戦いはグランゾンが優勢で進んでいた。
良介は知る由もないが、ヴォルクルスが以前にサイバスターと戦ったことがあるのが大きいのだろう。
「ワームスマッシャー！」
グランゾンの前方にワームホールが開く。
そのワームホールに撃ち出される魔力光。
「なにっ！」
サイバスターの周囲に複数展開するワームホール。
そこからグランゾンが撃ち出した魔力光が飛び出してくる。
「っ！」
『あ、危なかったです……』
紙一重でなんとか直撃を回避するサイバスター。
「くそっ、やっぱりまだ上手く避けられねえ！」
本来のサイバスターのスピードなら、この程度は問題なく避けることができる。
それができないのは良介の操縦技術の未熟さにある。
だが仕方のないことだ、良介にとってはこれが初めての機体での実戦になるのだ。
時空管理局で使用されているＰＴ、特機、ＡＭ等の数々の機体。それらは全て魔導師専用である。
機体に魔力を流すことで、その魔力がエンジンによって増幅され機体を動かすことが出来る。
武装にも魔力を必要とするものが殆どだ。
故に魔力の無い良介は乗ることができなかった。
サイフィスと契約し、サイバスターを手に入れたのは時空管理局が襲撃された日、当然練習する時間など無い。
「次は避けられんぞ」
グランゾンの前に再びワームホールが開く、今度はかなり大きい。
そのワームホールの中にグランゾンが入ってゆく。
『グランゾンの反応が消失！？』
「まさか！？」
良介は操縦のみに集中し、他の機能はサイバスターとリンクしたミヤがサポートしている。
ミヤの言葉通り、完全にグランゾンは消失していた。
おそらく先ほどの射撃と同じ、ワームホールを通しての攻撃。
しかし何処から現れるか全く分からない。
『反応！？ 上です！！』
「くっ……！」
サイバスターの頭上に開くワームホール、そこから出現したグランゾンが切りかかってくる。
振り下ろされるグランワームソードをディスカッターで受け止める。
しかしパワーはグランゾンが上、ディスカッターごと弾き飛ばされてしまう。
再びグランゾンはワームホールによる移動で追撃を行う。
「逃がさん」
弾き飛ばされるサイバスターの後ろに現れ、横薙ぎにグランワームソードを振ってくる。
「やばいっ！」
『良介！ サイバードに変形を！！』
「お、おう！ サイバスター・チェンジ・サイバード！！」
胴体を両断される寸前でサイバードに変形、グランゾンの一撃は空を切る。
「ミヤ……助かったぜ」
『し、死ぬかと思いました〜』
ミヤが咄嗟に言ってくれなければ、真っ二つに両断されていたとこだろう。
サイバードの状態のままグランゾンから距離を取り、高速で移動しつつカロリックミサイルによる攻撃を行う。
距離を取ることは自体は意味がない、グランゾンは重力で無理矢理空間を捻じ曲げてワームホールを開き、それを通ることで一瞬で距離を詰めることができる。
だがワームホールから出た時の速度はグランゾン自体の速度。
ならば高速で移動し続ければサイバスターは追いつかれない、サイバスターの機動性はグランゾンを大きく上回っている。
こちらもグランゾンに有効なダメージを与えることはできないが、時間稼ぎができればいい。
「小癪な真似を……」
様々な軌道を描いて移動するサイバスターに、グランゾンはもう一度ワームホールによる移動攻撃を仕掛ける。
「当たるかよっ」
サイバードはサイバスターの状態より速い、さっきより余裕を持って回避する。
グランゾンの一撃は再び空を切った。
「お返しだぜ！」
サイバードからサイバスターに変形し、ディスカッターで魔方陣を描く。
その魔方陣をくぐると同時にサイバードに変形、爆発的なスピードでグランゾンに向かってゆく。
さらに並みの機体なら一瞬で溶かしてしまうであろう業火をその身に纏っている。
「アァカシックバスタアアアアアアッ！！」
たとえグランゾンの展開する歪曲フィールドに攻撃が逸らされても、このスピードならそのまま逃げられる。
そう考えた上での攻撃だった。
「馬鹿め、それを待っていた！」
「！」
途端にサイバードの速度が激減する。
「なっ……機体が！」
『グランゾンを中心に強力な重力場が展開されてるです！』
「だったら……くそっ！」
重力場の有効範囲から脱出しようとするが、機体に掛かった強力な重力が機体の動きを鈍らせる。
「逃がすと思っているのか？」
ヴォルクルスはその隙を見逃さない。グランワームソードで切りかかってくる。
