生とは何だ
  死とは何だ
  殺すというのは何だ
  生きるというのは何だ
  生と死、罪と罰


  悲しみは人を否応無しに脆くする。
  その重さに耐えきれずに砕け散るか、それともそれに耐え先を見るのか。
  未来は、何者にも分からない―――








  ケイスケの機動六課の日々
           IFルート turn2 「想いを伝えて[後篇]」








 「ケイスケ、くん・・・?」
 「・・・・・・」


  なん、で・・・
  ケイスケくんは死んでしまって、遺体は病院に・・・
  あ、非常警報が発令しているから別の所に運ばれたのかな・・・? いや、違う、そうじゃなくて・・・


  思考が酷く混乱する。
  目の前にいるのは死んだ筈の人で、そこにはさっきまで別の人がいて・・・
  けど目の前にいる人物は確かにケイスケくんで。
  目付きも、体格も、身長も・・・全部。


 『気に入ってもらえましたかー? 貴方が強情だからご本人に出てきてもらいましたー』
 「ぁ・・・・・・」


  これは・・・何?
  悪い夢なら、覚めてほしい・・・けど、目の前の出来事は確かに現実で・・・


 「・・・隊長」
 「っ!!」


  声まで・・・同じ。
  気味が悪いくらいなまでにそっくりなこれは・・・


 「なあ隊長。なんで・・・俺を見捨てた?」
 「え・・・?」


  見捨てた・・・私、が・・・?
  ケイスケくんを・・・見捨てた?


 「っ、違う! 私はケイスケくんを見捨てたりなんか―――!!」
 「じゃあなんで本部の防衛を優先したんだ? ガジェットくらいなら他の連中に任せても大丈夫だったろうに・・・」
 「あの時は避難できていない人が!!」
 「避難できていない奴と死にかけていた俺、消えかけていた命よりまだ消える心配の無い命を取った訳だ」
 「っ・・・!?」


  だって、それは、そんな事は・・・知らなかった・・・
  ケイスケくんが危ない目にあってるって知っていたら、私は・・・


 「無知は罪也とはよく言ったもんだよな。知らない事を言い訳にしていくらでも逃げることができる」
 「そんな事!!」
 「何が違うんだ?」


  それ、は・・・
  確かに、私は知らなかったっていう事を言い訳にしている・・・けど!


 「あんたは他人なんかどうだっていいんだ。
  欲しいのは自分を頼ってくれる人。それ以外の、孤独を作り出す他人はどうだっていいんだ」
 「違う・・・私は・・・」


  否定しないと。じゃないと、私の中の何かが壊れる。
  容赦なく、呆気なく、粉々に砕け散って・・・もう、戻れなくなる。

  なのに、声が出ない・・・


 「結局隊長はそういう人間なんだ。他人には限りなく無関心でその死すら厭わない冷徹な悪魔・・・」
 「やめて・・・やめてよ・・・!!」


  ガラガラとナニカが崩れていく。
  私を一人の人として見てくれたケイスケくん・・・それが、今私の目の前に立って・・・


 「他人の生死なんてどうでもいいんだ。あんたは自分のためなら他人を殺すことが出来る人間なんだ」
 「いや・・・イヤ!! もうやめて!!」
 「そんな隊長は生きてていいのか? 他人を平気で殺して、不幸に陥れて、自分だけは幸福を味わう・・・
  そんな人間、生きている価値はあるのか?」
 「あ、ぁあ・・・!!」


  だめだ、もう持たない。
  これ以上、私は・・・


 「どうなんだ隊長」
 「やめて、やめてえええええええええええ!!!」


  感情のままに魔力を解き放つ。
  それは今さっきまでケイスケくんの居たところを直撃して・・・


 『あーらら、やっちゃったー』
 「ぁ、ああ・・・」


  やってしまったあとで、自分のしでかしてしまったことを自覚する。

  撃った・・・私が、紛れも無く、ケイスケくんを撃ってしまった・・・
  私が・・・撃った・・・


 『貴方は本能的に分かったんでしょうね、このままじゃあ自分が壊れるって。
  だから自衛を行った。“自分の仲間に対して、躊躇い無く”・・・』
 「ぁ・・・・・・」


  ピシリ、と罅が入る。
  私の中の、何か大切なモノが砕けていく・・・


 『貴方はそんな悪魔のような人なの。だから他人に不幸を振りまいて自身は孤独になっていく。だから・・・』
 「あんたはここで死ぬんだ、隊長」


  いつの間にか目の前にはケイスケくんがいて、防御の間も無く左腕が絡め捕られる。

  いや、防御が間に合わなかったんじゃない。私に、その気が無いだけ・・・

  そのまま回転を加えられながら壁に向けて投げられる。
  ごき、と歪な音がしたと同時に私は壁に叩きつけられていた。
  衝撃で肺が潰れたような錯覚が起って息が詰まる。同時に、体中に奔る鈍い痛み。
  ガラガラと砕けた壁の破片が落ちてくる。

