*注意事項、この話はセカンドステージの後半ぐらい(ガスコさんがいなくなったちょっと後ぐらい)を想定して書いています。が、もしかしたら時間軸に逆っているかもしれませんがゆるしてやってください(笑)

 読むにいたっては一通りファースト、セカンドの両方を視聴していることをお勧めします。ネタバレの臭いがしますので(笑)

 加えて話しの中では勝手な想像と間違った単語の使い方が多々あると思いますのでその辺もご了承願います。

 今回の話は私、アマきむちが以前書きました[ヴァンドレッドオリジナルストーリー 〜girl of blade ]の続きという形をとっていますが、基本的に読まなくても大丈夫です。ですが、作り手としては[girl of blade ]も読んでいただけるとありがたいです。

 本編で銃やコンピューター関係について軽く触れていますが、私アマきむちはそちらの方面には完全にド素人です(笑)。おそらく大きな過ちが多々あるとは思いますが、見て見ぬふりをしていただければ幸いです。

●なお、[ヴァンドレッドオリジナルストーリー girl of blade]<前編><後編> 、 [ghost of white girl]<前編>及び、 [the other girls ]を読んでくださるという方はメールにてご連絡いただければ喜んでお送りさせていただきます。 

 

 

 

 

  ヴァンドレッドオリジナルストーリー 〜ghost of white girl

                  <中編>

 

 

 

 

 

 カチャリカチャリと音を立てて銀色の受け皿やメス、ハサミなどがドゥエロとパイウェイの手によって片付けれていく。

「・・・大丈夫だよね・・・?」

 パイウェイが口元に取りつけられた青色のマスクを外しながら横のドゥエロに尋ねた。

「オペは成功だ。まだ絶対とは言えないが・・・」

 その時ドゥエロがちらりとパイウェイに眼を走らせる。彼女は少しうつむき加減に顔をやり、眼線だけをドゥエロに向けている。その瞳は潤んでいた。

「いや、大丈夫だ。私と君がオペを行なって、そこにヒビキの生命力が加わればどんな傷といえども・・・必ず完治することだろう」

 さすがに十一才という幼い彼女には今回のオペはいささか酷であったかもしれない。仲間であるヒビキの胸を開き、肺に刺さっていた肋骨を引き抜き、それを元のあった個所へカルシウムパテと特殊ボルトで繋げる様はさすがに・・・。

 しかし、彼女もまた自分と同じく、医療の道へゆく者ならこの経験はいずれ必ず役に立つはずだ。これから彼女が出会う数百、数千という患者のために。

 ヒビキ、必ず完治しろ。それがお前自信のためだけでなく、仲間全てのために。そう、彼女の未来のためにも・・・。

「心配は無用だ。・・・一段落ついたら一緒に食事でもとろう」

 そう言って彼はまだ消毒液の臭いが残る手でパイウェイの肩に手を置いた。

 パイウェイはその手の暖かみを確かめるようにその手へほおを寄せる。

「・・・うん」

 ウィーンと小さなしかし腹部に響く低い音をたてる大きな医療機械の蓋(ふた)が開き、そこから寝かされたままのヒビキが現れる。一見するとそれは大昔にあったCTスキャンの機械にも見えるが、実際にはメジェールの医療技術の髄(ずい)をこらして設計された医療マシンだ。傷の縫合(ほうごう)やヤケドなどの処理はもちろん、手術でさえオートメーションでこなしてしまうという高性能なものだ。だが、欠点がある。それは緊急時の手術には間に合わないという最大にして最悪の欠点をそなえていた。

 どんなに高性能だろうとしょせんは機械。人間の医師のように瞬時の判断などには対応できない。他にも、事前に健康時のデータを入力していない患者の場合は、機械の方が何をどのように、そしてどの程度治すのかという判断が下ず、結局は手動入力になるのだが、それとて治すように命令した部分しか直さない、つまりまだ発見されていない部分の傷や怪我、病状には一切手を出さないなど、良い点がある変わりに同等数ほどの欠点があったりもする。

 だから、ドゥエロは手術は自らの手で行うようにして、最後の縫合後、傷の跡を消すためと殺菌消毒のためだけにこの機械を使用するようにしている。

 最悪のミスを起こさないために。

「ヒビキを無菌室へ入れる。持てるか?」

 ドゥエロの問いにパイウェイはうなずいて見せた。ゆっくりと、けなげに、そしてちょっとだけの涙と共に。

 

 いつものメンバーがそろったブリッジには非常に倦怠(けんたい)な空気が流れていた。

 バートがナビゲーション席の前であぐらと、アクビをかいている。

「ねぇ艦長〜もう部屋に戻っていいでしょ〜?」

「いいわけないだろう。いつでも対応できるように構えとくってのは優秀な操舵師なら当たり前さね」

 バートはため息混じりに言った。

「・・・はいはい」

「はい、は一度で十分だよ」

「・・・はぁ〜い」

 そんな二人のやりとりを見てブザムは鼻だけで笑った。

 よくこんな状況で、いつものように振舞っていられるものだ。

「エズラ、何か変化は見られたか」

 言われたエズラは無言で首を振る。

「そうか・・・そっちはどうだ?」

 ブザムが訊くとセルティックとアマローネ、そしてベルヴェデールが互いに眼を交差させ意思を通じ合わせる。そして代表としてベルヴェデールが報告する。

「いえ、未だ何も」

 ニル・ヴァーナは現在ペークシスの暴走により完全に操作不能のまま、ある一点、移民船とミッションが同地点から発せられるポイントに向けて一目散に速度を上げ続けていた。そのためブリッジのクルー達はただ成り行きを見守るだけ、つまり計器類に眼を通すだけで他にやることがないのだ。特にナビゲーション席に入ろうとすると拒否されるバートの退屈といったらそれはもう酷かった。すでに本当に何もできない状態で半日近くこうしているのだから。

 マグノが自らの肩を叩きながら尋ねた。

「で?例の所まであとどのくらいだい?」

 エズラが答える。

「あと三時間程です」

「エズラや。お前さんは一度休憩を取りな」

「え?でもぉ・・・」

 エズラはちらりと周りの仲間達を見渡す。だが、彼女らの瞳はマグノのそれと同じだった。

 マグノは優しげに微笑ながら言う。

「どうせヤル事もないんだ。休憩の一つぐらい構いやしないよ。それにイザって時に役に立たないんじゃそれこそ迷惑だよ」

 エズラはどうしたものかと困った様子でほおに手を当てると、それを見ていたブザムがため息混じりに言う。

「休んでおけ。お前だけでなくあの子のためにも」

「副長・・・ハイ。あとのことお願いしますね」

 最後に「ありがとう」という意味の笑みを残して彼女はブリッジを後にする。

 そんな彼女の背を見送ってからバートの悲痛な声が上がった。

「艦長〜どうせヤル事もないんなら僕だってイイじゃないですかぁ〜」

「あの子とアンタじゃ立場も役割も違うだろ。それにアタシらに必要とされているだけでもありがたいと思いな」

「・・・はぁ〜・・・」

 バートの肩ががくりと落ちた。

 

 

 

          ●

 

 

 

 辺りは霧のかかったような、白濁(はくだく)とした雲の中のような、完全な白だった。その中の一点に針ほどの穴があき、そしてそれが徐々にその穴が広がりゆく。

 視界に入るのは青々とした緑の草、そして花。それを見上げている。まるで小さな虫にでもなってしまったような気分を彼女は受けた。

 緑が風に揺れる。

 過ぎ去った風の後ろには左眼のつぶれた少年と白という色を全身にまとった少女が立っていた。

 少女は言う。

「元気がないわね。・・・またイジメられたの?」

 少年は草の中に腰を下ろし、そして少しだけ聞き取りづらい、独特のなまりを持った口調で語った。

「ぁ、いや、イジメられたわけじゃない、と思う。・・・ぼくにだってわかる。アイツらの遊びはぼくには向いていないんだ。だから学校でやる時いつもぼくは邪魔になるんだ。ぼくをイジメない奴らだってそうなると[どうしようか]っていう眼でぼくを見る。ぼくを無視して遊べば優等生ぶるアイツらは先生の手前だし、マイナスになるんだ」

 少女は眉毛を八の字にすると少しだけ首をかしげた。

「それで、どうしたの?」

「気分が悪いって言ってスクールドクターの所に転がりこんだ」

 少年は苦笑して続けた。

「はっきりと言わずに目線と気持ちだけがぼくを攻める。それはどんな嫌がらせより陰気で向こうに悪意があるわけじゃないんだから怒るわけにもいかない。すごくつらくて、嫌なんだ。どうしていいのかわからない・・・だから、そうした。それにいつものことだし、別に・・・」

 少女もまた少年の横に腰を下ろした。彼女の白いドレスが草を寝かす。

「学校なんていかなければいいのに。・・・勉強はいつでも、どこでだってできるわ。先生が必要なら私でも、誰でも頼むことをできる。知ってる?学校は各々の持つ才能の多くを枯らしてしまうのよ。私ならあなたの才能を枯らしたりしない。そんな大昔に作られたゴミだめにわざわざあなたの体をみすみす沈める必要はないわ」

 そう言って少女は少年の手を取る。少年の右手を少女は自分の胸のところで両手にはさみ大事そうに握りしめた。

 少年はその少女の灰色の瞳に自分の一つだけの瞳を交わす。

「両親のいないぼくは政府の屋根の下だ。・・・むやみに問題は起こせないよ」

 そう言って少年はそっと少女の肩にもたれかかる。

「・・・そう・・・」

 少女もまた首を曲げ、少年の額に自分の頬(ほほ)を当てる。

 互いが互いの体を確かめるように、互いにもっと近づこうとするように。

 少女は瞳を閉じる。

「あまり、無理はしないで・・・。私はあなたのそんな姿を見るのが、つらい・・・ねぇリョウ・・・」

 煙の濃度が深くなっていく。全ての風景が再び白濁の中に落ちていく。

 白かった世界に青い光が走る。

 

「ドコに行ったかと思えば・・・こんな所にいたのか。ディータ、手術は終わった。ヒビキは無事だ。・・・ディータ、ディータ!」

 低い声が鼓膜を振るわせる。

「・・・ぅん・・・」

 重いまぶたをこすり、ぼやけた視界を開く。それは最初、影のように思えるが、意識と視界がはっきりしてくるとそれは自分の顔をのぞき込むドゥエロだと判別がついた。

「ぁ、お医者さん・・・。今・・・あ!!そうだ!宇宙人さんの手術は!?」

 今まで体を預けていたヒビキのベットから、ガバっと上半身を上げると彼女の頭とドゥエロの頭が危うくぶつかりそうになる。

 ディータのそれに多少驚きながらもドゥエロはいつものように白衣に手を入れ直し、淡々と言う。

「オペは成功だ。ヒビキは無菌室の中で体力の回復を待っている。今しばらくはそっとしておいてやろう」

 ディータはまるで子供がおとぎ話でも聞くかのように、一語一句聞き逃すまいと眼を見開き、ドゥエロの呼吸に全神経を集中させていた。

 そして、ヒビキが無事だと知ると、脱力したように彼女は深い深いため息を吐く。

「・・・はぁ〜・・・良かった〜」

 彼女は心底、良かったと思っているようで、胸にそっと手を当てる。その早い鼓動が今聞いた言葉が真実であると保証してくれるようで、彼女にはうれしかった。

 彼女の顔がパっと輝く。

「あ、そうだ!それで、宇宙人さんはいつからまた、いつもみたいに元気になれるの!?」

「メジェールの技術を使ったが、最低あと一週間は絶対安静だ。特に大声を出させるような真似だけはしないように注意すれば短い会話もできるだろう。さっきもいったが今は寝かせといてやろう。会話を楽しむのは治ってからでもいいだろう?」

「え〜おしゃべりはダメなの〜?」

「数時間前まで肺に穴が開いていたんだ。仕方がない」

 ドゥエロがさも当然と答えるとディータはしばしうつむき、何やら数秒考えると再びキラリと輝く瞳をドゥエロに押しつける。

「じゃ、おしゃべりは出来なくてもご飯なら食べられるよね!」

「まぁ、食事ぐらいは取れるが・・・」

「やったぁ!ならディータが宇宙人さんのお食事用意する!」

「なにがやった、なのか知らんが・・・ヒビキはしばらくは眼を覚まさ・・・」

 ディータはドゥエロの言葉を半ばに背中を向けて男達の部屋を走って後にしてしまう。

 ドゥエロは肩をすくめて軽くため息を吐いた。

「まぁ、元気がないよりはマシというものか」

 彼はそうつぶやくとしばしの仮眠のために自分のベットに横になる。二時間に及ぶヒビキの手術はさすがに彼の体力と精神力をかなりの割合で削りとってしまっていた。頭痛がする。

 本来の手術ならばちゃんとした助手が数人は付くのだが、このニル・ヴァーナには十一歳のまだ未熟な看護婦が一人。おまけに執刀医にも初めての傷(知識は十分にあったが)だったため疲労感は余計に増していた。

「・・・もしメジェールの技術がなければあと四時間はかかっていたな・・・」

 誰に言うでもなくドゥエロは力なくつぶやくと、彼の体はゆっくりと睡魔に支配されていった。

 

 タンッタンッタンッというリズム良い軽やかなディータのステップがニル・ヴァーナの通路に響いた。

 彼女の頭の中ではすでにヒビキへの食事のメニューが次々とイメージされていることだろう。しかし、そんな中ふと、先ほどの仮眠を取っていた時の夢の断片らしきものが頭をよぎる。

 左眼がつぶれた少年と白いドレスの少女。

 たしか、少女は少年を「リョウ」と呼んでいたような気がする・・・けど、そんな男の子の名前は初めて聞いたし、友人知人の中に片目のつぶれた者、白いドレスを着た少女の記憶はない。

 夢は記憶の最適化、と呼ばれているが、だとしたらいったい先ほどの夢は何の記憶を最適化していたというのか。

「・・・ま、いっか〜。それよりも今は宇宙人さんへのお食事を作らなくっちゃ〜!」

 一瞬の疑問など本当に一瞬の内にぬぐい去って、彼女はキッチンへのステップを早めていった。

 

「見えました。アレが例のポイントです」

 セルティックの報告を受けてブリッジにいた全員が大型スクリーンへと視線を向けた。そこには大きな、あまりに大きな[何か]があった。カメラのズーム倍率から大まかな計算をすると、大型のミッション程はあるだろうか。

 どら焼きのような円盤型に形成された[それ]は表面を淡いグリーンで覆い、いくつもの突起物が顔を出し、それらが糸のようなもので互いを支え合っている。良く見ると装甲のいくらかは巨大な傷を持ったりして内部のゴテゴテとした機械部を宇宙空間へとさらしていた。

