ユメを見る人々へ。







「まいったなぁ、ちくしょう」

ある宇宙の片隅、ヒビキは蛮型の何も映っていないコンソールを睨み付けて呟いた。周りにはいつもいるはずのディータやメイアのドレッドがない。あるのはただそこに佇むスペースデブリだけである。

「何がどうなったかわかりゃしねえ」

噴き出る汗。自ずとヒビキは袖口で額の汗を拭っていた。




VANDREAD/A

#1「からこぼれおちて」




 刈り取りとの戦闘中。いつものようにヴァンドレッド・ディータに合体するため、近づいた蛮型とディータのドレッド。だが、度重なるニル・ヴァーナ、そしてヴァンドレッド・ディータとの戦闘に置いて、刈り取りの戦術レベルは格段に進歩していた。キューブは二機が合体するその瞬間を狙い撃ちしたのだ。複数のビームが蛮型を直撃。

「宇宙人さんッ!?」

「このッ!!」

姿勢制御。スラスター全開で体勢を立て直す。が。

「きゃあッ!?」

今度は狙いをドレッド・ディータに絞ったようだ。十数体のキューブに囲まれたドレッド・ディータは逃げようにも逃げ道が塞がれている。

「アブねえッ」

気付いたらヒビキは蛮型を駆って突貫していた。キューブを二、三機切り捨てると、ドレッド・ディータの前に。そんな蛮型に偽ヴァンドレッド・メイアが襲いかかった。

「く?」

何故か偽ヴァンドレッド・メイアは攻撃せず、その脚で蛮型を捕獲。母艦に連れ帰ろうとした。蛮型を調べる気か?

「ヒビキッ!!」

メイアとジュラが絶望的に叫ぶ。機を駆って偽ヴァンドレッド・メイアを追うが、その速度には遠くおよばない。見る見る距離が離されていく。

 追いつけないと判断したメイアは、ビームを発射。足を止めるつもりだ。だがそんなメイアの思惑とは裏腹に偽ヴァンドレッド・メイアに当たらない。紙一重で避けられていく。

「ぐわああああっ」

蛮型のコクピットのヒビキは、偽ヴァンドレッド・メイアの動きに翻弄されて、頭を強く打ち付けてしまい、気を失った。




 それから先は覚えていない。気がつくとヒビキは此処にいた。

「ニル・ヴァーナの反応も無し。座標も不明。さらには機体損傷が激しくてまともに動けないときたもんだ。打つ手なし……か」

珍しく焦り顔になるヒビキ。状況の不明瞭さは元より、周りに浮かぶデブリ。自分もその一員になるのではないかと、背筋が凍った。

「ダメだッ! 男、ヒビキ・トカイ! こんなとこで死ねねぇ!」

悪い予感を吹き飛ばす如く、頭を振った。



「ボス。目標のデブリ帯、捕捉しました〜」

ブリッジに一際甲高い声が響く。赤髪のオペレーターが声の発信源。

「よし。モニターに映せ」

『ボス』と呼ばれた人物はブリッジのほぼ中心に位置する座席に座っていた。腕を組んで、どこか楽しげな表情。不敵な笑み、という表現が正しい。

「了解。モニターに映します」

先程の声とはうってかわって落ち着いた声が反対側の青髪のオペレーターから発せられた。モニターに拡大されたデブリ帯に自ずと視線が集まる。そこには大小、材質、質量、全てが異なるデブリ……宇宙のゴミが浮かんでいた。