  けど、そんな事すら気にならない・・・

  左腕は歪な方向に折れ曲がってる。
  ああ、折れたなと、どこか冷静な部分がそう嘆く。

  そこに、ケイスケくんが近づいてきた。


 「ぁ、ぅ・・・」


  襟首を掴まれ持ち上げられて、そのまま地面に叩きつけられる。
  特に抵抗するでもなく、ただされるがまま・・・


 『あらら、もう壊れちゃったのかしら? なっさけなーい』


  横から何かが聞こえるけど・・・何だろう、よく、分からない・・・
  今、頭の中を埋め尽くしているのは・・・ただ一つの考えだけ。


  私は、きっと多くの人を巻き込んで、みんな不幸にしてきたんだ・・・
  今のケイスケくんが言ったように、平気で見捨てて、切り捨てて・・・自分の為に・・・
  さっきだって、ケイスケくんを躊躇わずに撃った。

  だから、これはきっと罰なんだ。

  今までやってきたことへの、報い。それが返ってきているだけ。
  それが償いになるなら、受け入れないといけない・・・それで例え、私が死ぬことになったとしても・・・


  訳も分からず、手を伸ばした。

  ただ何かを掴めるわけでもなく、何かを見つけられるわけでもなく・・・
  ただ未練がましく、手を伸ばした。

  ・・・こんな、私なんて・・・

  心は折れ、希望を無くした。
  人に不幸を振りまくだけの私なんて、生きている意味なんて・・・


  伸ばした手は空を切って、力無く地面へと堕ちた。








                    ◇ ◇ ◇








 「はあっ!」
 「ぬう!」


  剣と槍が空で幾重にも交錯する。
  互いの太刀は衰えることを知らず、むしろその苛烈さを徐々に増していっている。


 「レヴァンティン!」


  鞘に収めると同時に愛剣に指示を出す。
  カートリッジが排出され、私の中にいる頼もしき祝福の風も同時に動く。


 『炎熱加速!』


  鞘から抜き放ったレヴァンティンは形状を変え、蛇の意を持つシュランゲへと。
  いくら騎士ゼストといえど、これならば―――!


 『飛竜一閃!!』


  炎を纏った蛇が竜となりて標的へと牙を剥く。
  だが、それを正面から騎士ゼストは打って出た。


 「ぬああああああ!!」


  カートリッジが排出され放たれた衝撃波。
  それが私の技と衝突し―――相殺された!?

  驚愕による一瞬の隙。その致命的なまでの一瞬がすでに勝負を決めていた。


 「はああああ!!」
 「っ!!」


  即座に鞘を盾にして受け止める。
  っ、鞘が・・・!?


 「ぬん!!」
 「っ、ああ!!」


  中ほどから見事に鞘を断たれて叩き落とされた。

  急速に迫る大地、このままでは激突は免れないが・・・中にいるリインが直前にクッションを敷いてくれたので助かった。
  だが、目標はもはや遥か先。

  突破を許してしまったか・・・


 『まだロストはしてません。追うです!』
 「ああ」


  ユニゾンを解除して本部へと向かって最大戦速で向かう。
  ・・・・やはり、浮かない顔をしているな。


 「やはり気になるか、マツダの死が」
 「・・・はい」


  無理も無い。
  この子も守護騎士だが、まだ生まれてから数年しか経っていない小さな子供だ。
  人の死に触れるのには、早すぎた。


 「私、こんな時に何も出来なかった自分が悔しいです・・・もっと力があって、みんなを守れていれば・・・」
 「それは、誰もが思う事だ。なにもお前だけが気に病む事は無い」


  そう、そんな気持ちは皆同じだ。
  私もそうだし、口に出してはいないがヴィータとてそうだろう。

  この十年間で、守るモノは増えた。
  多すぎるが故に、守りきれないモノもどうしても出てくる。
  それは掌から砂が零れ落ちるかのように、あっさりと、零れ落ちていく・・・

  そんな事が嫌だから、人は強くなれるのだ。
  守ろうとして初めて、人は強くなれる。
  守るモノは何だっていい。他人でも、自身でも、矜持でも、願望でも、何であろうといい。

