ユメを見る人々へ。







 ヒビキはシズクが修理した蛮型のコクピットに座って最終調整を行っていた。機体……ハードの修理は終わっていても、ソフトの修理・調整が完全でなければ機体は思い通りに動かない。

「よし……これで終わりだ」

調整が終わったヒビキがモニターの電源を落とす。これで修理完了だ。

「終わった?」

コクピットから出たヒビキにシズクが尋ねる。ヒビキは親指を立て

「ああ。ありがとよ。完璧に直ってたぜ。すげえな、おめえ」

確かに見たこともない機体を完璧に直すなど奇跡に等しいだろう。だがシズクはそれをおごったりはしていない。静かに微笑むと

「ふふ。でも、先輩はもっと凄かったんだから」

「へえ。で、その先輩は?」

「……死んじゃった」

「!! す、すまねえ」

「いいわよ。もう2年も前のことだし。それにうじうじしてたら先輩に怒られちゃうから」

「……………」

ヒビキはなんと言ったら良いのか分からない。こんな時に掛けるべき言葉が見あたらないのだ。それを表情から読みとったシズクは

「そんな顔しないで。いったでしょ、気にしてないわ。それに……慣れてるから」

「………え?」

「ううん、なんでもないわ。さぁ、一服しましょう」







VANDREAD/A

#4「へとせた





「艦長、目標のミッションに近づいてきました」

アリオスの報告を受けて、カーヴァインが目の前の星の海に視線を移す。ミッションが徐々にその威容を露わにする。

「よし、ヒューズ、ドッキング準備」

「了解」

もう目の前に近づいてきたミッション。最近まで使われていたらしいのだが、そうとは思えないほど破損率が激しい。カーヴァインは内心訝しげに思いつつ指示を出した。

 ヒューズの操縦により、ブリューナクがドッキングコースをとりはじめる。

「シズク、今からミッションに侵入する。何人か連れていけるよう準備しとけ」

カーヴァインが通信機を手にとって、シズクへ声を送る。「獲物」の探索には必ずシズクを初めとする整備員を何人か連れて行く。機械いじりは向こうの方が専門だからだ。

『了解。………………おい、俺も行って良いか?』

前半がシズク。後半がヒビキの声。

「ヒビキ? ああ、行ってもいいが」

『よーし、準備するかぁ!』

張り切り声のヒビキが通信を切る。

「アリオス、ミタール。どっちか来い」

アリオスとミタールは電子情報関係には抜群に強い。色々役に立つので、普段もどちらかを連れて行くことにしている。だが、こういう場合はいつも………

「あー、あたし行きたいです!」

元気良く挙手するのは赤髪のミタール。カーヴァインはアリオスに視線を移す。

「……いいですよ。お留守番しときます」

「ありがとーアリオス。今度、何かおごるね」

「別にいいわよ。さっさと準備しなさい」

「はーい」

ルンルン気分でブリッジを後にするミタール。

「じゃあ後は頼む、アリオス。何かあったら連絡してくれ。もしもの時は独断で艦を動かしても構わん」

「了解」

そしてカーヴァインもブリッジを後にした。





 ドッキングは問題なく終了した。一応、宇宙服を着たカーヴァイン達は、ブリューナクのタラップから降り立つ。ミッション内は静かだった。

「……静かですね」

「ああ」

シズクとカーヴァイン。何か嫌な感覚の静けさ。無意識のプレッシャーが胸の鼓動を早める。

「各自、注意しつつ獲物の確保。何かあればすぐに誰か呼べよ。では散開」

「了解!」

数人の整備員達が散らばっていく。カーヴァイン、シズク、ミタール、そしてヒビキは大物を狙うためにミッションの中心部に向かって行った。




 ドックベイを出、通路を歩く四人。歩を進めるたびに、動悸が速くなっていくのが分かる。これ以上は進んではいけないと、感覚が告げる。だがカーヴァイン達はその正体を確かめるために、敢えて道を進む。

