最後の最後、全てを振り絞って放ったスターライトブレイカー。
ヴィヴィオの体内にあったレリックは確かに砕け散り、大爆発を起こした。
その結果が―――このクレーター。
レリックの爆発による物理的衝撃、その威力がこれ。
流石にロストロギア扱いされるだけの事はあってその有様には息を呑む。
爆煙で底の様子をうまく見て取る事が出来ない・・・
ヴィヴィオは―――?
隣のはやてちゃんに支えられながら、一歩ずつ歩く。
やがて、クレーターの近くに来た時―――煙が晴れて、そこにヴィヴィオはいた。
駆け寄りたいけど、痛む体がそれを許さない。
「ヴィヴィオ―――!」
「大、丈夫・・・」
そう言って、震える体で立ち上がろうとして・・・
私はある光景を思い出した。
―――訓練の後、ヴィヴィオが走り寄って来た時に勢い余って転んでしまって、それで泣いちゃったんだっけ。
その時、私はヴィヴィオをちゃんと一人で立たせようとして―――
「一人で、立てるから・・・強くなるって、約束したから」
「―――っ!!」
それでもう、たまらなくなった。
痛む体を無視して駆け寄って、その小さな体を抱きしめる。
ああ、ヴィヴィオだ―――
ヴィヴィオが、ここにいる・・・ちゃんと、ここに・・・
「うん、お疲れさん。なのはちゃん」
『早く帰って、じっくりゆっくり休むといいですよ』
「うん・・・二人とも、本当にありがとう」
はやてちゃんとリインが来てくれていなかったら、きっと私はまた折れていた。
それだけじゃない。レイジングハートの言葉もあったから。
ケイスケくんとの約束も―――
最後には、みんなが私に力を貸してくれて・・・本当に、感謝してもしきれないくらい。
「じゃあ・・・帰ろうか」
「うん」
ヴィヴィオが、確かに頷いてくれる。
そのままクレーターから出ようとして―――
『聖王陛下、反応ロスト。システムダウン。艦内復旧のため全ての魔力リンクをキャンセルします』
っ、緊急用の防衛システム、まだ―――!?
とたん、急激な重圧が掛けられる。
これ、AMF―――!?
「うわっ!?」
「ユ、ユニゾンが解けちゃったです!?」
『艦内の乗員は休眠モードに入ってください。繰り返します―――』
まさか、ユニゾンすら出来ないほど重度のAMF―――!?
いけない、このままじゃ―――!!
「く、とりあえずうちは向こうの戦闘機人確保してくる!
リインは魔力結合、通信、その他もろもろやシステム介入やっといて!! なのはちゃんとヴィヴィオは大人しくしてること!!」
「は、ハイです!!」
「分かった」
正直、今の私には何も残されてはいない。
動くだけの力も、気力も、魔力も、全部―――
「ママ―――」
「大丈夫・・・」
上を見上げる。
非常警報が鳴り響く空間・・・その中で、私は一人無力だった。
ケイスケの機動六課の日々
IFルート turn4 「拝啓:貴方に捧ぐ」
ボロボロになった道路の上をギン姉を背負って進む。
とりあえずギン姉を誰かに預けないと・・・ん? ヘリ?
それに向こうから来るのって・・・
「ティア!!」
「っ、スバル!!」
無事だった!
だけど右足を引きずっていて・・・怪我、してる。
「ティア、足―――」
「大丈夫よ。それより、あんたはちゃんとやったみたいね」
うん―――ちゃんと、ギン姉を取り戻せた。
「各地でガジェットも止まってるみたいだし―――何か知ってる?」
「分からない・・・けど、きっとなのはさんたちがやってくれたんだと思う」
エースオブエースの称号を持った無敵の魔導師、高町なのは。
あの人がきっとやり遂げてくれた。当然みんなも一緒になって―――
私だって、ケイスケのおかげで勝てたようなものだし。
「どうしたの?」
「ううん、何でもない」
と、空からヘリが下りて来た。
ハッチの中からすぐにシャマルさんが飛び出してくる。
あ、ザフィーラさんにヴァイスさんも・・・二人とも病院の筈じゃあ?
