーい、二人とも…」
「私を傷物にした責任、取ってください!!」
「誤解を招くような発言は止めい。」
「じゃあ、私を殺し…」
「ストップ。お前じゃ色気が足らんから、それはNGだ。」
「そんな事言う人嫌いです!」
「香里ちゃんの事を忘れとらんか?」
「「あ゛」」
「香里ちゃん、固まったままなんだが。」
相沢君と、死んだはずの栞は、顔を見合わせた後、
「忘れてたな。」「忘れてましたね。」
本当に今思い出したかのような顔で、こう言った。
つまり、相沢君と栞、そしてミックさんは、私が会う前に、出会っていた。栞が私を探して町を彷徨っていたところ、栞の持病が悪化、そこを偶然通りかかった相沢君が助けた。どうやら私の傷を治したアレを飲ませたらしい。そのまま栞は完治。その後、栞が相沢君に私の捜索を依頼したみたい。
ちなみに、相沢君が魔封窟で三日も迷子になったのは嘘で、実際あそこに入っていたのは半日ほど(それでも迷子になったのは事実だった。)。私が入ったのは更にその半日前。
だけど……
「どうしてこんな手の込んだ事をしたのかしら?」
別に栞を死なせるような真似はいらないはずよね。殺気を含んだ視線で三人を睨む。
「そ、そりゃあ、ももちろん、香里と栞の仲直りの為だぞ。なぁ、栞。」
「へ?あっ、そ、そうです。そうですよね、ミックさん!」
「…わしは二人で香里ちゃんのドッキリをやると聞いたんだが…」
「へぇ……」私は相沢君と栞を睨みつける。
「ちょ、ちょっとだけ、ついでに香里をからかってやろうって思ってな?ついでにだぞ!」
「そ、そうですよ。ちょっとした悪ふざけですよ。ねぇ?」
「二人とも、かなり楽しんでいるように思えたが…?血糊まで作りおって。」
「…………ミックさん、これ、考えたのはどっち?」
「そりゃ栞が考えた…」
「祐一さんが……」
「多分、二人で一緒だろうなぁ。議論までしておった。」
「「アンタもう喋るな!」」
さっきまでのシリアスな雰囲気も、相沢君が都合よく現れたのも、ここに栞とミックさんがいるのも。
まったく、昨日といい、今日といい、私は本当に、バカばっかりだ。
こんなにバカになったのも、バカにされたのも、恐らく人生初。
だったら、今だけ、バカのままでいよう。
私は呪文を唱え始める。属性は自分の得意属性の雷。自分の手に雷を纏わせるだけ。シンプルだけど、それ故に下級と言えどこの魔術は強い。魔術・魔法の類は、魔力の他に、精神力にも依存している。今なら最高の威力が出せそうだわ。
「か、香里?落ち着こうぜ?な、な?美人が形無しだぞ?」
残念ね、相沢君。今の私は自分でも怖いくらいに落ち着いてるわ。
「ちょ、ちょっと茶目っ気のある悪戯ですよ!ねぇ祐一さん!」
栞、あなたは悪戯で姉を本気で泣かせるのかしら?
「あぁ!そう「相沢君」ハ、ハイッ!」
「栞」「な、何でしょうか?」
呪文は唱え終わった。後はこの魔術を発動させて。
「
とたんに、私の全身に雷が迸る。その雷を両腕に集中させ、威力を高める。
「ストップ!かおりんストーーップ!」
「えうえうえうえう」
さあ、準備は整った。この不届き者達に、鉄槌を与えよう。
「やれやれ……香里ちゃん、死なん程度にな。」
「え゛う゛う゛ぅぅぅうぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「の゛お゛お゛ぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
ちなみに、私達は、私が2時間ほど殴った暴れた後(少しよ?)4人で美坂家に戻った。
あとがけ。
bou 「やって参りました第三回『あとがけ。』
今回祐一君、美坂妹は再起不能(リタイヤ)、美坂姉はバイオハザード状態なのでゲストはこの方、美坂姉妹を影で見守る、星○馬の姉ちゃんのようなナイスミドル(オールド?)!じじい口調とおじさん口調の境目!ミックさん!」
ミックさん(以下M)「皆様、始めまして。上の名はミケランジェロ、下はひみつ。実は作者が下を考えてないだけ」
bou 「待った。それは言わない約束です。
今回は、えー……黒魔術講座だね。今回初めて魔術が出てきたから。」
M 「設定作っても、それを活かせなきゃいけませんからねぇ。」
bou 「うぐぅの音も出ませんな。さて、黒魔術の名前の説明だけだけど、非常に簡単。分かりやすい、覚えやすい。」
M 「作者の貧相な発想じゃ、その程度が限度でしょうな。」
bou 「黙れ、そこ!気を取り直して続き。香里は『エレクト、アーマード』と唱えましたよね?その中の『エレクト』の部分が属性・級位を表し、後者の『アーマード』はその魔術の性質・威力を示す訳です。
例を取れば、『
M 「香里ちゃんの魔術の効果は、『エレクト』電気を、『アーマード』体に纏わせる、という意味になるのだけど、香里ちゃんはそれを応用して手に集中させて威力を高めている訳ですな。ちなみに『電撃(エレクト)』は初級、『雷光(サンダー)』は中級、『極雷(プラズマ)』は上級に分類されとります。…どうしたのかな?」
bou 「うう…やっときたMさんのマトモな会話だよ…
ちなみにこれは学園で習う基礎の範囲の黒魔術。地方ごとに各魔術の様式も違ってくる訳です。単純に見えて奥が深い。」
M 「ところで、わしの詳細設定は…」
bou 「チョイ役にそんなもん作ってどうする。じゃあ、時間も迫っている事だし、今回はこの辺で。
そうだ、重要な事を言い忘れてました。色々至らぬ者ですが、どうぞ宜しくお願いしますです。出来れば、感想、指摘等ございましたら、いただけると嬉しいです。本当は一話目に入れるべきなのですが……」
M 「ネットマナーも知らぬとは…反省せい!」
bou 「本当にうぐぅの音もでません。」