「こりゃまた大物だね」

 マグノがさほど困った様子もなく、むしろこの状況を楽しんでいるかのように頬杖(ほおづえ)をついて言った。

「・・・生体反応はあるのか?」

 ブザムの問いに、戻ってきたエズラがいち早くコンソールを叩く。すると十数秒の間を置いて返事が返ってくる。

「あ、あります。・・・一つだけですが生命反応があります!」

「一つだけだって?これほどのデカブツにたった一人だっていうのかい」

 マグノはあきれたように言った。

 アマローネの報告が上がる。

「目標の表面スキャン完了しました。大型のものだけで二十四個のジェットノズルを確認。小型のものも含めると相当数になり・・・」

「ってことはアレは移民船か」

 アマローネの報告をさえぎり、マグノがつぶやくとバートが、何故わかるんです?と疑問を口にする。

「ミッションには移動する目的はない、小型の出力がいくつかあるだけで簡単な軌道修正などの用は足りるんだ」

 バートの疑問にはモニターに視線を向けたままのブザムが答えた。

「へぇ〜」

 ブザムが視線をマグノに向けて、続けた。

「あれだけ大きい移民船です。おそらく我々のぺークシスを過剰反応させる、何かがあるのでしょうね」

 マグノはニヤリと笑う。その笑みは彼女の意志を表していた。言葉よりも簡単に、そして正確に。それが何なのかはっきりと確かめてみようじゃないか、と。

「・・・BC」

 彼女は頬杖をついて、どこか楽しそうな、しかし戦に望む大将のように堅い闘志をかすかにちらつかせた眼でモニターを見据えたまま言った。

「・・・探索メンバーを収集しな。あと、シャトルの準備もね」

 ブザムはしばしマグノの顔を見つめたあと、切れのある声を放った。

「了解しました」

 

 キッチンには一つの影があった。

「で〜きた!!」

 そう言ってディータはかわいさと不気味さを兼ねそろえた謎の宇宙人ハンカチで包まれた弁当箱をかかげてみせた。本当はちゃんとした料理にしたかったのだが途中で出会ったパイウェイに「あと半日は眼が覚めないってドクターは言ってたよ」という言葉にすぐさま挫折。そしてキッチンに来てしまった手前、何もせずに出て行くのもアレなので、いつヒビキが目覚めて空腹を訴えても対応できるようにと弁当という形をとったのだ。

 調理に使った器具をディータが片づけ始めていると艦内放送が入る。

『お呼び出しいたします。ドレッドチーム、ディータ。ただ今すぐミーティングルームへお越しください。繰り返します・・・・』

「あれぇ?なんだろう・・・?」

 彼女はいぶかしげに思い首をかしげる。呼び出されるようなことをした覚えはないし、新たにドレッドチームとしてのミーティングなら自分だけが呼び出されるのはおかしな話だ。

 しかし、何にせよ呼び出されたのだから行かなくてはならないだろう。

「う〜ん」

 放送でただ今すぐ、と言っていたが眼の前の汚れたフライパンなどを見るとこのまま放って置くのもどうかと思う。

「しょうがないよね」

 ディータは一人つぶやくと、再びフライパンを洗い始めた。

 

 ニル・ヴァーナはいよいよあのポイント、謎の巨大移民船へと近づいてきた。それは大きな茶色い星の周回軌道上をゆっくりと移動していた。淡いグリーンの大きなどら焼き、たしかにそんな風に見えるが、表面を多くの機材が駆けめぐり、所々に走る痛々しい傷、誰が見ても受ける重量感がそんなかわいげのあるイメージをたたき壊す。

 もはや、移民船というよりは要塞(ようさい)といった方がしっくりくる。

 

 ブリッジには数時間前と変わらぬメンバーで臨戦態勢をとっていた。

 メインモニターには例の移民船がずっと映し出されいる。

「近くまで来ると変な圧迫感がありますね」

 ベルヴェデールが言うとブザムがそうだな、とうなずいた。

 時刻は深夜10時。

 本来ならばそろそろブリッジは消灯の時間なのだがさすがにそう余裕は持っていられない。あと二時間とかからずに移民船と接触するのだから。

 ブリッジには妙な緊張感と大の字で爆睡しているバートのいびきだけが流れていた。

 セルティックの報告が上がる。

「ニル・ヴァーナ減速しています」

 そしてアマローネ。

「目標、星の影に隠れます」

 モニターから移民船の姿が茶色い、荒れた大地で表面を覆った星につぶされるようにその姿を西側に消していく。

 そんな風景をゆっくりと眺めていたマグノが、ふと思い出したように言う。

「そういや、探索チームのメンバーは集まったのかい?」

 ブザムは答えた。

「はい、こちらから選抜したメイア、バーネット、ディータ、そして志願者一名です」

「志願者?」

 ブザムはため息混じりに、杞憂(きゆう)するように言った。

「・・・ジュラです」

 いかなる状況でも的確な判断ができるメイア、白兵戦においてはニル・ヴァーナ内でも三本の指に入るバーネット、そしてヒビキの事で沈んでいる彼女の気をまぎらわすため(しかし、その時すでに彼女の元気は戻っていたのだが)にとマグノの判断でディータ。

 この三人はまぁ良しとして、問題はジュラだ。彼女は正直このような状況に向いている性格とはいえない(ディータもではあるが)。しかし、このような状況をもっとも楽しむのもまた彼女なのだ。危険な状況を楽しめるのは大物の証拠だが、今の彼女にはそれに見合うだけの実力というものがない。

 足手まといになるのではと杞憂するのはブザムでなくても当然というものだろう。かといって一度言い出したら制止させることが無理なのものまたわかっているので渋々の承諾だった。

「まぁったくあの娘は・・・まぁいいさ。それよりも四人だけってのは少し少なくないかい?」

「はぁ、しかしいきなり銃を持った保安クルーを突入させるよりは、判断力に優れるメイアを中心にチームを組み、また普段から接点の多いメンバーであることから統率もとれ・・・」

 そのブザムが望んだ統率というのもジュラが入った時点でほぼ不可能になったのはその場で話を聞いていたみんな、何となく予想がついた。

「・・・というわけでして」

 ブザムの少々長い説明が終わりに近づいた時、そこ、つまりニル・ヴァーナに鈍い振動が現れ始める。

「おや?・・・どうした?」

 ブザムの問いに、あぁ!というアマローネの大きな声が返事をする。

「どうした?」

 ブザムは再度落ち着いた口調で訊くが、アマローネの声はかなり慌てたものだった。

「ニル・ヴァーナ、重力圏に引かれています!」

 皆の顔に一瞬緊張が走る。今現在ニル・ヴァーナは制御不能の状況下に置かれている。つまり、ヘタをするとこのまま引力に引かれ地表に激突するおそれだって十分に考えられるのだ。

「星の地表表面との距離は!?」

 一瞬にして鋭くなったブザムの声はブリッジ中に轟く(とどろく)。

 ベルヴェデールが素早く指先を動かしながら言う。

「現在距離、94123、94121、94119・・・・」

「タラークやメジェールならまだ安全飛行距離だぞ!?」

 その二つの星で引力の作用によって揺れを感じるのは、事実その半分以下だ。

 アマローネが言う。

「星の引力が強いんです!約2.2G!」

 セルティックが続く。

「ニル・ヴァーナ、重力に引かれ、再度加速を始めました!」

 ブリッジにブザムの舌打ちが響いた時、アマローネのコンソールに通信機からのコールが入った。ええいこの忙しい時に、と思いながらも回線を開く。

『こちらメイア』

 彼女にはブザムが早口で対応した。

「こちらブリッジ。予定時刻より少し遅れている。もうしばらく自由にしていてかまわない」

 そして回線を切れとアマローネに告げた。

 ベルヴェデール。

「ニル・ヴァーナの表面温度が微量ですが上昇しています」

 ブザムは言った。

「どうにならないのか!?」

「どうにかって・・・」

 わかっている。どうにもできないから今の自分は焦っているのだ。これはぺークシスの意志、ニル・ヴァーナの意志。

 ニル・ヴァーナ?そうだニル・ヴァーナの意志だ。

 彼女はふと、こんな状況でも未だに眠り続けるバートを見つめた。

 バートは、理由や原理はわからないがニル・ヴァーナとリンクしている唯一の人物だ。ナビゲーション席に入っていないとはいえ、これほどまでに落ち着いて、いや、落ち着きすぎているのはニル・ヴァーナのせいではないのか。

 ニル・ヴァーナを信用している?

 いや、そうではない。では何だ?

 ニル・ヴァーナは何かバートにだけわかるようなコミュニケーションツールを利用して安心しろ、とでも伝えているのではないだろうか。だからこそいびきだってかいていられるのではないのか?

「ニル・ヴァーナなおも加速!」

「外壁の温度が80度を超えました」

「まだ予測計算の結果、ニル・ヴァーナの装甲では大気圏突入後、空中分解の可能性、大です!」

「ダメです!シールドの展開ができません!」

 ブザムはため息を吐いた。この緊迫した状況の中では少し浮いたため息だった。

「・・・私の考えすぎか」

「はい!?」

 ブザムのつぶやきが自分たちへの命令かと思い、ベルヴェデールは訊き直す。しかし、ブザムは何でもない、と素っ気なく答えた。

「スラスターは使えないか?」

「使えるとは思いますが・・・」

 セルティックは、無駄だと思いますよ、という続く言葉は言わずに飲み込んだ。さすがに上官に向かって言うセリフではない。無駄だと、無謀だとしても上官がやれというならやる。それが組織というものだ。

 彼女はコンソールを叩き、スラスターのコントロールシステムを起動。スラスター機構はぺークシスの、つまりナビゲーションシステムとは直接リンクしていないため現状でも使用可能であった。

 スラスター最大出力。ニル・ヴァーナの進行方向を変更させるために片側だけを噴かした。しばらくブリッジに鈍い振動が走り、そして止まる。射出口の温度がレッドゲージに達して安全装置が作動したのだ。

「どうだ?」

 ブザムの問いにはベルヴェデールが答える。

「ダメです。ニル・ヴァーナの向きが8度傾いただけで進行方向はまったく変わっていません!」

「・・・そうか」

 無駄だと思ってはいたのだが、こうもはっきりと結果を言われるとさすがに落胆の色が出てしまう。

 何か手はないのか?

 あるはずだ。ただ我々はそれを見つけていないだけなのだ。

 探せ、捜せ、さがせ。

 何かあるはずだ。

 探し出すんだ。

 それも早急に探し出すんだ。

「大丈夫さ」

 一斉に、マグノの落ち着いた一言に、みんなが注視した。

「・・・今まで共に戦ってきたアタシらのぺークシスに、自分から星に落ちるような自虐趣味があると思ってるのかい?」

「それは・・・」

 ブザムが口を開くも続く言葉が出ない。

 わかっているのだ。ぺークシスの意志で動いているこのニル・ヴァーナがそんな馬鹿なことなどするはずがない。しかし、本能的なものだろうか、自然と言葉には焦りが生まれ、体には緊張が走り、鼓動が荒くなる。

 そう、それが普通というものだ。誰であっても同じこと。

 しかし、マグノは堂々と頬杖をつき、口元をたっぷりの余裕で緩めている。

 何故こんな風に振る舞えるのかブザムにはわからなかった。

「まぁ、もう少し様子を見ようじゃないか。慌てるのは一番最後で十分だよ」

 その数分後、マグノの余裕を裏付けるかのようにニル・ヴァーナは推進力を上げ、移民船が消えた星の西側とは逆に東側へとその身をゆっくりと移し始める。

 二艦の接触まで、時はあと30分と迫っていた。

 

 

 

          ●

 

 

 

 そこは白かった。回りは真っ白の空間。雲にでもなったかのようだ。

 白の紙に黒いインクを一滴垂らしたように穴が開く。

 そしてそれは広がり、回りの白を吹き飛ばす。

 そこは廊下だった。ニル・ヴァーナのものよりも広く、薄いブルーの廊下だ。そこを8人の男達がレーザー銃を構えて疾走していく。その彼らが向かう先には一枚の隔壁(かくへき)。

 茶髪で少し痩せた感じのする男が隔壁のコンソールをいじり始める。背負っていたカバンの中から車のバッテリーのようなものを取り出し、それとコンソールを一本の線で繋ぐと、ウィーンという音が廊下中に響いた。

 どうやら切れていた電源が復活したようだ。

 男がコンソールをイジル。

 隔壁が開く。

 その向こうにあったのは惨劇の跡だった。数人の男達のモノであろう体のパーツが、鋭利な刃物で切り裂かれたかのように辺りに散らばっていた。

 血が乾いている所から見ても、かなり前のものだと思われるがそれでも悪臭が鼻を襲う。

 茶髪の男が震えながら前へ足を踏み出すと、何かを言った。

「英司・・・ミーシャ・・・なんてことだ」

 男は体を震えさせ、ヒザをついた。一緒にいた男が彼の肩に手を置く。

「・・・行くぞ」

 彼は答える。

「・・・あぁ、ああ。わかっている。俺はそのために来たんだ」

 彼らは再び疾走を始めた。

 それから数枚の隔壁を開けて彼らは進んでいった。

 そしてまた隔壁を開ける。

 ゆっくりと開いていく隔壁の向こう側に何か光るものがあった。細身の銀色の不気味な、片腕のない人型のロボットだった。頭に付けられた一つだけの瞳、モノアイが静かに男達をにらんだ。

 茶髪の男が叫ぶ。

[H01]!!」

 全員が茶髪の男を守るように銃を構えながら前に出る。そして一斉射撃。幾本もの光の筋が走るが銀色のロボットには当たらず、身を低くしてハヤブサのように素早い動きで男達に襲いかかる。一本の腕には大きなナイフが握られていた。

 血が辺りを染め上げた。

 首を、腕を、足を一瞬にして切り裂かれた男達は無様な姿で宙を舞う。

 そして銀色のロボットは動きを止めた。ロボットのカメラが生き残った3人の男を見つめる。

 肩を切られ、血を吹き上げる一人の男が、腰に下げていた何かを取り出す。それはまるで黒い握りこぶし程の大きさの鉄の塊(かたまり)のようだ。彼は言う。

「お前達は先に行け」

「・・・議員!何を言っているんだ!?」

「いいから行け!」

 そう言って男は、握ったモノからピンのようなモノを引き抜くと銀色のロボットに向かって突撃していった。瞬間、ロボットの手が残像する。そして男の腹から胸にかけてを切り裂く。が、男はそれでもなお突撃し、人形に抱きつく。

