「良介……ミヤ、どうしたん? そんな怖い顔して?」
「もう芝居はやめろよ、ヴォルクルス」
『ヴォルクルス、貴方から今度こそマイスターを解放します』
優しげな笑みを浮かべていたはやての表情が変わった。
「ほう、気づいとったんか」
浮かべたのは以前のはやてからは想像できない酷薄な笑み。
「なのは達は知らないがな、この大事な局面にいなくなりやがった時点で確実だと思ったぜ」
「でも、良介が勝てるんか? この私に」
「うるせえ、それ以上はやての言葉で喋るな……虫唾が走るんだよ」
はやての意思を操り、はやての意思を通して話し続けるヴォルクルスに良介は怒りと共に吐き捨てる。
「ふふっ、あんたらはこの方が戦いにくい思ってな」
闇の書に宿っていた邪神ヴォルクルス、夜天の書を改変し、闇の書にした諸悪の権化。
もっと早く気づかなければならなかった、ヴォルクルスの存在に。
10年前に闇の書の防衛プログラムは確かに破壊した。
だが原因であるヴォルクルスははやての中に潜み、ずっとその中で生き続けていたのだ。
そして長い年月をかけて彼女の中に溶け込んでいき、八神はやてを浸食していった。
ミッド地上本部が襲撃されたあの日、何故こちらの内情が全て筒抜けだったのか。
それは情報を流していた人物がいたからに他ならない、情報を流していたのは……はやてだ。 いや、正確にははやての身体を乗っ取ったヴォルクルスだ。
機動六課の設立の時には既に操られていたのだろう、機動六課設立の目的はカリムの預言を受け、本局がコントロールをでき、かつ地上で自由に活動できる部隊が必要だったからだが。
だがそれこそヴォルクルスの計画の始まり、預言ははやてを通してヴォルクルスがカリムの能力に干渉した偽られた預言だった。
ヴォルクルスの目的はレリックの回収、そして聖王のゆりかごの復活。
そして目的は果たされた、自らが捏造した預言通りに地上本部を襲撃し、それを陽動に聖王の器であるヴィヴィオをさらった。
機動六課が回収したレリックは全てスカリエッティに渡していたし、地上本部を襲った際にそこに封印されていた分も全て回収した。
より完全に近い状態で聖王は復活し、聖王のゆりかごも起動した。
ヴォルクルスが望む世界の破滅が今まさに訪れようとしている。
「ま、相手をするのは構わんけど……ゆりかごを止めんでいいんか?」
「聖王のゆりかごはなのは達に任せてある、それにお前を止めないと同じことの繰り返しだ……ミヤ!」
『はいです!』
良介は手にした刀を鞘から抜き、ヴォルクルスに向けて構える。
ヴォルクルスに操られているとはいえ身体ははやてのもの、致命傷を与えないようにその刀は峰と刃が逆になっていた。
ミヤは後方に下がり何かの魔法の詠唱をはじめるが、どうやら長い詠唱が必要らしい。
「なめられたもんや」
良介の逆刃刀を見てヴォルクルスは嘲笑する。
逆刃刀だろうが普通の刀だろうが、魔力の全くない良介に遅れをとらない絶対の自信があった。
しかし良介の持つ究極のスキル【法術】はヴォルクルスも警戒していた。
ヴォルクルスもはやての身体を操り、闇の書を使って臨戦態勢に入る。
「闇の書よ!」
展開されるバリアジャケット、そして騎士杖シュベルトクロイツが手に握られる。
「でやあああああっ!」
「愚かやな」
良介はヴォルクルスに肉薄し、刀での一撃を叩き込もうとする。
対してヴォルクルスはそれをシュベルトクロイツで受け止め、空いているもう一つの手に魔力を込めて殴りつけようとする。
刀を放そうが放すまいが避けられない速度、次の瞬間にはその拳が良介の身体に叩き込まれるはずだった。
しかし予想もしない事が ヴォルクルスの目に映った。
「何やと……?」
「その程度かよ?」
その身に受ければ骨を砕き内臓破裂さえ起こしかねない程の威力の拳を、良介が受け止めていた。
それも素手でだ。
「ば、馬鹿な」
「どうした、ボケっとしてんなよ!」
「!」
攻撃を止められたことへの驚きでヴォルクルスに僅かな隙が生じる。
良介は拳を受け止めていた手を離し、逆刃刀を両手でヴォルクルスの腹部めがけて振る。
即座にシュベルトクロイツで防御するが、再び隙のある部分に向けられる逆刃刀。
「速い……!」
信じられないことだが、良介の剣撃が速すぎて防御できなくなってきていた。
魔導師はその身に魔力を流すことで通常の人間の身体能力を遥かに凌駕する力を持っている。
しかもはやてはベルカ式、その能力はミッド式に比べれば著しく高い。
故に魔導師ランクがどれだけ低い相手にだろうが、魔力が極端にない人間はどう足掻いても勝てないはずなのだ。
しかし魔導師ランク総合SSのはやての身体を使っているとゆうのに、ヴォルクルスは良介の剣撃を見切れない。
どんどん速さと鋭さを増す剣撃、もはや逆刃刀が銀の光の線のようにしか見えない。
そして良介は法術特有の七色の光を発していない、つまり法術ではないとゆうこと。
「な、なぜ…!」
なぜこれほどの力が……?
