ヴィータ、お疲れさん・・・
  グラーフアイゼンも、よう頑張った・・・
  ヴィータとアイゼンにできる限りの治療を施すけど・・・やっぱり、ダメージは大きい。

  治りが遅いんは、徐々に守護騎士としての機能を失っているから・・・
  だから治りが遅くなって・・・最後には、大きなダメージを受けると消えてしまうようになる。
  それはまるで・・・一つの命の様に。

  それは喜ばしい事なんか悲しむべき事なんかははっきりせえへんけど・・・それでも、今は―――


 「もう、大丈夫だよ・・・まだ、戦える」
 「ヴィータ・・・」
 『無茶ですヴィータちゃん!!』


  そんな体で、まだ・・・


 「はやてとリインは、早くなのはの所に行ってやってくれ・・・あたしの代わりに、助けてやってくれ」
 「けど・・・」


  これ以上無茶すれば、本当に・・・


 『・・・・ょ・』
 「ん?」
 「どうした? はやて」
 『どうしたですか?』


  今のは・・・空耳か?
  なんか聞こえたような・・・


 『・・い・・う』
 「っ!」


  いや、聞こえた!
  微かやけど・・・なんや、通信でもなさそうやし・・・


 『・た・ちょう』


  ん? まて、この声はどっかで・・・そう、結構身近な・・・


 『部隊長。聞こえてるか部隊長』
 「んなっ・・・!?」


  ケイスケ、くん・・・!?








  ケイスケの機動六課の日々
           IFルート turn3 「絆の光[後編]」








 「はあああああ!!」
 「っ!」
 『Short Baster』


  私のバスターとヴィヴィオのスマッシャーがぶつかり合う。

  威力は互角・・・でも!
  カートリッジをロードして魔力をかさ上げして―――撃ち破った!!
  っ、ヴィヴィオがいない・・・!

  今のはフェイトちゃんのプラズマスマッシャー・・・あれは確か放った後の高速移動が可能なはず。
  昔も一度、私はそれに対応できなくてフェイトちゃんに負けた試しもある。

  だから―――その手は読めてる!


 「後ろ!!」
 「っ!?」


  即座に後ろに向かってバスターを放つ。
  至近距離、この距離じゃ回避は出来ない筈だけど・・・


 「こんなモノ!!」
 「くぅ!」


  拳に溜めた魔力を放出して無理やり防いでる―――!

  ヴィヴィオの魔力資質はベルカには珍しい純魔力の放出だと思う。
  接近戦に向かない部分は私やフェイトちゃん、ケイスケくんなどから学び取った部分で補っている・・・

  隙が無い―――
  今はまだ戦えている、けど・・・このままじゃ・・・

  ヴィヴィオの拳がバスターを弾きながら私に迫る。


 「くっ!」
 『Protection』


  折れている左腕は役に立たない―――レイジングハートを握っている右腕を前面に差し出す。


 「はあ!!」


  膨大な魔力の籠ったヴィヴィオの拳は私の障壁を易々と打ち砕く。
  そのまま、右腕に命中。

  衝撃に耐えきれずに地面へと叩きつけられる。


 「がっ・・・ぁ・・・」


  ブラスターで唯でさえ体は限界寸前な所に満身創痍、疲労困憊、左腕の機能不足・・・
  右腕も・・・これ以上攻撃を受ければ危ないかもしれない。

  諦めが一瞬頭を過る―――

  もう私は十分に頑張った。
  今までの事を清算するいい機会だ。
  これ以上不幸を振りまく前に。
  この嘘の気持ちを終わらせて。
  まだ間に合う。ここで私が消えれば―――


 「―――違、う」


  そんな考えを、否定する。

  だって、彼は言ってくれた。
  今まで私がしてきた事は間違いじゃ無いって。
  この気持ちは嘘なんかじゃ無いって。
  ヴィヴィオを助けろって、私に託してくれた。
  それで私は笑ったんだ。
  彼に向って、勇気をくれたと伝えるために。
  ちゃんとまた頑張るって伝えるために。

  私は、それすら嘘に、したくないから―――!!


