リリカルなのはS外伝 第8話「作戦と強攻」



<作戦開始より――>

『ねーねー、お兄ちゃんったら!』

(……?)

『ほら、うまく焼けたでしょ?』

『こら、シン。せっかくマユが作ってくれたんだぞ?』

(ああ……)

『あ、マユ、この携帯が良いなっ』

『シンはどれがいいの?』

(そうか……)

『くそっ!軍の連中は何をしているんだっ!』

『あなた……』

(これは……)

『腕がっ!マユの腕がぁっ……!』

『た、すけてよ、お兄ちゃん』

(俺の悪夢か……)


トール・ケーニヒ科学研究所。機械化文明時代に分類される、ひとつの時系列に存在する
時空管理局の保有する小規模基地の名称である。名称登録が研究所なのは基地としてよりも
軍事技術の研究機関としての性格が強いためだろうか。初代研究所・所長の名前を採ってそう
名付けられている。
そして、今回シンたちが派遣された場所でもある。


「緊張してんの?」

「ば、馬鹿! そんなわけないじゃない」

研究所に向かうヘリの中で、シンは隣でだまっている青髪の少女に顔を横に向けて小声で
そう訊く。こいつが静かなのは、多いに問題ないのだが、静か過ぎるのもそれはそれで
若干気味が悪い。

「ここがお姉ちゃんたちのいる世界なんだなぁ、って」

まぁ、厳密には違うんだけどね、とハルカはつけたしながら黙りこんでいた理由を話す。
やはり、自分から距離を置いているとはいえ、少しは気にかけていたようだ。

「――会ってやれば?」

何気なく、シンはそう提案する。才能だの、資質だの、と言ったところで結局は家族という
血の繋がりに勝るものはないのではないか。そう考えると、自分ほど空しい存在はないのかも
しれないが。少し――チクッとする。

「……メールくらいは入れとく」

そう言ってハルカはシンの提案に一定の妥協を示して、また黙り込む。根が深いわけではないが
今更、という気持ちもあるのだろう。自分から一旦置いてしまった距離はそう詰められるもので
はない。



<作戦開始より3時間>

「藤堂一等陸尉、以下10名、ただいま到着しました」

「ご苦労様です」

既に旧型となっている輸送ヘリ『プレーンレイダー』から降りた藤堂は出迎えてくれた現場の
臨時責任者である、タクティクス三等陸尉とお互い略式の敬礼をしながら、挨拶を交わす。
本来ならば100人規模の部隊の指揮官に三尉というのはおかしい話だが
タクティクスのやや狼狽した表情がその全てを物語っている。


「早速で申し訳ないが、詳しい現状を説明してもらえるか?」

トール研究所から300mほどの位置に仮設されたキャンプの中で、藤堂は隣に立つタクティ
クスにそう求めた。

「現在トール研究所内には多数のガジェット零型、ガジェットT型、それに少数ですが
ガジェットV型が侵入・徘徊しています」

「T型?」

「V型?」

タクティクスが説明する中、シンとハルカは聞きなれない単語に疑問符をつけて呟く。

「ああ、最新レポートにはまだ目を通していないのか」

藤堂からの僅かに責めるような目線でそう告げられ、二人は「す、すみませんっ」と謝りながら
慌てて管理局製の電子手帳を取り出し、ヴン、という音と共に起動させる。

「現在では『ノーマル』と『マザー』以外にも確認されていてな」

そう言いながら藤堂は自身の電子手帳をピッピッと操作し、隊員全体へとデータを送信し始める。
『now loading』の文字が消えた後、電子手帳には4種類の、一つ目を持つ機械人形のシルエット
が映し出される。

「零型、これは従来の『ノーマル』タイプの現在の名称だ。後述の3タイプの元となった
いわばプロトタイプ、そう管理局本部では判断している」

「T型、こいつは陸戦型だな。『ノーマル』と外見・基本武装は変わらないが、機動力が
かなり強化されている」

「U型、これは空戦型だ。限界高度はまだ未知数だが、砲戦魔道師か空戦専門の魔道師でないと
対応は難しいだろう」

「そして、最近になってでてきたこのV型だが、分類としては重装型とでもいうべきだな。
特徴はその重装甲と高い火力だ」

藤堂の説明を訊く、派遣された隊員たちの表情を険しい。シンとハルカ以外にもこのデータが
初見の者が多いからだろうか。

「空戦……」

「重装……」

敵戦力の説明を受けながら二人は、嫌な単語を聞いてしまったとばかりに眉をしかめて小さく
ぽつり、と漏らす。陸上での、しかも近接戦闘をメインとするシンにとって空戦タイプの敵ほど
嫌なものはない。いや、嫌というレベルでなくほとんど対応不可能なのだ。
これはシンほどではないが、ハルカと重装型の関係でも言えることだ。『クレイウェン』は
中距離支援に優れ、汎用性の高い武器だが、決定力にかけるためである。