「シャマルさんが治療したんですって。私も助けられてね」
「それよりスバル、ギンガは大丈夫?」
「はい。ギン姉を、お願いします」
ギン姉をシャマルさんに任せて、私は他の部隊の救援に―――
と、ティアが何かに気づいた様にヘリに視線を向けた。
? あれってヴァイスさんのバイクだよね・・・何でこれが?
「船の上昇は止められたみてえだが・・・あの中じゃまだ、戦いが続いてんだ」
「中にいるなのはちゃんたちと連絡が取れないのよ」
通信も繋がらないって―――まさか、本部襲撃の時みたいな重度のAMF!?
あの中じゃまともに魔法も使えない・・・いくら六課のエースメンバーでも、これは・・・
「インドアでの脱出支援と救助任務! 陸戦屋の仕事場だぜ!!」
ヴァイスさんの言わんとする所、それは即座に理解できた。
つまりは―――私たちで中にいるみんなを救助!!
『はい!!』
絶対、助け出してみせる。
みんなを、絶対―――あの時のなのはさんに憧れて、私は―――
「・・・スバル」
「ギン姉?」
どうしたの?
ダメージで動きが鈍ってるけど、差し出された左手のあった物は―――
「これを・・・」
「あ・・・」
ブリッツ、キャリバー・・・
◇ ◇ ◇
密林地帯の上空をフリードとヴォルテールが飛翔する。
ヴォルテールにはキャロ、フリードには僕が乗って現在はスカリエッティのアジトを目指している。
あの後、ガリューを倒した僕はキャロの救援に向かった僕は混乱したルーの召喚獣―――主に地雷王を止めるために戦っていた。
そこに意識を取り戻したガリューが加わって何とか地雷王を止めることが出来て・・・
白天王も、ヴォルテールが止めてくれた。
どうにか治まった所でほっと一息吐くと、連絡。
なんでも、フェイトさんが自壊するスカリエッティのアジトの中にまだいるのだそうだ。
脱出できないのは生きているかもしれない人が大勢いるからで・・・だから、僕たちはもしもの時のために向かっている。
フェイトさんほどの人なら大丈夫だと思うけど・・・それでも人は、あっさりと死んでしまうものだから。
それを拭いきれないから、心配だから、信じきれないから、こんなにも焦っている・・・
「・・・見えた!!」
大きなクレーターのような場所―――ゆりかごが埋めてあった場所だ。
そこに管理局の局員が幾人か伺える。
そしてその傍にある穴、あれが・・・
「キャロ、お願い」
「うん、フェイトさんをお願い―――キュリケイオン! スピードブースト・フルドライブ!!」
僕とフリードに加速魔法が付加される。
速度が上がり、ストラーダを握る手に力が籠る。
もう、失いたくない―――
大切な物は、何一つ、絶対に―――
だから、そのためにこの力がある。そしてみんなもいる。
キャロが、フリードが、ヴォルテールが、ストラーダが、キュリケイオンが、僕に力を貸してくれる。
もう、何かを失う悲しみを味わうのは嫌だから―――
だから―――待っていてください、フェイトさん。
必ず、僕たちが助け出します。
◇ ◇ ◇
「いいか、船ん中は奥に進むほど強度なAMF空間だそうだ。
ウイングロードが届く距離までくっつける。そいつで突っ込んで、隊長たちを拾ってこい!」
『はい!』
いー返事だ。
それじゃ、こっちも負けねえようにしねえとな・・・なあ、ストームレイダー。
「お前を握るのは久々だが・・・頼むぜ、ストームレイダー」
『All right』
ストームレイダーを構えて、スコープ越しに標的を狙い―――撃つ!!
撃ちだした弾丸は狙い通りに命中―――よし、いける!
「前に言ったな、俺はエースでも達人でもねえ」
技能だってそれほど高くねえし、魔力だってこいつら程あるわけでもねえ。
仕事だって事務仕事とか苦手だし、あいつにだって負けんだろ。
「身内が巻き込まれた事故にビビって、取り返しのつかねえミスショットもした―――」
ああそうさ、俺のせいでラグナの目から光を奪っちまった。
身内が巻き込まれたからって助けようと必死になって、直前でビビった結果がこれだ。
お前らの方が、よっぽど度胸がある。
「死にてえくれえ情けねえ思いもした―――!」
あの時は、本当に後悔した。
後悔して、情けなくて、自分が嫌になっちまって―――事故から逃げて、ヘリパイロットになった。
「けどよ―――俺が逃げてたせいで、また取り返しのつかない事態を招いちまった!」
俺がビビって、あの子を止めきれなかったから―――
だから、あいつは死んじまった。
いつまでもビビって、逃げて、結果がこれだ・・・
俺は、こんな事が見たかったんじゃねえ!!