 「だから―――!」


  レイジングハートを支えにして震える足で立ち上がる。
  正直、気を抜けばすぐにでも倒れてしまいそう。
  だけど今ここで倒れたら、今度こそ私は立ち上がれなくなる。

  だから、立つ。

  たとえその先が私が壊れてしまう事だとしても、立つんだ。
  目の前が霞んで、息は上がって、体にはまともに力も入らず、魔力も限界・・・

  けど諦めたらそこで終わりなんだ。
  だから最後の最後まで、諦めない。


 『ホント、そんな体でよく頑張りますわね』
 「はあ、はあ、はあ、はあ・・・」


  まともに答えるだけの余裕も無い。
  それに聞こえる音という音にフィルターでも掛ってるかのような感覚・・・
  これは、本格的に体が限界だね・・・


 『そこまでボロボロになってまで戦って・・・自分が死ぬのがそんなに嫌なのかしら?』


  その中でも、相手の声が嫌に鮮明に聞こえる・・・


 『自身が生き残るためなら子供相手ですら躊躇いも無しに戦うなんて、酷い人・・・』
 「っ・・・」


  また、心に釘が打ち込まれる。
  ピシピシと、ひび割れていく・・・


 『ほーら、自身の幸福のためなら他人の不幸すら厭わない。今のあなたは正義と言えるのかしらねえ?』
 「くっ・・・」


  言い返したいけど、声が出ない。
  まるで窒息したかのように、息が詰まって・・・


 『今のあなたならきっと簡単に人を殺せるんでしょうねえ。それはもう残虐に、容赦無く、躊躇いも無く』
 「違、う・・・」


  やっとのことで言葉を絞り出す。
  だけど体は徐々に言う事を聞かなくなってきている・・・

  そうして、またピシリと。


 『何が違うのかしら? さっきの少年にだってあなたは躊躇いも無く攻撃を仕掛けたでしょうに』
 「ぁ・・・」


  一気に、心が崩されかける。
  必死に、精一杯耐えて見せようとするけど、そんな些細な抵抗など物ともしないで罅は広がっていく。

  ピシリ、またピシリと・・・


 『ふふ。そんなあなたに陛下を救えるのかしら? 他人を傷つけてばっかりなのに・・・』
 「ぁ、ぁ・・・」


  息が苦しくなる。
  肺が必死に酸素を求めて、喘ぐ。

  苦しさから、痛みから・・・絶望から逃げるように。


 『あなたには誰も救えない。助けたとしてもまた不幸を振りまく。そんなあなたなんていない方が―――』
 「ちょーっと待った!! そこまでやで性悪女!!」


  っ!?








                    ◇ ◇ ◇








  玉座の間に辿り着いたんはええねんけどなんやなのはちゃんがピンチやな。
  聞いていたよっかよっぽど陰険そうな女にネチネチ言葉攻めされとる。

  あー、あれはやられてると辛いやろうけどはたから聞いとると腹が立って来るなー。

  とゆーわけで即座に割って入る。


 「ちょーっと待った!! そこまでやで性悪女!!」
 「っ!?」


  おー、なのはちゃん驚いとる驚いとる。
  そりゃーうちってば今外の筈やもんなー。中来た事なんて伝えてる暇無かったし。


 「は、はやてちゃん。リインも何で・・・」
 「いやいや、ちょいなのはちゃんの救援頼まれてな」
 『それで急いで飛んできた次第ですよ』
 「え? ヴィータちゃんが?」


  まー普通はそう考えるやろうけど半分正解。
  ちなみに残り半分は秘密な。


 『とんだ邪魔が入りましたけど、何人いようが関係ありませんわ』
 「む」


  パネル越しに嫌な笑みを浮かべる戦闘機人。
  あー、何かこういうタイプ嫌いやなうち。正直言って好きになれん。


 『陛下? 今来た人もあなたのパパとママを奪った悪い人ですよ。早く倒して助けないと・・・』
 「・・・あなたは、あなたも!!」


  さっきなのはちゃんが戦っていた女性から魔力があふれ出す。

  虹色―――この特殊な魔力光は、もしかしなくともカイゼルファルベ?
  とすると・・・


 「なのはちゃん。あれもしかして―――」
 「・・・うん、ヴィヴィオ」


  あちゃー、やな予感の方が当たったか・・・
  まー聖王陛下がそうポンポンいても困るけど。

  とりあえず状況確認。
  あのヴィヴィオ―――十中八九聖王として覚醒しとるな。
  おそらくはレリック辺りで無理やり、ってとこやろ。
  対するなのはちゃんは満身創痍。
  体中酷い傷だらけで見ているのも痛々しい。立っているのも辛そうや。
  それに付け加えて左も逝ってるみたいやし・・・

