VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 6 -Promise-






Action6 −過去−




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 どんな事があっても傷ついたりしない強さ。

かつて、そして今現在も尚求めていたであろう凛々しくも逞しい鋼の心をメイアは求めていた。

強さへの渇望を心に秘めて他者を拒んでいたメイアではあるが、重傷を負ってしまった今は理念とは逆に弱りきっている。

ドゥエロの治療と看護婦のパイウェイの努力も、メイアの容態を安定化させるには到底至らない。

時間が流れれば流れる程脳波・心拍数の反応は衰えて、呼吸も徐々に荒くなっていく。

呼吸器を口に当てたメイアは診療台に寝かされたまま、瞳を閉じて辛そうに息を乱していた。

血も満足に拭われていないメイアの有様は目を覆わんばかりで、命の脈数は途絶えつつある。

素人目から見ても回復して行っているとは言いがたい様子であり、容態を正確に知るドゥエロは辛い心情にいた。

これまでは自身の知性と能力を自覚して、出来ない事はなかった自分の人生。

完璧な経歴も背中に担っており、ドゥエロはこれまで困難と言える壁をぶつかった事はこれまで一度もない。

順風満帆とも言える人生を過ごしてきた、タラークより海賊達と事態の成り行きに強制的に巻き込まれてもそれは変わらなかった。

全ての障害を乗り越えられる自信があったからこそ、それゆえに未来に退屈すら感じていたのだ。

なのに、今目の前で苦しんでいる患者すら満足に救えない。

怪我を負っているのはメイアだけではないのだ。

他にも沢山のパイロット達が次々と医療室に担ぎ込まれており、彼女達の治療も行わなければいけない。

幸いパイウェイの助力があって現状はどうにかなっているが、自分一人では満足に助ける事は出来ただろうか?

汗水を流して無力な自分を振り返り、ドゥエロは初めて自嘲的な表情を浮かべる。

同時に女達を一人でも多く助けたいと、メイアを何としても救いたいと感じている自分に驚きがあった。

生物的な興味しかなかった筈のメジェールの女達に対して、自分の知性・体力を総動員しても助けようと頑張っているのである。

タラークの人間が見れば、士官学校の生徒達が教師達が自分を見れば、間違いなく腰を抜かして驚くだろう。

どうして自分はここまで懸命に最善を尽くそうと頑張るのだろうか?

ドゥエロは考えて、以前のブリッジでのモニターのある光景を思い出す。

自分を囮にして女達全員を逃がし、尚且つ絶対的不可能な状況を生き延びた男カイ。

絶望的な命の危険を、三等民に過ぎないカイが独力で乗り越えたのだ。

自分には予想もつかない方法で。

それなのに、同じ星の同じ男である自分が命を救えずしてどうするというのか?

少なくともカイは自分の仕事をこなしたのだ。

医者である自分もまた仕事をこなし、その使命を果たさなければいけない。

目の前の死に逝こうとしている患者も救えないのなら、自分に医者を名乗る資格はない。


「パイウェイ、もう一度頭部の診察を行ってみる。
その間、君は他の患者の手当てに回ってくれ」

「ドクター、メイアはどんどん悪くなっていっているんだよ?
先に治療を・・・・」


 まだ幼い女の子である筈のパイウェイもまたメイアの身を案じている。

ドゥエロは改めて自分の助手を見直して、対等な立場としての意見を投じた。


「戦況は恐らく我々に不利な形で傾いている。怪我人はまだまだ続出するだろう。
メディティカル・マシーンでは、自ずと限界が来る。
今の内に少しでも多くの患者を手当てしなければ、戦況を覆す事も出来ない」


「でも・・・・」


 メイアの惨状を見たまま動けずにいるパイウェイに、ドゥエロは傍によって身を屈める。


「パイウェイ」

「な、何よ・・・?」


 身長の高いドゥエロが同じ視点で自分を真剣に見つめている。

パイウェイは半ば焦りと動揺で心臓をドクドク脈打たせながら、ドゥエロの視線を見つめ返した。


「メイアには思い切った延命手段を取る必要がある。
このまま手術を続行すれば、メイアは体力が持たずに死ぬ。
通常の治療に専念しても回復させるのは不可能だろう。
そのための再検査であり、助けるために必要な処置なんだ」


