「現場指揮、誰かうちと代わって! うちもゆりかごの内部に行く!!」
状況ははっきり言ってマズイ。
なのはちゃん、ヴィータとはまともに通信が繋がらんし・・・このまま外でじっとしとる事なんてできひん。
せやから・・・
『八神部隊長!』
「っ、何や!」
今急いでるから手っ取り早く・・・
『突入、もう少しだけ待ってください! 大切なお届け者を運んでますから!!』
ケイスケの機動六課の日々
IFルート turn3 「絆の光[前編]」
「うおおおおおおおお!!」
ギア・エクセリオン。
自己のリミッターを無視したブーストシステム。
上手く使えば絶大な効果を得られるけど、一つ間違えれば自滅を導く諸刃の剣。
だけど、大丈夫。
今の私なら、私とマッハキャリバーなら大丈夫。
絶対に使いこなせるし、今のギン姉に勝てる!!
左の拳が迫る。
けど・・・見える!!
それにカウンターを打つ様な形で右の拳を繰り出す。
ギン姉はそれに対応しきれずに・・・当たった!!
いける・・・これなら、戦える!!
「はあああああ!!」
「―――!!」
拳と拳が交錯する。
拳、足、肘、膝、サブミッション、どれを仕掛けてもまだ対処される。
だけど対処するだけで手一杯なのが見て取れる。
このまま攻め続ければ―――っ、右!!
身を捻って回避。
そのまま宙返りをして距離をとる。
やっぱり・・・ギン姉は強い。
ちょっとでも気を抜けば、この状態でもやられる・・・
だったら、一撃でケリを着ける!!
「マッハキャリバー!!」
『Load cartridge』
魔力が充填される。
これは、私の憧れの人の魔法。
私に夢を見せてくれた、最初の光―――
「うおおおおおおおおお!!」
「―――!!」
私は右、ギン姉はあの左。
正面からのぶつかり合い。真っ向からの力勝負。
今の状態なら力は互角。
互いの障壁が拳の重さに耐えきれずに悲鳴を上げる。
「一撃―――!」
私の想いを受けてマッハキャリバーが加速する。
負けて―――たまるか!!
「必倒ォ!!」
私の障壁がギン姉の手刀で砕かれていく。
私の拳がギン姉の障壁を砕こうともがく。
「うおおおおおおお!!」
もっと、もっとだ―――
これじゃ足りない。もっと速く、もっと強く―――!
「おおおおおおおおお!!」
もっと、先へ―――!!
拳を握る。
障壁が砕かれて、ギン姉の左が迫る。
見据える。
当たるか当たらないかの刹那、拳の動きがはっきりと見える。
私の右がギン姉の障壁を砕く。
勝てる、そう確信する。
体は全てギン姉を打倒することに動員される。
身を捻って―――防御に構えられている右を弾く!
そのまま拳を打ち込む形で左の魔力を―――!!
「―――っ!」
魔力が一気に膨れ上がる。
この零距離で、この体勢で、避けることは不可能。
私の―――
「ディバイイィィイン―――!!」
勝ちだ!!
「バスタァァアアアアァァァアアア!!!」
瞬間、蒼い光がギン姉を呑み込んだ―――
◇ ◇ ◇
―――見つかった。
幻術でのフェイクを他に何体か配置してたけど・・・全部破棄ね。
クロスミラージュを幻術のサポートから外し、全ての幻術を破棄する。
これで・・・私に逃げ場は無くなった。
(状況確認・・・相手は戦闘機人が三機。接近型が二機と遠、中距離型が一機。
コンビネーションは抜群。捕まるとひとたまりも無いわね)
相当訓練を積んだのか、あいつらの連携はかなりの物だ。
実力者が相手をしても結構危ないだろう。
(私の状態は・・・右足に裂傷が一つ。他に全身に打撲多数。
使えるものは・・・射撃と幻術、それとこの頭くらい)
まったく、何なんだろうかこの絶望的な状況は。
こんな状況、どうやったって私じゃあ切り抜けられっこない。
・・・いや、さっきまでの私ならそうだったかもしれない。けど・・・
(負ける訳には、いかないのよ・・・)
負けられない理由がある。
帰る場所があって、待っている人たちや仲間がいて、言わなきゃいけない言葉がある。
だから―――
「いけるわね、クロスミラージュ」
『All right』
右手のクロスミラージュをモード2に。
空中にスフィアを3個生成。
ちょうど、あいつらもやって来た。
後ろに射撃の赤毛と栗毛、前に接近の赤毛。
完全に取り囲まれた。
(来たわね・・・)
さあ、気合いを入れろティアナ・ランスター。
ここが、あんたの一世一代の大勝負!
