VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 5 -A shout of the heart-






Action16 −焼失−




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「メイア!バーネット!カイ!応答してください!!
・・・・駄目です、シールドの影響で通信回線を開ける事ができません」

「自爆シークエンス、依然起動中。このままでは上陸班が巻き込まれる危険性があります!」


 ノイズが走る通信モニターに向かって何度も呼びかけるアマローネに、刻々と秒読みが刻まれるカウントに戦慄するベルヴェデール。

危機感を募らせる二人ではあるが、何の手立てもうてずにいた。

惑星へ突入したまま一向に戻らないメイア達を心底心配している様子が表情より見受けられる。

ブリッジの中央モニターには惑星の観測図が今もなお映し出されており、地表面に建設された施設全てが赤く点滅していた。

ブザムは施設の数を一瞬で計算し、自爆シークエンス作動時の爆発の規模を割り出す。


「全ての施設が起動すれば、惑星の表面は一瞬で更地になってしまう・・・・
アマローネは引き続きカイ達への通信を、ベルヴェデールはシールドの内側からの解除が可能かどうかを分析してくれ!」

『了解!』


 ブリッジクルー達に命令を下しながらも、自分の発した内容が苦肉の策に過ぎない事をブザムは自覚していた。

通信はシールドを解除しなければ繋げることが出来ない。

シールドを内側から完全に解除出来る程、残された時間は長くはない。

自分がどれほど無理な事を言っているのか、ブザムは誰よりも分かっていた。

分かっていながらも、自分に出来る事がこれしかない事もまた苦々しく悟っていた。

緊張感と緊迫感に頬に伝う汗を感じながら、ブザムは責任の重責から口を開く。


「セルティックは外部レーザーを惑星へ固定。メイア達が脱出したらすぐに伝えてくれ」

『りょ、了解しました』


 気弱な声を上げて、縫いぐるみを被ったままのセルティックはコンソールを操作してレーダー網を狭める。

大気上に待機している母船の周囲を外敵に向けて警戒していたのだが、そうも言ってられなくなったようだ。

惑星へ突入したクルー達が生きるか死ぬかの瀬戸際なのである。

メイア達が帰ってきたらすぐに迎えられるよう、セルティックは不安に心臓を揺らしながら見守っていた。


「皆、無事でいて。お願い・・・・」


 オペレーターとしての任を担っているエズラだが、普段のおっとりとした様子は微塵も見られない。

仲間達を助けたい気持ちは積もってはいくのだが、自分の持つ技量では何も出来ない事は分かっていた。

エズラに出来る事は仲間に呼びかける事、そして必ず帰ってくる事を祈るだけだった。

無力感と押し寄せる不安に身体を震わせていると、艦長席より温かい言葉が投げかけられる。


「大丈夫さね。うちの娘達は敵の罠にむざむざやられる程弱くはないよ。
あの娘達はあれでなかなか逞しいからね」


 助けに行く事は叶わないが、帰りを待つ者達の不安を軽くしてやる事はできる。

海賊達全てを取り仕切るマグノは自分の役割を正確に把握していた。

講じる事が出来る可能性は全て自分が信頼する片腕でもある副長ブザムが、優秀なクルー達が全力全身でやってくれている。

現状の全てを見つめて、全てを思いやり、全てを守り通す。

マグノはその事を一番よく理解しており、孫のような年頃の女性達を信頼していた。

優しくマグノに励まされたエズラは不安そうな表情を、無理に明るく見せる。