  まずはなのはちゃんの回復やな。


 「なのはちゃん、ちょう力抜いて」
 「うん・・・」


  軽く気休め程度の治癒を掛ける。
  出来る限りの治療をしてあげたい所やけど・・・今は目の前のヴィヴィオがそれを許してくれん。


 『さあ陛下。やっちゃってください』
 「うぁぁぁぁああああああ!!」


  突っ込んできた!

  うちは単独戦闘はなのはちゃんやフェイトちゃんのように得意な方では無い。
  単独戦闘より複数戦闘の方が向いとんねんけどなあ。

  まったく、最後の最後に厄介な仕事押しつけてくれたもんなやな―――!!


 「なのはちゃん下がって! いくでリイン!!」
 『全力で、いきます!!』








                    ◇ ◇ ◇








  目の前ではやてちゃんとリイン、そしてヴィヴィオの戦いが繰り広げられる。
  飛び交う光。目を焼く閃光。響き渡る轟音と衝撃。
  そして私は、何も出来ずにそれをただ眺めているだけ―――

  少しは治療をしてもらったけど未だに体は満身創痍。魔力の回復量も微々たる物。
  この状況で、私に何が出来るんだろう―――

  悪いけど、ずっとはやてちゃんに任せっきりにしておく訳にはいかない。
  はやてちゃんは個人戦闘は苦手な部類に入る。それは本人が一番よく知っていることでもある。

  だから、このままじゃいけない。

  何か、何か手を打たないと・・・私が何とかしないと―――!


 『マスター、落ち着いてください』
 「っ」


  レイジングハート・・・


 『今焦ったところで何かが変わる訳でもありません。落ち着いて、為すべき事のために今は―――』
 「レイジングハート、でも―――!」
 『何があなたを再び立ち上がらせたのか、それは私には分かりません。
  ですが、あなたはやり通すと決めたのでしょう? 私はその手伝いをするために、ここにいます』
 「・・・ぁ」


  やり通す、ために・・・?

  ・・・・・・そう、だ。
  私は、何があっても諦めないって・・・想いを伝える、その時まで絶対・・・

  誰かが悲しい顔をしているのが嫌で、辛くて、力になってあげたくて―――
  それで魔法を手に取って、話し合いをして、互いの想いをぶつけ合って―――
  それで、最後にはみんな笑っていられたら・・・
  そんなことを、私はずっと望んでいた。

  そんな単純な事を・・・私、いつの間にか忘れていたんだ・・・


 「・・・そうだよね」


  何のために魔法を手に取ってこの道を選んだのか。
  そんなこと、本当に今更なんだ。
  これが私の道だから。これが私の生き方だから。変える事なんて出来ないし変えるつもりも無い。

  胸を張っていられると思うのなら、堂々と胸を張ればいいんだ。
  そうやって前を向いて、一歩ずつでも進んでいく。
  途中、何かを失ってしまう事もあるけど―――それでも、それを全部抱えて生きていくんだ。

  それが、私の責任であって願い。
  今あるモノも、無くしたモノも全部、忘れたくないから―――


 「うん―――やるよ、レイジングハート!!」
 『Yes, my master』


  私の魔力は残り少ない。撃てて、たぶんあと一撃だけ。
  あれは例外だけど反動が大きすぎる上にチャージにも時間がかかる。
  カートリッジを使えば何とかなるかもしれないけど、今装填されている物は残り少ない。
  予備も残り一つだけ―――

  だけど、やるんだ―――!!