「―――」
タイミングは一瞬。
これを外せば先は無い。あるのは死という名の終わりだけ。
・・・こんなのでビビっててどうすんのよ。
誰かに勝つならまずは自分に打ち勝ってから。
それすら出来ない様じゃ、私はここで終るだけ。
だからといって、終わるつもりも無いけどね・・・
見極めろ、幻術を通して散々見て来たあの連携を。
隙はある。それを突くだけ。何を恐れる。
呼吸が鎮まる。
止まっているとも思えるこの緊迫した空間。
息が止まる、肺が酸素を求める、止める、一瞬の時が永遠に感じられる・・・その刹那、
「はあ!」
「―――っ!!」
動いた―――今!!
「そこっ!!」
左のクロスミラージュを射撃の赤毛に構える。
向こうが撃ち出そうとしている弾丸を―――撃つ!!
「なっ!?」
衝突による暴発。それによる爆発。
視界は爆煙に覆われ、射撃の赤毛は巻き込まれて接近の赤毛の方は視界を奪われたはず。
同時に待機させていたスフィアを一発放って・・・上の栗毛!!
剣が迫る―――
あんたの動きは散々見た。それにあの時実際に剣を見た。
今なら―――!
「はっ!!」
「―――くぅっ!!」
右の剣を右のダガーで受け止めて・・・そのまま降ってくる左を身を捻って回避。
そのまま栗毛を軸に体を回転させて、後ろを取った!!
左のクロスミラージュを後頭部に突き付ける。
「なっ・・・」
「さっきのお返し。利子付けて返してあげるから感謝しなさい」
容赦なく引き金を引く。
零距離で放ったスフィアを含めての三発の魔力弾は間違いなく命中して栗毛の意識を奪った。
同時に、先ほど放っておいた一発が兆弾して起き上がろうとした射撃の赤毛の後頭部に命中。
意識を奪うことに成功したのか、倒れこんだ。
爆煙が晴れた頃に立っていたのは・・・私と、残った赤毛だけ。
クロスミラージュを構える。
「嘘だろ・・・」
「あなた達を・・・確保します」
◇ ◇ ◇
「ぐぅっ―――!!」
「―――ッ!!」
攻撃が弾かれる。
やっぱり、ガリューは強い・・・さっきからずっと攻めているのに全く隙を見せない。
キャロの方を見る。
大きな竜・・・あれが、話に聞いていたヴォルテール。
それがルーの召喚獣と戦っている。
ゆりかごもどんどん上昇してスバルさんたちとも連絡不能。
これ以上、時間は無い・・・
「―――ッ―――!!」
「くっ!」
ガリューの斬撃を上に跳んで回避する。
今までの攻撃は通じなかった。これ以上やっても、あまり効果は期待できないだろう。
だから、残された最後の一手・・・これが通じなければ、僕はもうガリューには勝てないだろう。
だけど―――やるんだ!!
「終わりにしよう、ガリュー!!」
「ッ!!」
カートリッジをロードする。
ブースターが作動。これで加速して―――!!
「はああああああ!!」
「―――ッッ!!」
僕のストラーダとガリューの爪が正面からぶつかり合い、衝撃で廃ビルが揺れる。
落下による加速、ブーストによる加速、それでもまだガリューは崩れない。
おそらくはルーを守る、その一心だけで。
だけど―――僕にだって、負けられない理由がある!!
「サンダー―――!!」
電撃が迸る。
一気に臨界まで膨れ上がったソレで―――!!
「レイジ!!」
「―――ッ!!」
全力での雷撃がガリューの体勢を崩す。
だけど、同時に足場も衝撃に耐えきれずに崩れ落ちた。
僕もガリューも突然の崩落に対応できずに落下する。
まだだ―――まだガリューはこっちに来る。
この一瞬だけガリューは体勢を崩して無防備だ。
だけどこの一瞬を逃せばまたすぐに向かってくる。
だから、これで決める!!
カートリッジを再びロードする。
ストラーダからブーストがかかり、今度はまるで独楽のように回転する。
前に何度か見たヴィータ副隊長の技、ラケーテンハンマー。
そしてこれは―――
「うおおおおおおおお!!」
ストラーダに雷撃が迸る。
そのまま加速して―――!!
「―――ッッ!!」
ガリューが体を動かそうともがく。
だけど、電撃でスタンした体は一瞬だけ僕に時間をくれた。
「これで、終わりだ!!」
全部だ。
速さだけじゃない。力でもない。想いでも、気持でも・・・
全部だ。僕としての全てをこの一撃に乗せて―――!!
