自分にできるコト



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『メイア、そっち!!』

仲間の声がドレットの中に響く。
「っく・・・。」
なんとか、敵からの攻撃を回避するメイア。

『おい、無事か?!』

聞こえてくる、男の声。
ふっ、と口の端を歪め皮肉たっぷりで返す。
「お前じゃないんだ。無事にきまっているだろう。」

『・・・へっ。むかつく野郎だぜ。』

男・・・ヒビキも憎らしげに答えた。

『宇宙人さん、違うよ!』

そこへ、その会話を聞いていたのか別の声が割り込んでくる。
元気で無邪気なかわいらしい声。

『リーダーは、女だから ”野郎 ”じゃないよ。』

ディータは嬉しそうにヒビキにつっこみを入れた。
ぐっ・・・、と小さく呻く声がした後大きな声で怒鳴るヒビキ。

『う、うるせぇっ!そんなことぐらい、知ってらぁっ!!』

声と同時に黒い宇宙の闇に黄色い機体が踊り出た。
敵の機体を手当たりしだいに壊していく。
赤く、オレンジ色の爆発が点々と咲いた。
「・・・ふっ・・・。」
微かに笑うメイア。
そこへー・・・。

『っ?!きゃぁあぁぁぁっ!!!』

「っ?!ジュラ?!」
仲間の悲鳴が聞こえると同時にものすごいスピードで敵の機体がメイアのドレットに突っ込んでくる。
激しい衝撃がメイアを襲った。
「っあああっ!!!」
思わず、悲鳴が上がる。

『メイアっ!!!』
『リーダーっ!!!』

ヴァーネットとディータのドレットがその機体を打ち落とす。
その先は・・・名も無き星。
引力には勝てないのか、引きずり込まれるようにして落ちていった。

メイアのドレットにアームを差し込んだまま。

『メイアァァッ!!!』

「っ!!・・・私のことはかまうな!」
それだけを言うのが精一杯だった。
星の周りにある厚い雲に入る前に、ヒビキとディータの機体が合体し
すべての敵の機体が破壊されるのが見えた。
少しほっ、とするメイア。
あとは、自分のことだけを考えればいいのだ。
仲間との通信は星のジャミングで雑音が聞こえるだけ。
あとは、落ちていく自分の機体。
敵の機体は大気圏で粉々に砕けていた。
さいわい、ドレットには大気圏にも耐えられるように出来ていた。
いや・・・。
「・・・あの時に変化・・・進化していたの、か・・・?」
ヒビキとディータとジュラと・・・自分に起きた ”精霊との接触 ”。
しかし、今は悠長に考えているわけにはいかなかった。
このままいけば、地面との激突は間苦れない。
コントロールレバーに手をかけ、ぐっ、と引いた。
エンジンが起動し落下することを止める。

