2時間後、駐艦場から発進したブリューナクを待っていたのは、けたたましい警告アラームだった。

「な、何だってんだ?」

突如なり始めた大音量のアラームに、耳を塞ぐカーヴァイン。このアラームはどうやらコスモス中に鳴り響いているようだ。

『正体不明の大規模な部隊が第一防衛ラインを突破しました。繰り返します、正体不明の大規模な部隊が第一防衛ラインを突破しました。住民のみなさまは速やかにシェルターに―――』

 コスモスにはもしも、のために三重に防衛ラインが敷かれている。身分を明らかにしている者、あるいは信用に値する者には防衛ラインは働かないが、正体を証さない者、明らかに敵意を持っている者、そして手配書に載っている要注意人物には問答無用でその効果を存分に発揮する。

 コスモスが成立してからこの方、この防衛ラインのおかげでコスモスが危険に晒されたことはなかった。



 それが破られたこと、すなわちそれは



 ついに「運命を破壊するものたち」が姿を現したことに他ならなかった。







VANDREAD/A

#8「FATE BREAKER」







「レーダーに反応あり。無数の機動兵器がこちらに向かってきています。識別不明」

「コスモスの第二防衛ラインが突破されました! 早過ぎる! このままじゃ……」

住民の避難が終わるまでに到達してしまう。カーヴァインは一考したあと、

「第三防衛ライン上で敵の侵攻を防ぐ! どこの誰かは知らんが、今、ここに来させるわけにはいかん!」

「了解」

「全艦戦闘態勢! これより第三次防衛ライン上にて識別不明機動兵器と戦闘に入る!」

カーヴァインの答えを予感していたミタールとアリオスは、素早く各員に指示を出す。

「ヒューズ!」

「分かってます! 全速力で第三次防衛ラインに向かいます!」

ブリューナク、加速開始。重力を振り切るだけの速度に達すると、ブリューナクは第三次防衛ラインへと翼を翻した。







 慌てふためく「秩序」とは裏腹に、それは悠々と、しかし確実に侵攻していた。当初の植民計画に入っていなかったこの星でその目的を達成するために。例外は許されない。







 攻撃衛星が縦横無尽に動き回るそれに標準を合わしきれない。それの機動性は攻撃衛星の反応速度を遙かに凌駕していた。何の抵抗も出来ずに、攻撃衛星は沈黙した。もう既に第三防衛ライン上に設置された攻撃衛星の半数はその役割を果たしていなかった。迎撃に出た戦闘機もあっという間に墜とされた。

「く……何者なのだ、こいつらはッ!?」

攻撃衛星の制御担当、および防衛隊の指揮を務める男がうそぶいた。およそ無機質を思わせる機体デザイン、そしてその動き方からパイロットは乗っていないと思われた。それだからこそ、敵の正体、目的は見えてこなかった。いや、それより問題なのは彼我の戦力差。このままではコスモスは全滅だ。

「しょうがない……バリア衛星起動!!」

 男は反撃を諦めると、ガラス張りの「caution!」と明記してあるスイッチを叩き割った。その瞬間、攻撃衛星の裏側に控えていたバリア衛星が、コスモスを覆うようにシールドを展開した。完全に敵機を防げなくても時間は稼げる、と男は思った。時間が出来れば住民の避難が出来る、或いは援軍が来てくれるかもしれない。だがそんな男の期待は淡くも崩れ去った。

 敵機はその体躯に一瞬赤い光を帯電させたかと思うと、その口からビームを発射した。そのビームはいとも容易くバリアを貫通し、バリア衛星を破壊した。次々に墜ちていくバリア衛星を目にして、男は奥歯を鳴らした。

「馬鹿なッ。バリア衛星がこうも容易く……?」

男のいる衛星の窓にモノアイが赤く光った。男が死を覚悟して、喉を鳴らした。男は目を瞑った……が、そのあとが続かない。男は目を恐る恐る開けた。窓の外では、無数の、まるでハリネズミのようなビームが敵機を貫いていた。







「目標、敵機動兵器。ヘジホッグ、撃てぇい!」

艦橋に怒声が響いた。それと同時にスレイプニルの両翼の砲が火を噴く。出鱈目な軌道で動くキューブを一体一体捕捉し、撃ち貫く。砲の数もあって一度の攻撃で多数のキューブを撃破するも、数はなかなか減らない。