「紫電―――!!」
ガリューを、倒す!!
「一閃っ!!」
◇ ◇ ◇
「地雷王――!!」
ルーちゃんの叫びに応じて地雷王の角に雷球が生み出される。
いけいない―――!!
「フリード! ブラスト・レイ!!」
私の魔力を受けてフリードが火球を生み出す。
出力は五分五分くらい・・・だけど!
「うああああああああ!!」
「ファイア!!」
雷撃と火炎が放たれて私たちの中央で衝突する。
威力はやっぱりほぼ互角。
けどルーちゃんに数がある分だけ、私たちの方が不利かもしれない。
それでも―――勝ってみせる。
それが護ることに繋がるなら。
それが明日に進むために必要なら。
ルーちゃんを助けたい。だから、勝ってみせる!!
「ルーちゃん!!」
「・・・!!」
ルーちゃんが更に魔力を上乗せする。
それで地雷王の砲撃が更に威力を増して―――
「フリード!!」
私の無茶な要望にも応えてくれる大切な私の竜。
いつも無理をさせてごめんね・・・もうちょっとだけ、頑張ろう!!
「キュリケイオン、ブーストアップ!!」
『Boost up』
フリードの砲撃を一気に加速させる。
威力が増した砲撃が地雷王の砲撃の威力を上回った。
これで―――!!
「いっけええええええ!!」
「うああああああああ!!」
互いの砲撃のエネルギーが行き場を失い渦を巻き、そして―――
◇ ◇ ◇
―――何故だろう、体がとても軽い。
これまでにソニックフォームは何度も使ってきた。
けれど、ここまで体を軽いと感じたのは初めてだ。
まるで羽のように軽い。
どこまでも飛んで行けそうな、そんな錯覚―――
「装甲が薄い―――当たれば墜ちる!」
確かに、防御を捨てたこのソニックフォームはたった一撃でも致命的だ。
だけどそれ以上に、それを補って余りあるほどの速さを得られる。
―――スカリエッティの指が動いた。
同時に、足元が爆発。
遅い―――
一歩を踏みこんで七番の懐に飛び込む。
「なっ!?」
気づかれるけど―――遅すぎる!
バルディッシュを振りかざして、武器めがけて一閃!!
確かな手応えと共に七番の武器がバラバラに切り裂かれる。
「スローターアームズが・・・!」
「はあ!!」
そのまま右のライオットで打ち上げて跳び上がる。
飛び上り様に回転をつけて、そのまま回し蹴り!!
「ぐっ!」
「せい!!」
ギリギリの所で防御されるけど、そこに左のライオットを叩き込む。
防御が崩れた所で、もう一度一閃!!
「うああっ!」
七番が墜ちた。
すぐに三番が突撃してくる。
「ライド・インパルス!!」
「―――!!」
高速で三番が接近してくる。
速い―――けど、今の私には動きがよく見える。
私も、三番に向かっていく。
「舐めるなあ!」
別に舐めてなんかいない。
ただ出来ると感じたから・・・
動きをみる。
右を使っての斬撃。
狙いは、動きからして首。
「・・・・・・」
動きが、やけにはっきりと見える。
だから相手の動きを読んで―――右のライオットで流すようにして攻撃を捌く。
そのまま体を回して、左のライオットで打ち付ける!
「がっ・・・!」
怯んだ隙に追撃を―――っ、!
周りに大量のスフィア!?
赤い光からして、スカリエッティ!!
「これなら・・・どうかね?」
「くっ!」
拳が握られ、同時に周りのスフィアが私をめがけて一斉に飛んでくる。
更には周りからあの赤いワイヤーまでもが飛んできた。
神経を研ぎ澄ませろ。
自分を信じろ。今の私なら・・・
「こんなモノで・・・止められない!!」
『Sonic move』
バルディッシュが加速魔法を発動させる。
同時にただでさえ速かったスピードが更に上がったことで、体にも大きな負担がかかる。
だけど、それがどうした―――!!
「はああああああああ!!」
360°全方位、近場にあるスフィアから、ワイヤーから、全てを片っ端から例外なく両断していく。
「ほお・・・」
際限無く襲いかかってくるスフィアとワイヤー。
それに紛れて三番が襲い掛かってくる。
「はあ!!」
「このっ!!」
攻撃を受け止める。
そのまま反撃に出ようとして―――スカリエッティに阻まれた。
このままじゃ翻弄され続けるだけだ。
確実に倒すためにも・・・一撃で決着をつける!!
