ビレフォールとヤルダバオトが交差する。
同時に繰り出した裏拳がぶつかり、派生して繰り出される蹴りの嵐。
「てやああああああっ!!」
「……!」
互いが互いの蹴りを相殺し、有効な一撃を与えられない。
そして連撃の最後に放った拳さえも相殺する。
「はあっ……はあっ……」
「……」
やはり強い、模擬戦の時とは違う。
ギンガは息すら切らしていないが、こちらはビレフォールの動作に追いつくだけで精一杯だった。
双子の機体であるビレフォールとヤルダバオト、そして元が同じ遺伝子のある意味双子とも言えるギンガと自分。
だがその力量は遥かに離れていることをスバルに実感させる。
「……」
「くっ!」
再び迫りくるビレフォール。
撃ち出される拳をかわし、後方に飛ぶヤルダバオト。
「機神双獣撃!!」
後方に飛びつつ構えた両手の手甲から、覇気で模られた龍がビレフォールに向かって行く。
「……」
しかしビレフォールも同種の技【機神双衝撃】を放つ。
二つの覇気の龍がお互いを喰い合い消滅していく。
「っ!! どこに!?」
渦巻く覇気の龍が消滅した時、既にビレフォールの姿はない。
衝撃。
「がっ!!」
覇気の龍が互いの視界を塞いだ一瞬。
その時既にヤルダバオトの後ろに回っていたのだ。
ビレフォールはヤルダバオトの髪の毛を掴んで、廃ビルに投げつける。
「うあっ!!」
廃ビルに叩きつけられるヤルダバオト。
起き上がるよりも速く、肉薄したビレフォールの拳がヤルダバオトを襲う。
拳の連打、当たった瞬間には既にもう一発が当たっている。
もはやスバルには完全に捉えきれない領域に達していた。
防御しようと出す腕はビレフォールの拳に弾かれる、防御すら満足に許されず攻撃を受け続けるヤルダバオト。
「ああああああっ!」
攻撃している間もビレフォールの覇気は増していく。
「フ……フフフ……」
「!?」
さっきまで無表情だったギンガが、堪え切れないように笑みを漏らす。
ヤルダバオトとビレフォールは修羅神と呼ばれる人型機動兵器。
発見された修羅神は他にも時空管理局に保管されている、だが稼働しているのはヤルダバオトとビレフォールのみ。
その理由は修羅神は特殊な機動兵器であり誰にでも乗れるわけではなく、乗り手を修羅神自身が選ぶからだ。
滅多に修羅神に選ばれる者の少ない中、スバルとギンガという乗り手が同時に出現したのは僥倖であった。
そしてもうひとつの特性、修羅神は操縦者の覇気と呼ばれる生体エネルギー……操縦者の生命を使うのである。
稼働だけでな一つ一つ全ての動作に生命を使い、乗っている間は常に寿命を減らしているようなものなのだ。
性能を引き出せば引き出すほど身体の消耗は激しくなり、戦闘の続行は難しくなってくる。
「フフ……ハハハハハハハ!!」
「ぐっ……ううっ!」
だがギンガは笑っていた。
スカリエッティに改造された影響か、ヤルダバオトを傷つけるのが楽しんでいる。
ビレフォールがヤルダバオトを殴りつけるたびに彼女は高揚し、その大量の覇気をビレフォールへ与えてゆく。
ビレフォールには溢れんばかりの覇気が漲り、そのパワーは益々上昇していく。
そして……ビレフォールが光に包まれた。
「な、なにこれっ!? ビレフォールが!」
「蝕む……その心までも」
光に包まれたビレフォールのボディーが変化し始める。
血のように紅い髪の毛の一部はマントになり、さらに肩と一体化して肩から角のようなものが突き出す。
残った髪の毛が赤く光り輝き、ボディーの水晶体も光を発する。
そしてボディーも一回り大きくなっているようにも見える。
雄雄しく禍々しいその外見を見たのは一瞬。
「これはっ!?」
ビレフォールが放った二体の巨大な覇気の龍が渦巻き、外からの光を遮る。
さらにヤルダバオトとビレフォールが居る空間は光が遮られただけでなく、暗闇に包まれていく。
ビレフォールの覇気が一種の結界魔法のようなものを展開していた。
「くそっ、見えないっ!」
不気味な程の静謐。
しかし次の瞬間、目の前を紅い閃光が通り過ぎていく。
だがスバルがそれを視認した時には遅すぎた。
――衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。
「うあああああああああっ!!!」