 ふと、目に留まる扉。得体の知れない圧迫感をそこから感じる。カーヴァインは息を呑んだ。そして

 プシュッ

 開けられる扉。そして彼等の目に飛び込んできたのは人間の―――残骸。

「ヒッ!?」

シズクとミタールが声を上げる。あまりに凄惨な光景に誰もが同じ反応をするだろう。

「こいつぁ………」

カーヴァインが絶句する。いくつもの修羅場を越えてきた彼でさえ、無数の人間が惨殺されたのを見るのは「二回目」だった。

「刈り取りだ……。刈り取りにやられたんだ……………」

声を絞り出すヒビキ。そういうヒビキも実際に「刈り取られた」所を見るのは初めてだ。だが、一様に切り取られている「何か」があることに気付けば、想像するのは難しくない。

「これが………刈り取り………」

自分の想像の範疇を越えた「刈り取り」の正体に、カーヴァイン達はただただ茫然自失となるばかりであった。





「はい、どうぞ」

「あ、ありがとう」

ヒューズが暇を持て余しているアリオスにペットボトルの飲み物を手渡す。さっき、食堂まで行って貰ってきた物だ。

「暇ですね。……俺達は毎回、お留守番なんだから」

「しょうがないわよ。艦のみんなが出て行っちゃったら、危険でしょう?」

ストローに口を付けながらアリオス。ヒューズは自分の席に座って、足を放り出している。

「そりゃ、操舵手の俺が艦を離れるわけにはいきませんけど、アリオスさんはミタールさんがいるじゃないですか。どうして毎回、アリオスさんが留守番なんです?」

 ヒューズとアリオスは、年が4,5歳離れている。それにブリューナクに入ったのもアリオスの方が先のため、どうしてもアリオスに敬語を使ってしまう。いや、アリオスだけでなく、ブリューナクの中では最年少にあたるヒューズはほとんどの人物に敬語を使っている。軍ではないため、敬語は強制されてはいないのだが。

「ミタールに艦を任せるわけにはいかないわ」

そう言って、アリオスは微笑んだ。確かにオペレーターとしての腕は一流でも、ミタールはどこか抜けている。もしミタールが艦長になったら……。その場面を想像して、ヒューズは笑った。

「そうですね。確かにミタールさんには任せられないや」

「そうでしょ。…………ん、レーダーに反応?」

目の前のレーダーに赤い点滅を一個、確認。アリオスはペットボトルを脇に置くと、姿勢を正した。

「データには……無い機体。戦艦クラス………? こっちに向かってくる!」

「!!」

「総員、戦闘準備。ツェブ、一応準備しておいてください」

船内が一気に慌ただしくなる。こんな所で出くわす戦艦クラスは「同業者」しか考えられない。先制攻撃を喰らわないように、接触前に準備するのが妥当である。

「リーダーには報告しなくていいんですか?」

自分のシートにすっぽりと収まったヒューズが尋ねる。

「まだ戦うって決まったわけではないわ。それからでも遅くはないでしょう」

アリオスは手元のモニターを睨みながら、言った。





「ひどいな、こりゃ」

ミッション内をしばらく探索したカーヴァイン達は、それから無数の死体を見た。おそらく、全滅だろう。女、子供、老人、容赦なく「刈り取られている」。

 ミッション自体も刈り取りの攻撃によってボロボロになっていた。壁に穴も空いている。機密性もへったくれもない。宇宙服を着ていなければ、危ないところだった。

「…………………」

シズクはそれを見て「あの時」を思い出していた。今と似た現状、周りに沢山の死体が折り重なっていた。意志と信念と希望を駆逐された、仲間の死体。今、その時の血の匂いが、鼻孔の奥に蘇ってくる。怖い、怖い、怖い、怖い、こわい…………。

「……大丈夫か、シズク」

シズクが震えているのに気付き、カーヴァインが声を掛ける。あの光景は、カーヴァインも共に見ている。感じている。シズクの恐怖を、カーヴァインは知っている。

「うん、大丈夫……」

その感情を無理矢理、胸の奥にしまいこんだ。いつも、そうしてきた。

「けどよ……こんな状況で獲物を捕るってのはどうなんだよ……」

ヒビキが辺りを見回す。住民は全滅の可能性が高い。人としてここの探索をして、獲物を見つけるというのは正しいのだろうか?

