VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 6 -Promise-






Action2 −音色−




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刹那の瞬間だった。

キューブ型を一機殲滅し、戦況を確認するために周囲を見回した時である。

部下の一人のドレッドへ突進をかける鳥型、そして向かい側より接近してくる一体のヴァンガード。

仲間がどのような危機に晒されているか、ヴァンガードが何をしようとしているか、メイアは一瞬で閃いた。

刹那の瞬間だった。

気がつけば視界は真っ赤に染まり、自分が仲間を庇って敵の攻撃をまともに食らった事を自覚する間もなく衝撃が襲い掛かる。

苦痛は全くなかった。

急速にブラックアウトする目の前の光景と、急速にホワイトアウトする意識。

何もかもが消え失せて行く感覚を味わいながら、メイアは鈍く生暖かい血が流れるのを最後に瞳を閉じた。

直後、自分が機体ごと運ばれていくのを他人事のように思いながら――

じわりじわりと身体が冷たくなってくる感覚にぞっとし、メイアは再び瞳を薄く開ける。

左右より赤く点滅している非常灯に、絶え間なく流れ続ける天井の黄色い照明。

メイアはぼんやりとした意識の中で、自分が何かに乗せられて運ばれているのを感じた。

どうしてこうなったのか、なにが自分におきたのか?

何故ディータやドクターが自分を心配そうに見つめているのか?

何より自分にとって誰より憎き敵であるカイがどうして自分を見つめて心配そうにしているのか?

疑問は浮かぶが、答えを出そうとする理性は働かない。

今はただ何もかも忘れて、全身より発する倦怠感に身を任せたかった。

仕事も人間関係も何もかも放り出して、安らかな眠りに就きたかった。

全身の怪我で本来なら激痛に蝕まれるのだが、不幸中の幸いか頭部の怪我がメイアを朦朧とさせている。

分泌される一種の脳内麻薬が苦痛の神経を麻痺させているのだ。

問題なのは痛みを麻痺させているだけであって、怪我そのものを回復させている訳ではない。

言ってみれば気休めでしかない。

全身の怪我は紛れもなく重傷であり、自然治癒だけでは確実に命を落としてしまう程のダメージなのだ。

目の前のカイ達がメイアの命の心配をしているのだが、メイアには何も分からない。

否、分かろうともしなかった。

考える力も把握する知性も下降しており、ただ自分の内なる身体の各臓器が欲する睡眠欲にメイアは身を任せた。

瞼が徐々に重くなり、メイアは瞳を閉じていく。

規律的に並んでいた目の前の照明が消えて、医療室に運ばれた事にも何も思う事はなかった。

耳元で聞こえてくるドクターやパイウェイの必死の応対も満足に認識する事もなく、メイアの視界が暗転する。

周囲の喧騒は遮断されて、自意識からも遠のいていった。

艦内通路の照明とは比べ物にならない医療室の拡大ライトが瞼を焼くが、全く気にならない。

ズタズタになったパイロットスーツが脱がされて、スポーティな白い肌の肢体が露にされても何も思わない。

闇の中へと意識を沈めるメイア。

暖かい血の感触に濡れている全身に反する冷め切った感覚。

迫り来る死はメイアには永遠の急速に感じられるほどに身近になりつつあった。

全てを投げ出して闇に身を任せるメイアだったが、その時脳裏に柔らかい何かが伝わってくる。

単調ながらに優しく懐かしい旋律。

手術室の喧騒や周りの人間からではないアンバランスな心地良い音。

それがオルゴールの音色である事が心の何処かで理解した時、闇は切り裂かれてシャッターライトが眩しく点滅する。

光は映像と化して、次々と切り替えられていく。

見つめる朗らかな笑顔をした黒髪の女性と力強い笑みを浮かべる赤い髪の女性。

故郷であるメジェール本星。

地表面の一部が大爆発し、爆風に煽られる様に大気圏を急速離脱する一機のロケット。

描いた人間の風格をそのままに、威厳ある象徴を表した模様。

自分に熱心に話し掛ける赤い髪の女性。

雄大な草原の丘に佇む白い帽子を被る黒髪の女性。

血のように紅いフィルター越しを覗いているような真っ赤な風景。

塗りつぶされたかのような装飾めいた情景の中で、女性は自分に微笑みを向ける。

突如沸き起こる大爆発とそれをただ呆然と見つめる自分。

薄暗い部屋の中に閉じ困った自分を心配げに見つめる黒髪の女性。

鏡に映る悲嘆と絶望に染めた幼い頃の自分の姿。

自分の髪よりすらりと抜けて床に転がった髪飾りに気づく事もなく、メイアは切り替わる映像を見つめていた。

自分が何を見ているのか、何が映し出されているのか?

