活気溢れる雑踏の中、傍目から怪しさ抜群の三人組が当てもなく歩いていた。
左から順に、顔をコートのフードで隠した少女、その少女の周囲を飛び回る赤い妖精。
そして、白い包帯状の布に包まれた長い棒のような物を片手に歩く、ぱっと見犯罪者的な男。
かなり怪しげな一行だったが、特に気にする人は居なかった。
ここ、ミッドチルダやそこから連なる主要次元世界は、多種多様な次元世界からの来訪者が多く、
彼らのような装いの人間は特に珍しくもない。
何せ、普通に猫耳な女性や、鱗生えてる男性、2メートルを余裕で超えてる夫婦など、普通に歩いているのだから。
交通の主要施設近くになればなるほど、こういった人たちは見かけ易い。
「ルー子嬢様よぉ、お宝探さねぇなら俺帰って良いか?」
「………ダメ」
疲れたように少女に話しかける男性……名を宮本 良介。
公式には8年前に死んだ事になっている、復讐鬼。
そんな男の願いを一撃で粉砕するのは、幼い召喚魔導師ルーテシア。
「ここんとこリョーは単独行動が多すぎるっ、機動六課とかいう連中に存在を知られたんだから、一人じゃ危ないだろっ」
良介の肩に仁王立ちして鼻息荒く踏ん反り返るのは、古代ベルカ式融合騎、アギト。
良介からの渾名はコスプレチビor虫っ娘である。当然呼べば怒る。でも気にしないのが良介クオリティ。
「別に、連中の行動範囲内で騒ぎ起こさなきゃ良いだけだろ」
「その騒ぎを起こすから言ってるんじゃねぇか」
アギトのその指摘にうぐっと痛いところを突かれた声で目を逸らす。
何せ、彼の知り合いの印象は、宮本 良介=ナチュラルボーン・トラブルメーカー。
でなければ騒動吸着体質だ。
その事を自分でも自覚しているだけに、アギトの指摘に反論できない良介。
「な、ならアジトに戻ってるって。丁度、俺の腕の新型が出来たらしいし」
良介の左腕は義手で、製作はウーノ主導の元行われた。
見た目こそ人間の腕だが、内部は完全金属であり、某ターミネーターのマネが可能。
実際にナンバーズのセインとノーヴェの前でやって見せたら涙目でボコボコ殴られた。
偽装皮膚を剥ぐのが駄目だったらしい。
現在の腕は偽装重視なので大きなギミックが内臓されていないタイプ。
ウーノが現在製作中の腕は、完全戦闘使用だそうだ。
「……ダメ」
「アジトでナンバーズとイチャイチャするつもりだろ、絶対却下! 今日一日、アタシとルルに付き合えばいいんだよっ」
「イチャイチャなんぞしてねぇっての! たく、面倒だな…」
そう言って溜息を吐いた良介の身体に、ルーテシアの身体がぶつかる。
なんてことは無い、ルーテシアが立ち止まって少し当たっただけだ。
「っとと、どうしたルー子、なんかあったのか?」
「……あれ」
口数の少ない少女が指差した先。
それを見て目を輝かせるアギトと、絶句する良介。
そこには、『ミスタァァァッ、どーなちゅ♪〜う〜ん、いいですねぇ〜〜』と掲げられた看板。
その文字の隣には、ライオンだか虎だか不明な動物がデフォルメされて『がお〜!』と鳴いている絵。
良介は思わず頭痛がする頭を押さえて呟いた。
「どこからツッコめばいいんだ……」
ツッコミどころが満載で困り果てている。
そんな良介に構わず、瞳を輝かせるアギトと、親しい関係でなければ絶対に分からないが瞳をキラキラさせているルー子様。
「ポン・で・ライガーだ…っ」
「ふれんちクークー……」
「………………(なんじゃそりゃぁ…っ)」
ツッコみたいが、ツッコめば自分にとって最悪な方向に話が進むであろうと、
その人生経験から直感した良介は声に出さずに心の中でツッコんだ。
そして、少女二人が目をキラキラさせている内に離脱を試みる良介。
ソロリソロリと二歩ほど離れた瞬間、バインドされた。
「速っ!? しかもギチギチで強力ーっ!?」
「リョウスケ、あれ」