「だったら、自分のケツは自分で拭かねえとな・・・そうでもしねえと、俺の収まりが着かねえんだよ!!」
だからせめて、この下らない争いごとを止める手助けを。
最悪の中でも、せめて最善を掴み取ってやる。
それが、俺のせめてもの―――ん?
邪魔になりそうなのはあらかた片づけたが・・・
出入りが出来そうな所にガジェットがいやがるな―――あそこになるとAMFもそれなりだろう。
俺の魔力じゃああっという間に消されちまう―――だったら!
カートリッジを付け替えて、装填する。
もう一回構えて―――
「だからな―――」
『Variable Barret』
「せめて、無鉄砲でバカタレなお前らの道を作るくらいの事はやりてえんだよ!!」
引き金を引く。
ガジェットに当たって―――獲った!
「よし―――行け!!」
「は、はい!」
「ウイング、ロード!!」
ヘリからゆりかごに向かって蒼い道が延びる。
それはまっすぐに突き進み―――やがてゆりかごの所まで延びきった。
『GO!!』
おーおー、勢い良く飛び出したもんだ・・・
さて、俺に出来る事なんて所詮こんなもんだ―――後は、頼んだぜ。後輩ども。
◇ ◇ ◇
遥か空のゆりかごを見上げる。
上昇するスピードこそ緩やかなものだが、やはり確実に上昇していっている。
このままでは、中の者たちが危ないが・・・どうやらいらぬ世話らしい。
ならば、今見えたあのガジェット共の相手をするとしようか―――
『現在迎撃できる空戦魔導師は―――いました! 機動六課ライトニング2、シグナム二尉!!』
「この声―――アルトか」
『はい! ってシグナム二尉、そのお姿は―――』
開かれた空間パネルの向こうで少々驚いていた。
ああ、急な事だから連絡すら入れていなかったな。
そう急く事でもないから、別に後でもよかろう。
「頼もしい救援が付いてくれてな。現在ポイントで迎撃する」
『了解』
さて―――
『機影48―――まだ増える』
「やれるか、アギト」
『へ、烈火の剣精を舐めんじゃねーぞ』
ふ、全く心強い。
では、腕の程を見せてもらおうか―――!!
「いくぞアギト、レヴァンティン!!」
『Schlange form』
カートリッジがロードされ刃の連結刃が姿を現す。
そして、更なる力を烈火の剣精が剣に宿す。
『猛れ炎熱―――烈火刃!!』
レヴァンティンの刀身に紅蓮の炎が宿る。
敵機補足、射程距離に入った―――いくぞ!!
「おおおおおおおおおおお!!」
『おおおおおおおおおおお!!』
全霊を持ってレヴァンティンを振るう。
俺は敵からの射撃を悉く防ぎ切り、同時にいくつかのガジェットも破壊する。
だが、まだだ―――!!
左に炎を燈す。
ここからが―――私とアギトの本領だ!!
「剣閃烈火!!」
手に燈った炎は大きく燃え上がり、その勢いを増していく。
ふと、この炎がまるで篝火のように思えた。
ならばこれを―――奴への弔いの炎にしてやろうか。
大きな、爛々と燃え上がる、送り火―――全く、こんな事しか出来ぬものだな、私も。
が、特大の弔いの炎だ。見ているかは知らんが、しっかりと―――その目に焼き付けろ!!
『火竜―――!!』
やがて炎が収束する。
それは剣を成し、唯一無二の必殺の剣閃へと―――
『一閃!!』
振り抜く―――
群衆を一文字に切り裂いたそれは、過たずして全ての機影を破壊した。
『き、機影50、一瞬で全機撃破!!』
あっけないものだな―――
だが、心地良い。
「何故だろうな―――お前との融合は、心温まる」
『―――』
ん? どうした?
