「さて、今日もこの日がやって来た・・・」
 「毎度毎度、お前はこの日に妙に神妙な顔をするな」
 「知るかい」




  雪の降る朝、ミッド海岸線の彼方から登る朝日がやけに眩しく見える。
  今日は12月24日、俺の故郷である地球で言うクリスマス・イヴ。
  だがこのミッドにはそんな習慣なぞありはしない。しないのだが・・・




 「なあ・・・ケーキの予約、何件だっけ?」
 「軽く二百はあったな、確か」




  一時的にとはいえ財布が非常にイタイ・・・
  もー俺の財布は貧困を貪って無限獄へと堕ちております。
  俺の心も懐の様に非常に寒い・・・




 「愚痴るな、黄昏るな、とっとと準備に取り掛かるぞ」
 「ういー」




  数日前から頑張って材料かき集めて昨日徹夜して作り上げて・・・
  で、そのままぶっ続けで営業。そりゃもー眠いっす。
  だが一日寝てないくらいなんだ。そんなのゆりかご戦とかに比べりゃまだマシだ。
  だけど寝たいっていうのも本音であって・・・




 「ほら、これでも飲んで少しは頭をしゃっきりさせろ」




  お、コーヒー。
  すまんなトレイター、ありがたい。




 「では頂きまーす」




  おおう、コーヒーの温かさが冷えた心に染みる・・・
  身も心もポカポカだ。愛情って大切だよね。




 「飲み終わったか? 終わったな? なら働け、ほら働け」
 「鬼!」




  訂正、こいつに愛情なんざ一欠けらも無かった。そんなん期待した俺が間違いだった。
  こいつは常に俺をサーチ&ロックした状態でいつでも殺れますよーみたいな奴だ。うん、忘れてた。




 「よほど信頼が無いと見えるな、私は」
 「それとこれとは別じゃー」




  信頼はもちろんしとるがタヌキとかと一緒になって人様を弄る奴は敵なのだ敵。
  あー、もう日は昇ったな・・・




 「うーし、じゃあ最後の仕上げをしますかねトレイター」
 「了解だ。まあまずは店の清掃から取り掛かるがな」
 「んー、頼むわ」




  さー、毎年の如く目が回るような日になるだろうが・・・ま、気張りましょうかね。




 「おーい、陣耶くーん」




  向こうで手を振ってるあのお人好しも手伝ってくれるんだ。まあ頑張るしかないでしょ。



  空を見る。
  雲が覆った灰色の空に雪化粧が彩られていた。








  魔法少女リリカルなのはStrikerS編
                 IF外伝 なのはEND








 「毎年思うんだがな・・・思いつきと気分でやりだしたクリスマスケーキがこれだけ反響するとは思わなんだ」
 「にゃはは、こっちじゃそんな習慣ないから物珍しいのかな?」




  こっちで喫茶店出してから早数年。
  開店してから初めて迎えたクリスマスで、なんかやらないと落ち着かないからという理由でクリスマスケーキを作った。そして売った。
  結果、そういうのが無かったミッドのお客様には非常に受けた模様で大反響。
  24、25日限定で販売されるケーキを狙って予約が殺到する事となった。
  クラナガンの隅っこに位置する小さな店でも噂という物は飛び交うらしく、毎年ケーキ作りに体力をごっそりと持っていかれるのだ。
  最近では近場の他の店でもクリスマスケーキを作ってるとの事。
  だがまだまだ文化を知らない分俺に分がある。サンタさんとか知るまい、ふははは。




 「はい、一個上がったよー」
 「おー、流石早い」




  ここ最近になってなのはが良く休日に店の手伝いに来るようになった。本人曰く暇との事。
  体を動かさないとどうにも落ち着かないらしい・・・戦闘か仕事かのどっちかやっとらんと気が済まんのか。
  だとすりゃ重症だぞ・・・もう色んな意味で。




 「・・・む? 何か失礼なこと考えなかった?」
 「気のせいですよ? ええきっと気のせいでござりまする」




  うん、やっぱり陰口はよくないらしい。こいつならどこにいても聞き付けそうだ・・・
  はやてに対しても同様だな。どこにいてもあいつの陰口言うのはマズイっぽいので気を付けている。
  下手に陰口叩こうものなら、こう・・・指から呪いの弾丸でも撃ってくるに違いない。それもマシンガンのよーに。



  ・・・想像するとシャレにならんな。




 「えーと、トッピングの苺は・・・」
 「これか?」




  おお、センキュなトレイター。
  予め切っておいてパック詰めされたそれを受取って飾り付けて・・・うし完成。




 「とりあえず、予約分は完成・・・」
 「後は当日販売分のケーキ100、頑張ろうね」




  やる気満々な所悪いが、俺はまだ100もあるのかと思うと気がめいる。
  けど生活かかってるから手が抜けないんだよなあ・・・
  開店まであと2時間ほど。巨大オーブンでまとめて焼いてしまおう。








                    ◇ ◇ ◇








  おーおー、並んどる並んどる。これまた凄い行列や・・・
  翠屋自体がちっさいしな、お客様を入れられる人数にも限度があると。
  さて、約束というか契約というか取引というかそんなもろもろに従って裏口から潜入。
  忙しそうにレジを担当するなのはちゃん。せっせとケーキを仕上げに入っている陣耶くんとトレイター。
  んー、繁盛しとるなー。さすがうちがお菓子の腕だけは敵わん人。
  さてそこらにあった予備のエプロン着けて・・・