  人は常に、何かを守って生きているのだから。
  奴も、それに殉じて戦った。結果は無残な物だったが、私はそれを称えたい。
  決して褒められるものでは無い。だが、その想いだけは何にも変えられない尊い物だった筈だから。


 「私・・・もっと強くなるです。今度こそ、絶対、守れるように」
 「ああ。その気持ちを忘れなければ、きっとお前は強くなれるさ」


  だから、そのためにもまずは・・・この事件を片付けて決着を着ける。
  全ては、それからだ。








                    ◇ ◇ ◇








 「あ、ぐ・・・」
 「・・・・・・」


  ギリギリと首を締め上げられる。
  相変わらずその力に容赦は無く、ともすれば折られてしまいそうな勢いで・・・


 「っ、うあ!」


  思いっきり地面を叩きつけられた。
  ぶつかったと思ったらあまりにもの勢いで撥ねてまた激突。

  ギン姉・・・何をやっても通じなくて、何を言っても届かなくて・・・
  もう、ダメなの・・・?

  それでも、ふらつく足で立ち上がる。
  けど、それが駄目だった。


 「ぁ・・・」
 「・・・・・・」


  一瞬で懐に潜り込んできたギン姉。
  腰に溜められた右がスローモーションのように迫って来て・・・

  次の瞬間に、思いっきりアッパーカットを決められた。

  そりゃ気持ち良いくらい綺麗に入って、いっそ清々しい様な気も・・・全然しないや。
  打ち上げられた衝撃で脳が揺れる。
  方向感覚が全部無くなって視界が霞む・・・
  かろうじて見えたのは、ウイングロードを駆けて追撃に来るギン姉。


 (ああ、終わるのかな、私・・・)


  結局、あの頃から私はちっとも変っていなかったんだ。
  弱くて、情けなくて、何も出来ずに、前を向く勇気も無く、全部なくしていったあの頃みたいに・・・
  何も出来ないまま、私は終わるんだ・・・

  情けないなあ―――これじゃ、ケイスケに合わせる顔が無いよ。
  ギン姉も助けられずに、こんな・・・


 「ケイスケ・・・ごめんね」


  ギン姉の左がスローモーションのように迫る。
  それは確実に私を捕えていて、そのまま・・・


 『アホ! いつまでボーっとしてんだバカスバル!!』
 『え?』


  今の声・・・ケイスケ?

  ・・・あれ? ここどこ?
  周り真っ白!? ギン姉は!? ゆりかごは!?
  もしかしてこれは死ぬ瞬間に見る走馬灯の世界とかはたまた死ぬ瞬間に別世界から召喚されたとか―――!?


 『ええい、落ち着かんか馬鹿者』
 『あいた!』


  い、いきなり後頭部を殴られ・・・って、その声・・・!?

  ばっ、と後ろを振り向く。
  そこにいたのは・・・いない筈の人で、よく知っている人で、今私を殴った人で・・・


 『ケイ、スケ・・・?』
 『俺以外の誰に見えんだよ。姉さんに殴られて頭がイカれたかー?』
 『なっ、失敬な―――!』


  てゆーか話の腰を折らないで!!
  そもそも、死んだ筈の何でケイスケがいるの!!
  あと感動のシーンの筈なのにいまいち感動できないのって何故・・・?


 『いやだって俺幽霊だし』


  ・・・はい?


 『・・・ケイスケ、熱でもあるの?』
 『いたって真面目じゃボケエ!!!』


  うん、その突っ込み具合はまさしくケイスケ。
  でもどうして・・・


 『あー、お前があまりにもグダグダしてるもんだから焚き付けに』
 『グダグダって・・・』


  まあ、苦戦してた、というかやられる直前だったけどさ・・・


 『お前さ、何やってんの?』
 『何って、ギン姉を助ける・・・』
 『じゃあなんでとっとと助けねえんだよ』


  ・・・ケイスケは簡単に言うけどさ、私はケイスケみたいに強くないんだ。
  自分より強い相手に立ち向かって勝ってしまうような、ケイスケみたいに・・・


 『お前なあ・・・いいかよく聞け。今のお前なら姉さんに勝てるんだ』
 『勝てないよ・・・今さっきだってすることやることが全部通じなくて・・・』
 『今の姉さんがまともに考えて戦ってると思ってんのか? どう見たってただ避けて攻撃してるだけだし』


  けど、ギン姉は速くて、全然捕まえられないんだ。
  捕まえられたとしても全部防がれて・・・


 『そこからどうにかして崩せよ・・・お前、俺との組み手は何だったんだ』
 『そうは言われても・・・』


  ケイスケとギン姉じゃ、ねえ・・・?