 内蔵が飛び出る。

「行け!!」

 二人の男はそのわきを通り過ぎ、全速力で走る。

 数秒後、辺り一帯を大きな爆発が包み込んだ。

 爆発のせいではないのだろうがその映像は再び白い煙が包み込む。そして完全に白くなった。

 奥行きも何もかもがわからなくなる。

 真っ白だ。

 そんな中、一筋の青白い光が雷鳴のごとくほとばしった。

「・・・ん、ぁ・・・」

 彼女は自分の額に触れるとじっとりとした汗をかいていることに気がついた。嫌な汗だと思った。

 ゆっくりと覚醒していく自我の中、自分の呼吸が乱れているのを認識した。

「・・・・なんだ・・・?・・・・夢・・?・・・・」

 彼女はベットから半身を起こした。

「・・・酷い夢を見たものだ。まったく・・・」

 出撃が近いというのに、とつぶやこうとして、はっとした。

 出撃?そうだ。出撃だ。不審船の探索任務を自分は与えられていたはずだ。

「しまった!」

 仮眠のつもりがついうっかりした。時は予定時刻過ぎてしまっていた。

 彼女、メイア・ギズボーンは乱れたベットを背に自室を飛び出す。

 パイロットスーツの中で、胸の位置が少しずれていたが直しているヒマはない。

 不自然な胸の揺れ方をしたまま彼女はミーティングルームへ走って行った。

 

 ミーティングルームは予想に反して、誰も居なかった。ライトが付けられ、現在のニル・ヴァーナの前方方向を映しているであろう大型モニターがジーっと小さなノイズを発しているだけ。

 それだけだった。

 ディータやジュラはともかく、バーネットや今回の作戦責任者である副長はいったい何をしているのだ。

 苛立ちすら憶えず、純粋に不思議に思ったメイアは腕時計型の通信機のスイッチを入れる。チャンネルは0.1。ブリッジだ。

「こちらメイア」

 ブリッジは少しだけ間を置いてから返事をした。ブザムの声だ。

『こちらブリッジ。予定時刻より少し遅れている。もうしばらく自由にしていてかまわない』

 そう一息に言われ、あっという間に通信は切られてしまう。

「・・・ふぅ、まいったな」

 メイアはそう言ってグシャグシャの頭を掻いた。

「ん?」

 気のせいだろうか。ニル・ヴァーナがかすかに揺れている気がする。

 ウィーンと音を立てて扉が開く。振り返って見ると、そこには大きなカバンを持ったバーネットがいた。

「あれ、他のみんなは?」

「予定の時刻より遅れるらしい。しばらく自由にしていい、と副長からだ」

「そう、ちょうど良かった。まだ手入れがちゃんと成ってない奴があったのよ」

 そう言って彼女は荷物のカバンを開ける。そこには黒光りする銃器類とたっぷりの弾丸が息を潜めていた。

「これは・・・」

 メイアがのぞき込むとそれらはライトの光を光沢に反射させて、誇らしげに構えているかのようだ。

「・・・・・今回はまたずいぶんと持っていくのだな」

 夢の中で男が握っていたモノと、バーネットの銃が何か近い感じがして、ふと思い出される。

「よっと!」

 見ただけでわかる、ずっしりとした重量感の数々。その内の一つをバーネットは軽々と持ち上げると机の上に置いた。1メートルはあるアサルトライフルだ。

「これはね、AR15って言われる銃の9mmバージョンなんだけどね。はるか昔、これを創っていた国でアサルトライフルを禁止にしようっていう議論が始まったとき、コルト社が・・・」

 メイアは正直しまった、と思った。そういえば以前もこんな事があってその時は延々と自分にはわからない話を聞かされたのだ。パルフェには機械の、バーネットには銃の、話をしてはいけないというのはクルーの間では有名な、というか常識だった。

「それでね。コルト・ライトウェート・ライフルっていわれるようになったんだけど、結局それは当時購入できなかった人に対する・・・」

 手に握る銃の、歴史について語るバーネットはとても嬉しそうだ。まるで自分の子供の自慢をする親のように。

 彼女は口を動かしながらも手も動かした。銃を構え、部屋の一番奥の壁をスコープからのぞく。実際に発射できないのでなんともいえないが、やっぱり少し照準がずれている気がする。せめてもう少し広い場所で調整したかったな、とふと思う。

「・・・バーネット」

 いい加減、話を切らなくては、と思い彼女の名を呼ぶが反応がない。話が続く。

「バーネット!」

「ん?」

「もうその話はいい」

「そう?ここまで聞いたんだから最後まで聞いて欲しいな。あとちょっとなんだけど?」

 そのちょっとがどれだけ長い事か。

「いや、またの機会にしてくれ」

 そう、と意外に簡単にバーネットは言って、再びスコープをのぞく。今の彼女にとってはメイアに愛銃の話をするのもいいが、愛銃とたわむれる方が断然に有意だった。

 部屋を出て行こうとするメイアはふと立ち止まり、振り返る。

「バーネット」

「なぁに?」

 彼女は、今忙しいのよ、と言葉には出さなかったが口調に出ていた。

「その・・・握りこぶしぐらいの、金属塊のようなもので、ピンを抜いて使用する爆弾というのはどんなものなのか知っているか?」

「ん〜?ハンドグレネードのこと?」

「それは・・・その、自爆したりするのに使うのか」

「ううん。まぁ時にはそんな使い方もあったかもしれないけど、実際にはピンを抜いて、敵に向かって放り投げるの。数秒したら中の炸薬(さくやく)が炸裂して広範囲にわたって攻撃を与えられる武器よ」

「・・・そうか」

 嫌な汗がまた出てきた。

「でも戦場で使うには、投げる時の肩の力が必要だったし、正確な狙いが付けづらいという事で兵士のニーズに合わせてのちに、携帯用のグレネードランチャーっていうのが創られたりしたんだけど・・・」

 ここでバーネットがふと思う。どうしたのだろう、今日のメイアはなんだかいつもと違う気がする。というより、大昔の武器についての話なんて彼女はしたことがない。

 バーネットはスコープから眼を離し彼女の顔を見る。酷い顔色だった。

「どうしたの、メイア。気分でも悪いの?」

 バーネットは慌てて彼女に手を伸ばすと、それは、心配ない、という言葉と共に払われてしまった。

 部屋を出て行こうとするメイアにバーネットが言葉を投げる。

「アタシの部屋にいけば、ハンドグレネードが七個ぐらいあるけど、見に来る?」

「いや・・・いい」

 短い言葉と同時に扉はしまった。

「・・・冗談ではない」

 廊下に出たメイアは額の脂汗をぬぐう。

「・・・シャワーでも浴びてくるか」

 パイロットスーツの中でも同じ汗がにじみ出て、気持ち悪かった。

 髪も直さなくてはならないだろうし、短めであれば出撃にも間に合うだろう。

「・・・・・・・・・・・・酷い夢を見たものだ」

 誰もいないバスルームまでの廊下で、メイアは一人つぶやいた。

 

 

 

          ●

 

 

 

 その大きな星の表面は荒れた大地だった。それは開拓以前のタラークのように水気のない粘土質地層の上に砂質地層が覆い、さらにその上をゴテゴテとした岩々が表面をコーティングしている。

 大きな砂塵(さじん)が宙を舞う。

 砕けた岩から生まれた、形のそろっていない小さな粒だった。

 茶色。その星を語るにはその一言に限る。

 地質も茶色。空も砂塵のせいで茶色だ。ただその中で唯一違う色を見せるものが、時折観測できた。水だ。地層の割れ目からわずかに浮き出る地下水が茶色の面に唯一のアクセントとして薄いブルーをかもしだす。

 海、というにはあまりに小さい。泉だ。

 地下からこんこんとわいてくる地下水。しかし、泉は大きくならない。

 何故なら乾いた大気が水分をみんな吸い出してしまうからだ。他にも大小二つある太陽の日光もそれに加担している。夜が非常に短いのだ。

 上記の二つからなる揮発(きはつ)量と、泉からわいて出る水の量、それらはあまりに完璧にバランスがとれているため、泉は大きくも小さくもならなかった。

 揮発した水分も気温が下がる夜の期間に再び地に吸い込まれ、地下水となる。

 完璧な循環。完全なるループルート。

 それはこの星が生まれた数十億年より昔から続いた絶対の理(ことわり)。だが、それがとある時、一瞬にも近い時間ではあったが乱れた時があった。

 百年と数十年前。

 空から飛来した一つの金属の弾丸。撃ち込まれたそれによって地面には穴が空き、辺り一面に強い砂と風の津波が起こった。そしてそれは自らの身体の一部を星の中枢へと穴を掘り始める。ボーリングと呼ばれる機能だ。

 それは確信した。今でこそ荒れた星だが簡単なテラフォーミング(地球化)で人が住むには最適な星になると。

 そして発する、この星の情報を。自分を打ち出した主達の元へ届くように。いつでも来てくれと言うかのように。

 しかし主達は来なかった。百年ほど前に主達のものだと思われる黒い粒が上空に現れたが、それは地表に降りようとはせず、ただ無意味に軌道を回っていた。

 なんてことだ。自分はこんなに一生懸命発しているのにどうして主達は来てくれないんだ。どうしてそこにいるのに来てくれないんだ。

 それは発し続ける。

 百数十年たった今でも。未だ来ない主の姿を求めて。

 そんな無駄だとも思いつつ発していた、それは気づいた。星の軌道上にもう一つの主達が現れたことを。

 それは発し続ける。新たな主にも届くように。

 それがそれの存在意義なのだから。

 

 

 

          ●

 

 

 

「外部より通信。データ情報・・・?」

 アマローネが首をかしげた。

 ブリッジは、ニル・ヴァーナが安全な飛行に移ったためにやっと訪れた安堵の空気に包まれていた。そんな中の外部よりの通信。

「あの移民船からか?」

 ブザムが訊くがアマローネはコンソールを叩いていて返事が少し遅れた。

「いえ、どうやらこの星の地表から、です」

「地表表面に人工物らしき反応。カメラ、ズームします」

 とセルティックが言い終わるより早くメインモニターに何やら白っぽい金属らしき塊が映し出される。サイズは一戸建ての家ぐらいはあるだろうか。てっぺんが尖った、栗のような形だ。

 マグノがつぶやく。

「あれは・・・」

 あれはたしか・・・。どこかで見た記憶がある。なんだっただろうか。ずいぶんと昔。そう、まだ地球で母のヒザに、そして父の腕に抱かれていた時・・・。幼い我が記憶の中に眠るそれ。それは何だった?

 大人達の小難しい話と理論。それは夢にも似た希望。父が自分にはわからない話をとても嬉しそうに語る。

 その言葉を思い出せる。

 そうだ。アレは・・・。

「・・・そうだ。思い出したよ」

 ブザム達が振り返りマグノを見る。

「あれは探査機だ」

「探査機?」

「そうさ。この星は人が住める星か、それとも住めない星か。それを確かめるために移民計画の一番最初にいくつも打ち上げたモノさね」

「しかし、移民計画というのはこの宇宙を人が住める星を探しながら旅をするものではなかったのですか」

 ブザムが訊くとマグノは少し笑った。

「さすがにそんな冒険的な事はしやしないよ。ああいう探査機を何十、何百って創って、めぼしい星に向かって打ち上げ、そしてその中から選んだ星っていうのが今の人の住む星さ」

「それではメジェールやタラークにも?」

 セルティックが訊く。

「たぁぶん、探せば見つかるだろうね。・・・どれ、そのデータとやらを受信してみな」

 少しの間カチカチというコンソールの音が流れた後、モニターに古い言語で次々と文字が現れる。

「自転周期33時間42分24秒。重力2.215G。平均気温18度。平均湿度56%。大気内容、二酸化炭素75%、窒素12%、酸素2%、ネオン1%未満、クリプトン1%未満、エトセトラエトセトラ・・・。地下に大量の水あり・・・か」

 文字が半分も読めないオペレーションクルーに変わって、次々とマグノが読み上げる。

「ちょいと手を入れれば人が住むにはなかなかいい星じゃないか。ふぅむ。たぶんこの2.215Gっていうので諦められたんだろうね。人が住むにはさすがにキツイ重力だ」

 マグノは一人しゃべり続け、他のクルー達は少し不思議な話を聞くような顔でいた。

「目標、正面カメラに捕らえました」

 と、アマローネ。

「ふふん。やっと見えたかい。メインモニターをそっちに切り替えておくれ」

 マグノが言うとデータの受信をカット。正面カメラの映像へとモニターは変わる。移民船にズーム。

「何だアレは?」

 ブザムの目線の先にはモニター。その中の移民船の一カ所が青い光を発している。

 それはわかっていた。メジェールでもタラークでも、いつの時代も変わらないブルーの誘導光だ。ここに来い、と言っているのだ。

「誘導光のようですが・・・どの道私達には、今のニル・ヴァーナは動かせませんからね」

 そう言ってベルヴェデールが一人苦笑した。

 この時、エズラがとある事に気づく。コールが入ってきていることに。それは内部からのものではない。外部だ。

「副長!外部より通信が入っています」

 ブザムが彼女の顔を見る。どこからだ?と視線で訊いた。

「発信源はたぶん・・・目標からです」

「回線を開け」

 間を空けないブザムの声だった。

 メインモニターに開かれた回線は最初ノイズしか映さなかったが、十数秒ほど間を空けてからようやく砂嵐に色が混じりだし、そして輪郭(りんかく)を形成し始める。そして現れたのは十代前半の容姿を持つ白い少女だった。彼女は非常に繊細な刺繍(ししゅう)をほどこした純白のドレスを着込み、シルクのようになめらかでしとやかな長い髪を少しだけ揺らした。

『はじめまして皆様方。こちらは多目的移民船[trunk](トランク)です』

 少女の灰色の瞳を見つめながらマグノが対応する。

「おやおや、これはまたずいぶんとかわいらしいお嬢ちゃんだねぇ」

 少女はニッコリと笑った。

『ありがとうございます』

 ここから先はブザムが対応につく。

「我々はマグノ海賊団・・・」

 少女は首をかしげた。

『・・・海賊?』

「あぁ、いや。今現在こちらに敵意はない。略奪するつもりもない。我々はただ・・・」

『存じております。おそらくあなた様方には今現、在艦のコントロールが不能な状態でございましょう?』

 ブザムが後方のマグノと視線を合わせる。マグノがうなずき、そして何か意志の疎通をしたようで、ブザムが告げる。

「・・・そうだ」

 少女は微笑んだ。

『では、第9番宇宙港をご利用ください。誘導光に従い一定の距離まで来られましたらこちらで丁重に誘導させていただきますのでエンジンを停止するようお願いします』

「しかし、こちらは操縦不能なのだが・・・」

『大丈夫です。伝わっていると思いますので』

 たまらずマグノが訊く。

「伝わっている?誰にだい?」

 しかし少女は答えずに微笑んだまま、最後に、

『では皆様方、また後でお会いいたしましょう』

 と告げて回線は一方的に切られてしまう。

 ブリッジは奇妙な沈黙に包まれた。

 