 そこまで言い切ってドゥエロはすくっと立ち、パイウェイの肩にナース服越しに手を置いた。

はっと顔をあげたパイウェイの目に、普段にはない優しい瞳を宿したドゥエロの顔がある。


「私は君を信頼している。だから、今だけでも私を信用してくれないか?」

「ドクター・・・・・」

「皆を助けたいのだろう?メイアを助けたいのだろう?」


 医療的措置の結果から、ドゥエロはメイアの容態悪化の原因を頭部と睨んでいた。

そこで頭部の怪我に徹底した診察を行う事により、最優先で治療を行う事にしたのである。

身体への負担は治療進行が損なわれるので、当然体力が鈍って心肺機能の衰えはさらに進むリスクはあった。

しかしこのままメイアの死を迎える危険性を考慮すれば、とドゥエロは思い切った賭けに出たのだ。

並々ならぬ一人の医者としての決断に、看護婦であるパイウェイはただ一言こう言った。


「・・・・・・うん!」


 心強い返事と力のある笑顔に、ドゥエロもまた口元を緩めて頷いた。


「すぐに開始してくれ。私も再検査に取り掛かる」

「分かった。ドクター、お願いね!」


 二人はそれぞれに役割をもって、再び自分の仕事に戻った。

ドゥエロはメイアの頭部にメジェール最先端の医療装置を当てて、頭部の怪我の内容を見るべくとり行う。

医療装置のセンサーからの診断映像が映し出されるのを見て、ドゥエロは目を見開く。

メイアの脳内映像、そこにはペークシスの破片がいくつも突き刺さっており微量な光を放っていた。















 人は夢を見る。

精神の具現化とも言われる夢の起源は進歩した技術を持ってしても、謎の一言だった。

心身的な状態、精神的な状態、環境的な状態。

あるいはその全てが原因かは判明できずにいるが、人間の誰もが理解を超えた世界。

昏睡状態に陥っているメイアもまた、殺伐とした現実から逃れるかのように夢を見ていた。

最初に見せられたのは過去の断片映像。

形あれど音無き光景は写真的にしかなかったが、メイアを助長的な郷愁の念を覚えさせる。

次に浮かんだのは懐かしき昔の残骸。

形に合わせて流れる人達の声は、メイアの精神を懐かしさと悲しみに溢れさせた。

自分が孤独である事を再認識させられて、メイアは瞼の奥の暗闇で涙を流す。

逃れようという気持ちはない、立ち向かおうという心構えもない。

心身共に消耗し過ぎているメイアは、ただ見えてくる己の過去に流れるままでいた。

外部からの献身的な医者の治療に応える事もなければ、看護に没頭する看護婦の切なる願いに応える事もない。

身を案じる仲間達の気持ちに応える事もなければ、怒りに身を躍らせてボロボロになっている一人の仇敵に応える事もない。

人は夢を見る。

メイアにとっての夢の始まりは、闇の中の仄かに光ゆく点の数々に導かれて幕を開けた・・・・・



















『皆さん、我々のプロジェクトが遅れているメジェール母星の開発を飛躍的に進める事となるでしょう!』


 威厳ある象徴を表した模様。

鷲を象ったようなエンブレムを掲げて、演説席にて一人の女性が熱弁を振るっている。

女性は自身の情熱をそのままにしたような真っ赤な短髪を有しており、彼女の醸し出す力強い態度と発言には威厳すらあった。

演説席前には大勢の記者陣とファンが詰め掛けており、どの顔もどの顔も羨望と憧れに満たされている。

メジェール人全ての憧れであり、国民的スターの位置にいる女性。

彼女の名はギズホーン、メイアのオーマであった。

女性ではあるが、男性的な顔つきと男優的な評判を大勢の人々より得ている。

元々性格が男性的な面もあり、堂々とした態度と健康的に引き締まった体つきからオーマになるのは必然だったと言えた。