「バルデッシュ!!」
『Riot Zanber』
ライオットザンバー。バルデッシュの中で最大の攻撃力を誇る形態。
ザンバーを超える魔力密度を持ったライオットでの大質量斬撃。
これで、終わらせる―――!!
「はあああああ!!」
「―――っ!!」
見据える。
相手の攻撃に合わせて、そのまま―――振り抜く!!
「はあっ!!」
「ぐっ!!」
振り抜いた斬撃が三番の手に持つブレードによって止められる。
そのまま自分から跳ね上がって、縦に一回転。
その勢いもつけて、振り下ろす!!
「はああ!!」
「おおお!!」
三番が真正面から立ち向かってくる。
けれど、そんなものは障害にならない!
「ぐ、っ、ああああああ!!」
ブレードを砕かれた三番がまともに斬撃を受けて地面に叩きつけられる。
そのままスカリエッティの方へ―――!!
「おおおおおおおおおお!!」
もう一度、振り下ろす。
両腕を使ってそれは止められたけど、デバイスが明らかに損傷していっている。
これなら・・・!!
「ああ、素晴らしい・・・この力、欲しかったなあ!!」
「っ―――!」
こいつは―――!
「―――君に一つ呪いを残そう、フェイト・テスタロッサ」
「呪い、だと・・・」
「そう、君はいつか身を滅ぼすだろう。君自身の想い故に・・・」
・・・・・・
「だとしても、私は進む」
「ああそうだとも。だからこの呪いを残すんだ。救う事で満足する君のその感性―――それ故に君はいつか滅ぶだろうとね!!」
それでも、構わない。
たとえ私が死ぬことになったとしても、それが私の罪の購いになるなら受け入れよう。
たとえ偽善者と呷られようとも、私はこの道を進もう。
そうするだけの理由がある。そうするだけの想いがある。
だから、今は―――!!
一旦、スカリエッティと距離を取る。
そのまま一直線に加速して―――!!
「はあ!!」
バルデッシュの刀身で思いっきり打ちつけた。
叩き飛ばされ、壁に激突するスカリエッティ。
気味の悪い笑みを浮かべながらも、抵抗の様子は無かった・・・
ダクト部分から魔力の残滓が排出される。
・・・スカリエッティに、一歩踏み寄る。
「広域次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティ。あなたを―――逮捕します」
私の長い戦いも、終わりを告げた・・・
◇ ◇ ◇
「レジアス、俺たちの正義は・・・いつからこんな形になってしまったんだ」
「ゼスト、ワシは・・・」
・・・あー、なんか見ててやんなってくる。
世界的絶対正義なんてそんなものどこにもある訳無いっつーの。
生きている奴の分だけ正義があって悪がある。だからこそ世界っていうのは成り立ってるっつーのにこのボンクラ共は・・・
せっかくだし横槍入れちゃえ。
「あーはいはい、青臭い話なら他所でやってよね」
「な、貴様!!」
レジアス中将が激高してるけど知ったこっちゃ無いわね。
もーいい加減飽き飽きしてた所だし、潮時でしょ。
IS、を解除して本来の姿に戻る。
「お前は・・・スカリエッティの・・・」
「お久しぶりです、協力者ゼスト」
最後に会ったのはいつだったかしらねー?
もうずいぶんと前になると思うけど・・・
「さて、ここに貴方の敵がいるわけですが・・・どうします? サクッと殺っちゃいます?」
「なっ・・・」
レジアs・・・おっさんが絶句してるけど無視無視。
私としてもこんな空気はゴメンなのよね。
「俺はただ、レジアスと話をしに来ただけだ。お前たちに手を出されるいわれは無い」
「あっそう、残念・・・」
じゃもー私がサクッと・・・
「旦那!!」
ん?
◇ ◇ ◇
「これは・・・」
騎士ゼストを追って地上本部まで来たのは良いものの、この状況は・・・
対面している騎士ゼストにレジアス中将。そして横に控えているオーリス三佐に窓際にいるのは・・・戦闘機人か。
「あら、あなたは確かあの子のいた所の・・・確かシグナム副隊長だったかしら。あの子がお世話になっていたようね」
「?」
私の事を知っていても別段おかしくはないが・・・あの子?
「待て、あの子とは誰のことだ」
「ケイスケ・マツダ二等陸士よ。結構な悪ガキでしょー?」
「なっ・・・」
こいつ、マツダと繋がりがあったのか!?