 「はやてちゃん! 合図をしたらヴィヴィオの動きを止めて!!」
 「っ、なのはちゃんも無茶な要求するなホント―――! 了解や!!」


  その時が来るまで魔力回復に集中する。
  問題は、それまでにはやてちゃんが持つかどうか・・・
  お願い、早く―――!!


 『陛下ー? 何やら悪魔さんがパパとママを虐める方法を企んでいるようでーす。早く倒しちゃってくださーい』
 「っ!?」


  しまった! 今ヴィヴィオに向かってこられたら―――!


 「あなたは、また―――!!」
 「くっ!」


  標的をはやてちゃんから私に変えて襲い掛かってくる。
  今の私にヴィヴィオの攻撃を受けきるだけの魔力は残っていない、やられる―――!?


 「今やリイン!!」
 『はいです! フリーレンフェッセルン!!』


  私の目の前に魔法陣が現れる。
  勢いよく私に向かってきたヴィヴィオはそれの範囲に侵入すると同時に―――下半身を氷結させられた。


 「なっ!?」
 「ナイスやリイン!!」


  これで少しの間は足止めが―――


 『WAS成功。座標特定、距離算出』
 「っ!!」


  来た!!


 『エリアサーチ!? まさか、最初からずっと―――!?』


  座標特定完了。距離算出完了。
  魔力、カートリッジでの補充で―――いける!!


 「ブラスター3!!」


  ブラスタービットを再展開!
  魔力ブースト、最大出力!!


 「くっ、うぁ・・・!!」


  とっくに限界を迎えている体は無理なブーストに悲鳴を上げる。
  これじゃあ撃った反動だけで体が耐えられずに吹っ飛ばされるだろう。
  腕も震えて照準がおぼつかない・・・


 「くっ・・・」


  そんな状態で撃ったとしても大した効果は望めない。
  だったら―――!!


 「レイジングハート!!」
 『Restrict Lock』


  バインドで私自身を捕縛、固定する。
  これなら―――!!

  カートリッジを残り全弾ロードする。
  一気に魔力が充填され、チャージされた魔力が膨れ上がる―――!!


 『あ、ぁぁあああ―――!!』
 「ヴィヴィオは、返してもらうから―――!!」


  彼と、ケイスケくんとの約束を果たす、そのためにも―――
  あなたは、絶対に倒す!!


 「ディバイィィィイイン―――!!」


  膨大な魔力が合計五つの砲門から生み出される。
  それは一つに合わさって―――


 「バスタァァァァァアアアア!!」


  大きな衝撃と共に、解き放たれた―――








                    ◇ ◇ ◇








 「うっわぁ・・・」


  うーん、改めて間近で見るとやっぱ凄まじいな。
  ファイアリングロック解除しただけでコレやもん・・・壁ごと最深部まで撃ち抜くか普通?
  誰がどー考えたってなのはちゃんくらいやろうな、こんな出鱈目な事出来んのは。