「数が多いな……。頭潰さなきゃ意味ねえか」

「スレイプニルの火力で、あの規模の戦艦を潰すのは無理ですよ」

副長のオルステッドがモニターに映っている、スレイプニルの何倍あろうか計り知れない敵方の旗艦、ピーマンを見て言った。

「分かってる。でかいのの相手はあいつらがしてくれるさ」

「来ますか?」

「来るだろう。じゃなきゃ、俺達は互いを相棒と認めなかったさ」

「そうか……そうですね」

「さて、本命が来るまで俺達が露払いをするか! ストライカー隊、出撃!」







「前方で戦闘が起こっています。この反応は……」

『遅いぞッ! カーヴァイン!』

「ヒュエル!? どうしてここにッ!?」

「あ、そう言えばさっき街で遭いましたよ」

と、とぼけた顔でミタール。

「……早く言えよ」

『カーヴァイン。こいつら、何か知ってるか?』

ヒュエルが尋ねた。カーヴァインはモニターを睨んで

「知らねえな。まあ少し心当たりが……」

『あいつらが刈り取りだッ!』

突然、通信が開いた。もちろん送信者はヒビキ。ヒビキの怒りの顔がモニターに映った。

「やっぱりな。あいつらが刈り取りか……!」

カーヴァインの顔が強張る。ヒビキの話を聞いて、いつかは戦わなければいけないだろうと思っていた。

『なんなんだ、刈り取りって?』

「敵だよ。『俺達』の……な。ヒビキ、出れるか?」

『あたぼうよっ!』

「よし、頼むぞ」

『任せろ!』

ヒビキの猛りと共に、モニターは閉じられた。

「ボス、チャージはどうします?」

「状況次第。取りあえずサタンとミカエルの準備はしとけ」

「了解」







 蛮型が出撃すると、それに反応したキューブの大群が一斉にわらわらと蛮型に襲いかかった。蛮型はブレードを引き抜くと、目にもとまらぬ速さでキューブを切り刻んだ。が、次の瞬間、一瞬無防備になった蛮型にウニ型の体当たりがつきささる。

「ぐわっ!?」

衝撃にゆられる蛮型。キューブなら大丈夫だが、中型ともなると蛮型では荷が重い。体勢を立て直すが、さらにウニ型の追撃が迫る。 

「ミカエル、撃てぃ!」

カーヴァインの叫びと共に、ブリューナクの右翼の荷電粒子砲。が火を噴き、ウニ型を撃ち貫いた。

「すまねえ、助かった」

『集中しろ、ヒビキ! 敵の数は多いぞ!』

「分かってらあ! おらぁッ!」

ブレードを構えなおすと、蛮型は再びキューブの大群に突進していった。







「蛮型では大きいのは手に負えません! どうします!?」

「サタンとミカエルは中型機に照準。 敵旗艦を沈める! ルシファー、チャージ開始!」

「了解。艦首ペークシス・プラグマ、出力アップ」

ミタールがコンソールを操作。見る見るうちに計器の数値が上がっていく。ペークシス・プラグマが活性化しているのだ。

「ヒュエル。これからルシファーを使う。援護を頼む」

『親玉を撃ち抜いてやれ!』

「ああ」

「敵旗艦の内部に高エネルギー反応! 主砲、来ます!」

「取り舵! 避けろよ!」

「このッ!」

ピーマンが口を開けた。主砲発射。一艦隊を壊滅させる威力を持つこの主砲。直撃すれば一溜まりもない。ヒューズがギリギリで避けてみせた。びりびり、と衝撃が走る。カーヴァインが椅子の淵に捕まりながら、姿勢を保つ。

「損害軽微。戦闘続行可能です」

「サタン、外すなよ!」

「りょ〜かい!」

左翼の砲門が開く。拡散レーザー砲が多数の敵機を貫いた。その隣ではスレイプニルがヘジホッグを連射している。魔の槍と神の馬、この二機が協力して戦うその姿は、まるで神話を思い出させる。圧倒的火力をもって、敵を駆逐するその姿は頼もしいと同時に、恐怖の念すら抱かせる。

 ヒビキは思った。まるでこの二機はこうしている方が自然のようだ、と。広い攻撃範囲をもつスレイプニル。絶大な破壊力をもつブリューナク。互いの足りないところを互いにフォローしている、二つで一つの存在。



 ピロシキやウニ型はブリューナクのミカエルとサタンが、大量のキューブはスレイプニルのヘジホッグが撃ち落とす。撃ち漏らしたのを蛮型とストライカー隊が潰す。

 しかし数が減らない。ピーマンが出張っている以上、キューブはほぼ無尽蔵、ピロシキ、ウニ型もまだ大多数が残っている。

 頭を潰さなければ。誰もが思った。



「艦首ペークシス、臨界」

「エネルギー充填、120パーセント!」

「射軸上にいる機体は待避してください!」

「目標、敵旗艦!」

カーソルが目標に重なるその一瞬。ブリッジクルーの気持ちが一つになる。

「ルシファー! ファイアッ!!!!!」

カーヴァインが叫ぶ。ブリューナクの艦首にある巨大な砲が胎動。鈍く揺れると、その口から高出力のペークシス・エネルギーを吐き出す。高速で宇宙を走る一条の光は、射線上のあらゆるものを呑み込みながらピーマンに向かっていく。ヒビキは宇宙が揺れている気がした。揺らされている気がした。