疑問への解答ははっきりとしており、また一度見た光景でもある。

悟る。これは自分の過去なのだと――

認識する。これはもうやり直す事の出来ない自分の過ちなのだと――

冷め切った心に悲しみの灯火が灯った時、脳裏に映し出された黒髪の女性に一言呟いた。


(母・・・さん・・・・・・)


 メイアは再び意識を失った。















 戦いの最中、仲間が深手を負って戦線を離脱する。

それが自分達が尊敬してやまないリーダーであり、常に勝利を収めていた人間であったならば残された者は過酷である。

ありえない事実はとてつもない精神的反動を促してしまう。

小さな波は更なる大きな波を引き起こして、全体そのものを苛烈に押し流す。

混戦が続く中、チームナンバー2であるジュラ=ベーシル=エルデンは精神的苦痛を味あわされていた。


「Aチームはフォーメーションαー1!Bチームは・・・・え〜と・・・・」


 猛襲を持って攻め込んでくる敵の艦隊に、マグノ海賊団は後退気味であった。

激しい攻防戦を繰り広げる現舞台は小惑星の群集フィールドである。

戦力的に不利だと判断したブザムが、障害物の多い領域で戦う事によって補うつもりでいたのであった。

母船ニル・ヴァーナは小惑星の並ぶ密集地帯にひっそりとシールドを張って隠れている。

母船の周りには全ドレッドが出撃し、当初メイアがフォーメーションを駆使して防衛ラインを張ったのだ。

カイ=ピュアウインドと言う男の存在を除いて。

だがメイア=ギズホーンが重傷を負って離脱、カイ=ピュアウインド・ディータ=リーベライの両名は一時的に戦線離脱。

戦力的にかなりの不利だが、だからといって敵が情けをかけてくれる訳がない。

次々と防衛ラインを突破して母船に攻撃を加える敵に、現状でメイアに次いで責任のあるホストに就いているジュラにお鉢が回ったのだ。

ジュラはドレッドパイロット達の期待を一身に背負って、命令を飛ばしてはいる。

しかし、状況は一刻一刻と悪くなっていく一方であった。

そもそもドレッドチームはマグノ海賊団を立てている戦力の要である。

ゆえに優秀なパイロットが選ばれるのは当然であり、頂点であるチームリーダーには海賊団の中でも重鎮とされる。

能力・知性・器が求められており、メイアはまだ若いながらに望まれる能力に遺憾なく応えてきた。

新人であるディータ達が前線で戦えるのも、メイアが指揮しているから大丈夫だと見込まれているからである。

事実、カイがいなければタラーク軍は完全敗北していただろう。

その意味で補佐的役割を果たすジュラはメイアに一歩及ばずでいる。

指揮的能力に劣っているのもそうだが、何よりジュラはこれまでメイアに頼ってばかりいた。

何かあればメイアが助けてくれる、何かあればメイアが責任を取ってくれる。

だからこそ常に余裕を持って戦闘に望めており、戦いに関しても何も学ぼうともしなかった。

才能がない訳ではなかったのだが、ジュラの欠点はやる気の無さにある。

ジュラが今の責任ある地位を任されてこれたのは、ジュラを補佐しているバーネットの存在があったからだ。

幾度となく戦ってきた時もジュラの足りない所をバーネットが懸命に助けてきた。

職務怠慢とまではいかないが、人に頼ってばかりいたそのツケが今現在仲間を危機に晒している。

戦況を把握してチームを立て直し、殲滅に至る過程を練り上げて作戦を指揮する。

ジュラはその一つ一つが遅く、組み上げるのに致命的に時間がかかりすぎるのだ。

指揮官の迷いは部下にまともに影響する。

敵にしても増殖するキューブ型は二百を超え、キューブ型を生産するピロシキ二機はほぼ無傷。

敵戦力において最速を誇る鳥型は一騎も撃墜できずに、ドレッド達を次々と戦列より葬り去っている。

攻撃範囲が次々と変化していくので、フォーメーションにしても何時までも同じには維持できない。

かといって、次はどのようなフォーメーションを組めばいいのか分からない。

メイアは圧倒的に不利なこの状況でも最大限に頭を働かせて、周りを見、常に全体のチームの足並みを揃えていた。

その点ジュラは判断するのが遅く、次の命令を思いついた時にはもう敵はその場にはいない時が多いのだ。

よってパイロット達は攻撃の憂き目にあい、今ではもう独自の判断で動いている。

チームとして構成されて初めて強さを誇れるドレッドチームが個人で動けばどうなるか?