 『・・・受験バカ』
 『何さそれー!』


  失礼じゃないのー!?
  今更失礼のへったくれもあったもんじゃ無いけどさ・・・


 『いーか、とにかくお前は勝てるんだ。誰が何と言おうと、それは俺が保障してやる』
 『ケイスケ・・・』


  今更だけど、これは夢なのかな。
  ケイスケがいて、こんな風にいつもみたいな会話をして・・・
  これが現実だったら、どんなに嬉しいだろう・・・


 『っと、そろそろ別の奴がヤバそうなんで俺は行く。後はお前で何とかしろ』
 『ちょ、それだけ!?』


  もっとこう、何かないの!?
  励ましの言葉とか遺言とか!!
  何でも良いから言うべき雰囲気じゃないの!?


 『絶対にノウ!!』
 『何で!?』
 『自分で考えろ。じゃーなスバル』


  いそいそと壁をよじ登るみたいにして移動するケイスケ。
  壁なんてあるんだ・・・?


 『おーそうだ最後に一つ』
 『何?』
 『負けんなよ。絶対勝て』


  ケイスケが言い終わると同時に周りが明るくなって・・・

  ああ、そうだ。
  通じるとか通じないとか、そんなこと関係ないんだ。

  ギン姉に勝つ。
  勝ってギン姉を取り返す。

  それだけだ。他のことなんて考えなくていいんだ。
  そんな単純な事、私は今まで忘れてた。
  戦いにおいて最大の敵とは己である、なんてのをどこかで見た。

  自分に負けている様じゃその時点で負けだもんね・・・だから!


 「マッハキャリバー!!」
 『Wing Road!』


  右足の方からウイングロードを展開してギン姉の左を蹴り上げる!
  そのまま―――!!


 『Calibur shot, left turn!』


  マッハキャリバーが動きをサポートしてくれる。
  何回も一緒に練習したコンビネーション、キャリバーショット。
  これで―――!!


 『Shoot it!』
 「うおおおおおおおおお!!」
 「っ!!」


  一気に加速して拳を撃ち出す!!
  防がれたけど、そのまま押し切って―――!!


 「はああ!!」
 「っ、!」


  大きく距離が離れる。

  そうだ。勝つ。
  絶対に―――勝ってみせる!!


 『大丈夫ですか?』
 「うん。心配掛けてごめんね、相棒」
 『いえ、相棒なら大丈夫だと信じていましたから』


  マッハキャリバー・・・
  うん、そうだね。
  マッハキャリバーの相棒は、こんな所で走るのをやめたりなんかしない・・・絶対に!!


 「いくよ、マッハキャリバー!!」
 『All right buddy』


  カートリッジをロードする。

  ありがとうケイスケ。
  私、絶対にギン姉に勝って見せるから。
  だから―――今は。


 「ギア、エクセリオン!!」








                    ◇ ◇ ◇








  壁の向こう側で戦闘機人たちの会話が聞こえる。
  よりにもよって一番目立たないような私を一番厄介と見られたか・・・
  まあ、確かにフォワードチームでは司令塔だけどね。


 「っ・・・」


  ついさっき現れた戦闘機人との攻防。
  何とか致命傷は避けられたけど・・・かなり厳しい傷を負ってしまった。
  やられたのは・・・右足。

  よりにもよって・・・!!

  状況はかなり不利だ。
  二対一でも十分以上のハンデでジリ貧がいいところだったのに・・・そこにさらに一人増えた挙句に足に怪我。
  痛みで動きは鈍るだろうし、流れる血で足跡を追跡される恐れもある。

  なんて、絶望的な・・・


 「これは、流石に・・・」


  無理、かもしれない・・・
  私は他のみんな、スバルやエリオやキャロみたいに特化した技能を持っている訳でも、才能を持っている訳でもない。
  そこら辺にいるような、一介の魔導師って言っても大差は無いだろう。
  ただ受けている訓練がかなり厳しくてレベルアップはしているけど・・・それでも、届かない場所がある。


 「ダメ、かな・・・」


  こんな所で終わるのかな、私。
  夢も叶えられないまま、何も出来ずに、このまま・・・


 『いつまでうじうじしてんだランスター』
 『!?』


  げ、幻聴・・・?
  いや、それにしては嫌にはっきりと・・・


 『こんな所でへこたれる様な玉かよ。お前らしくも無い』
 『あんた・・・』


  何であんたがここに・・・って、どこよここ・・・
  いつの間にか真っ白な空間で、怪我も無いし・・・


 『強いて言うなら精神世界?』
 『へー、精神世界ねえ・・・』


  てことは何? 目の前にいるこいつは私の願望?
  まったく、未練がましいにも程が・・・


 『いやいや、俺本人ね。ちなみに幽霊』
 『幽霊がどーやって人の精神に入ってきてんのよ。取り憑いたとでもいうわけ』


  正直ゾッとしないわね・・・
  てゆーか成仏してなかったんだ?