「あの店入ろうぜ、な、な、な、なっ?」
バインドされて逃げられないリョウスケのコートを引っ張るルー子様と、耳を引っ張るアギト。
「あだだだだ、耳を、耳を引っ張るなっ!」
一定以上の痛みは認識できないのだが、地味な痛みは認識できる己の身体をちょっぴり恨んだ。
箪笥の小指が認識できると知った時とかも恨んでいた。
それはさて置き、必死で抵抗する良介。
理由は簡単だ、ルーテシアは財布を持っていない。アギトも持っていないというか持てない。
そうなると自然とお支払いは良介払いになるのだ。
普段はナンバーズがルーテシアにあれこれと買った物を持ってきたり、ウーノ経由で良介が買ってくるので問題ない。
が、現在良介の軍資金は昨日絵を描いて稼いだ金のみ。
そこそこ繁盛したので財布の中は暖かいが、何せルーテシアは世間知らずだ。
ああいった店だと、知らずに無茶な注文をして良介を困らせる。
良識派のアギトも、今回ばかりは敵だ。
「ほらほら、3000ポイントでポン・で・ライガーかふれんち・クークープレゼントだって!」
ライガーライガー、アタシのライガーと興奮しっぱなしのアギトさん。
どうやらあの虎とライオンを足してデフォルメしたマスコットにお熱らしい。
なんで父がライオンで母が虎の雑種動物がマスコットなんだとツッコみたい良介。
因みにふれんち・クークーは羊らしい。デフォルメされ過ぎて羊なのか山羊なのか犬なのか全く分からない。
「駄目だダメだ絶対反対っ!ドーナツ一つで100ポイントって事は一個100円と考えて約3000円だろ!?
二つ合わせて6000? 冗談じゃない、昨日の稼ぎが丸々吹っ飛ぶっての!!」
必死に拒否する良介。
だいたいそんなに食えないだろうという次の言葉は言えなかった。
ルーテシアが、あの無口で無表情でお人形のようなルーテシアが、泣きべそをかいているのだ。
見ればアギトも涙目で頬を膨らませて上目遣いで睨んでいる。
「な、なんだよ、そんな目で見ても駄目だぞ、ドクターとウーノへの借金もあるんだからな!?」
最近はドクターよりウーノへの借金の額が多いと噂の良介君だった。
「そんなに欲しければ、自分で金を稼ぐなり、
旦那に小遣いをせびるなりしてだな―――「あ、新発売の高級メロンドーナツだって」―――
まぁドーナツくらいなら許してやらんこともないな、後で仕事手伝えよチビっ子ども」
アギトの呟いた言葉に180度見事に反転する良介。
いつまで経ってもメロンには弱い男だった。
昔は高級なメロン自体に弱かったが、最近ではメロン関係に弱くなっている節がある。
兎も角、ツンデレな良介の言葉にやったーと喜ぶアギトと僅かにだか微笑むルーテシア。
「………ま、良いか…」
そんな二人を見て諦めの表情で肩を落とす良介。
さて移動しようかとした時、未だに自分がバインドされている事に気付いて先を歩く二人に助けを求めたのはご愛嬌だろう。
お店に入ると、店員の元気な声が出迎えてくれる。
「………どうやって買うの?」
「って知らないんかいっ!?」
揃って首を傾げる少女達に、思わず平手ツッコミの良介。
ドーナツの存在やマスコットキャラは情報媒体で知ってはいたものの、お店に入るのも食べるのも初めてだと言う。
「あ〜、旦那そういった事全然教えないだろうからなぁ…」
寡黙で硬派なあの人が、ルーテシアにアレコレ教えている姿を想像して一気に気分が萎える良介。
物凄く違和感バリバリで想像だが引いた。むしろ想像だから引いたと言えなくもないが。
「と、兎に角。他の店舗は知らんが、この店は先に商品をトレーに乗せて、最後に会計するシステムだ。
自分が食べたいドーナツを取って、取った分だけお金を支払う。分かったか?」
「なるほどー、じゃぁ好きのを好きなだけ取って良いんだな?」