  バインドが解けてなのはちゃんの体が崩れる。
  さあ、治療してあげな。


 「よー頑張った、なのはちゃん・・・またこんな無茶しおって」
 「うん・・・約束、したから」


  約束―――ヴィヴィオを取り返す約束っつーたらフェイトちゃんか?
  もしくは・・・ううん、これこそ余計な詮索やな。

  とにかく持てる魔法の中でも一番効きの良い治療を施す。

  体の打撲や細かな傷くらいは消えたけど・・・うちにはシャマルみたいに魔力まで回復させる事なんて出来ひんな。
  左腕の骨折なんて以ての外や。

  ささ、ヴィヴィオを連れてとっとと出よこんな場所。
  あの性悪女ブッ飛ばしたんやったらそろそろ精神操作も解けてる筈や。


 「大丈夫・・・もう、立てるよ」
 「無茶はせんほうがええで? 後でみんな煩いし8年前の二の舞も御免やからな」
 「分かってる。今は・・・」


  ヴィヴィオに向き直る。
  仕掛けたフリーレンフェッセルンはいつの間にか解けて消えていた。
  なのはちゃんがヴィヴィオに歩み寄る。


 「ヴィヴィ、オ・・・」
 「ぁ・・・なのは、ママ・・・?」


  その眼は確かになのはちゃんを見て、いつもみたいなあの無邪気な目で―――


 「っ、ダメ、逃げて!!」
 「っ!?」








                    ◇ ◇ ◇








 「うあっ!」


  いきなりの事に反応できずにヴィヴィオの拳をそのまま体で受けてしまう。
  当然、生身の身で耐えられる威力でもなく私の体は易々と宙を舞う。

  次いで、衝撃。


 「あ、かはっ、ぅ・・・」


  殴られた衝撃と叩きつけられた衝撃で息が詰まる。

  なん、で・・・


 「ダメなの・・・」
 「ぇ・・・?」


  ヴィヴィオを中心にして異変が起こる。
  これは―――!?


 『駆動炉破損。管理者不在。聖王陛下、戦意喪失。これより、自働防衛モードに入ります』
 「なっ―――!?」


  これでもまだ、止まらない―――!?


 『艦載機、全機出動。艦内の異物を排除してください』
 「もう、帰れないの・・・」
 「何で・・・」


  そんな事を―――


 「私は、もうずっと昔の人のコピーで・・・なのはマ、なのはさんもフェイトさんも、ほんとのママじゃ、ないんだよね・・・」


  ヴィヴィオ・・・覚醒した時に、知識が―――?


 「この船を飛ばすための、ただの鍵で・・・玉座を守る、生きてる兵器」
 「違う―――」


  違う、ヴィヴィオは、そんなんじゃない。
  絶対、絶対にそんなんじゃない―――


 「違わないよ!!」
 「っ」
 「本当のママなんて元からいない・・・守ってくれて、魔法のデータ収集をさせてくれる人を探してただけ」


  そんなの―――
  例えそうだとしても、私は―――


 「そんな事にみんなを巻き込んで・・・
  なのはさんも、フェイトさんも、みんなみんな―――ケイスケさんだって!! 私のせいで死んでしまった!!」


  ―――泣いていた。
  ヴィヴィオは、泣いていた。
  自分が原因だって事に嘆いて、苦しんで、痛くて、何よりも悲しくて、ヴィヴィオは泣いていた。


 「―――」


  それは、痛いくらいに分かる。
  ちょっと前までは、私だってそう思っていたから。
  いや、もしかしたら今でもどこかでそう思っているのかもしれない。

  だけど、前に進むって決めたから―――


 「・・・そんなこと、無いよ。あれはケイスケくんが自分で選んだ道。その結果」
 「けど―――!!」
 「ケイスケくんが自分で招いた結果なんだよ、これは。
  例え誰かに関わったからだとしても、それはケイスケくん自身が選んだ事だから」
 「―――っ!」


  そう、これはケイスケくん自身が招いたの結果。
  そこに誰かの責任なんて入る筈も無く、それはただ本人にだけ向けられる。


 「なのはさんは・・・なのはさんは悲しくないの!? ケイスケさんが死んでしまって、その原因を作ったのが私で!!
  みんな―――ケイスケさんの事が好きだったのに!!」
 「―――うん、好きだった」
 「だったら―――!!」


  帰るべき日常。
  そんな何気ない日々を、彼はより色濃く、鮮明に描いてくれていた。
  だから、失った今なら分かるんだ。その日常の尊さが。それが、どんなに幸せな日々だったかを。
  だからみんなケイスケくんの事が好きだった。
  彼がいれば、そこを日常だと思えたから。毎日が、とても楽しかったから。

  でも―――




 「―――でもね、ヴィヴィオ」




  頬を何かが伝う。
  それは流れ出た血なのか、それとも涙なのか・・・私には分からない。


 「これが、ケイスケくんが選んだ生き方なんだよ―――後悔しないようにって、選んだ生き方なんだよ。
  それを、私たちに止める権利があると思う―――?」


  少なくとも、私には、止められない。
  きっと、最後の最後で後押ししてしまう―――
  “それが後悔しないように、精一杯で選んだ事なら仕方ない”って。
  もちろん、その責任は取るだろうけど・・・それはまた別の話。