彼女が弁論しているのは一つの開発プロジェクトの詳細だった。

メジェールとはそもそもタラークと同一の星系に女性だけの惑星である。

惑星そのものは女性が住み行くにはあまりに劣悪な環境であり、環境開発を行わなければとてもではないが生活する事は出来なかった。

そのために植民時代の宇宙船団を中心とした船団を形成しており、人々はもっぱらそちらへ日々日常を過ごしている。

だが、仮にも故郷であるメジェール本星。

自然のままに浮かび行く星を見つめる度に、メジェールの女性達は惑星への移住を求めていた。

故郷への帰参、その気持ちを胸に今まで幾度となくテラフォーミングが行われてはいたのだ。

だが、計画はその殆どが失敗に終わって破棄されている。

原因はたった一つ、宇宙が設定したメジェール星の環境状態が人類の手に負えない程の酷さであったからだ。

失敗の度に人々は挫折し、いつしか故郷への移住は夢物語とまでされていた。

そこへ持ち上がったのがメジェール有数の企業が立案した一大プロジェクトである。

頭脳明晰な科学者達が集まっての大規模な母星開発研究に、企業がスポンサーとして名乗り上げたのだ。

勿論企業とて、ただボランティアで星の開発に資金を投入する訳ではない。

メジェール国民達の憧れである母星の移住を可能にする事で、自分達の企業の株を上げて利潤を生み出す為だ。

実現すれば晴れて星に住めるこの計画だが、問題がない訳ではない。

例え企業ぐるみで資金を投入した所で、星一つ全てを開発するにはあまりにも予算が足りなさ過ぎるのだ。

国民から寄付を求めるのにしても、何度も失敗してきた開発計画である。

正直な心境としてはまたかという気持ちが強くあり、懸命な人達なら誰も協力しようとは思わないだろう。

夢を見る事と叶える事ではあまりにも落差が大きい。

メイアの父親はそんな人々の不安と疑念を振り払う存在として、企業直々に頼み込んだ人物なのであった。

あるマスコミ関係者はメイアの父の演説を聞いてこう語っている。


『メジェールのスターが今度は母星の開発にスポットを当てました。
彼女をプロジェクトの顔にする事で、多くの寄付が期待されています』っと――


 企業が睨んだ経済的効果は結果として大当たりであった。

計画が成功すればメジェール星に住む事が出来て、人々の夢は叶えられるのである。

何より元来のスターとしての人気とも相成って、メイアの父の発言力は絶大であった。

国民は今回はひょっとすると、という希望を芽生えて、メイアの父を国を救う英雄として祭り上げていく。

開発プロジェクトへの寄付も企業が見込んでいた額を大幅に超えてホクホク顔であった。

マスコミ関係者達もまた連日のようにメイアの父を取材し、彼女の活躍をこぞって記事にしたのである。

かといって、マスコミ達の活動は何もメイアの父だけに留めたりはしない。

話題性のある事には何でも食いついて、メディアとして広めていく。

取材陣は父親のみでなく、その家族にまでスポットライトを当てたのだ。


『科学者であるスターのパートナー・シェリーさんも勿論開発に協力。
お二人の愛娘メイアちゃんも御機嫌な様子です』


 メイア=ギズホーン、六歳。

記者団がメイアの家に大勢訪れて、中央に立つ父親を中心にファーマやメイアにシャッターライトを浴びせていた。

父親は自慢の家族とばかりに、笑顔をたたえて二人を紹介している。

沢山のファインダーを向けられて、ファーマであるメイアの母は困ったような笑顔で立っていた。

メジェールでは有数のチーフエンジニアの彼女だったが、その性格は大人しい目なのである。

少なくともこのように脚光を浴びた事は彼女の生涯で一度もなく、取材を受けても返答は常に凡庸であった。

母のそんな気質を理解しているのか、メイアの父は常にフォローはしている。

