それはある意味必然だったかもしれない邂逅……。

 

 

 

 

孤独の剣士と戯言遣い

――殺人鬼探しの旅――

 

 

 

「熱い……」

その日、僕は普段道理平和な生活している限りは決して離れない京都にある木造アパート改め、みいこさん命名鉄塔アパートからわざわざ、絵本さんから譲り受けた白のメルセデスベンツ――結局車は後日返しに行ったが、絵本さんに「いっくんとの友情の証にあげる」と言われたのでありがたくもらっておいた――に乗って関東地方の海鳴市までやってきた。

時期はまだ夏真っ盛りの所為で、死ぬ程暑い。というか自分でもよくここまで運転してきたなと思う――本来は新幹線で来たかったが、そうなると帰りはあいつと隣同士の席で新幹線に乗らなければならなくなる。そんな事をしたら僕まで変人のような目で見られるのは予想できている。なんせあいつはどう考えても常識外の格好をしているからな……

「なんでこんなに暑いんだよ……。最近は地球温暖化が騒がれているけど、確かにこういう暑さは普段から外出するのが嫌いな僕には嫌だな。」

この作品を読んでいる方々は何故僕が京都でなく関東の方まで来ているのか激しく疑問を持っているだろうが、その理由は後で分かるので今は我慢してもらいたい。え? 誰に話しているって? それはお約束というものだ。

「まあ、実際問題世界規模の理由にだろうが、とんでもなく些細な理由だろうが僕にとっては戯言だけどね。」

さて、ぼやくのもこの位にしておいていい加減こんな所まで来た理由を果たしに行こう。

けど最近僕は明らかについていないからな……。桜葉高校の件も潤さんの予想、もとい予言道理一癖どころか二癖も三癖もあったし今回もそうならないとは……いや! 今回に限っては個人的な用件である上に単なる人探しで来たのだからそこまで酷い事にはならないだろうと信じたい。

しかし――

「なんで、こんなに人がいないんだよ……」

こんなことを呟きながらもおおよその理由は分かる――他人から向けられる感情に人一倍鈍い僕でも分かる理由だ。

「ようするに熱すぎるんだね――幾ら夏休み真っ最中の元気が百倍ある子供達でもこんなに暑かったら家に居てクーラーで涼んでいながらゲームで遊ぶなり、テレビを見たりしたいよな……」

ぶっちゃけた話、僕もそうしたい。何だかんだ言って僕が今いるのは海鳴自然公園――海が見渡せる広い公演で、普段は子どもたちが遊んだり、保護者が他の保護者達と愚痴をこぼしあったりする場所なんだろうけど今はあまりの暑さの所為か人っ子一人いない。それなのに僕はこんなに暑い中人探しなんてやる気の出ないことをしている。正直やってられない。

今の時代インターネットが普及しているおかげで家に居ながら大まかな探し人の居場所は情報屋等にお金を聞けば直に見つけてくれる。

けれども、見つけた=捕まえたということには決してならない。何故なら僕がそこに行くまでにはその人物が別の場所に移動している可能性があるからだ。しかも、その人物がその町に住んでいるのならまだしも偶然立ち寄った先ならばむしろ移動していないほうがおかしい。

その所為で僕は此処まで来ているのだ――というかあいつ、せめて電話番号ぐらい教えていけよ。4年前みたいなことが起こったら力を借りようにも借りられないじゃないかと内心思わなくもないが、今はそんな馬鹿タレのあいつを探すことが先だ。

「情報では理由は不明だが3日前に日本に帰国、その足で直接この町に来て2日前から滞在しているのは分かっているからここがあいつの目的地なのは分かるけど……」

そもそもあいつはもう日本に懲り懲りしているんじゃなかったのか?そのため4年前はアメリカのテキサス州ヒューストンの近くをうろついていたからなんとか見つけることができたが……

小唄さんに見つけてもらっただけだし殆んど役に立たなかったけど。

しかし、あいつが迷いもなくここに来た理由が気にならなくもない……

思いがけず無限ループの思考に陥りかけていた僕の視界にふと、一組の男女が飛び込んできた。

男の方は僕の目がおかしくなっていなければ明らかに普通だ。髪は黒髪で日本人にしては背が高め、ちょっと目つきが悪いような気がするが彼から発せられる雰囲気を考えると逆に似合っているとも言えなくない。顔つきは二枚目でもなければ不細工でもない上、別に僕はホモではないので彼についてはこれぐらいでいいだろう。