「アギト、どうかしたか」
『な、何でもねえ! 何でもねえよ!』
「・・・」
泣いて、いる・・・
何があったのかは知らないが、こいつも―――
『距離450! 第二編隊、来ます!!』
「ああ」
全く騒がしい―――
まあいい。全てが終わった後に、またゆっくりと話せるのだからな。
その頃には、もう少しまともな弔いもできるだろう。
さあ、まずは―――
「いくぞ、アギト!!」
『っ、おう、シグナム!!』
目の前の敵を片づけて、この戦いを終わらせる!!
◇ ◇ ◇
「ダメです! 魔力が全く結合しません! 通信も―――!」
あかんか・・・
魔力が全く使えんとなると・・・あと頼れるのは自分の体だけか。
「しゃあない。なら歩いてでも自力で脱出するで」
「でも、なのはさんは・・・」
目立った傷はあらかた治療したけど・・・それでもダメージがあまりにも大きい。
あんな状態でスターライト放ったんやから、いつ倒れてもおかしくない状態やろ。
だからこそ、今のなのはちゃんがまともに歩けるはずも無く・・・
「骨折れるけど、うちが支えたら問題無いやろ」
「・・・ごめん、はやてちゃん」
なんや今更。うちらの仲やろ?
助け合いなんてしょっちゅうしてきた癖に何を言い出すんかと思えば。
「んな水臭い事言わんでええて。お礼ならここから出た後にでも―――」
『乗員は所定の位置へ移動してください。繰り返します、乗員は所定の位置へ移動してください。
これより破損内壁の応急措置を始めます。破損内壁、及び非常隔壁から離れてください』
えっと、破損内壁の応急措置・・・まさか!?
後ろを振り向く。
さっき私が戦闘機人を背負って来た穴が塞がれ始めた。
く、マズイ!!
「みんな、急いで出口まで!!」
つってもなのはちゃんはまともに動けへん。
うちが支えて、出来るだけ早く一歩一歩―――ああ、閉まってもうたか。
「・・・ごめん」
「ええてそんな事。ここでなのはちゃん見捨てたらここまで来た意味無いやろ。友達やん」
「うん・・・ごめんね」
とはいえ、手詰まりか・・・
こんなとこでくたばる気なんてさらさら無いけど・・・こればっかりはなあ・・・
『いや、そろそろだ』
「は?」
ちょ、また不思議通信回線!?
なのはちゃんやリイン、ヴィヴィオまでびっくりしてきょろきょろして・・・一体何がそろそろと?
と、何かの駆動音が聞こえてきた。
町中の道路とかでよく聞くこの場で不釣り合いな―――もしかして。
「なのはちゃん」
「うん―――来てくれた」
◇ ◇ ◇
『ほらそこを右! そこから距離50にガジェット三機とスフィア5機!』
「スバル!」
「おう!!」
目の前の交差点を右へ曲がって―――距離50、いた!!
すかさずスバルが前に出て襲い掛かるガジェットやスフィアを蹴散らす。
「ティア! これってやっぱり―――!!」
「ええ! 幻聴じゃないわね!!」
さっきから聞こえるこの声。
それは的確に玉座の間への最短ルートに導いてくれている。それに付け加えて立ち塞がる敵の情報も。
それにこの声―――
『そこから距離320にガジェット5機! そのまま前方の壁をブチ抜け!!』
「頼むわよスバル!」
「了解!!」
スバルの左腕にギンガさんのリボルバーナックルが装着される。
そのままISを起動させ―――
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
うわ、頑丈な壁が瞬く間に吹っ飛んだ・・・
あれを生身で受けるときっとミンチになるわね。または地面に叩きつけられたカエルのよーにベチャリと・・・
って何か思考が毒されてる気がする。
「はあ・・・あんたね、こんなお節介してカッコつけてんじゃないわよ」
『いいじゃねーか。何しようが勝手だろ』
「似合わないって言ってるのよ」
『オイ・・・』
姿も何も見えない。
だけど確かに声を聞くことができて、今は存在を傍に感じられるあいつと話す。
たぶん、こんな事はこれっきりだろうから。
そもそもこいつの性格上ここまでしゃしゃり出てくるのだろうか?