返答に困る質問ならスターである父親が代わりに答え、決して矢面に立たせなかったのだ。

母の優しさと父のオーマらしい気遣い。

二人がこれまで夫婦円満に生きてこれたのも、こうした相性があっての事である。

世間に立つ事に不慣れな母親であったが、娘はというと少し違っていた。

シャッターライトを浴びせられ、大勢の大人と向き合っていても、その可憐な表情に戸惑いこそあっても気後れした様子は微塵もない。

6歳という典型的な育ち盛りの女の子、メイア。

取材に応じるために着替えさせられたドレスがとてもよく似合っており、その愛らしさは将来を楽しみとさせる魅力があった。

愛娘の怯える様子のない姿に、両親は揃って笑顔を向ける。


『まあ、しっかりおすましして・・・・』

『スターの素質、十分だな』


 娘の将来に頼もしさを感じつつ、二人はメイアに抱き寄せた。

仲睦まじさの見本のようなスターの家族模様に、記者達はますます活発にカメラを向けた。

大人達の憧れと好意の混じった表情を向けられて、メイアは自分が皆に注目されている事を知る。

正確には父親の娘という焦点しか当てられていないのだが、まだ六歳の少女はそんな事実を理解できる訳はない。

自分が人気者である事を自覚した少女は、戸惑いを歓喜に変えて笑顔をカメラに向けた。

純真無垢な微笑み、スターの遺伝子を持つ少女の笑顔は人々を虜にするのに時間はかからなかった。

記者達もメイアに目をつけて、取材やCM出演を要望する。

母は反対気味だったが、父はどちらかというと賛成派であった。

事実メイアは大いに乗り気であり、大人達の前に立つ事に喜びすら感じている。

自分が国民的スターの娘であり、今やメジェールの女性達に大人気である事に満悦だったのだ。

その後メイアは連日してテレビに顔を出して、出版関係にも軒並み顔が映し出されていった。

確かに父の人気に後押しされてだったが、メイアは六歳ながらに群を抜いた美少女でもある。

国民達に向けられた満面の微笑みは人々を一心として、メイアを幼いスターとして持ち上げる。

スターとしての栄光は少女を取り込んで、純粋だった心に人気者特有の傲慢の芽を植え付けてしまう。

大人達にちやはやされる事で自らのアイデンティティを確立し、独自の内面を育てていってしまったのだ。

自覚が出ていたのは幼少より成長した十四歳時、大人への意識が生まれる時期である。

企業が進める開発プロジェクトは予定よりも遅れてはいたものの、一部の人間達を試験的に星へ移住させる事には成功していた。

メジェール惑星上に人間が住める人為的な環境を開発し、そこに人々を住まわせたのだ。

当然母星への開発の期待も高まり、人々はこぞってメイアの父の功績を称えた。

プロジェクトを提唱してから数年間が過ぎ注目されるに従って、メイアの両親達への注目度もまた増していった。

比例してメイアも大人子供問わずに注目されるようになり、一般人とはとても言えない程の人気ぶりがあった。

十四歳もなってか思春期特有の魅力も成長して、メイアはますます美しくなっていく。

しかし内面の芽も葉が開き花となって、メイアの性格もますます増長させるに至ってもいた。

それが顕著に現れたのがクリシマス、家族で過ごしていた時である。

たとえどんなに忙しくても、クリスマスのような家族行事には両親も家にいるのが家族の決まりだった。

父親がメイアと共にクリスマスツリーを飾り、母親がご馳走を並べていく。

暖炉に火も点されて、家の中はクリスマスモード一色に染まっていった。

通年通りの予定だとまず家族で食事、その後にメイアにクリスマスプレゼントが渡される筈だった。

ところが待ちきれなくなったメイアが、母親にごね出したのだ。