見えるのは時折視界を蠢く紅い閃光だけ。
攻撃の連打は休まることなく、ヤルダバオトは攻撃を受け続ける。
ビレフォールの胸の水晶体が一際大きく輝いた。
「がっ!」
無防備なそのボディーに叩きつけられるビレフォールの二つの拳。
直撃を受けたヤルダバオトは結界を突き破り、廃棄都市の建物を破壊しながら吹き飛んでいく。
あまりのダメージにヤルダバオトは立ち上がろうとするが、立ち上がることができない。
その間にもビレフォールはゆっくりとこちらに歩いてくる。
以前のギンガからは考えられない、殺意に満ちた覇気が無差別に周りの建造物を破壊していた。
「ち、違う……違うよギン姉……」
スカリエッティの改造の影響とはいえ、スバルは悲しかった。
スバルに機神拳を教えたのはギンガ、そしてそのギンガに教えたのはクイント・ナカジマ。
そう、スバルとギンガの母親だ。
母が教えた機神拳は何かを傷つけるためのものではない。
ギンガはそれを母から教わり、そしてスバルはギンガから教わった。
機神拳の極意を。
今のギンガはそれを完全に忘れてしまっている、それが悲しかった。
機神拳は格闘術、戦うためのもの、使えば人や物を傷つけてしまう。
だがそれは使う者の心構え次第で、何かを守ることにだって使える。
それを教わったからこそ、人を傷つけることを恐れていたスバルも、機神拳を学ぶことを決意したのだ。
今のギンガの機神拳は根本的な部分で間違っている。
「ヤルダバオト……」
スバルは自らの力不足のせいで傷ついてしまったヤルダバオトに語りかける。
ギンガに思い出させないといけない。
機神拳の極意を、母が自分達に託した思いを。
「ヤルダバオト! 私の覇気を吸って! ギン姉を助けるために!」
スバルから溢れる覇気がヤルダバオトに吸収されていく。
ヤルダバオトの傷が癒え始める、そしてヤルダバオトから発生する光。
「傷つけるのではなく……大切なものを守るために!! ヤルダバオト、私に力を貸してっ!!」
スバルの叫びに呼応し、ヤルダバオトのボディーが変化する。
紅いボディーが白く変化し、白い髪は先端が紅く染まってゆく。
だがビレフォールと決定的に違うところがあった。
それは顔、ビレフォールの獣のような攻撃的な外見ではなく、ヤルダバオトは人の顔に近い変化を遂げていた。
「出でよ、双覇龍!!」
「……!」
ヤルダバオトの放つ二体の覇龍がビレフォールへと迫る。
ビレフォールがヤルダバオトに対して放った時と同じ軌道を覇龍は描いて向かってくる。
すぐさま回避行動に移るビレフォール。
しかしその瞬間、ヤルダバオトの瞳が赤く輝いた。
「!?」
迫りくる覇龍。
ビレフォールは動かない、いや……動けなかった。
ヤルダバオトの瞳が輝いた瞬間、まるで何かに縛り付けられているように動けなくなってしまったのだ。
二体の覇龍が渦巻き、展開される覇気の結界。
光が遮られ、暗闇が結界内部を覆いつくす。
「機神拳……無双奥義ッ!!」
暗闇に揺らめく紅い閃光。
その動きを捉えつつもビレフォールは動くことができない。
「でりゃあっ!!」
正面からの一撃、その衝撃で宙に舞ったところに浴びせられる拳と蹴りの連打。
地面に落ちる前に入る攻撃に倒れることすら許されない。
「でええええええええいっ!!」
――衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。
「おりゃあっ!!」
ヤルダバオトの胸の水晶体が輝く。
そして拳を繰り出すと共に放たれた覇気の奔流が結界を突き抜け、ビレフォールを天高く吹き飛ばす。
しかしまだ終わっていなかった。
二体の覇龍が天に舞い上がり、ビレフォールを噛み砕こうと追撃してきたのだ。
「……!!」
気合で金縛りを解き、ビレフォールは二体の覇龍の内の一匹を拳で破砕する。
残っている一体も葬ろうと拳に覇気を集中させる。
もう一体の覇龍が口を開いた、そこに拳から覇気の弾丸を撃ち込む。
だがそれは何かに弾かれた。
覇龍の口腔内にヤルダバオトが潜んでいた、ヤルダバオトが覇龍に放たれた覇気の弾丸を弾いたのだ。
「真覇ッ! 猛撃烈破ァァッ!!」
覇龍と共に突っ込んでくるヤルダバオト。
回避することはできない、ビレフォールは自らの両拳で受け止めようとする。