 『お前らがふ抜け過ぎたんで』
 『ぐ、言ってくれるじゃない・・・』


  その減らず口が二度と叩けないように今ここで昇天させてあげようかしらねえ・・・?
  チャキっとクロスミラージュを構える。


 『すんませんでした』
 『分かればよろしい』


  ・・・・・・


 『ってそうじゃなくて!!』
 『違うのかい』
 『そもそも何の用よ。わざわざこんな時に出向いて来て・・・』


  はっきり言って今ピンチなんですが?
  ただちょっかい出しに来ただけなら・・・やっぱり昇天させてやる。


 『なんか怖いが・・・』
 『気のせいね、きっと』
 『・・・まー、こんなとこで挫けてりゃ情けねーぞお前』


  ・・・あんたに何が分かるのよ。
  あんたに、私の気持ちなんて・・・


 『スバルは頑張ってるぞ。エリオやキャロだって頑張ってる。なのにお前がしっかりしなくてどーすんだ』
 『・・・そんなこと』


  言われなくたって、分かってる。
  だけど、今の状況じゃあ私には・・・


 『何もしない内に言ってんじゃねーよ。まだ体力も魔力もある。戦えるじゃねーか』
 『戦えるだけじゃ・・・』


  戦えるだけじゃダメなのよ・・・戦って、勝たないと、意味が無い。
  勝って、生き残って、先を掴んで、夢を・・・
  そうじゃないと、示しがつかない。


 『だったら勝てよ』
 『どうやって! あんたならこの状況でも勝てるって言うの!?』
 『ああ、勝つ』


  な・・・
  勝てるって・・・この状況で?


 『勝ってやるさ。誰が相手だろうと、無敵なんて奴はいないんだ。どんな奴にも弱点はある』
 『弱点・・・』
 『どんな手段使っても勝つ。俺の俺としている全てを賭けて、な』


  ・・・そっか。
  ああそうだ。こいつは、そういう奴だった・・・


 『あんたって、底抜けのバカね』
 『スバルと同列に扱われるのは納得がいかん』
 『同列よ、ばーか』


  ばかと言ってやる度に悔しそうに顔を歪ませるのが面白い。
  ちなみに何も反撃してこないのは私がクロスミラージュをチラつかせているからだったりする。

  うん、そうだった。
  思い出したら、なんだかやる気が湧いてきた。


 『ん、まあ・・・ありがとねケイスケ。あんたのお陰で、やる気出たわ』
 『・・・・・・・・・・・』
 『・・・なによ、鳩が豆鉄砲喰ったような顔して・・・』
 『いや、リアルにツンデレを味わう日が来ようとは思わなかったんでな』


  っ―――!
  こんの・・・!!


 『言う事欠いてそれかあんたはー!!』
 『へぶらっ!!』


  あ、しまったと思った時には既に遅かった。
  放った弾丸はあいつの額に寸分の違いも無く命中して・・・

  で、気がつけば元の状態に戻ってた。

  ・・・・・・まあ、あいつは幽霊らしいし、大丈夫よね・・・?
  とにかくやることは決まったんだ。
  何が何でもあいつらに勝つ。勝って、この事件を絶対に終わらせる。
  その後で、ちゃんとあいつに言わないとね・・・


 「そうよ・・・こんな所で、止まってられない」


  今度はちゃんと、ありがとうって言いたいから・・・








                    ◇ ◇ ◇








 「フェイト・テスタロッサ。確かに君の押し付けでは人は救えないだろう」
 「・・・・・・」


  声が、遠い・・・
  目の前がぼやけて、不鮮明で・・・
  何も、考えられない・・・


 「だが、まだ彼は間に合うかもしれないよ? そう、君の手で救う事が出来るかもしれない」
 「・・・・・・救、う」


  私が・・・?


 「そうだとも。君がもし彼を真に救いたいと願っているのならば、我々に協力してはくれないだろうか」
 「協、力・・・?」


  私が、スカリエッティに・・・?


 「そうだ。私なら彼を助けることができる。君は彼を救いたくは無いのかね?」
 「私は、ケイスケを・・・」


  救い、たい・・・
  救えるの? 私が・・・スカリエッティに協力すれば・・・?


