VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter XX "Combat at Valentine2024 the second stage"







バレンタインデーは、一年でもっともロマンチックな日。

メジェールではチョコレートとともに恋する人へ思いを伝える日として定着している。

地球から伝わった文化は歪みがちだが、恋愛事情ばかりは歪めようもなく伝えられたらしい。


女の子達は浮足立っており、男の子達は冷めきっていた。


「ちょっと聞いてくれよ、カイ。それにドゥエロ君も」

「どうした、バート」

「シャーリーが僕に内緒で手作りチョコに挑戦しているようなんだよ。誰にあげるのかな!?」


「分かりきってるだろう」

「何故悩むのか」


 バート・ガルサスが悲嘆に暮れていると、カイやドゥエロが至極冷静にツッコむ。

地球ではバレンタインデーは、Saint Valentine's Day(セント バレンタインズ デー)とも言われる感謝の日。

世界各国で愛を伝え合う日として定着していた文化である。


恋愛に疎い三人が顔を揃えてもあまりロマンティックにはならない。


「そもそもお前に内緒で作ってるのに、なんでお前が知ってるんだ」

「動向が怪しいから、マグノ海賊団の女の子達に土下座して聞き回ったんだ」


「土下座祭とかすげえな、こいつ」

「私はたまにバート・ガルサスという男の恐ろしさを思い知らされる」


 自分の娘同然に愛するシャーリーの為に、プライドをそこまで捨てられるバート。

呆れと感心の混ざったコメントをする二人だが、土下座された女性たちはひたすら困惑させられただろう。


バート本人は真剣に、友人達の助言を求める。


「僕はどうすればいいと思う?」

「娘を追いかけ回るのはやめろ」

「娘の隠し事を詮索するのは感心しない」

「正論しか言ってない!?」


 シャーリーが誰のためにバレンタインチョコを作っているのか、分かり切った話である。

この物語はハッピーエンド以外ありえないので、忠告なんてしようがなかった。


とはいえバート本人は悩んでいる様子なので、ドゥエロは頭を働かせた。


「地球の文献を読んだのだが、バレンタインの由来は我々軍人にも少し関係があった。
地球ではその昔、士気に悪影響を与えることを理由に兵士の結婚を禁じていたらしい」

「へえ、そうなんだ……タラークでも子を作ることさえ許されているのに」

「結婚を望む若い兵士の嘆きを聞いた当時の司教は、密かに結婚式を執りおこない、愛の祝福を与えたそうだ」

「思い切った事をする司教だな……国の命令に歯向かったんだろう」

「禁令に背いたことが発覚した司教は投獄され、やがて皇帝の怒りを買い、処刑されてしまう。
のちに司教は愛の守護聖人として崇敬され、殉教した日は「聖ヴァレンティヌスの日」となったのだ」

「それがバレンタインの日になったということか」


 単純な蘊蓄なのだが、思いの外考えさせられる話となった。

なにしろカイ達も国の思想に歯向かって、故郷を相手に戦っていたのだ。

恋愛という浮ついた話ではないが、自分達が正しいと信じて行動した司教には思うところがあったようだ。


バートはしっかりと頷いた。


「そうだね、僕もシャーリーの気持ちを信じてあげないといけないな」

「そういうことだ」

「ありがとう、ドゥエロ君。いい話を聞かせてもらったよ!」


 落ち込んでいた気持ちが立ち直ったのか、バートは礼を言って去っていく。

彼が部屋から出ていった後で――


カイがドゥエロに尋ねる。


「今の話、相談事と繋がっていたのか」

「いいや」

「おい!?」


 恋愛でこそないけれど。

チョコレートの事で明るく話せる絆はある。






























<END>







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