反撃すらも許されず防戦に徹するしかなかったが、それも遂に崩される。
「そこだ!」
「うあっ!」
腹部に叩き込まれる逆刃刀の一撃、後方に数十メートルも大きく吹き飛ばされる。
それでも動けないほどではない、空中で体制を立て直して両足で着地する。
『リョウスケ!いつでもOKです!』
「よしっ!」
良介は逆刃刀を大きく振りかぶり、投擲する。
本来なら防御魔法を使うまでもない、しかし投擲された逆刃刀に何か秘密があるかもしれない。
ヴォルクルスは警戒し、飛んでくる逆刃刀をシールドを張って受ける。
鋭い音を響かせて折れる逆刃刀、同時にヴォルクルスの周りに氷壁が発生する。
「捕縛する気か……!?」
どうやら逆刃刀はただの時間稼ぎ、本命はミヤの詠唱していた捕縛魔法。
発生した氷壁は高く伸びて上で一つとなり、ドーム状の氷壁の檻になる。
氷壁の檻に閉じ込められ、視界が氷に遮られて外の様子が分からない。
「……」
ヴォルクルスは前にもこんな状況に陥ったのを思い出していた。
自らの身体を分割して数多の次元世界に逃げ込み、闇の書に宿る以前のことだ。
挑んできたのは取るに足らない弱者だった、そして対するヴォルクルスが操る人間は天才と呼ばれ、確実に相手の男の力を凌駕していた。
だがヴォルクルスはその男に負けた、戦いの最中……急に男の力が跳ね上がった。
まるでさっきの良介のようにだ。
結果としてヴォルクルスの操る人間は倒され、自らも身体を分割して、他の次元世界へ逃げなければならなくなった。
「やはり……この世界でも」
推測でしかない、だがヴォルクルスには一種の確信のようなものがあった。
良介の強大な力の理由は……
檻から出るべく、そして檻の外で待ち構えているであろう相手に対抗するために。
この世界ではやての機体として作られた、ある機体を召喚する。
「来い、グランゾン」
身体が魔方陣の中へと沈んでゆく。
そして魔方陣から氷壁の檻を突き破り、ダークブルーの重装甲を持つ巨人が召喚される。
【グランゾン】この世界でははやての愛機であり、以前にもシュウ・シラカワとゆう男を使って操った因縁の機体。
「さて……決着をつけようぜ、ヴォルクルス!」
「ふふ、やはりな」
グランゾンのモニターに映る、ヴォルクルスのかつての仇敵。
【魔装機神サイバスター】がそこにいた。
やはり推測どおり、サイバスターが契約した精霊【サイフィス】が良介に力を与えていたのだ。
「サイフィス……そしてサイバスター、今こそ葬り去ってくれる!」
グランゾンのボディーにはやての魔力とヴォルクルスの邪気が満ちていく。
サイフィスとサイバスターへの憎悪ゆえか、はやての操られた意思ではなく、ヴォルクルス自身の意思が完全に表に出てきていた。
ヴォルクルス自身は気づいてはいないようだ。
「ようやく、ヴォルクルスが出てきやがったな。 口調が変わってやがる」
『もう少しですよリョウスケ!』
それが良介とミヤの狙い。
良介とミヤの計画の第1段階は【精霊憑依】による圧倒的な戦闘力で追い詰め、ヴォルクルスの意識を引き出すことだった。
だがこれからが最も辛い戦いになることを良介とミヤは理解していた。
先の戦闘での精霊憑依は既に解かれている、精霊憑依は負担が大きすぎるのだ。
サイバスターによる機体での戦闘、これは良介の自身の力で行わなければならない。
戦術は立ててある、しかしそれは良介がある程度グランゾン相手に時間稼ぎをしなければならない。
はやてが搭乗すれば1日でミッドチルダの全戦力を削ぎ落とせるともいわれる、最強無比の機体であるグランゾンを相手にだ。
俺に出会って良かったと思わせてやる、特に大喧嘩したばっかりの約一名には
いつかはやてに言った言葉が良介の胸の内に甦る。
あの約束はまだ果たされていない、果たさなければならない。
今が……その時だ。
「行くぜ!」
サイバスターが鞘からディスカッターを引き抜く。
戦いの第2ラウンドの幕が上がった。
あとがき
以前に魔法少女リリカルなのはSDWとゆうのを投稿していましたが、さすがにノリだけで書き始めたせいで続きが書けなくなってしまいました。
なので魔法少女リリカルなのはSDWは削除していただき、新たにこれを書きました。
本当は長編ものにしたかったのですがロボット系は難しく断念し、前編〜後編のような感じに書くことにいたしました。
ミヤの影が薄い? すいません、次回はもっと頑張りますので。