 ピーマンがエネルギーを相殺するために主砲を発射する。堕天使はそれすら呑み込んだ。自分が貫かれたことも自覚させない速度で、ルシファー……艦首ペークシス・ブラスターはピーマンを貫通した。その余波はピーマンの周りのピロシキ、ウニ型にまで及ぶ。さらにそれはキューブへ。破壊の連鎖は止まることを知らない。これが「堕天使」の力か。

「敵の全滅を確認」

「艦首ペークシス、出力低下。メイン・ペークシスに問題はありません」

「蛮型、ストライカー隊、スレイプニルの健在を確認」

「艦の損害はほとんどありません」

アリオスとミタールが交互に報告。カーヴァインは満足そうに頷いた。

「現時点を持って戦闘態勢解除」

「了解。全艦、戦闘態勢解除」

ふっと、艦内の緊張感が緩む。初めて戦う相手。全てにおいて未知数の敵。戦闘はクルー達に極度の緊張感を課した。その緊張から解放されたクルー達に安堵の表情が浮かんだ。

「ごくろうだったな、ヒビキ。帰投してくれ」

『ああ。しかしすげえ威力の武器だな』

ついこの間、新化したニル・ヴァーナ。その主砲すら凌駕しそうなルシファー……艦首ペークシス・ブラスター。初対戦の刈り取りとも対等以上に戦って見せた。

 しかしそう言われたカーヴァインの顔は冴えない。

「ああ………」

『……? どうしたんだよ?』

「いや、何でもない」

『カーヴァイン』

ヒュエルが哀しそうな口調で話しかける。口調に同調して、表情も哀しげだ。

「お前がそんな顔をするな、ヒュエル」

『……しかし』

「振り切れてるよ。忘れる気は無いけどな」

それを聞いたアリオスとミタールがさっきの言葉を思い出した。『……誰かが許してくれたとしても、俺が、許さない』

 本当に振り切れているのだろうか?

『そうか。じゃあ俺達は行くぞ』

そうは知らないヒュエルは、カーヴァインの言葉を信じた。例え嘘だとしても、自分を心配させないためだろう。それならば、疑う意味がない。

「今日は取りあえず助かった。礼を言う。でももう来なくて良いぞ」

『まだ諦める気はないんでな。では、アリオスさん。アディオスッ!』

通信が切られた後、アリオスは軽く溜息をついた。







つづく







「ようやく一区切りでーす」

「一区切りとか言って、まだ半分行ってないんだけどね

「なんかこの人、作品事にボリューム増えてない?」

「うーん、『外伝』が5話、『testament』が14話、これは軽く越えるね」

「ていうか、無駄に長い気が」

気 の せ い で す

「これから、どうするんでしょ? 全然決めてないじゃん。ツェブ編行っちゃうの?」

「行かないよー。アリオスかヒューズのエピソードが一、二個あるみたい」

「ヒューズ多すぎ。出番少ないのに。あたしは? あ た し の は?

「えーと………………(汗)」

「どうしてそこでそっぽを向くの!?」

「それは以下で説明っ! 頼むから黄金バットは止めて!!





ミタール・ノイセント

23歳 B型 155センチ 46キロ

出身 ライクレイル


 ブリューナクのオペーレーターの1人。主に火器管制を担当。赤い髪の活発で可憐な女性。ブリューナク設立当時からのメンバーの1人。

 性格は良い意味でも悪い意味でも天然。と、思われているが、実はその裏でとてつもなく計算高い一面も持っている。それはアリオスとカーヴァインがうすうす気付いている程度で、それ以外は誰も気付いていない。その為、どうして彼女がコンピュータや火器などの扱いに優れているのか納得出来ない人間が多い。

 実はこの物語で彼女のエピソードが一つもない。それは彼女が主要キャラの中で唯一、「何の問題も抱えていないから」である。

 ある意味、この物語で一番まともで一番特異な人物。






「これって誉められてると考えて良いのかな?」

「微妙」

「微妙」

「微妙」

「全員で微妙って言わなくても…………」

「最後の一文が気になるな」

「そりゃ、黄金バット振り回す奴にまともなのはいないでしょ」

「……ひどい。みんなが問題ばっかり抱えているからってー!」

「人間、何かしら問題を抱えているものよ」

「………シズクが初めてまともなことを言った

「こらそこ。馬鹿にすんない」

「むー、じゃああたしも問題抱えてやる! おぉぉぉぉぉ!」

全員「まさか!」

スター○ラチナ・ザ・ワールド! 時はとm

全員「………………………」

「あ、あれ?」

「あんた。それ、どう見てもスタープ○チナじゃなくてギャ○ン=ドゥなんだけど

(また分かりにくいネタを………)

「ビバ・ノウレッジ!」

「ビバはイタリア語でノウレッジは英語だ!」

(やばい。収拾付かない!)

???「そこまでだ!」

全員「!!!!!!!!」





つづく(ぇ