「そうそう、好きなのを好きなだけ―――ってちょっと待ってよアギトさん!?」
アギトの言葉に気付いてストップをかけるが既に時遅し、アギトはルーテシアの肩に乗ってあれこれと取って貰っており、
ルーテシアもひょいひょいとトレーに山積みにしていく。
絶句する良介だが、縁の低いトレーではそう多くは積めない事に気付いて自分を落ち着かせる。
最初から積む事を念頭に置いていけば話は別だが、ルーテシアのように適当に置いていけば、精々30個を越すか越さないかで限界となる。
あれならなんとか財布の中身も大丈夫だろうと安堵した良介の耳に、その考えを打ち壊す非情なお言葉が。
「もういっぱい…」
「んじゃルル、次のトレー使おうぜー」
「いやぁぁぁぁぁぁっ!?」
なんて恐ろしいのこのお子様達は!? と思わず悲鳴を上げちゃったりする良介。
二つ目のトレーに再び積まれていくドーナツ達。
止める暇もなく積まれていき、終にトレーが一杯になってしまう。
「アギト、今何個…?」
「え〜っと、これで68個だから…あともう一トレー分買おう「いやもう十分だろっ!?」」
調子に乗って次のトレーを出そうとするアギトを引っ掴んで止める良介。
眼がマジだ。
「ちぇ〜、しょうがないからこれで我慢しようぜルルー」
「うん。………ドクターのケーキより数が少ないけど」
「ドクターはドクター、俺は俺!」
他所は他所、家は家のノリな良介。
以前ドクターがルーテシアにケーキをプレゼントしたのだが、各種ケーキをホールごと購入しやがったのだ。
良介を含め、当時起動していたナンバーズ全員で食べたのだがそれでも余った。
財力の差を見せ付けられた一幕だった。
レジにて精算し、お召し上がりなので飲み物も注文する。
因みに良介アイスコーヒー、ルーテシアアップルジュース、アギトがコーラ。
座席に着き、山盛りのドーナツを呆れた眼で眺める良介。
「どうでも良いが、全部食えるんだろうな?」
「…?」
「いやそこで不思議そうな顔!?」
良介は頭を抱えたくなった。
ドクターにしろナンバーズにしろ、何かとルーテシアに甘いのだ。
お陰で常識が変な部分で飛んでいる。
ゼストはその辺を気にしないので話しにならない。
普段はそれを教える仲間であるアギトは、ドーナツとこの後ポイント交換するマスコットのヌイグルミに夢中で論外。
「ま、余ったら土産にしてもらうか……」
「それってアタシにかな〜?」
適当なナンバーズの顔を思い浮かべていた時、6番目に思い浮かんだ顔の声が足元から聞こえた。
あ゛?という顔をして足元を覗けば、そこにはドーナツを食べている少女が居た。
ただし、上半身が床から生えている状態で。
「……………何してんだモグラ」
「モグラ言うなっ!? 何って、見ての通りつまみ食い?」
「いや、俺に疑問系で聞くな。そうじゃなくて何でここに居る」
良介のその質問に、いや〜それがさぁ〜と周囲に気をつけながら地面から抜け出るのは、ナンバーズ6、セイン。
珍しく、あのピッチピチのスーツ姿ではなく、カジュアルな格好だ。
「ウーノ姉がリョウスケに連絡が取れないから探して来いって。なんか完成したとか言ってたけど?」
「あ〜、俺の腕か。連絡取れないって、携帯ならここに……あん?」
懐を探り、取り出した携帯を見て顔を顰める良介。
見れば、携帯の電源がOFFになっている。
OFFにした記憶もなく、充電もバッチリに(しないとウーノ達から文句言われるので)してある。
ギギギギと首をブリキ人形の如く動かすと、挙動不審な赤い妖精が目に入る。
「ア〜ギ〜ト〜?」
「だ、だだだだって、今日はアタシとルルが優先の日だぞっ、なんか文句あるのか!?」
開き直った。
「お前は…はぁ。別に怒ってねぇよ…」
「あははは、愛されてるねぇ〜うりうり」
「止めろモグラ娘。って言うか勝手に食うなっ!?」