まだまだ不安は消える事はないが、それでも絶望に蝕まれていく心は軽くなったようであった。


「そうですね。それにカイちゃんも頑張ってくれていますから」

「ふふ、あの子はあれで義理堅い所があるからね。きっとメイア達を助けて戻ってくるさ。
悪態はつかれるだろうけどね」


 顔の皺を深くして、マグノは柔らかく微笑む。

若い頃は美しさを誇ったであろうその容貌は年老いてなお可愛いらしさがあった。

ぶつくさ言いながらメイア達を助けているカイの光景を想像して、エズラもようやく笑顔を見せる。

助けてほしいと自分が言った時、カイは困った顔をしながらも助けると言ってくれた。

カイはきっと約束を果たすだろう。

そしてメイア達と共に帰ってくるに違いない。

約束は一方的な契約ではない。信頼に基づいた相互関係より生まれるものだ。

カイがエズラの気持ちを汲んでくれたように、エズラもまたカイを信用しなければ何もならない。

手元の通信モニターより何度もカイの通信回線へリンクを試みながら、エズラは強く無事の帰還を願った。

そんな痛切なエズラの祈りが通じたのか、間もなくドゥエロのコンソールに新しい変化が訪れる。

トラップの永続する効果が強くなり、パイロット達全員の心理グラフが読み取れなくなっていたのだが、突然次々と反応が現れたのだ。

メイア=ギズホーン、バーネット=オランジェロ、ディータ=リーベライ・・・・

一人一人の心理グラフと心拍数が正常値に検出されたのを確認して、ドゥエロは力強い声を出した。


「パイロット達より反応があった。どうやら無事にシールドを突破したようだ」


 ドゥエロの言葉に、その場にいた全ての者達の表情が明るくなる。

殆ど同時に諦めずに通信応答を繰り返したアマローネが、惑星上のトラップを分析していたベルヴェデールが、

そして仲間の帰還の様子を目を凝らして見つめていたセルティックより嬉しそうな報告の声が飛び出した。


「メイア、バーネットに通信回線が届きました!リンクが完全に回復したようです!」

「シールドが一時解除されました。建築物の一部にトラブルが発生。
メイア達全員が無事にシールドを突破しました!」

「大気圏から複数のヴァンガードの反応があります。上陸班です!」


 思いもよらない無事の帰還に、ブザムは零れる笑みを抑える事が出来ずにいた。

四苦八苦あったものの、上陸班が自分達の力で脱出できた事になる。

敵に関するな情報は恐らくは取れずじまいだろうが、ブザムは自分の部下達が無事に帰って来た事だけで充分だった。

マグノも同じ気持ちなのか、浮かべる表情には無念さはない。


「メイアちゃんも皆無事です!お頭、通信を開きますか?」

「ああ、皆を労って上げないとね」


 喜色満面でうかがうエズラに、返答するマグノも安堵している様子だった。

観測図が映し出されていた中央モニターはブラックアウトし、代わりに映し出されたのは先頭を切って惑星から離脱したバーネットだった。

緊張感が消えて明るさを取り戻していくブリッジだったが、映し出されたバーネットの暗い表情に皆が眉を潜める。

緊張の連続と疲労に疲れているのは分かるが、それにしても生還した快活さが見られない。


『・・・お頭、ただいま戻りました。メイアも無事に救出しました・・・』


 とつとつと報告するバーネットに、やはりいつもの勝気な様子が見られない。

今回の任務の目的である敵の情報収集がうまくいかなかった事を悔やんでいるのかと思ったブザムは、穏やかな顔で答えた。


「よく無事に戻った。報告は後でゆっくり聞こう。今は母船に戻り、ゆっくり・・・」