「はああああああああああっ!!」
「……!!」
ヤルダバオトの拳を受け止めたビレフォール。
しかし逆にヤルダバオトがビレフォールの拳を掴んで離さない。
空中でヤルダバオトは回転し、その勢いでビレフォールを投げ飛ばす。
轟音と共に地面に激突したビレフォールは倒れ伏して沈黙している。
「……ふぅ」
終わったという安堵感。
だが修羅神は乗っているだけで覇気を消耗する、気絶しているとしても例外ではない。
コクピットからギンガを出すべく、ビレフォールに近づく。
「これはっ!?」
その時、一瞬だけ凄まじいまでのエネルギー量をヤルダバオトが感知した。
「あれは、虹?」
距離はかなり離れているが、一瞬だけ空が七色の光に染まった。
そしてエネルギー反応は消えていく。
一体何だったのかを考える間もなく、視界で何かが光った。
「っ!?」
突如ヤルダバオトに襲い掛かる青き閃光。
紙一重でかわすが、予測されていたのか、回避した方向に飛んでくる回転する無数の刃。
拳で弾き落とすが全ては弾ききれない、刃がヤルダバオトの装甲に傷をつける。
「やっぱ戻って来て正解だったぜ、タイプゼロなんかに任せてられるか」
「ナンバーズの……!」
通信を入れてきたのは以前戦ったことのある赤髪の少女だ。
彼女の乗機であるゲシュペンストMK-U・タイプSが接近してくる。
さらに周りには複数のガジェットの姿が確認できる。
本来ならばガジェットの持つAMFによる影響で機体に流れる魔力を阻害され、機体の動きは大きく低下する。
しかしノーヴェの駆るゲシュペンストMK-U・タイプSは、その影響を受けている様子はない。
おそらく完全に魔力を使う要素を排除し、全て機械によって動いているのだろう。
「ノーヴェだ、チンク姉の仇を取らせてもらうぜ!」
「くっ!」
ゲシュペンストMK-U・タイプSやガジェットは飛行可能である。
空を飛んでいる相手は、空が飛べないヤルダバオトでは相手がしにくい。
そのうえ真覇猛撃烈破を放ったせいで覇気の消耗が激しい。
「くらいな! メガ・ブラスターキャノン!!」
ゲシュペンストMK-U・タイプSの胸部が開き放たれるビーム。
その出力はメガ・ビームライフルの比ではない。
「当たる……かっ!!」
またしても危ういが間一髪で、迸る青い光条をかわす。
続けて追い撃ちをかけるようにガジェット達が突進してくる。
「真覇光拳!!」
ここで死ぬわけにはいかない、自らの覇気を振り絞り、スバルはヤルダバオトを動かす。
ヤルダバオトは覇気を拳に乗せて撃ち出す。
幾重もの軌道を描いて、ゲシュペンストMK-U・タイプSとガジェットに向かう無数の覇気の弾丸。
覇気の弾丸は脆弱なガジェットの装甲を貫き、次々と落としていく。
しかし他のガジェットより大きいボール型のガジェットはそうはいかない。
覇気を掌で増幅させ、一際大きい覇気の弾丸を作り出す。
通常のものより3倍はある覇気の弾丸、これならば大型のガジェットといえど砕け散る。
「はああああああ!」
「甘いぜ!!」
増幅させた覇気の弾丸を受けたボール型ガジェットが爆砕する。
突如その爆炎の中からゲシュペンストMK-U・タイプSが飛び出してくる。
「なっ!?」
ボール型のガジェットの大きなボディーの影に隠れていたのだ。
修羅神の本来の索敵装置は覇気を感知するタイプであり、新たに時空管理局によって魔力を感知するタイプを搭載されている。
だがノーヴェのゲシュペンストMK-U・タイプSは魔力を使わない、それ故に探知できなかったのである。
「おらっ!」
ゲシュペンストMK-U・タイプSがタックルでヤルダバオトを突き飛ばす。
さらによろけたところにメガ・ブラスターキャノンを撃ち込まれる。
「あああああっ!!」
直撃を受けて吹き飛ぶヤルダバオト。
「決めさせてもらうぜ!!」
何かの構えらしきもの取り、ゲシュペンストMK-U・タイプSが飛翔する。
「究極! ゲシュペンストキック!!!」
ブーストを吹かし突撃するゲシュペンストMK-U・タイプS。
「ヤルダバオトッ!! 動かない!?」
覇気が足りないのかビレフォールとの戦闘で見せた動きは、もはやなかった。
緩慢な動作で立ち上がる今のヤルダバオトには避けられない。
やられるっ……!!