 『ボス』はそれらを品定めするように眺めた後、

「おう。結構良質な素材がありそうじゃねえか。よし、微速前進」

「アイ・サー」

ブリッジの前方部、コクピットに座っている金髪の男が返事をする。同時にエンジン始動。前進開始。さらに

「『アームストロング』発進準備。ツェブ、偵察よろしく」

艦内通信を使って、格納庫と個室へ。格納庫は女、個室は男がそれぞれ応答に出る。

『了解しました、親分。ツェブ、さっさと来なさい』

『了承。隊長、発砲の許可は?』

「場合による。……お前も真面目だねぇ。ただのデブリ帯の偵察に……」

『気にしないで下さい』

『早く来てよ、ツェブ! 最終調整できないじゃない!』

『む……了承した、シズク』

格納庫のシズクが相当腹を立てていることに、ツェブは危機を感じたか通信を切った。

『もう。操縦技術は一級なのになんかこう少し抜けてるっていうか……』

「そんなに怒るな、シズ……」

『怒ってません!』

通信機越しに怒声が鳴り響く。思わず耳を塞ぐ『親分』。そんな様子にクルー達もクスクスと笑った。『親分』はばつの悪い思いをしつつ、怒ってるじゃん……と、通信機を置いた。

「ミタール、アリオス、索敵怠るな。奴らにまた邪魔されちゃかなわねぇ」

「りょ〜かい」

「範囲内に反応はなし。大丈夫です」

「リーダー、前進はここまでで限界です」

操舵手が言った。すぐ目の前にはデブリがただ一面に広がっている。デブリといっても、中にはこの艦よりも巨大な物もある。こんな中を小型戦艦で突っ込むという危険をむざむざ冒す必要はない。機動性に優れる人型兵器があるならなおさらだ。

「うし。『アームストロング』発進!」

『了解。アームストロング、出ます』

抑圧のない声。そしてアームストロングがカタパルトから飛び出した。後部スラスターと可変翼スラスターで姿勢を整え、バーニアを吹かす。デブリの影を縫って、奥へ。

「ツェブ、どうだ? めぼしいお宝はありそうか?」

『今のところは屑ばかりです。さらに奥に進んでみます』



「……あれは?」

ヒビキはモニターの端部にちらっと光る何かを見た。その方向にアイカメラを向け、最大望遠。それは確かに人型兵器が出すバーニアの光だった。

「やった! 何処かの誰かは知らねえが助かったぜ!」

早速ヒビキは通信を試みる。



「ん……?」

何やら通信が入っている。『ブリューナク』からではない。知らないチャンネルだ。不審に思ったが、一応回線を開いてみる。

「誰だ?」

ツェブが無愛想な声で言った。ディータたちのノリに慣れてしまっていたヒビキは少し戸惑う。だが、

『機体が故障して動けねえ。悪いが助けてくれねえか』

「どこにいる?」

『デブリ帯の中だ。こっちからはそっちが見える』

そう言われてツェブは辺りを見まわした。だが、瓦礫、破片、残骸ばかりで機体らしきものは見あたらない。

「俺の一存で決められない。隊長に訊いてみろ」

『隊長?』

「俺達は海賊だ」



『隊長』

「なんだ、ツェブ。なんかいい獲物があったか?」

『いえ、それが隊長と話をしたいという男がいまして』

「話ぃ? 何なんだよ、そりゃ」

明らかに顔をしかめる『隊長』。どうしてデブリ帯に来て、誰かと話さなければいけないのだ?

『通信、回します』

『良かった。俺はヒビキ・トカイ。デブリ帯にいるんだが、機体が故障して動けねえんだ。助けてくれねえか』

「機体が故障? ちゃんと整備しろよ」

からかいの口調。

『違うッ! 敵の攻撃を受けたんだ!』

まさかそう返されるとは思わなかったヒビキ。先程の男から想像していた『隊長』のイメージとはまるで違う。もっと、生真面目で無愛想だと思っていた。

「敵? まさか『スレイプニル』の奴らか!?」

『隊長』の声が上擦る。来襲を予測していた「スレイプニル」が先にここに来ていたのか? もしそれで彼の機体が壊れたのであれば、こちらにも責任がある。だが、『隊長』の予感は外れていた。

『スレイプニル? そんな奴らは知らねえけど……。俺がやられたのは刈り取りだ』

「『刈り取り』………。アリオス、情報、あるか?」

指示を出された青髪のオペレーターが手元のコンソールをいじり始めた。数年かけて溜め込まれた情報バンクから検索するが、出るのは『NOT FOUND』の表記のみ。そんな言葉は見あたらない。