いや、きっと面倒くさがって出てこない。
こいつの事だ、絶対死んだ後も誰かに引っ張りまわされてこうなったに違いない。絶対そうだ。
『なあ、その認識がもう覆らないという現実に泣いていいか?』
「どうぞご勝手に」
まったく、私ももうちょっと別れを惜しめっての。
こいつと話していると湿っぽい別れも何でかこんな風になる・・・まあ、それがこいつだしね。
別にいっか。私とこいつは、こういう関係なんだから。
あ、言っておきたい言葉があったっけ、そういえば。
「―――今までありがとうね。あんたのおかげで色々楽しかったわ、ケイスケ」
『ああ、こっちこそ―――楽しかったぜランスター』
うん・・・本当に、ありがとう。
そして、さよなら―――
◇ ◇ ◇
洞窟の中をストラーダで駆け抜ける。
本格的に自壊を始めているらしいスカリエッティのアジトは激しく揺れている。
途中落石とかもあったりするけど―――
と、また上から落石。
ああもう噂をすれば!
「突っ切るよストラーダ!!」
『Ja』
一瞬だけ更に速度を上げて落石の下を一気に突っ切る。
このスピードはまだ僕には維持できない。スピードがコントロール出来ずにどこかに衝突してしまう。
だけど、一瞬の―――直線距離ならまたとない加速手段だ。
このスカリエッティのアジトは直線の通路が比較的多くて助かった。
これならなんとか・・・人影!
距離があって米粒みたいにちっちゃいけど・・・この魔力は、フェイトさん。
無事だった・・・あ、いきなり揺れが収まった。
フェイトさんかな? もう姿がはっきり見える距離まで―――ってフェイトさんの頭上から落石!?
「くっ、ストラーダ!!」
『Sonic move』
更に加速を掛けて一気に最大速度まで上げる。
落石はもうフェイトさんの頭一つ分上くらいまで・・・く、間に合え!!
「っ、!!」
瞬間、確かな手応えと大きな衝撃。
ふう、間一髪・・・・・・
「エ、エリオ・・・」
「はい、助けに来ました」
◇ ◇ ◇
スバルに背負ってもらって、ゆりかごの中を出口に向かって駆け抜ける。
この一週間、本当にいろんな事があった。
地上本部と六課が襲われて、その際ヴィヴィオは攫われてしまって、ケイスケくんは死んでしまった―――
思えば、あれから今日まで私はずっと彷徨っていたのかもしれない。
どうしようもない自分自身の弱さ、私の心の孤独の中を―――
独りになるのが怖くて、護れなかったのが悲しくて、何も出来なかった自分が嫌になって・・・
それで、私の今までが嘘だって言われた。そう否定されて、絶望して、私はみんなに救われた―――
独りじゃないって教えてくれて、みんなが力を貸してくれた。
私だけじゃ何もできなかった。
たぶん、あのまま折れてしまっていた―――
だけど独りじゃない事を、みんながいる事を知ったから、こうやって私はここにいる。
胸を張って、前を向ける。
これが私なんだって、誇らしく思う。
私はたぶん、これからもずっと迷い続ける―――
だけど、私は独りじゃないから、大丈夫。
出口が見えてきた。
あの先に、光が見える。
だから、私はこの道を進む。
みんなに、自分自身に恥じないよう、胸を張って、まっすぐに―――ずっと。
だから、ありがとう。
ケイスケくんの、みんなのおかげで、私はまた前に歩けます。
ほら、光を抜けた先に道がある。
終わりが見えない道がずっと、ずっと、続いてる―――
さあ行こっか。
この終わりが見えない道を、私は進もう―――
◇ ◇ ◇
拝啓
ケイスケへ
元気にしてますかって言うのも、おかしいかな。スバルです。
あの事件からあっという間に時間が過ぎて、明日にはもう機動六課は解散です。
ケイスケがいなくなってしまってから本当に色んな事があって・・・
お葬式の時なんか部隊長が六課を上げて盛大にやっちゃって―――その時、ケイスケはどこかにいたのかな?
みんな、思い思いの言葉をケイスケに投げかけて、泣いていたよ。
六課の人の他にも108隊からは父さんが、ライトニングの保護した子のお母さんにオーリス三佐、聖王教会からも誰か来ていたよ。
それが終わってからは、相変わらずの慌ただしい日々。
なのはさんが復帰してからは訓練がもっときつくなって・・・どこにあんな体力あるんだろうね?