 

 

          ●

 

 

 

 辺りは白かった。ただの白。真っ白。白以外の色も、存在も感じられない。しかしその白の一部が変色を始める。それは白の画用紙に絵の具で一枚の絵を描き上げるようにも見える。ちょっとづつ、ゆっくりと。最初は何なのかわからないのだが、違う色を足していくにつれてそれが人であることがわかるようになる。

 そうしているうちに絵は完成へ導かれる。

 そこは薄暗いバーだった。黄色いランプの照明が西部劇のような雰囲気を出す。木だけで作られた店内。十数人の男が客として酒に口をつける。

 ウェイターがウィスキーを注いだグラスを運ぶ。店の一番奥の丸テーブル。そこには二人の男が居た。一人は茶髪でホッソリとした体型の男。もう一人は丸い眼鏡をかけ、白髪の目立つ黒髪を短くそろえた男。二人とも20代後半の年頃だ。

 茶髪の男がウェイターからグラスを受け取る。一口味わってからそれをテーブルに置いた。彼は言う。

「スティック。そういや、あの子はどうにかなりそうなのか」

 スティックと呼ばれた眼鏡の男がつまみのミックスナッツに手を伸ばしながら答える。

「なんとかなる、かもしれない、という所だ」

「そこまで無理をして、あの子を行かせる必要はないだろう」

「今更言うのか、ルディカラ。今更だぞ?」

「言うさ。言うとも。言い続けてやるさ。会うたびにお前がこう、痩せていったら、誰でも言うだろうさ」

「ダイエット中なんだ」

 そう言って彼は笑い、そして続ける。

「それに痩せていると言ったらお前の方だ」

「それは今に始まった事じゃない。・・・あの子を地球に残してはいけないのか?あの子なら一人でも十分にやっていけるだろうし」

「ルディカラ。・・・オレはあの子に宇宙を見せてやりたい。宇宙へ上がれば人類が進化できる。そう言って始まった移民計画。あの子だって進化できる。地球に残していけばそれは行えない。・・・わかるか?」

 ルディカラはブルーチーズにフォークを刺す。

「わからんよ」

 ルディカラが肩をすくめるがスティックはさほど気にもとめないで話を続けた。

「あの子にはオレよりも立派に育って欲しい。それが出来るだけの技能は与えたつもりだが・・・」

「子供に過剰な期待をかけるのは重荷でしかないぞ」

「わかっている」

 スティックの腕時計が鳴る。

「おっと。もうこんな時間か。金は払っておくからあとは一人でやってくれ」

 立ち上がるスティックにルディカラは言う。

「そんなにがんばってると旅立ちの時には、墓の下だぞ」

「わかっている。・・・・まぁ、万が一そうなった時はお前があの子を導いてやってくれ」

 彼は最後に冗談だ、と笑って付け加えた。

 

 車に付いた泥汚れが、雨で流れ落ちるように、映像の色は溶けるように流れていった。後に残るのは白という名の色のみ。

 青白い光がどこからともなく現れ、フラッシュ。

 数回続いたかと思うようなそれは、瞼(まぶた)を開いたことで終わりを告げた。

 わけのわからない、夢だった。

「ジュラ〜いるんでしょう〜?」

 親しい者の声。バーネットだ。

「入るわよ〜」

 カギのかけ忘れた扉を開け、彼女はその部屋に足を踏み入れた。その部屋は音楽のCDケースが辺りを埋め、菓子類の袋が乱雑に散らばり、入れたまま、冷めてしまっている紅茶が一杯、むなしくテーブルに置かれていた。

 部屋の持ち主は羽毛100%のフカフカとした掛け布団に包まれ、ベットの中で丸くなっていた。布団から綺麗な髪がはみ出ている。

「ジュラそろそろ出発だって副長からの伝言。・・・ねぇ、ジュラ〜行かないの〜?」

 そう言ってバーネットはジュラがかぶっている布団の半分をめくる。てっきり閉じているとばかり思っていた彼女の瞼(まぶた)は小さくではあるが、確かに開かれていた。

「あら?起きてたの?」

「今起きたの。・・・・あ〜ん、バーネット〜変な夢見た〜」

 ジュラはバーネットに抱きつく。

「なによ。夢ぐらい。すぐ忘れるから、さっさと準備しちゃいないさいよ」

 そう言いながらもバーネットは自分に抱きついたジュラの後ろ髪をなでてやる。慰めるように、安心させるように、ゆっくりと。

「それがね。知らないオヤジがなんかお酒飲んでる夢でね」

「・・・・ずいぶん変わった夢を見たのね」

 さすがに女しかいないメジェールで育った者なら、まず一生見る事のない夢だ。バーネットの手が一瞬止まったのもうなずける。

「とにかく、そんな夢の事より、準備しないさい。それとも行かないの?」

「行く」

 即答だった。

 

 あの白い少女が言ったように、ニル・ヴァーナは誘導光に従うように速度を落としてあの目標、彼女が多目的移民船[trunk]と呼んだ、あの艦へと近づいてゆく。

 無論、操縦は未だに不能だ。眼の覚めたバートが重いまぶたを垂らしながらブリッジに座っている。

「なんか、ニル・ヴァーナが乗っ取られたような気がしない?」

 アマローネがセルティックに小声で話しかけと、彼女もそうだね、と同意した。

「乗っ取られるって誰に?」

 ベルヴェデールが二人の会話に割り込む。

「それはやっぱりさっきの・・・」

 セルティックが自分で言っていてふとおかしいなと思う。あんな女の子一人ではどう考えたってこのニル・ヴァーナを、それもあんな遠方から乗っ取るようなマネが出来るはずがない。

「・・・誰でしょう・・・?」

 とセルティックは頭を抱えて言った。

 その時アマローネがレーダーに何かの機影が映ったのを捕らえる。小さい。ドレッドぐらいのものが数機、[trunk]から現れこちらにやってくる。

「副長!正体不明機が7機、こちらに向かってきます」

「モニターに映っている。どうやらただの作業マシンのようだが、注意は払え」

 彼女が言うようにメインモニターに[trunk]から発進したとおぼしき白い機体がこちらへゆっくりとやってきているのが見える。それは白い板のようなボディに四本の作業用アームが取り付けられた、一見ではクモのようにも見える、少々不気味な機体だった。

「ニル・ヴァーナ、エンジン停止。推進力低下していきます」

 アマローネの報告に続き、ベルヴェデール。

「全作業用マシン、ニル・ヴァーナ表面に取り付きました」

 再びアマローネ。

「ニル・ヴァーナ推進力再上昇。エンジンは停止したままなので作業用マシンからの推進力です」

 ブザムがマグノの眼を見て、言う。

「どうやら我々は招待されたようですね」

 マグノはため息混じりに答える。

「予約した憶えはないんだがね。・・・まぁ、いいさ。招待してくるっていうならご厚意に答えようじゃないか。もてなしの一つぐらいあるだろうしね」

 まるで害虫に取り付かれたような姿でニル・ヴァーナはゆっくりと淡いグリーンの要塞へと進んでいく。青い光を発するライトの付近には入港口とおぼしき扉がずっしりと構えており、よく見ると同じような扉が要塞の外壁に一つの円を形どるようにいくつも設置されていた。その数10個。そこからでもこの[trunk]の大きさが想像できる。しかし、さらにわかりやすいのは、近づいたニル・ヴァーナとの、その比だ。それはニル・ヴァーナとドレッドとの比に等しいものだった。つまり[trunk]にとってニル・ヴァーナは小型船というわけだ。

 09と書かれた大きな扉がゆっくりと開く。その向こうには青い光で進路の誘導が行われている。

 ニル・ヴァーナがその身を半分ほど扉の奥に入れた時、長距離レーダーの片隅に数個の影が生まれたが、それを見つけた者は誰もいなかった。

「このニル・ヴァーナがすっぽりとおさまった・・・こりゃ驚きだね」

 マグノのつぶやきは的を射ていた。ニル・ヴァーナは本来、移民船であるイカヅチとマグノ海賊団の戦艦が合体してできた艦だ。よってその形は複雑怪奇なものになってしまい普通のミッションなどの宇宙港には収まらなかった。おまけにただでさえ大きいサイズの移民船との合体ということもあってかなりの巨大艦となってしまったのにも原因がある。よって普段はシャトルを使って行き来し、場合によっては簡単な工作で通路を造ることもあったが、今回のように何もせずに簡単に入港したというのは初めての事だし、おそらくこれからもないだろう。

 ニル・ヴァーナがその全身を宇宙港に入れたのを確認したのか、後方の扉が閉まる。

「あ!」

「なんだい?」

 ベルヴェデールの声にマグノが訊く。

「それが、その。レーダーが消えちゃいました」

「こっちもです」

 と、セルティック。

「どうやらこの、トランクでしたっけ?何か強力なジャミングか、レーダー波を遮断するような作りになっているのかもしれませんね」

 と、エズラ。

 レーダー波を遮断する作りになっているというのなら別にかまうことはないが、もしジャミングだとしたら何かしらの意図を感じずにはいられない。

 マグノはしばし考えたが、結局結論は出ないと判断して肩の力を抜いた。

「ま、しょうがないさ。それよりもどうなってるんだい。外は。さっきからガタガタいってないかい?」

 マグノが言うとメインモニターが外部カメラとリンクして何やら作業用ロボットがせっせと動いている姿を映す。

「なんか固定されてるみたい」

 セルティックの言う通りだった。ニル・ヴァーナを誘導してきたロボット達が何やら大きな吸盤のようなものを外壁に取り付け、そのもう片方を宇宙港の床と結合されている。

「外部より通信。開きます」

 アマローネが言うとメインモニターにあの白い少女が映し出される。

 マグノが訊いた。

「あんたらは今アタシらに何やってるんだい?」

『申し訳ございません。ご説明が遅れました。ただ今あなた様方の船を着艦している所でございます。失礼ながらあなた様方の船は少々特殊な形状をなさっているようで、私達が用意していたドッキングシステムが正常に作動いたしません。よって、アナログではございますが、今回のような措置(そち)をとらせてもらった次第でございます』

 ほう、とブザムが声を漏らした。

『失礼を重ねるようでまことに忍びないのですが、宇宙港への登録をしますのでよろしければ船名と責任者名をお教え願えますか?』

「この船の名はニル・ヴァーナ。責任者はアタシ、マグノ・ビバン。これでいいかい?」

『了解いたしました。・・・ただ今着艦が完了いたしました。重力を入れさせて頂きますので艦内重力をこちらの信号にシンクロしていただきますようお願い申し上げます』

 彼女が言ったのは宇宙港にも重力を入れるのでニル・ヴァーナ内の重力を入れるのと同等量で抜いてくれ、という事だ。もしこれを行わなければ艦内重力、1Gに保たれているニル・ヴァーナが、宇宙港の重力と重なり合って、2Gへと上昇してしまう。

 アマローネの声が上がる。

「シンクロ信号受信。艦内重力レベル減少します」

 ニル・ヴァーナのクルー達は少し重苦しいような、それでいて胃が持ち上がるような、エレベーターに乗っているような気分を受ける。重力調整の微量な誤差によるものだ。

『・・・重力調整完了いたしました。ありがとうございます。第9宇宙港内に酸素充満も完了いたしました。皆様方、ご苦労様でした。ただ今より艦外への出入りも可能となります』

 そう言ってモニターはノイズへと変わった。メインモニターが正面カメラの映像に変わる。ベルヴェデールの操作だ。

「BC。あの子達の出発だ」

 マグノが言うとブザムはうなずく。

「了解。四人はそろっているのか?」

 アマローネ答える。

「三人だけです。ディータがまだ・・・」

 はぁ、とため息がブザムから漏れる。

「艦内放送で呼び出せ」

「了解」

 

『お知らせいたします。ディータ・リーベライ、ただ今すぐ第二出入り口へおこしください。繰り返します・・・・』

「あ、もうこんな時間だ」

 ディータは壁にかけられた時計を見てつぶやいた。

「宇宙人さん。ディータ行ってくるからね」

 彼女の視線の先には、まるで大きな風船のようなものの中で、ベットに寝ているヒビキだ。ベットルームの一室に設置されたそれは一種の無菌室で、一般に携帯用無菌室といわれている。彼はその中で、少しだけ荒い呼吸をしていた。

「ディータが帰ってくるころには宇宙人さん、ちゃんと治ってるてるよね?いつもみたいにお喋りできるようになってるよね?」

 彼女は寝ているヒビキに言う。未だに意識が戻らない、今の彼に返事を期待するのは無駄な事だが、それでも彼女は訊いた。

「ディータがお料理したら、またおいしい、て言って、食べてくれるよね?」

 するとどうだろう。気のせいかもしれない。しかし、違うかもしれない。小さな反応ではあるが確かに、一瞬ではあるが、彼の口もとはいつものように、自信たっぷりにニヤリと笑ったように見えた。普通に考えれば、それは単なる偶然だ、で終わらせてしまうが、ディータにはそれが自分の言葉に反応したようにしか思えなかった。まるで、「あったりめぇだろ。オレの事はいいからさっさと行ってこいよ」、と言っているように思えた。

「うん!宇宙人さん、ディータ行ってくるね!」

 そして彼女は駆けてゆく。愛する人を背に、彼女は駆けていく。

 ベットルームに一人残ったヒビキの枕元には、まだ温もりの残る、弁当箱がそっと置かれていた。

 

 アマローネの報告。

「ディータ到着しました」

 メインモニターは未だ正面の宇宙港内を映していた。それを見ながらブザムが言う。

「よし、扉を開けてやれ」

「第二出入り口のロック解除。・・・オープン」

 アマローネが言って数秒後、今度はベルヴェデールが口を開いた。

「あれ?第二出入り口の扉、手動で閉まりました。ディータ達はまだ出ていませんが・・・」

「何をしているんだ?」

「通信が入ってます」

 と、アマローネ。

「開け」

『さっむ〜い!!お頭〜この事、ディータ聞いてないですよ〜!!』

『ちょっと!どうなってんの!?ものすごい寒い、というより冷たいわよ!!』

『これはちょっと・・・』

『副長、今の装備ではさすがに・・・』

 四人が同時に喋り、どれが誰の声なんのかよくわからなかったが、とにかく寒いという単語だけはブザムは理解した。彼女は聞いた。

「外の温度は?」

 エズラがコンソールをいじる。そして苦笑した。

「外の温度はだいたい・・・3度です」

 マグノが言う。

「そりゃ寒いね」

 ブザムが続く。

「寒いですね」

 ベルヴェデールがさらに続く。

「寒いでしょう」

 アマローネがなおも続く。

「寒いです」

 最後にセルティック。

「寒すぎます」

 ブザムは四人に厚着をしていけ、と告げた。

 

