リリカルなのはS外伝 第6話「結末と帰還」



第3時系列方面艦隊。時空管理局は平和維持活動をより円滑に遂行させるために4つの艦隊と
50を超える独立部隊をその戦力としている。第3艦隊もその1つである。
配下に7つの独立部隊とやや規模の大きい1つの直属部隊を持つ。

4つの艦隊は常に本局から離れた、それぞれ異なる時系列を拠点に活動しており、
独立部隊のプラットホームとしての役割、つまりは支部、として運用されている。


第1艦隊の担当する『古代・旧文明時代』、第2艦隊の担当する『中世・封建文明時代』、
、第4艦隊の担当する『機械化文明時代』はいずれも魔道事故・魔道犯罪が頻発する
時系列を複数抱えているため必然的に局員に求められる能力は高くなる。
そのため、これらの部隊を統括する指揮官や隊長たちは尊敬と憧れの眼差しで見られ
『英雄職』であるとまで言われている。第4艦隊に新設された『機動6課』が最たる例だろう。


第3艦隊の担当する『現代』はこれらに比べて比較的、事件・事故は少ないと言われている。
いや、実際にかなり少ない。直接的な原因はわかっていないが、おそらく25年という短い
年月に2度も経験してしまった大規模戦争の後遺症であろう、という見解が一般的である。
そのため、配置されている局員に求められる能力もそこまで高くなく、一度退役後に復職した者、
エリート部隊へ志願し結局配置されなかった新人、人間関係のトラブルで転属された者
などなど、大なり小なり何かしら問題を抱えた人間がちらほらと、いや大多数を占める。

まぁようするに『寄せ集め』部隊なのである。



ちなみに第3艦隊の艦隊司令の名前が野村提督であることから『野村再生艦隊』などとも
呼ばれる。誰がつけたか知らないが、なかなかなネーミングである。最も野村提督本人は
その呼称をさほど気に入ってはいない。どうやら自分の考案した『スワローズ』という
良くわからない呼称がいまいち部下たちに広まらなかったのが不服らしい。




第3艦隊・情報統括部。文字通り第3艦隊に本局から日々出入りする情報を集積し、配下の
独立部隊に迅速に伝達することが主要な仕事である。もちろん、独立部隊から上がってきた
情報・要望・苦情を整理して本局へ送り返すことも仕事とする。まぁ「我が部隊への女性隊員
の補充を求む。あ、若い娘限定で」などのくだらない要望はここで大半が破棄されるが。

仕事量自体も、少ないとは言わないが、それでも他の艦隊の情報部と比べて少ないのは明らか
である。そのため、その中でも割と暇な部署もいくつか存在する。
『情報部・第2情報課』、ここもまた、そんな暇な部署の1つである。


他の艦隊での『隊長あるいは提督』と『一局員』の関係は一部の例外を除いて単なる上司と
部下以上の中世の『王』と『兵士』のような強い忠誠で結ばれている。もちろん、そこには
実戦を共に繰り返すうちに結ばれた強い絆もあるが。

ではこの第2情報課を取りまとめる『提督』と1時間ほど前、遺跡調査から帰還した2名の
『局員』との関係はどうかというと――


「おっす、爺」

「じぃ、ただいまー」

「………」


――常々こんな感じである。






遺跡でゼロを無力化・応急処置を施した二人はそのまま急ぎ足で第3艦隊の支部へと急行
した。遺跡周辺には病院など存在しない。だから数時間ぶりに遺跡から地上へ出た二人は
支部へ緊急の応援として特殊ヘリを頼み、鎮痛薬で眠っているゼロを支部の医療課へと
移送することにした。時空管理局の医療技術は現代とは比べ物にならないほど発達している
ので、仮にこの近くに病院があったとしても判断は同じだったであろう。



出血自体少なく、応急処置もまぁまぁ適切で、幸いにして刃が貫通しきっていた。これらの
要因が重なって、後遺症も残ることはないだろう、というのが初見した管理局の医師の
言葉であった。それでも、2週間ほどは入院が必要だとも言っていたが。



とりあえずの危機は回避できたことが二人の緊張の糸をぷっつりと切ってしまったかのように
シンとハルカは、手術室の前に設置されている長いすに、へたり、と座り込んだ。
遺跡からここまでノンストップだったので身体が休息を求めたのかもしれない。


「あっ、メール入ってるよ?」

ハルカはもぞもぞとジャケットのポケットにいれておいた携帯を取り出し、新着メールが
来ていることに気づく。

「…どこから?」

長いすにもたれ掛かりながら、顔だけハルカのほうに向けて聞き返したシンだったが、
ハルカの「じぃのとこ」という返答を受けて、二人は先に昼食を済ませてから向かうことにした。
ついでに先輩たちにも挨拶しておこうか、などと二人で話している辺り、どうやらメールで
指定された場所にさっさと向かう気はあまりなさそうである。




「もしかして、ゼロって娘のこと?」

食堂のカウンター席で昼食をとっていた二人だが、ハルカは不意に隣に座るシンの持つ箸が
ほとんど進んでいないのを見て、その原因候補をいくつか頭の中にリストアップし、とりあえず
候補第1位を聞いてみた。