ドレッドは元々一体一体の戦闘力は標準的であり、強くも弱くもない。

なのに個人プレイに走ればキューブ型ですらほぼ互角、鳥型にはまったく歯が立たないのだ。

最悪、味方同士で同士討ちにあってしまい大破してしまっている。

彼方此方で味方の被害が続出しているのを見て、バーネットはたまらずジュラに通信回線を開いた。


『何やっているの、ジュラ!早く命令しなさいよ!!
味方がバラバラになっているわ!!』


 普段ジュラに対しては温厚なバーネットだったが、今回ばかりは黙ってられなかった。

例え親友であっても、いや親友だからこそ言わなければいけない時がある。

メイアがいなくて仲間がどれほど苦しんでいるのか、戦いの最中にいる自分がよく分かっているのだ。

皆が辛い時こそ上に立つ者がしっかりしなければいけない。

バーネットの指摘はジュラにしても分かってはいた。


「分かってるわよ!だけど、こう敵に攻撃されたんじゃ・・・」


煮え切らないジュラの言葉に、バーネットは無性に苛ただしさを感じた。

ジュラのみを責める気持ちは毛頭ない。

突然の不慮の事故でメイアが大怪我を負って、命の憂き目にあっている事に動揺しているのはジュラも同じだからだ。

加えて、ジュラはメイアの代行としてリーダーとしての重圧とも戦わなければいけない。

敵の殲滅のみに全力を尽くせばいい一パイロットに過ぎない自分に、ジュラを偉そうに文句は言えない事は分かっている。

だが、前線で戦うパイロット達も母船で懸命になっているクルー達も皆戦っているのだ。

強力な敵と前面で戦わなければいけない苦しみに、集中砲火の的になっている母船内にいる事への恐怖に。

そしてメイアが死にそうだという悲しい現実に。

だからこそ、リーダーの補佐役となっているジュラに頑張って現在の危機を乗り越えてもらわなければいけない。

追い込まれそうになっている仲間達に勝利という希望を与えてほしい。

それが出来るのは現チームリーダーのジュラであり、ジュラを激励できるのは親友である自分の役割だと信じていた。


『フォーメーションを立て直すのよ。ジュラがしっかりしてくれないと皆が迷うのよ!』

「そ、それはそうだけど・・・・」


 発破をかけて来るバーネットに、ジュラは今までにない気弱な声で返答した。

バーネットが怒鳴りながらも心配してくれているのは、ジュラも分かっている。

二人の相違点はバーネットはジュラを信用し、ジュラは自分を信用していないという点であった。

自分がどれだけメイアより劣っているか、現況を見れば一目瞭然だからだ。

仲間達からのプレッシャーに必死に応えようとするジュラを嘲笑うかのように、鳥型は接近弾を浴びせる。

小惑星の破片やドレッド・キューブ等の破損片が渦巻く戦場に、眩しい発光が生まれた。


「きゃっ!?」


 思わず目を瞑ってしまうジュラに鳥型は躊躇いもなくビームを放って、赤いボディの装甲を焼いた。

ダメージを負ってしまったジュラ機は後退して行った。

混戦状態はどんどん迷走化していく・・・
















 急加速で射程距離に接近して、鳥型は一条のビームを放つ。

四機のアームから発射されたビームは強力で、守りに入っているニル・ヴァーナに直撃した。

瞬時に青白いシールドがニル・ヴァーナ全方位を楕円型に包むが、後方で激しい閃光が生じてしまう。

反動で急激な振動がブリッジ内に降り注ぎ、クルー達は身体を大きく揺らした。

中央モニターにて戦況を逐一観測していたブザムは倒れそうになりながらも、副長席にもたれかかり何とか姿勢を保つ。

今までにない揺れに不安を感じつつ、ブザムは口を開いた。


「被害を報告!」 