 「なのはちゃん、こっちやるわ」
 「あ、お願い」




  見向きもせんとひたすら会計。うーん、たぶん誰か気付いてない。
  毎度の事やけど寂しい・・・
  ええもーん、後でそれネタにして弄ってやるもーん。
  ケーキやらクッキーやら袋に入れてお客さんに渡して―――



  ん? どっかで見たような局員発見。よく見ればそこいらにちらほら。
  むー、知っとる人は知っとるという事か・・・
  地球の文化が新鮮とはいえ効果絶大やなー。
  おっとまた注文。
  おおう、ケーキ1とクッキー10セットとはまた偉い量やな。
  あー忙しい忙しい。




 「はい、お待たせしましたー」
 「ありがとうございます」




  およ? この声・・・
  ちょっと顔上げる。そこにおったんはかつて六課で慣れ親しんだ顔。




 「おお、スバルやんか。久しぶりー」
 「あ、八神さん」




  ここのランチが好きっていうのは聞いとったが、あーそっか。ならクリスマスの方に目をつけても不思議はないわな。
  っとと、また次のご注文が、っと・・・
  商品入れて、お客様に渡して。ああ、スバル見えんようになってもうた。




 「じゃあこっちも手伝いますよ」
 「およ?」




  横にいつの間にかスバル。早っ。
  しかし手伝ってくれるとは有り難い。じゃあ半分担当してもらって。
  というか、いいんかここ。こんな簡単に裏口から他人の侵入許して・・・
  ってまた注文。えーん、仕事多いー。



  けどまあ、この後のお楽しみのために頑張ろか。
  今年は何人これるかなー。








                    ◇ ◇ ◇








  ケーキは作り終わったので商品運びに精を入れる現在。
  12時まで残り少し。そうなれば1時間だけここは一旦閉店だ。
  その後また午後の5時まで開店・・・何、短い?
  人の体力とは有限なのだよ。
  翠屋の方々はさらに長時間をノンストップでこなしているのだから凄いな・・・さすがは本店。



  こっちは基本俺とトレイターの二人でやりくりしている。
  まあ店自体小さいし普段はお客様もまちまちなのでまだそれでいい。
  が、なんかイベント的な商品を出すと途端に大人数が押し掛ける。そして混雑、人手不足の無限ループ。
  向こうの人材を二人ほど短期でいいから常勤で寄越せと言いたい。そして俺に休息の時間をぷりーす。クリスマスなだけに。
  ・・・いや、下手に人材派遣を申告すれば桃子さんがそれを利用して何をするか分かったもんじゃないな。
  最近手伝いをするらしいアリサやすずかあたりを送り込んできたとしよう。
  そしたらその二人を使って本店の宣伝をやらせてミッドからもお客を呼び寄せる、とか平気でやりかねない。
  ・・・まあ確かにこの喫茶翠屋ミッドチルダ支店はチェーン店だけどさ。何か・・・ねえ?



  で、しばらくして閉店間近を知らせる音楽が鳴り出した。
  お客様もそれに応じて減っていき・・・




 「うーし、午前の部終了ー」
 「お疲れさまー」




  はあ、疲れた・・・今の内に小休止取って腹満たすかね。
  冷蔵庫に保管していたサンドイッチ取り出して・・・
  取り出したサンドイッチをみんな次々に取っていって・・・あれ? 俺の分が無い・・・
  おかしい。十分に数はあったのに―――
  さっき取ったのはなのは、トレイター、はやて、スバル・・・と、後手が七つ。
  まさか・・・




 「あら、おいしー」
 「おいしいのですー♪」
 「・・・って、いつの間に入ったお前ら!?」
 「ああ、今しがた裏口からこっそりと入らせてもらった」




  それはいーんでしょーかアインさん。不法侵入として訴えてもよろしいのですが?
  顔を上げればいつの間にかアイン、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル、ツヴァイ、アギトがいる。
  んー、八神一家全員集合とはまた・・・




 「せっかくの日やからな。前からみんなには日程合わせてもらったんよ」
 「いつもながら準備が早い事で・・・」




  その気の早さで色々と先走らなければいいのだが。
  ていうか、俺の昼飯どないしよ・・・




 「ケチケチしてんじゃねーよ。そんなんじゃ白夜の王の名が泣くぜ?」
 「ホントだよなー。大層な二つ名あるってのに・・・」
 「そこっ! それとこれと話が別!!」




  お前らはこの重労働の中での俺の生命線を消し去る気か!
  くうう、腹減った・・・




 「陣耶くん、はい」
 「むぐ」




  口に何か押し込められた。む、俺の作ったサンドイッチ。
  ちゃっかり二つほど確保しておいたのかなのはの片手にまだサンドイッチがある。




 「取り分減ったけどいいのか?」
 「うん。その代わり、午後の方も頑張ろうね」




  ん、了解。
  これで期待に応えなければ後でトレイターにどんな目に遭わされるか・・・
  まあそれ以前に男としての面子ってモンがありましてだね。




 「お熱いなあお二人さん」
 「・・・何を言っとるかねこのタヌキはー」
 「うみゅー」




  何か不謹慎な事をほざいたので制裁を下す。刑は頬抓りだ。



  ふにふにふにふに・・・・・・



  お、やらかい。
  よしもういっちょ。



  ふにふにふにふに・・・・・・



  むにむにと形を変えるはやてのほっぺ。
  うん、やっぱやらかい。なんか触ってて楽しい。
  よしじゃあもう一回・・・・




 「陣耶くーん?」
 「―――はっ?」




  しまった俺とした事が。まさかこんな手法で俺を懐柔しにかかるとは・・・
  はやて、相変わらず油断のならぬ奴。




 「んー、こんなんで陣耶くん懐柔できんのやったら悪くないかな?」
 「何させる気だよお前」
 「そりゃー、うちらがここで食事する時には代金半額とか」
 「俺を破産させる気か貴様!?」