『・・・お頭、お伝えしなければいけない事があります』


 ブザムの言葉を遮って、思い悩むような顔をしているバーネットが身を乗り出してくる。

普段には見られない深刻な表情に、ブザムは命令を遮った事を咎めるのも忘れて訝しげな顔をした。

整った顔立ちに浮かんでいる悲しさと居た堪れなさはただ事ではない。

その表情の意味にいち早く気がついたのは、パイロット全員の様子をチェックしていたドゥエロだった。

ジュラ、ディータ、バーネットの反応はいたって平常である。

メイアの心拍数と心理グラフは不安定な波を見せているが、精神的な外傷を抱えていると診断しているドゥエロには予想の範囲だ。

ただ一人、カイ=ピュアウインドが異常を見せている。

否、カイの心拍数や心理グラフを表すモニターには安定も不安定も見られない。

つまり、まったく反応がないのだ。


「バーネット、その前に一つ聞きたい。
・・・カイはどうした?反応がまったくないのだが」


 ドゥエロの冷静な指摘に、バーネットは過剰な反応を見せた。

びくっと身体を震わせたかと思うと、言い辛そうに唇をかみ締めているのだ。

ブリッジに波紋を呼び寄せたドゥエロの言葉に、アマローネ達が、エズラが慌ててコンソールを起動する。

アマローネより、カイ機の通信回線・応答遮断中。

ベルヴェデールより、シールド再起動・自爆シークエンス現在も稼動中。

セルティックより、惑星離脱確認四機・カイ機の離脱痕跡無し。

エズラより、母船周辺にカイ機の反応なし・惑星地表面に一機の蛮型反応を確認。

優秀なクルー達全ての結論が、カイが惑星にまだ残っている事を示していた。

表情を変えるクルー達に非常な通告をするように、新しく回線を繋げて来たチームリーダーメイアが真実を語った。


『お頭・・・・カイは我々を退避させる為に惑星内に残りました』

「何だって!?」


 思いもよらない事実に、マグノは思わずその場から立ち上がりかける。

驚愕する一同にさらに突きつけるかのように、ジュラやディータもブリッジに回線を開いて姿を見せた。


『あの馬鹿・・・自分が危険に晒されているのに、ジュラ達を逃がしたのよ!』


 カイの行動に理解ができないというように、ジュラは苦渋の表情で報告する。


『宇宙人さん・・・ディータ達がメジェールを助けたら、俺の勝ちだからって・・・・・
皆が一緒になって頑張ればきっと大丈夫だからって、ディータ達を逃がしてくれたんです!
うう、ふええ〜ん・・・・・・』


 瞳よりポロポロと純白の涙を零して、ディータはそう語った。

二人の説明で、ブリッジ内の誰もが皆事情を理解する。

トラップが自爆モードに入った事を知ったカイは、メイア達全員を逃がすために自らが囮になったのだ。

メイア達を助けるために、ただそれだけのために。


「何という事を・・・・・」


 さすがのブザムもカイの行った行動に憤りを感じずにはいられなかった。

例えカイが幾度となく敵を倒しているとはいえ、所詮は今まではタラークでの下級民であった者。

何の軍事訓練も受けておらず、おおよそ教育と呼べるものは何一つ受けていないであろうカイにそこまでの期待はしていなかったのだ。

上陸班に任命したのも、あくまで今までの功績とカイの乗る蛮型の優秀性を買ってこそだった。

カイが捕虜だからこそ、わざわざ危険地へ向かわせたのも事実である。

上に立つ者として、時には取捨選択をしなければいけない時があるのだ。

なのに、カイはブザムの予想を遥かに越えた行動を取った。

我が身の命すら省みないで、メイア達全員を助けたのだ。

もし自分がその場にいてもそのような決断を下す事がはたして出来ただろうか?