  ようするに、やっぱり私は怖がっているんだ。


  無理やりにその生き方を止めて、それでもしも恨まれることになったら・・・
  たぶん、そんな事で。

  あはは、本当に・・・情けない。

  けど、けどね―――


 「少なくとも、ケイスケくんはヴィヴィオを守りたいと思ったからその道を選んだんだよ。
  ヴィヴィオは、それも否定してしまうの?」
 「ぁ・・・」
 「だから、一緒に帰ろう。みんなの所に・・・ケイスケくんも、パパもそれを願ってる筈だから―――」
 『下らねー事言ってないでとっとと帰って来い、ヴィヴィオ』



  そんな言葉が、不意に聞こえた気がする。



 「ねえ、ヴィヴィオの本当の気持ち―――ママに教えて?」
 「私、私は―――みんなが、大好き。帰りたい―――! ママ、助けて!!」




  ―――ああ、それをどれだけ私は聞きたかったんだろう。



  過ごしていくうちに、どこかで望んでいた事。
  ずっと、こんな時間が続けばいいのにって―――
  私は、ヴィヴィオと一緒にいたかったんだって、やっぱり後になってから気がついた。

  ケイスケくんは言ったよね。
  ヴィヴィオを助けろって、たまには自分に素直になってわがままくらい言ってみろって。
  あの日常をもう一度続けたいなんて事は、もう無理だから・・・
  だから、ヴィヴィオと一緒にいたいっていうわがまま位は、言ってみるよ。




 「助けるよ、絶対―――いつだって、どんな時だって!!」




  ヴィヴィオを助ける。絶対に―――
  それで帰るんだ。みんなの所に。
  日常はもう戻らないけど、それでもまだ私たちは前に進めるんだから―――


 「だから―――はやてちゃん!」
 「よし来たお任せや!!」


  私に残された手段なんて一つしかない。
  それを分かった上ではやてちゃんやリインも協力してくれる。

  迷惑ばかりかけて、ごめんね。
  だけどこれで、今度こそ終わりにするから!!








                    ◇ ◇ ◇








  さー本日二度目のタイマン勝負。
  ハッキリ言ってむちゃくちゃ分が悪い・・・けど。

  さっきのなのはちゃん、泣きながら笑っていた。
  けどそれは微妙な物で、ケイスケくんの死に悲しんで、ヴィヴィオの言葉に喜んで。
  嬉しさ半分、悲しさ半分といった・・・とても、切ない笑顔。
  あんなん見せられて、こっちが頑張らんわけにもいかんしな。

  上空ではなのはちゃんが魔力の収束に入った。
  やっぱり、あの状態で使えるとしたらスターライトブレイカーくらいやろう。
  けど砲撃魔法が来ると悟ったヴィヴィオの体は意志とは関係なしに勝手に動く。

  それを止めるんがうちらの役目―――!!


 「リイン!!」
 『フリジットダガー!!』


  ヴィヴィオの周囲に氷の探検が無数に生み出され、取り囲む。
  そこで一瞬動きが止まって―――


 「ブラッディーダガー!!」


  うちのダガーも含めた一斉総射!!
  爆煙で姿が見えなくなり―――


 『後ろですはやてちゃん!!』
 「っ!」


  そんなに反応速度が良くないうちに接近戦は禁止事項や。
  とうぜん、反応できずに右腕を掴まれる。



  瞬間、何かぞわっとした感覚―――



  なんか、まずい!?


 「リイン、バリアジャケット!!」
 『パージ!!』


  直感に従って右腕の部分だけジャケットがパージされてヴィヴィオの手から逃れる。
  そのまま至近距離で、撃つ!!


 「ディバイン―――!!」
 『シューター!!』


  10年前になのはちゃんから収集した時にコピーした魔法。
  私にはなのはちゃんみたいに精密操作は出来ひんけど、それでも牽制程度にはなる!

  四方八方からの単純な時間差攻撃。
  これだけでも大分手間取る筈や。


 「くう・・・!」
 「まだまだ行くで!!」
 『直射型は専門外ですけど―――!!』


  短時間でそれなりな威力を持つ魔法はこれくらいしか無いしな―――抜き撃ちで!!