女性の方は明らかに普通のレベルを超えている美人だ。もし彼女が歩いている場所が新宿等の人通りの多い所であったならば、まず間違いなくすれ違った男達の十中八九が目を奪われるだろう。何故彼女のような美人があのような男の腕に自分の腕を絡ませようとしているのかは非常に不思議に思う。どう考えても彼女のような美人と傍らの男とはお似合いとは言えない。初めは仲の良い友人かとも思ったが友人といえどもあそこまで体を密着させようとするだろうか?

そんな僕の些細な疑問を知るはずもなく、男女は公園の前の道路を歩いている。周りには他に話を聞けそうな人はいないし、彼らを追いかけて話を聞きますか。

 

 

 

「あちぃ……、なんでこんなに暑いんだよ!」

男の方は僕と同様、この異常なまでの暑さに愚痴をこぼしているようだ。

「天候に文句を言ってもしょうがないのは分かるけどたしかに暑いよね。」

女性の方も同じく愚痴をこぼしているが、男よりかは我慢できる様子。傍から見ると男の方がさらにかっこ悪く見える。

「いっその事法術を使って世界規模で天候を変えてやろうか……今なら日本の大多数の人間は同じことを思っているだろうし案外成功するかもしれないぞ。」

「それやったら地球の生態系が壊れちゃうよ!? 侍君、そんなに暑いんならさっきの店でアイスでも買ったらよかったのに。」

ふむふむ、男の方は侍君と呼ばれているのか。

しかし法術? 僕の知らない言葉が出てきたが聞き違いか何かだろう。そんな魔法みたいな物があるわけ――潤さんがこのあいだ賢者の石を見つけたとか言っていたし案外あるのかもしれないな……

まあ、仮にあったとしても目の前の男が関係しているとは思えないしやっぱり聞き違いだったんだろう。

「金が無いんだよ。昨日、仕事帰りに発売した新作ゲーム、ダイノハザード2を専用コントローラーと一緒に買ったからな。」

なんだ!? その途轍もなくツッコミどころ満載のタイトルのゲームは!? と思わず声を上げそうになったが、女性の方が先に声を上げたので何とか抑えることができた。

「何、そのゲーム!? ゲームマニアの忍ちゃんでさえ二の足を踏みそうな某恐竜映画とゾンビゲームが合体したようなの!?」

やはり女性もそう思ったか。けど2ってことはまさか……

「ちなみに1の方は名作だったぞ。アリサと2人プレイでやってみたが何度も泣けるシーンがあったぐらいだからな。特に泣けたのはダイ○ボットが死ぬシーンだった……ちなみに俺の使用キャラはチー○ス、アリサの方はラット○だったぞ。」

「ダイノハザードのダイノってダイノ○ットのダイノなの!?」

やはり1もあったか――ってビーストウォ○ズの方かよ!! 確かに面白いことは面白かったけど。

さて、ここまで追いつい2人ともなかなか歩くのが早い所為でなかなか追いつけなかった。僕がベンチに座っていたのとのんびり歩いていたのが問題だと思うけど。

1の○―タスの撃つべし!! は名台詞のひと「ちょっとすみません。」うん?」

さっさと話を聞いてしまいますか。

 

「何の用だ?俺は現在寝不足と暑さで気分が最悪なんだが。」

それが僕に何の関係があるんだ? 僕は思わずこう思ってしまった。確かに日頃から機嫌の悪い人はいる。けどいくらなんでも初対面の人に向かってこんなこと言うのか?