 

 

          ●

 

 

 

 四人は取りあえず、目に付いた扉へと向かって歩き始める。その宇宙港は全体的に薄い灰色、または白といってもいいかもしれない。基本的にそのような色を基調として全体を構成されており、どこか清潔感が漂っている。だが、照明が弱いせいか全体がぼんやりとした風景に見えてしまい、人によっては不気味な印象を受けるだろう。

 貨物用の大きな扉とそのわきに人間用の小さな扉がある。四人は、当然人間用の扉を進む。てっきりコンソールでの操作がいるかと思われたが、近づいただけで開く自動開閉システムだった。

 扉を抜けた先は、ニル・ヴァーナのものよりも広く、無骨な感じのする通路だった。やはり薄い灰色と白を基調としており、照明も弱かった。横幅や高さからも考えて車一台ぐらいなら十分に走行が可能だろう。

 道はしばらく一本道だった。

 四人はメイアを先頭に一人、後ろに三人が並んで歩いていく。

「これだけ着てもまだ寒いよ〜」

 ディータがそういってピンクの手袋にはぁ〜と息を吹きかける。その息は真っ白な、タバコのような煙となって宙を流れた。

 ディータは赤と白の二色のコート、クリスマス仕様だ。去年のクリスマスパーティーの時にアマローネが着ていたものを急いで借りてきた代物だった。 (詳しくは1st、white loveをごらんください。アマローネの褐色の肌に赤と白のコートがよく似合っています byアマきむち) セットでついてきた三角帽子はさすがに遠慮した。

「動き回ってれば少しは暖かくなるわよ。いつもみたいにね」

 そう言って肩に背負った大きなカバンを背負い直すのはバーネットだ。彼女はどこかの国の灰色の軍服に身を包み、その上から腰にホルスターを締め、その中にSTRIKER(スライド式のハンドガン)を納めていた。

「空気が乾燥してるからお肌にすっごいダメージじゃない。あ〜ん、もうなんでこんなのにジュラがつき合わなきゃ行けないの」

 ジュラは腰に手を当てて悪態をつく。彼女はどこかの舞踏会にでも行くかのような真っ赤で豪華なコートを羽織っていた。ちりばめられた宝石のようなものがわずかに輝く。何かが間違っている、と思うのはディータの思い過ごしではないだろう。

 バーネットがため息混じりに言う。

「じゃ、帰る?」

「行く」

 即答だった。

「三人ともうるさいぞ。今は任務の最中だという事を忘れるな」

 少しばかり苛立ったメイアの声が三人にぶつけられるが、三人はクスクスと笑った。

「な、なにを笑う・・・」

 メイアも多少の自覚があるのか口調が崩れる。

「だって・・・」

 バーネットが笑いをこらえながら横のジュラに視線を送る。

「・・・ねぇ」

 そして三人はメイアの姿を足の先から頭までじっくりとながめた。

 普段着すらロクに持っていないメイアだ。コートなどというものは当然もっておらず(ディータもだったが)、人から借りたのだが・・・。借りた人間が悪かった。

 少し前の事。

「すまないが何かコートのような、あぁいや、寒さがしのげればなんでもいい。何か貸してくれないか?」

 と、メイア。

「ええ、いいですよ」

 と少女はすぐに答えた。後で持っていくから出入り口で待っていて、と彼女は付け加える。

 そして数分後、彼女は持ってきた。両手に抱えて。

 メイアは、さすがにそれを断ってしまったら、すでに準備が整っている他の三人に迷惑がかかると思い、恥を承知で受け取ってしまう。

「寒さを防ぐにはこれが一番ですよ!」

 と少女は・・・セルティックは言った。

 そして、クマの着ぐるみメイア、のできあがりである。普段の彼女の性格とそのかわいらしい姿とのギャップがディータ達の笑いを誘う。

 せめて顔の見えない初期タイプにしてほしかった、とメイアは思う。よりによってセルティックが持ってきたのは、彼女の後期お気に入り、クマの着ぐるみでそれは頭のパーツから顔だけが見えるタイプのものだ。

 それはたしかに暖かい、いや、むしろ熱かった。それはメイアの羞恥心からくるものだろうか。

「う、うるさい!先を急ぐぞ」

 そう言ってメイアは先を一人、ずんずんと進んでいく。だが、後ろからはクマが一匹、二足歩行しているようにしか見えないのだが・・・。

 そうして三人と一匹は・・・失礼。四人は少々の笑いを含めつつ先を急いだ。

 彼女達の後方より白いボールのようなものが浮遊して近づいてくる。

 しばらく歩いていくと小さなホールのような所へと出ることができた。天井がアーチ状に高く、他よりライトがさらに弱く、薄暗かった。わずかに床から青白い光を発している。

 道はそこから三本あり(来た道を含めると四本)、どれを進むべきか、メイアは立ち止まる。

「結局、ジュラ達ってどこに行くの?」

 ジュラの言う通り、廃棄されたミッションとは違い、住民がいる以上、勝手気ままに行動するわけにもいかない。こういう場合は上からの命令を従事するべきなのだろうが、お頭達から与えられた命令というのはどうして自分たちがここに来たかを調べよ、というものだ。しかし、調べよといっても何をしていいのかがわからない。唯一道があるとすればあの白い少女とどうにかしてコンタクトを取ることだが、その少女もどこにいるかわからない。普通の艦と違って、極めて大きいこの艦だ。手探りで探してそう簡単に見つかるというものではないだろう。

 普通に考えれば八方ふさがり、というわけだ。

 クマが・・・あ、いや、メイアが言う。

「いくら異様だからといっても、一応移民船だ。どこかにブリッジのようなものがあるだろう。まずはそこを探し出してみよう。おそらくここの艦長がいるはずだ」

 なるほど、とジュラは思う。だが、クマの格好でそういう事を言われても何かこう、説得力というものがない。

「基本的に移民船のブリッジは、艦の中央かその上方にあるように出来てるピョロ」

 と後方にいつの間にか居た、白い卵のような形の浮遊物が言う。ピョロだった。

「なんであんたが居るのよ?」

 バーネットが訊くとピョロは胸を張るようにして少し気取って言った。

「ピョロはレディ達を守る一種の用心棒だピョロ」

「頼りない用心棒ね」

 ジュラが言うとピョロはすぐに何をぅ!と言って彼女に喰ってかかる。

 ディータはそんな彼女らを背にしてホール内を見回す。天井と壁、それぞれにいくつかの監視カメラのようなものが取り付けられている以外は質素にまとめられた空間だなぁと思った。それと同時にライトが弱いせいか、どこか不気味に感じる。なんか・・・

「幽霊でもでてきそう・・・・」

 そう、そんな感じだった。

 メイアがため息混じりに言う。

「何を非科学的な事を・・・。廃棄された艦ならともかくまだ人がいる移民船で・・・」

 メイアの言葉は誰かの声に遮られる。

「皆様方、お初にお目にかかります」

 その声は最初天井から聞こえていたように感じられたが、それはすぐに間違いだと気づく。何故ならホールの中央に突如としてあの白い少女が現れたのだから。

 全員が、言い合っていたピョロもジュラの胸に顔を埋めた状態で固まってしまった。皆が注視する中、少女は続ける。

「私はこの多目的移民船[trunk]の艦長を承っております、サリーアという者です。以後お見知りおきを」

 そう言って彼女は白いドレスのすそをつまんで軽く会釈する。

 その姿にディータは見覚えがあるような気がした。まるで高級なフランス人形のように均整の取れた顔と姿勢、そして純白のドレス。腰まである長い絹のような白髪。歳は10かそこらなのだろうがどうにも、かわいいという言葉があまり似合わない。むしろ華奢(きゃしゃ)で綺麗だ、という方が適切だと感じられる。

 どこかで会っただろうか。しかし会うはずがないのだが・・・。

 ディータは自分の記憶を片っ端から調べてみるが、やはり思い当たるふしはない。

 彼女は少女はまだ頭を下げている事に気づき、それにはっとしてディータも頭を下げる。

「は、初めまして!あたし、ディータ・リーベライと申す者・・・ってアレあの。以後お、お見知りお・・・」

 眼の前の少女の口調に合わせようとディータは試みるのだが、普段から使わない挨拶は急といこともあって、どうもうまくいかない。メイアがため息を一つ吐いて彼女の肩に手を置く。下がっていろという意味らしい。

「私はマグノ海賊団ドレッドチームリーダーをやっているメイアという者だ。現在、我々の母艦であるニル・ヴァーナは・・・」

 少女は微笑むとメイアの言葉の続きを言った。

「存じております。操縦不能でここまでいらっしゃったのでしょう?」

 メイアの瞳が鋭さを増す。

「何故・・・それを知っている?」

 少女は微笑んだまま彼女らを見渡す。

「それは・・・」

 少女は微笑んだまましばらくの間固まってしまう。そして、微笑みがやや引きつる。

「皆様方は、その。失礼と受け取られるかもしれませんが・・・その。少々個性的な方達なのですね」

 確かにそうだろう。それが当然だろう。なにせ、季節はずれのクリスマスコート、灰色の軍服、舞踏会コート、そしてクマの着ぐるみと謎の浮遊物。せめてどれか一つなら、一種類に統一されていればまだ納得がいったのだが、この組み合わせは果たしてどういうような意図があるのか。そして何を狙っているのか、そういったことがまったくわからない、怪しげな集団だ。これらを見て何も感じないという者がいたら少しおつむがどうかしているのかもしれない。

「・・・・・・っ」

 メイアは少し赤くなってうつむいてしまう。たぶん一番おかしいのは自分であるというのを自覚しているからだろう。

 彼女は深呼吸して、気分を整える。そして顔を上げた。

「私の質問に答えてくれ。何故、我々の艦が操縦不能でここまで来た、ということをわかっていたのかを」

 少女はやっと自然な微笑みを取り戻す。

「お話をするにはもっと落ち着いた場所の方がよろしいでしょう。使いの者をご用意させていただきますのでそれの後にお続きください」

 彼女はそっと通路の一つへ手を向ける。手に付けられたシルバーのチェーンブレスレットがチャリ、と小さな音をたてた。

 サリーアが手を向けたその通路の奥から何やら白く丸い物体が浮遊して近づいてくるのがわかった。

「あれ、ピョロじゃない?」

 そう言ってバーネットがピョロ自身に訊くと、彼もまた興味を持ったようでその浮遊物へと近寄る。

「ああ、これはピョロのご先祖様だピョロ!これは比式0号、またはプロトタイプ型ナビゲーションロボと呼ばれているピョロよりも六代前のモデルピョロよ」

 そう言って彼は白いご先祖差の肩(?)をポンポンと叩く。その比式0号はピョロよりもいくらか大きくより球体に近い形をしている。無論手足はない。

「これについて行け、ということか?・・・・・なに!?」

 比式0号から白い少女へとメイアが視線を移すとそこには誰もいない。

「あれ?あれれ?さっきの女の子は?」

 ディータも慌てて辺りに視線を巡らす。が、いるのは四人と二機のナビロボだけだった。

「ま、まさか、本当にゆ、幽霊・・・!?」

 ディータが妄想に走り出したのを尻目にメイアが、すっと天井を、そして壁を見回す。

「やっぱりここ何か居るよう!何か棲(す)んでるよう!」

「ディータ落ち着け。アレを見ろ」

 メイアは天井を指さす。そこには少々変わった形のカメラが一つこちらをにらんでいた。

「あれ・・・は?」

「おそらくさっきのはホログラム(立体映像)だ。天井と壁に付けられた投射機から何か特殊な光をだして、あたかもそこにいるかのように映した映像にすぎない」

「そ、そうなの・・・?」

 ディータが見上げるように、バーネット達も見上げる。なるほど、たしかにメジェールにもそんな技術があったような気がする。

 だが、しかし・・・。

「・・・さぁ行こう」

 比式0号が一つの通路を選び、進み出す。それに従ってメイア達が続く。

「どうしたピョロか?」

 最後までホールの天井を見上げていたバーネットにピョロが話しかける。彼女は彼の頭にポンと手を置いてなんでもない、と告げた。

 バーネットは歩みながら考えた。

 ホログラムを作るには特殊な状況下が必要なはず。特殊な液体を霧化して散布したり、空気中の水分子を利用するものもあるが、それは湿度が高くないとできないはず。

 なぜなら、ホログラムというのは空気中の何かしらの被写体に光を反射させることによって立体的に見せるものだからだ。

 しかしこの状況下、気温が3度しかないということは空気中の飽和水蒸気量がそうとう低下してしまっているはず。つまり湿度は極めて低いはずなのだが・・・。

「・・・・・きっとそうとう高性能な機械なんでしょ」

 とバーネットは納得させるように自分自身につぶやいた。

 

 

 

          ●

 

 

 

 同刻、ニル・ヴァーナのブリッジ。

「結局アタシらはヒマなままなのかい」

 そう言ってマグノはあくびを一つ。

「お頭〜、もういいでしょ〜僕を自由にしてくださいよ〜」

 そう哀願するのは未だにブリッジに居続けるバートだ。

「ダメだ。さっきから言ってるだろ?何が起きてもすぐに対応できなきゃ操舵士じゃないよ」

「しかしですね、この状況はどうです。着艦してるんですよ?僕に何をしろとおっしゃるんです?」

「BC、今のうちにぺークシスの様子を見ておくようにパルフェに伝えておくれ」

 マグノの言葉にブザムは了解、とすぐに答え、バートが、

「だあぁ〜・・・・」

 とうめく。そんな様子を眺め、アマローネはクスクスと笑いながらコンソールを叩いた。

「機関室との通信回線開きます」

 メインモニターの向こうではパルフェが汗を流している。きっとドレッドとヴァンガードの修理や機関室の仕事などで大忙しなのであろう。

『はぁい!こちら機関室!』

「パルフェや。ぺークシスは今、どんな感じだい?」

『それが・・・さっき着艦が完了したぐらいから、急に安定し始めました。それから・・・』

 急激にノイズが濃くなり、一瞬パルフェの顔が消える。が、数秒後には何もなかったかのように安定を取り戻す。

「なんだい。調子悪いんじゃないか」

『今のはぺークシスのせいじゃないですよ。もっと技術的なもので・・・そろそろニル・ヴァーナ全体でのメンテナンスが必要な時期なのかもしれませんね。よく考えたら合体してからまともにやったような記憶もありませんし、今まで不具合が少なかったのが奇跡的ですよ』

