侵食する。すべてを侵食する。喰らい、咀嚼し、消化し、力とし、さらに大きなものを喰らう。それはそうするために生まれてきた。絶対にとまらない。すべてを埋め尽くすまで止まらない。あがらうことは適わない。それに弱点は存在しない。言うなればそれは集合体。小さな小さな集合体。小さいから分からない。小さいから気づかない。だから気づいたその時は、あなたはすでに口の中。

 

 

 

Vandread−Unlimited second stage

  OUTSIDE:永遠を求めた者達9

 

 ガガガガ……!!

 

 スパコンから異音が起こる。部屋中の起動されたパソコン全てから異音が起こる。

「ちょっと、ホントに大丈夫なわけ!?」

 ジュラが冷や汗を浮かべながら言った。

「大丈夫、大丈夫。何度もやってることだし」

 当のアイリスは椅子にもたれてぼんやりと進行、もとい侵食状況を見ていた。

 

 アイリスが組み上げたのは言うなれば「すべてを喰らい尽くすウィルス」である。

 ウィルスといったところで作りはシンプル。

 ぶっちゃけて言えば、円周率計算。

 円周率は3.14うんたらかんたら……、と無限に続く。現在では10億桁ぐらいは解明されているそうだが、いまだ先の見えない現代の神秘だ。

 普通のパソコンでこれを行えばまずクラッシュは必至である。

 世界最高のパソコンを使っても100億行ったら逝くだろう。

 それを……、並列処理させているのである。部屋中のパソコンに進入させ、いくつも同時に円周率計算を行わせる。メモリは瞬く間に食い尽くされ、パソコンは緊急停止をかけるだろう。だが、止められたと同時に新たな計算を起動させ、ループさせる。

 するとどうなるか……、問答無用でパソコンは逝く。

 

 ガガガガガ……!!ボシュッ!!

 

『!?』

 スパコンの一つがオーバーヒートする。

「そろそろいいかな?」

 スパコンがウィルスの駆除に追われているうちにこっちはやることをやらせてもらう。

 セキュリティ系のシステムにアクセスし、バグが発生していないかチェックする。発生していれば、そこを基点に攻略は可能になる。

 

 ……思ったとおり、プログラムをのリンクエラーを起こしていた。お互いを守っていた、プログラムが綻びた様だ。

 

 修復される前にここから道をこじ開けて、メインシステムにつなげる。

 

 “メインシステム呼び出し……管理コード02jcvlksu28dj……”

 

 すぐにシステムが答えた。

「ま、こんなもんね」

「おい!このままにしといていいのかよ!!」

 悲鳴を上げまくるパソコン達にヒビキが焦り始めた。それでなくとも、すでにいくつかのスパコンがショートを始めている。

「こうすればOKよ」

 アイリスはメインシステムの管理者コードを自分用に書き換えてからシステムをリセットする。

 すると、あれだけ乱舞していたモニターが落ち着き、回復し始める。

「これで、システムには自由にアクセスできるようになったわよ。管理用のデータがいくつか飛んだけど、ま、星自体機能してないから問題ないでしょ」

 

 一応ため息。

 

「なら、情報を引き出せるだけ引き出しておこう。発電施設までの道のりくらいは飛ばずにあるだろう」

「OK。なら、検索かけてみるわ」

 アイリスのキータッチが再開される。システムは、今度は従順にアイリスに従った。

 

 

 ***  ***

 

 

 果たして、アイリス達は発電所の前にたどり着いた。

 

 システムが飛んだとはいえ、それでも生きているパソコンで機能の保全を行っておき、体裁だけは整える。

 ちなみにMAPの類はかなりの量蓄えられていた。あのメインコントロールルームは軍事基地のシステム管理用だったらしい。

 軍のシステムならあの堅固さもうなずけるというものだ。

 

 さて、発電所の前にやってきた一行。改めて目的の確認を行う。

「調べるのは2点。発電された電気がどこへ向かっているのか。そして、例のビーコンの発信点への道順の発見だ」

『ラジャー』

『了解』

「……かといって」

 ヒビキが目の前にそびえる発電所を見上げる。

「機関室がどこにあるのか傍目じゃ分からないぞ。これ」

 発電所は20世紀風の工業施設。しかも、パイプやら煙突やらが氾濫した、確かに傍目から見れば入り口すら見失いそうなつくりである。

「派手な作りはしているけど、そこそこ道順は分かりやすいみたいよ。」

 情報を落とした端末を見ながら、バーネットが言う。

 なぜ、軍の施設に発電所の内部図まであったのかは激しくなぞではある。

「行くぞ。基地で時間を食いすぎた。急いだほうがいい」

 

 

 