 「救いたいと願うのなら私たちと来るといい。君に、彼を救わせてあげようじゃないか」
 「あ・・・・・・」


  ダメ、なのに・・・
  心は、もう折れかかっている・・・


 「さあ、我々と来たまえ。フェイト・テスタロッサ・・・私たちは君を歓迎しよう」
 「ぁ、あ・・・・・・」


  それは甘美な響きを持って浸透して、まるで毒のようにじんわりと・・・

  手が差し伸べられる。
  私の右手が伸びようとする。


 「ぁ・・・」
 「なにも躊躇う事は無い・・・君は救われ、そして救える事が出来るんだ」


  その言葉に、体は勝手に反応する。

  ダメだ、この手を握ってしまえば戻ってこれない。
  戻って、これ無いのに・・・・・・

  私、私は・・・・


 『違う!!』


  その時、そんな声が私を止めた―――








                    ◇ ◇ ◇








 『なにも躊躇う事は無い。君は救われ・・・そして救えるんだ』


  違う。そんなのは嘘だ。
  そんな事をすれば誰も、何も、救われない・・・
  フェイトさんに残るのは後悔だけだし、ケイスケもそんな事は望んでいる筈が無い。

  だから、もう、我慢の限界だった・・・


 『違う!!』


  僕の他に別の声・・・キャロだ。
  どうやら、一緒になって叫んでたみたいだ。

  こういうところは、似てるのかな―――僕たちは。


 「ケイスケは、そんな事望んじゃいない!!」
 『どうしてそうだと言い切れるんだい? 人は誰しも、死ぬ瞬間には生を望むものだよ』
 「例えそうだとしても、けーさんは、フェイトさんが貴方の言う事を聞く事なんて望んでいない!!」


  そうだ。ケイスケはそんな事は望まない。
  逆に、自分が死んだことでみんなに負い目を感じてほしくないような人だと思う。

  何よりも、ケイスケは不器用だから。


 「確かにケイスケは死んでしまった! けど、それから逃げてどうするんですか!!」
 「逃げていても、けーさんは戻ってこない! 何も変わらない!!」


  必死になってフェイトさんに呼びかける。
  声は、想いは届くはずだから―――


 『君たちは揃いも揃って、どうしてあんな価値の無い命の為に怒る事が出来るんだい?』
 「例えお前にとって価値の無い命だったとしても、僕たちにとっては掛け替えの無い命だった!!」
 「私たちは知っている! けーさんが優しくしてくれた事、面倒を見てくれた事、時に色んな事を教えてくれたことを!!」


  何も知らないからそんな事が言えるんだ。
  人によって物の価値観や感じ方は違う。それは当然だ。
  だけど、だからこそ、僕たちは大切だった。


 「ケイスケは僕の掛け替えの無い友達で、兄だった!!」
 「けーさんは色々教えてくれて、面倒を見てくれて、お兄さんみたいだった!!」


  ケイスケも、そんな風にして僕たちと接してくれた。
  お互いに、対等な存在として。
  色々と込み入った事情があった僕やキャロにとって、それはとても嬉しかったことで・・・

  だから―――


 「それを嘘だとは言わせない!! 言わせてたまるか・・・!!」
 『ふむ、家族か・・・確かに、その意味では君たちにとっては価値のある命だったのかもしれないね。
  だが、その気持ちだけでこの事態がどうにかなるとでも思っているのかい?』


  どうにかなるんじゃない、どうにかするんだ。
  前に進むために。ケイスケの死に、報いるために!


 「フェイトさん! 確かにケイスケは死んでしまって、楽しかったあの日々は戻ってこないのかもしれない!!」
 「だけど、戻らない日を知っているから、私たちは前に進むんじゃないんですか!!」


  そうでもしないと、何の為にケイスケが死んでしまったのか分からなくなる。
  僕はせめて、ケイスケが何の意味も無く死んだなんて事だけは嫌だった。


 「だから僕たちは戦います―――前に進むために。笑って過ごせる明日を掴むために!!
  今を振り返った時に、後悔なんてしたくないから―――!!」
 「たとえ他の誰がやらなくても、私たちはやってみせる!
  戻らないあの日を忘れないために―――前を向いて生きていけるように!!」


  正面のガリューを見据える。
  相手は強敵だ。だけど・・・


 『絶対に―――勝ってみせる!!』


  悲しい想いは、もう終わりにしたいから―――








                    ◇ ◇ ◇








 『絶対に―――勝ってみせる!!』


  前を向いて、前に進んで、笑って過ごせる、後悔の無い明日・・・
  それが、どんなにいいだろう・・・


 『ここまで言われて、あんたは黙りこくったまんまかよ隊長』
 『え・・・?』


  ここ、は・・・
  真っ白い、何も無い場所・・・けど、どこか安らぐ・・・
  それに、目の前に立っている人は・・・私の幻想?