  いや、今日明日で結構収入くるから暫く持つだろうがさ。
  フェイト似の銀髪の女性やどっかで見たような実務員とかじーさんにパシられたって泣いていた奴がいたような気もするが・・・
  まあ、気のせいだろう。おそらく。
  と、唐突に電話の電子音が鳴り響く。
  むう、こんな時間に誰だ? もう予約はとっくに締め切ってるのだが・・・




 「はいはいどちら様ー」
 『あ、ジンヤ?』




  ぬ、この声は・・・




 「誰かと思えばフェイトか。どうした?」
 『うん、今日の夜なんだけど毎年通りだよね?』
 「そのつもりだが・・・ん? 何か仕事でも入ったとかか?」
 『いや、夜にそっちに行くつもりだったけど忙しそうならみんなで手伝おうかなって』




  ・・・うわ、何ていい奴なんだろう。
  はやてみたいに何かとからかいに来るような奴とは大違いだ、全く。




 「はいそこー、顔で分かるからなー」
 「もが、もがが」




  そこー、会話中に頬抓るのはやめてください!
  店内での電話妨害は禁止ですよー。




 『えっと、ジンヤ?』
 「はんへひょうはふぇいほはん」(訳:なんでしょうかフェイトさん)
 『呂律が回ってないよ、うん』




  ぬう、喋りにくい。
  放してくれとはやてにアイコンタクト。




 (えー)
 (何故そう不満そうな顔をする!)
 (だってー、なんかつまらんのやもん)
 (そっちの都合でコミュニケーション妨害されるこっちとしてはたまりませんがね!)




  後で相手してやると言ったらしぶしぶ放してくれた。
  適当に地球で撮ったアニメを見繕っておこう・・・




 『それとも、もうはやて達がそっちに来ていて手伝ってるとか』
 「む、何故分かる」
 『分かるよ。私たちは友達だから』




  なにか妙なシンパシー能力を会得している気がしないでもないが・・・まあいいか。
  さて、店内を見てみよう。
  今は静まり返っているカウンターとテーブル。
  それとは正反対にごっちゃりとしている厨房とレジ。
  全員で・・・12人。小さな喫茶店であるここには少々多いかな。




 「ごめん、間に合ってるわ。また5時くらいに来てくれるか?」
 『分かった、エリオとキャロとヴィヴィオは任せて。じゃあ、また後で』
 「ああ、またな。ありがと」




  ガチャリと受話器を置く。
  さー、大見得張った手前やりとげんとなあ。




 「つーことで、午後の手伝い頼むぞお前ら」
 『はーい』




  うし、じゃあ早速準備を始めようか。








                    ◇ ◇ ◇








  ピッ、と切断のボタンを押す。
  そっか、みんな早いなあ。それだけ楽しみにしていたって事なのかな?




 「どうでした?」
 「人手は足りてるって。私たちはもうちょっとここでゆっくりしていようか」
 「じゃあエリオくん、向こうでみんな待ってるよ」
 「え? ちょ、キャロ! 手、手!」




  エリオがキャロに引っ張られてヴィヴィオとルーテシアが待つ公園まで駆けていく。
  向こうではヴィヴィオが元気に手を振って、ルーテシアが笑っていて―――
  みんな、明るく元気に成長している。
  過去に色々あったけど・・・それでも、また今日という楽しみに満ちた日を迎えることが出来た。
  それはきっと―――とてもささやかな、だけどとっても大切で嬉しい事。



  そんな中で、ちょっとだけ変わった事。
  ここ最近、休日になのはがよくジンヤのお店のお手伝いに行く。
  小さな喫茶店だからジンヤとトレイターの二人でも十分に足りているんだけど何か手伝ってあげたいって。
  休日は基本的にもっぱらヴィヴィオの相手をしているけど、それとは別にやりたいと思う事でも見つかったのかな。
  仕事をして、ヴィヴィオの面倒を見て、休暇はジンヤの所のお手伝い。
  私は執務官としての仕事があるから簡単に顔を出せないんだけど、それでも暇があれば行っている事が多い・・・かな?
  どちらにせよ、なのはほど頻繁でもないのは確かだ。




 「見て見て! 雪のお城!」
 「わ、ホントだ。フェイトさーん」
 「はーい」




  エリオたちが雪を使って雪だるまやお城を作って遊んでいる。
  そういう所は実に子供らしくて私は凄く嬉しい。



  ふと空を見上げれば、さらさらと降り注ぐ優しい白の結晶。
  思わずそれを見つめて・・・ほう、と息を吐いて・・・




 「今日もいい日になりそうだね、バルディッシュ」
 『はい』




  それじゃあ呼ばれている事だし、私も少し混ぜてもらおうかな―――?