「そうですよ。帰りましょう、ボス」

震える声でミタールが進言する。女性にこの状況はきつすぎるだろう。それにシズクのこともある。これ以上、シズクをここに居さすのはかわいそうだ。

「そうだな……。俺としてはもう少し様子を探ってみたい。奥に潜るためのエレベーターはないか?」

カーヴァインに尋ねられ、ミタールが携帯の端末でミッションの地図を呼び出す。先程、ミッションのコンピュータからダウンロードしたものだ。

「うーんと、この先50メートル行ったくらいにあります」

「よし。取りあえず、そこに向かうか。シズク、辛かったら帰ってもいいぞ」

シズクは首を横に振った。

「大丈夫。行けます」

「そうか……無理するなよ」





『おい、お前等。誰の許可を得て、此処を探索しているんだ?』

未知の戦艦からの通信。やけに偉そうな、図太い男の声だ。アリオスが応じる。

「獲物の探索に、許可などいりませんが?」

『ここは俺達が先に見つけたんだ。だとしたら、貴様等は俺達に許可を得る必要がある。まぁ、許可なんてださんがな』

くくく、と喉で笑う男。見るからに品の低い海賊だ。そしてデータベースに載ってないところを見ると、名も売れていないらしい。

「獲物は先に捕獲した者に所有権があるというのは、暗黙の了解ではないですか? それに先にあなたたちがここを見つけたという証拠もありません」

きっぱりとした口調のアリオス。こういう輩の相手には慣れている。でなければ、海賊のオペレーターなど務まらない。

『おい、暗黙の了解ってのは、誰が決めたんだい? 神様か? 違うだろ? 勝手に都合良いようにどっかの誰かが決めたんじゃねえのかい? だとしたら、それに俺が従う必要はあるのか? ねえよなぁ? だからここは俺達が先に見つけて、俺達のもんだってことは、誰も束縛できねえのさ』

アリオスはため息を吐いた。顔どころか、頭まで悪いらしい。論理がめちゃくちゃだ。

「もしそちらがどうしても、と言うのなら分け前を1割、分けても構いません。その場合、それ相応の何か、をしてもらわなければいけませんが」

男の台詞を無視するアリオスの言葉。ププッ、とヒューズが吹き出す。

『……てめえ。俺達に喧嘩売ってるのか? ええっ!?』

「別に売っているつもりはありません。そちらが勝手にそう解釈してらっしゃるだけでは?」

ヒューズは完全に笑い出してしまった。男の顔が紅潮して、まるで蛸のようであったからだ。

『いいだろう! 言うことを聞かなかった事を後悔させてやるぜ!』

それを最後に通信は切られた。

「どうするんです?」

「戦います。………艦長、艦長」

通信で、カーヴァインを呼び出す。すぐに応答。

『どうした?』

「敵襲です」




「スレイプニルか?」

カーヴァインが問い返す。もしスレイプニルなら、無抵抗のこちらを攻撃するということはしないだろうと思った。

『違います。流れの海賊です。こっちにデータがないので、名が売れた海賊ではありません』

「分かった。すぐに戻る」

カーヴァインが舌打ちをする。流れの海賊というものは、見栄だけで実力が伴って場合が多い。しかし油断していると、痛い目に遭いかねない。敢えて名を売らない実力者達もいるからだ。どっちにしろ厄介な相手だ


「おい、聞いての通りだ。今すぐにブリューナクに戻るぞ!」

「まったく〜せめて海賊の流儀ってもんぐらい守って欲しいですねぇ」

ミタールがぶつくさと文句を言う。

「文句なら向こうに言いな。ほら、走れ!」

カーヴァインに促され、3人が走り出した。カーヴァインもそれに続く。

『ツェブの出撃許可をいただきたいのですが』

「承認! 何か動きがあればまた連絡してくれ!!」

走ってるせいか、心なしか声が荒い。そして通信が切られる。




「了解。……ツェブ、聞いた通りです。出撃してください」

アリオスはモニターに映る、敵艦から飛び出した人型機動兵器を見ながら言った。やはりデータにはない。というより、見たことすらない。

『了承』

「敵人型機動兵器の映像を送ります」

『了承』

モニターにブリッジから送られた映像が映った。機体の特徴を知るために、アップにする。三体はほぼ一緒の系統で、これといった特徴は見あたらない。動きを見るにそれほど速くはなく、装甲に重点を置いた機体のようだ。携帯式のライフルを持っている。そしてもう一体は………