その時ー・・。
厚い雲にオレンジ色の網のようなものが見える。
バリアだ。
外部からの攻撃のため。そして・・・。
中から人が出れないように。

   ―・・・これは、出るとき苦労するな・・・。

とりあえずほっ、と一息つくメイア。
その時初めて、自分がいる星を見下ろした。

草も木も花も・・・海さえもない、星。

「・・・。」
そのまま空を飛びながら、生存者がいないかを見てまわった。
これも、なにかの縁だろう・・・、と思いながら。
その時ー・・・。
「・・・!」
いた。
人影が見える。
すぐさまドレットを急降下させる。
そこは、ちょうど人影の目の前に降り立つようになった。
停止させ、ハッチを開けて外に出るメイア。
人影は、男だった。
メイアと同じ歳ぐらいで、ぼさぼさの黒髪の下からは
少し驚いた表情が見えていた。
「・・・ここの者か?」
「・・・あ、あぁ・・・。」
頷きながら返事をする男。
そこでふと、考えている自分がいることに気がつくメイア。
少し前・・・いや、ヒビキ達と会う前だったら、
こんなふうに声をかけずなかっただろうに、と。
そんなことを思い、くす・・・、っと笑ってしまう。
「・・・で、あんたは誰なんだ?」
不思議そうな顔をする男。
しかし、もっともな質問である。
「私はメイア。この星の真上で砲撃を受けて、落ちてきたんだ。
仲間と連絡が取りたい。
すまないが、ここでジャミングがかからないところはないか?」
「ない。」
「・・・なんだと?」
あまりにあっさりとした答に、疑問の声を返す。
「ないんだよ。ここにはそんなもの。
ここは・・・突然の自然変化で人間が生きていけない星になったんだ。」
男は、疲れきったように言葉を続ける。
「水も食料もなくなって・・・。そして、最後には
人間同士が争って・・・。」
そこまで話すと、苦しそうな表情をした。
「いや、すまない。
君には関係ない話だった・・・。」
「いや・・・そうか。分かった。」
メイアもこれ以上の話を話させるのは酷だと考え、頷いた。
「・・・お前は、ここでなにをしているんだ?」
「生きている間に、何かできないかと考えて・・・探していた。」
それは、本当のことらしかった。
男の目には迷いがなかった。
その目をみつめた後、少し考えたメイアは言った。
「宇宙には私の仲間がいる。
どうだ、一緒にくるか?」
「・・・。」
今度は男が考える番だった。
ちらっ、とメイアを見てからこっくり頷いた。
「頼む。」
「分かった。じゃぁ、私のドレットに乗れ。」
頷き、小走りでドレットに乗り込む男。
「しかし、この星を取り巻くバリアをなんとかしなければ、出ることはできない。」
「・・・それなら、俺に考えがある。
「しかし、その前に・・・少し寄ってほしいところがあるんだが・・・。」
「・・・分かった。」


男の行きたい場所は、少し高い建物だった。
「メイアは、そのまま乗っていてくれ。」
そう言って中へと入っていく姿を見ながら、メイアは
家族に別れの挨拶かなにかをするのだと思っていた。
しばらく待っているメイアの耳に、ヴォン・・・、という低い機会音が空から、
ドレットのスピーカーから先程の男の声が聞こえてきた。

『さ、これでこの星から出られるぞ。』

「・・・どういうことだ?」

『バリアを解除したんだ。』

「そうか、では早くこっちに戻って来い。」


『それは出来ないんだ。』



―・・・さっきの、男の迷いのない目・・・。



「なぜだ?!」

『ここのバリアは誰かがいないと作動しない代物なんだ。
だから、俺はいけない。』

「っ?!」



―・・・さっきの、男の迷いのない目・・・。



「なんで・・・っ?!」

『言っただろ。”生きている間に、何かできないかと考えて・・・探していた。”・・・って。』



『これが、その ”できること”なんだ。』



「勝手なことを言うなっ!!私は・・・!」
ダンッ、と手を叩きつけるメイア。
「私はそんなこと、望んでいないっ!!!」
はぁ・・・はぁ・・・、と肩で息をする。

『メイア。』



―・・・さっきの、男の迷いのない目・・・。



『行け。』



「っ!!!!」
ぐっ、レバーを引く。
風を巻き上げながら飛び立つドレット。

『ありがとう、メイア。』

「・・・せめて、名前だけでも連れて行く。」
その言葉にくす・・、っと笑う声がかろうじて聞こえる。
雲は、目の前だった。
ジャミングが・・・目の前だった。
「早く言えっ!!」
・・・メイアの頬に雫が一筋、流れた。



『          』



ー・・・雲を抜けると、そこには黒い宇宙と瞬く星と・・・。

『・・・!リーダーッ!!』
『もう、心配させるんだから!』
『へっ!くたばったかと思ったぜ。』
『宇宙人さんっ!!』

・・・自分の ”できること ”がある、帰る場所があった。


優しく、微笑むと頬を拭う。
そして・・・小さな声で、メイアは、言った。



「・・・ただいま。」





















<終>

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