責任感は無論あるし、副長のしての自覚も持っている。

だがいざ自分の命を危険に晒すとなると、どうしても死への恐怖に躊躇してしまう。

その宇宙に生きとし生ける者としては当たり前の反応なのだ。

ましてやカイにとってはメイア達は敵であり、憎き海賊の仲間である筈である。

自分を捕まえて冷遇されているにも関わらず、それでも助けようとするカイの行動が信じられなかった。

一方マグノはと言うと、カイの心の内を半ばだが理解できている。

理解出来るからこそ、カイの取った行動に素直に認める事が出来そうになかった。

手元の杖を握り締めてマグノが苦悩していると、艦長席に備えている個人回線にアクセスが入る。

ゆっくりと視線を向けて回線を開くと、ブリッジに深刻な表情を浮かべているガスコーニュが新しくモニターに投影された。


『事情はある程度伺っています。デリ機で救助に向かいましょうか?
確立は半々ですが、シールドを突破してカイを拾い上げる事は出来るかもしれません』


 蛮型に同じく、通常のドレッドも大気圏への突入は危険を伴う。

急激な圧力と高温を発する大気圏を抜ける事は、機体に大幅な負担をかけてしまうからだ。

それに比べてデリ機は独自で強力なシールドを張る事が可能なために、大気圏内を潜り抜ける事は出来る。

シールドへの干渉はどれほど期待できるか怪しい所だが、何もしないよりは助けられる可能性は高い。


『ガスコさん、ディータも行かせてください!ディータも宇宙人さんを助けに行きます!』


 ガスコーニュの進言を聞いて、ディータは颯爽と立候補する。

メイアは黙ってはいるが反対はせず、ジュラやバーネットも口々に名乗りを上げた。


『ま、まあ、あいつがどうなろうと別にいいけど、合体のためだからね。
ジュラも協力してあげてもいいわよ』

『あいつにこのまま借りを作るのはごめんだわ。ガスコさん、私も手伝わせて!』


 口こそ悪いが、残ったカイを心配する気持ちは二人より伝わってくる。

まだ仲間として認めたわけではないにしろ、このまま見捨てるのはあまりにも後味が悪かった。

カイは自分達のために自らが囮になったのだから。

ガスコーニュもそんなディータ達の気持ちを汲んであげたいのは山々だったが、ゆっくりと首を振った。


『ヴァンガードに乗っているあんた達じゃ足手まといが落ちだよ。
カイはアタシが何とかするから、船に戻って休んでな』


 デリ機の補助を担当するには、蛮型はあまりにも無力である。

大気圏内の行動は制限される上に、張り巡らされたシールドには歯が立たないのだ。

状況分析力に優れているガスコーニュはやんわりと全員の申し出を退けて、マグノに向かい合った。


『お頭、救助の許可を』


 現場責任者であるブザムもマグノに決定を託すのか、マグノに視線を向けたまま沈黙していた。

我知らずアマローネ達やディータ達もマグノの決定を聞こうと耳を済ませている。

現状のままではカイの惑星への離脱は非常に困難といえる。

シールドをどのように解除したのかは分からないが、今だ脱出してこないのはもはや再解除は不可能なせいかもしれない。

自分が命を落とす事を承知の上でメイア達を逃がしたのかもしれない。

だとすれば、早急に救出に行かなければいけないだろう。

しかし――


「ガスコーニュ、あんたはそのまま待機。ディータ達も船に戻っておいで」

『お頭!?』

『待ってください!宇宙人さんはどうするんですか、お頭ぁ!』


 言外に救出活動を認めないと言っているマグノの最終的な結論に、ディータ達は目をむいて反論した。

海賊のお頭としては情に深いマグノの意外な言葉だったからだ。

マグノはそんな皆の非難に瞳を閉じたまま、冷静な声で促した。


「アマローネ、説明しておやり」


 マグノの艦長席の手元にも、アマローネの手元にも同様のトラップのデータが表示されている。

指定されたアマローネは目尻を震わせて、ゆっくりと言葉を出した。


「自爆シークエンスが残り200を切っています。
ガスコさんが助けに向かっても、もう・・・・・・・間に合いません・・・・・・」


 これ以上はもう言えないのか、アマローネはがっくり肩を落とした。

アマローネの言葉はまさに死刑宣告にも等しい。

これでカイを助ける手立ては全て無くなり、あらゆる可能性は消滅した事を意味するからだ。

母船側から何を行うにしても、時間はまったく足りなさ過ぎる。

どのような行動を起こすにしても、カウントは決して止まってくれはしないのだ。

マグノはそれが分かっているからこそ、カイへの救助行動を認めなかった。

下手をすれば助けに向かったガスコーニュ達までが危険に晒されてしまう。

それではカイが命がけで行った行為の全てが無駄になってしまうのだ。


「・・・・・・・どうしてよ・・・・・・」


 沈痛な静けさが漂うブリッジ内に、悲痛な疑問の声が生まれた。

アマローネが声の主へ向くと、ベルヴェデールは顔を両手で覆って切ない叫びをあげた。

「どうしてそこまでするのよ!どうして!!」


 奇しくもバーネットがカイに訴えた内容をそのままに、ベルヴェデールもまた誰にともなく問うた。

仲間を助けようとする感情は理解できるが、敵を助けようとする感情が全く理解できない。