まさかマツダが・・・いや、ならば何故殺された。しかしスカリエッティなら・・・
「ああ、あの子とは昔に世話と訓練をつけた事があったくらいよ。今回の事とは無関係ね」
「・・・・・・」
あいつを疑うことはしたくは無いが、はたして信じていいものか・・・
「一つ質問、あの子は今どうしているの?」
「・・・知らないのか?」
戦闘機人なら情報が回っていてもおかしくは無い。
奴らの仲間では無い? いや、それならばこのタイミングで姿を現した意味が無い。
「答えて」
「・・・奴は、死んだ」
「・・・・・・そう」
一瞬だけ、表情が沈んだように見えた。
「はー、死んじゃったのか・・・何やってんだか、あの子は」
「お前は・・・」
やれやれという風に頭を振っているが、どこか寂しげにも見えないことも無い。
まあ、あの手合いは自覚して無いとは思うのだが・・・
「・・・最後はどうだったかっていうのは、知ってる?」
「ヴィヴィオ、という少女を逃がすために傷ついた体で戦闘機人と戦闘。結果的に心肺停止に追い込まれたそうだ」
「あの子がそんな玉かしらねー・・・まあ、あの子らしい最後みたいね」
この人物は・・・私たちなどよりもよっぽどマツダの事を知っている風に見える。
こんな状況でも無ければ、もう少し話をしてみたいが・・・
「とにかく、同行を願おうか」
「あら、どうしてかしら」
「お前もスカリエッティの仲間なのだろう。ならば重要な参考人として同行を願いたい」
「連いていく義理は無いわね」
右手の爪が構えられる。
戦る気か・・・
「スカリエッティは先ほど私の仲間が逮捕した。他の戦闘機人も同様に確保されている。もはや戦っても・・・」
「・・・あれ、ドクター捕まっちゃったんだ」
一気に気の抜けたキョトンとした顔になった・・・
「まーったく、姉妹のみんなも何やってんのかしら、ね・・・あーあ、なんか萎えたわ」
「は・・・?」
「じゃね」
言うが早いかいきなり窓を破壊し飛び降りた。
っ、破片が―――!?
「くっ!」
「レジアス!!」
騎士ゼストと私で障壁を作って砕けた窓の破片から中将たちの身を守る。
奴は―――!!
急いで窓に駆け寄って下を見るが、もはやあの戦闘機人の姿はどこにも見あたらなかった・・・
◇ ◇ ◇
「はあ、はあ、はあ・・・」
「ぅ・・・ぁ・・・」
痛みで目が覚める。
周りは瓦礫だらけで、その中に私は埋もれていた。
目の前には、涙を流すヴィヴィオ・・・
―――また、気絶してたのか・・・・・
「は、ぁ・・・うああああああああ!!」
「っ―――!!」
魔力弾が飛んできて、命中。
まともにそれを受けた私は宙高くに放り出される。
そのまま自由落下して・・・地面に激突。
衝撃で、胃の中の物を吐き出しそうになる。
いや、そんな物ももう無いか・・・あるとしたら、それは血とか内臓とかだろう。
「貴方が・・・貴方なんかがいたから!!」
「・・・・・・」
ヴィヴィオにはさっきからずっと非難の言葉を受けている。
ずっとずっと、呪いの言葉を投げかけて・・・
あれから、どれくらいの時間が経ったんだろう。
散々投げ飛ばされて、殴られて、蹴られて、吹き飛ばされて・・・
体中は傷だらけ。所々から血が流れ出てる。
指一本動かせない・・・いや、動かす気力ももう無い。
「返して・・・パパとママを、返してよ!!」
ヴィヴィオの憎しみが私のせいなら・・・いっそこのまま、消えてしまった方が良いのかもしれない。
そうした方が、ヴィヴィオのためになる・・・
ヴィヴィオを、ケイスケくんを、みんなを、何も守れない私・・・
ずっと独りで、みんなを巻き込んで、不幸にして・・・私が、生きている意味なんて・・・
「うあああああああ!!」
ヴィヴィオの拳が迫る。
とてもスローモーションに見えて・・・一瞬、色んな光景を見た。
子供の頃、家族のみんなと距離を置いていて独りだった私。
学校で喧嘩して、初めてできた友達。
魔法と出会って、色んな人と出会って・・・いろんな想いをして、また友達ができて。
それから夢のために局に入って、十年たった今は、はやてちゃんの夢のお手伝い。
そこで再開した人、初めて出会った人。
みんなと、ケイスケくんと、変わらない日常・・・
それを奪ってしまったのは私で、ちゃんと、私が・・・・・・
私は結局、何がしたかったんだろう・・・
ねえ、誰か、教えて・・・
『甘えてんじゃねーよ、情けねえ』
『・・・?』
何・・・?