「それと、T型からV型までに共通することだがこいつらは全タイプ、AMFと呼ばれる
特殊機能を備えている」

「AMF?」

またもや聞きなれない単語にハルカが顔を上げ、藤堂に説明を求めるような表情で訊く。
隣にいるシンは、もう好きにしてくれ、といわんばかりの表情で嘆息している。

「アンチ・マギリング・フィールド、とかいったか。機体の前面に対魔術フィールドを展開
できる、厄介な能力だ」

その説明を聞いた瞬間、隊員たちにどよめきが起こる。それは無理もないだろう、
今まで自分たちが戦闘の主軸としていた"魔法"を封じられる。それはそれまでの戦い方が
全否定されるようなものなのだ。
だが、藤堂は動揺を掻き消すかのように「これにも欠点はある」と付けたし――

「これは機体"前面にしか"展開できないものだ。つまり側面か背後から攻撃を加えれば
AMFの緩衝は受けない」

「あるいはAMFの緩衝限界強度を上回る攻撃を加える、というのも手ではある」

――藤堂は説明を終えて一息つき、「後は自分が」と隣から進み出たタクティクスに
続きを任せる。


「そして、トール研究所は『あるもの』によって中枢部のコントロールが奪われています」

「『あるもの』?」

シンはそのもったいぶった言い方に疑問符を付けてタクティクスに尋ねる。


「――メイヘム。わしらはそう呼んでおる」

不意に仮設キャンプの入り口あたりからタクティクスの説明を遮るかのような声が響き、
中にいた全員が視線を後ろに振り向ける。
そこにいたのはよれた白衣に纏い、眼鏡をかけた老人。
仮設テントの外か入り込む光がそのシルエットを強調する。

「ドクター!もうお怪我は?」

「なあに、大した傷でもないしな。それに責任の一端はわしにもあるからの」

ドクターと呼ばれた人物は、そのまま周囲の視線を気にすることなく、すっと前へ進み出る。

「それで"メイヘム"とは?」

藤堂がドクターと呼ばれた白衣を纏う人物に問いかける。

「言うならば"人型ガジェット"とでもいうべきかの」






<作戦開始より6時間>

「こ…のぉぉっっ!!」

白く輝く刀が青白い火花を散らし、地面はその軌跡を遺しつつ、強引に振られた刀は
相手に向かってその牙を向ける――が

――ィィィィィィィ

届かない。否、掻き消される。
目前で散らす魔力粒子が大気へと盛大に拡散。
音はないが、蒼い音色が響き渡る。

「AMFッ!?」

自身の振るった刃が干渉を受けて押し戻されるのを確認して、2度のバックステップで
遮蔽物へと逃げ込む。敵の発射した無数の小型ミサイルが、ゴォォォと周辺に着弾する。

「アスカ二等陸士ッ!気を抜くな!」

そう言いながら藤堂が迫る小型ミサイルを高速で抜く刃で瞬時に無力化する。信管を無力化
された弾頭がコロン、と床に転がり落ちる。

「迎撃はあたしがやりますっ!」

展開中だった術式を無理やり起動させて、紅き矢を射る。反動で弓が僅かばかり撓る。
狙いはこちらに向かう小さな脅威のみ。全てを当てる必要はない。
半分くらいは誘爆で処理させる――!
大きいほうは二人に任せる。私は私に徹する。それが役割。それが連携。

「藤堂さんっ!!」

「ふっ……承知した!」

その言葉だけで理解したのか、二人は敵に向かって獲物を構えて走り出す。
シンは刃を左に、藤堂は刀を右に構える。到達距離は――4秒弱。
触手のようなものが正面から迫るが、シンの後方より飛来した火球に
飲み込まれ、次々と黒い燃え屑となる。

ズサ――……!!

V型は巨体である。地面からの近接攻撃は跳躍なしにはAMFと分厚い正面装甲に
阻まれるのがオチ。
だからこそ。

「<刀身延長(エクステンション) >!!」

シンはそう叫ぶ。柄から再送信された魔力が刀身を瞬時に引き伸ばす。
その長さ――3m。
左足を軸にしてグルリと身体を旋回させて、一閃。

目の前の脅威は未だ減った気がしない。



<作戦開始より3時間>

「中枢部と第2制御室を同時に制圧する必要がある、か」

「ええ、この二つさえ奪い返せれば施設内の自動防衛システムの機能できるはずです」

タクティクスが言うには、こうだった。施設内には多数の敵が潜伏しており、全てを
破壊・無力化するには現状の戦力では到底不可能。逆にこちらが消耗しつくしてしまう。
だから、コントロールを奪って自動防衛システムを起動させるしか手はない。

「問題は中枢部、ということだな?」

この惨状の主原因は多数のガジェットの襲来――ではなく、内部のイレギュラーによるもの。
つまり施設を明け渡すというひどい事態は"メイヘム"によるものが大きい。
そのことを藤堂は確認する。