「え〜、良いじゃんこれだけあるんだし。ルーお嬢様は6個で満腹みたいだよ?」
セインの指摘にルーテシアの方を見れば、可愛くお腹を擦って満足そうなお嬢様。
因みにトレーの上のドーナツは全然減っていない。
アギトに関してはやはり論外。大きさが問題だった。
「これ全部土産か……」
「皆喜ぶよ〜、あ、このメロン味美味しいじゃん、ほらあ〜ん♪」
肩を落とす良介の隣で能天気に自分が食べたドーナツを差し出すセイン。
それを見てアギトが騒ごうとした瞬間、突然お店の扉が勢いよく開かれた。
「動くなっ、騒ぐんじゃねぇぞっ!!」
「騒げば命はねぇぞこらっ!!!」
突然店に乱入する男達。
その数は6人。
手には凶器、当然上がる悲鳴と物音。
そんな騒ぎの中、冷めた眼でそれを見る良介達。
「な〜んでこのタイミングで来るかな強盗さんよぉ…」
「本当にリョウスケってトラブル吸引体質だよねぇ〜」
「うるさい…」
「面倒になる前に逃げた方が良いんじゃないか?」
アギトの提案にそうするかと腰を上げようとしたが、犯人グループの一人が店の出入り口を塞いでいて邪魔だった。
良介どころかアギトでも余裕で倒せるのだが、あまり騒ぎを起こすと管理局が出張ってくる。
どうしたものかととりあえず静観する事にした面々。
セインのISで逃げればいいのだが、それはそれで面倒なのだろう。
土産のドーナツも包んで貰わなければならないのだし。
他の客が悲鳴を上げて怯える中、全然恐れた様子のない4人に流石の犯人達も気になった様子。
「おいお前等、何余裕こいてやがるっ」
「いえいえ、恐怖のあまり何もする気が起きないだけですからお気になさらず〜」
「あ、リョウスケ、このドーナツもちもちで美味しいよ〜」
「全部食っても良いが、その場合は金払えよ」
「なんで!?」
「どこが怯えてるんだよっ!?」
目の前で平然と漫談染みた会話をする良介とセインに犯人激怒。
座席に座る良介に刃物を突きつけてくるが、良介はその刃物を一瞥すると平然とアイスコーヒーを飲んだ。
「テメェっ、馬鹿にするのも大概に「うるせぇ…」―――ヒっ!?」
良介の態度に怒鳴る犯人だったが、良介のギロリという睨みと殺気を混じらせた言葉に寒気を感じる犯人。
良介の顔の左の方に刻まれた傷痕が、より一層の恐怖をかき立てていた。
犯人は思った、こいつは堅気の人間じゃないと。
「おいっ、何を遊んでやがるっ!」
「あ、ああ、す、すまねぇ…お、大人しくしてろよ、何もするなよっ!?」
怯え混じりに、仲間の方へと戻る犯人の一人。
それに対してつまらなそうに鼻で笑う良介と、爆笑を抑えるのに必死なセイン。
「ぷくくくくっ、今の見た今の、『ヒっ!?』だって、『ヒっ!?』…ぷぷぷぷっ」
「あんなもんだろそこらのチンピラなら。まったく、くだらない騒動だぜ――――って、嬢? アギト? おいどこ行った?」
ふと気付けばルーテシアとアギトの姿がない。
キョロキョロと辺りを見回していると、笑っていた顔を焦りに変えたセインが肩を叩いた。
「リョウスケ、あそこあそこっ!」
「あ?―――――って、何してんのあの娘達ぃぃぃっ!?」
二人の視線の先、そこには肩にアギトを乗せたルーテシアが、
ポイントカードを店員に差し出して飾られているマスコットヌイグルミを要求していた。
その店員は、強盗犯に絶賛お金要求され中なのだが、ルーテシアは全く気にしていない。
アギトも同様だった。
「ふれんち・クークーとポン・で・ライガー、一個ずつ…」
「そ、そう言われましても…っ」
「な、なんだこのガキは…っ!?」
「オッサンうるせぇよ、アタシ達はアレが欲しいんだから邪魔すんなよな」
「じゃ、邪魔はてめぇらだろうが!?」
早速騒動が大きく。
これには良介も頭を抱えた。
セインが横でどうする?と目線で問い掛けてくる。
「潜って、援護」