                    ◇ ◇ ◇








  あれから暫くして午後の部が始まった。
  厨房の担当はなのはさんに陣耶さん。それとはやてさんが就いた。
  レジには私とシャマルさんにヴィータさん、それにツヴァイさんとアギト。
  外のお客様の引き込みにはトレイターさんとアインさん、シグナムさんとザフィーラさんが向かった。
  この日だけに作るケーキとクッキー、それとシュークリームの売れ様は凄い。
  ケーキ以外は当日販売で数量限定だからそりゃあお客さんも押し寄せるよね。美味しいし。
  ていうか、普段からお客さんが入って来ないのに何でこんなときだけ、って思ったのは秘密だ。
  きっと家計の事情とかあるんだろうな、と一人で納得してたのも秘密だ。




 「わー、ママ。ちっちゃくて可愛い妖精さんだー」
 「ありがとうですー」
 「あ、ありがと・・・」




  元上司のツヴァイさんにシグナムさんの相棒であるアギト。二人も元気に飛び回って品物をお客さんに渡している。
  時々互いに言い合いをしているけど、仲がいい証拠だよね。うん、ご愛敬。
  その光景ははたから見ていても楽しくてついつい笑ってしまう。




 「スバルちゃーん、これあっちのお客さまに」
 「はーい」




  シャマルさんから受け取った商品を待っていたお客さんに渡す。
  んー、こういう仕事って普段とは違うからか疲れるなー。忙しいし。まあ救助に比べれば忙しくはないけどね。
  忙しいと言えば・・・ティアは今日は来るのかな?
  仕事の予定は空けておくって言ってたけど・・・それにしてはちょっと遅いので心配。




 「ティア遅いなー」
 「別にすぐ来ると言っていたわけでもねーだろ」




  まあ仰るとおりですけど。
  ほら、友人の一人としてはやっぱり早く会いたいというか、色々お話ししたいとか・・・
  ・・・普段からいっぱいメールしてるとか言われるだろうけど、それはそれだ。




 「すいません、予約したテトラと申しますが・・・」
 「はい、テトラさんですね。暫くお待ちください」




  えーっと、予約確認予約確認・・・あった、テトラ・ツォーンさん。顔写真も一致。
  予約のケーキは・・・AタイプとBタイプの両方か。
  一旦レジを任せて厨房まで取りに行く。




 「テトラさんの予約分、AとB両方お願いしまーす」
 「おう、テーブルにある」




  えーと・・・あ、あった。
  ちょうど陣耶さんの隣にあるテーブルの上に予約分がちょこんと。
  隣失礼しますよー・・・




 「あ、そーだ」
 「へ?」




  突然陣耶さんの体が横を向いて、脚が私の足に引っ掻かてって・・・・・ちょ、こける!?
  とりあえず何か支えになる物―――っ、左手に何か太いのが触れた。これにしがみついて―――!




 「っておわあ!?」
 「へっ?」




  と、思ったら掴んだのは陣耶さんの腕。
  そのまま条件反射的に私が倒れるのに巻き込む形で陣耶さんを下にして―――
  ドスン、と鈍い音がした。




 「げべらっ!?」
 「あ・・・」




  下敷きにした時に立っていた肘が陣耶さんの溝落ちに見事にクリーンヒット。
  ついでにガポンなんて間抜けな音と一緒にボールが陣耶さんの顔の上に・・・
  ボールをどけると生クリームがたっぷりと顔にぶちまけられていてまともに顔が見えない。



  だ、大丈夫かなー・・・




 「なあなのはちゃん」
 「何かな?」
 「もしかして陣耶、また寝とらんの?」
 「えっと、まあ・・・」




  寝てないって・・・陣耶さんってば不眠不休でずっと働き続けてたの?
  ていうかなのはさん、知ってるって事はそれにずっと付き合って・・・?




 「何でそないな事知ってるか小一時間ほど問い詰めたいけどまあ今は置いといて・・・」




  ? はやてさんが動かない陣耶さんを担いで、ロッカー開けて・・・その中に放り込んだ!?
  ってそこから鎖でがんじらがらめにして南京錠!?
  ああああ、閉めた途端にガタンガタンとロッカーが揺れて・・・




 「え、えと・・・はやてさん?」
 「あー、大丈夫やて。あの治療コートの最新のネコ医療学でキャッと治ること請け合いやし」
 「はやてちゃん? それって結局ただのロッカーだったような・・・」
 「というか、労働力は・・・?」




  細かい事は気にしなーいと言って作業に戻るはやてさん。
  未だにガタンガタンと揺れる治療コート、もといロッカー。



  ・・・ごめんなさい陣耶さん。強く生きて・・・



  さて、私もそろそろ作業に戻ろう。お客さんを待たせると悪いからね。
  その後、やって来たティアナによって解放されるまで陣耶さんはあのままだったという・・・








                    ◇ ◇ ◇








 「ひ、酷い目にあった・・・」




  あのヤロウ、よりにもよって封印する奴があるか!?
  労働力が足りねえってのに・・・




 「だって陣耶くん徹夜やん? 少しは休みいな」
 「もっと別の方向で優しさをかけることは出来んのか己は」
 「傷が癒えているとはいえ後遺症が酷いんやから無理はせんといて」




  そうやって心配してくれるのは正直嬉しいがな、あれはちょっと強引じゃあ・・・




 「陣耶くん休まん癖に」
 「日夜徹夜している局員さんに比べればまだマシでーす」




  この程度、毎日頑張っている皆様方に比べれば・・・
  あとはこの店仕切っている意地やプライドもろもろ。




 「プライドなんかあったん?」
 「ヒドッ!? 俺は深く傷ついた!!」
 「だっていっつもよろず屋やっとる人が言うてもなあ」




  ええい放っとけ! こちとら生活かかっとんのじゃ!!
  はあ・・・気づけばもう閉店間近。
  結構時間を喰われた・・・




 「大丈夫だったよ? 人手は足りていたんだし・・・」
 「・・・ねえ、もしかして俺いらない子?」




  そうですか。俺いなくても店は回りますか。そうですか。
  ・・・・・ホント、泣いていい?