「次を左、500メートルで右……」

 ぞろぞろと張り出した通路を歩く。あたりには鉄の錆びたにおいが充満し、空気が悪いことこの上ない。

「最悪……何を考えてこんな風に作ったのかしら」

 ジュラが鼻を押さえながら、ブツブツとつぶやく。いや、女達は全員臭いに辟易している。平気なのは工場育ちのヒビキとブザムくらいだ。

「この上が管理区画のようだな」

 端末を確認し、上を見上げるブザム。

「ん?」

 何かを見つけたのかブザムの目が細まる。

「どうしたの?」

「……パイプの間で何か動いたようだ」

『―!?―』

 ブザムが言うならその通りだろう。全員があたりを見回し始める。だが、それらしき動きはなさそうではあるが。

「急ぐぞ。ここで騒ぎを起こしたら爆発もありえる」

 行って走り出すブザム。全員が後に従った。

 

 

 旧式のエレベーターを乗り継ぎ、ようやく管理区画に到着した。

 アイリスもここにくるまでにいくつか気配を感じ始めている。誰かに監視されている感じがするのだ。

「メイア、バーネット、ビーコンの情報と電力の供給図だけで構わない。やってくれ」

『ラジャー』

 メイアとバーネットが機器に取り付く。さすがに基地ほどのセキュリティはしているまい。

「何が来るかしらね」

 扉に張り付き、外の様子をブザムとアイリスの二人で見張る。

「さて、、ナンだと思う?」

「気配は四方からしたけど、はっきりした生き物の気配じゃなかった。どうせ、小型の修理メカか何かでしょう」

 銃を引き抜き、ジャカッとスライドを引いてアイリスは答える。

 

 ……ゴウゥンゴゥンと無機質な音が数分間場を支配する。

 

「副長、終わりました」

「よし、すぐに撤退を……、??」

 振り向いてから視線を戻したとき、通路の真ん中に奇妙な物体があった。小さい20センチほどの半球体。それに6本の脚が生えている。

「…………」

「副長……?」

「シッ」

 ディータの小声を制する。そのとたん、半球体が動く。こちらに目らしきレンズを向けて何かをやっている。

「……激しく、まずうい状況だと思いますけど」

「あぁ、私もそう思っていたところだ」

 半球体がなにやら赤い光を点滅させた。とたん、

 

 ザザザ……!!

 

 管理室の四方八方から音が響いてくる。

「くっ……!囲まれていたか」

 10秒もさっか音が響いただろうか。一瞬だけ静寂が戻り、

 

 ドン!!

 

 通気口をぶち破って大量の半球体がなだれ込んできた。

「い……っ!?」

「なっ……!!」

「なんだぁぁ!?」

「走れぇぇぇぇ!!」

 換気口と同じように大量の機械が集まりだした入り口を、アイリスが風呪文でなぎ払う。

 その一瞬の隙を縫って全員が駆ける。

 半球体は一瞬で管理室を飲み込み、うねるようにアイリス達を追いかけ始める。まるで軟体生物のようだ。

「いやぁぁぁぁ……!!」

「どこに行っても、我々のような者は歓迎されないらしいな!」

「どっかで聞いた台詞ねそれ!」

 走る。そしてたどり着いたのは、一つ目のエレベーター。これに乗らないとどこにも逃げられない。

「早く!」

 アイリスがしんがりに残り、全員を乗り込ませる。

「すべての温度を奪い去り、すべての元素は停止せよ……」

 両手を組み、呪文を唱える。次に手を広げるとそこに小さな魔法弾が形成される。

「急げ!」

「食らっときなさい!」

 それを機械の津波に叩きつける。

「解離!!」

 次の瞬間、打ち込まれた津波を巻き込んで周囲一帯が一瞬で氷結する!

 それを確認してアイリスもエレベーターに飛び乗った。

「やったのか!?」

「ただ、凍らせただけ!追いつかれるわよ!」

 

 

 エレベーターで階下へ。

 廊下へ走りでたところで、エレベーターに強烈な衝撃がかかった。

「もう来た!?」

「こっちへ、早く!」

 バーネットが端末を持って、皆を誘導する。近くに出口があるのだろうか。

 

 ゴガァァン!

 

 エレベーターが爆砕し、津波が押し寄せる。

「ちぃっ!しつこい!」

「もう少しよ!」

 アイリスはリュックに手をやる。すると、ひとりでに一つの筒状のものが飛び出してきた。

 それを手に取り、真ん中から捻ると、津波に投げはなった。

「ばか者!グレネードか!?」

「チャフよ!!」

 破裂したグレネードは破裂の衝撃で、大量のアルミ片を撒き散らす。無線で動いているはずのこいつらからしてみれば、リンクをいきなり断線させられるようなものだ。

 機械達はいきなり床にその身を投げ打って止まる!