「あいあい〜」
良介の指示にズブズブと床へと消えるセイン。
一応、ペリスコープ・アイは装備してきたらしく、手首から先だけスーツの時の装備を身に付けている。
その指先が床から生えて移動する光景は、軽く怪談だよな〜と思いつつ、席を立つ良介。
周りにいた客が危ない、止めなさいと静止を呼びかけるが、それに対して軽く手を振って答える。
「うるせぇガキだな…おいっ」
「あぁ……あらよっとっ!」
犯人の一人が、杖のような物を持った男に合図すると、男は杖をマスコットが置かれた台に向けて、魔法を放って見せた。
アギトからして見れば初歩の初歩の火の玉を放つ魔法だが、マスコットと台は瞬く間に燃え上がってしまう。
「あぁっ!?」
「ふれんち…クークー……っ」
無残にも燃えてしまうヌイグルミに表情を歪める二人。
周囲の客や店員は、犯人の一人が魔導師だと分かると悲鳴を上げて一層震え上がった。
「ははははっ、どうだ、こっちには魔導師が居るんだ、怪我したくなきゃ大人しくしてやがれっ!」
アギトとルーテシア、そして周囲の客の姿に気を良くしたのか叫ぶ犯人、恐らく主犯格なのだろう。
「このぉ……っ、お前ら全員燃やして――――」
「アスクレピオス――――」
二人が犯人に対して攻撃態勢を取ろうとした瞬間
ぽふ――――
と、頭を押さえる手の感触。
振り返り見上げれば、そこにはコートのフードで顔を隠した良介の姿。
「止めとけ」
「で、でもこいつら、ライガーを…っ」
「魔法使って騒げば管理局が来て煩いんだよ。だから……ま、俺が仇討ってやる」
そう言って二人の前に出る良介。
「あぁ? なんだてめごぶっ!?」
それに気付いた犯人の一人が睨みを利かせて近づいてくるが、鳩尾にめり込んだ拳の一撃で昏倒した。
「お、おいっ!?」
「てめぇ、何しやがるっ!!」
「見ての通りだドチンピラ。仇討ちだよ」
「何言ってやがる、死にてぇのかっ!!」
そう言って刃物…刃渡り20センチ程度のナイフを突きつけてくる。
店内の客が最悪の光景を予想した次の瞬間、コンという軽い音と共にナイフはクルクルと空中を回転し、天井に刺さった。
「………へ?」
「ド素人が。寝てろ」
ナイフの柄尻を蹴り上げた足で、犯人の顎を蹴り上げ、戻す足の踵で頭を蹴り下ろす。
地面に熱いベーゼをした犯人の頭を踏みつけて大胆不敵に進む良介にたじろぐ残りの犯人達。
「て、てめぇ、それ以上近づいてみろっ、俺の必殺魔法が焼き殺すぞっ!?」
「ぷ…っ、くくくく……良いねぇ、必殺魔法か、いい歳した奴が必殺魔法とか言っちまう訳だ、くかかかかっ」
「な、何がおかしいっ、この野朗…っ!!」
魔導師の男が良介の態度にキレて杖を向けてくる。
良介ならこの瞬間、杖ごと男の腕を切り落とす事も簡単だったが、わざと魔法を起動させてやった。
「死ねぇっ!!」
放たれる炎の魔法。
燃え盛る炎の弾丸が良介へと迫り、彼を燃やし尽くすかと思われた瞬間、
突然魔力結合が崩れて炎ごと良介が持つ布に包まれた棒へと吸収されてしまう。
「な――――なんでっ!?」
「どうした魔導師、俺を殺す“必殺”魔法じゃなかったのか?」
ニヤリと口元に笑みを浮かべて歩み寄る良介。
目の前の得体の知れない男に恐怖を感じ、後退りながら魔法を連発する犯人。
炎だけでなく、普通の魔力弾も放つが全て魔力結合が崩され、そして発生した現象も棒へと喰われてしまう。
良介の血とドクター、そしてウーノが作り上げた魔剣…否、妖刀『悪喰』は、AMFと違い、
発生した効果すら吸収してしまう対魔導師用の武器。
デメリットとして持ち主の魔法すら喰ってしまうが、日ごろから肉体を鍛え続けている良介にはさほど問題ではない事。
「魔法が意味を成さない魔導師ほど、脆い存在はそうそう無いよなぁ…」
「ひ、ひぃっ!?」
振り上げられる布に包まれた悪喰。