 「ふう・・・何はともあれあんがとなティアナ」
 「いえ、ただ単にいつまでもガタガタされていると煩いですから・・・」
 「ハイ、すいません・・・」



  年下の女性に諭される男性・・・ああ、なんていうか年上としての、人生の先輩としての威厳が・・・
  はあ・・・残った分仕上げよ・・・




 「えっと、ドンマイ?」
 「そうやって慰めてくれるのは嬉しいよ、うん」




  けど今の状態じゃ追い打ちにしかならないからね、なのはさんやい・・・
  俺の小心なハートはもーボロボロです。










  で、しばらくしたら客足も減ってきた。
  閉店まであと10分。もう忙しく手を動かす必要もない。
  さっきまでとは比較的に楽な時間をゆったりと過ごして・・・やがて、時間が来た。
  静かな音楽と共に店の看板を仕舞って、扉を閉じて―――




 「ふう・・・」




  やり遂げたという達成感と満足感、そしてある種の虚脱感が店の中を満たして・・・
  で、今の俺らの心は一つだ。
  つまりは、こう言いたい。




 「みなさん、お疲れさまでしたー!」
 『お疲れさまでしたー!!』




  終わりを告げる一言と同時にワッと賑わう店内。
  みんなそれぞれ疲れたーと言って背を伸ばしている。
  と、唐突に店の扉が開かれた。




 「こんにちはー」
 「あ、フェイトちゃん」




  扉を開けて顔を出したのはフェイト。
  てことは・・・




 「みなさんお久しぶりです」
 「ご無沙汰してます」
 「元気だった・・・?」




  次々に顔を出すチビッ子のエリオ、キャロ、ルーテシアの三人。
  とは言ってもエリオはだいぶ背が伸びて来たがな。うん、いい傾向だ。




 「なのはママー」
 「ヴィヴィオ、いい子にしてた?」




  続いて扉から顔を出してなのはの所に一直線な聖王様、もといヴィヴィオ。
  ママ大好きっ子は相変わらずで近年例を見ぬのではなかろうか、この溺愛ぶり。




 「あー、じゃあ役者も揃った事だし・・・もう一頑張りしますかね?」
 『はーい』




  みんなそれぞれ指示に従って作業をこなしていく。
  エリオ、キャロ、ルーテシア、ヴィヴィオ、ツヴァイ、アギトのチビッ子組は装飾担当。引率でフェイト。
  ヴォルケンリッターと元星組フォワードメンバーな皆様には食器や机、椅子などの準備を任せた。
  厨房担当が俺、なのは、はやて、トレイター。
  つい数分前までは静けさを取り戻していた店内がえらい変わり様である。



  で、現在は俺となのはでかちゃかちゃと食材を切って調理を進めている。



 「毎度の事ながらまあ賑やかなもんだ」
 「みんなそれだけ楽しみにしてるんだよ。みんなで一緒にいられるこの時間を」




  それくらいみんなで時間を合わせりゃ出来るだろうに。
  何だってこんな日にやっているんだっていうのは・・・まあ、ひとえに気兼ねなく騒げるからか?




 「そうじゃなくって、こう、何て言えばいいのかな・・・?」
 「まーいいじゃんか、楽しいし」




  そう、こんな時間が俺は楽しいし嬉しい。
  みんなで騒いで、笑って、こんな時間が・・・




 「うん、私もこの時間は大好き。みんなが笑っていて、隣に陣耶くんがいて―――」
 「は? 俺?」




  俺なんぞの隣にいて何が楽しいのかは見目会頭も―――ん?
  ・・・ああ、そうかそうなのか。お前もその手なのか・・・




 「どうしたの?」
 「いや、今更ながら自分の情けなさに・・・」




  えーえーそーですよ。俺はどうせタヌキのおもちゃですよう。
  くそう、目から汗が・・・




 「急に変なの」
 「えーい、ほっとけ」
 「まあ、なにか釈然としないけど―――それでも、それが陣耶くんだもんね」




  あの、そこで眩しく微笑まれても。
  正直傷心の俺には眩しすぎるっす―――




 「落ち込んでるならいつかみたいに抱きしめてあげよっか?」
 「いつの話だ、いつの」
 「えーと、知り合って間もなかったから・・・12年くらい前?」
 「覚えてるわけねえよそんな昔の事!?」




  なんつー記憶力・・・
  ていうか俺、抱きしめられたか?




 「だーかーらー、再現してあげよっか?」
 「そりゃ嬉しい、と言いたい所だが遠慮しとく」




  ええい、そこで不満そうな顔するな。
  ここでやるといらん誤解招くだろ。主にタヌキやスバルやヴィヴィオやトレイター辺りが意図的に広めかねん。
  子供組とフェイトも実に天然に広めそうだ・・・
  いかん、下手を打てば俺の未来が確定ものに。




 「今日はほんとにどうしたの? 顔を暗くしたり青くしたり百面相して」
 「いや、ホント大丈夫だから。だから下手な真似はご遠慮願います」
 「?」




  そうそう、そうやって分からないでいてくれ。そっちの方が平和だから、主に俺が。




 「はーいそこイチャつかんと手を動かしてなー」
 「イチャついてねーっての」




  ほら早速タヌキが食いついてきた。
  変な勘違いは避けたい。俺だけでなく隣のこいつのためにも。




 「ねえねえ、私たちってそんな風に見えるのかな」
 「知らん、それは実際に周りの奴らに聞かんことにはどうにもなあ」
 「だ・か・ら、イチャつくんや無いゆーてんやんか」




  だ・か・ら、別にイチャついてねえって。
  そーいうそっちは進んでんのか?