 副長の命令に、アマローネ・ベルヴェデールの二人は口々に被害状況を言葉にした。


「敵攻撃により、後部第一シールド消失!」

「攻撃が左舷に集中しています!このままではシールドにも限界が!?」


 一寸一寸を切り刻むようにシールドにビームを撃ち込んで来る敵に、ベルヴェデールは悲壮な顔をしていた。

後部の一部のみとはいえ、シールドが消失したという事実は何も変わりはない。

今度その部分を狙われれば、母船に直撃して大惨事となってしまうだろう。

リアルタイムでモニタリングしているアマローネにしても心境は同じだった。

手元のコンソール画面のみで見ても仲間のドレッド反応が消えて、敵の反応は絶え間なく増え続けているのだ。

何よりも一番に状況を把握できる事はたまらない不安となる。

それは最前線で戦うパイロット達も同じだった。


『復調、御指示を下さい!Cチームが混戦しています!』

『誰が今指揮しているのよ!ジュラ、返事して!!』

『駄目よ、ジュラは敵攻撃を浴びて一旦ひいているわ。
副長、それぞれのチームの権限で戦う許可を下さい』

『ちょっと待ってよ!Aチームは経験不足の初心者パイロットが多いのよ!
こんな状況で戦える訳がないわ!』

『じゃあどうしろって言うのよ!ジュラ一人に押し付けるつもり!』


 それぞれのチームのメンバーが、バーネットが、口々にブリッジに緊急ラインを送る。

その数は戦いが続けば続くほど増えてきており、皆一様に不安と疲労に暗い顔色をしていた。

前線では一番の責任者である筈のジュラが満足に指揮が出来てはいないのである。

こうなってしまえば頼れるのは副長のブザムとお頭のマグノしかないと思っているのだろう。

人間、追いつめれられても一人で戦える人間は本当に少ない。

過酷な状況に陥れば陥るほどに誰かに頼りたくなってしまう。

自分より強いと信じている人間に助けを求めてしまう、甘えてしまう。

それは決して罪ではない。

そのためのチームリーダーであり、副長であり、お頭なのだ。

クルー達に命令を下せる権限を持っているという事は、クルー達への命の責任があるという事である。

充分に自覚している事実だが、パイロット達が期待する言葉を肝心のブザムは持ち合わせてはいなかった。


「まさか擬態をかけるシステムまであるとは・・・」


 擬態、対象にそっくり似せる能力である。

キューブ・ピロシキはともかくとして、明らかに鳥型はヴァンドレッド・メイアの能力と姿を模倣している。

すなわちウニ型戦闘時のデータを敵側に送られていた事に他ならない。


「例の惑星じゃ砂が蛮型のシステムをコピーしていたらしいからね。
相手さんは敵の能力を我が物にできる程の科学力があるって事だよ」


 ブザムの言葉に補足するように、マグノは言葉を重ねた。

表情に悔しさとやりきれなさがあるのは、敵への怒りと己の無力さを恥じている証拠に他ならなかった。

敵が驚異的なのは理解できても、肝心の攻略法が分析できないのだ。

恐るべき敵だと分かった所で戦いに効果が生まれる訳ではない。


「キューブを何体破壊しても、ピロシキが次々と生み出してくる。
そのピロシキを叩くには・・・・」

「あの鳥を何とかしなければならないっていうんだろう?」

「はい。しかしながら、こうも指揮が入り乱れていれば・・・
こうなれば私が全指揮を取って防衛ラインを組みなおしましょうか」


 今現在はジュラに指揮権が委ねられているが、結局はメイアが復帰するまでの補佐でしかない。

第一現況ではまともにチーム性すら発揮していないのだ。

ならばブリッジを司令塔にして、前線のパイロット達に命令をすれば混戦は収まるのではないか?

