ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action68 −早千−
「まずはお前たちの話を聞かせてくれ。
軍部に語った話ではなく、お前たちの旅の物語を」
「やはり見透かしておいででしたか」
台本ではなく、物語を聞かせてほしい。
それはすなわちカイやマグノ海賊団、男と女の人生を語ることを意味する。
タラークにとっては禁忌、士官候補生であっても処分されるかもしれないが、ジンを名乗る老人は朗々としたものだった。
ドゥエロ・マクファイルとバート・ガルサスは、覚悟を決める。
「長い話になるけど、聞いてほしい」
――ここが勝負どころだった。
ドゥエロとバートはマグノ海賊団が無条件降伏をしたから、ずっと耐え続けてきた。
マグノ海賊団は捕まり、カイ達とは離れた。故郷に味方はおらず、仲間を増やすにも全てを明らかには出来ない。
迂闊な行動はすべてを台無しにしてしまう。だからこそここぞという時まで耐えるしかなかった。
それが今だった。
「女と出会ったときから、僕達の物語は始まった」
「――それがアタシ達が生きた一年だったのさ」
「馬鹿な……」
レーダーガンを突きつけられた状態のまま、マグノは静かに語った。
彼女からすれば、犯罪者達が恐れる刑務長でさえも孫に等しい年齢差がある。
刑務室の中ではあるが、マグノという海賊の長に行った尋問は様相を変えていた。
まるで子供に聞かせる、物語であった。
「男達が同じ人間だと、あなたは言うのか」
「言っておくが、メジェールの教えを全否定する気はないよ。
男と女は、違う。それは事実さね。
ただお国の人間が言う違いと、アタシが言う違いは、それこそ天と地の違いはあるね」
「……」
刑務官は熟考する。
国の教えに逆らうのは大罪である、言うまでもない。
だがそれを海賊に言って何になるというのか。
そもそもマグノ海賊団は既に裁判で沙汰が下っている。罪を上乗せしても、終身刑の刑期を伸ばせない。
「この場で処刑することも出来るのだぞ」
「それはないさね」
「自分が第一世代だと高を括っていても――」
「アタシらを殺すつもりなら、とっくに死刑になっている。
それにお国の教えに逆らうってのは、それこそ海賊に言っても仕方ないだろう」
「ぐっ……」
ようやく理解した。何故マグノがこの瞬間に、旅の真実を語ったのか。
部下達がいる前で語れば、あんまりな事実に暴走する可能性がある。
しかし刑務官を務める自分と二人であれば、この場だけの話になる。
政府からマグノ海賊団の収監を命じられた刑務官は、ある程度の事情を察している。それを見抜いていたのだ。
「国は、今こそ正さなければならない。
そして国とは民だ、民がいてこその国だろう。
だからアタシらは更生しようとしているのさ」
「それは反政府としての考え方だ。テロリズムに繋がるのだぞ」
マグノ・ビバンは静かに首を振った。
「男と女は今こそ、対話が必要なのさ」
「いがみ合っている場合じゃないだろう、俺達は。
睨み合うのはもうやめて、今こそ話し合おうじゃないか」
「その姿勢で精霊を名乗るあの子達を誑かせたのか」
「対話の可能性を見せたまでだ」
「むぅ……」
地球のスパイの疑惑をかけられたカイと、メジェールのスパイを公言するアイ。
睨み合いながらも、男と女は血を流していない。
武力を背景にしていても、お互いに言葉を持っている。
そして何よりも、意思を持っている。
「お前こそどうなんだ。
メジェールのスパイとして、マグノ海賊団を潰そうとしていたんだろう」
「犯罪者達だ、法を守っていないのは事実じゃろう。
お主も最初は糾弾していたではないか」
「今でも略奪するのはどうかと思うが、そうしなければ生きていけなかったということは今なら分かる。
そもそも聞いた話だと、政府があいつらを国から追い出したんだろう。
難民がこんな宇宙で食っていけるわけはないだろう」
宇宙空間は広く、そして残酷である。
国も助けてくれないのであれば、彼女たちはそれこそ死ぬしかない。
生きるためには、奪うしかなかった。
「お主の言いたいことは分かる。
しかし物資が有限である以上、国として選ばなければならない。
奴らが奪った分、誰かが奪われることになる。程度は違えど、地球も同じであろう」
カイは眉をひそめるが、反論まではしない。
臓器を奪う地球と同列にするのは違うかもしれないが、アイもそれは分かっていて話している。
それこそ程度の差はあれど、自分達の生活を脅かされるのは間違いないからだ。
地球と海賊は違う。それでも、どちらも奪う側であることには違いない。
「地球はメジェールを狙っていて、メジェールは地球の言いなりになっている。
それでもお前はメジェールの味方につくのか」
「そうは思わん。先程も言ったが、儂は国を正すべく行動している。
海賊たちが過ちを犯したのであれば糺す。故郷が平和を脅かしているのであれば糾す。
そして」
「そして?」
「お前が地球のスパイであれば、お前を正さなければならん。
儂は、お前のエンニジアじゃからのう」
「! お前……」
カイは、誤解をしていた。
彼女の趣旨は、最初から一貫していたのだ。
彼女は確かにカイを疑っており、尋問している。何より糾弾もしている。
けれどそれは、罰したいのではない。
正したいのだ。
ドゥエロ達も、マグノ達も皆――今こそ正そうとしているのだ。
<to be continued>
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