 「ほれ、腕を振るったスペシャル・タンドリーチキンや」
 「おわ、手の込んだ・・・つかでけえ」




  鳥を丸々使うとは・・・気合入ってるな。
  ていうかソレ調理できるほどの調理器具あったか・・・?




 「そこは工夫次第や。調理中の副産物やそこらの調味料も遠慮なくフル活用したったし」
 「それは期待物だな」
 「はやてちゃん料理上手だからね」




  ずっと一人暮らししていたり守護騎士たちを支えて来た主婦っぷりは伊達じゃないからな。
  俺なんか仕事の大部分を相棒、もといトレイターに略奪されて・・・
  が、俺と手伊達や酔狂で喫茶店を経営している訳じゃない。
  トレイターが出て来るまで鍛え、桃子さんに仕込まれた料理の腕を見せてやろう!




 「私も喫茶店を経営している家族の娘として負けてられないなの」
 「ふふふ、ならうちらで料理対決といこうやないか。みんなに評価してもらって一番評価低い人は一番高い人の言う事聞く事!」
 「面白い・・・受けて立つ!!」




  現役で料理作り続けている板前の腕前見せてやる!!




 「この場合、喫茶店だからコックじゃあ?」
 「ええいそこ、ツッコミ禁止」




  さて、食材はこれとこれと・・・




 「えーとこれがここで・・・」
 「スバル、そこ違うわよ」
 「へ? あ、ってうわわわわあああ!?」
 「ちょ、バカ!?」




  どしーん




 「これを・・・あっ、ご、ごめんキャロ・・・・」
 「う、ううん別に・・・・・」
 「・・・・エリオ」
 「っ! な、何かな、ルー・・・・?」
 「エリオくんは渡さないよ」
 「どいて」




  どごーん、ばこーん




 「あわわわ、みんな落ち着いてー!?」




  ・・・・・あえて、店内の惨状には目を向けない事にした。








                    ◇ ◇ ◇








 「さー第何回目かはめんどいので数えとらんが今回も喫茶翠屋ミッドチルダ支店クリスマスパーティーを開催するでー!!」
 『メリークリスマース!!』
 「・・・・・なあ、この店仕切ってるの俺だよな?」
 「表向きは少なくとも、な」




  ええのええの。こういうんはノリが肝心やで。
  ほらほらみんなにシャンパン回して・・・あ、お子様組はあかんで。




 「ふむ、このチキンは主の物ですか・・・流石です」
 「お、こっちのポテトサラダは陣耶のやつか? 相変わらず細けえ味付けしてやがんの」
 「これはなのはちゃんのね。優しい味付けだわ」




  みんなそれぞれ好評の模様やな。勝負事持ちかけて気合煽ったのは効果有りと見た。
  さてさて他のみんなも美味しそうにごちそうを食べてるけど・・・
  勝利者の特権が特権なだけにやっぱ評価の程が気になるわけで。
  さて誰に聞こ・・・身内はダメやな、お硬いの多いいし。
  となると―――




 「フェイトちゃん楽しんどるー?」
 「うん。はやては?」




  うち? うちも現在お楽しみ真っ最中や。
  それにしても・・・シャンパン飲んで上気したのか少々頬が赤みがかって色っぽいなあ。
  くう、その綺麗な微笑みとグラマーなナイスバディとが合わさってなんつう威力や―――!!
  そこらの男ならイチコロやろう、ほぼ確実に。
  身近にいすぎるせいかもう慣れたみたいなけったいな輩も約一名おるが・・・




 「でで、どやこのでっかいタンドリーチキン。自分としては結構な自信作なんやけど」
 「このおっきいのはやてが作ったの? 一人で?」
 「そや。すっごいやろ」
 「うん、凄い凄い。私はこんなの作れないからなあ」




  むむむ、嫁さん修行をしとらんと? そらあかんやろ!
  そんなことやと晩年婚とかになりかねんでホンマ。いい加減うちらもいい歳なんやし誰かお相手いーひんかなー。
  手頃な所は陣耶くんなんやけど・・・



  ちらりと陣耶くんがなにやっとるか盗み見る。




 「えーと、サラダとチキンと―――」
 「はい、オムレツどうぞ」
 「お、センキュ。ちょうど欲しかった所だ」
 「えへへ、だって陣耶くん野菜にお肉と来たら間違いなく卵を添えてるから」
 「よく知ってんなあそんなこと・・・」
 「ずっと一緒にいたんだよ? 陣耶くんの事なら結構知ってるよ」
 「色々とツッコミ所満載なんだが・・・すっげえ恥ずい」