ブザムが考えた案を、マグノが欠点を指摘した。


「チームワークが乱れているのは、何もジュラの指揮が甘いだけじゃない。
メイアが重体を負って皆が不安になっているのさね。
今までにどんなに辛い状況になっても、メイアがちゃんと立て直して勝利してきたんだ。
その勝利が敗北に変わりそうになり、戦場での死の恐怖に敏感になっている。
お前さんにその不安を一掃出来るかい?
出来なければ、現状以上に混乱は肥大化していくよ」


 マグノの意見はパイロット達の今の心情をそのままに言葉にしていた。

自分が殺されるかもしれない、周りの仲間達が殺されるかもしれない。

その怖さ・悲しみがメイアの重傷というリアリティーに感化されているのである。

もしブザムが指揮権を担当すれば、皆ブザムにすがるだろう。

その期待に応えられる程の打開策を出さなければ、下手に生まれた希望は絶望へと瞬時に変わる。

そうなればパイロット達は二度と立ち直れないだろう。

全ての命運を背負う覚悟はあるのか、とマグノはブザムに暗に聞いているのだ。

マグノの問いに対して、小さく首を振った。


「軽率な意見でした。申し訳ありません」


 現状で何とか出来るのならばもう既に行っている。

何も出来ていないからこそ何とかしなければいけないのだと、今考えている途中なのだ。

自分の意見がチームワークを立て直すという目の前の問題しか解決していない事に気がついたブザム。

本当の解決は敵を倒す事にあるのだ。

頭を垂れて謝罪するブザムに、マグノは辛い顔をそのままに語った。


「あんたが謝る事じゃない。何もしてやれていないのはアタシも同じさね。
あの娘達があんなに苦しんでいるのにね・・・・」


 ブリッジに寄せられている悲鳴や要望、懇願にマグノとて頭を悩ませている。

マグノが心を痛めているのはそれだけではない。

瞳を伏せて、マグノはもう一人のサポーターであるエズラに声をかけた。


「エズラ、その後メイアの容態についてドクターからは連絡はないかい?」


 いつにない沈んだ声に、エズラは慌てて答える。

マグノの痛烈な心の声が感じ取れたような気がした。


「今の所何もありません。現在も手術が続いているみたいですぅ」

「そうかい・・・・・」


 そのまま何もいわず、マグノは瞳を閉じたまま黙っていた。

言葉を口に出さずとも、メイアの危機的な状況にマグノがどれほど心を痛めているかが分かる。

エズラの心の痛みが目尻に溢れる涙の粒となってあふれる。

オペレーターという職務が何よりクルー達の心情に敏感なのだ。

皆を思いやっても何も出来ないで嘆くマグノやブザム、戦いに苦しむクルー達。

エズラは涙を手で拭い、そっと口にする。

もしかしたら、苦しむ皆の希望になってくれるかもしれないその者の名を。


「・・・・カイちゃん・・・・・・」


 その名の者が戦いに今も尚参加していない事を、エズラは知りようがなかった。















 戦いは続く。

戦場はビーム類の攻防で彩られ、母船内は連絡の取り合いに敵攻撃と喧騒が止む気配はなかった。

現在も休む事もなしに母船内を激しく揺るがしている。

そんな状況下において、医療室前は恐ろしい程の沈黙に満たされていた。

カイ=ピュアウインドにディータ=リーベライ。

二人はどちらともなく口を閉ざし、そのまま何も話さずに今もそこにいる。

警備クルー主任はメイアの容態を気にかけてはいたが、自分の仕事をほってはおけず名残惜しそうにしながらも戻っていった。

通路内は照明が照らしてはいるがで、雰囲気を明るくする事はできない。

時折訪れる振動にも反応を示さずに、二人はただ医療室の前で待っていた。

担がれてそのまま室内へと消えていったメイアの手術の終わりを待って。 

ディータは立ったまま、忙しなく医療室の扉をちらちら見ている。

よほど中の様子が気になるのだろう。

そのまま許可が出れば突っ走って中へ駆け込んで行きそうな様子が見受けられる。

一方のカイはというと、ただ静かに壁にもたれて座り込んでいた。

そのまま手に持つ血に濡れた髪飾りをぼんやりと見つめている。

カイの表情には様々な感情が揺れ動いており、自分でも把握出来ないほどの心の揺れがあった。

メイアの髪飾りをただ見つめているだけでも狂おしい程の激情が沸き上がって来る。

何がそこまで気持ちを荒げているのか、それはカイには分からなかった。

カイは下唇を噛み締めながら、考えもせずに呟いた。


「これよ・・・・」

「え?」


 突然のカイの声に驚きを隠せずに、ディータは反応する。


「この髪飾り、あいつの物なんだろう?」

「うん、そうだよ。リーダーがとっても大切にしてたの」


 よく見れば髪飾りには綺麗な細工と装飾は施されている。

かなりの高価な値打ち物なのだろう。

カイは今初めてそれに気がつき、重い顔をしたまま言った。


「あいつってずっとこれをつけていたよな。戦いの時もはずさずによ・・・
金髪と違って派手好きでもないあいつが、何でこんな目立った物つけていたんだ?
大事な物だってのは分かるが仕事とかに私情は持ち込まないだろう、あいつは」