「………何でこいつがここにいるんだ…………?」
 
その機体は装甲が赤色で、背中の両肩の少し下部に、後ろ向きに羽が突きだしていた。頭部には鋭利な角がついており、その下の目は鋭い光を放っている。

 ツェブはその機体を良く知っていた。

「カイン……」

口元に微妙な変化。笑みか歪みか、判断できない程の微妙な変化。

『ツェブ、発進どうぞ』

アリオスの声。アームストロングは格納庫からカタパルトへと移動させられていた。ハッチがゆっくりと開いていく。それをツェブは戸惑いの瞳で見つめていた。もし本当にカインなら、それは……

「……アームストロング、出る」

ツェブが確信に至らぬまま、アームストロングはその身を宇宙へと投げ出した。









つづく









シズク(以下水色)「どうもーシズクでーす。今回からいま流行の座談会をするんだって」

ミタール(以下赤色)「えー、作者さん、座談会ってあんまり好きじゃないとか言ってなかったっけ?」

「それがねー、ディス○イアみたく『次回予告』したかったらしいんだけど、あいつの才能じゃ、いいネタ思いつかなかったみたい」

「確かに『熱血整備員シズク』とかやってらんないよねーあたしたちが

「そうそう」

ツェブ(以下緑色)「で、どうして座談会なんだ? ていうか、このメンバーで今更話す事なんてないと思うが」

カーヴァイン(以下黒色)「同感」

アリオス(以下青色)「それ以前にディ○ガイアの次回予告ネタが分かるとは思えないわ。マイナーだし

「だいじょーぶ! そのためのネットです! 例え作者の友人に知ってる人が誰もいなかったとは言え………」

「いや、知らんでしょ」

「みんなデビル○イクライかオペレー○ーズサイド買ってるって」

「……なんでこんな話題になってるんだ……?」

「そーでした。今回から『キャラ設定』をネタバレにならない程度後悔するって事で、わたしたちが紹介することに。んでは」



カーヴァイン・エアーズ

29歳 B型 182p 75s

出身 ライクレイル


 ブリューナクの「艦長兼隊長兼親分兼ボス兼リーダー兼キャプテン兼etc」。筋肉質な体付きだが見かけによらず頭は切れる。「ひとりであるもの」は誰であろうと拾うという人間性に篤い好青(?)年で、リーダーシップと生まれ持ったカリスマ性、さらにその性格からクルーからの信頼は厚い。

 彼が海賊を旗揚げした経緯には五年前の「ある事件」が大きく関わっているらしいが………?




「……ってどうして最後でお茶を濁すんだ?」

「ネタバレだから」

「あたしは知ってますよぅ。あの…………」

「言うなッ!」

「きゅぅ」

「いや、それ以前に『後悔』の誤植を指摘しましょうよ。性格には『公開』です」

「お前も間違えてるぞ」

「それよりも俺が言いたいのはだなぁ……どうして青年の後に(?)がついてるんだ! どういうことだ、ええッ?」

「そのまんまですよ、親分」

「俺は永遠の20代だ!」

「限りなく30代に近いね」

「見る人から見たらおっさんだよね」

「同感」

「右に同じ」

「あ、アリオスまで……。もういい! 貴様等、一週間飯抜きだッ!!」

全員「ええ〜ッ!」

「横暴だ!」

「職権乱用!」

「セクハラですッ!」

「いや、ちょっと待て。セクハラはかんけー……」

「きゃあ! セクハラ〜!」

ボキ

「あ。」

「……」

「……」

「………………」

「………………」

「……………………………………………………」

「……………………………………………………や、やばくないこれ?」

「まだ間に合う!」

「そうだ! 隠せ!!

「あー。色々大変なことになってるので、またじか」

「いやー! 目が! 目がッ!!!!! ひらいて」

五月蠅いッ! あーではでは次回に」

(なんかミタールが本編と激しく性格が違う気がする。気のせいか?)





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