  ・・・・・また至極ナチュラルにイチャついとる。なんや妙に腹立つな。
  はあ、まあとにかくこんな調子やからなー。




 「どうしたの? ため息なんかついて」
 「いーや、狙うんやったらもっと早くに唾付けとくべきやったかなーって」
 「?」




  まー今更過ぎるんやけどなー。
  はあ、どっかにええ出会い転がっとらんかなあ・・・・・








                    ◇ ◇ ◇








 「ふー、夜風が気持ちいいな」
 「ほんと―――雪も、こんなに綺麗」




  アルコールで少々熱っぽくなった体を夜風で冷ます。
  パーティーもいい感じに盛り上がってきたのだがなのはの奴が急に外に行こうなどと言いだした。
  なので気づかれないようにこっそりと二階へ上がってベランダに出て来た次第だ。
  こちとらクラナガンの隅っこに位置するちっこい喫茶店だが空の見栄えは良い。
  とは言っても、雪の降っているこの空じゃあ星なんて見えない。二人して空を見上げて雪を眺めるだけである。




 「私たちが友達になってから、もう12年だったっけ?」
 「そうだな―――いや、初めてまともに会話したのが襲われている最中ってのが何とも言えんがな」
 「うう、あの時はご迷惑をおかけしました」
 「いいさ、好きでやってんだし。結局俺は自分主義だし」




  俺が他人のために何かするなんていうのは稀だ。
  いつも俺自身がやりたいからこそ行動してきた。闇の書事件然り、J・S事件然り―――
  その最中で何度もこいつらに助けられて―――本当に、頭が上がらないな。




 「そんなこと無いと思うけどなあ。私たち、陣耶くんにすっごく助けてもらったよ」
 「そうかあ?」
 「そうだよ。私の事だって何度も助けてくれた。何度も喧嘩したけど、その度にまた陣耶くんの事を知れたような気がした」




  こいつとは色々あったからな。ほんとに色んな意味で。
  そのたんびに高町なのはという人物を知ることが出来たのも確かだ。
  それが凄く誇らしくて、凄く嬉しいってのは秘密だ。




 「だから、ね・・・私、もっと陣耶くんの事が知りたい。一緒に喜びも悲しみも分かち合いたい」
 「友達なんだしそれくらい当たり前っしょ?」
 「ううん、そうじゃないの・・・私はね―――」




  なのはが一旦言葉を切る。
  表情は俯いていて見えない。ただ、少し震えているのが見て取れて・・・




 「私、私ね―――陣耶くんの事が好き」
 「―――――――――え?」




  思わず耳を疑って思考が停止する。
  突然の事に感情の処理が追いつかない。
  え、えっと、今なんて・・・




 「いつから、っていうのは分からないけど・・・それでも、陣耶くんの事が好きだった」
 「―――なのは」




  顔を真っ赤にして必死になって、掠れるような声で思いの丈を語ってる。
  誰もが憧れるほど魅力的な、世間でも有名なあのエース・オブ・エースが―――
  小学校の頃から周りの人気を集めて好意の象徴だったあの高町なのはが―――
  今、俺に好意を抱いていると告白している。
  それが凄く衝撃的で、一瞬で頭が沸騰して、まともに物事が考えられなくなる。




 「え、と・・・」
 「こんな私だけど、いい、かな・・・」




  こいつに限ってこれが冗談だとはとてもじゃないが思えない。
  冗談だとしたらこいつはなのはの姿を真似た別人だ。
  もし本人がここまで手の込んだ冗談をしたのならきっと明日はミッドが滅ぶのだろう。
  って今考えるべきはそこじゃない! 返事、とにかく何か言わんと―――!




 「あー、そのだな・・・」
 「ッ―――」




  俺の声がするとビクッと震えて、目をギュって瞑って、俯いて。
  たぶん、怖がってるんだと思う。拒絶されることに。
  そりゃそうだ。誰だって拒絶されるのは怖いしそれに事が事だ。一世一代の大告白だ。
  これで怖がるなって方が無理な話だ。



  そうだ。こいつは周りから不屈のエースだのエース・オブ・エースだの持てはやされているけど、一人の人間だ。
  俺たちと同じように泣いて、笑って―――
  確かになのはは強い。俺から見てもそれは十分に胸を張って言える。それは他のやつだってそうだ。
  だけど―――なのはも一人の人間で、繊細な女の子なんだ。まあこの年で女の子もどうかと思うが・・・
  だからこうやって、時折弱さを見せることもある。
  その弱さも、そして強さも、全部含めてなのはなんだ。だからこそ俺は今まで友達でいられた。



  だから―――




 「いつか、言ったっけな・・・」
 「え・・・?」
 「俺はバカだから、お前に迷惑かけちまうって」
 「そんな事・・・気にしてるんだ?」
 「そんな事とは何だそんな事とは。俺にとっては結構重要なんだぞ」
 「そっか・・・うん、そうだよね」




  などとクスクス笑うなのはさん。
  む、何か非じょーに馬鹿にされた気分・・・




 「ごめんごめん。うん―――大丈夫。私はそんな所も含めて―――陣耶くんだから、好きになった」
 「うわ、恥っずかしい」
 「あー、酷い」




  先程までの恥じらいや恐怖感はどこへやら、いつもの調子に戻ってきたな。
  うん、こうしてるのがやっぱらしいんだろう。だけど―――




 「まあ、その、アレだ・・・一回しか言わんからよく聞けよ」
 「・・・うん」




  ああクソ、やっぱ恥ずい・・・
  けどお前は男だろう皇陣耶。たまにはいいとこ見せんかい!!