その時、ヤルダバオトが何かを感知したような気がした。
だが、それよりも迫り来る死の恐怖にスバルは目を瞑る。
「…………」
しかし、いつまで経ってもヤルダバオトを穿とうと放たれた蹴りの一撃は襲ってこない。
目を開ける。
ヤルダバオトの前に立つ、蒼い機体。
「……タイプゼロッ!!」
「やらせない!」
ゲシュペンストMK-U・タイプSの蹴りをビレフォールが止めていた。
「せいっ!!」
「ちっ!」
ビレフォールの放った蹴りがゲシュペンストMK-U・タイプSの頭部を掠めた。
攻撃を外したその隙を逃さず、ゲシュペンストMK-U・タイプSは空へ逃れる。
ビレフォールからヤルダバオトに通信が入ってくる。
「スバル……大丈夫?」
「ギン姉、ギン姉なの!?」
「ごめんね、私がスバルを守らないといけなかったのに、私は貴方を傷つけて、でも……もう大丈夫だから」
「ギン姉……元に戻ったんだね……良かった」
「スバル、貴方は下がってて、後は私に任せて」
そう言ったギンガの表情に疲労の色は濃い、だがその優しい表情はスバルがよく知っているものだった。
ヤルダバオトを守るように立つビレフォール。
危ない時はいつも守ってくれた、自分を守ってくれるギンガの優しい背中を思い出す。
しかし、スバルもいつまでも守られているわけではない。
「ギン姉、私も戦うよ」
ギンガが元に戻ったことでスバルに改めて気力と覇気が漲っていく。
全快には遠いが、ヤルダバオトが立ち上がる。
「スバル……だけど」
「大丈夫、それにギン姉だって沢山の覇気を消耗してる」
「……」
「戦おう、二人で」
「わかったわ、戦いましょう。二人で」
ヤルダバオトがビレフォールの横に並ぶ。
「けっ、二人になったところで関係ねえ! 返り討ちだぜ!」
スバルもギンガも覇気の消耗は甚大だ。
対してノーヴェのゲシュペンストMK-U・タイプSのダメージは皆無。
ノーヴェの有利に変わりは無い。
その時、接近してくる無数のガジェットを確認する。
「これは……ギン姉!」
「この数は……気を付けて、スバル!」
無数のガジェットが何かを目指してくるかのように移動しているのが確認できた。
その一部がこちらを察知して向かってきていた。
「あいつら何で……ガジェット共は地上本部を攻撃するはずじゃ……」
ノーヴェもあまりに数の多いガジェットに困惑する。
以前の襲撃の際に大きな打撃を与えたとはいえ、ナンバーズ達だけで地上本部の魔導師達の全てを相手にすることなど不可能。
故に地上本部の戦力の一部を地上本部の防衛に釘付けにするため、ガジェットは地上本部を攻撃するようプログラムしていたはずなのだ。
全てのガジェットをそうプログラムしていたわけではない、だが……この多すぎるまでのガジェットの出現はノーヴェにとっても予想外だった。
「まあいいや、二人仲良くあの世に送ってやるよ!!」
しかしゲシュペンストMK-U・タイプSとガジェットの大群を目の前にしても、スバルとギンガの闘志は折れはしない。
ヤルダバオトとビレフォールが機神拳の構えを取る。
「このミッドチルダには機動六課での思い出、そして守りたい人がいる!」
「私にも立派に更正させないといけない人がいる。ここで死ぬわけにはいかない!」
限界を越え、二人の身体から放出される覇気。
襲い掛かるガジェットとノーヴェのゲシュペンストMK-U・タイプS。
「行くよ、ギン姉!」
「ええ!」
母から教わった機神拳の極意、そしてスバルとギンガの二人の想い。
それらを拳に宿し、ヤルダバオトとビレフォールは立ち向かう。
紅と蒼、二体の機神が戦場に舞う。
あとがき
色々あって遅れましたが、ギンガVSスバルの部分をようやく書きました。
なんだかんだ言って修羅神で書いてしまった。
特に深い意味もなく、OG外伝の影響と言ってしまえばそれまでです。
機体についてのオリジナル設定はクロスさせる上で考えましたが、無茶苦茶かと思われるかもしれません。
ですがこれぐらいしか考えつかなかったので……
全体的にスパロボ的なノリになっている気がします。
次回はティアナVSナンバーズの二人 ですかね。(ノーヴェは出してしまったので)
究極ゲシュペンストキックは余計だったかなぁ……