明らかに私たちより重傷だったのに私たちより早く元気になって・・・
まだまだ目指す所は遠いね。
ケイスケがいなくなっても、時間は変わらすに過ぎて行って・・・毎日も、変わらずに続いている。
ホント、おかしいよね・・・
一人だいなくなっただけじゃ、世界は何も変わらない・・・
私たちも、ケイスケがいなくなったってだけで・・・時々、どうしようもない寂しさを感じるけど、それでもいつも通りに・・・
ねえ、ケイスケ。
あの時からケイスケの声は聞こえなくなったけど・・・ケイスケは、どこからか私達を見ているのかな?
このどこまでも続く青空の下、私たちは元気にやっています。
ケイスケは今、どうしているのかな。
相変わらず面白おかしくやっていたりするのかな・・・
あ、そっちにいるなら母さんとおばさんによろしくね。
私たちは今を全力で生きていくから―――ケイスケの分まで、精一杯。
今までありがとう、ケイスケ。
私たちは、今を元気にやっています――――――
◇ ◇ ◇
「あー、疲れた・・・何で俺がこんな事・・・」
「文句言わないの。こうなったのもあんたの責任でしょ」
「つってもあいつらなら大丈夫だろ。いちいち俺が行く必要無かったと思うんだが」
「そうかしらー? まあ嫌々だった割にはノリノリだったわね」
「そうそう。“俺が絶対黙らせてやる”だったかしら? 熱血してるわねー」
「・・・・・・・・・・今更になってハズくなって来た」
「うりうりー、あの中で誰か気になった子はいるのー?」
「うちの子かしらー? それとも仲が良さげだった関西弁の子しら?」
「それとも私の妹かな?」
「どれも違・・・・・・お譲ちゃん、誰かな? よい子は早くお母さんの所に行くんだよー」
「お母さんは中々意地っ張りで私の妹の子と認めてくれないからちょっと懲らしめようと家出中」
「・・・・・・」
「で、妹って誰の事、誰の事」
「んーとね、フェイト」
「・・・・・・・・・・・・・・・ハアアアアア!!? まてまてまてフェイトってあのフェイト隊長!?」
「うん」
「どんな詐欺だよ!? こんなちっちゃい子が隊長の姉ちゃん!? ありえねーだろ!!」
「君だってその歳でパパやってたでしょ」
「俺は断じて認めヌェーー!!」
「えー、私としてはそのままフェイトの夫になってくれると嬉しかったんだけど」
「姉公認!? つーか俺はその気は無いっつの!! フェイト隊長の気持ちってモンもあるだろ!!」
「え? だって君ならオーケーでしょ?」
「その根拠どこからくんだよ!!」
「いやー、散々それっぽいもの立てて来たあんたがよく言うわ」
「うちの子だけじゃ飽き足らずに上司のかわいい子にまで手を出しているしねー」
「出してねーよ!! だから俺にその気は・・・!!」
「えい、録音再生♪」
「は?」
『酷い! また私から奪うんだ!!』
『・・・・・・・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・いいいいいいいいいいつの間に録音したのかなお譲ちゃん?」
「当然、その場で♪」
「どうやってだよおおおおおお!?」
「ねえ・・・」
「どういう事かしらね・・・?」
「ぎくー・・・いやいや落ち着け俺。俺は何も悪い事もやましい事もしていない。
koolになれkoolに。この二人だって話せばきっと分かって・・・」
「たっぷりと・・・」
「聞かせてもらおうかしら・・・」
「無理だあああああああああああああああ!? 戦略的撤退!!」
「逃がすか!!」
「待ちなさい!!」
「待てと言われて待つかバカーー!!」
「いってらっしゃーい」
「ちきしょー!! もう俺は死んでんだからのんびりさせろーー!!」
fin
後書き
さあ、鬼丸さんとの会話がきっかけで始まったこのお話もとうとう終わりました。
もしもケイスケが死んでしまったら―――そんな事を考えた人は他にもいるでしょう。
このお話が必ずしもみなさんに満足いただけたわけではありませんし、そもそも本家とのギャップで合わない人もいるでしょう。
それでも書いたのはひとえに私の我が儘です。
もしもケイスケが死んでしまったら―――ケイスケを取り巻いた人間は何を想ったのか。
何を胸に戦い、どのような答えを得て前に進むのか。
ケイスケが周囲にもたらしたモノ、それを形にしたかったというのがこの作品です。
次回からはもう一つの魔導書の続編が開始しますが―――
これまでこのお話を読んでくださった方々、心から、本当にありがとうございました。
それではまた次回で―――