 「言っただろ、お前は俺が護るって。他のやつらになんかに護らせるか。お前が嫌って言っても絶対に絶対に渡さねえ」
 「ぁ・・・・・」




  俺の気持ちの精一杯は伝える。これ以上は恥ずかしくて死ねそうです。
  こ、これでいいんだろうか・・・経験なんてある筈もなく俺も内心焦りまくりだ。
  脳内は軽くパニック。むしろフィーバー? フューチャー? もうわけ分からん・・・




 「・・・ふ、ふぇ・・ぅぇぇ・・・」
 「っ!?」




  え、ちょ、泣くの!? 泣いちゃうの!? 俺なんかミスった!?
  ええとええと、ど、どうすれば―――!?




 「え、えっとだな、だからその、フッたわけでなく―――!」
 「ううん、違う、違うの―――」




  そういってなのはが顔を上げて―――




 「凄く―――すっごく嬉しくて」
 「なのは―――」




  それは、今まで見た事も無いとても綺麗な笑顔で―――




 「私の方こそ、迷惑かけると思うけどいいの?」
 「望むところだっての」
 「うん―――ありがとう」




  そう言って綺麗に微笑まれる。
  そのまま俺の方にぽすんと体を預けて・・・



  思わず手が伸びる。




 「にゃっ?」
 「んー、すっげえ触り心地が良い」




  手を動かすとその通りに揺れ動く様とか・・・
  うん、癖になる。




 「ん、陣耶くん・・・」




  やっぱ恥ずかしいのか頬が赤い。
  まー誰かに見られるかもだが・・・いいんじゃね?




 「あの、私が恥ずかしいんだけど・・・」
 「まーまーそう硬い事言わないの」
 「にゃー!?」




  ほれほれー、どしたどした。嫌なら抵抗せんかい。




 「んっ、ちょ、陣耶くん荒い・・・!」
 「んー? アルコールで酔ってるからかなあ?」
 「うわーん聞く耳なしー!」




  だって楽しいし気持ちいいし。
  別にいいじゃーん。




 「にゃー、やっぱりダ「な、ななな何してるんですかーッッッ!!」・・・・・え?」




  突如響く場違いな叫び。それと同時にドスンという重い音がした。
  ひどく聞き覚えのあるそれは俺たちが入って来たベランダの入り口からで・・・




 「ス、スバル・・・?」
 「ていうか、何でお前らそこで山になってるわけ?」
 『・・・・・・・・・・』




  なぜか仁王立ちしているスバルと山になっているパーティー参加者の方々。
  ふむ、状況から察するに・・・



  嫌な予感だけが頭を占めていく。
  というかそれ以外に浮かばん。




 「で、何故に仁王立ちで阿修羅様を御光臨させているんだスバルさんや」
 「どうもこうもこんな所で一体何を―――!!」
 「何って、頭撫でてるだけだが」
 「へ・・・?」




  事実、俺の手はなのはの頭の上だ。
  なのははただ単に撫でられるのを恥ずかしがってただけである。




 「ほーうほーう、一体何をしていると思ったのかなスバルはー」
 「え、えっと、その・・・」




  あからさまに目をそらして頬掻いても無駄だぞ。
  まあそれ以前にだ・・・




 「お前ら、どっから見てた」
 「えっと・・・最初から?」




  そーかそーか・・・・・最初からか。
  あんな恥ずいのを全部見られたと・・・



  フ、フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ




 「忘れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
 「みんな退避ー! 散開してかく乱やー!!」




  ええい、逃がすか!!








                    ◇ ◇ ◇








  え、えーと、なんだか早すぎる展開に頭がついていきません・・・
  けど・・・み、見られたんだ、全部・・・
  うう、すっごく恥ずかしい・・・




 「待てコラーーーーー!!!」
 「あはははははははは♪」




  中からはみんなの叫び声とか騒動音とか楽しそうな音が聞こえてくる。
  こうやって見ていると、まあいいかなって気持ちになれるから不思議だな。




 「えっと・・・」
 「あ、スバル」




  あー、あの時こっちの方にいたから陣耶くんの視界からは外れていたんだっけ。




 「にゃはは、恥ずかしいところ見られちゃったな」
 「い、いえ、こっちこそすみません。覗き見なんてしてしまって・・・」
 「いいよ別に。いつかは分かる事だし、それが早いか遅いかだけ」




  そう、他でもない私が陣耶くんの隣にいられる。
  それだけで、十分。




 「―――なのはさん」
 「ん?」
 「おめでとうございます」




  そうやってにこやかに、心の底からの祝福の笑顔を見せてくれて―――




 「うん、ありがとう」




  だから私もこうやって笑える。



  これから先がどうなるかなんて分からない。分かる筈もない。
  だけど、私はそれを精一杯生きていこう。



  私の、何よりも大切な人と一緒に――――――











  後書き

  見てくれた方も見てくれなかった方もお久しぶり。

  stsまだ行ってないのにその後なんてやっちゃった愚か者、ツルギです。

  最近ジ・ツールギなる仇名が付けられて脳内が黒のカリスマ様に染まりかけです。

  ていうか冬休みです。妄想が爆発します。予定ギュウギュウ詰めで軽く死ねます。

  そんなこんなで書き上げたクリスマス記念の小説。調子に乗ってIFなのはENDなんてやっちゃいましたよ。

  文字数は前後編に分けなければ過去最高記録というボリューム。恐ろしい・・・

  さて、次回からはちゃんとした本編を再開します。そして〜A's to StrikerS〜の大きな山場の一つへと突入します。

  期待してくれる方もしてくれない方もこうご期待!

  それではまた。








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