それをストレージデバイスであろう杖で防ごうとするが、それごと叩き折られる犯人。
直撃した肩からメギゴギ…ッと何かが折れる音が響き、男は痛みで泡を吹いて気絶した。
これで残る犯人は3人。
一人は最初に睨みを効かせた効果か、怯えて震えている。
残りは現金を鞄に詰めている体勢で固まっており、もう一人は…と視線を向けた瞬間、思わず溜息をはきたくなった良介。
「た、助けて…っ」
「動くな、動くんじゃねぇぞっ!!」
非常に分かり易い状態だった。
なんと言うワンパターン。
チンピラ犯罪者はこういった行動がマニュアルになっているのかと疑いたくなった良介。
「舐めたマネしやがって、少しでも動いたらこの女の命が―――って、動くなよおいっ!?」
人質を取った犯人の言葉をガン無視して現金を詰めている犯人へと近づく良介。
固まっていた男が、現金を詰める為にポケットへと入れたナイフを出そうとした瞬間、
良介に頭をつかまれ、そのままカウンターへと叩きつけられた。
派手な音を立ててめり込む頭部。
ピクピクと手足が痙攣しているから生きてはいるのだろう。
「て、てめぇっ!? この女の命がどうなってもいいのかぁっ!?」
「いやぁぁぁぁぁっ!?」
マジで叫ぶ犯人と、マジで泣き叫ぶ人質(店員の女性)。
それに対して、良介は肩を竦めるだけだった。
ふと気付けば、人質を取った犯人を見ていた周りの客が、何やら変な視線を向けてきている。
その視線は、恐れや怒りではなく……ぶっちゃけ呆然?
「な、なんだその眼は…なんなんだよ…!?」
その視線の意味が分からずうろたえていると、ふと自分の後ろに感じる気配。
チラリと後ろを振り返ると、そこには水色のショートヘアーの美少女が、ニッコリ笑っていた。
どう見ても年頃の娘が持ち上げられないだろう、テーブルを持ち上げて。
「はいぃぃぃぃぃぃっ!?!?」
「女の子に乱暴するのは、頂けないなぁ〜っとっ!!」
振り下ろされるテーブル。
直撃する脳天。
「ごげぇっ!?」という蛙を踏み潰したような声を上げて、犯人が押し潰される。
人質となっていた店員は、セインが素早く救出。
涙を流してお礼を言う店員に、「いや〜、偶にはこういうのも良いかも…」と照れるセイン。
「さてと、残るはお前だな…」
「ひ、ひぃっ、お、お助けーーーっ!!」
ナイフを放りだして逃げ出す犯人。
その後ろでトレーを片手に振り被る良介。
「逃げんなッ!!」
ブンッ!と風を切って投げられるトレー。
高速回転するそれが、ドアから飛び出そうとした男の後頭部に命中。
そのままドアへと衝突し、反対側から見れば爆笑必至な顔でズルズルと崩れ落ちる。
「うしっ、ストライク!」
「いや、デッドボールだろ」
ガッツポーズを取る良介に、アギトが呆れてツッコんだ。
次の瞬間店内に湧き上がる歓声。
店員は口々にお礼を述べ、客達は凄かった、ナイスなチームワークだと褒めまくる。
「あ〜、どもども、いやはや、照れちゃうな〜」
普段、本来なら逆の立場故人から感謝される事に慣れていないセインは照れまくっていた。
「ありがとうございましたっ、何かお礼を…っ」
「あぁそう? 何でも良い? んじゃ俺らが買ったドーナツタダにして金返し――「ふれんち・クークー」――
お、おい?「あとポン・で・ライガーもくれっ!」―――ちょっとぉっ!?」
「そ、それだけで宜しいのですか?」
「「うん」」
店長さんに頷く二人。
台詞を遮られ、ついでに押し遣られた良介は、寂しく床に『の』の字を書いていた。
それを慰めるセインは、ちゃっかり自分の分のチュロ・わん太なる
細長いウェルシュ・コーギーのようなマスコットのヌイグルミを要求していた。
で、管理局が来る前に早々に帰ろうとする四人。
ドーナツを包んでもらう時に、店員が更に多く入れてくれたお陰で、ドーナツの数が増えたのは嬉しい誤算なのだが、微妙に荷物。