上半身を起こして、ぼやけた視界であたりを見回す。
さっきまでいた場所―――玉座の間とは全く違う・・・真っ白な空間。
ここは、どこ・・・?
もしかすると、死後の世界だったり・・・
『ちげーよバカ』
『ぁ・・・』
懐かしい、声が聞こえた。
もう聞くことが無い筈の、あの声が・・・
少し顔を上げると、目の前に彼はいた。
『ケイスケくん・・・』
『なんて顔してんだよ隊長』
どうしてケイスケくんが・・・いや、そんなことどうでもいいか。
ケイスケくんの顔は呆れていて・・・
そうだよね。今の私、すごく情けない・・・
『何で戦わねえんだ』
『・・・ねえ、戦って何になるのかな』
『はあ?』
戦って・・・ヴィヴィオと戦って、何になるんだろう。
私はケイスケくんを見捨ててしまって・・・ヴィヴィオから、パパを奪って、みんなのいつもを奪ってしまって・・・
戦って、戦って、戦って・・・たとえ勝ったとしても、その後は?
ヴィヴィオは私を憎んでいる・・・
それなら、私が助けたとしてもヴィヴィオはそれすら憎むだろう。
ケイスケくんを殺した私の全てを・・・
みんなからは、毎日の象徴でもあったケイスケくんを奪ってしまった。
そうやって、またみんなを不幸にして・・・
私が帰ったとしても、みんなが不幸になるだけ・・・
ねえ、私って・・・なんなのかな。
『そんなもん俺に分かるわけねえだろ。自分で考えろ』
『分からないから聞いているんだよ・・・私は、私が分からなくなったの』
この手の魔法は、何のために・・・
みんなを救うため、助けるため、伝えるため・・・ずっと、そう思ってきた。
だけど、それを全部否定された。
私の想いは全部嘘で、本当は独りになりたくなかっただけで・・・
なら、私の今までしてきたことは?
嘘の気持ちでやってきたこれまでは・・・一体なに?
分からないよ・・・
『分からなくていいじゃねえか。何で分からないといけないんだ?』
『え・・・?』
『分からないからって、何かをしちゃいけないのか? 理由が無いから人を助けちゃいけないのか?』
私は・・・今までずっと、周りの人たちを不幸にしてきたんだ。
これからもきっと、不幸をまき散らす。
だから、私にそんな権利は・・・無いんだよ。
今の私に、人を救う権利も、生きている意味も・・・
『っの、権利も意味も関係ねえ!』
『っ、』
『もーいい! そこまで卑屈になるんなら俺が勝手に決めてやる!!』
勝手にって・・・
『いいか隊長! あんたが生きる意味が無いってんなら俺が生きる意味をくれてやる!!』
『・・・・』
『ヴィヴィオを助けろ! 絶対にだ!!』
でも、私は・・・
今のヴィヴィオには必要とされていない。
だったら―――
『けど、今の私には・・・』
『くどい!!』
いきなり胸ぐらを掴み上げられて顔が同じ高さに来る。
これだけ近いと嫌でも相手の顔を見てしまう。
そうして、間近で見たケイスケくんの顔は―――怒っているみたいで、泣いているみたいで・・・
『・・・』
『いいか、所詮俺たちはみんな他人なんだ! だから考えることも違うし思っていることも、生き方だって違ってくるさ!!』
そう、他人なんだ。
私とヴィヴィオだって、最初っから・・・
『じゃあフェイト隊長は!? 部隊長は!? 血の繋がりも何も無い、あいつらは家族じゃ無いってのかよ!!』
『ぁ・・・』
『みんな誰だって最初は独りぼっちさ! それが嫌で友達作って何が悪い!!
俺たちは所詮独りじゃ生きていけないんだよ! だから周りの人間を巻き込む! そんなもん、生きている以上当たり前の事だ!!』
確かに、そうかもしれない・・・・・・・・・そうかもしれない、けど。
だからって、あなたに私が分かる訳じゃないのに―――!
『・・・あなたに、何が分かるの!』
叫んでいる自分でも悲痛と思うような声で言い返す。
独りの寂しさ、独りになる怖さ、みんなから奪ってしまう恐怖―――
死んでしまったあなたに、分かる訳が無いのに!!