「それ、完全に八つ当たりだぞ、侍君。見ててめちゃくちゃかっこ悪いよ。どうかしましたか?」

見かねたのか女性が僕に話しかけてきた。男としては美女と話をしている方がよっぽどいい。

「実はゆ「うるせぇ!とにかく用があるんなら金をよこせ。そうすりゃ答えてやらなくもない。」……」

今時の不良はこういう風に直球勝負で脅してくるのだろうか? なにはともあれ僕のこの男に対する評価はかなりダウンだ。なんていうか物凄く自分勝手なんだろうな。そこら辺は狐さんと似ていなくもない。性格の悪さは断然狐さんの方が上だけど。うん、そう考えたらまだ我慢できる。なんたって比べる相手が人類最悪の遊び人だからな。

「ちょっと侍君、いくらなんでもそれ「じゃあ、アイスでも奢りましょうか?」って別にそこまでしなくても……」

「お前話が分かるな!気に入ったぞ!」

「そんな理由で気に入るの止めようよ、侍君!! もう、しょうがないな〜。本当に済みません、連れが迷惑をかけて……こんな彼ですが結構いいところも多いんです。ただ初対面の人には誤解されやすくて……」

女性の方はいい人なんだな〜。美人で性格もいいなんてなんて理想的な人なんだろう。僕の身近にももっとこういう人がいたらいいのに……無理だろうけどね。

さて、そろそろ本題に入ろう。

「実は友人を探していまして……3日ほど前、日本に帰国したこと。そしてこの海鳴市にいるというのは分かっているのですがね。」

「そこから先の情報が無いというわけか。流石にそれだけじゃ分からないな。写真とか無いのか?」

お、見た感じそんなに頭が良さそうには見えなかったがどうやら回転のほうは速いらしい。

「あいにくと友人といってもそんなに長期間一緒に行動していたわけでもないんですよ。ただ、一緒にいた間はあいつの所為なのかもしれませんがとんでもない目にばかりあっていまして。まあ、向こうも同じ事を考えていると思いますが。」

そう、そのことに関してはまず間違いないだろう。4年前も同じ事を言っていたし……

「よく分からない関係だね。それでその人の名前は?それと何で探しているの?」

彼女の疑問ももっともだな。どうやら男の方も気になっている様子。

「僕が探している友人の名前は零崎人識。僕にとって鏡に映した向こう側みたいな奴ですよ。それと、探している理由ですか――」

あの理由を話さなければいけないのだろうか?

 

 

 

 

 

 

そう、あれは1週間前。僕が桜葉高校の依頼を終わらせてクタクタになっていたからソファーの上で死んだように横たわっていた時だ。不幸中の唯一の幸いは友の奴が外に出かけていた時だったという事だろう。いきなり玄関の鉄の扉が吹っ飛んできて僕の真上を比喩表現でなく飛んでいった。横たわっていたと言っても寝てはいなかった僕はあまりの出来事に飛び上がってしまって、何が起きたのかと玄関を見て――その理由に思わず納得してしまった。

かつて鉄製の扉があった場所、その場所に――すらりとした長身を眼のくらむような赤色の衣装で包んでいる彼女。僕はもう見慣れてしまったが、どうしようもないほどに図抜けた美貌。肩の辺りまである赤い髪。射抜くようなその瞳。全身という全身から威圧感を容赦なく放ち、登場しただけでそれと理解できる、呆れるほどの人外感。そして僕こと戯言遣いが心の底から尊敬する人物にして『砂漠の鷹』、『仙人殺し』、『死色の真紅』等の二つ名を持ち、表・裏問わず恐れられている人類最強の請負人――哀川潤が立っていた。

「やっほ〜、いーたん。おひさ〜。」

「いきなりやってきた挙句扉を吹っ飛ばした人の言う台詞ではないと思うんですけど。けれどもコミュニケーションは大事ですよね。お久しぶりです、潤さん。早速でなんですが、何でいきなりこんな事したんですか? 普通にチャイムを鳴らせばいいじゃないですか。」

「いや〜、待つのが面倒くさくて。それにほら、あれ。」

「あれ?」

「なんて言ったっけな……? ちょっと前までは色々な所で出ていたのに思い出せない……。ドード○オじゃないし、ドミニカでもなかった筈なんだが。」

それってもしかして――

「ドッキリ?」

「そう、それだよ!!流石だね、いーたん。このあたしが思い出せない言葉もいーたんにかかれば一発だ!」

冗談きついよ……

というか本気で何しに来たんだろう?

「ご褒美にもう一回女装させて女学院に潜入捜査をさせてやろう。」

「それだけは勘弁してください。お願いしますから。」

こ、この人は何所まで人をおちょくれば気が済むんだ!?僕の記憶のパンドラの箱をいとも簡単に開けやがって!