 メイアとカイの付き合いは皆無に等しく、友好関係は全くなかった。

それでもカイは何となくはだが、メイアがどういう人間かは知りつつある。

自分にも他人にも厳しく、責任感の強い人物。

そんな人間が髪飾りのような装飾品を例え大切な物であるとはいえつけるだろうか?

人の命に責任のある地位にいるのだ、髪飾りなどをつけていれば威厳を損なう。

もっともメイアは能力と職務への忠実さで補ってはいたようだが。

カイの問いに、ディータもまた沈んだ顔のまま首を振った。


「ディータもよくは分からないよ。リーダー、自分の事はあんまり話さないから・・・・
ごめんね、宇宙人さん」

「いいさ。ただ聞いてみただけだ」


 そのままカイは瞑目し、ディータもカイの様子を察して口を閉ざした。

髪飾りをいつもメイアは着けていた。

その事実はカイが今初めて認識した事でもある。

今までメイアのそんな部分に関心一つ寄せた事がなかった。

メイアがどうしてあそこまで頑ななのか?メイアがどうして自分と敵対してばかりなのか?

どうして自分はあんなにメイアを敬遠していたのだろうか?

カイは今まで全く考えた事もなかった。

ただいけ好かない女だから、自分を馬鹿にして嫌っているからと単純な理由で対立し合っていた気すらする。

そして今、そのメイアが死にかけている。

カイは数時間前まで罵り合っていた格納庫でのやり取りでさえ昔のように感じられた。

沈黙状態が続き、やがて時が経つ事数分。

医療室の扉が開いて、白衣のあちこちを血に染めたドゥエロが重々しく出て来た。


「ドゥエロ。どうなんだ、あいつの具合は?」

「リーダーは元気になりそうなの?お医者さん」


 カイとディータがすぐさま駆け寄って、治療具合を聞きにいく。

今までの静けさが嘘のように、二人は必死な様子でドゥエロに身を乗り出した。

ひょっとすれば快方にもう向かっているのかもしれない、二人のどこかにそんな期待もあった。

だが、ドゥエロが無表情に告げた次の言葉に粉々に期待が砕け散る。


「こんな時に気休めを言っても仕方がないので言う。
・・・・覚悟はしておいてくれ」

「なっ!?」


 絶句しているカイをじっと見つめ、ドゥエロはさらに非情なる可能性を言った。


「今し方診断の結果が出た。頭部への外傷が酷い上に、心肺機能が低下し続けている。
このまま手術を続行すれば、メイアの身体がもたない」


 長期の大手術はただでさえ患者に大きな負担をかけてしまう。

治療を連続して行える程、もうメイアは命がもたない・・・・・

あまりに絶望的な言葉にカイが歯軋りをし、そのままドゥエロの胸倉を力任せに掴んだ。


「てめえ、医者だろう?患者の命を救うのがお前の仕事なんじゃねえのか!」

「・・・・・・・・・・・・」


 身長さがあれど、ぎりぎりと食い込むカイの手に苦しくない訳がない。

だがドゥエロは敢えて何も抵抗せずに、沈痛な表情をそのままにカイに向けていた。


「助けろよ!あいつ、助けろよ!!何でできねえんだよ!!!

何で・・・・・・



なんであいつが死ななくちゃいけないんだよぉっ!!」


「・・・・カイ、お前・・・・・・」


 そのままカイはドゥエロを壁に思いっきり押し出した。


「あいつが何したんだ?仲間助けただけじゃねえか、ええ!!
ふざけんなーーー!!