「まぁその辺はアンタにまかせるよ。・・・それで、だ。安定しているってことはこちらの意志で動かせるのかい?」

 パルフェが眉を八の字に寄せる。

『そこまでは試してみないとなんともいえません』

「にいちゃん、待ちに待った出番だよ!」

 マグノに言われるまでもなく、バートはすでにナビゲーション席に向かって駆けだしていた。アイアイサーという声と共に。

「でりゃー!」

 バートが飛び込む、そして、

「ぐはぁああ!!」

 すぐに吐き出され、ドテっと床に叩きつけられる。無様だった。

「こりゃダメだね。パルフェや、まだ・・・おや?」

 マグノが見つめた先のメインモニターには今はもうノイズしか映し出されていなかった。

 彼女はつぶやく。

「やれやれ。こいつは本格的にメンテナンスが必要みたいだね」

 

 

 

          ●

 

 

 

 一列に、メイア、ディータ、ピョロ、ジュラ、バーネットの順で並んで彼女達は比式0号についていく。業務用の、車一台ぐらいならすっぽりと収まるほどのエレベータに乗り、ついた地点も同じような通路が続いていた。

 彼女らが再び通路は歩き始めてすぐ、ジュラが唐突に立ち止まる。

「ちょっとジュラ、どうしたの?」

 バーネットが話しかけるとすぐに彼女はシーッというサインを見せる。そのグリーンの眼は何かしらの悪巧みをこしらえている眼だ、とバーネットは長年の付き合いよりすぐに読みとったが、場が場だけにそれはまずいだろうと彼女の背を無言で押す。さっさと歩け、ということだ。

「え〜、お願いバーネット〜」

 ジュラは彼女の耳元で悩ましげな声で、小声ではあったが駄々をこねる。

「無理よ。早く行くの」

「お願い、バーネット〜」

「ダメ。ほら置いてかれちゃうわよ」

 ジュラの瞳が少しだけ潤み、バーネットに抱きつく。

「バーネットはジュラよりもそっちの方が大切・・・?」

「・・・そっちってどっちよ?」

 もっともな問いの返しではあったが、ジュラは聞かずに続ける。

「お願い。お願いだからバーネットぉ〜」

 たぶんジュラの瞳の潤みは嘘だろう、とバーネットには予想がついたが、こう間近でそれをこれ見よがしされると、嘘だ、の一言で突き放すことができない。それはバーネットの優しさからくるものなのか、それともジュラを想う気持ちからくるものなのかはわからないが、彼女はため息を吐き、そっとジュラの肩に手をかける。

「いいジュラ。あなたが何をしたいのか知らないけど、今はダメよ。ちゃんと一段落ついたら話は聞いてあげるけど、今は・・・」

「今は・・・?」

 ジュラの声におや、とバーネットは思った。さっきまでのお涙ちょうだいの声ではない。どこかしてやったりという口調だ。

「・・・?」

 ジュラの思惑がわからず、バーネットは考えられる彼女の目的をあれこれとイメージする。が、ダメだ。思いつかない。

「ねぇ・・・バーネット」

 ジュラには潤みは消え、代わりにヨコシマな笑顔が浮かぶ。

「な、なによ・・・?」

「そうよねぇ。バーネットが不安になるのもわかるわ。だって今は何もわからない状態なんですものね」

 ジュラはニヤ〜と笑ってみせる。この時、やっとバーネットは気づいた。

「・・・しまった!」

 彼女は抱きつくジュラから逃れ、走った。消えたメイア達の背中を求めて。しかし・・・。

「・・・や、やられた・・・」

 バーネットは白いため息をたっぷりとはき出して言った。先を進んでみるとそこは先ほどもあったような小さなホールになっており道が、今度は四つに別れていた。一応、プレートが張ってあり道ごとの行き先はわかるのだが、最初から目的地を知らされていないためどこに行っていいかはまったくわからない。

 そして、ジュラが狙っていたのはこれだ。メイア達をさっさと先に行かせ、その姿が消えるまでの間、自分はバーネットの眼をくらませる。そうする事で、本来の彼女の思惑通り、この移民船内を自由に行動できるようになったのだ。半ば強制的にバーネットも連れて。

 普段のジュラらしかぬ、綿密に計算された計画だった。

「さぁ、バーネット。メイア達を探しにいきましょう!」

 そう言ってジュラはバーネットの背に抱きつく。

「わかったわよぉ。もぅ・・・」

 二人は適当に真ん中の道を行く。プレートには『地下市街』と書かれていた。

 バーネットは、もうメイア達と会う事はないだろうなぁ、と予想していた。

 

 機関室はぺークシスの安定を取り戻したことで少しばかり落ち着きを持っていた。そんな中パルフェが何やらカチカチと忙しくコンソールを叩いている。

「お頭達との通信切れちゃったか。まいったなぁ、何もこんな時に切れなくてもいいのに・・・」

 パルフェはいったん手を止め、ポリポリと頭を掻く。そこで彼女はふと思い出した。自分が最後にお風呂に入ったのっていつだっけ・・・?確か今日はぺークシスの異常やらドレッドの修理やらで手間がかかってとても入浴に費やせるような時間はなかった。その前はレジシステムの換装アームが壊れたとかで一日中修理していて、入っていない。結局二日入浴していないって事になる。ついでにいうと徹夜明けだ。このままだと二日目に突入するかも。

 食事は仕事をしながらでもできるが、睡眠と入浴というのはそれだけになってしまう。

 ・・・・よくよく考えてみれば顔も油っぽくなってるし、下着は何度となく汗を吸い込みそして乾燥し、たぶん臭いを発しているだろう。掻いた髪はパサパサと乾燥しつつも、根本だけは頭油でなんかじっとりとしている気がする。よく今まで気づかなかったモノだと自分でも思う。

 パルフェは確信する。

「・・・今のあたしは不潔だね」

 はぁ、という声と共に彼女はつぶやいた。

「どうしたのパルフェ?」

 後ろで荷物運びをしていたメガネの子 (といっても機関クルー全員がそうなのだが) が普段とは違う彼女の様子に訊いた。

「あのさ、手が空いてたらこの通信回線どうにかしといて」

「いいけど、パルフェは?」

「ちょっとお風呂入って、すこしだけ寝るわ」

 そういって彼女は機関室から彼女は姿を消した。パルフェが自ら休息をとるというのは極めて異例な事で、通信回線の仕事が極めて難解な問題を抱えているのでは?と頼まれたクルーは誤解してしまう。よって彼女は手の空いている機関クルー全員を集めて通信回線の復旧作業を開始するのだった。

 それが誤解だったとわかるまで四十分。そしてその判断が実は偶然にも、賢明な判断だったとわかるまで、この後一時間を要するのだった。

 

 

 

          ●

 

 

 

 厚い扉を開くとそこは街だった。空を見上げると、ニル・ヴァーナのブリッジのように宇宙が見え、その天井の所々に照明がつけられ、街をぼんやりと照らしている。それは等間隔には付けられてはおらずランダムでまるで照明の一つ一つが大きな星のようだ。

 その照明達が放つ光が平均して力がない。まるで曇り空のような明るさだった。

「うわ〜すっご〜い」

 ディータがその街を見渡す。本やビデオでは見たことのある、本当の街だ。ミッションなどのような、まるで大きなビルの中のような感じではなく、本当に店があり、家があり、街頭があり、公園があり、小さなビルが建ち、遠くには学校のような建物も見える。ミッションや船の中とは違う、開放感にあふれている。

 唯一不自然に感じるのはこれだけ大きいのに人が自分たち以外にはいないということぐらいだ。

「あれはなんだ?」

 クマメイアがつぶやき、見つめる先には、街の中心に大きな、他のモノとは違う、異様に太く大きなタワーが天井にまで伸びている姿がある。

 先頭を進んでいた比式0号がくるりと反転し、モニター上にここの地図であろうドーナッツのような画像を映す。そして説明が極めて合成的な声で行われた。

『街の中心にそびえ立つものは、タワーと呼ばれるこの艦の総合ブリッジである。タワーを中心にこの街は半径9キロメートルの市街が形成され、さらにその回りには宇宙港が並ぶ。また、タワーにはブリッジとしての役割だけでなく、動力源とするぺークシスプラグマもタワーの地下部分に設置され、いわばこの艦の心臓部であり頭部である。ゆえにタワーのみを切り離し、脱出艇とすることも可能であるがそのためには第8警戒を宣告されなくては利用できない。第8警戒警報が発令された場合に限り一般市民はタワーに避難することが許される。よって・・・』

「アハっこの子お話できるんじゃない」

 そう言ってディータは比式0号の頭を良い子良い子というようになでてやる。喜んでいるというわけではないのだろうが、比式0号はその身をプルプルと左右に振るわせるとモニターを切り替えた。そこには走行中のバスが映し出される。説明が流れた。

『現在迎えの足を準備中です。今しばらくの待機を願います』

「あ!あれかな?」

 ディータが指さすところには、モニターに映し出されたバスと同じものがこちらに向かって走ってくるのが見える。

「運転手はなし、か。遠隔操作・・・?」

 メイアがつぶやくとそれに答えるように比式0号が言う。

『この多目的移民船[trunk]には[P.A.N](パン)と呼ばれる特殊機構によってほとんどのコンピューターと一つのネットワークを共有している。よってあのような車の遠隔操作も可能である。また、切り替えによって手動で操縦するこも可能である』

 そしてバスは彼女らの前で止まり、その口を開く。ディータがのぞいて見た所、中は非常に豪華に作られており、天井には小さなシャンデリアが輝き、床には背こそ低いが、赤い絨毯(じゅうたん)がひかれ、椅子も一つ一つが大きく、ゆったりとした、まるでファーストクラスの席のようだ。ただ、バスの中の気温も低い。

「リーダー早く乗ろう!」

 ディータはまるで遊園地に来た子供のように、比式0号を抱えてバスの中へと飛び込んだ。そしてポンポンと弾力のある椅子に腰を下ろす。

「ディ、ディータ・・・すまない、手を・・・」

「もう、メイア何やってるピョロか〜。う〜〜ん」

 出入り口を見やると、クマメイアが着ぐるみが邪魔になり中に入れないでもがいており、その彼女の背中をピョロが一生懸命押し込んでいた。

 ディータが苦笑しているとふと、あの二人が居ない事に気づく。

「あれぇ?ジュラ達は・・・?」

 それに比式0号は答えようとはしなかった。

 

 そのころ、噂のジュラ達はというと、廃墟のような場所を歩いていた。

「何か気味悪いわね」

「あ〜んバーネットやっぱさっきのトコ戻ろう」

 そう言ってジュラはバーネットの腕にからみつくが、バーネットは止まらずに歩き続ける。

「火事でもあったのかしら・・・?」

 その場所は確かに地下市街だ。天井は三メータぐらいしかなく、両脇には店が建ち並ぶ。しかし、そのほとんどがまるで業火にでも焼かれたのごとく真っ黒に燃え尽きており、元がなんなのかわからないほどだ。照明がほとんど灯っていないというのもその黒さを強調している手助けをしているのかもしれない。明かりは非常灯だけだ。

 足下にはゴロゴロとした瓦礫のようなものが広がっており、極めて歩きづらい。

「あ、バーネット。人がいる」

 そう言ってジュラが指さした場所には、なるほど人らしき影がぼんやりと非常灯の明かりを背に受け、浮かんでいる。ヘッドライトでもついているのか小さな光がこちらに向けられていた。

 バーネット達は歩きながら言う。

「すみません、私達ついさっきここに来た者なんですけど、ガイドのナビロボとはぐれちゃって・・・どこに行けばいいかわかりません?」

「え〜、バーネット。それじゃつまんないわよ〜」

「・・・アンタさっき帰ろうって言ってたじゃない」

 人影はすっと、こちらへ向かってくる。ゆっくりと足音すら聞こえない程、慎重な歩みで・・・。

 

 

 

          ●

 

 

 

「こっちもダメだわ〜」

「パルフェが投げ出したのもわかるわねぇ」

「な〜んでかなぁ。おかしいところはないと思うんだけどなぁ」

「でも、繋がらない」

「その通り」

 機関室では手の空いている者 (といっても全員忙しいので、正確には比較的手が空いている方の者達である) の収集がかけられ、八人の手によって通信回線の復旧に奮闘していた。

「さっきはブリッジだけだったけど今はレジの方もダメだわ。繋がんない」

「なんか時間が経つにつれて問題が増えてくわね」

「せめてパルフェがいてくれればねぇ」

「なぁに?」

 とパルフェ。

 機関クルーから悲鳴に似た驚きの声が上がる。

「パ、パルフェ、お風呂じゃなかったの・・・?」

「うん、今入ってきたよ」

「それから寝るんじゃなかったの?」

「これから。やっぱ仕事は中途半端にしちゃいけないでしょ?せめて通信回線のトコだけでも直してから寝ることにしたの・・・それよりさ、どうしてこんな大人数でやってるわけ?」

 そう言ってパルフェがタオルを下げた首をかたむける。八人で大人数、というのは機関クルーは常に求められる手の一つであり、何かと四六時中忙しく、八人なんてそうそうに集まったりはしないからだ。ドレッドの修理だって三人が普通なのだから、八人というはよほどの事が起きなければ集まるようなものではなかった。

「だってパルフェが投げ出したって」

「あぁ、それで」

 彼女は苦笑して続けた。

「別に投げ出したわけじゃないよ。ただ最近お風呂に入ってないなぁと思ってさぁ」

 なぁんだ、と言って少女達は少し笑った。

「あ、そういえば・・・・アレどうしたの?」

 と、パルフェが指さしたのは機関室の扉だ。今は開けたままになっている。

「何?」

「いやね、さっきアタシが今部屋に入ろうとした時自動で開かなかったんだよね。それで手で開けたわけなんだけど・・・」

 どうりで音がしなかったわけだ、と機関クルーの一人は思ったが、重要なのはそこではない。扉が開かなかった・・・?