「何だよ、もう少し抵抗しろよ〜。そしたら本当にさせるのに。8割がたあたしが楽しむ為に。」

「おもいっきり冗談に聞こえないんで止めてください、潤さん。」

「いや、本当と書いてマジでやる気だったんだが。」

「「…………」」

「それで本題は何ですか? 世界を股にかける某有名な大泥棒3代目の如く世界を飛び回っている潤さんが僕をいじりに来ただけじゃないんでしょう?」

そう信じたい。もしもそうであっても彼女への信頼が揺らぐことだけは無いが。

「まあ、それぐらいお前にも分かるか。けど4割方はいーたんをいじりに来たんだぜ。」

「とっとと理由を説明してください。」

「後半は無視かよ……面白くね〜な。ノリが悪いぞ。まあ、本題の方にはあたしも絡みたいからとっとと溜めている仕事を片付けに行かなきゃいけないのは事実だしな。」

どういうことだろう? 潤さんにも関係があることなのか?

「単純明快超簡潔にいーたんの質問に答えてやろう。」

「前ふりが長すぎでしたけどね。それで?」

「あのくそ親父からあたしに手紙が送られてきた。」

………そっちが理由か。

「何でももう少しで再び十三階段が揃うからまた遊ぼうぜっていう話だ。」

全く、あの人は……

「確かに一生付き合うとは言いましたがね。」

「ほい、これがその手紙。それと中身読んだら分かると思うけど――」

「分かると思うけど?」

「今回の遊び、どうせこっちは13人もいるんだからお前も13人揃えてこいって書いているぞ。」

「勝手だな、オイ!!」

戯言遣い、まだ始まってもいないのに不覚にも動揺してしまった。

「唯でさえ友人の少ない僕が13人も集めれるわけが「崩子ちゃんに澪標姉妹、浅野みいこ、鈴無音々、小唄、真心、それにプラスアルファこのあたしもいる。いーたん、モテモテだね〜。」……」

「皆いーたんが力を貸してほしいって言ったら飛んで来ると思うぜ? 足りない分はあたしがカバーしてやるから他の面子を探して来い。じゃあ、あたしは今から仕事を片付けに行くから1ヶ月後ぐらいにまた会おう。」

それだけを言い残して潤さんは来た時と同じように疾風の如く去っていった。

正直残された僕はかなり困っている。

「面子を探せって言っても麻雀じゃないんだから……」

あの狐さん率いる十三階段に対抗できるぐらいの実力を持っている僕の友人ね……

そんな奴1人しかいないじゃないか。

「狐さんに会った時、仲間が女の子だけという理由でからかわれるのも嫌だし――しょうがない、ここは人間失格の殺人鬼でも巻き込みますか。」

 

 

 

 

 

回想終了。知り合いや狐さんの事を少しでも知っている人ならまだしも、赤の他人に言えるだろうか? いや、言えるわけがない。此処は上手く誤魔化さなくては……

「実は僕を生涯の宿敵と思い込んでいるはた迷惑な奴に勝負を挑まれてね……。向こうが13人もメンバーを集めるって言ってきたんで、こっちもある程度頭数を揃えなければ人海戦術で負けてしまうんで。」

ってあれ? おもいっきり本音で喋っちゃった? 2人とも僕を可哀想な目で見ていし……。

ま、いっか。

「なんか何時もの侍君みたいな人だね。侍君もそう思わない?」

「何言っているんだよ、月村!!」

「確かに違うけどね。侍君のが自業自得なのに対してこの人のは聞く限り完璧に巻き込まれているだけだし。」

「………。」

そうか、この男も日頃から色々と巻き込まれているのか――ちょっと親近感が湧いてきたな。

しかし、そろそろ話を戻さないと。

「とりあえずそういう訳で、力になってくれそうな友人を探していたんですよ。お2人はこの町に住んでいるなら2日前に来た筈の髪を染めていて、耳に三連ピアスと携帯電話のストラップをつけて、顔面に刺青をした男を知りませんか? もしかしたらサングラスも掛けているかもしれません。」