自分達が敵である事は、カイ自身が認識している筈なのだ。

さまざまな感情が頭の中を駆け巡って、心がぐちゃぐちゃになるベルヴェデール。

そんな彼女に、アマローネは年長者らしい思いやりのこもった声で言った。


「わたし達との約束を守ろうとしたからじゃないかな・・・?」

「えっ?」

「ベル、あんたともカイは約束したじゃない」

「あっ・・・・・・・・・・・・・」


 アマローネの優しい微笑みに、ベルヴェデールは出撃前のカイとの会話を思い出した。


























『たく、人がこれから頑張ろうって時にそんな顔するなよ。
気合を殺げちまうだろうが』

『何よ!私はね、ただ不安だから・・・!』

『・・・あいつらはちゃんと無事に船に帰すよ』

『え・・・・?』

『俺がいるからな。もしなんかあったって、俺がいれば何の問題もねえ。
ん〜、だからよ・・・・』
















『そんな不安そうにするなって。お前はいつもどおり仕事してればそれでいいからよ』


























  「心配なんてしないでいつも通り仕事をしていろ、か・・・・・・そうだよね」

 カイは約束を果たしてくれた。

自分の命を賭けて、危険から自分の大切な仲間を守ってくれたのだ。

ならば、今度は自分が約束を果たす番だ。

ベルヴェデールは顔をあげて、ブリッジにいる全員を、通信を繋げているディータ達を見回して言った。


「カイは必ず帰って来る。 だからいつも通り自分が出来る事を精一杯やろうよ、みんな!」


 ベルヴェデールの表情に迷いも悲観も感じられない。

ベルヴェデールはこの時初めてカイを心から信じてみる気になったのだ。

例えそれがどんなに切望的な可能性であっても、普段通りにしていればいい。

そうすればきっとカイは帰ってくるだろうから。

ベルヴェデールの出した答えに、ブリッジの全員が全員顔を寄せ合って苦笑を漏らした。


「信じるしかないか・・・・いいこと言うじゃないか、ベルヴェデール。
あの坊やが無事に帰ってくるのを待ってみようじゃないか」


 マグノの言葉に、ブザムも力強く頷いた。


「カイはこれまで我々の予想を越える行動を取りました。それに賭けてみましょう」


 イカヅチ撃沈の危機、キューブ・ピロシキ型の来襲、ペークシスの暴走にウニ型の襲来。

そのどれも全てが生命に関わる程の苦難だったが、カイはそれを常識ではありえないやり方で乗り越えてきた。

奇跡的な現象が続いただけかもしれないが、起因となったのは全てカイの行動からである。

ブザムはベルヴェデールの言うように、カイを信じてみる気になった。


『ガラにもないお節介を焼く必要はなかったね。
カイが聞いていたら余計なお世話だって怒鳴られていたところだよ』


 大らかに笑って、ガスコーニュは口元の長楊枝を揺らした。

カイなら言いそうな言葉にディータは屈託なく微笑み、バーネットは苦笑する。


『さーて、料理の準備に取り掛かろうかな。ジュラ、手伝ってくれる?』

『分かったわ。ディータ、暇ならあんたも手伝いなさいよ』

『うん!ディータも宇宙人さんに何か作るよ!』


 ブリッジ内に漂っていた重苦しい気配が少しずつ薄れていき、クルー達の間に希望の灯火が光り始める。

一丸となった思いは自分達の仲間を助けてくれたカイへの安否だった。

敵味方という意識はまだ強固に保たれているが、カイに関しては徐々に境界線を越えつつある。

アマローネが、ベルヴェデールが、セルティックが、惑星の状況を確認しあってカイの生死を確かめるように、

ドゥエロが、エズラが、カイからの応答と反応を見極めようとしているように、

マグノが、ブザムが、ガスコーニュが、それぞれに指揮官として状況を打開しようと画策しているように、

ディータが、ジュラが、バーネットが、カイが必ず帰ってくると信じて待っているように、

一人一人が自分のもてる精一杯のやり方でカイの心意気に答えようとしていた。

メイアは静かなコックピットの中で皆を見つめ、複雑な思いを噛み締める。

何事においても動じる事なく、自分一人で全てをやりこなせる人間こそが強い人間だと思っている自分。

そう考えてこそ、海賊になってから誰も助けも借りないで今まで一人でやってきた。

自分がどれほど苦悩しても、他人への依存は決して行わなかった。

逆を言えば、他人からの差出しの手も拒絶していた。

仲間を助ける事はあっても、敵を助けようとはしなかった。

助けるという行為は無償の優しさであり、他人に甘えを押し付ける事になる。

メイアはそれまで手を差し出す事もせず、差し出される事も拒否した。

だが、カイは違う。

カイは手を差し出す事も、差し出される事も平気で受け入れている。

そうしたカイの生き方の結果が、目の前の光景が如実に現れていた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 カイが帰ってくるかどうかは分からない。

脱出の際の状況を冷静に分析しても帰還できる可能性は果てしなく皆無だろう。

カイには生きていてほしいだろうか?

カイには死んでもらいたいだろうか?