「ま、いいわ。そんなことより回線の方を先にやっちゃいましょう。大人数の方が早く終わるだろうしね」

 うん、と少女達はうなずいた。

 

 

 

          ●

 

 

 

 バスが止まったのは、タワーのすぐ付近にあるレストランの前だった。一見するとそれはちょっとした豪邸か城のようにも見える。実際、ディータが最初に間違えて比式0号に訂正された。

 足を一歩踏み込むとそこは、非常に暖かい。まるでさっきまでの空間とは別世界のようだ。

「うわ〜あったか〜い」

 かかとまで埋まるほどの背の高い絨毯を進み、レストランの一番奥へとメイア達は案内された。そこはVIP中のVIPが来るような場所なのだろう、絵や彫像やなどの芸術品が並び、高い天井からは大きなシャンデリアが明かりを提供している。ここは他とは違ってとても明るかった。

 比式0号が言う。

『お着られになられているコートをお預かりします』

 そうするとどこからかコートかけが浮いた状態で現れる。ナビロボと同じ反重力を利用しているのだろう。

「ピョロ、すまないが、背中の・・・」

「はいはい了解だピョロ」

 背中のチャックをピョロに開けてもらうと、クマの着ぐるみから脱皮するようにパイロットスーツを着たメイアの身体が現れる。

「・・・ふぅ」

 と、メイアの口から安堵の声が漏れた。彼女の気質から考えてこの着ぐるみを身につけての行動というのはどれだけ苦痛であったことか、想像するに哀れである。

「お疲れ様、リーダー」

 さすがにディータもメイアにねぎらいの言葉をかけるが、メイアにとってそれは恥ずかしさの増長に繋がるようだ。顔が自然と赤くなるのが自分でもわかった。彼女はその羞恥心を忘れるように比式0号に声をかけた。

「・・・・我々はここでどうすればいい?」

『席にお座りください』

 二人は大きな長テーブルに肩を並べるようにして座り、その間をピョロがふわふわと浮遊して待っていると扉を開けて一体のロボットが何やら皿の乗った台車を押して入ってくる。そのロボットは銀色のほっそりとしたボディに手足、そして一つの目のような大きいカメラを頭に付けた少々不気味なロボットだが、何より不気味さを強調しているのはその手首だ。他の身体パーツはメカニカルな感じなのだが、どういうわけか、両手首だけはまるで人間の、生の手足をつけたような不気味な代物となっている。そして妙に不自然な黒い革靴を履いていた。

 そのロボットの腕には[H02]と書かれていた。

 メイアがそのロボットを見て何かに気がついた。

「あれは・・・・」

 その姿は夢に出てきたあの[H01]と呼ばれていた片腕のナイフを持ったロボットとほぼ同じであるように思える。しかし、どういうわけかはっきりと思い出せない。たしかに、夢でこのロボットと似たようなモノを見たような気がするのだが・・・見ていないような気もする。デジャヴだろうか。

 そんな彼女の異変を察してか、ディータが言う。

「リーダー大丈夫・・・?」

「いや、なんでもない。大丈夫だ。・・・あぁ大丈夫だ」

 一つはディータに、そして一つは自分に向けて言った言葉だった。

 [H02]と書かれたロボットは手に何やら中身の乗った皿を手に取る。

「ねぇねぇ、アレなに?」

 ディータが比式0号に聞くと彼は、少し遅めのディナーです、と短く告げる。そして[H02]がウェイターのように次々とテーブルに並べていく。小さめとパンと冷製ポタージュスープ。そして小さなカップに入れられたサラダ。そしてメニューらしき薄い、数ページしかない本を二人の前に開く。

「・・・?この中から選ぶの・・・?」

 ディータが訊くと[H02]は答えず、比式0号が、はい、お好きなものをどうぞ、と言った。

 メニューに書かれていた文字はほとんど読めなかったが、取りあえず〜〜コースと書かれているものを選んでみた。すると[H-02]は一礼して、台車と共に姿を消す。

「ねぇ、リーダー。ディータ達ってこんなところでお食事してていいのかな?」

 今は自分の夢のことなどどうでもいいことだ。そうだ、今は眼の前の事を考えよう。

「そうだな・・・ジュラ達の行方も心配だ。おい」

 比式0号が反応する。

「我々の仲間が二人、この艦内で行方不明になっている。探せないか?」

 しばらく比式0号が検索中の文字をモニターに映し、それから言った。

『あなた達の言う仲間が誰であるかが不特定です。正確な情報を入力してください』

「そうか・・・容姿でいいのか?」

「たぶん無理だピョロ。比式0号のスペックでは映像から人物の特定というのはいくら特徴を教えても、ちゃんとした視覚と認識力というものが設定されていない以上、無理だピョロよ。ちゃんとした登録ナンバーでも・・・」

 ピョロはその短い指を器用に使ってパチンという音を立てた。

「そうだピョロ!逆にすればOKだピョロよ」

 ディータが頭の上に?マークを作っていると、メイアがそうか、と納得し、次のように比式0号に命令する。

「この艦内で登録ナンバーを持っていない人間を捜してくれ」

『了解・・・・・・・・・検索終了。現在我が管理下には二名の未登録者がいる』

「それだ。場所は?」

『レストラン・クラジック。第二VIPルーム。・・・ここです』

 なんだぁ、と三人(ピョロを含め)は落胆する。

「ジュラ達、もう帰っちゃったのかなぁ?」

 ディータが尋ねるとメイアが、それはないだろう、とすぐに答えた。当然だ。いくら横にバーネットがいるとしてもあのジュラが何せずに帰艦などするはずがない。しかし、いないとすると果たして・・・。

 メイアが思案しているとふと頭の中で先ほどの比式0号の検索結果を思い出した。

「待てよ。・・・おい」

『なんでしょう?』

「さっきは我が管理下といったな。管理下以外というのはどこの事を言うんだ?」

『この多目的移民船[trunk]の外は我の管理下ではない。また、第01号から第10号宇宙港までは設計上管理下には置かれているが、そこにはクルーを特定できるだけの設備がないため、先ほどの貴女の質問から言えば管理下外という判断を下す』

「他にはないピョロか?」

『今の説明にもあるとおり、先ほどの貴女の質問では我がクルーの特定ができない場所は管理下外となる。よって事故によりシステム不調が続く地下市街も我の管理下外といえる。以上』

 どうやらこのナビロボは何かしらの説明をする時はどうも言葉が雑になる傾向があるようだ。

「そこだな。・・・ディータ」

 メイアが振り返るとそこにはパンにかじり付いているディータの姿があった。

「ふぁい?」

「・・・いや、いい」

 メイアは見なかったことにした。

「地下市街へはどうすれば行ける?」

『地下市街へはいくつかのルートが確保されている。しかし、貴女らは客人として我は粗相なく迎えるよう主から命を受けている。よってあの区域へ貴女らを案内することは容認できない。我の命はここで貴女らに食事をもてなせと承っている。よって、それ以上の権利は与えられていない。それ以上の貴女らの行動は主に直接尋ねるしかない』

「主とは誰だピョロ?」

『我の主である』

「そうくるピョロか・・・」

「ならばその主とはどうすれば会える?」

『貴女らがディナーを終えるころには現れる予定である』

「それはつまり・・・」

「ディナーを終えなきゃ会えない、という事だピョロ」

 すでにパンとサラダをたいらげたディータはスープに口をつけていた。彼女は満面の笑みで言った。

「リーダー、リーダー!ここの料理すっごいおいしいよ。このスープどうやって作ってるのかなぁ?宇宙人さんにも食べさせてあげたいな」

 そんなはしゃぐ姿をメイアは、しょうがないなという表情で、しかしどこか嬉しそうにため息をつく。

「そうだな。まずは食事にしようか。丁度空腹でもあったしな」

 そう言って二人の食事会が始まった。話題はもっぱらドレッドチームやジュラ達は何をしているのか、という事ばかりだったが不思議と笑顔の絶えない時間だった。

 途中で運ばれてくる料理は全てあの銀色のロボットが世話をしていた。ディータは彼に先ほどのスープの作り方を教えてくれと言ったが、ロボットには伝わらなかったようで無言で背中を見せる。しかし、メインディッシュを持ってきた時、台車には誰かの手書きのレシピが一緒に運ばれてきた。

 ちなみにメインディッシュはシタビラメのムニエルだった。

 そして最後に果実たっぷりのブルベリーソースのかけられたレアチーズケーキのデザート。それを二人が食べ終えた時、やっとその少女は姿を現す。

「食事はいかがでしたでしょうか?皆様方」

 白い少女、サリーアはディータ達とはテーブルをはさんで立つ。きっと背の低い彼女が席につくと顔しか出ないような姿になるからだろうか。

「すっごくおいしかったです!」

「けっこうな味だった」

 サリーアはニッコリと笑う。

「そう、それは良かった」

 ディータが尋ねる。

「ここの料理ってあなたが作ってるの?」

 少女は首を振った。

「ここの料理は・・・彼が」

 そう言って視線を向ける先にはデザートの食器を回収しに来た[H02]がおり、彼は小さく一礼した。そして皿を回収すると彼は小さなカップに入ったエスプレッソを置いて部屋を後にする。

「あ、これってコーヒーだよね。眠れなくなっちゃう・・・」

 とディータが鼻で中身を確認すると、メイアが彼女の横でさっさと味わい始める。小声でいただいておけ、と告げた。

 少女は微笑んで言う。

「大丈夫ですよディータ・リーベライ。いらないものは口にする必要はございません。レストランはお客様が第一なのです。お客様がしたいようにする、それがレストランという所です」

 メイアはカップを置いた。

「それより頼みがある。 私達の仲間が二名、おそらくこの地下市街に迷い込んだらしい。探しに行ってはいけないだろうか?」

「大丈夫でございます。しかし、お客様自ら探しにいかなくともよろしいでしょう。使いの者を行かせましょう。・・・お願い」

 サリーアが視線を向けると比式0号が了解、と声で応える。はためには何もしていないように見えるがおそらくはどこかと連絡を取っているのだろう。

「では、メイア・ギズボーン。確かあなた様から私に何か質問がおありでしょう?」

 そうだ、と小さくメイアはうなずく。

「まず、第一にどうして我々の船が操縦不能でここまで来た、ということがわかったのか?」

「それはそちらのぺークシスプラグマによって何か特殊な連絡手段をとられたのでは?私どものぺークシスプラグマがそのように理解しておりましたから」

 メイアはちらりと横のピョロに視線を送るが彼は無表情に少女を見つめいていた。

「その連絡手段というのは?」

「さぁ?私どもにも正直なところ理解しかねます。まだ、ぺークシスプラグマというのは何かと不思議で不可解な部分が多々あり、人はまだ全てを掌握(しょうあく)したとはとてもではありませんが、言えませんもの。ただそちらに向かう、という事だけは私どもにも、ぺークシスプラグマを通して伝えられました」

 メイアはあごに手を当て、しばし考えるように沈黙してしまう。代わりにディータが訊いた。

「ねぇねぇ。サリーアだっけ?サリーアは確かこの艦の艦長なんでしょう?」

 少女は微笑んでうなずいた。

「どうしてそんなに若いのに艦長になれたの?」

「若くして、というのは適切ではないわね。私、こう見えても結構長く生きているんですよ。それに艦長というのはなにも年齢で決まるわけではないでしょう。そちらのメイア・ギズボーンもその歳でドレッドチームを見事にまとめていらっしゃるじゃありませんか」

「それもそっか」

 そんなやりとりをよそにピョロはずっと少女を無表情に見つめ続けている。それをメイアも気づいたが今はかまわないでおこうと決めた。

「では、サリーア。この艦をナビロボ達も含め、あなたは多目的移民船と呼んでいる。それはどういう意味なんだ?」

「それを説明するには少々長くなりますが、よろしいですか?」

 メイアはうなずいた。

「では、ご説明いたします。この多目的移民船[trunk][tree project](ツリープロジェクト)の要であります」

「その[tree project]というのは?」

「あなた様方もご存じでしょう?移民計画のことです。正確には移民計画最初期に行われた打ち上げプロジェクトでございます」

「・・・?・・・どういうことだ?」

「ふふ・・・失礼かもしれませんがあなた様方は移民計画というものについてあまり詳しくないようですが?」

「そうだな」

「移民計画というのは何も、一瞬にして行われたものではございません。それこそ創案し、実際に動き出すまでも何年もブランクがありますし、それから実際に打ち上げが始まるまでも何年という月日を要しました。つまり移民計画というのは総合名称であるといえます。小さないくつものプロジェクトの総称とでもいいましょうか」

「つまりそれは、はっきり移民計画と名を持つ打ち上げは行われていない、ということか?」

「はい。極論的にいえば、打ち上げが盛んに行われたその時期を移民計画と呼ぶに適切である、と判断できますね」

「・・・なるほど」

「お話を少し戻します。[tree project]というのは長い移民計画のうちでも初期に計画、実行されたプロジェクトでございます。[tree project]はその名の通り木をイメージして頂けるとわかりやすいでしょう。人類全ての母性である地球を[seed](シード・種)。そして創案者である父とその唯一無二の親友であるルディカラ様のお二人を双葉の[bud](バド・芽)。そしてこの多目的移民船を[trunk](トランク・幹)としました。無論、幹というぐらいですからそこから[branch] (ブランチ・枝) [leaf] (リーフ・葉) が伸びなくてはなりません。よって枝葉の役割を持つ10機もの移民船をその身に包み、この[trunk]は旅立ちました。そして適正の場所まで訪れるとその移民船を順次射出。そうすることによって人々は大勢の中で、この広い[trunk]の中でストレスを最小限に抑えて、その後の旅ができるのです」

「それで宇宙港があんなにあったのか」

「はい。・・・時にメイア・ギズボーン。幹というものの役割をご存じですか?」

 メイアは少し考えた後言った。

「あまりそちらの方面に明るくはないのだが・・・根から水や養分を上にある枝や葉に伝えたり、その身を支えたり・・・?」

 サリーアはうなずく。

「おおよそその通りです。水や養分。これは[tree project]以外の人や、移民船を指します」

 メイアの頭の中で疑問の一つが解かれた。

「そうか。それで多目的か。お頭達の言っていた不自然な信号というのもそれで・・・」

「はい。この[trunk]は移民船を全て射出した後、多少の自己改造を行い、ある種のミッションとなることが予定されていました。次から来る者達の休息の場となるべく。そうして育ってゆく枝葉は新たな[flower] (フラワー・花) [fruit] (フルーツ・果実) のために。果実の中には新たな種を宿らせ、その種がまた芽吹き、育っていく。人類が永遠に繁栄していくよう、願いを込めての[tree project]とも聞いております」

「しかし、[tree project]とは詩的な名をつけたものだ」

「父の趣味です。あの人は何かと例えを用いりたがる人物だったとルディカラ様から聞いております」

「?どいいうことだ?」

 サリーアは初めて笑顔を崩し、少しさびそうな表情を作る。

「父は私が物心付く前に過労死しました。その原因も私にあるのですが・・・」

「・・・そうか、すまなかった。忘れてくれ」

 と、メイアは言うのだが、サリーアは続ける。

「父は本来予定されていなかった私の搭乗の許可を取るために、ただでさえ身体に無理をしていたのに、仕事を続け、そして私の搭乗の認可がおりた時にはすでに意識の無い状態でした」