即座にサイバスターに変形するが、重力場の影響で変形に通常より時間が掛かってしまう。
「間に合わない！？」
なんとか変形はできたがディスカッターを構える時間はない。
「死んでたまるかっ！！」
「なにっ！？」
サイバスターは両手でグランワームソードを押さえて止める。日本の伝統の技【真剣白羽取り】だ。
だがグランワームソードはじりじりとサイバスターに近づいていく。
くっ、押し切られる……仕方ない
「ミヤ、サイフラッシュを使うぞ！！」
『な、なに言ってるですか！？ そんなことしたらリョウスケの身体が……』
「それ以外に方法はない！」
『それは……だけど！』
サイバスターは稼働に魔力を使わない、使うのはプラーナと呼ばれる操縦者の生命力だ。
通常の稼働ならただ操縦者が生きているだけでサイバスターは活動することができる。
しかし過度にプラーナを使う技を連発すれば、操縦者の生命力は徐々に失われ……尽きる。
良介は既に精霊憑依で大量のプラーナを消費している、それもサイバスターではなく自らにサイフィスを憑依させたために負担も増大しているはずだ。
こうやってサイバスターを操縦できているのが不思議な程なのだ。
これ以上プラーナを多く使う技を使えばどうなるか、想像に容易い。
しかし方法はこれしかないことはミヤも理解していた。
『……分かりました。死んだら許しませんよ！』
「大丈夫だ、俺のしぶとさは知ってるだろ？」
サイバスターとグランゾンを包むように結界が展開される。
『結界の展開完了、良介！』
「よし！」
『「サイフラァァァッシュ！！」』
サイバスターから光が走り、結界内のカロリックがグランゾンを襲う。
グランゾンは距離が近すぎて歪曲フィールドで防御することもできない。
臨界点まで溜め込まれたカロリックが荒れ狂い、グランゾンのボディーにダメージを与えてゆく。
「やるな」
グランゾンはグランワームソードを取り落としてしまう。
しかし荒れ狂うカロリックのダメージを受けながらも、その両腕でサイバスターに掴みかかる。
「こいつっ、くそっ……逃げられない」
グランゾンはブーストを吹かし、サイバスターを盾にして結界を破ろうとする。
閉じ込めることではなく、あくまで敵のサーチを優先した結界は簡単に破れてしまう。
そのまま展開した重力場に任せてサイバスターを殴り飛ばす。
「墜落なんてするか！」
「グラビトロンカノン発射！」
「なっ！」
殴り飛ばされた勢いで重力場の有効範囲から脱出したが、間をおかずに無数の重力球がサイバスターを襲う。
「ぐああああああっ！」
『お、落ちるです！！」
抗えない圧力にサイバスターは地面に墜落する。
「終わりだ！！」
グランゾンは取り落としたグランワームソードをワームホールで空間を繋いで取り出す。
それを墜落したサイバスターに向けて投擲、サイバスターは墜落の衝撃でまだ動けない。
「カロリックミサイル！！」
胸部から連続で発射されたカロリックミサイルが軌道をずらし、グランワームソードは胴体を掠めて地面に突き刺さる。
「外したか、だがこれで終わりだ」
グランゾンが胸部装甲を開き、そこに凄まじい量の魔力が集まってゆく。
「おいっ、あれは！？」
『す、すごいエネルギー量です……』
【ブラックホールクラスター】グランゾンの最大にして最強の武器。
その破壊力故に幾重もの封印を掛けられていたはずだが、おそらく直接莫大な量の魔力をぶつけて封印を無理矢理解いたのだろう。
大量に流し込んだ魔力が重力に変換され、巨大な重力の球体ができていた。
あれが放たれればサイバスターが破壊されるだけでなく、この一帯に大きなクレーターができるだろう。
『だ、ダメです……直撃は避けても発生する重力場に引き込まれて……』
「いや、防ぐ方法があるぜ。 ギリギリ間に合ったみたいだな」
『えっ……これは……！』
ヴォルクルスの視界にサイバスターの両腕に４つの光球が出現するのが映った。
「コスモノヴァか……！」
忘れもしない、かつて自らを葬り去ったサイバスター最大の武器。
しかし利はヴォルクルスにあった。
コスモノヴァはビックバンにも匹敵する威力を弾き出す最強の技だが、同時に大量のプラーナを消費する。
だが良介は精霊憑依、サイフラッシュと既に一般人では致死量に達する程のプラーナを消費している。
その状態で撃てるコスモノヴァの威力は本来より大幅に落ちる。
逆にこちらは温存していた魔力を全てブラックホールクラスターに注ぎ込んでいる。
