リリカルなのはS外伝 第3話「遺跡と少女」



遺跡近くで強襲してきたガジェットの群れを倒し、シンとハルカは「アフメド遺跡」
の調査を開始する。



アフメド遺跡。砂漠の中にある都市のひとつ『ザイーブ』から距離にして30kmほど
南西に向かった先にある、遺跡の名称である。現在よりおよそ60年ほど前、ザイーブという
探検家が20人ほどの探検団を率いて同遺跡を発見・命名した。安直にもほどがあると
いわんばかりの名称だが。
いつ頃、建築されたのかは現在でも判明しておらず、さほど大きな遺跡ではないが、
砂漠にぽつんと建物だけが存在する奇妙さから、現地住民は用がない限りあまり近づくことは
ないという。



「うっわ、暗いなー」

遺跡へ踏み込んだハルカの最初の感想が辺りに木霊する。密閉された建物なので
壁や床からの反響もあるのだろう。外で会話していたときよりも声が響いて聞こえる。

「ライトキューブ、ライトキューブ、っと」

シンは『探査セット』の中からライトキューブと呼ばれる握り拳程度の大きさの
球体を取り出し、表面にあるスイッチを起動させる。すると球体は発光を始め、
同時にシンの掌から30cmほど上昇したところで停止し、身体の周りを一定距離を
保って浮遊し始める。

「あっ、何それ? 使ってみたいんだけど?」

「良いけど、壊すなよ」

うん、と応えたハルカだが、渡された瞬間にスイッチのオンオフを繰り返して楽しんでいる。
とりあえず、この探索が終わるまでは内部電池保ってくれよ、とシンはいつもはその存在
を信じてはいない神に今日だけは心から願った。




しばらく前方へ進むと地下へと繋がる階段が見えてきた。この遺跡に踏み込んでの調査は
実は初めてだが、驚いたことに遺跡にありがちな旧文明的な、あるいはオカルトチックな
彫刻・模様・石造などの類が一切ない。あるのは床と建物を支えるかなり太い支柱、壁だけである。

「どうするの?」

「このフロアには何もなさそうだし、降りるしかないだろ?」

シンはそう応えて、正面に見える階段を見据え―――

「壊すなよ?」

「わかってるってー」

―――ライトキューブで軽いリバウンドを始めたハルカに2度目の注意を促した。





狭い、それが地下へ降りた二人の共通の感想であった。支柱、床、壁の3点で構成されて
いる点は地上部と変わらないが、地上のものと比べると支柱はかなり細く感じる。
地上フロアがただただ広い、1つの大きな部屋のようなものだったのに対して
地下は幅3m程度、ほぼ一定間隔で支柱が点在している、の通路が入り組んだ簡単な迷路
のような形を成している。





しばらくシンとハルカは一直線の通路を進むと、やがて正面にうっすらと壁が見えてきた。
3歩ほど更に近づくと、左右に通路が分かれている。

「左ね」

「・・・ちなみに理由は?」

「勘よ、勘」

「・・・・・・」

ハルカは迷うことなくそう決めると、ずんずんと先へ進んでいく。ライトキューブは用意した
1つしかないのでここで二手に分かれるという選択肢はない。さすがにライトなしでは
探索など不可能に近いし、トラップや敵の強襲にも反応できない。

まぁあとで右も回ればいいか、などと思いながらシンもハルカに遅れまいとやや歩く速度を
早めた。
ちなみにハルカは未だにキューブをテニスボールのごとく、時たま壁や床にぶつけては
跳ね返ってくるキューブを片手でキャッチするという作業を続けていたが、シンは特に
注意することはなかった。その代わり、『取扱説明書』を取り出し破損時の罰金要項一覧の
箇所に目を通していた。やや、テンションが下がり気味なのは気のせいだろうか。




左へと続く通路を進み始めて、2分ほど経っただろうか。不意に先を進んでいたハルカが
足をとめた。

「何か聞こえなかった?」

「・・・」

一向に変わらない壁と床だけの景色に、若干飽きを感じ始めていたシンに、ハルカは同意を
求めるような目で訊いてきた。シンはそれに対して、求められたリアクションとはやや異なる
、真剣な眼差しで黙って言葉をかけてきた相手を見つめる。ついでにハルカの周辺を軌道して
いる『キューブ』の破損状況もチェックする。抜け目のない男である。

「ん・・・なんか泣き声みたいな」

「・・・ハルカ」

「どうしたの?」

「・・・嘘が下手にしても、限度があるぞ」

とりあえずグーで殴られました。





1本道、というよりは1本通路という表現が正しいであろうか。そんな通路も無限に続く
はずもなく、1つの部屋というべきなのかどうなのかわからないが、とにかく少し開けた
フロアに繋がっていることを二人は目で確かめ、気持ち速度をあげて前方に確認できた
フロアへと向かった。

「ねぇ、シン、あれ!」

「ひっく・・・・・・ひっく・・・・・・」

ハルカが不意に何かに気がついたのか、指をさしながら声を張り上げる。さっさと見ろ
といわんばかりの声に、やれやれ、と思いながらシンは指の方向、小フロアのほぼ中心部、
に視線と注意を向けると、小さな泣き声と少女と思われるシルエットに気づく。

ない、とは思うが一応念のため二人はデバイスを警戒状態にして声の主の近くまで歩み寄った。

「おい、どうした?」

シンは泣き声の主である少女にやや乱暴に声をかけた。年齢は10歳程度であろうか、
黒色の澄んだ瞳と、栗色の髪を白のリボンで左右均等に絞ったツインテールの髪型をしている。
背丈は年齢相当のものだろう。

「・・・アンタねぇ、もうちょっと優しく訊くってことはできないの?」

「悪かったな・・・」

「ったく・・・・・・キミ、大丈夫?」

見かねたハルカがシンに代わって少女に優しく問いかける。

「・・・・・・」

少女は泣き止むことはやめたものの、こちらの問いには答えず、シンとハルカの
顔を涙目で交互に見ている。時折、ぐすっ、という詰まった泣き声が聞こえるのは
まだ完全に泣き止んでいない証拠だ。

「・・・・・・ゼロ・・・・・・」

「ゼロ? それがキミの名前?」

しばらくして、少女は、ポツリ、という表現をそのまま具体例にしたような、そんな
小さな声で1つの単語を漏らした。そして、少女が放った唯一の単語と少女との関係
を考えて、ハルカは問いかけた。

「・・・・・・うん・・・・・・"ママ"がそうつけてくれたから・・・・・・」



これが、俺たちと"ゼロ"と呼ばれる少女との出会いだった。



続いちゃいます


独り言

ゼロカスタムよりゼロ派ですね、私は。






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