 「ディバイン、バスター!!」


  リインの補助で収束、加速した魔力が一直線にヴィヴィオへと向かう。
  対するヴィヴィオは回避不能な体制。
  でも―――


 「うああ!!」
 「っ!」


  容易く拳で弾かれた。
  あかん、やっぱなれん事はするもんちゃうな・・・
  かといって今のこの状況をなのはちゃんに任せられへんし・・・

  ああもう! こんなことやったらもう一人誰か連れて来るべきやったか!?
  とか言ってるうちにヴィヴィオ突っ込んでくるし!!


 「愚痴ってる暇も無いなもう!」
 『来るですよ!!』


  フリジットとブラッディで弾膜を張る。
  この程度じゃ足止めにもならんやろうが―――ああ、予想通り突っ込んできおったな。


 「狙い通り!!」


  弾膜を一気に暴発させる。それによって視界が爆煙で奪われる。
  これでもまだ止まらへんやろうけど・・・突っ込んで来てくれてむしろ好都合!!
  爆散したフリジットの破片が宙を舞っている―――これを利用して!


 「やるでリイン!!」
 『合点承知です!!』


  その場の空気の温度が一気に下がる。
  すると目の前から拳が飛び出して来て―――目の前でピタリと止まった。


 「な・・・!!」
 「ふいー、間におうたか・・・」


  ヴィヴィオの拳は急に空間ごと凍りついて動かすことが出来なくなっていた。
  それは徐々に両手、両足を覆う。


  行ったことは氷結系であるフリジットの破片を利用した空間凍結。
  氷の破片が宙に無数に舞っているおかげで気温も下がりやすいし凍結速度も速い。
  ブラッディを張ったのは数を作って弾膜を張るためだけでなく、これをカモフラージュするためのブラフ。


  まあリインの氷結技術、それとうちの魔力の二つ揃って初めて出来る事なんやけどな。
  リイン一人じゃ魔力が少ないのでここまで大規模なのを連発するのはきついし、私には精密な技能が無い。
  それ以前にユニゾンしとらんとここまでの処理速度を私たちは出せへんしな。


  ま、何はともかくこれでうちらの仕事は終わりや。
  後は―――


 「さーなのはちゃん! 思いっきりやりや!!」








                    ◇ ◇ ◇








 「さーなのはちゃん! 思いっきりやりや!!」
 「・・・ありがとう、はやてちゃん」


  ヴィヴィオの動きも止まって、私の魔力の収束も完了。
  満身創痍な上でこのAMF下での魔力収束。かなり時間がかかったけど・・・


  後は、私の体が耐えられるかどうか。


 「―――」


  ビットを含めて合計五つの砲門。そこに収束させた魔力。
  まるで小さな星々が集い大きな光を創り出すその様。
  故に、星の光。


  これが私の最後の切り札、スターライトブレイカー。


  収束法は本来、体に大きな負担をかける。それが大きければ大きいほど、その負担も増すのは自明の理。
  それをこんな大きな大威力砲撃、それを五つも・・・


  正直、これは賭けでもある。
  バリアを抜いての魔力ダメージ、それによるヴィヴィオの体内のレリックの破壊。
  それまで、私の体が持つかどうか・・・私とレリックの耐久レース。
  私の体が耐えきれずに、先に力尽きるかもしれない。

  それでも―――


 「ヴィヴィオ―――ちょっとだけ、痛いの我慢できる?」
 「―――うん」


  みんな、みんな頑張ってくれた。
  みんながいたから、こうやって私はここに立っていられる。
  みんながいたから、こうやって私はヴィヴィオを助けることが出来る。

  だから、これを失敗することなんて出来ない。


 『・・・Master』
 「うん・・・大丈夫。やるよ、レイジングハート」
 『All right』


  魔力が臨界点に達する。
  片手でレイジングハートを振りかざして―――



 「スターライト―――!!」



  お願い。
  奇跡という物があるなら、どうか、今だけでいい―――
  あの子を、ヴィヴィオを助ける力を!!