「ないみたいです」

「そうか……。ヒビキ、と言ったな。お前は俺達が知らない情報を知ってるみたいだ。情報を提供してくれるなら、収容してもいい」

『分かった。俺が知ってる事は全部教えるよ』

ヒビキは条件が簡単なことで胸を撫で下ろした。向こうに「刈り取り」の事を教えるデメリットは全くないし、何より、向こうが刈り取りの事を知らないのなら、教えておかなければならない。刈り取りは地球を母星とする移民たち全ての敵なのだ。

「よーし、交渉成立だ。ツェブ、ヒビキをここまで引っ張ってこい」

『了承。ヒビキ、どこにいる?』

『お前から見て右手だ。今からスラスターを噴かしてみる』

機体は動かないが、最後の力を振り絞って、スラスターを噴かす蛮型。もちろんすごく微力な為、機体を動かすまでには至らない。だが、ちらちらと光るそれをツェブが発見できればよい。

「……見つけた。少し待っていろ」

戦艦の残骸と思わしきデブリの合間に小さな明滅する光を見つけたツェブはそこにアームストロングを向かわせる。

 近づいてくるアームストロングを、ヒビキは静観していた。全長は蛮型よりもやや大きめ、両肩の姿勢制御用であろう可変翼が目につく。機動性を重視した機体のようだ。碧色の装甲が綺麗だった。

『そこの黄土色の機体か?』

「ああそうだ」

蛮型は弱々しく手を振って見せた。アームストロングがさらに近づく。

『全く動けないのか?』

ツェブが尋ねる。

「さっきから試しているがほとんど動かねえ」

操縦桿を前後左右に動かす。何とか手足は動くものの、絶対的な推力が足りない。

『了承した』

それを聞くと、アームストロングが蛮型の背後に回り、手を伸ばした。蛮型を抱え込んで、ブリューナクへ連れ運ぼうというのだ。アームストロングがさほど大きくないとは言え、無重力下で人型兵器を運ぶことなど容易い。

「なあ。さっき言ってた海賊って……どういう意味だ?」

『どういう意味もない。言葉の通りだ』

やれやれ……とヒビキはため息をついた。つくづく自分は海賊に縁があるなと思う。思えばマグノ達と初めて出逢ったのも、海賊であるマグノ達がイカズチを襲ってきたからだった。そして今度は偶然、デブリ帯で海賊に出くわす。数奇な運命である。

『どうした?』

「いや。なんでもねえよ」

ヒビキは頭を振った。運命だろうがなんだろうが、それで命が助かったのだから儲け物である。

『見えてきた。あれがブリューナクだ』

「! あれが……」

デブリ帯の出口。ニル・ヴァーナより一回り小さい戦艦が停泊している。銀の装甲に、まるで鳥を思わせるような左右に開いた翼。左右の翼にそれぞれ砲が一門づつ。さらに艦首にはそれらを上回る口径の砲がついている。その威容は魔の槍の名にふさわしい。

「着艦する」

『了解』

整備員の声。ブリューナクの下部が口を開き、カタパルトがせり出してくる。速度を落として着艦。蛮型とアームストロングを載せたカタパルトが収納される。そしてブリューナクはゆっくりと顎を閉じた。




 これから待ち受けるヒビキたちの運命など知らずに………。








つづく









あとがき



 こんにちは。だいたいの方が初めまして、だと思います。

この作品のメインテーマは冒頭の通り「ユメ」です。主人公はヒビキですが、ヒロインはディータではありません。だって出てこないもん(笑)。このヒロインが「ユメ」を………云々、を書いていけたらなあ、と思います。

時間軸としては、2ndの3話から5話の間。つまり、バートは坊主で、ガスコさんはいなくなっておらず、スーパーヴァンドレッドにも合体できません。そこの所、ご了承を。

あと、ツェブがよく「了承」と言ってますが、これは僕自身が普段から使っている物であって、決して○anonの○子さんが元ネタではありません<一度つっこまれたらしい。笑

今のところ、どれだけ続けられるか分かりませんが、まあそれなりに続けられるよう頑張ります。それと相当遅筆ですのでこちらも重ね重ねご了承を。





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