昔は答えられた筈の自問自答にメイアは答えを出せず、バーネットに連れられるままに母船への帰還を果たした。


























 警告音は危機を煽るように音量を増して、レーザーにより具現化されたシールドは毒々しい赤の輝きを放射する。

液体窒素の影響で一時的に解除されたシールドは、他施設のサポートにより復元を果たしていた。

どうやら地表面に乱立する施設はそれぞれが集団内の一つであり、互いを相互補助しあう関係にあるようだ。

冷却された施設は事実上停止しているが、トラップ全体を差し止めるには足りないようである。

刻一刻と爆破が近づいている中で、一人残ったカイはナイフを振るっていた。


「邪魔するんじゃねえ、雑魚ども!時間がねえんだよ!」


 隅々まで凍結しながらもじたばた喘ぎながら向かってくる砂の擬装に、カイは苛立たせながら斬り飛ばした。

砂ならいざしらず、完全に凍り付いて硬くなっている状態ではナイフは防ぎようがない。

斬られた箇所から亀裂が走り、擬装体はあっさりと崩れ落ちていった。

カイはそれ以上擬装体には構わずに走り抜けて、そのまま凍結した施設の一つの足元に近づいた。


「赤髪達が情報取って来た時は、敵の内部にデータがあったらしいからな。
この辺の装置とかパクって行けば、パルフェが解析してくれるだろう」


 蛮型に乗ったまま屈んでナイフを取り出すと、カイは徐に施設を柄で思いっきり殴った。

物質は凍結すると構成する原子の規律が緩んで脆くなる。

蛮型の一撃であっさりと壊れて、施設の表面が剥がれて内部構造が剥き出しになった。

施設の内部は端子や機械類の数々が細かく設置されており、敵の残した科学力の高さを証明していた。


「う〜ん・・・・どれに敵のデータが保存されているんだ、これ?」


 蛮型の操縦はできても、カイは所詮タラークにおいては記憶喪失の酒場の手伝い人でしかない。

機械工学に詳しくもなければ、プログラミング構造に長けている訳でもない。

パルフェが見れば解析は出来たかもしれないが、教養もろくにないカイには不可能である。


「あんまり悩んでいる時間もねえな。適当に持って帰るか」


 少しの間思案にくれていたカイだったがそれ以上悩んでもどうしようもないと判断して、適当に部品を寄せ集めた。

レーザーを発射していたシールドの光源を力任せに引き千切って、背中のフォルダーに収納する。

ついでに破壊した擬装体の氷の破片を掴んで、これもフォルダーに収納しておいた。

どれかが決め手の情報になるかもしれないし、何も意味のない部品かもしれない。

判断が出来ないカイだったが、それでも何もしないよりはましだと自分を納得させた。

それに以前ガスコーニュやディータは敵の内部から情報を割り出して、『刈り取り』と故郷の危機の情報を入手出来ている。

同じく敵から奪取したいくつかの部品も何か手がかりはあるかもしれない。

カイは施設の調査と部品を手に入れて立ち上がった。

問題はこれからなのである。


「さて、あとはどうやってここから脱出するかだな・・・・・・」


 カイは真剣な表情で空を仰ぎ見る。

砂色の雲は晴れて青空が見えているが、空への侵入を妨げるかのようにシールドがびっしり張り巡らされていた。


























「カウント、120を切りました!」


 ベルヴェデールは手に汗を握り締めながら、カウント数を伝えた。

カイの機体反応はいまだになく、離脱してくる気配も微塵もない。


「残り二分か・・・・・・・」


 マグノの見つめるその先に、風雲急を告げる惑星の行く末が映し出されようとしていた。


























 脱出するにはシールドを解除して、大気圏を再度通らなければいけない。

どちらを行うにも自分の乗る相棒では非常に困難な作業だった。

先程のように施設を凍結しようにも冷却装置はもう破壊してしまった後である。


「ブレードで斬りつけるか?
いや、上空に飛び上がったらレーザーの餌食になってしまう。