 場を沈黙が支配する。メイアは何を言っていいのかわからず、何か話題はないものかと視線を巡らせてディータにたどり着いた。彼女は寝ているのではないのだろうがテーブルに額をつけている。耳から煙りが出ていたと表現するのがわかりやすいかもしれない。サリーアの話をまったく理解できずに話を聞くのを放棄してしまったのだろう。

 場はなおも沈黙が支配し続けた。

 

 

 

          ●

 

 

 

 機関室はパルフェが加わったというのに未だに解決策を見つけられずにいた。

「なぁんでかなぁ・・・?おかしな所は全然ないのに」

 通信が切れた理由がまったくわからない。すでに物理的な(つまりコード類とか)チェックは終えているから問題があるとすればこの通信システムのプログラムなのだが、それが見つからないのだ。さすがにパルフェといえども見えない傷を癒す事はできない。

「仮にこの子が問題ないとしたら・・・あとはブリッジの方に問題があると考えるしかないんだけど」

 う〜ん、とパルフェが天井を見上げ始めると彼女の横のクルーが言う。

「でもレジの方にも繋がらないんですよ?」

「となるとやっぱここかぁ〜。誰かブリッジの方に見にいってるんでしょう?」

「二人行かせました」

「そっちの結果待ちになるかなぁ」

 それから少ししてその二人が機関室に帰ってくる。

「あ、パルフェ。あのさ、ブリッジの方はなんか、どことも繋がらなかったんだけど」

「やっぱそっちなのかぁ」

 パルフェが腕を組み何やら考え始めるがクルーは続けた。

「それが外部とは繋がるっていうか、内部の方にも繋がるには繋がるんだけどビジー状態なんだよね」

「ビジー?なんでビジーなんか・・・」

 艦内の通信網は映像なども処理落ちなしでやりとりが可能だ。非常に大きなバックホーンを備えており、今までビジーになんてなったことがなかった。もしなるとすればよほどの大容量データのやりとりでも行わない限りは考えられない。

「一応、通信の混み具合調べてみよっか。レジとブリッジの通信状況出してくれる?」

「了解」

 パルフェがうむむむ、とうなりながら下を向いていると他のクルー達があああ!、という声が上がる。どうしたのかと思いモニターを見やれば真っ赤であった。MAX、レッドゲージ。

「な、なんでブリッジ、こんなに混んでるわけ・・・?どこから?」

 パルフェが訊くとクルーが答える。

「レジと外部からです!」

「これはひょっとして・・・・!」

 パルフェの頭の中に一つの結論が導き出される。それはここしばらくはかかわることのなかった事だ。メジェールにいて海賊行為をしている時は何かと自分も敵艦に向けてやったことだ。

 まず間違いない。これは・・・。

「ハッキングされてる!!」

 パルフェが悲鳴にも似た絶叫上げた瞬間、ブリッジとレジの回線が切れ、今度はその場、機関室とブリッジが繋がった。

「やばい!回線カット!」

 パルフェの指示が飛び、少女達が急激に動き出した。

「ダメです!すでにメインコンピューターに入り込まれてカットできません!!」

 少女が続く。

「うわっわっわっ!すごい処理速度!」

 パルフェが叫んだ。

「ぺークシスとのリンクをカット!電源ごと落として!!」

「でもそれだとデータに損傷が・・・!」

「喰われるよりマシよ!お願いやって!!」

 そして、ガタンという音と共に機関室には闇が舞い降りた。

 

 

 

          ● 

 

 

 

 その人影は非常灯の真下までやってくるとやっとその全貌を現した。銀色のほっそりとしたボディと手足。両手足首だけが人間のそれのように生々しい姿をしていた。一つだけのモノアイが赤く光る。

「なにあれ・・・不気味ね」

 ジュラがそうバーネットの耳元でつぶやくと、バーネットはそっと一歩だけ前に、ジュラを後ろにするように出る。彼女の視線はロボットの握る一丁のレーザー銃に向けられていた。トリガーに指がかかっている。

「気を付けてジュラ・・・」

 ロボットの握る銃に付いていたレーザーサイトが点灯。そして銃口ごとゆっくりとバーネットの身体を這う。

「・・・たぶん、敵よ」

 赤い点がバーネットの額にたどり着いたとき、動いた。トリガーがためらいなく引かれ、閃光が走る。しかし、バーネットはジュラごと倒れるようにしてそれをかわし、転がりながら背中のかばんからアサルトライフルを取り出してセーフティを外す。瓦礫が腹部を痛めつける。

「ジュラ!身を低くして逃げて!」

 そして伏せたままの状態でバーネットのトリガーも引いた。鼓膜を振るわす銃声は滝のごとくに響き渡り、いくつものフラッシュをたく。ロボットはおそろしく身軽なこなしを見せ一発もかすることなく、しかし反撃の一撃だけはバーネットの頬をわずかにかすらせてから一軒の店へと飛び込む。ガシャーンという音をたててショウウィンドウが砕け散った。

「なかなかやる!」

 バーネットはほほにできた火傷を一撫でし、立ち上がり、すぐさま扉を蹴破り、自分も店の中へと入っていく。その姿を見て、急激な不安に包まれたのはジュラだ。彼女はすその破れてしまったコートを引きずるように、立ち上がると彼女の名を叫んだ。

「バーネット!」

 店の中で銃弾と光が激しく交差する。爆発にも似た炎が沸き起こった。

 

 

 

          ●

 

 

 

「そうそう。皆様方に紹介したい方がいるのですが、会っていただけるでしょうか?」

 長い沈黙を破ったのはサリーアのその一言だった。

 メイアはサリーアがやっと笑顔を取り戻したのを確認してから、そっとうなずく。

「ああ。かまわない」

「あなた方に会って頂きたいのはリョウというこの艦の最重要人物です。彼は今体を弱めておりましてずっと床についている状態です。ですから毎日が退屈だと言っておりまして、何かお話でもと」

「うんいいよ」

 屈託なくディータが言うとサリーアは笑顔を返した。

「ありがとうございます、ディータ・リーベライ。彼は今はタワーにいます。少々遠いので車を用意しますね・・・お願い」

 比式0号が『了解』と応えた。

「リョウ・・・?」

 どこかで聞いた名前にディータはふと顔を上げる。

 リョウ、どこかで聞いた名前なんだけど・・・どこで聞いたんだっけ?

 そんな思案を巡らせるディータをよそに比式0号が『車の準備ができました』と告げる。

「さぁいきましょう」

 三人が席を立ったその時だった。比式0号がいきなり警告音を発し、モニターに『接近』の文字を浮かび上げる。

「な、なに?どうしたの?」

 ディータが壊れたのかと思ったのかペシペシと比式0号の頭を叩いていると、サリーアが近づき彼女の腰に手を当てた。

「壊れたわけではないわ。たぶん、彼らが来たのでしょう」

 メイアが訊く。

「彼ら、とは?」

「そうね。あなた様方でいうところの、敵、とでもいいましょうか。地球の者達・・・」

「刈り取り機か!」

 少女は微笑む。

「でも、大丈夫です。シールドぐらいならこの艦にも備わっていますし、しばしの間は持ちこたえられるでしょう」

 しばしの間、というのはどの程度のものだろう。それに持ちこたえられるとしてもこちらから攻撃できなければいつかは負ける。

「すまない、サリーア。そのリョウ、と会うのはまたの機会だ。今は戻らなくてはならない」

 サリーアはなぜ?、というように首をかしげる。

「敵が狙っているのはおそらく私達だ。応戦しなくてはならない。それにお頭達に報告もしないといけない」

「そう、残念です。今お帰りの車をご用意します。しばしお待ちを」

「ディータ、お前はもう少しここにいてジュラ達を回収してからニル・ヴァーナへ来い。お願いできるか」

 メイアはディータではなく、サリーアを見つめると、彼女はもちろん、とうなずく。

「メイア・ギズボーン、黒い車をお使いになって」

「助かる」

 そしてメイアはクマの着ぐるみを置いて(さすがにもう嫌だったようだ)、走ってそのVIPルームを後にしようと扉を開ける。そこで彼女は振り返った。

「料理、うまかったとあのロボットに伝えてくれ」

「・・・承りました」

 メイアはうなずくと赤絨毯の上を駆け始める。数枚のドアを抜けて、二つの階段を下り、門をくぐった所で、車が二台止まっているのが眼に入った。一台は黒いベンツ、もう一台は先ほどのバスだ。息を白くしてメイアが近づくと不思議なことに誰も乗っていないベンツの後ろの席の扉が開き、エンジンがかかった。電気と水素で走る、極めてエコロジーな車らしく、ブルルルと小さな音を立て、排気口から水蒸気が上がる。

 乗り込むとわずかに外よりも暖かい空気が待っていた。暖房が入っているのだろうが、弱い。

「第09宇宙港へ頼む」

 メイアは誰もいないとわかっていたが、ロボットや比式0号にも通じたように彼女は通じるだろうと思った。

 車は走りだす。いつも眼にも止まらぬ速度のドレッドに乗っている彼女ではあったがそれでもその車が遅いとは思えない。それは星と闇だけの宇宙よりも、建物が建ち並ぶ市街地の方が純粋に速度を感じられるからだろうか。

 メイアはふとサリーアの事を思い出す。

 お頭達には何と報告したらいいだろうか。いろいろと有りすぎてちゃんと順を追えないと話が混乱してしまうだろう。最初は・・・・。

「・・・まてよ・・・!」

 なぜサリーアは自分をメイア・ギズボーンと呼んだのだ?私が名乗ったのはドレッドチームリーダー、メイアということだけだ。何故セカンドネームを・・・?それに我々が来る事をぺークシスを通して知ったと言ったがどんな方法でぺークシスとコンタクトを取ったというのだ。

 いや、それだけじゃない。おかしな所ならまだいくらでもある。これほどの大きな移民船でなぜ人間のクルーがこんなに少ないんだ?

 それにサリーアはこの[tree project]は彼女の父親とその友人が創ったと言っていたが、移民計画は百年以上前のものだぞ・・・?いくらその娘とはいえあれで百歳を超えているというのか・・・?

「・・・クソ・・・」

 息が白い。指先の感覚がゆっくりと失われていく。そして、寒さで思考が止まってしまう。

 メイアは身を小さく丸めるように、座席の上でそのヒザを抱いた。

 やはりクマの着ぐるみを着てくるべきだっただろうか。いや、アレは正直・・・二度と着たくはない。

「・・・少し急いでくれ」

 メイアは見えない車の運転手に小さくつぶやいた。

 

 小さなエンジン音を上げ、その車は己のタイヤをこすりつける。スピードが上がる。排気口からの吹き上がる水蒸気が、細かな氷となって輝いた。

 メイア・ギズボーンを乗せたベンツは一路、第09宇宙港へと急ぐ。黒い車が市街地から離れた時、ついにそれは訪れた。

 強烈な地震かと思える程の衝撃。そして金属やコンクリートが砕ける、耳をふさぎたくなるキシミと破壊音。

 この多目的移民船[trunk]についに刈り取り機の魔の手が伸びたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      <中編> 終了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 ども、アマきむちです。

 もしかしたら前編は読んだけど中編は途中で止めちゃったという方もいるかもしれませんね。すみません。書いていて複雑になってきたなぁ、と思いながらも止まりませんでした。

 やっぱりアレですよね。商業ではないので、前作より面白い物を創らなくてはいけないっていう義務がないのは同人小説(?)ならではですよね。義理はあるかもしれませんが・・・(苦笑)。

 なんか「面白くない事に対する言い訳」みたいになってしまいましたね。すみません(汗)。

 

 今回の小説には「生まれたての風」(アドレスは下に記載してあります)というHPの管理人、「リョウ」さんのお名前を使用させていただきました、が、ご本人と作中の「リョウ」とは何の関係もございません。(今回はご本人にちゃんと許可を取りました・笑)

 リョウさん、まことにありがとうございました。

 

 

 

 今後、この小説は<後編>に続きます。その時はさらにがんばりますのでお付き合い願えるとまことに嬉しいです。

 なお、後編はかなりハードかつ、少々ボリュームがありますのでもらっていただける方はメールの容量のチェックをお願いします(苦笑)。

 

 それではみなさん、また!!

 アマきむち  parabellum_001@mail.goo.ne.jp

 追伸。

 毎度毎度、恥を知らずに言っていますが、もしよろしければ、もしおヒマでしたらご感想のメールをいただけるとありがたいです。

 

●現在も継続して[ヴァンドレッドオリジナルストーリー 〜girl of blade]<前編><後編>、と、[the other girls]を配付させてもらっております。読んでみたいという奇特な方は上のメールアドレスまでご連絡ください。

 こちらもまた、基本はワードですが、ウィルスが恐い、また何かしらの理由から添付ファイルを開けない、という方は一言明記していただければメールに張り付けてお送りさせていただきます。なお、[the other girls]は「生まれたての風」でも見ることができます。

 

 リョウさんのHP「生まれたての風」のアドレスです。ヴァンドレッドだけでなく数多くの高レベルな作品の小説があり、非常に素晴らしく、大人気のHPです。

 小説好きのあなたなら、きっと新しい何かを手にできることでしょう。

    http://www.kisweb.ne.jp/personal/umaretatenokaze/

 

 

 

 

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 アマきむちのヴァンドレッド小説

     ★あらすじ★

――――――――――――――――――――――――――――――

木々の緑、海の青、そして地下に眠るマグマの赤、三色に彩られたアルテミシオンという名の小さな星。

 一瞬のミスによってディータはその星へと迷い込み、そこで一人の少女と出会う。

 少女の名はエステラ・ウォーレン。刀を携えた褐色の少女は言った。

「ということはあの侵略者と戦える方法をあなた達は持っているの!?」

 傷ついたアルテミシオンを救うため、無言で襲撃をかける刈り取り機にマグノ海賊団は毅然とその身を向ける。

 二人の少女の出会いは果たして誰に何を与え、そして何を失うのか。

 驚異的な刈り取り機の新型に果たしてマグノ海賊団は戦い抜くことができるのか。

 アマきむち処女作、長編ヴァンドレッドオリジナルストーリー

             girl of blade

            <前編> <後編>

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 どこでだってそうだ。人が集まれば必ず余興を求めてしまうのは。

 ニル・ヴァーナという密室でそのはけ口を造る一人の功労者がいる。

 彼女とその部下達は刈り取り機が来ようと来なからろうと常に戦っていた。己の全てをかけて。

「・・・どっちみちね、アタシ達は裏方よ。ガスコさんじゃないけどクロコみたいなもの・・・」

 普段は語られる事のない裏側へのスポット。

 メイア、ジュラ、バーネット、そしてもう一人のエースパイロットの物語。

 アマきむち初の短編、ヴァンドレッドオリジナルストーリー

            〜the other girls

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