「わかった……そちらは私と、アスカ二等陸士、ナカジマ二等陸士の3名で向かう」

「――大丈夫ですか?」

「こういう任務は火力よりも機動力の勝負になる」

タクティクスのやや不安そうな問いに藤堂もそれなりの自信を持って憮然と応える。
こういった少数での強襲任務には確かな実力と素早い判断力が必要とされる。
そしてホイス提督の編成した部隊の中ではこの二人が最も使えると判断した。
実戦に出て僅か半年余りで既にAランク近くの実力をつけつつある、この二人は脅威的だ。

「分かりました。こちらでもいくつか陽動はかけてみます」



<作戦終了まで――>

「邪魔だぁぁぁっっっ!!!」

シンは叫びながら刃を構えて正面のガジェット零型の群れに突っ込む。
数は30、いやそれ以上か。秒間15発以上のレーザー砲が至近を駆け抜ける。
回避は最小限。左手で『シールド』を張ってはいるが――

(痛…っ…!!)

――3発が貫通した。ジャケットの肩部装甲が焼け爛れ、黒く炭化した繊維がぽろぽろと
零れ落ちる。右肩に僅かな痛みを感じる。

だが強攻した甲斐はあった。敵のど真ん中に潜り込めた。敵の視線が一斉にこちらに向く。
恐らく発射までのタイムラグは2秒程度。何もしなければシン・アスカという花は穴だらけ
になり枯れ落ちてしまう。もちろん、そう簡単にくれてつもりはないが。
一つ一つに構っている時間的余裕はない。だからこそ――

「ったく、サポートする側の身にもなってよ……ねぇっ!!」

ハルカはシンに聞こえる声で愚痴りながら、ぎりぎりまで引き絞った魔力矢をシンに向けて
放つ。もちろん、狙いは僅かに左にずらす。

ヒュッ!

狙われたガジェットに紅き魔力の結晶が矢となって突き刺さり、瞬時に膨れ上がり・爆散。周辺
の機体も身体の一部をもぎ取られる。
だが、意に介さず表情も険しいままハルカは次弾を練成し始める、早く――早く!

シンはあくまで囮。掻き回して、隊列を崩し、時に敵を潰しながら――ハルカが削っていく。
いつもと変わらない。変わらないけどこれまでとは違う。
それは指揮官の有無。ベテランの存在。

「悪くない動きだ。Aランク昇格も近いか――!」

そう言い放ちながら藤堂も向かってくるガジェットT型に刀を一閃する。刀が切りつけられる
瞬間、展開されたAMFが緩衝・相殺する――かに見えたが、刀は速度を落とさずに
胴体を斬りつけ、寸断する。
『月下』はシンの持つ『焔』と違い、実剣の周囲を魔力で覆う半魔力刀とでも言うべきものだ。
纏っている魔力さえオフにすればAMFの緩衝は受けずに済む。

「シンは筆記のほうを頑張らないとね!」

『クレイウェン』に次弾を装填しながらそう付け加える。

「いちいち、うっさいっ!」

ハルカに比べてフォワードのシンはあまり余裕がないのか、直撃コースの攻撃を身体をひねって
かわしながら、やや乱暴に返す。





魔力特有のイオン臭と焼け爛れた金属の臭いがツンと鼻をつく。前線に出てから既に何度も目にした
光景だが、その特有の臭いだけは未だに慣れないらしい。

「はぁ…粗方、片付い…!?」

シンは殺気のようなものを感じて『ブースト』で一気に後方へと跳ぶ。直後に立っていた場所が
うねうねとした触手のようなもので埋め尽くされる。

(あ、危なっ……)

どこかに潜んでいたのだろう。V型には高い火力に加えて、触手のようなものまである。
捕まったら自力で抜け出すのは困難だ。

「ま、まだいたの?」

目の前の巨体にハルカがややうんざり顔で零す。ガジェットV型はとにかくタフでちょっとや
そっとの攻撃・損傷ではびくともしない。時間がかかるのだ。それにこっちだって体力・魔力
にも限界はある。終わりのない消耗戦に突入されるのは勘弁願いたい。



「ディバイぃぃン・バスタぁぁー!」

後方より一際大きい魔力の奔流がガジェットV型の正面を捉え、そのまま飲み込む。
AMFとは魔力に緩衝し、その魔法効果を著しく制限する能力を持つ。
破る方法は二つ、正面以外からの攻撃を仕掛けるか、あるいは――

――『あるいはAMFの緩衝限界強度を上回る攻撃を加える、というのも手ではある』

不意にそんな言葉が浮かんだ。

「ゼ、ゼロ!?」

突然に放たれた高威力魔法に驚いてシンは思わず後ろに目をやる。そこには灰色を基調とする
杖型デバイス『量産型レイジングハート』を装備した栗色の髪をした少女の姿があった。

「シン、助けに来たよ」







独り言

2話を結合したらひどいことに(´ー`)







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