シールドを切りつける隙をくれそうにはないな・・・・・」


 不幸中の幸いか、擬装体の群れはもうカイには襲ってはこなかった。

全滅してしまったのか、凍結された空間内ではもう動けなくなってしまったのか。

いずれにせよ、大気圏へ向けて飛び上がる事は出来る。

だがシールドを構成するレーザー網の堅固さには、カイも舌打ちするしかなかった。

そもそも一人で脱出できるなら、カイはわざわざ残る必要はない。


「どうする・・・もう時間はねえぞ」


 先程の通信でカウントダウンが始まっている事は既に聞いている。

いくらなんでも何時間も待っていてはくれないだろう。

多くて五分、少なければ一分足らずしかない可能性もある。

いずれにせよ、もう脱出するには行動を起こさなければいけない。

理屈としては分かっているのだが、どうすればいいのかカイに分からなかった。

ブザムやマグノですら何の策も講じられない状態にあるのだ。


「この星からオサラバするには施設全てを破壊するしかないか。
でも、そんな時間がある訳ないしな・・・・・」


 シールドを完全に解除するには、ようはシールドを構成している装置を破壊すればいい。

言葉にすると単純に聞こえるが、そんな手間暇をかけられる時間はない。


「あ、大気圏も潜り抜けないといけないのか。蛮傘は・・・・
って、青髪に渡したじゃねーか俺!?
く、くそ!え〜と、え〜と・・・・そうだ!」


 カイはそのまま地表面を走り抜けていった。


























 無情に刻まれるカウントはブリッジにいるクルー全ての精神力を一欠けら一欠けら削り取っていった。


「カウント・・・・60を切りました・・・」


 ベルヴェデールの言葉に追い討ちをかけるかのように、アマローネが報告を重ねる。


「カイ機、現在も応答ありません・・・・まだ惑星内に・・・・」


 信じるしかない。それは分かっている。

だけど・・・・

現実は非情な場面を見せつけようとしていた。


























「あった!よかった、砂に埋もれていたらどうしようかと思ったぜ」


 カイは喜び勇んで、砂漠の上に落ちていた物を拾い上げる。

残されたたった一つの蛮傘。

出発が遅れたメイアが置いていった蛮傘が幸運にもまだ無事な状態で残っていたのだ。

試しに起動してみると、傘は故障もない正常な状態で大きく展開した。


「だけど、どうやって出るか・・・・」


 警告音が激しく鳴り響く中、カイは鋭い目つきで考え込む。

もう時間は残されていない。

施設の数々から発射されているレーザー網は輝きを増しており、周囲の建物よりレッドランプが激しい点滅を繰り返している。

焦りが募っていく中で、カイは残された脱出の可能性はないか必死で振り絞って考える。

離脱するにあたって突破しなければいけない関門は三つ。

レーザー、シールド、大気。

どれもこれも難関であり、通過するには危険性が高すぎた。

カイは考えに考えた末、今自分に出来る最善の手立ては一つしかないと思い立つ。





強行突破





 飛び交うレーザーを相棒の装甲と自分の根性で耐えて、シールドをブレードで斬りつけた後に体当たりして無理やり突破。

しかる後に蛮傘を展開して大気圏を突破、惑星からの脱出を図る。

あまり褒められた案ではない。

どれもこれも不確かな要素が高く、自分も相棒もぼろぼろになりかねない危険な策だった。


「ここでくたばるよりはマシだな・・・・・・」


 果たさなければいけない夢がある。取り戻したい記憶がある。

何より、まだ自分はこの宇宙で何も行ってはいない。


「・・・あいつらにも答えを出さないといけないもんな」


 海賊であるメイア達が行ってきた事は正しいか、間違っているか。

問われたその命題に、結局カイはまだ答えは出していない。

やるべき事はたくさんある、だからこそ生き残らなければいけない。

カイは蛮傘を持って、ナイフをブレードに変換した。















 手元のコンソールが刻々と秒を刻む。