『ああ分んねえよ! 分からなくて当然だろ! 俺とあんたは同一人物じゃねえんだ!』
『だったら―――!!』
『けどな、だから知ってるんだよ!! あんたの気持が嘘じゃないって事を!!』
・・・え?
『嘘じゃ、ない・・・?』
『そうだよ・・・あんたのその気持ちは嘘じゃねえ。それはみんな知ってる』
だけど、私は独りになりたくないから・・・
だから魔法を手にとって、今までを―――
『それにな・・・もし本当にあんたの気持が嘘でも、それで今までやってきたことは全部消えちまうのか?
全部意味の無かった事になっちまうのか?』
『え・・・?』
急にケイスケくんの手から力が抜けてストンと私の体が落ちる。
けど、だって、こんな嘘の気持ちじゃあ・・・
『たとえ嘘だったとしてもな、あんたのやってきた事は立派だよ。俺も、周りのみんなだって認めてる』
『・・・だけど』
『認められてるんだ、それでいいじゃねえか。もしも誰かが文句言ってくんなら―――俺が、絶対に黙らせてやる』
・・・そうなの?
私のしてきたことは、本当に―――
『嘘だからって、やった事や結果が消えるわけじゃねえんだ。
現に、あんたに救われたスバルは・・・今をちゃんと、前を向いて生きている』
『ぁ・・・』
『な? 嘘だろうが何だろうが、あんたがやりたいと思ったことに変わりは無いんだ。
スバルたちはそんな嘘で進めるようなやつらか? 違うだろ?』
ケイスケ、くん・・・
『いいか、俺の知ってるあんたは仕事の虫だし、青春どっか捨ててるし、しっかりしてそうでどっか抜けてて、案外物知らずな人だよ。
けどな、そんだけ真っ直ぐなんだ。優しいんだ。それだけは本当なんだ』
『本当・・・』
本当、なの・・・?
私は、私のやってきた事は、本当に・・・?
『それにヴィヴィオだってあの眼鏡猿改めキツネ猿、いや寄生虫女に操られてるだけじゃねーかよ。
あんたを否定したくてしてんじゃねえからあいつをブッ飛ばして取り返せよ』
『でも、今のヴィヴィオの気持ちは・・・』
操られているといっても、たぶん、ホントの物で・・・
だから私は、戦えない・・・
『阿保か』
『イタッ!?』
デ、デコピン・・・
おでこがヒリヒリする・・・
『ガキが気の迷い起してるだけだろ。お得意の“頭冷やそうか”でもかませば一発じゃねえの?』
『なっ、あのねえ・・・!』
そんな単純な問題じゃあ・・・
『じゃあ、あんたが本当にしたいことって―――望みってなんだ』
『え?』
私の、本当にしたいこと・・・望み、は・・・
・・・そう、みんなが、笑っている場所。
そうだ。みんな笑って、ケイスケくんとかがバカやって、それにティアナやはやてちゃんが突っ込みを入れて。
それでその横でヴィヴィオがパパって呼んで、ケイスケくんが怒って、それを見てみんなが笑って・・・
『欲しい物があるなら、力づくで奪い取れ。待っていたらいつまでも掴めない。欲しいなら自分から動け。
少なくともあんたは、いつもそうして来たんじゃねえのかよ』
『自分から・・・』
・・・確かに、昔はそうだったかもしれない。
だけど今と昔は違う。あの頃の私と今の私は、ずいぶんと変わってしまった・・・
できるのかな、今の私に―――
『今まで頑張ってきたんだ。たまには自分に素直になってわがままくらい言ってもいいだろ』
『わがまま、か・・・』
今までそんな事をした覚えは・・・ああ、あったっけ。
けど、今のわがままに比べればそれも・・・
『今はそのわがままのために戦え。それが、俺からあんたへの生きる理由だ』
『・・・ずるいよ。自分は死んじゃってるのに、好き勝手言っちゃってさ』
『そそ、俺は幽霊だから。もー何言おーが関係ねーもん』
ほんとに、勝手・・・
でも―――
『高町なのはは誰かを助けたくて、救いたくて魔法を手にしたんだろうが。
だったら、その矜持を最後まで押し通せよ』
『・・・うん』
正直、まだ迷いはあるけど・・・
『頼むぜ。今の俺には、何も出来ない・・・死んでしまった以上、何も・・・』
何も出来ない。
悔しそうに、ケイスケくんはそう言った。
けどね、ケイスケくん。
何も出来ないなんて、そんなこと無いよ―――
『ううん、そんなこと無いよ。ケイスケくんは私に・・・頑張る勇気を、くれたから』
そう、もう少しだけ頑張ってみよう。
こんな私のために、ここまで言ってくれた・・・彼のためにも。
『・・・そっか』
『うん、そうだよ・・・』
ちゃんと、笑って言えたかな?