「ああ…やっぱ爺さんに頼んでみようと思うんだ」

職権乱用だけどな、と僅かに笑いながら付け加えてシンはハルカの問いに答え、先ほどから
考えていたことにけりをつけて、右手に持っていた箸を動かしだした。ハルカもその答えを
聞いて「ふぅん」と納得したのか、自身の頼んだB定食に再び箸をつけだした。
やはり同じ食べ物を食べるにしろ、すっきりした気持ちで食べたほうが美味しいに決まっている。



「……っ?!海老がないっ?!」


A定食を頼んだシンの皿についているはずの海老フライが2匹とも行方不明になっていた。
海老がないと、ただのサラダセットじゃねぇかよ、と突っ込みつつ、ふと、横に座ってしたり顔で
箸を進めている人物の皿をみると無惨に食い散らされた2匹の海老の死骸が横たわっていた。
その瞬間、シンの頭の中が、まるで種がはじけるイメージでクリアになり、
「あんたって人はぁーっっ!」と叫んでやりたかったが、目の前でこちらを警戒している食堂
のおばちゃんにつまみ出されるのを恐れ、渋々ご飯とサラダを交互に口に放り始めた。
2度、同じ失敗を繰り返す馬鹿ではない。怖いし。


そして、現在に至る。




ホイス・J・ミラード。時空管理局・第3艦隊・第2情報課を仕切る年輩の老人である。
退役後しばらくして、現場の慢性的な人員不足から復帰を求められ、現在の仕事に就いている。
一時期は本局の統合司令部の中でもかなり高い地位まで登りつめたエリート中のエリートで、
復帰後も本来ならば統合司令部か前線での艦隊司令の地位を約束されていたはずだが、
「老人がいつまでも居座るわけにはいかんよ」と言って自らこのポストについた変人でもある。
顎全体にふさふさと生やした白髭が特徴で、その温厚さも相まって身近なものからは
「じぃ」の愛称で呼ばれている。


「大分、遅かったのう」

ホイスは自身の特徴でもある白髭を撫でながら、先ほど入室したシンとハルカに
待ちくたびれた、といわんばかりの声をかける。

「はい、予想以上に食堂が混んでいたもので」

「やはり、食堂のパートさんを増やすべきでは?」

「……少しは言い訳くらいせんかい」

シンとハルカのあまりにもストレートな回答に、まぁいつものことか、とホイスは嘆息しながら
二人をここへ呼び出した用件を手短に伝える。二人の口調が最初と変わっているのは、
『仕事中』モードに切り替えたためであろう。

「二人には、第4艦隊へ支援要員として行ってもらおうと思っての」

「第4に…?」

「ですか…?」

二人はホイスからの意外な要求に目をぱちくりさせて、その言葉の意味を図りかねているのか
腑に落ちないという表情をしている。第4艦隊といえば『機械化文明』という4つの艦隊
が各々担当する時系列の中でも最も過酷な任務地と言われている。特に魔道犯罪の発生率が
他より群を抜いて高く、そのためどの部隊もエリート揃いなのである。

そんなところにはみ出し者の自分たちが派遣されるのだから疑問に思うのも当然である。

「うむ、実はちょっと厄介なことになってるらしくての。まぁ詳しいことはこちらからの
派遣部隊の隊長に聞いてもらえるか」

「ということはザイーブでの任務は?」

「このまま終了してもらってかまわんよ」

ホイスは二人の疑問に対して、曖昧にしか答えを返さず、その役目をここから派遣する
部隊の隊長に押し付けることにした。まぁ、今ここで二人に解説したとしても作戦前の
レクリエーションでどうせ同じ説明を受けることになるのだから、わざわざここで
長々と説明する必要もない。

いまいち、納得しきれない二人だったが、「まぁ、いいか」と投げやりに自身の疑問を
黙らせて『第2情報課』とプレートのついた部屋を出ようとする。


「あ…爺、ひとつ頼めるかな?」

「なんじゃ、お前が頼みごとなんて珍しいのう」

「実は遺跡で拾ったゼロって娘のことなんだけど」

シンはドアノブに手をかける直前、思い出したかのように後ろを振り向き、机にひじかけて
いたホイスに頼みごとをする。ホイスは、この人に頼みごとするとは無縁のような男からの
頼みにやや驚いたような反応を見せる。


遺跡で発見・保護されたゼロはどんな理由があったにせよ、管理局の局員に攻撃を仕掛けている。
管理局は軍隊ではないが、それでも敵対する者に対しては基本的に容赦はしない。
だから、ゼロも例外なく、管理局に尋問されることになる。原則的に尋問対象者と直接関与して
いる局員は担当官にはなれない。それは当たり前だろう、私情が入ってしまうからだ。
そこでシンはその際の担当官を直接関わっていないホイス提督に頼むことにしたのだ。
まぁ、かなり反則的というか、裏技的なやり方ではあるが。


「なんじゃ、そのくらいお安い御用じゃわい」

ホイスがそう快く引き受けてくれたのを確認して、シンとハルカは略式の敬礼と共に退出して
いった。

これから二人はどう成長するのだろうか、ホイスは髭をさすってそんなことを考えながら中断
していた自身の職務を再開した。




続いてみるぅ






独り言

野球界よりノムさん友情出演。

ハッタリ設定もここまで来ると妙に清清しい。





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