叫びだしたい気持ちを抑えて、ベルヴェデールは震える声でカウントダウンを唱えていた。


「10・・・9・・・8・・・・・・・」


 ドゥエロはいつにない苦渋の表情をしてモニターを見ているが、カイの心拍数に波は立たない。


「7・・・6・・・・・・・」


 エズラは必死でカイの機体に通信を投げかけるが、シールドに遮断されて停止する。


「5・・・4・・・・・・・」


 アマローネは大気圏内をくまなく探すが、カイの機体反応はない。


「3・・・2・・・・・・・」


 セルティックはカイが惑星を既に離脱した可能性はないかを検索したが、痕跡すら見られなかった。


「1・・・・・・・」


 ブザムも、マグノも、そして今この場にはいないガスコーニュやディータ達も惑星の映像を見つめる。

飛び出してくる機体はないか、大気圏を突破しようとしている反応が見られないか。

皆、カイの帰還を待った。

必ず帰って来る筈だと信じて、隈なく調べ尽した。

だが・・・・・・・・・・・・


























「・・・・・・・・・・・・リミット」


























 中央モニターの惑星観測図が真っ赤に染め上がる。

施設の一つ一つの反応が一気に膨れ上がり、惑星全ての地表面を覆い尽くしてしまった。

外部モニターから見れば、想像を絶する火炎の渦と爆発が惑星表面全てを飲み込んでいるのが見える。

ブリッジクルー達全員が呆然と見つめる中でトラップは完全に爆破して、惑星上全てを完全に消滅させてしまった。

建築物も、微小メカも、シールドも、レーザーも・・・・・・・

そして――


「アマローネ、ベルヴェデール。カイの反応は?」


 恐ろしい程の沈黙の後、ブザムは静かな声で二人に尋ねる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 二人はブザムを振り向く事もなく、声に出す事もなく、何よりも明確に教えてくれた。

ベルヴェデールも、アマローネも・・・・・・


























・・・・首を振った・・・・・・・・・


























 マグノは苦渋に顔を歪ませて、がくっと無念さに肩を落とした。

エズラは信じられないように席から立ち上がって、悲痛の叫びを上げる。


「何か、何か反応はない!?
カイちゃんだからきっと何か私達が考え付かない事で・・・・・!?」


 職務を忘れたように訴えかけるエズラに、ベルヴェデールが自分でも意図していないであろう弱々しい声を出した。


「・・・・一つだけ反応があります」

「えっ!?」


 驚くエズラを尻目に、ベルヴェデールはとつとつとマグノに語りかける。


「・・・・出してよろしいでしょうか、お頭」


 ベルヴェデールの生気のない表情に、マグノはいい知らせではない事を悟った。

でも、あえてマグノは言った。


「出しておくれ。アタシらにはそれを知る義務がある」

「・・・・・分かりました。モニターに出します」


 ベルヴェデールは震える手つきでコンソールを操作して、反応があったポイントをモニターに転送する。

観測図が映し出されていた画面は消えて、やがて中央モニターは惑星のある場所を映像化した。

モニターに表示されたのは爆炎により死の大地と化してしまった砂漠のなれの果て。

中央にはぽつんと・・・・・・・・・


























 焼け焦げた蛮傘が残されていた。


























 一つの光景。

それは何よりも明確に表していた。


























カイは離脱出来なかったのだと――― 






































<LastAction −シコリ−に続く>

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