そんな・・・・・・

そんな馬鹿な事があってたまるかよ!!」


 激情をそのまま言葉に出して、カイはドゥエロの胸元にしがみ付いた。

ドゥエロに何の非もない事は分かっている。

分かってはいても、カイは怒鳴らずにはいられなかった。

あまりに理不尽に死んでいこうとしているメイア。容赦なくメイアに攻撃を加えた敵。

そして何も出来ないままでいた自分。

翻弄する感情はあらゆる方向に飛び散って、カイは嗚咽すら漏れそうだった。

ドゥエロもそんなカイに、何も言葉を口には出来ない。

所詮慰めにもならない、気休めしか言えない事を自覚していたからだ。

カイのそんな気迫に呑まれながらも何とか止めようとディータが口を出そうとしたその時、背後より声がかかった。


「カイ、ディータ、戦いに戻るんだ。敵が押してきている」

「ガスコさん・・・・・」


 ディータが後ろを振り向くと、厳しい表情をしてガスコーニュが腕を組んで立っていた。

カイは視線をドゥエロからガスコーニュに変えて言った。


「もう戻らないといけないのかよ。もう少しだけ・・・・」

「ここにあんたがいたってメイアは回復しない。そうだろう?」

「そりゃあそうだけど、でもあいつが今・・・!」


 やばいんだよと口にする前に、ガスコーニュは重々しく言葉を重ねる。


「ドクターにはドクターの仕事がある。あんたにはあんたの仕事がある。
ここで何もしないのなら、あんたにドクターを罵る資格なんてないよ」


 ガスコーニュの指摘はどこまでも正しい。

あれほど医者としての使命を問いただしながら、そのくせ自分は戦いに出る事に躊躇している。

理屈では納得できる。

そして自分がやらなければいけない事も理解できる。

だが感情としてはまだここに残っていたいし、瀕死のメイアを置いて戦いに出ろというガスコーニュに苛立ちがあった。

仮にも自分の仲間がピンチなのに平然としているようにしか見えないガスコーニュに、カイはひどく反発を覚える。

迷いと葛藤、そして怒りがカイを満たす中でドゥエロはカイの肩に手を置いた。


「出来る限りの事はする。だから、君も出来る限りの事をしてくれ」


 ドゥエロのどこか優しい声色に、カイを思いやる気持ちが感じられる。

カイは少しの間顔を俯かせて、やがて小さく頷いた。


「・・・・・・あいつを、頼む・・・・・」


 カイはそのまま振り返り、通路を歩いていく。

ガスコーニュの傍まで来た時カイは一度ガスコーニュを睨んだが、結局そのまますれ違い通路の奥へと歩いていった。

一度たりとも医療室を振り返りはしないままに――

ディータは去り行くカイとガスコーニュを交互に見つめて困った顔をして佇んでいたが、


「あんたも早いところ行っておあげ。ジュラも苦戦しているみたいだからさ」

「はい!
あ、あのお医者さん・・・・」

「どうした?」

「リーダーを・・・よろしくお願いします!」


 深々と一礼して、ディータもまたカイを追いかけて消えていく。

二人の様子を見送った後、ガスコーニュは厳しい表情をようやく解いて頬を掻いた。


「・・・嫌われちまったかね・・・・」


 ガスコーニュとてメイアを心配する気持ちがない訳ではない。

むしろ情に厚く海賊に所属する前からのメイアを知っている身として、メイアの生死を気にかけている内の一人でもある。

カイにああまで厳しく言ったのは、カイを奮い立たせるためでもあったのだ。

今この瞬間にも前線で戦っているメンバーは苦戦しているのだから。

ガスコーニュが苦笑気味に呟くのを、ドゥエロが首を振って答えた。


「あの男は些細な事を根に持つ男ではない。貴方の言葉が正しいことを理解しているからこそ大人しく従ったのだろう。
そのような男だからこそ、貴方はまた期待をかけている」


 ドゥエロの私的に、ガスコーニュは照れたように楊枝を揺らした。


「面白い奴だよ、あいつは。メイアを嫌いと言いながら気にかけてる。
死にそうだと言った時のあいつの顔ったらなかったよ。
あんなに血相を変えて取り乱してさ。
メイアが女で敵だっていうのにね・・・・」


 カイが消え去った通路の奥を一瞥し、そのままの視線でガスコーニュはドゥエロに言った。


「あいつじゃないけど・・・あの娘の事頼むよ、ドクター」

「・・・・最善は尽くす」


 通路内にまた一つ、振動音が鳴り響いた・・・・・・



































<Action3に続く>

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