メジェール、タラーク双方の軍とニルヴァーナで地球軍を倒してから、約2ヶ月。男女が共同する場所になってから、ヒビキたちによって何人か男たちがこちらに移住してきている。と言っても、まだまだ男女共同生活に嫌悪を抱くものが多いためか、コールドスリープになっていた第一世代の男たちが、移住しているに過ぎない。
「メイア?」
この男もその一人だ。髪はサラサラとした金髪で、目は透き通った色のブルー。私も青と言っていい色だが、私より綺麗だと思う。いつもその目をみると、海みたいだ、と羨ましくも思う。
「メイア。なに固まってるんだ?飯、冷めちまうぞ?」
この男は一応、ヴァンガードのアタッカーだ。見た感じ、まだまだ幼い感じも残っているが。まれに来る地球軍の残党を片付けるために、まだ戦っている私たちクルーの仲間だ。腕もかなり良いといえる。それに、戦闘中は冷静な判断をしてくれるため、よく補佐をしてもらっている。まぁ・・・頼りにはなる、と思ってはいる。彼を見て、かっこいいと言うクルーもいるのも事実で、嫌味にならない程度に気を使ってくれる優しい男だ。だが、私にとってはクルーの一人でそれ以上でもそれ以下でもない。
そう。それ以上でも、それ以下でもないのだ。
なのに、暇さえあれば私のところに来て絡んでくる。
現にこの男は私がゆっくり一人で昼食をすまそうとして、わざわざ時間をずらしてトラベザに来たのに、目の前に座っている。
嫌ではないが、他に男はいるのだから普通は男といるのではないのか?それに、やることがないわけではないはずだ。
わけがわからない・・・なんなんだ、この男は。
「何深刻な顔してるんだよ。」「おい。きいてんのか?」
「・・・お前は一体何なんだ?なぜ私に付きまとう。お前は・・・っんんっ」
な、何を!手をどけろ!!口をふさぐんじゃない!話せないじゃないかっ!
「あはは。そんなに顔赤くするなよ。てかさ。『お前』じゃなくて、『クリス』だって、いってるだろ?」
「っぷはぁ!何をするんだ、お前は!非常識だそ!だいたい、私は赤くなんかなっていない!」
す、少し言いすぎた。・・・この男は戦闘中は冷静なのに、艦内で会うときはいつもこうだ。今みたいに少し言い過ぎるとすぐ悲しそうな顔をする。最初は男の癖に、と思ったが・・・。
「何で、ヒビキは名前で呼んでるのに、俺のことは呼んでくれないんだ?」
「そ、それは・・・」
「なぁ。なんで?」
そ、そんな顔でいわれても・・・。でも、言われてみれば、よくわからない。ヒビキを名前で呼べるようになったのは、ヒビキを仲間として、見れる様になったからだ。だからといって、この男を仲間として見てない、ということはない。むしろ、ヒビキには持ったことのない気持ちを・・・持っていると思う。何かは分からないが、嫌悪などではないのは確かだ。
「悪かったな。食事の邪魔をして・・・」
「え!?あ・・・」
出てってしまった・・・。なんだか・・・寂しい。いや、そんなはずない!あんな男に!
・・・・・でも・・・なんだろう、この気持ち。今までこんなことなかったのに・・・。
カシュン「お姉さま?あ、やっぱりいた。」
「ミスティ。」
「今、クリスがなんだか悲しそうに歩いてたけど、なんかあったんですか?」
私が・・・。私が、傷つけてしまったんだ・・・。胸が・・・痛い。苦しいよ・・・
「お姉さま?私でよかったら聞きますよ?」
「・・・実は・・・」ミスティは私の話を真剣な顔で聞いてくれる。だから、全部話すんだ。自分が感じたことも、彼の仕草も。私が気付いたすべてを。
「お姉さま。もっと、自分に素直になって。そうすれば、きっと分かります」
「自分の・・・気持ち?」
「ええ。お姉さま、クリスが側にいても嫌じゃなかったんでしょ?」
自分の気持ち・・・。そう、確かにあの男が側にいるのは嫌じゃなかった。いつも、一人でいた私には知らなかった気持ちにさせてくれる。それに・・・あの男の笑顔は、私には心地いいものだ。
「触られても、嫌だって、気持ち悪いって思わなかったんでしょ?」
・・・思ってなかった。思い出してみると、むしろ・・・すごく恥ずかしい。
「ねぇ。お姉さま。どうしてクリスが行ってしまって寂しかったか、分かる?」
・・・なんとなく分かる。私は、あの男が側にいてくれると、どこか安心していたんだ。・・・一人じゃないって。でも、それを自分で認めたくなくて、前の頑なな私に戻ってしまっていたんだ。彼の行動を変だと、決め付けていたんだ。そうすることで、彼に対する気持ちから、目を背けてたんだ。だから・・・自分の気持ちを否定しようとしたんだ
「どうして、クリスのこと、名前で呼んであげれないか分かる?」
・・・分かる。呼んでしまったら、私の気持ちを・・・一人でいることが寂しい、という気持ちを認めてしまう気がしたからなんだ。
「もう。どうしたらいいか、わかりますよね?お姉さま。」
あぁ。そうだ。行って謝ろう。きっと、彼は笑って許してくれるだろうから。もしくは驚くかな?でもきっと、笑ってくれる。だから・・謝りに行かなきゃ。
「ありがとう、ミスティ。」
「いいえ。きっとクリスは格納庫ですから。早く行ってあげてください。」
――格納庫――
「ク、クリス!」
ふふ。そんなに驚かないでくれ。私だって、緊張のせいか、ドキドキしているんだ。
「やっと、呼んでくれた」
あ、やっぱり笑った。笑っている顔は、太陽のように温かいな。私はその笑顔が気に入っているんだ。
「さっきは、すまなかった。」
「なぜ?悪かったのは、俺だろ?」
その不思議そうにしている顔は、始めて見た。いや、私が見ようとしていなかったのかもしれないな。
「謝りたかったんだ。そ、その・・・ク、クリスに」
や、やはり慣れないな。名前で呼ぶのは。・・・でも、なんだか暖かい気持ちにさせてくれる。
「そっか。ありがとな、メイア。あ、そうだ。この間言ってた・・・・」
今は、隣で楽しそうに話している彼にどうして絡むのか、などという思いはない。
とても、心地いい空気が私を包んでくれる。
寂しさも、もう感じない。
苦しくもない。
とても・・・安らぐ。
今はまだ、この気持ちがなんなのか、分からないが。
―――――いつか――――――
―――そう―――――いつの日か――――――
――――この気持ちを――――
――――彼に伝えたい――――
―――彼がなんて答えるか、分からないけど―――
―――それでも―――――――伝えたいんだ―――
「ところでメイア。ご飯食べたのか?」
「あ・・・」