店長達が呼び止めるが、四人は犯人でもないのにさっさと逃げてしまうのだった。
その3分後に管理局の人間が駆けつけるのだが、犯人グループは全滅。
店員や犯人、客達から事件を解決してくれた4人の情報を聞き出すのだが、結局見つかる事は無かった。
レリックやガジェットが絡んでない為、某部隊にも情報は届く事無く、街の新聞に記事が載る程度で終わるのだった。
「結局、俺が損しただけかよ……」
終わる
おまけ☆
アジトの一角にある所謂談話室的な部屋に集まり、女の子らしいキャっキャっ、ウフフな談義に華を咲かせるナンバーズ。
皆、味も形も様々なドーナツを食べて、笑顔を浮かべている。
堅物で有名なあのトーレですら、ビター味のドーナツに舌鼓。
性格通りに甘い物好きなウェンディとセインが奪い合うかのようにドーナツを食べている隣で、寡黙トリオがモクモクとドーナツを食べる。
時折頬を緩ませるセッテ・オットー・ディードの姿に、満足げに頷きつつドーナツを食べるのは薔薇水…もとい、チンク。
クアットロは「これがリョウスケさんの愛なのね〜」と一人トリップ中。皆微妙に近づかない。
ノーヴェやディエチがガツガツと食べている光景を横目に、優雅にお茶を飲みながら食べるのはウーノ。
任務中のドゥーエを除いた11人全員が、良介が土産だと言って置いて行ったドーナツを食べていた。
「おや、何やら楽しそうじゃないか」
「ドクター。良介さんが、皆にお土産を下さいまして…」
声が聞こえたのか現れるドクター。娘たちの様子に、少し眼を丸くしている。
ウーノの説明に更に眼を丸くするのは、良介という男の性格を知っての事。
「珍しいじゃないか、彼が土産だなんて。普段は逆に土産を強請り獲る側なのに」
ここに本人が居たら怒りそうなドクターの言葉。
でもきっとナンバーズ全員がその通りだと頷いて落ち込むだけだろう。
「ええ。少々騒動があったようですが、特に問題も無かったそうです」
「やれやれ、彼は毎度毎度騒動を起こすから退屈しないものだ。最も、大事な作戦前に騒動を起こされるのは敵わないのだがね」
「その辺りは、ナンバーズ数名に常時傍に居させて対応させます」
「結構。彼の能力は、次の作戦に必要な物だからね」
「了解しております。ところで、ドクターもいかかですか?」
「ドーナツ…だったかね。あまり私の趣味には合わない菓子のようだが――「こちらとこちらはルーテシアお嬢様が大好きだとか」―――
研究で疲れた脳には糖分が必要だ、片手間にも食べられるし優秀なお菓子じゃないか。ではいくつか頂いていこう。
あぁウーノ、後でコーヒーを頼むよ」
早口に言い終えて、ルーテシアが好んで食べたドーナツだけを持って出て行くドクター。
非常に分かり易い行動だった。
そんな父親に軽く溜息をついて、コーヒーの準備をするウーノ。
後ろでは、良介が気に入ったというドーナツの最後の一つを賭けて、壮絶なシスターバトルが勃発しかけていた。
今度こそ終わる
あとがき
続編とは別のギャグ(?)短編。
ほのぼのラブコメを目指して日々精進、しかしナンバーズを壊して後が怖いなと日々怯え(何)
ドゥーエさんは恐らくかなり先まで出番なし(マテ)
私の中ではクアットロはシャマルさんポジション(溢れる妄想とストーカー染みた愛、そして良介に弄られ)。
さり気にチンク姉さんとノーヴェが私の中で急上昇、短編書こうか考え中。
とりあえず、ウェンディとディエチは既に決定。
あとウーノとトーレも。この二人はセットですが(何)
ドクターの壊れを書く練習をしていたら、ガチホモキャラになってしまって、良介君がピンチになったので封印。
でも時々顔を出すかも(マテ)
そんなこんなで短編でした。
早く16話と17話来ないかなー(友人のビデオ待ち)