料理なんて後でもいいからプレゼントを先に欲しい、と。


『ねえ、いいでしょう!』


 昔から幼いスターとして自分の望む物を何でも与えられてきたメイアである。

父親譲りの勝気な気性と芽生えた我侭さに、母親はたしなめる様に言った。


『さあね・・・オーマに聞いてごらんなさい』


 母からの言葉を了承と受け取ったメイアは嬉々としてプレゼントに飛びついた。

暖炉の前で座っている父親に聞く事もなく、である。

メイアは自分の父を誰よりも尊敬し、そして自分もまた父親に誰よりも愛されていると信じて疑わなかった。

自分の行為に反対する訳がないと踏んで、メイアは準備されていたプレゼントの箱を開けた。

綺麗なリボンで包装された箱から出てきたのは、シックなデザインのオルゴールだった。


『わあ〜、なにこれ〜♪』


 思いがけないプレゼントに喜び満点の笑顔を浮かべて、メイアはオルゴールの蓋を開ける。

中には小物を入れるスペースがいくつかと、蓋の裏側に眩く反射する鏡が装飾品の一部として添えられていた。

開かれたオルゴールからは優しく切ない音色が流れてくる。

うっとりとしてオルゴールを聞き入るメイアに、父親は満足したように言った。


『”この素晴らしき世界”といって、我々の祖先である地球の曲さ』


 クリスマスにプレゼントされたこのオルゴールはメイアの生涯の宝物となった。

大好きな父親と母親からのプレゼントなのだ、メイアは常に大切に大切に保管していた。

その後両親に愛されて育ったメイアだったが、常に大人達の人気の的となっている父親をより一層尊敬の念を募らせていった。

一大プロジェクトの顔としての責任は相当なものだったはずなのに、父親はいつも堂々としていた。

その父を見て育っていったメイアも、少しずつ男性的な性質が備わっていく。

御しとやかな母親とは対照的ではあるが、メイアにすればそれで良かった。

メイアは母親は確かに好きではあったが、静かな面を持っている母を尊敬するには至らなかった。

むしろマスコミ関係に怯む母親を弱い人間だと心の中で蔑ずんでもいたのだ。

こんなエピソードがある。

メイアが母親が大切にしていた父親からのプレゼントである髪飾りを持ち出してしまったのだ。

無論、許可を得ている訳ではない。

堂々と母の部屋から持ち出したメイアは髪飾りをつけて、洗面台の鏡に向かってポーズをとっていた。

見咎めた母親はメイアの背後からため息の混じった笑顔で言う。


『それはオーマからのプレゼントなのよ。とうとう自分の物にして』


 エプロン姿での頬の緩んだ表情からは、娘を怒る気持ちも咎めようとする気持ちも見受けられない。

髪飾りをないがしろにしている訳では当然ない。

むしろ自分の愛するオーマからプレゼントされた大切な髪飾りなのだ。

豪華な装飾のついた高価な代物で、プレゼントされた当時は感激で涙が出た程である。

問題なのは自分の大切な娘がそれを着けていると言う事である。

あまり強く言う訳にもいかず、元来の優しい性格が母としての毅然とした風格を持ち合すには及ばなかった。

母のそんな気弱な態度を鏡越しに見て、メイアは馬鹿にしたように言いのける。


『いいじゃん!これ、母さんより私のほうが似合ってるよ』


 そのまま母親が止めるのも聞かずに、メイアは髪飾りをつけたまま遊びに出かけていった。

母親も止める事が出来ずに、結局見送るしかなかった。

メイアへの愛情があっての事なのだが、メイアは母の態度を軟弱としか捉えなかった。

両親に見守られて成長はしていくものの、あくまで身体面での事である。

精神面は肥大化していく傲慢さに乗っ取って、メイアの素行を徐々に悪くなっていった。

不良仲間との付き合い、対立した人間との喧嘩。