勇気をくれたお礼、としてはおこがましいけど・・・せめて、笑ってあげたかったから。
『・・・じゃあ俺は次行くわ。潰されんなよ、隊長』
『・・・うん』
そう言って、ケイスケくんはすっと消えていった。
彼にはああ言ったけど、私は弱いから・・・
私はまた、潰されるかもしれない。
だけど私は―――
『――――――』
ああそうだ。
何のために戦うか、そんなこと今更だった。
だから、まだ―――
「っ、レイジングハート!!」
『Protection』
ヴィヴィオの攻撃を寸でのところで受け止める。
だけど傷ついた体は衝撃に耐えきれず、弾き飛ばされた。
「うあっ!」
『あ〜ら、今になって死ぬのが怖くなったんですかー?』
「どうとでも・・・言って・・・!」
今は、折れてられないと思ったから。
今は、戦うべきだと思ったから。
勇気をくれた人がいて、その人の想いに応えてあげたいと思ったから。
何よりも、私が私である、その答えを見つけるために・・・・・・
◇ ◇ ◇
「く・・・そ・・・」
かてえ・・・
あたしとアイゼンの切り札、ツィアシュテールングス・・・
これでも、砕けねえなんて・・・
「くそ・・・ったれ・・・!」
なに弱気になってんだよ・・・こんなとこでへばってちゃああいつらに示しがつかねえだろうが。
また、護れねえじゃねえか―――!!
「っ、ぁぁああああああああああああ!!」
アイゼンを振り上げる。
また、また護れなかったんだ・・・
もうあんな思いをするのが嫌で、あんな光景を見るのが嫌で・・・必死になって護ろうとして、また護れなかったんだ―――!!
「アイゼン!!」
『Jawohl!!』
今度こそ―――ブッ潰す!!
「ツィアシュテールングス―――ハンマァァアアアアアアアア!!!」
破壊の鉄槌が駆動炉を砕かんと振り下ろされる。
だけど・・・
「ぐ・・・がぁ・・・!!」
砕けない。
ダメなのかよ・・・
あたしは守れねえのか? 何一つ、大切なモノは、全部・・・
「ふざ、けんな・・・!!」
ふざけんな・・・そんなこと・・・!
「認めて、たまるかよ・・・!!」
あたしは、護るって決めたんだ!!
騎士の名に誓って、あんなことを繰り返さないためにも・・・だから―――!!
「これ以上壊されてたまるかよ・・・また、また護れなかったんだ・・・これ以上は・・・
あたしが、あたしを!! 許せねえんだあああああああああああああ!!!」
手が震えて、腕が軋んで、骨が悲鳴を上げて・・・それでも!!
「ぶち抜けえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
瞬間、爆発―――
衝撃で弾き飛ばされる。
駆動炉は―――!?
「ぁ・・・・・・」
傷一つ、無い・・・・・・
そんな・・・あたしは・・・
アイゼンが砕けて、視界が傾く。
ダメだ、倒れたら、ここで・・・
それでも、体は言うことを聞かない。
力を失った体は、落下していく・・・
「はやて、みんな・・・ごめん」
「なに言うてんの。謝る必要なんて・・・何もあらへん」
・・・?
暖かい・・・それに、この声・・・
「はや、て・・・リインも・・・」
「鉄槌の騎士ヴィータと、鉄の伯爵グラーフアイゼン・・・二人がこんなになるまで頑張って」
駆動炉にはやてが目を向けた。
あたしも、それに習う。
・・・あれは、ツィアシュテールングスの・・・?
駆動炉に、先端だけ突き刺さってて・・・そこから全体に、罅が・・・
「砕けへん物なんて・・・この世のどこにも、あるわけないやんか―――!」
そうだ―――
あたしは鉄槌の騎士ヴィータ。
その相棒、グラーフアイゼンと力を合わせりゃ砕けねえ物なんて・・・ねえんだよな―――
そうして次の瞬間、駆動炉は完全に砕け散り大爆発を起こした―――
Next「絆の光[後編]」
後書き
オーワーラーナーイー
この旅は終わることの無い永久の・・・ってこれなんてBAD?
あー、終わらない現実に少々ぶっ壊れたツルギですw
次々と決着がついていく中、いよいよゆりかご戦もクライマックス。
次回、なのはのターン+αではやても少しw
ああ、なんとかあと二本程度で纏めたいなあ・・・