勝利を確信してヴォルクルスはトリガーを引いた。
「ブラックホールクラスター発射！！」
「コスモノヴァ！！」
発射する瞬間にさらに黒き重力球は増幅し、グランゾンそのものを遥かに越える大きさで発射される。
コスモノヴァの光球も増幅するが、それでもサイバスターの拳二つ分程度の大きさににしかならない。
黒の重力球と４つの光球がぶつかり合う。
だが巨大すぎる重力球にコスモノヴァの光は押されてゆく。
「私の勝ちだな！ 宮本良介！！」
「そいつはどうかな？」
「虚勢を張ったところで……なっ！？」
サイバスターから虹色の光が漏れ出す。
それは法術の光、良介だけが持つ奇跡を具現する究極のスキル。
「あれだけのプラーナを消費していながら、まだ法術を使えるだけの力があるだと！？」
その光が巨大な魔方陣を作り出し、そこから無数の光条が伸びてゆく。
無数の七色の光条は巨大なブラックホールクラスターをいとも簡単に突き破り、グランゾンに向かっていく。
「だが当たりさえしなければ……うああああっ！」
ワームホールを使って逃げようとするが、襲い掛かってきた衝撃に機体の動きを封じられる。
大きい何かがぶつかってきたような衝撃。
「な、どうやって！？」
突然目の前にサイバスターが出現した。
巨大な法術の魔方陣がサイバスターの姿を覆い隠している間に、空気の屈折率を変えてステルス迷彩をかけ、密かに接近していたのだ。
「ま、待てっ！？ グランゾンを落とせば八神はやても死ぬことになるぞ！？」
「俺が倒すのはお前だけだ！ よく見てろ！」
『リョウスケ！』
「ああ！！」
サイバスターは大きくの手を掲げる。
魔方陣から伸びた無数の光条がサイバスターの手に集い、それは虹色の光の剣となる。
「ヴォルクルス！ これがお前を吹き飛ばし、はやてを解放する大いなる風だ！！」
かつて八神はやてをジュエルシードの作り出した闇から救い出した技。
良介がはやてだけに捧げる剣。
「――"疾風"――」
「くっ！」
グランゾンは虹色の剣をグランワームソードで受け止めようとする。
だが虹色の剣はグランワームソードを透り抜けた。
そして装甲すら透り抜け、コックピットのはやて。 八神はやての中のヴォルクルスを直接斬りつけた。
ぐあああああああああっ！！！
断末魔の叫びを上げるヴォルクルス。
「ん……り、良介」
「はやて……良かった」
『はやてちゃ〜ん、ぐすっ……良かったですぅ〜』
はやての意識が戻った、どうやらヴォルクルスを倒すことには成功したようだ。
法術ではやての中のヴォルクルスのみを滅する。
ヴォルクルスが完全にはやての精神と一体化していたら、はやての精神にも影響を与えてしまう。
それを危惧していたのだが、どうやらヴォルクルスははやてと完全には一体化していなかったようだ。
「本当に良かった……うっ……」
「良介！？」
『リョウスケ！？』
プラーナを使いすぎた影響か、一瞬視界がぐらぐらと歪む。
「大丈夫だ……少し目眩がしただけだ」
「ごめんな、私のせいで……」
「お前のせいじゃない」
「でも！ 私がもっとしっかりしてれば、ヴォルクルスに操られることだって」
『リョウスケ！ はやてちゃん！ 大量のガジェットドローンが接近中です！！』
ヴォルクルスが消滅したことにより、ヴォルクルスの張っていた結界が解除された。
その影響で結界から漏れた法術のエネルギーを感知したガジェットドローンが大量に向かって来ていた。
「はやて、後悔は後回しだ」
「……」
「お前は六課の部隊長だろう？ 後悔の前に……やることがあるんじゃないか？」
「ありがとう……そうやね、後悔は後回しや。 今は機動六課の部隊長として……聖王のゆりかごを止めるで！！」
「おう！！」
サイバスターがディスカッターを構え、グランゾンがグランワームソードを構える。
押し寄せる大量のガジェットドローン。
サイバスターもグランゾンもダメージを受けている。
だが、二人とも不思議と負ける気がしなかった。
空を仰ぐ。
聖王のゆりかごが衛星軌道上に達するまで、あと僅か……
あとがき
ＯＧ外伝までに何とか書き終えることができました。
次はギンガとスバルの戦いを書けたら書きたいと思ってます。
聖王のゆりかごを止めるのは最後ですかね。
スバルはやっぱ……Ｒ−１かな……
でも、やっぱり自分の実力不足を痛感しましたね、難しいです。
作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル、投稿小説感想板、