自室も荒れ切っており、勉強もせずにメイアは夜遅くまで遊び歩いて回った。

その度に母親が部屋を片付けたり、迷惑をかけてしまった人達に謝罪したりしていた。

強くは言わない母、スターとしての仕事に忙しい父。

家庭環境はメイアに幸福と、円満である事への当たり前さを教える。

自分が幸せでいる事に何の疑問も持たず、自分が愛されるのを当然と感じていたのだ。

親の教育が間違っていた訳ではない。

むしろメイアを不自由なく育て、メイアを快活に成長させたのは立派である。

メイアとて増長はしているが、両親は二人とも大好きだった。

問題なのはメイアそのものであったと言えるだろう。

環境が育てた不純さがメイアの心を蝕み、優しさや環境の明るさを基本としてしまったのである。

何にも疑問を持たず、悩む事もない。

自分がどれほど幸せであったのか、自分がどれほど大切にされてきたのか。

メイアがようやく気づいたその時には全てが遅かったのだ。

突然の爆発と炎上。

自分が住んでいた人工的環境を生み出した開発現場が、ある日突然大爆発を起こしたのである。

夜空に輝く閃光の花。

突然起きたこの事故を何よりも驚愕させたのがメイアの父親だった。

仕事が終わって就寝していた時、自室の窓から強烈な光が飛び込んできたのである。

慌てて寝巻き姿で外へ飛び出した時には、事の起こりは始まっていた後だった。

扉を開けた瞬間に襲い掛かる強烈な光に、近隣を揺るがす地震。

遅れてファーマが裏口より出てきた時、メイアのオーマは悟った。

進めてきた星の開発に致命的な事故が起きた事を。

十年近く進めてようやく目処が立ちそうだった計画が足元から崩れ落ちた事を――


『すぐに戻る!』


 オーマはファーマにそういい残して、現場に急行した。

黙って見送る母親の表情は当然ながら暗い。

科学者として開発に長年関わって来たのだ、どういう状況に陥ったのか理解するのは早い。

衝撃と振動で目が覚めたメイアはパジャマ姿で二人の様子を見ていたが、その時は寝ぼけていてはっきりと分かってはいなかった。

自分が今度どのような運命を辿るかを――


『私達は騙されていたのです』


 この言葉より取り返しのつかない没落が始まった。

開発現場で起きてしまった事故。

メジェールの調査団が事実を調べ、マスコミの面々が事態の背景を調べた結果とんでもない事実が発覚したのだ。

母星上で起きた空前の規模の爆破事故、これが決して自然的な要素が重なって起きた天災ではなかったのである。

開発を進めていた企業側の致命的な手抜き、資金繰りの改竄と予算の横流し。

支援していた他の企業群との悪質な贈収賄。

次々と水面下での犯罪が明るみに出て、マスコミ達は開発メンバーに攻撃を仕掛けた。

ペンは剣より強という。

それまで散々持ち上げてきた開発者達や企業群を、記者達はこぞって悪者扱いした。

何しろ人々の為と称して行われて来た筈の開発が、一部の心無い人間達の欲望の隠れ蓑でしかなかったのだ。

人々の期待と信頼は怒りと憎しみに変わった。

その最たる対象者が開発プロジェクトの顔として前面に出ていたメイアの父だった。

国民的スターだっただけに、その失墜の勢いたるわ非難の的となったのである。

メイアの父親は開発グループが行ってきた犯罪については何も知らなかった。

ただメジェールの人々全ての為と信じて、長年懸命に頑張って来たのである。

だが、人々はスターの誠心誠意の釈明を言い訳としか取らなかった。

記者会見を開けば記者達の非難に晒される。

家に帰れば帰ればで、待ち構えているマスコミ達の怨嗟が待っている。

一転して全ての人々の憎しみと怒りをぶつけられた父親は事故以来疲弊していき、ノイローゼ気味になっていった。