 『ケイスケ・・・?』
 『なに下らない事で悩んでんだよ隊長。いい加減イライラしてきた』


  下らない、か・・・
  ケイスケにとってはそうでも、私にとっては・・・今までを、全部否定されて・・・


 『それがどーした。自分が今までやってきた事が良かれと思うんなら胸張って立てばいいじゃねーか』
 『そんなこと・・・』


  私には、出来ないよ・・・
  押し付けてばかりで、何も救えない私なんて・・・


 『知るか』
 『・・・・・・はい?』


  え? 知るかって・・・え?


 『人の事なんざ知ったこっちゃねーんだよ。俺は自分がよけりゃそれでいいの』
 『なっ・・・』


  自分が良ければって・・・


 『正直清々してるよ。毎日毎日鬱陶しいくらいにあいつらに付き纏われて、やっとそれから解放されたからなー』
 『ケイ、スケ・・・』


  ・・・私はまだいいよ。
  だけど、スバルを、ティアナを、エリオを、キャロを、ヴィヴィオを・・・みんなみんな、否定するの?
  みんなケイスケの為に悲しんでくれたのに・・・
  私みたいな嘘の気持ちじゃなくて、心の底から想ってくれて―――なのに!!


 『貴方は・・・みんなを否定するの?』
 『言ったでしょ。俺は俺が良ければそれでいいんだ』
 『貴方は―――!!』


  冷たい顔で言いきって・・・
  何で・・・何でそんな事を!!


 『何で! 貴方は、そんな事を言って何も思わないの!?』
 『ああ、思わねえ』
 『っ―――!!』


  沸々と、凍えた心の奥底から湧いてくるものがある・・・
  それはたぶん、怒りという感情。悲しみという激情。


 『・・・ケイスケがみんなを否定するなら、それでもいいよ』
 『・・・・・・』
 『だけど、私はそれを許さない。みんなの想いを否定するなら・・・私は!』


  私のように嘘じゃない。
  なのに、それを否定するようなことは―――!!


 『・・・やっと、元の目に戻ったな』
 『え・・・?』


  ケイスケは笑っていた。
  さっきまでみたいな冷たい顔じゃなくて、朗らかで優しい笑顔・・・


 『やーっとやる気出してやんの。遅すぎんだよ、ったく・・・』
 『え? え?』


  ど、どういう事?
  え? 今までのあれはケイスケが言って、冷たくて、許せなくて、笑って・・・あれ?


 『え? あれ? あれれ・・・?』
 『えーい落ち着かんか』


  すぱーんとハリセンで頭を叩かれた。
  イタイ・・・


 『はあ、だから演技なんて柄じゃないって言ったのに・・・』
 『?』


  演技・・・?
  えっと・・・つまりは、勘違い?


 『え、えっと、その、ケイスケ・・・?』
 『ほら、やる気は出たでしょ。だったらとっとと行く。ほらほら』


  パンパンと手を叩いて催促してくるケイスケ・・・
  だけど、私は・・・


 『あのねー、確かに何されてそれをどう感じるかなんて人の勝手。
  けどさ、あんたのやってきた事で救われた人は確かにいるんだろ?』
 『あ・・・』


  救えていたの・・・?
  私、が・・・?


 『あんたが今までやってきた事は立派な事だよ。それは俺が保障してやる。
  あんたは胸張って生きていい人だよ』
 『ケイスケ・・・』


  これを言うためにわざわざ・・・?

  今のケイスケは私の幻想かもしれない。
  だけど、こんなにも人間味あふれて・・・何よりも感情のある目の前のケイスケを、幻想だなんて言えない。


 『立て。立って戦え、フェイト・T・ハラウオン! あんたにしか出来ない事があるだろう!!』
 『・・・うん、そうだね。ケイスケ』


  そうだ。私が今までやってきた事で救われた人たちも、確かにいるのかもしれない・・・
  勝手な願い。だけど、そうだと信じたい。
  もしも違ったのなら・・・今度こそ、ちゃんと救ってあげたい。

  これは・・・傲慢なのかな。

  だけど、私の今までしてきた事を無駄じゃないと言ってくれた人がいる。
  立派だと、胸を張っていいんだと言ってくれた人がいる。
  待っている人たちがいて、帰る場所がまだ私にはある・・・