「何だ、そのキチガイ一歩手前のイカレ男は!? 俺が警察なら絶対マークしているぞ!!」

実際府警にマークされていたけどね――指名手配という形で。

「…………」

「おい、どうしたんだよ月村? まさか心当たりでもあるのか?」

「侍君ってこの2,3日翠屋に帰った?」

「いや、探偵業が忙しくて――ってまさか!!?」

「うん、そのまさか。昨日、翠屋でシュークリームを食べてた――――もの凄く美味しそうな顔して。」

マジか!? こんなに早く見つかるなんて……

「しかも、その後フィアッセさんに告白してたよ。いきなり「結婚を前提にしたお付き合いをさせてください!」って。」

しかも零崎の奴、何をやっているんだ!? 今までの情報や話を聞く限りどう考えても初対面の女性に告白をするなんて――よっぽど好みだったんだろうな。

「それであの馬鹿は結局どうなったか知っているかな?」

「うん、フィアッセさんが「残念だけど私、愛している人がいるから。片思いだけどね。」って言ったら信じられないって顔をして固まってたよ。」

ふ〜ん。零崎が一目惚れするということは背の高い美人なんだろうな――名前からして外国人みたいだけど。

「そうか……フィアッセはそんな事言ってたのか……」

ん? 何だ? この侍君と呼ばれている男の安堵と諦念の混ざったような表情は。

そんな僕の疑問を1発で月村さんは吹き飛ばしてくれたけど。

「何かな〜侍君? フィアッセさんがまだ一途に侍君の事を想ってくれている事が嬉しかったのかな〜?」

……ちょっと待て、オイ。

「ば、馬鹿なこと言ってるんじ「ちょっと待って。月村さんと侍君が付き合っているんじゃないのかな?」誰が侍君だ!? 俺の名前は宮本良介だ!!!」

ふむ、月村さんが彼の事を侍君と呼んでいたから彼の呼び名はそうなんだろうとばかり思っていたが、それはどうやら早計だったらしい。

「ごめんごめん、宮本君。僕は君の名前を知らないし、月村さんが侍君と呼んでいたから君の呼び名は侍君なのだとばかり思ってしまって。」

「違うよ!! 侍君なんて呼び方こいつぐらいしかいねえし、俺は誰とも付き合っていない!!!」

僕なんかいーたんやいの字と呼ばれるだけでなく、欠落製品とか詐欺師とか、果てには腹切マゾって呼ばれたりするけどな……

けどこの宮本君、こんな美女に慕われているだけでなくフィアッセさんとかいう外人の美女にも慕われているのに誰とも付き合わないなんて……

まさか、

「君、もしかしてホモ?」

「誰がホモだ!?」

どうやら違うらしい。ちょっとほっとした。

しかし、零崎が振られているとなると今度は傷心旅行に出た可能性があるな……

けど零崎が翠屋とやらで次の目的地を誰かに喋っている可能性もあるし、1回その翠屋に行ってみるか。

「まあ、それは置いておいて「置くな!」とりあえずその翠屋に行ってフィアッセさんとかいう女性に話を聞きたいから案内を頼めるかな? 僕、この町には着いたばかりだからちょっと地理には疎くて。」

「それなら、私たちが案内しましょうか? どのみち翠屋に向かう所でしたし。」

おぉ、それは何たる偶然なんだ!

「それはありがた「おい! そんな面倒な事、勝手に引き受けるなよ!」やっぱり無理かな?」

「別にいいじゃない。侍君も久しぶりに桃子さんやなのはちゃん達に顔を見せに行く気だったんでしょ?」

「なのはは最近、実の兄貴を蔑ろにし始めているけどな。」

……何だその兄弟関係?