「さぁ、今のうち!」

 

 チャフの効果は10秒持てばかなりいいほうだという。

 すぐにリンクを取り戻した機械達はすぐに追撃を再開する。

 そのころにはすでに全員は出口についていた。

「ここよ!」

 ハンドルタイプのロックを解除し、中に飛び込む。分厚い扉を蹴り閉めると内側のハンドルを回そうとするが、

「くそ、硬い!!」

 外と違って、こっちはかなり錆がいっているようだ。

「“閉じよ”!」

「なっ……!」

「うおっ!?」

 アイリスがハンドルに手をつき、唱える。と、硬かったはずのハンドルは自ら回転すると、ガチンと音を立てて閉じられた。

 直後に、あの津波が殺到したのか、鈍い音が響いた。

 

「……あぶねぇ、危機一髪だな」

 ヒビキ達が座り込んでしまった。

「でも、扉が持たないんじゃないの?」

 息を整えながらバーネットが汗をぬぐった。

「しばらく大丈夫だと思う。扉はシェルター用の分厚い奴だったし、“錠前”の呪文で封印もかけたし」

 あんなのに捕まっていれば全身串刺しにされて一環の終わりである。

「ねぇ……、みんな」

 ディータが声を上げた。

「どうしたの?くだらない……ことだったら…ハァ…ぶつわよ」

「この廊下、なんだか感じが違うよ」

『え?』

 言われて、全員が先の廊下を見る。

「……確かに」

「何だ?様子が一変しやがったな」

 廊下は廊下だったが、さっきの発電所のように油にまみれた壁ではない。しかも明かりは壁に埋め込まれた照明である。

「いきなり文明が進化した感じね」

「場所は分かるか?」

 ブザムが先を見据えながら言った。

「はい。この様子だとビーコンの発信地点に向かっているようですが」

「こんな場所から?何キロあると思ってるのよ」

「行くぞ。理由はともかく、調査が最優先だからな」

 息を上げる一同を叱咤し、先へと歩き始める。

 

 違和感を感じたのは、ジュラが最初だった。

「ねぇ、何だかおかしくない?」

「何が?」

「私達どれくらい歩いたっけ?」

3分くらいじゃねぇか?まだ」

 何を言うのかとヒビキが答えた。

「じゃあ、もう入り口が見えないのは何で?」

『はぁ?』

 全員が元来た道を見やる。すると、

「あれ……なんでもうみえねぇんだ?」

 はるかに続く廊下の先、元来た入り口ははるか闇の中に消えてしまっている。

「こんなに早く歩いたっけ?」

「まさか、それでなくても息上がってるのに……、ってメイアと副長は?」

 前を行く、副長とメイアの姿が無い。

「ど、どうなってるのよ。コレ」

「罠って可能性も……」

 いきなりのことに全員して慌てていると、

「何をしている?」

 メイアが来た。さも当然のように廊下の先から。

「え、メイア……?」

「どうした、無駄話をしている暇は無いんだぞ」

「あ、うん」

「早く来い」

 言って、振り向いて歩きはじめる。と、2・3秒でバーネットが異常に気づいた。

「ちょ……メイア!?」

「ん?」

 振り向くメイア。

 メイア以外が完璧に異常に気づいた。唖然としてメイアを見ている

「な、何だ皆揃って……」

 10メートルくらいの距離で、メイアは一歩下がった。

「ちょっとまってよ……もしかして」

 アイリスが、何かに気づいたらしい。

「ちょっと、ディータ。一歩だけ踏み込んで思いっきりジャンプしてみて。メイアに向かって」

「え、いいけど」

 と、ディータはその場から一歩だけ踏み込んで、ポーンと飛ぶ。メイアに向かって。

 だが、実際に飛んだのはメイアをさらに追い越すほどの大ジャンプである。

『えぇぇぇっぇぇ!?』

 メイアもさすがに気づいた。

 ディータは言っちゃ悪いが非力である。脚力もそうだろう。それをたった一歩の踏み込みで10メートルを飛び越えるとなると、何らかの力が働いているとしか思えない。

「すっごーい!何コレーー!!」

「ななな・・・」

 ディータは楽しそうに騒ぎ出し、メイアは改めて唖然としてディータを見る。

「とりあえず、歩きながら考えましょうか」

 

「考えられるのは、何らかの空間的力場が空間を捻じ曲げてるんだと思うけど……」

 30秒と走らずにブザムに追いつき、驚くブザムに事情を話し、歩きながら会議である。

「だが、この星の今の科学でそれが可能か?」

「そうよ、上の文明から考えてそんな力を起こせるような感じはしないわよ」

「だから、考え方を変えるのよ」

「変える、とは?」

「上の20世紀の地球風の文明そのものが嘘だったとする」

『はぁ?』

 アイリスの一言に皆が一様に声を上げた。

「馬鹿な。まさか、この力を隠すために文明一つ丸ごとでっち上げたとでも言うのか?」

「そう考えれば、あの基地が存在するのが説明つくわ。あの機動兵器にしてもね」

 理由は簡単だ。何かを隠すために上辺を変えてしまえば、その奥に踏み込もうとするものは少ない。

 しかも、人類がまだ地球上から飛び立つ前の20世紀に合わせてしまえば、誰が地底のそこに宇宙船の基地だとか、力場を変えるこんな廊下があるだろうとは思わない。

 何につけ、人というものはある一定以上の理解の境界を越えると、存在そのものを否定する生き物である。

「どんないきさつであれ、どんな理屈であれ、こんな真似ができるのはあいつらだけよ」

「地球人……」

 メイアがつぶやく。

 ほぼ、同時に大きな扉が姿を現した。