  みんなみんな、こんなにも想っている・・・

  だから


 『じゃあ・・・行ってきます、ケイスケ』
 『・・・・・・行ってらっしゃい、隊長』


  世界が光に包まれる。
  別れの挨拶かもしれない。けどもしかしたら、また会おうっていう言葉。
  私は、また会いたいな・・・


 「バルデッシュ。真・ソニックフォーム、ライオット」
 『Sonic drive, Riot blade, get set』


  今は前に進もう。
  後悔しないように、今を精一杯生きて。
  また明日、笑えるように・・・


 「おや、いいのかい」
 「何とでも。私は、前に進むと決めたから」


  私はきっと、これからもずっと迷って、悩んで、挫けそうになると思う。
  それは私の罪であって、その購い。無くしてしまった、綺麗な日々―――
  けれど、いつまでも振り返っていられない。だから大切なんだ。
  そのためにも、私は―――


 「何があろうと、私は戦い抜く」


  生きるという戦いを、私は諦めない。
  何があろうと、後悔しないように、戦い抜いてみせる―――!!








  Next「絆の光」








  後書き

  うん、俺なんて氏ねばいいのにw

  これで終わるとか言っときながら何じゃこれはー!!

  「まだだ、まだ終わらんよ!!」  はよ終われっつーww

  とにかくまだ続くこの外伝。長ったらしく付き合ってくれている皆様には感謝感激でございます。

  けど本当にいいのか、こんな計画性ゼロのてきとーなssが存在して・・・

  次回は本当にラストスパート。スバルが、ティアナが、エリオが、キャロが、フェイトが、それぞれの想いを胸に戦います。

  そして残るはなのはにはやて、ヴィータとシグナム、ヴァイスやザッフィーに人気がうなぎ上りなあの人ww

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほんとに後一話で書き切れるかね?)ぁ

  が、頑張ります・・・・・・!!

  では前回のお話で来た拍手のお返事をば・・・


  >ドクターにしろ四番の方にしろ言ってる事はなのはとフェイトを追い詰めるために言ってるんでしょうけど
   ドクターの幸福押し付け論はあながち間違ってないように聞こえます。
   まあ、フェイトの過去を考えると無意識にそう思っていても仕方がないんでしょうが


   そこらへんだいぶ意識しましたからね。

   このネタ思いついたのは鬼丸さんが書いたなのはの矛盾、そして別所で連載のリビタルヨコシマですw

   フェイトに関しては思ったこと、感じた事をそのままに書き募っていたら見事に否定していた、みたいなww

   とにかく違和感無かったようで一安心です。



  >なんで、なのはがヴィヴィオの魔法の名前知ってんですか?


   これはヴィヴィオが使っている魔法がなのはとフェイトから学習した魔法だからです。

   つまりなのはがヴィヴィオの魔法を知っているのはそれが自分の魔法だったからで・・・

   あ、今回ヴィヴィオが使った魔法は全てなのはの物だったりします。

   なんでも教導用に覚えたのだとか。



  >いえいえいえ、何を言いますか! こういうダークな展開大好きですよ!!


   うん、何か知らないけど鬱が異常なまでに進む自分にとっては嬉しい言葉w 励みになります。

   虐めていると妙に尺が伸びる・・・やはり俺はドSなのかww



  >最新話、読ませていただきました。
   今回は始終シリアスで、ずっと緊張しっぱなしでした。
   精神崩壊から救うのは最後にでたコピーケイスケ?なのか。
   それともこのまま鬱展開のまま完結するのか、どうなるにしろ続き待ってます。がんばってください。


   励みになります、ホント。

   ちなみに最後に出てたのはコピーではなくクアットロのISの能力によって作り出された幻影、幻覚です。

   つまりなのはの認識能力を狂わせて外見と声だけケイスケにしたという。もちろんセリフもクアが勝手にやってます。

   なんてあくどいwww つまりはなのはをボコってるのは実際はヴィヴィオになります。

   あと自分ハッピーエンド主義者ですw こんなん書いてますがww



  >いや、なんとも素晴らしいほどの数子達のうざさw
   まぁこういう悪役というのも物語をもりあげるのには必要なんですよw
   絶望が大きいほど後の奇跡が素晴らしいものになるんですからw
   ケイスケ復活フラグですかね?


   残念、奇跡の大安売りでしたww 正直萎えたかもしれませんねww

   ちなみにケイスケ復活はありません。物理的にww

   やりたいんだったらそれこそアルハザード持って来いとww








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