「とにかく俺は反た「あ〜、お兄ちゃんだ!」げっ、しまっ「リョウスケがいたって本当!?」フ、フェイトま「良介〜、待ちや〜!!」はやても!?」

どうやら彼を探している人物が来たようだ。僕はほんの少し興味があったので大声の上がった方を見てみた。

――正直羨ましいなんて僕は欠片も思っていませんよ?僕は人類最弱な平和を愛する戯言遣いですから。

けど、どの少女も近い将来確実に美女に化けるような子達ばかりだぞ……

なるほど、

「君はホモじゃなくてロリコンだったのか。」

「違うわ!! 俺は孤独を「「「お兄ちゃん (リョウスケ) (良介)〜!!!」」」ま、まずい!! ちょ、ちょっとお前助けてくれ!! 情報教えただろう!?」

う〜む、どうしたものか……

「お願いします!!お兄ちゃんを止めてください!!」

「へっ、バ〜カ!こいつは俺に借りがあるか「うん、分かった。」ってぐぼぉ!!?」

調子に乗っているロリコンに制裁を加えるのは何も悪くない筈だ。何やら宮本君が必死で文句を言おうとしているが――可愛い女の子に頼み事をされた僕は3倍強い。

それと一応誤解の無いように弁解しておくが、僕はロリコンではない。誰だって可愛い女の子を見たら可愛いな〜と大なり小なり思う筈だ。そして、そんな女の子に頼まれ事をされたら男として断れるだろうか?いや、断れる筈がない。という事は僕の行動は決しておかしい行動ではない。

それこそ戯言のような気がしないでもないが。

 

 

 

<結果>

僕のスリーパーホールドによって宮本良介のギブアップ

 

 

 

あの後なのはちゃんとフェイトちゃん、はやてちゃんに宮本君を渡して――何度も頭を下げられた上に握手までされた――僕は1人残された月村さんに翠屋まで案内してもらった。

ざっと見渡す限り、お客さんの影は見えなかったので今日はもう閉店したのかなと思ったが、店の中から1人の外国人女性が出てきた所為でそんな考えは吹き飛んでしまった。

その女性は――それこそ隣にいる月村さんに負けないぐらいの美女だった。

凄まじく際立った容姿を持っている女性で今現在はこの店の制服なのだろうと思われるエプロンを着用していた。その所為で余計、男なら目を奪われてしまうような見事なスタイルが際立っているのに本人は気付いているのだろうか?

しかし、なるほど。これほどの美女ならば確かに零崎じゃなくても一目惚れする奴がいるだろう。

彼女はこちらに気付いた様子で――隣で月村さんが手を振っていた――手を振っている。

おそらく、彼女がフィアッセさんとやらなのだろう。同じ男に掘れた者同士、何所か通ずる所があるのかもしれない。

そんなどうでもいいことを考えながらも僕は零崎の事について聞かなければならない。

「すみません。昨日あなたにいきなり告白してきた耳に三連ピアスと携帯電話のストラップ、顔面に刺青をいれた馬鹿が何所にいるか知りませんか? 一応あんな奴でも友人なんで連れ戻しに来たんですが……」

「あぁ、昨日の彼なら今はお説教タイムよ。」

…………何だって?

「申し訳ないですが、もう1度話してもらえますか? どうやら聞き間違いをしたようなので。」

「彼はね、今桃子にお説教を受けてる最中なの。だから彼に用事があるならもう少しだけ待っていてくれるかな?」

 

 

 

 

 

…………………………WHY!!!!!?

 

 

 

 

 

い、いかん!!! あまりにも想定外な事態に思考回路がフリーズしてしまった。

け、けど殺人鬼に説教できる人ってどんな人なんだろう……

「案内しようか?」

「是非お願いします。」

思わず固まってしまった僕にフィアッセさんが親切にも声をかけてくれたのでなんとか再起動ができたよ……

しかし、これで形はどうであれ零崎の弱点を掴めるとか思ってないよ?あくまで力を借りにいくのであって、決して興味は無い………こともないか。

そうこうしている内に零崎の居る部屋の前まで案内されたので僕は恐る恐る中を覗いてみた。

 

 

 

 

さて、ここで突然だけど零崎人識と彼の一賊である零崎一賊について簡単に説明しよう。

≪零崎一賊≫――≪殺し名≫の序列第三位。

血の繋がりではなく流血によってのみ繋がる、生粋にして後天的な殺人鬼の集まり。

あの人類最強の請負人、哀川潤でさえできる限り係わり合いになりたくないと言わせた程の集団。

そんな殺人鬼集団の中でも零崎人識という存在は特異中の特異だった。

4年前に聞いた話が本当なら他の殺人鬼達――とりわけ零崎一賊三天王と呼ばれていた人達も負けず劣らず特異だとは思うけど。なんせ鋏を振り回して喜んでる妹マニアの変態とか釘バットをくるくるさせている麦藁帽子のとっぽい大将とか、内臓を抉ってその小腸を身体に巻きつけるのが趣味のベジタリアンとかだったらしいからな……