今まで好意と羨望を向けられてきた事への反転は、エネルギッシュだった父親を精神的な病気にさせるには十分すぎたのである。

例えどれほど男性的でも、どれほど勝気な性質を持っていても、それでも自分達と同じ一人の女性である事を皆は忘れていた。

毎日のように詰め掛ける記者達に心も身体も弱り果てた父親は表にも出れなくなった。

外へ出れば、非難が降りかかってくるからである。

状況を重んじた母親はとうとうある決断を下した。

夜分こっそり裏口から父親を逃がす、そう夜逃げである。

この提案に当初父親は猛烈に反対した。

自分が責任を放り投げて逃げればどうなるか、その後の結末を分からない人間ではなかったのだ。

しかし母親は今までにない毅然とした態度で逃げるように強く勧めた。

自分の愛する人が追い詰められていくのを見るに耐えなかったからである。

母親の強い説得に父親はとうとう折れて、ある日の夜変装をして裏口から出て行った。

出入り口まで見送る母親に何度も頭を下げるその姿に、もはやかつてのスターの姿はなかった。

そのまま立ち去っていく父親の姿を、メイアは呆然として見送るしかできなかった。

変わり果ててしまった父、スターとして輝いていた姿がまるで蜃気楼のように霞んで消えていく。

メイアは自分が尊敬してやまなかった人間が、実は内面的な弱さを抱えていた事にようやく気づいた。

そして自分の憧憬が、自分の家庭が、自分の環境が消えて行く事に何も出来ずにいる自分を半ば自覚して愕然としていた。

次の日より、父親の非難は母親とその娘になる。

人間とはわかり易いもので対象者が消えてしまうと、それで終わりにする事はない。

むしろ裏切られた憎しみは身近な人間である罪のない親近者達に及ぼすのだ。

父親が逃げた後も数を増やして家に押し寄せる取材陣。

当然好意的な感情は微塵もなく、どの顔もどの顔も非難と怒りに満ちていた。

突然の大人の豹変にメイアは家から出る事もできずに、部屋で震えるしか出来なかった。

自分を賞賛してくれた人間達が悪鬼と化したのだ。

父親の冤罪を釈明する訳でもなく、メイアは何も出来ずに怯えるしかなかった。

そんなメイアとは対照的に、母親はというと人々の前に出て毅然とした態度で応対していた。

メイアが部屋の窓から怒り狂う人々を見つめる事しか出来ないのに対して、母親は父親の弁明を行っている。

母のその姿に、メイアは母親の本当の強さを知った。

不幸はまだ終わらない。
BR> マスコミに煽られたかのように国民達は揃ってメイア達を罵倒し、誹謗・中傷的な行為を行った。

今まで付き合って来た友人達は誰も味方となってはくれず、全員が全員離れていく。

仲の良かった友達や長年付き合っていた筈の仲間達までメイアをまるで犯罪者のように扱い、友情を断ち切った。

メイアは信じられない気持ちで一人一人に連絡したが、誰も援護も何もしてはくれない。

それどころか外を歩いているだけで、周りの同年代を非難を浴びせられるのだ。

家に入れば安全という訳でもない。

メイアの家の壁に心無い落書きをするのは日常茶飯事となり、一部の過激な人間達からはガラスに石を投げられる。

ここまでくれば悪質な犯罪なのだが、人間は悪への悪を善と捉えてしまう厄介な性質がある。

ましてや国全体でメイア達を犯罪者だと認識しているのだ。

喜ぶ人間はいても、メイア達への行為に怒る人間は一人もいなかった。

割られたガラスや落書きの処分は母親が行ってきたが、メイアはある日見てしまった。

自室にこもった母親が背中を震わせて嗚咽を漏らしている姿を。

励ましてあげたかった、大丈夫だよと言ってあげたかった。

メイアは母の悲しそうな背中に近づきたかったが、足が震えて動く事もできない。

自分が何かを言って母の苦しみを解放出来るのか?