 「ブレイカーー!!!」



  収束した魔力が解放される。
  それは間違いなくヴィヴィオに命中。けど―――



 「あ、あぁ、あああっ―――!!」



  大きすぎる反動に体が悲鳴を上げる。
  腕が震えて、体は衝撃のあまりに弾き飛ばされそう。
  だけどそれをバインドで無理やり抑え込んでいるから行き場を失った物理エネルギーが私を蝕む。



 「うぁ、ぁ・・・!!」



  意識が、遠くなる・・・
  ダメ、まだ、今は、まだ・・・



 「かっ、は・・・・」



  口から温かいナニカが噴き出る。
  一緒に、気力すら持って行かれそうで・・・

  ダメ、レリックはまだ健在・・・もう一押し、あと・・・

  だけど、体は言う事を聞かない。
  徐々に体に力が入らなくなっていって―――






  そこに、温かい手が二つ、添えられた―――






 「え・・・?」


  目を疑う。
  そこにあるのははやてちゃんの手と、もう一つ・・・
  半透明で、揺らいでいて、不確かだけど、確かにそこに・・・

  右を見る。
  はやてちゃんとリインが笑っていた。

  左を見る。
  ケイスケくんが、笑っていた・・・


 『とっとと済まそうぜ、こんなこと』
 「そやな。早いことヴィヴィオを助けて、みんなで帰ろ」
 『みんな揃って、一緒に戻るです』
 「―――」


  はやてちゃんも、リインも、ケイスケくんも・・・
  みんな笑って、手を貸してくれている。


 『Master』
 「―――うん!!」


  そうだ、私は独りじゃ無い。
  傍にみんながいて―――ずっと、支えてくれていた。
  それは、絆という名の繋がり―――

  だから私は、戦う事が出来るんだ。
  帰るべき場所があるから。みんなが笑っていてくれるから、私は―――


 「―――いくよ」


  ある筈の無い活力が体の奥から湧き上がってくる。

  これなら、絶対に届く。

  みんなの想いが、力が、私に力を貸してくれている。
  絆っていう繋がりが、独りじゃ無い事を教えてくれる。

  傍にはやてちゃんやリイン、ケイスケくんだけじゃ無い。

  フェイトちゃん、スバルやティアナ、エリオとキャロ、ヴィータちゃんにシグナムさん、ザフィーラさんにシャマルさん。
  ルキノ、アルト、シャーリー、グリフィスくん、ヴァイスくん。

  みんなみんな、こんな私に手を添えて、力を貸してくれていた―――


 『ブレイク―――!!』


  だから、届かせるんじゃない。
  これは絶対に届くんだ。

  みんな、ありがとう。

  私はもう、迷わない―――!!
  みんなの想いを、力を、全部をこの一撃に乗せて―――!!


 『シューーーーーーーート!!!!』


  瞬間、膨大な魔力が全てを呑み込んだ―――








  Next「拝啓:貴方に捧ぐ」








  後書き

  バトル終わったー!!

  やー、なのはのキャラ暴走が止まらない止まらない・・・おかげで予想外すぎる長さにww

  次は脱出イベント・・・まーほとんど原作どおりですが。その後にちょっとした小話も入ってやっと終わり・・・

  さーあと一息、頑張るぞー

  あ、その前にテスト・・・・・・orz



  >『立て。立って戦え、フェイト・T・ハラウオン! あんたにしか出来ない事があるだろう!!』
   …「ハラウオン」って誰やねん!!


  シット!? まさかキャラの名前を間違えるとは!?

  気を付けます・・・ありがとーございましたー



  >ケイスケがいる機動六課がデフォになりつつあるワタシ。

   IFは・・・・すんません合わない。やっぱりコントがないと!!!!


  まーそうでしょうねw

  やはり本物は鬼丸さんが書いていらっしゃるあちらなわけですし・・・肌に合わないのはむしろ当然かと。

  それでも、この作品を読んでくださった広い懐に感謝します。



  >IFルートと本編の続き、両方とも待ってます!


  ハイ、続きをお送りいたしますw

  こっちもあと一話で終わりなのでその後に本編を再開したいと思いまーす。

  読んでくれてありがとうございます。








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