4年前に殆んど全滅したらしいけど。しかも真心の手によって。

まあ、そんな一賊の中でも何故、零崎人識という存在が特異だったのかというと――彼が生まれながらの殺人鬼だからということだ。

本来零崎一賊には血縁関係が無い。皆、ある日突然魔が差したという感じで殺人を犯し、その後零崎一賊に入るというのが普通だ。

一説には彼らはあらゆる≪資格≫のないモノこそが――収斂するかのように≪零崎≫に≪成った≫とも考えられるというのもあった。

そんな零崎一賊の中で唯一、両親が殺人鬼という近親相姦の結果できた生まれながらの純血の殺人鬼。

彼の存在は、家族である零崎一賊の中でさえ秘匿中の秘匿とされていた存在である。

 

 

 

 

しかし――今の彼を見て、そういうとんでもない存在だと誰が思えるだろうか? いや、誰も思える筈が無い。例え、潤さんでもこの状況を予測するのは不可能だろう。

なにせ……そんな殺人鬼がとても美人な店長さんに正座をさせられて叱られているからだ。

なんか店長さんの後ろに後光が見えてきたな……

と、僕が若干現実逃避をしていると此方の気配に気付いたのか零崎が勢い良く此方に顔を向けてきた。その顔は地獄で仏にあったかのように、喜怒哀楽の喜だけを表現したような顔だ。

……正直不気味だ。

「桃子さん! あなたのお話は僕にとって本当に為になり、かつ今後の将来に強い影響を与える事間違い無しという程、素晴らしいものなのでもっとご拝聴したいのですが、僕の昔からの親友が先日海外から帰国したばかりの僕を心配して探しに来てくれた様なので彼と話をさせて頂けませんでしょうか?」

零崎………敬語になるほどトラウマになりそうなお説教を受けていたのか……。流石の僕も同情するぞ。

零崎の言葉で初めて僕の存在に気付いた様子の桃子さん。ちょっと引き気味な僕に、

「あら、ごめんなさい。お説教に集中した所為で全く気付かなかったわ。人識君、そんなにいい友だちがいるんだったら、もうそんな刺青やピアスを新しく着けるのは止める様にね。」

「は、はい、分かりました!」

桃子さんはやはり零崎にとって魔王級の敵になったようだ。

 

 

 

その後、桃子さんに「折角なのだからコーヒーでも飲んでいきませんか?」という途轍もなく魅力的な提案をされたが時間が無いので断った。決して零崎の顔色が悪くなってきて微妙に涙目になっていたのが原因なのではない。

「なるほど、またあのおっさんとドンパチを始めるから俺を探していたのか。」

「まあね、幾ら僕が自虐的性格をしているといってもあの人は赤の他人を何の躊躇も無く巻き込める相手だからね。」

「その為に殺人鬼の俺を探していたのか?だとしたら呆れるぜ。殺人鬼が人を守るなんて、それこそ存在自体が矛盾する状況じゃないか。」

「今の君は人を殺せない殺人鬼だからね……いっその事、不殺人鬼に改名したら?」

「そっちの方がかっこ悪いだろ――まあ、お前には借りが出来たしお前が赤の他人を守りたいって言うなら守ってやるよ。その代わり、後で報酬を弾めよ?」

そんなこんなで海鳴市から京都へ帰る途中のベンツの車内で、僕は零崎が自分を探していた理由を聞いてきたので状況を簡単に説明しがてら零崎を探し始めた時から気になっていた疑問を聞いてみた。

「そういえば零崎、お前何の為に日本に帰国したんだ? どうやら海鳴市が目的地だったみたいだけど……」

「ん? 気になるか? 俺、4年前テキサス州のヒューストンは懲り懲りだって言ったろ。」

「確かにそんな事は言っていたけど――とんでもない目に会ったとか……」

「そう、それであそこにはもう行く気がしなくてよ。けどお前や最強には会いたくない。それならいっその事世界一周放浪の旅でも始めようと思ってな。」

……考え方がぶっ飛んでいるな。僕なら到底思いつかない考えだぞ。

いや、だからこそかな。僕の鏡の裏側の存在だからこそ、文字通り僕の思考と180度反対の考え方をするのは。

けど、どうでもいい事は結構似ているんだよな……

「それでこの4年間、世界中の甘くて美味しい物が置いてある店を渡り歩いていたんだが、日本の海鳴市にとんでもなく美味いシュークリームの店があるって聞いてな。それなら久しぶりに日本に行こうと思ったんだよ。」