そう考えてしまうと怖くなり、声をかける事すらできないのだ。

メイアはじんわりと涙を流して洗面所へ向かい、鏡で自分の顔を見る。

映し出される自分は無力に憔悴する無様な顔をしていた。

あまりに情けない自分に、母親も父親も助ける事の出来ない自分に、メイアはこの時初めて心の底から嫌悪した。


『くっ!!』


 そのまま思いっきり拳を叩き付けて、鏡をぶち破る。

鏡はあっさりと割れて洗面台に転がっていき、傷ついた拳から血が流れていった。

自分の弱さが、子供でしかない自分が悔しかった・・・・・















   事態はさらに最悪の方向へと向かう。

ようやくして落ち着いた筈の開発施設が再び炎上したのだ。

今度は確実に故意に行った行動であり、人々の開発プロジェクトへの憎しみが過激に爆発した結果であった。

投げ込まれた火は施設内のペークシス粒子と反応して、膨大なエネルギー爆発を誘発する。

完全なる鎮静化は不可能となり、火の渦が人工的に設備された開発知識を根元から焼き尽くしていく。

メジェール国家は開発地域を撤去する事を表明し、急遽避難用の脱出カプセルが準備された。

非難する人々が我先にとカプセルに向かったが、カプセルに収容できる人数は地域内全ての人間には満たない。

つまり、収容できない人間は切り捨てなければいけないのだ。

残された人々がどういう運命を辿るのか、それはもう一つしかない。

救助班は未来ある子供達を優先してカプセルに乗せていく。

人数オーバーになっても詰め込みに詰め込めて、押し潰さんばかりに子供達と少数の大人達が収容された。

残された人々は絶望に泣き喚いたり、自分が選ばれなかった事に怒りを爆発させたりしている。

収容された子供も子供で、親と離れていく事に涙を流す人間はたくさんいた。

それは・・・・メイアとて例外ではない。


『母さん!母さんも一緒に!!!』 


 メイアはまだ子供ゆえに、カプセル乗員に選ばれた。

周りの子供達には目もくれずに、メイアは必死の形相で見送ろうとしている母親に手を伸ばす。

それに対しての母親の返事は・・・・・

ただ首を振るだけであった。

メイアの母親は自らで選んだのだ。

父親と娘とともに過ごしてきたこの開発地域で自分の生涯を閉じる事を――

誰にも強制されず、誰にも否定させず、母親は静かに自分の生涯を終わらせようとしていた。

あるいは父親と別れたあの時から決めていたのかもしれない。

起きてしまった事故に関係はなく、自分でその人生を終わらせる事を決意していたのかもしれない。


『やだ!私も残る!母さん!!!』


 だが、メイアはそうはいかない。

父親が逃げてしまって行方不明なのに、今度は母親を失おうとしているのだ。

何とか頑張って自らの手を伸ばすが、母親は頑としてその場を動こうとはしなかった。

しばしの時が流れて時間が訪れて、無情にも脱出カプセルはその扉を閉じる。

度重なるメイアの切ない叫びにも、母親の疲れきった心には届かなかったのだ。

遮断された二人の距離は永遠となってしまった。

脱出カプセルは空を越えて宇宙へと飛び出して、開発地域は大爆発を起こして消失する。

全てを飲み込む爆発の規模は残された人々を、メイアの母を完全に飲み込んでしまった。

母親は最後の最後まで・・・・・・優しい笑顔であった・・・・・・















   夢は、閉ざされる。

繋がった過去の憧憬は何もなかったかのように消滅し、暗転していく。

全てが消えていく感覚の中で、メイアは終焉の最後に幻を見た。

開発地域の鬱蒼とした人工的景色とは段違いの雄大な草原。

メイアが一度たりとも見た事がない地平線の彼方に、隅々まで広がる青空。

メジェール人が求めてやまなかった自然の風景の中心に、白いワンピースの帽子をかぶった女性が立っている。

女性は、メイアの母だった。

母シェリーは持っていた鳥篭から白い一羽の鳩を出して、青空に離しながら語り始める。


『母さんね・・・この大地を緑でいっぱいにしたいの。
ゆったりお昼寝をしたり、本を読んだり・・・・
皆が幸せだなって心から感じられる所に・・・・・』


 それは今は亡き女性のほんのささやかな夢であった。

































<Action7に続く>

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