リリカルなのはＳ外伝　第４話「少女と記憶」

ママ･･････

――「所詮は『試作機』ということでしょうか･･････」

ママ･･････

――「稼動データはもうとったのでしょう？」

ママ･･････

――「ええ、ですが、本格的な量産にはまだ時間がかかるかと･･････」

こっちを･･････

――「できるだけ早く始めてくださいね」

こっちを･･････

――「計画をあまり遅らせたくないので･･･それと」

こっちを見て･･････

――「コレはもう捨てておいてもらえますか？」

「大体、ハルカの勘は外れすぎなんだよ」

シンは相手の回答を待つことなく、自分の２歩か３歩ほど後方を歩いているであろう
その相手に愚痴をぶつける。壊れてはいないが、明らかに初期とは違うやや歪な軌道をして
浮遊している、こんな状態の『キューブ』にしてしまった責任追及の意味も込めているのだろう。

「うるさいなぁ･･････シンだって反対しなかったじゃない」

ハルカもハルカで負けじと言い返そうとするが、やや声に力がないのは自分に全面的に
とは言わないまでも、かなり非があると理解しているからである。
ちなみに『キューブ』の方ではない。外装だけ見れば破損した形跡は、注意しなければ
見当たらない程度のものであり、それくらいなら問題ないとハルカは思っている。
むしろ、耐久性の低さをレポートに書き込んでやろうか、ぐらいの勢いである。
まぁ、破損の主原因を書くつもりはさらさらないが。

では何が問題だったのだろうか。

――つまり、行き止まりだったのだ。

やや時間を遡るが、ゼロを発見・保護した二人は小フロアを左周りにやや速度を落と
して、歩くことにした。

遺跡やダンジョンで警戒するべきトラップの類というのは、意外にも通路などには
仕掛けられていないことが多い。むしろ、注意するべきは大多数の探検家や冒険家が
休憩地点にするであろう、通路と通路の間に存在するフロアの方である。
トラップというのは進入してきた相手に対して、攻撃・危害を与えるものである。ならば、
わざわざ警戒されてしまう通路よりも、フロアに仕掛けるほうが効果的というものだ。

そんなわけで、警戒の意味を込めてフロアを進み始めた三人だったが、そのまま一周して
しまった。途中に、ダンジョンや遺跡にありがちな『ボタン』や『仕掛け』などがあれば
まだ進みようがあったのだろうが、そうそう都合よく存在するはずもなかった。
「そ、そんなはずは･･･」とやや焦った声で、呟きながらハルカは部屋をくまなく捜索しようと
しているが、おそらく時間の無駄であろう。そう判断したシンは、やや損傷した『キューブ』
をハルカから自分に軌道するように戻し、ゼロと共に来た道を戻ることにした。

そして、現在に至る。

しばらく言い争い、といっても愚痴と皮肉の応酬だから可愛いものである、を続けていた
二人だったが、先頭のシンは後ろを振り向いて、ふと異変に気づく。

「ハルカ」

自分より近い位置にいながら、異変に気づいていない相手にシンは後ろを向きながら
さっさと気づけとばかりに声をかける。

「･･･何よ」

「その子、怯えてるぞ」

「･･･あっ」

二人が気づいたときには、ゼロはどこぞの小動物だといわんばかりに、僅かに身体を震わせ
ながら、オロオロと二人の様子を交互に見ていた。

二人は直後に、まるで立てこもっている犯人と交渉するがごとく、必死にゼロに「喧嘩してた
わけじゃないんだよー？」「そうそう、あのお兄ちゃんの声がちょーっと大きくなっちゃった
だけだからね？」「･･･何、俺のせいなの？」などと交渉する気があるのかないのか、とにかく
交渉と弁解を数分間に渡って続けた。
交渉が功を奏したのか、どうかは知らないがゼロが「わかった」と安心したような笑顔で
言ってくれた際には二人は安堵したが、続いて「でも、喧嘩はダメだよ？」と笑顔でダメ出し
されるとなにやら大分情けない気分になった。

『ゼロ』

「っ！！」

おにーちゃんとおねーちゃんと三人で元来た道へ戻る途中、私の中に組み込まれた魔力回路へ
ダイレクトに声が響き渡る。

『ゼロ』

――ママ･･･

聞き覚えのある優しい声、間違えるはずもない"ママ"の声だ。嬉しさのあまり、
泣き出してしまいそうになるが、頑張って堪える。また泣いてしまっては
お兄ちゃんたちに迷惑をかけてしまう。

『よく聞いてね、ゼロ』

――うん、ゼロ、ママの言うことはちゃんと聞くよ

『そう、偉いね、ゼロは』

――うん、良い子にしてればまたママに会える？

『そうだね。そうだ、ママひとつ頼みごとをしても良いかな？」

――うんっ！頼みごと、訊くっ！

『そう･･･じゃあ、目の前の二人を殺しなさい』

「えっ･･････」

ママの声がぶつ切りに途切れ、私は思わず驚愕を最小限に表現したような言葉を発して
しまった。そしてママの言った最後の言葉の意味を必死で考える。
いや、考える余地や必要なんてない。

目の前の二人――それはシンとハルカのこと以外に解釈の仕様がないからだ。

分岐点まで戻り、今度は右側の通路の探索を始めた三人、正確には探索しているのはシンと
ハルカだけであるが、は数分程度歩いて通路を抜けたフロアらしき場所に出た瞬間に
困窮してしまった。まぁ、困窮しているのもシンとハルカだけでゼロは一人、やや暗い表情
であったが。

「･･･こっちも行き止まりかよ」

「これ以上、本格的にやるのは二人じゃ無理だよ？」

確かになぁ、とシンも思いつつフロアの床や壁をぺたぺたとランダムに触っていた。
ハルカほどではないが、彼もまさかこんな所で遺跡調査が終了するとは思っていなかったのだ。
ちなみにハルカもシンと同様にシンから離れた位置で『仕掛け』探しを始めていた。
最も彼女の場合、一つ一つ確認していくうちに、『クレイウェン』を起動させて、
無理やり壁をぶちぬこうか、などという危険な思想に心を支配されつつあったが。
仮に実行したら三人が生き埋めになるのは間違いない。

「･･･ごめんなさい」

不意に誰かがそう呟いたのをシンは聞き逃さず、声の主にその意味を問いただそうと
『仕掛け』探しを中断し、後方を見て、驚愕する。

「っ？！　ハルカっ、『シールド』を張れっ！！」

問いただす余裕もなく、咄嗟にシンは狙われている相手、ハルカに大声で危険を知らせた。
シンの声に気づいて、ハルカは反射的に『シールド』を展開するが――

「くぅっ･･･！　も、保たないっ･･･！」

――最大出力の『シールド』を展開させながらハルカは苦しい声でそう溢し、時間にして
３秒程度であろうか、持ち堪えた後、自身に突然降りかかった敵意に満ちた魔力の奔流の
威力に押されて、後方へと勢い良く吹き飛ばされた。

「･･･どういうつもりだ？」

壁に激突したハルカの最低限の安否、つまり生存の確認、をした後、シンは攻撃を仕掛けた
相手に対して今度は怒りを含んでややきつい口調で問い直す。
もちろん、『焔』と制式ジャケットに魔力を伝導させ戦闘形態へ移行させるのを忘れない。

「ゼロね、お兄ちゃんたちを殺さないといけないの･･････」

シンが見つめる先、そこには桃色の杖状のデバイスと白色を基調としたジャケットを装備し
哀しい目をしたゼロの姿があった。

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独り言

安西先生、文才が欲しいです･･･