「ちょっと待て、お前の寿命を約80歳と仮定した場合その20分の1を甘い物を食べる旅に費やしていた事になるぞ。その上初対面の女性に告白したのかよ……。確かに彼女は美人だったし、気持ちは分かるけどさ。」

「あちゃ、誰に聞いたんだよそれ。それに向こうは俺の事を知らないだろうけど、俺は彼女の大ファンなんだぜ? もうそれこそメロメロになるくらい。」

「待てよ、という事は彼女は有名人なのか? 僕にはまるっきり覚えが無いんだが。」

「……お前本当に知らないのか?」

「あぁ。」

「………」

何だよ、その痛い物を見るような目付きは。

「京都に着いたらじっくり教えてやるよ――俺のような大ファンから見たら、彼女を知らない奴なんかは滑稽としか言えね〜よ。」

全く、傑作だぜと呟く零崎。ちょっとその態度がムカついたのでトラウマを再起動させてやろう。

「けどお前、桃子さんに何をしたんだ? 余程の事が無い限り怒らなさそうな人だったけど、あの人。」

桃子さん。その単語を聞いた途端、ビクンと大きく身体を震わせる零崎。……正直面白い。

「あ、あれはな、あの人がいきなり説教を始めてきたんだよ!! どうも俺の顔の刺青やらが気に入らなかったらしくてな――その点に関しちゃ兄貴にも同じ事を言われていたんだけど。」

「ふ〜ん、そうだったのか。あの人優しそうな外見の割にしっかりと芯が通っている感じはしていたけど。」

見た目も若かったしな〜。あの若さで店長という事はよっぽど苦労したんだな〜と僕が思っていると、僕が何を考えているか分かったのか零崎が妙にニタニタしながら爆弾発言を放った。

「実はあの人、未亡人なんだぜ。」

………え?

「しかも、子供が3人もいるらしいぞ」

 

 

 

 

 

…………………………WHAT!!!!!!?

 

 

 

 

 

「うぉ!? お、お前運転中なのにこっちをいきなり向くな!! 車線からはみ出しているぞ!?」

あ、あの外見で未亡人!?子供が3人いる!?本当の歳は何歳なんだよ!?

「ちょ、いい加減こっちに戻って来い! 法定速度は時速60kmなのに100km出てるぞ!? って不味い、500m先に急カーブ!? いい加減にしろ!!!」

 

 

零崎に殴られた上ハンドルを奪われた。僕の車なのに……

しかし、唯でさえ驚きの展開ばかりだったのに京都に帰ったら狐さんがいるんだよな……

途中、胃薬でも買っておこうかな……

 

 

<完>

 

 

おまけ

 

僕と零崎が翠屋を出た所、少し離れた所で件の宮本君がなのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃんの3人に囲まれながら抱き付かれていた。どうやらハーレム状態のようだ――と、宮本君が此方に気付いた様子。

「おい!! さっきの事は水に流してやるから手を貸せ!!」

その発言を聞いた僕がふと、隣を向くと零崎も同じように此方を向いていた。

傑作だな。戯言だよ。そう僕らは呟いて行動を起こす。

再び宮本君の方を向き、僕が右拳、零崎が左拳を前に突き出す。そして中指を立てて愚かなハーレム男にこう言ってやる!!

「「幼女に溺れて溺死しな!!!!」」

「「「誰が幼女だ〜〜〜!!!!」」」

そして僕達は3色の光線に貫かれて意識を失った………

 

 

 

次に僕達が目覚めたら、ベンツの傍に服がボロボロの状態で倒れていた。

あの光線は何だったんだろうか?

 

 

 

あとがき

今回が初めての投稿小説だったのでかなり緊張していますが、なんとか完成しました。

一応読めるものを作れたとは思っていますが……もしボロボロだったら頑張って直していこうと思いますのでよろしくお願いします。









作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。